イルワとの話を終えたハジメ達は【フューレン】の中央区にあるギルド直営の宿のVIPルームに来ていた。全二十階建ての建物で、ハジメ達の部屋は最上階。窓からは観光区の様子を一望できる。部屋も立派な作りであり、広いリビングの他に個室が四部屋あって、その全てに天蓋付きのベッドが備え付けられている。ソファーも絨毯もふかふかで、触れた瞬間一級品であることがわかった。
ハジメがソファーに身を沈め、ユエもその隣に座る。シアとティオは「ほぉほぉ」と物珍しげに部屋を探検していると、ウィルの両親であるグレイル・クデタ伯爵とサリア・クデタ夫人がウィルを伴って挨拶ににきた。かつて、王宮で見た多くの貴族とは異なり、随分と筋の通った人のようだ。ウィルの人の好さというものが納得できる両親だった。
クデタ伯爵は礼をしたいとしきりに家への招待や金品の支払いを提案したのだが、それに対してハジメは、
「いえ、こちらも息子さんを無事に貴方方に帰すことが出来てよかった。ですが、報酬などはギルドで貰っているので十分ですよ。私はただイルワ支部長から依頼を受けて、その依頼を達成した。それだけのことです」
などと、殊勝な態度で応じる。その姿にユエ達は少しギョッとしたが、流石に場をわきまえており表情に出してはないが、シアのウサ耳が激しくワサワサと動き明らかに動揺を隠しておらず、それを見たクデタ夫妻に少し不思議がられてしまうが「彼女は、少し緊張してしまってるんです」と言ってなんとか納得して貰った。
その後、クデタ夫妻との会話は続く中、グレイル伯爵はもう一度、ハジメに恩を返したいと口にする。
「しかし、貴族として、いや、一人の親として愛する息子を助けてくれた君には何かを返したいんだ。お願いだ」
そう言って、頭を下げる伯爵。そして、伯爵に続き夫人とウィルすらも頭を下げた。これにはハジメも対応せねばこれからの関係を築いていくのに弊害をだしかねない。
「……分かりました。では、後ろ盾になって欲しいと言いませんが、もし、自分達が何か助けを必要としたとき、できる限りの便宜を図って貰えること嬉しいです」
「……それは、随分と謙虚な頼みだね。しかし、了解した。クデタ家の名に掛けて君の頼みを引き受けよう」
「感謝します」
ハジメの要求した内容に少し謙虚過ぎると苦笑いを零しながらもハジメの頼みにグレイル伯爵は快く了承した。それから、ちょっとした世間話をした後、帰宅するクデタ夫妻は見送るために玄関口まで足を運ぶ。
「では、ハジメ君。君との話は実に有意義だった。もし、私の屋敷に来てくれたなら盛大に歓迎しよう」
「ハジメさん、また!」
そう別れを告げてクデタ夫妻とウィルの三人はハジメ達の部屋から去るのであった……。
それから、クデタ家の面々が帰った後、堅苦しい会話に少し疲れたのかハジメは、再びソファーにゴロンと寝転びながら、リラックスした様子で深く息を吐いた。
すると、ユエが寝転がるハジメの頭付近に腰を掛け、シアは足元に腰掛けた。ティオは部屋の探検を続行するらしく、いちいち家具や調度品を見たり、触ったりしては、感心したり首を捻ったりしている。昔と今の様式の違いでも考察しているのかもしれない。
「取り敢えず今日はもう休もう。明日は消費した食材の買い出しだが頼まるかユエ?」
「……ん、任せて。買い物は私とティオとしておく」
ハジメが明日の予定を口にすると、ユエも快く了承する。すると、シアがモジモジとしながらハジメに期待するような眼差しを向けながら言葉をかける。
「あのぉ〜。ハジメさん、約束………」
「ああ、安心しろ。デートのことは忘れてないから」
「!………はい!」
まさか、約束のことは忘れてしまったのではないかと心配していたシアだが、返ってきたハジメの言葉に安心し安堵の笑みを浮かべる。その嬉しそうな様子と連動するようにピコピコ動く彼女のウサ耳にハジメは微笑を零すと共にグレイル伯爵との会話の中で少し気になったことを言っていた。
『しかし、観光区に行くのなら気をつけ給え。最近、物騒な噂が絶えない。黒竜を倒せる力を持つ君なら心配ないと思うが、綺麗所を連れてる君なんて特にね』
そう心配を口にしていたグレイル伯爵の言葉を思い返すハジメはデートの最中は感知系の固有魔法は常時発動させておくべきかと考える。すると、考え事をしていたハジメにヒョコと、顔を覗かせるユエがコテンと首を傾げながらハジメを呼ぶ。
「……ハジメ?」
「なに、少し考え込んでただけだ」
首を傾げるユエに、そう言ってハジメは、彼女の頭を優しく撫でる。頭を撫でられたユエは、気持ちそうに目を細めながら甘えるようにハジメの方へ倒れ込む。それに乗じてシアと部屋の物色を終えたティオもハジメに抱きついてくる。
それに対してハジメは苦笑いを浮かべつつも甘えてくる三人を受け入れるのであった……。
