ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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四十二話 ハジメ〇〇になる

 

商業区の中でも外壁に近く、観光区からも職人区からも離れた場所。公的機関の目が届かない完全な裏世界。大都市の闇。人身売買の総元締をしている裏組織〝フリートホーフ〟の本拠地である。

いつもは、静かで不気味な雰囲気を放っているフリートホーフの本拠地だが、今は、騒然とした雰囲気で激しく人が出入りしていた。おそらく伝令などに使われている下っ端であろうチンピラ風の男達の表情は、訳のわからない事態に困惑と焦燥、そして恐怖に歪んでいた。

 

そんな普段の数十倍の激しい出入りの中、どさくさに紛れるように頭までスッポリとローブを纏った者が二人、フリートホーフの本拠地に難なく侵入した。バタバタと慌ただしく走り回る人ごみをスイスイと避けながら進み、遂には最上階のとある部屋の前に立つ。その扉からは男の野太い怒鳴り声が廊下まで漏れ出していた。それを聞いて、ローブを纏った者のフードが僅かに盛り上がりピコピコと動いている。

 

「ふざんけてんじゃねぇぞ! アァ!? てめぇ、もう一度言ってみやがれ!」

 

「ひぃ! で、ですから、潰されたアジトは既に五十軒を超えました。襲ってきてるのは二人組が二組です!」

 

「じゃあ、何か? たった四人のクソ共にフリートホーフがいいように殺られてるってのか? あぁ?」

 

「そ、そうなりまッへぶ!?」

 

室内で、怒鳴り声が止んだかと思うと、ドガッ!と何かがぶつかる音がして一瞬静かになる。どうやら報告していた男が、怒鳴っていた男に殴り倒されでもしたようだ。

 

「てめぇら、何としてでも、そのクソ共を生きて俺の前に連れて来い。生きてさえいれば状態は問わねぇ。このままじゃあ、フリートホーフのメンツは丸潰れ……それに、この醜態があの御方に知られたら俺達の人生はお終いだ!!」

 

「俺達が生き残るには、そいつらに生きたまま地獄を見せて、見せしめにする必要がある。連れてきたヤツには、報酬に五百万ルタを即金で出してやる! 一人につき、だ! 全ての構成員に伝えろ!!」

 

男の号令と共に、室内が慌ただしくなる。男の指示通り、組織の構成員全員に伝令するため部屋から出ていこうというのだろう。耳をそばだてていた二人のフードを着た者達は顔を見合わせ一つ頷くと、一人が背中から戦鎚を取り出し大きく振りかぶった。

そして、室内の人間がドアノブに手をかけた瞬間を見計らって、超重量の戦鎚を遠心力と重力をたっぷり乗せて振り抜いた。

尋常じゃない爆音を響かせて、扉が木っ端微塵に粉砕される。ドアノブに手を掛けていた男は、その衝撃で右半身をひしゃげさせ、更に、その後ろの者達も散弾とかした木片に全身を貫かれるか殴打されて一瞬で満身創痍の有様となり反対側の壁に叩きつけられた。

 

「構成員に伝える必要はありませんよ。本人がここに居ますからね」

 

「ふむ、外の連中は引き受けよう。手っ取り早く、済ますのじゃぞ? シア」

 

「ありがとうございます、ティオさん」

 

今しがた起こした惨劇などどこ吹く風という様子で室内に侵入して来たのはシアとティオだ。

いきなり、扉が爆砕したかと思うと、部下が目の前で冗談みたいに吹き飛び反対側の壁でひしゃげている姿に、フリートホーフの頭、ハンセンは目を見開いたまま硬直していた。しかし、シアとティオの声に我に返ると、素早く武器である長剣を取り出し構えながらドスの利いた声で話しだした。

 

「……てめぇら、例の襲撃者の一味か……その容姿……チッ、リストに上がっていた奴らじゃねぇか。シアにティオだったか?あと、ユエとかいうちびっこいのもいたな……なるほど見た目は極上だ。おい、今すぐ投降するなら、命だけは助けてやるぞ? まさか、フリートホーフの本拠地に手を出して生きて帰れるとは思って──」

 

好色そうな眼でシアとティオを見ながらペチャクチャと話し始めたハンセンの言葉を遮ってズドンッと、腹の底にまで届くような轟音が響き渡った。

見れば、シアが冷め切った眼差しを向けながら柄を収縮した砲撃モードのドリュッケンを構える姿があった。

問答無用に、至近距離から撃ち放たれた凶悪な破壊力を持つ無数の鉄球によりハンセンは右腕を根元から吹き飛ばされ、血飛沫を上げながら錐揉みして背後の壁に激突し、絶叫を上げながら蹲った。

 

「ボス!? 今のは何の音ですかい!?」

 

「無事ですか!?」

 

騒ぎを聞きつけて、本拠地にいた構成員達が一斉に駆けつけてくる。だが、

 

「子供を食い物にしてきたその所業……些か、妾も苛立っておる。あの世で悔い改めよ」

 

そんなことを冷え切った声音で呟いたティオが凄まじい火力を有する炎系魔法で階段を灰に変え上階へと至る道を無くしたため立ち往生することになった。

直後、右往左往する彼等に向けて、竜の牙が剥かれる。〝ブレス〟だ。ティオの片手からの縮小版とはいえ、奈落の化け物をして必死の防御を強いたそれは薙ぎ払われれば、木造の建物などひとたまりもないのは当然のこと。

フリートホーフの本拠地はハンセンの部屋を除いて見るも無残な有様へと成り果てた。辛うじて倒壊は免れながら、玄関側の壁が綺麗に消失し、風通しどころか、見通しも良くなってしまっている。

