四十話 フューレンへ再び
宴の夜も過ぎ朝日が昇り始めた頃、【ウルの町】の門の近くには多くの人が集まっていた。集まってきた者達の多くは誰もが名残り惜しそうな表情だ。
理由は簡単で、本来のウィル・クデタの捜索依頼を達成したハジメ達はウルの町から発としていたからである。行きよりも人数が多いことから二輪の〝シュタイフ〟ではなく魔力駆動四輪〝ブリーゼ〟を宝物庫を取り出すハジメ。
しかし、ウィルだけならばシュタイフに取り付け可能なサイドカーを使えばいいのだが、増えたのはウィルだけではなくティオが正式にハジメ達の旅の仲間入りした為でもあった。
昨夜、新たに清水や愛子を連れて宴に戻ってきた際、ハジメはティオに話し掛けられた。
『おや、ご主人様? 友人と色々と話すことは終わったかの?』
『あ、ティオか? まぁな……でも、〝怪物氾濫〟の前にも聞いたが本当に俺達の旅に着いて来るのかよ?』
『うむ。当初の妾の目的は王国──いや、教会が異界から喚び寄せた者達と新たに現れた勇者の調査なんじゃが……』
『おい、そんな重要な事を俺に言っても良いのか?』
『別に減るもんでないしのぅ……それに其の目的の調査対象はすぐ傍におるようじゃしのぅ〜』
そんな呑気に聞こえる彼女の言葉の裏側にはっきりとした事実を理解したハジメは溜息を一つ。
『そうかい。それで、ティオはどう思う?異世界から喚ばれた俺達の存在は現時点から見て?』
ユエから嘗て亜人最強の種族と呼ばれる竜人族である彼女の目から見てハジメ達〝神の使徒〟はどう映ったのかと聞くと、のほほんとしていたティオの表情に真剣味が帯びる。
『そうじゃな。一言申すのなら
その言葉を皮切りにティオは語る。
『まず、お主等の天職。聞けばほぼ全員が戦闘職と聞く。それだけでも凄まじい。加えて非戦闘職でも愛子は稀有な〝作農師〟と聞く。それなら魔人族が狙わないはずはなかろう』
他に挙げるなら、技能、ステータスもこの世界の者達よりも極めて高いものだろうと口にするティオ。勿論、正解であるが、彼女が最も警戒していたのは〝勇者〟らしい。
『三十年ほど前にも〝勇者〟の天職を持って生まれた者がいたんじゃがな。その時に
『!……本当かそれは?』
ティオの言葉に驚きを示すハジメ。三十年前にも勇者がいたのは驚もいたが、続いて彼女が言った〝天の者共〟。それはつまり……
『
『わからん。その時は大きな魔力の乱れと天からの高濃度の魔力の感知したあとに其の勇者が死を確認したぐらいじゃからな』
『そうか……じゃあ、お前達が警戒してんのは勇者ではなく、神々ということ、か?』
『うむ。余り詳しくは語れないのじゃが、彼奴らとは多少因縁があるのでな』
そう言い切るティオの瞳に若干、黒く濁って湧き上がる怒りを抑えているように見えたのだが、ハジメは敢えて見ないことにして流すことにした。すると、其のハジメの気遣いに気付いたティオがポツリと問う。
『……聞かぬのか?』
『聞いて欲しいのなら聞くが、そうでもないだろ? なら、話せる時が来たのなら待つし、ずっと言わなくてもいい』
『………ご主人様は優しいのじゃな』
あの時もそうだったが、ハジメの優しさにティオは自然と笑みを零す。
『そうでもねぇよ。ま、長い付き合いになるか分からねぇがこれから宜しく頼むよティオ』
『うむ。コチラも宜しく頼むのじゃ!』
そうしてティオことティオ・クラルスはハジメ達の仲間入りを果たしたのであった。
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そんなことで旅する仲間が増えたハジメはユエ、シア、ティオ、ウィルの四人が乗車するのを確認すると共に、町を代表して大量の荷物を抱えて現れたニールスと話をしていた。
「むう、しかしハジメ殿。随分とお早いご出立ですな」
「ああ、すまない。こっちもそろそろウィルの無事な姿を見せないといけなくてな」