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「ふんふんふふ~ん、ふんふふ~ん! いい天気ですねぇ~、絶好のデート日和ですよぉ~」
フューレンの街の表通りを、上機嫌のシアがスキップしそうな勢いで歩いている。服装はいつも着ている丈夫で露出過多な冒険者風の服とは異なり、可愛らしい白色のワンピースだ。肩紐は細めで胸元は大きく開いている。腰には細い黒いベルトが付いていて軽く締められているのでシアのくびれの美しさが殊更強調されて、彼女の魅力を一層に引き出している。
もっとも、何より魅力的なのは、その纏う雰囲気と笑顔だろう。頬を染めて「楽しくて仕方ありません!」という感情が隠すことなく全身に溢れている。
そんなシアの後ろを、ハジメは穏やかな笑みを浮かべながら歩いていた。よほど心が浮きだっているのか、少し前に進んではくるりとターンしてハジメに笑顔を向け追いつくのを待つという行為を繰り返すシアに、周囲の人々同様、ハジメも思わず頬が緩んでしまうのだ。
「はしゃぎすぎだ、シア。前見てないと転ぶぞ?」
「ふふふ、そんなヘマしませんよぉ~、ユエさんに鍛えられているんですからッ!?」
注意するハジメに、再びターンしながら大丈夫だと言いつつ足を引っ掛けて転びそうになるシア。すかさず、ハジメが腰を抱いて支える。シアの身体能力なら特に問題なく立て直すかもしれないが、今の彼女の服装はワンピースなので念の為だ。
「だから言ったろ? 平気かシア?」
「しゅ、しゅみません」
「ほれ、浮かれているのはわかったから隣りを歩け」
腰を抱かれて恥ずかしげに身を縮めるシアは、ハジメの服の袖をちょこんと摘んだまま、今度は小さな歩幅でチマチマと隣りを歩き始める。
そんなシアの可愛らしい様子にハジメは笑みを浮かべつつも彼女をリードするように隣りを歩く。
そんなハジメとシアの二人は周囲の視線を集めつつも、遂に観光区に入った。観光区には、劇場や大道芸通り、サーカス、音楽ホール、水族館、闘技場、ゲームスタジオ、展望台、色とりどりの花畑や巨大な花壇迷路、美しい建築物や広場があって、正に観光の為に造られた地区である。
「ハジメさん、ハジメさん! まずはメアシュタットに行きましょう! 私、一度も生きている海の生き物って見たことないんです!」
ガイドブックを片手に、ウサミミを「早く! 早く!」と言う様にぴょこぴょこ動かすシア。【ハルツィナ樹海】出身なので海の生物というのを見たことがないらしく、メアシュタットというフューレン観光区でも有名な水族館に見に行きたいらしい。
「じゃあ、其処に行くか(しかし、内陸なのに海の生き物とか、気合はいってんなぁ。この世界だと、管理、維持、輸送と大変だろうに……)」
少し興味を持つ点がズレているが断る理由もないので了承する。それにシアが嬉しそうにニコニコしながらハジメの手を握って先導した。
途中の大道芸通りで、人間の限界に挑戦するようなアクロバティックな妙技に目を奪われつつ、たどり着いたメアシュタットは相当大きな施設だった。海をイメージしているのか全体的に青みがかった建物となっており多くの人で賑わっている。
「ほぅ……」
中の様子は極めて地球の水族館に似ていた。が、地球ほど、大質量の水の圧力に耐える透明の水槽を作る技術がないのか、格子状の金属製の柵に分厚いガラスがタイルの様に埋め込まれててハジメのような異世界人にとっては若干、見にくいと思うだろう。
しかし、シアはそんな事気にならないようで、初めて見る海の生き物の泳いでいる姿に瞳をキラキラさせて、頻りに指を差しながら話かけた。そんなシアのはしゃぎ具合は、すぐ隣で同じく瞳をキラキラさせている家族連れの幼女と仕草が同じで、不意に、幼女の父親と思しき人と視線が合い、その目に生暖かさが含まれている気がして、ハジメは何となく気まずくなりシアの手を取ってその場を離れた。シアが、ハジメの行動に驚きつつも、手を握られたのが嬉しくて、頬を染めながら手をにぎにぎし返したのは言うまでもない。
そんなこんなで一時間ほど水族館を楽しんでいると、突然、シアがギョッとしたようにとある水槽を二度見し、更に凝視し始めた。
「ん、んー……うぉっ」
そこにいたのは……ハジメが、知っている某ゲームの人面魚そっくりだった。
「き、気持ち悪いですぅ……」
戦慄の表情でシアが一歩後退りする。人面魚は、シアに気がついたのか水槽の中から同じように、彼女を気だるそうな表情で見つめ返した。訳のわからない緊迫感が生まれる。そんな二人?を放置して、ハジメは水槽の傍に貼り付けられている解説に目をやった。
「えー、っと……名称がリーマン、ね」
このシーマンは水棲系の魔物であるらしく、固有魔法〝念話〟が使えるが滅多に話すことはないらしいがきちんと会話が成立するらしく、確認されている中では唯一意思疎通の出来る魔物として有名らしい。
解説を見終えたハジメはリーマンの〝念話〟が気になったのかさっそく同じ〝念話〟を発動て語りかけた。
〝お前さん、念話が使えるんだって?本当に話せるのか?言葉の意味を理解できる?〟
突然の念話に、リーマンの目元が一瞬ピクリと反応する。そして、ゆっくりハジメを見返した。
〝……チッ、初対面だろ。まず名乗れよ。それが礼儀ってもんだろうが。全く、これだから最近の若者は……〟
おっさん顔の魚に礼儀を説かれてしまった。痛恨のミスである。ハジメは頬を引き攣らせながら再度会話を試みる。
〝……それは、悪かったな。俺はハジメだ。本当に会話が出来るんだな。リーマンってのは一体何なんだ?〟
〝……お前さん。人間ってのは何なんだ?と聞かれてどう答える気だ?そんなもんわかるわけないだろうが。まぁ、敢えて言うなら俺は俺だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。あと名はねぇから好きに呼んでくれ〟
〝お、おぅ……〟
リーマンの言う内容が常識的過ぎて、それに一々セリフが少しカッコつけてることにハジメは、ちょっと現実逃避気味に遠くを見る目をしていると、今度はリーマンの方から質問が来た。
〝こっちも一つ聞きてぇ。お前さん、なぜ念話が出来る?人間の魔法を使っている気配もねぇのに……まるで俺と同じみてぇだ〟
リーマンの言うことは正しく、当然といえば当然の疑問だろう。何せ、人間が固有魔法として〝念話〟を使っているのだから、滅多に話しかけないリーマンがハジメの〝念話〟に応じた理由じてるのも、その辺りが原因かもしれない。
〝まぁ、多少いろいろあってな〟
咳払い一つして気を取り直すと、ハジメはリーマンに簡潔に魔物を喰らって奪い取ったとかなり端折った説明をした。
〝……若ぇのに苦労してんだな。よし、聞きてぇことがあるなら言ってみな。おっちゃんが分かることなら教えてやるよ〟
「……(なんか、可哀想な奴だと思われて同情された)」
どうやら、ハジメは魔物を喰うしかないほど貧乏だとでも思われたようだ。今のそれなりにいい服を着ている姿を見て、「頑張ったんだなぁ、てやんでぇ! 泣かせるじゃねぇか」とヒレで鼻をすする仕草をしている。
実際、苦労したことは間違いないので特に訂正はしなかったハジメだが、人面魚に同情される人生って……と若干ヘコんだ。何とか気を取り直しつつ、リーマンに色々聞いてみる。
例えば、魔物には明確な意思があるのか、魔物はどうやって生まれるのか、他にも意思疎通できる魔物はいるのか……リーマン曰く、ほとんどの魔物は本能的で明確な意思はないらしい。言語を理解して意思疎通できる魔物など自分の種族しか知らないようだ。また、魔物が生まれる方法も知らないらしい。
他にも色々話しているとそれなりの時間が経ち、傍目には若い男とおっさん顔の人面魚が見つめ合っているという果てしなくシュールな光景なので、人目につき始める。シアが、それにそわそわし始めハジメの服の裾をちょいちょい引っ張るので、ハジメは会話を切り上げた。
リーマンとの会話は中々に面白かったが、今日はシアに付き合うと決めていたのだ。蔑ろにしては約束を反故にすることになる。リーマンの方も「おっと、デートの邪魔だったな」と空気を呼んで会話の終わりを示した。ちなみに、その頃には「リーさん」「ハー坊」と呼び合う仲になっていた。
ハジメは、最後にリーマンが何故こんなところにいるのか聞いてみる、、返ってきた答えは……
〝ん? いやな、さっきも話した通り、自由気ままな旅をしていたんだが……少し前に地下水脈を泳いでいたらいきなり地上に噴き飛ばされてな……気がついたら地上の泉の傍の草むらにいたんだよ。別に、水中じゃなくても死にはしないが、流石に身動きは取れなくてな。念話で助けを求めたら……まぁ、ここに連れてこられたってわけだ〟
それは、流石に同情を覚えたハジメはとある提案をする。
〝そうか、リーさん。その、何だ。ここから出たいか?〟
〝?そりゃあ、出てぇよ。俺にゃあ、宛もない気ままな旅が性に合ってる。生き物ってのは自然に生まれて自然に還るのが一番なんだ。こんな檻の中じゃなく、大海の中で死にてぇてもんだよ〟
いちいち言葉に含蓄のあるリーマン。既に、リーマンを気に入っていたハジメは、彼を助けることにした。
〝なら、俺が近くの川にでも送り届けてやるよ。どうやら、この状況は俺達の事情に巻き込んじまったせいみたいだしな。数分後に迎えを寄越すから、信じて大人しく運ばれてくれ〟
〝ハー坊……へっ、若造が、気ぃ遣いやがって……何をする気かは知らねぇが、てめぇの力になろうって奴を信用できないほど落ちぶれちゃいねぇよ。ハー坊を信じて待ってるぜ〟