ニールスとしては町を救った英雄方にもう少しおもてなしをしたかったのだろう。しかし、ハジメもハジメでイルワからの依頼をさっさと終えて迷宮攻略を再開したかった。
その為に朝早くからの出立を選んだ。
そんなハジメの言葉を理解しニールスや重鎮達は町の危機を救ってくれたハジメ達に口々と感謝を伝える。
「なら、ハジメ殿にこれを。私達の感謝の印です」
そう言ったニールスから贈られたのは袋一杯に包まれた大量の食料と香辛料だった。これには少しは驚くハジメは本当に貰ってもういいのかと返してしまう。
「おい、こんなに貰ってもいいのか?香辛料とかも貴重だろ?」
「いいんです、ハジメ殿。これは私からの個人的な礼なので」
「そうかい。なら、有り難く貰っとくよ」
ハジメはそう言って貰った食料を〝宝物庫〟へ収納する。
「じゃ、また近くに寄ったら邪魔するよ」
「ええ、またいらして下さい。我々も盛大に歓迎するので」
そう言ってハジメとニールスは握手する。ハジメは事が終えたら、今度は優花と共にまた行こうと思うのであった。
そして、ニールスや町の重鎮達が去ると、今度は愛子を先頭に奈々と妙子、清水達が来ていたのを見て向き直るハジメ。
「南雲君、もう行くんですね」
「あぁ、スマンな先生。こっちもそろそろウィルを連れて帰らないいけないしな」
「本当に、戻るつもりは無いんですね……」
「あぁ、昨日にも言った通りまだ戻るつもりはない」
「ハジメ……」
「ハジメっち…」
やっぱりハジメが皆の所に戻らないと口にすると、全員が少し寂しそうに俯く二人。男子組も少し残念そうだ。
幼なじみの二人は特に暗い表情で、困ったハジメは頬を片手でポリポリ掻きながら二人に話しかけた。
「あー、奈々、妙子、お前達に渡す物がある」
「ん、私達に?」
「えっ何?」
ハジメはそう言って〝宝物庫〟から二つのアーティファクトを取り出し、二人に投げ渡した。
「これって」
「妙子のソレは取っ手に刻まれた魔法陣に魔力を流すと硬質化と風の斬撃を飛ばせるといった魔力鞭。名は〝トルネーグ〟。操鞭師のお前なら柔軟に扱えるだろ」
「すっ、凄……。ありがとっ、ハジメ」
突然、渡されたアーティファクトの性能に少しばかり驚愕する妙子であるが嬉しそうに渡されたトルネーグを摩る。
「そして、奈々のは使い手の魔力で形を変える杖。名前は〝ティアリスロッド〟。持ち手の先端には神結晶を加工した魔力タンクを取り付けてるから氷術師の奈々にうってつけの代物だ?」
「わぁ〜綺麗…。ありがとっ、ハジメっち!」
「二人が喜んでくれたなら何よりだ。それと清水はコレをやるよ」
嬉しそうにティアリスロッドを振るう奈々を微笑ましく感じながら清水にも専用に作ったアーティファクトを取り出す。
「これは?」
「それは最近獲得した〝対魔力〟を付与して防具だ。まだ試作品だが初級魔法程度なら完全無効化できる代物だ」
そう言ってハジメから渡されたのはローブを羽織る清水にとって動き易いように作られた
「いや、滅茶苦茶軽いし、初級だけでも魔法の完全無効化はスゲェよ。でも、こんなモノ受け取っていいのかよ。それなら宮崎さんと菅原さんの方がいいんじゃないか?」
「いや、それも考えたが……二人と後、先生にはコレだ」
そう言ってハジメは三人に腕輪を渡す。
「ハジメっち、コレは?」
「魔力を充填させないといけないがユエの障壁魔法を込めた腕輪だ」
「トンデモナイ代物ないじゃないですか?!」
「俺のよりもスゲェ奴じゃん!?」
あのミツマタノヅチの
「ま、そんな訳で安心しろ。なんなら清水も貰っとくか?」
「いや、流石に遠慮しとく。この鎧だけでも充分だ」
「そうか。喜んでくれてなによりだ」
「「「……………………」」」
そんなやり取りをしてると傍から物欲しそうな目でこちらを見ている男子三人組。ハジメも視線を感じてか男子生徒達の方へ視線を転じる。
「……何だよ、お前等?」
「南雲っ! 」