ハジメとリーマンは共に男臭い笑みを交わしあった。するとシアが頬を引き攣らせ、ハジメがシアの手を引いてその場を離れようと踵を返した。訳がわからないが、取り敢えず俺に付いて行くシアにリーマンの〝念話〟が届く。
〝嬢ちゃん、睨んで悪かったな…ハー坊と繋いだその手、離すんじゃねぇぞ〟
「へ? へ? えっと、いえ、気にしてません!」
しっかり返事するシアに満足気な笑みを見せるリーマン。「お節介め」と苦笑いするハジメは、新たな友人のこれからに幸運を祈りつつメアシュタット水族館を後にした。
そして、その数分後、下部にカゴをつけた空飛ぶ十字架が水族館内を爆走し、リーマンの水槽を粉砕、流れ出てきたリーマンを見事カゴにキャッチすると追いかける職員達を蹴散らし(怪我はさせていない)、更に壁を破壊して外に出ると遥か上空へと消えていくという珍事が発生した。
新種の魔物か、あるいはリーマンの隠された能力かと大騒ぎになるのだが……それはどうでもいい話だ。
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一方その頃……
ユエとティオは、商業区にて買い出し中だった。といっても、ハジメの〝宝物庫〟には必要なものが大量に入っているので、旅中で消費した分を少し補充する程度のことだ。したがって、それほど食料品関係を買い漁る必要はなく、二人は、商業区をぶらぶらと散策しながら各種のショップを冷やかしていた。
そして、買い物はある程度終え、二人は近くのカフェでティーセットを頼み寛いでいた。
「……ん、この紅茶おいしい」
「そうじゃなぁ〜」
だされた紅茶を嗜む二人。その様子を遠くから多くの男共が目をハートにして見蕩れてていしまっている。それもしょうがなく、二人は服装は普段のものであるも美女と美少女なのだ。
そんな視線が送らられるも気にしてないユエとティオの二人だけの会話に花を咲かせていた。
「こうして、落ち着いた場所でユエだけと話すことは初めてじゃなぁ」
「……ん。確かに」
パーティー入りとしては日が浅いティオとしてはこうして特定の誰かと話し合うのは初であり、ユエも憧れの竜人族と話せることに静かに心を踊らせていた。
最初は、紅茶を楽しむための唯の世間話や香水や化粧品など女子会のような内容であったが、紅茶も飲み終え、一息ついた時、タイミングを見計らっていたのかティオがとある話題を切り出した。
「しかし、ホントに驚いた。まさか、三百年以上姿を見せなかった〝黄金の吸血姫〟が生きていたとはのぅ」
「!」
突然、自身の畏怖と共に呼ばれていた昔の二つ名を呼ばれ、驚きのあまり目を見開かせるユエ。
「……やっぱ、ティオは知ってたの?」
「それは勿論。あの時代でお主の名を知らない者なんてごく僅かしかおらん」
「……ん、確かに」
ティオの正論すぎる言葉に、ユエは自分の散々、暴威を振るってた過去を振り返り納得する。同時にティオなら詳しく知ってるかもしれないと尋ねてみた。
「……なら、私の国の最後も知ってる?」
「………うむ」
ユエの質問に、ティオは少し眉を寄せながらも重く頷く。そして、本当に聞きたいのか?という心配する視線を送る。そんな彼女の視線を意味を理解しつつも、ユエも覚悟していたことなのでコクリと首を縦に動かした。
それを見て、ティオは少し一息つくとユエの守っていた国の最後の顛末を話しだした。
「其方の祖国【アヴァタール】は、三百年ほど前……確か、お主が表舞台から突如として去って直ぐにじゃった。……天から紅の光が降り注ぎ痕跡すらも無くなって滅んだらしい。妾は直接には見ておらんが一族の者で遠くの場所を見通せる者がそう言っておる」
「………そう」
ティオの話に終始暗い顔で聞いていたユエは、自身の祖国の最期を知って堪えるものがあったが、今の自分にはユエという今があるお陰か、その事実をすんなりと受け入れることが出来た。
その様子を見たティオが呟く。
「ユエは強いのぅ」
「……ううん。私がこうして強くいられるのはハジメのお陰。だから、私の全ては全部ハジメのもの」
そう自分を抱き締めながら嬉しそうに言うユエに、その溢れる幸せの雰囲気にティオは何も言わなかったものの少しばかりの羨望の眼差しを向けてしまう。が、ユエに気付かれるよりも早く扇子を広げ、口元を隠して表情を戻す。
「なら、この話は心配無用じゃな。そして、これからは妾も其方を〝ユエ〟として接することにしよう」
「……うん。そうしてくれると嬉しい。これからも宜しくねティオ」
「ふふ、こちらからも宜しく頼むユエ」
ユエは微笑み、ティオも笑みを浮かべながら扇子を広げてウィンクする。こうして互いに信頼を築き上げた二人は会話を終えると同時に席を立とうした直後、
ドガシャン!!
「ぐへっ!!」
「ぷぎゃあ!!」
すぐ近くの建物の壁が破壊され、そこから二人の男が顔面で地面を削りながら悲鳴を上げて転がり出てきた。
更に、同じ建物の窓を割りながら数人の男が同じように悲鳴を上げながらピンボールのように吹き飛ばされてくる。その建物の中からは壮絶な破壊音が響き渡っており、その度に建物が激震し外壁がひび割れ砕け落ちていく。
そして十数人の男が手足を奇怪な方向に曲げたままビクンビクンと痙攣して表通りに並ぶ頃、遂に、建物自体が度重なるダメージに耐えられなくなったようで、轟音と共に崩壊した。
野次馬が悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように距離を取る中、ユエとティオは聞きなれた声と気配、魔力に、その場に留まり呆れた表情を粉塵の中へと向けた。
「ああ、やっぱり二人の気配だったか……」
「あれ? ユエさんとティオさん? どうしてこんな所に?」
「……それはこっちのセリフ……デートにしては過激すぎ」
「全くじゃのぉ~、で?ご主人様よ。今度は、どんなトラブルに巻き込まれたのじゃ?」
ユエとティオが感知していた通り、粉塵をかき分けて現れたのはハジメとシアだった。二人はデートに出かけた時の格好そのままに、それぞれお馴染みの武器を携えてユエ達のもとへ寄って来た。可愛らしい服を着ていながら、肩に凶悪な戦鎚を担ぐシアの姿はとてもシュールだ。
「あはは、私もこんなデートは想定していなかったんですが……成り行きで……ちょっと人身売買と魔物売買している組織の関連施設を潰し回っていまして……」
「……成り行きで裏の組織と喧嘩?」
呆れた表情のユエにシアが乾いた笑いをする。ティオが、どういう事かとハジメに事情説明を求めて視線を向けた。
「まぁ、ちょうど人手が足りなかったところだ。説明すっから手伝ってくれないか?」
ドンナーをホルスターに仕舞いながら、地面に転がる男達を通行の邪魔だとでも言うように瓦礫の上に放り投げていくハジメ。積み重なっていく男達を尻目に、ハジメは、ユエとティオに何があったのか事情を説明し始めた。
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メアシュタット水族館を出て昼食も食べ終えた後、ハジメとシアの二人は、迷路花壇や大道芸通りを散策していた。シアの腕には、露店で買った食べ物が入った包みが幾つも抱えられている。今は、バニラっぽいアイスクリームを攻略中だ。
「よく食べるな……そんなに美味いか?」
「あむっ……はい! とっても美味しいですよ。流石、フューレンです。唯の露店でもレベルが高いです」
「そうか……ん? シア、口元にアイスがついてるぞ」
「……えっ、ちょっ、ハ、 ハジメさん?!」
ハジメはシアのアイスの感想を聞いてると笑みを浮かべてると、ふと、彼女の口元にアイスが付いていたのに気付き、そっと指で拭き取った。
そんなハジメの大胆な行動(本人は何も気にしてない)に一瞬、食べる手が止まり、顔を林檎の如く真っ赤にするシア。そんなシアの慌てふためく姿に可愛らしいと思いながら横を歩くハジメは、突如、その表情を訝しげなものに変え、一瞬、とある後方の建物に目を向けたがすぐに切り替えて足元を見下ろし拳に手を当て考える。
「(後ろの方はすぐに反応が消えた……だが、有り得るか?)」
考え込むハジメに気がついたシアが、「ん?」と首を傾げてハジメに尋ねる。
「どうかしましたか、ハジメさん?」
「(シアには下の件だけでいいか)んー? いやな、〝気配感知〟で人の気配を感知したんだが……」
「気配感知なんて使っていたんですか?」
「どんな事態にも対応できるよう基本は常時展開してるからな」
「う~ん? でも、何が気になるんです? 人の気配って言っても……」
シアは周囲を見渡して「人だらけですよ?」と首を傾げるがハジメは首を振る。
「いや、そうじゃなくてな……俺が感知したのは下だ」
「下?……って下水道ですか? えっと、なら管理施設の職員とか?」
「それが大人じゃなくてな……っ! シア急ぐぞ反応が弱くなってきているっ」
「えっ、ちょっと ハジメさん?!」
ハジメはシアに説明しようとしたが現在進行形に反応が弱くなってるのを気付くと、説明する暇もないと一気に駆け出した。シアも戸惑いつつもハジメを追いかける。そして、それなりの速度で流れていく気配を追う二人。
「下水の流れ的に、ここだなっ」
そして、街の構造的に現在いるストリート沿いに下水が流れているのだろうと予想し、一気に気配を追い抜くと地面に手を付いて錬成を行った。紅いスパークが発生すると、直ちに、真下への穴が空く。
ハジメとシアは、躊躇うことなくそのまま穴へと飛び降りた。そして、下方に流れる酷い匂いを放つ下水に落ちる前に、シアを抱き寄せながら〝空力〟で跳躍し、水路の両サイドにある通路に着地する。
「ハジメさん、私にも気配が掴めました。私が飛び込んで引っ張り上げますね!」
「いや、大丈夫だから」
服が汚れるなど気にした風もなく下水に飛び込もうとするシアの首根っこを掴んで止め、再び地面に手を付いて錬成を行った。紅いスパークと共に水路から格子がせり上がってくる。格子は斜めに設置されているので、流されてきた子供は格子に受け止められるとそのままハジメ達の方へと移動して来た。ハジメは、左腕のギミックを作動させ、その腕を伸長させると子供を抱き上げ、そのまま通路へと引き上げた。
「この子は……」