「南雲さん!お願いしますっ!!」
「俺達にも何か渡して欲しいな〜」
「……ハァ」
視線からして男子組の考はあるていど見当がついていたので、適当に試作品や鍛錬の時に制作していた折に出来がまぁ良かっモノをポイポイっと投げ渡した。
すると、男子生徒の玉井が声を上げる。
「おい、南雲。絶対これ適当だろ!」
「そうだぞ!」
「流石に投げやりすぎるって!」
ブーブーと抗議する男子組を無視してハジメは、さっさとブリーゼに乗り込んだ。そして、窓を開けてハジメは最後に別れの言葉と共に愛子に真剣な表情で告げた。
「……先生、世界が変わっても俺達の先生であろうとしてくれている事は嬉しく思う……。出来れば、これからも何があっても例え、生徒の死があったとしても折れないでくれ」
「───分かりました。南雲くんも気を付けて」
「早く優花にも顔を見せてあげてよね」
「ハジメっちも皆もまたねー!」
ハジメの言葉を真摯に受け止め愛子は頷きがてらに別れを告げ、それに続き妙子と奈々。清水達も手を振る。
「ああ、そっちも元気でな」
片手を挙げながら愛子達に別れを告げたハジメはアクセルペダルを踏み、ブリーゼを走らせる。そして、愛子達に手を振られながらハジメ達は【ウルの町】を後にするのであった……。
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北の山脈地帯を背に魔力駆動四輪が砂埃を上げながら南へと街道を疾走する。何年もの間、何千何万という人々が踏み固めただけの道であるが、ウルの町から北の山脈地帯へと続く道に比べれば遥かにマシだ。サスペンション付きの四輪は、振動を最小限に抑えながら快調にフューレンへと向かって進んでいた。
車内で運転しながらハジメは清水の件での事でシアに感謝していた。
「シア、清水の件は助かった、お前の〝未来視〟がなかったら先生までも危なかった」
「いえいえ、それ程でも〜」
ハジメの感謝の気持ちが伝わったシアは嬉しそうにウサ耳をピコピコしていた。
「だから、お礼がしたいしな、シア何か要望があったら言ってくれ。 でも、出来る範囲の奴で言えよ」
いきなりの言葉に、少し困惑するシア。仲間として当然の事をしたと考えていたので、少々大げさではないかと思う。「う、う~ん」と唸りながらシアは、少し考えた後、にへら~と笑い、ハジメに視線を転じた。
「では、私の初めてをもらっ『却下だ』……冗談ですよ〜。私、そんなことしたら優花さんに出会ったらボコボコにされるかもしれませんし〜」
「はぁ……冗談も程々にしとけよ。それに、お前は優花を何だと思ってるんだ?」
「アハハ……。では、ハジメさんデートしてください。フューレンに着いたら、観光区に連れて行って下さいね?」
「ああ、わかったよ」
そんな事を話してると隣の席のユエと後ろの席にいたティオが羨ましそうな視線でシアを見ていた。
「……良いな。シア、私もハジメとデートしたい」
「そうじゃの〜」
「や、やめてください、そんな視線を私に向けないでください恐いですぅ……」
「……ユエ、ティオ。時間があったならお前達ともデートくらいするよ」
「……ホント?」
「ホントかの?」
「ホントだ、だから今回の件は勘弁してくれ」
「「ん、分かった(のじゃ)」」
そんな会話を車内でしながら一行は中立商業都市フューレンへと向かった。ちなみに同乗していたウィルは会話に着いて来れず窓から景色を眺めているのであった。
中立商業都市フューレンの活気は相変わらずだった。
高く巨大な壁の向こうから、まだ相当距離があるというのに町中の喧騒が外野まで伝わってくる。これまた門前に出来た相変わらずの長蛇の列、唯の観光客から商人など仕事関係で訪れた者達まであらゆる人々が気怠そうに、あるいは苛ついたように順番が来るのを待っていた。
しかし、人々の耳に聞き慣れない音が聞こえ始めた。
キィイイイイイイイ!!!