「息はある……取り敢えずここから離れよう。ここで介抱するには臭いが酷い。それに……」
引き上げられたその子供を見て、シアが驚きに目を見開く。ハジメも、その容姿を見て知識だけはあったので、内心では結構驚いていた。しかし、場所が場所だけに、肉体的にも精神的にも衛生上良くないと場所を移動する事にする。
加えて、子供の素性的に唯の事故で流されたとは思えないので、そのまま開けた穴からストリートに出ることを止め、穴を錬成で塞ぎ、代わりに地上の建物の配置を思い出しながら下水通路に錬成で横穴を開けた。そして、〝宝物庫〟から毛布を取り出すと小さな子供をくるみ、抱きかかえて移動を開始した。
とある裏路地の突き当たりに突如紅いスパークが奔り地面にポッカリと穴を作り、そこからピョンとシアと子供を抱えたハジメが飛び出し、錬成で穴を塞ぎシアを下ろし終えると、改めて自らが抱きかかえる子供に視線を向けた。
その子供は、見た目三、四歳といったところだ。エメラルドグリーンの長い髪と幼い上に汚れているにも関わずわかるくらい整った可愛らしい顔立ちをしている。女の子だろう。だが何より特徴的なのは、その耳だ。通常の人間の耳の代わりに扇状のヒレが付いているのである。しかも、毛布からちょこんと覗く紅葉のような小さな手には、指の股に折りたたまれるようにして薄い膜がついている。
「この子、海人族の子ですね……どうして、こんな所に……」
「まぁ、まともな理由じゃないのは確かだな……」
迷子という可能性は無に等しい。それぐらい海人族は、亜人族としてはかなり特殊の位置にある亜人族だ。
西大陸の果て【グリューエン大砂漠】を越えた先の海、その沖合いにある【海上の町エリセン】で生活をしている彼等は、その種族の特性を生かして大陸に出回る海産物の八割を採って送り出しているから、亜人族でありながら【ハイリヒ王国】から公に保護されている種族なのである。差別しておきながら使えるから保護するという何とも現金な話だが、大概、教会のカス共のせいだろう。
「一番有力なのは、誘拐だろうな」
そして、そんな保護を受けているはずの海人族が、こんな内陸の大都市にいる理由をハジメは一番有り得る可能性を口にしてると、海人族の幼女の鼻がピクピクと動いたかと思うと、パチクリと目を開いた。そして、その大きく真ん丸な瞳でジーとハジメを見つめ始める。ハジメも何となく目が合ったまま逸らさずジーと見つめ返した。
「二人とも、いったい、なにをしてるんですか……」
意味不明な緊迫感が漂う中、シアが呆れた表情で近づくと、海人族の幼女のお腹がクゥーと可愛らしい音を立てる。再び鼻をピクピクと動かし、俺から視線を逸らすと、その目が未だに持っていたシアの露店の包みをロックオンした。
「ん、これですか?」
「……相当、腹減ってたんだな」
シアも海人族の少女がお腹が空いてることに気付き、首を傾げながら、串焼きの入った包み右に左にと動かすと、まるで磁石のように幼女の視線も左右に揺れる。どうやら、相当空腹のようだ。シアが、包から串焼きを取り出そうとするのを制止して、ハジメは幼女に話しかけながら錬成を始めた。
「で? お前の名前は?」
女の子は、シアの持つ串焼きに目を奪われていたところ、突如、地面から紅いスパークが走り始め、四角い箱状のものがせり上がってくる光景に驚いたように身を竦めた。そして、再度、名前を聞かれて、視線を彷徨わせた後、ポツリと囁くような声で自身の名前を告げた。
「……ミュウ」
「そうか。俺はハジメで、そっちはシアだ。それでミュウ。あの串焼きが食べたいなら、まず、体の汚れを落とせ衛生的に悪いし、変に病気になったら心配だ」
ハジメは、完成した簡易の浴槽に〝宝物庫〟から綺麗な水を取り出し浴槽に貯め、更にフラム鉱石を利用した温石で水温を調整し即席のお風呂を作った。下水で汚れた体のまま食事をとるのは非常に危険だ。幾分か飲んでしまっているだろうから、市販の解毒作用や殺菌作用のある薬も飲ませておく必要がある。
返事をする間もなく、毛布と下水をたっぷり含んだ汚れた衣服を脱がされ浴槽に落とされたミュウは、「ひぅ!」と怯えたように身を縮めたものの、体を包む暖かさに次第に目を細めだした。
「後、着る服も必要だな……シア、俺は少し出るから、その子の世話を頼む」
「はい、分かりましたぁ」
ハジメは、シアに薬やタオル、石鹸等を渡しミュウの世話を任せて、自らはミュウの衣服を買いに袋小路を出て行った。
しばらくして、ハジメが、ミュウの服を揃えて袋小路に戻ってくると、ミュウは既に湯船から上がっており、新しい毛布にくるまれてシアに抱っこされているところだった。抱っこされながら、シアが「あ~ん」する串焼きをはぐはぐと小さな口を一生懸命動かして食べている。薄汚れていた髪は、本来のエメラルドグリーンの輝きを取り戻していた。
「あっ、ハジメさん。お帰りなさい。素人判断ですけど、ミュウちゃんは問題ないみたいですよ」
ハジメが帰ってきた事に気がついたシアが、ミュウのまだ湿り気のある髪を撫でながら報告をする。ミュウもそれでハジメの存在に気がついたのか、はぐはぐと口を動かしながら、再びジーと見つめ始めた。良い人か悪い人かの判断中なのだろう。
ハジメは、シアの言葉に頷くと、買ってきた服を取り出した。シアの今着ている服に良く似た乳白色のフェミニンなワンピースだ。それに、グラディエーターサンダルっぽい履物、それと下着だ。子供用とは言え、店で買う時は店員の目が非常に気になったが「多忙な妻に買って来て言われてしまって……」と笑ってなんとか誤魔化した。
ハジメは、ミュウの下へ歩み寄ると、毛布を剥ぎ取りポスッと上からワンピースを着せた。次いでに下着もさっさと履かせる。そして、ミュウの前に跪いて片方ずつ靴を履かせていった。
更に、温風を出すアーティファクト、つまりドライヤーを〝宝物庫〟から取り出し、湿り気のあるミュウの髪を乾かしていく。ミュウはされるがままで、未だにジーとを見ているが、温風の気持ちよさに次第に目を細めていった。
「……なにげに、ハジメさんって面倒見いいですよね」
「まぁな、〝ウィステリア〟に来る常連さんの子供のお守りとかを優花としてたからな……」
「へぇ〜、それなら納得ですぅ〜」
ミュウの髪を乾かしながらシアの言葉に返答してるとシアは頬を緩めてニコニコと笑う。しかし今後の事も考えたハジメは話を切り替えた。
「で、今後の事だが……」
「ミュウちゃんをどうするかですね……」
二人が自分の事を話していると分かっているようで、上目遣いでシアとハジメを交互に見るミュウ。ハジメとシアは取り敢えず、ミュウの事情を聞いてみることにした。
結果、たどたどしいながらも話された内容は、ハジメが予想していた物だった。すなわち、ある日、海岸線の近くを母親と泳いでいたらはぐれてしまい、彷徨っているところを人間族の男に捕らえられたらしいということだ。
そして、幾日もの辛い道程を経て【フューレン】に連れて来られたミュウは、薄暗い牢屋のような場所に入れられたのだという。そこには、他にも人間族の幼子たちが多くいたのだとか。
そこで幾日か過ごす内、一緒にいた子供達は、毎日数人ずつ連れ出され、戻ってくることはなかったという。少し年齢が上の少年が見世物になって客に値段をつけられて売られるのだと言っていたらしい。
いよいよ、ミュウの番になったところで、その日たまたま下水施設の整備でもしていたのか、地下水路へと続く穴が開いており、懐かしき水音を聞いたミュウは咄嗟にそこへ飛び込んだ。
三、四歳の幼女に何か出来るはずがないとタカをくくっていたのか、枷を付けられていなかったのは幸いだった。汚水への不快感を我慢して懸命に泳いだミュウ。幼いとは言え、海人族の子だ。通路をドタドタと走るしかない人間では流れに乗って逃げたミュウに追いつくことは出来なかった。
だが、慣れない長旅に、誘拐されるという過度のストレス、慣れていない不味い食料しか与えられず、下水に長く浸かるという悪環境に、遂にミュウは肉体的にも精神的にも限界を迎え意識を喪失した。
そして、身を包む暖かさに意識を薄ら取り戻し、気がつけばハジメの腕の中だったというわけだ。
「客が値段をつける、ね。オークションか。それも人間族の子や海人族の子を出すってんなら裏のオークションだろうな」
やはり、【フューレン】のような大都市にはあると思っていたがやっぱりかとハジメは思った。大都市あるあるだ。しかし、この事をイルワは、把握してるのか? いや、もしかしたら手を出せないのか?と、疑問に感じてると不意に隣から声がかかる。
「……ハジメさん、どうしますか?」
シアが辛そうに、ミュウを抱きしめる。その瞳は何とかしたいという光が宿っていた。亜人族は、捕らえて奴隷に落とされるのが常だ。その恐怖や辛さは、シアも家族を奪われていることからも分かるのだろう。
だが、ハジメは首を振った。
「保安署に預けるのが最善だ」
「そんなっ……この子や他の子達を見捨てるんですか……」
ハジメの言葉にシアが噛み付く。ミュウをギュッと抱きしめてショックを受けたような目で見た。
ハジメは、そんなシアに噛んで含めるように説明する。
「あのな、シア。迷子を見つけたら保安署に送り届けるのは当然のことだし、まして、ミュウは海人族の子だ。必ず手厚く保護してくれる。それどころか、海人族をオークションに掛けようなんて大問題だ。正式に捜査が始まるだろうし、そうすれば他の子達も保護されるだろう。いいか? おそらくだが、これは大都市にはつきものの闇だ。ミュウが捕まっていたところだけでなく、公的機関の手が及ばない場所では普通にある事なんだろ。つまり、これはフューレンの問題。どっちにしろ、通報は必要だろう?……お前の境遇を考えると、自分の手で何とかしたいという気持ちはわからんでもないが……」
「そ、それは……そうですが……でも、せめてこの子だけでも私達が連れて行きませんか?どうせ、西の海には行くんですし……」
シアの提案にハジメは首を振った。
「……それは一番駄目だ。西の海に行く前に俺達は大火山の迷宮攻略するし、連れて行く気か? それとも、砂漠地帯に一人で留守番させるか?その方が一番危険だ。大体、誘拐された海人族の子を勝手に連れて行ったら、俺達も誘拐犯の仲間入りだぞ?心苦しいが連れてくのは駄目だ」
「……うぅ、はいです……」
この短時間でかなりの情が湧いてしまったようだ。自分のことで 不穏な雰囲気が流れていることを察したのか、ミュウはシアの体にぎゅっと抱きついている。ミュウの方もかなりシアに気を許しているそうだ。それもまた手放すことに抵抗を覚させるのだろう。
しかし、ハジメの言ったことは当然の事なので、シアは肩を落としながらも頷いた。ハジメは、屈んでミュウに視線を合わせると、ミュウが理解出来るようにゆっくりと話し始めた。
「いいか、ミュウ。これから、お前を守ってくれる人達の所へ連れて行く。時間は掛かるだろうが、いつか西の海にも帰れるだろう」
「……お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」