振り返ると見たこともない黒い箱型の物体が猛烈な勢いで砂埃を巻き上げながら街道を爆走してくる光景を目撃してギョッと目を剥いた。にわかに騒がしくなる人々。すわっ魔物か! と逃げ出そうとするが、箱型の物体の速度は想像以上のものであり、気がついたときには直ぐそこまで迫っていた。
そして箱型の物体はギャリギャリギャリと尻を振りながら半回転し砂埃を盛大に巻き上げながら急停止した。
停止した物体、魔力駆動四輪を凝視する人々。一体何なんだと混乱が広がる中、四輪のドアが開いた。ビクッとする人々の事など知ったことじゃないと気にした風もなく降りてきたのは当然、ハジメ達だ。ユエとシア、ティオも人々の視線など気にした様子はない。ウィルだけは、お騒がせしてすみません! と頻りに頭を下げている。
ハジメは、四輪のボンネットに腰掛けながら、門までの距離を見て後一時間くらいかかりそうだなぁ~と目を細めた。ずっと車中にいて体が凝りそうだったので門に着くまで外で伸び伸びするつもりだ。魔力駆動四輪は、ハジメが魔力を直接操作して動かしているので、実は運転席に座らなくても操作難度が上がるだけで動かそうと思えば動かせるのだ。
ハジメはボンネットに腰掛けながらそう思ってるとシアが疑問を呈した。
「ハジメさん。四輪で乗り付けて良かったんですか? できる限り隠すつもりだったのでは……」
「ん? もう、今更だろ? あんだけ派手に暴れたんだ。一週間もすれば、よほど辺境でもない限り伝播しているさ。いつかこういう日は来るだろうとは思っていたし……予想よりちょっと早まっただけのことだ」
「……ん、ホントの意味で自重なし」
シアの疑問に、ハジメは肩を竦めて答えた。今までは、僅かな労力で避けられる面倒なら避けるべきという方針だったが、ウルの町での戦いは瞬く間に伝播するはずなので、そのような考えはもう無駄だろう。なので、ユエの言う通り、アーティファクト類をできる限り見せないというやり方は止めて、自重なしで行くことにしたのだ。
「う~ん、そうですか。まぁ、教会とかお国からは確実にアクションがありそうですし、確かに今更ですね。愛子さんとか、イルワさんとかが上手く味方してくれればいいですけど……」
「まぁ、あくまで保険だ。上手く効果を発揮すればいいなぁという程度のな。最初から、何とだって戦う覚悟はあるんだ。何かあれば薙ぎ払って進むさ。そういうわけで、シア。お前も、もう奴隷のフリとかしなくていいぞ? その首輪を外したらどうだ?」
その話は早々に切り上げ、ハジメはシアにも奴隷のフリは止めていいと、首輪をチョンチョンとつつきながら言う。手を出されたらその場で返り討ちにしてやれ、もう面倒事を避けるために遠慮する必要はないと暗に伝える。
しかし、シアは、そっと自分の首輪に手を触れて撫でると、若干頬を染めてイヤイヤと首を振った。
「いえ、これはこのままで。ハジメさんから初めて頂いたものですし……それにハジメさんのものという証でもありますし……最近は結構気に入っていて……だから、このままで」
そんな事を言うシアにハジメは笑みを零した。
「じゃあ、もう少しオシャレじゃないとな」
「え?」
ハジメは、首を傾げるシアの顎に手を当てるとそっと上を向かせた。その行為に、ますますシアの頬が紅く染まる。ハジメはそんなのを気にせず〝宝物庫〟からいくつか色合いの綺麗な水晶を取り出しつつ、シアの着けている首輪、正確には取り付けられている水晶に手を触れて〝錬成〟をしていった。
結果、黒の生地に白と青の装飾が幾何学的に入っており、かつ、正面には神結晶の欠片を加工した僅かに淡青色に発光する小さなクロスが取り付けられた神秘的な首輪……というより地球でも売っていそうなファッション的なチョーカーが出来上がった。
「……上出来かな」
ハジメは、そう呟いてから、出来栄えに満足の表情を浮かべ、首を時折撫でる俺の指の感触にうっとりしていたシアは、ハジメから鏡を渡されてハッと我に返った。そして、いそいそと鏡で首元のチョーカーを確かめる。そこには、神秘的で美しい装飾が施されたチョーカーが確かにあった。神結晶のクロスが、シアの蒼穹の瞳と合っていて実に美しい。
シアは、指先でクロスをツンツンと弄りながら、ニマニマと口元を緩ませた。
そして、ハジメの腕に抱きつくと、にへら~と実に幸せそうな笑みを浮かべながら額をぐりぐりと擦りつけつつ礼を言った。ついでに、ウサミミもスリスリと擦り寄る。
「…ん?」
そんな事をしていると簡易の鎧を着て馬に乗った男が三人、近くの商人達に事情聴取しながらハジメ達の方へやって来た。
「おい、お前! その黒い箱?は何なのか説明しろ!」
ハジメに高圧的に話しかけるが、ハジメはこのことも予想していた展開なので門番の男に視線を向けると淀みなく答える。
「これは俺のアーティファクトだ」
そんな尋問を受けていると、その時、門番の一人がハジメ達を見て首をかしげると、「あっ」と思い出したように隣の門番に小声で確認する。何かを言われた門番が同じように「そう言えば」と言いながらハジメ達をマジマジと見つめた。
「……君達はもしかしてハジメ、ユエ、シアという名前だったりするか?」
「ん? ああ、確かにそうだが……」
「そうか。それじゃあ、ギルド支部長殿の依頼からの帰りということか?」
「ああ、そうだが……もしかして支部長から通達でも来てるのか?」
ハジメの予想通りだったようで門番の男が頷く。門番は、直ぐに通せと言われているようで順番待ちを飛ばして入場させてくれるようだ。四輪を走らせ門番の後を着いて行く。列に並ぶ人々の何事かという好奇の視線を尻目に悠々と進み、再びフューレンの町へと足を踏み入れた。
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現在、ハジメ達は冒険者ギルドにある応接室に通されていた。出された如何にも高級そうなお茶と茶菓子をバリボリ、ゴクゴクと遠慮なく貪りながら待つこと五分。部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたのは、ハジメ達にウィル救出の依頼をしたイルワ・チャングだ。
「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」
以前の落ち着いた雰囲気などかなぐり捨てて、視界にウィルを収めると挨拶もなく安否を確認するイルワ。それだけ心配だったのだろう。
「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」
「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」
「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」
イルワは、ウィルに両親が滞在している場所を伝えると会いに行くよう促す。ウィルは、イルワに改めて捜索に骨を折ってもらったことを感謝し、ついで、ハジメ達に改めて挨拶に行くと約束して部屋を出て行った。ハジメとしては、これっきりで良かったのだが、きちんと礼をしないと気が済まないらしい。
ウィルが出て行った後、改めてイルワとハジメが向き合う。イルワは、穏やかな表情で微笑むと、深々と頭を下げた。
「ハジメ君、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」
「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだろ」
「ふふ、そうかな? 確かに、それもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう? 女神の狼様?」
にこやかに笑いながら、ハジメが大群との戦闘前にした演説の内容と俺が放った魔法から文字った二つ名を呼ぶイルワにハジメの頬が引き攣った。
「その二つ名は初めて聞くが……随分情報が早いな。何か通信用のアーティファクトでもあるのか?」
「察しがいいね。ハジメ君の言う通りギルドの幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に付いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど……彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」
そう言って苦笑いするイルワ。最初から監視員がついていたらしい。ギルド支部長としては当然の措置なので、特に怒りを抱くこともない。むしろ、支部長の直属でありながら、常に置いていかれたその部下の焦りを思うと、中々同情してしまう。
「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……聞かせてくれるかい? 一体、何があったのか」
「ああ、構わねぇよ。だが、その前にユエとシアのステータスプレートを頼むよ……ティオは『うむ、二人が貰うなら妾の分も頼めるかの』……ということだ」
「ふむ、確かに、プレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」
「助かる」
そう言って、イルワは、職員を呼んで真新しいステータスプレートを三枚持ってこさせる。
結果、ユエ達のステータスは以下の通りだった。
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ユエ 323歳 女 レベル:75
天職:神子
筋力:120
体力:300
耐性:80
敏捷:120
魔力:7500
魔耐:7120
技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法
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シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40
天職:占術師
筋力:60 [+最大6100]
体力:80 [+最大6120]
耐性:60 [+最大6100]
敏捷:85 [+最大6125]
魔力:3020
魔耐:3180