ミュウが、ハジメの言葉に不安そうな声音で二人はどうするのかと尋ねる。
「悪いが、そこでお別れだ」
「やっ!」
「いや、やっ! じゃなくてな……」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんがいいの! 二人といるの!」
「マジか……(以外に駄々っ子だな)」
思いのほか強い拒絶に若干、たじろいでしまう。
ミュウは駄々っ子のように膝の上でジタバタと暴れ始めた。今まで、割かし大人しかったのはハジメ達の人柄を確認中だったからであり、元々は明るい子だったかもしれない。
ハジメとしても信頼してくれるのは悪い気はしないのだが、どっちにしろ公的機関への通報は必要であるし、途中で【大火山】という大迷宮の攻略にも行かなければならないのでミュウを連れて行くつもりはなかった。
なので、「やっーー!!」と全力で不満を表にして、一向に納得しないミュウへの説得を諦めて、抱きかかえると強制的に保安署に連れて行くことにした。
ミュウとしても、窮地を脱して奇跡的に見つけた信頼出来る相手から離れるのはどうしても嫌だったので、保安署への道中、ハジメの髪やら眼帯やら頬やらを盛大に引っ張り引っかき必死の抵抗を試みる。
隣におめかしして愛想笑いを浮かべるシアがいなければ、ハジメこそ誘拐犯として通報されていたかもしれない。髪はボサボサ、眼帯は奪われて片目を閉じたまま、頬に引っかき傷を作って保安署に到着して、目を丸くする保安員に事情を説明した。
事情を聞いた保安員は、表情を険しくすると、今後の捜査やミュウの送還手続きに本人が必要との事で、ミュウを手厚く保護する事を約束しつつ署で預かる旨を申し出た。ハジメの予想通り、やはり大きな問題らしく、直ぐに本部からも応援が来るそうで、自分達はお役目御免だろうと引き下がろうとした。が……
「お兄ちゃんは、ミュウが嫌いなの?」
「うっ」
流石に幼女にウルウルと潤んだ瞳は心に刺さって、心苦しかったがハジメは眼前の保安員のおっちゃんに任せておけば家に帰れる事を根気よく説明するが、ミュウの悲しそうな表情は一向に晴れなかった。
見かねた保安員達が、ミュウを宥めつつ少し強引にハジメ達と引き離し、ミュウの悲しげな声に後ろ髪を引かれつつも、ようやくハジメとシアは保安署を出たのだった。
当然、そのままデートという気分ではなくなり、シアは心配そうに眉を八の字にして、何度も保安署を振り返っていた。
やがて保安署も見えなくなり、かなり離れた場所に来たころ、未だに沈んだ表情のシアにハジメが何か声をかけようとした。と、その瞬間、ドォガァアアアン!!!!と、背後で爆発が起き、黒煙が上がっているのが見えた。その場所は、
「なっ?!」
「ハ、ハジメさん。あそこって……」
「チィっ! あぁ、保安署だ。急ぐぞ!(クソッ…粗方、誘拐組織が情報漏えいを防ぐ為に保安署ごと爆破したかっ)」
二人は、互いに頷くと保安署へと駆け戻る。焦る気持ちを抑えつけて保安署にたどり着くと、表通りに署の窓ガラスや扉が吹き飛んで散らばっている光景が目に入った。しかし、建物自体はさほどダメージを受けていないようで、倒壊の心配はなさそうだった。ハジメ達が、中に踏み込むと、対応してくれたおっちゃんの保安員がうつ伏せに倒れているのを発見して、容態を確認した。
「……生きてる。気を失ってるだけだな」
両腕が折れて気を失ってるだけだろう。周りを見ても他の職員も爆風に当てられただけで生きてはいる。ハジメが、職員達を見ている間、ほかの場所を調べに行ったシアが、焦った表情で戻ってきた。
「ハジメさん! ミュウちゃんがいません! それにこんなものが!」
シアが手渡してきたのは、一枚の紙。そこにはこう書かれていた。
──〝海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族を連れて○○に来い〟。
「ハジメさん、これって……」
「どうやら、あちらさんは欲をかいたらしいな……」
ハジメは、メモ用紙をグシャと握り潰すと目を細めた。
おそらく、連中は保安署でのミュウとハジメ達のやり取りを何らかの方法で聞いていたのだろう。そして、ミュウが人質として役に立つと判断し、口封じに殺すよりも、どうせならレアな兎人族のシアを手に入れてしまおうとでも考えたのだろう。
「そういう魂胆ならば……」
そんなハジメの横で、シアは、決然とした表情をする。
「ハジメさん! 私!」
「シア、こいつ等はもう俺の敵だ……全部ぶちのめして、ミュウを奪い返すぞ」
「はいです!」
正直、危険な旅に同行させる気がない以上、さっさと別れるのがベターだとは考えた。精神的に追い詰められた幼子に、下手に情を抱かせると逆に辛い思いをさせることになるしと思ったが、再度拐われたとなれば放っておくわけにはいかない。
それに、今回、相手はシアをも奪おうとしている。つまり、奴等はハジメの〝大切〟に手を出そうというのだ。
「つまり俺の
凄まじい魔力波を放ちながらハジメとシアは自身よ武器を携え、化け物を呼び起こした愚か者達の指定場所へと一気に駆け出したのだった……。
アンケートは土曜の夜には締め切ります(*^^*)
愛子はハーレムに入れるか入れないか
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いる
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いらない