技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法
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ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89
天職:守護者
筋力:770 [+竜化状態4620]
体力:1100 [+竜化状態6600]
耐性:1100 [+竜化状態6600]
敏捷:580 [+竜化状態3480]
魔力:4590
魔耐:4220
技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法
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三人のステータスは、ハジメには及ばないものの、召喚されたチート集団ですら少人数では相手にならないレベルのステータスだ。例え、光輝が〝限界突破〟を使用したとしても及ばないレベルだ。
「ほぅ……」
流石に、ハジメもユエ達のステータスを初めて見て、その異常さに内心驚いたが、イルワも口をあんぐりと開けて言葉も出ない様子だった。無理もない。ユエとティオは既に滅んだとされる種族固有のスキルである〝血力変換〟と〝竜化〟を持っている上に、ステータスが特異に過ぎる。シアは種族の常識を完全に無視している。驚くなという方がどうかしている。
「いやはや……なにかあるとは思っていましたが、これほどとは……」
冷や汗を流しながら、何時もの微笑みが引き攣っているイルワに、ハジメはお構いなしに事の顛末を語って聞かせた。普通に聞いただけなら、そんな馬鹿なと一笑に付しそうな内容でも、先にステータスプレートで裏付けるような数値や技能を見てしまっているので信じざるを得ない。イルワは、すべての話を聞き終えると、一気に十歳くらい年をとったような疲れた表情でソファーに深く座り直した。
「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。ハジメ君が異世界人の一人だということは予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……」
「……それで、支部長さんよ。あんたはどうするんだ? 危険分子だと教会にでも突き出すか?」
イルワは、ハジメの質問に非難するような眼差しを向けると居住まいを正した。
「冗談がキツいよ。出来るわけないだろう? 君達を敵に回すようなこと、個人的にもギルド幹部としても有り得ない選択肢だよ……大体、見くびらないで欲しい。君達は私の恩人なんだ。そのことを私が忘れることは生涯ないよ」
「……そうか。そいつは良かった」
ハジメは、肩を竦めて、試して悪かったと視線で謝意を示した。
「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員〝金〟にしておく」
「おいおい、そんな大盤振る舞いで大丈夫か? こちらとしては、随分有難いが……」
「まぁ、普通は、〝金〟を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに〝女神の狼〟という名声があるからね」
「そうか……感謝するよ」
その後、イルワと別れ、ハジメ達はフューレンの中央区にあるギルド直営の宿のVIPルームでくつろいだ。途中、ウィルの両親であるグレイル・グレタ伯爵とサリア・グレタ夫人がウィルを伴って挨拶に来た。かつて、王宮で見た貴族とは異なり随分と筋の通った人のようだ。ウィルの人の良さというものが納得できる両親だった。
グレイル伯爵は、しきりに礼をしたいと家への招待や金品の支払いを提案したが、ハジメが固辞するので、困ったことがあればどんなことでも力になると言い残し去っていった。
広いリビングの他に個室が四部屋付いた部屋は、その全てに天蓋付きのベッドが備え付けられており、テラスからは観光区の方を一望できる。ハジメは、リビングの超大型ソファーにゴロンと寝転びながら、リラックスした様子で深く息を吐いた。
ユエが、寝転んだハジメの頭を持ち上げて膝枕をする。シアは、足元に腰掛けた。ティオは、キョロキョロと物珍しげに部屋を見渡している。
「取り敢えず今日はもう休もう。明日は消費した食料とかの買い出しとかしなきゃならいがユエ、ティオ頼めるか?」
「……ん、任せて」
「のじゃ」
頑張ったシアのご褒美に、一日付き合うという約束をしたハジメはユエとティオに買い出しを頼み、二人は了承した。
「じゃあ、シア明日は楽しむとするか」
「はいですぅ〜」
ハジメの言葉にシアはウサ耳をピコピコさせて返答した。その後、四人はあれこれ雑談しつつ、その日の夜は更けていったのであった……。
編集しました。十一月十五日
愛子はハーレムに入れるか入れないか
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いる
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いらない