その縦半分となった本拠地の姿を屋内から出てきた構成員達は呆然と見上げることしかできない。

そこへティオは容赦なく、風刃や炎弾をマシンガンの如く撃ち放っていく。容赦の欠片もない攻撃に、構成員達は蜘蛛の子を散らすように逃走を図るが……それが叶うものは少ないだろう。

 

ティオが、外の構成員を一手に引き受けている間に、シアは、ドリュッケンを肩に担いだまま、悲鳴を上げてのたうつハンセンにツカツカと歩み寄ると、ドリュッケンを腹に突き落とした。「ぐえぇ」と苦悶の声を上げて何とか大槌を退かせようとするが、超重量のドリュッケンを片腕でどうこうできる訳もない。しかし、ハンセンは命乞いをせずに剣呑の眼差しでシアを睨む。

 

「クソがぁ……亜人如きが俺に傷を付けやがって……もう許さねぇ! てめぇ等は商品じゃなく奴隷にしてやる!来いゾクトニアァ!!」

 

瞬間、シアとティオの周りにそれぞれの付近に二つの魔法陣が浮き出ると、そこから四体の影が現れ、近くにいたシアとティオに攻撃を放つ。

 

「「!」」

 

突然、現れた魔法陣に驚きはしたものの二人は放たれた影からの攻撃をシアはドリュッケンを盾に、ティオは反攻戦技の〝流水〟を使って直撃を防ぐ。

そして、二人は攻撃を行ったモノは全身が鎧のような外殻を纏い、その両腕には分厚い盾が付いた四体の魔物であった。

 

「な、なんですか!?」

 

「む、此奴はゾクトニア? じゃが、どうしてこの魔物が?」

 

その魔物を見た二人の反応は様々で、シアは初めて見る魔物に驚愕しているが、ティオはというと何故、この地域にいることに疑問を抱いている。

すると、失った右腕の箇所を左手で抑えながらハンセンは下卑た笑みを浮かべて己の威厳を保つためか大声で言う。

 

「ハハッ、見やがれ!これが俺の天職〝召喚士〟である力だ!それにこの数のゾクトニアをなぁ!!」

 

天職〝召喚士〟。天職の中でも珍しい類いで、動物や土人形ゴーレムといった使役したものを任意の場所で召喚できる稀有な固有魔法〝召喚〟を持っている。

その力量は本人の度合いによるものだが、先程の召喚技量から派生技能である〝複数召喚〟をハンセンは習得しているだろう。

 

「さぁ、行け!ゾクトニア! あの女共を叩きのめせ!!」

 

ハンセンが命令下すと四体のゾクトニアは従順にハンセンの命令に従ってシアとティオの方へ一斉に飛び出した。

 

「シア。妾が半分を受け持とう。もう半分は頼んだのじゃ」

 

「了解です!」

 

互いに背中合わせで話す二人は会話を終えると、それぞれ二体相手取るためと互いの邪魔にならないように少しだけ距離を取る。すると、飛び出した四体も二手に別れだす。

そして、シアに狙いを定めた二体の内の一体が距離が縮まった瞬間に、勢いよく飛び上がると鋭い爪を突き立てながら襲いかかってきた。それに対してシアはドリュッケンを構えて迎撃に入る。

 

「りゃぁぁあ!!」

 

敵の攻撃が届く前にドリュッケンを振るうシア。同時に可愛いらしい声を出しているが、その振るわれる一撃は並の魔物ならばミンチになるほどの凶悪な威力を誇る一振は襲い掛かるゾクトニアに嫌な音を立たせる共に軌道を物理的に変えて横へと吹き飛ばした。

 

「よし、次です!」

 

一体を吹き飛ばすと標的の切り替えをすぐにドリュッケンを持ち直すシアは、もう一体のゾクトニアの方へ飛び出すと共にドリュッケンを振り上げた。ゾクトニアの方もシアの攻撃に備えて両腕の大盾を突き出して守りの体勢に入る。

守りに入ったゾクトニアに対してならば、盾ごと粉砕してやろうと柄に力が入れる。

そして、そのままドリュッケンを振り下ろそうとしたその時だった。シアの脳内に未来のビジョンが映る。

 

「!」

 

突然、〝未来視〟に映し出された光景に驚愕しながらもシアは数秒先の未来に備えてドリュッケンの振り下ろす勢いを真下にではなく回転をつけながら横薙ぎに振るう。直後、真横からシアを目掛けて突進してきたもう一体のゾクトニアの大盾とドリュッケンがぶつかり甲高い金属音が鳴ると共に倒壊寸前のフリートホーフの本拠地が余波でミシミシと嫌な音が鳴る。

 

「いくらなんでも早すぎません!?」

 

木造建築から響く嫌な音が聞こえてくるが、それよりも目の前のゾクトニアに対してシアは戦慄する。

未来視で襲ってくるのが分かっていたのだが、その復帰の早さには声を上げてしまうシア。加えて、自分の攻撃を受けて鎧に数センチほどのヒビが入っただけという事実にシアは驚きを隠せない。

そんなシアが驚愕してる間にも、防御状態から攻撃へ切り替えた目の前の個体がその剛腕を振るう。

 

「っ!」

 

攻撃に気付いたシアは床を蹴って後ろへ下がって攻撃を回避すると同時にドリュッケンの柄を収縮しつつ砲撃モードにして向かいくるゾクトニアに狙いを定めてショットガンを撃ち込んだ。

しかし、ゾクトニアは両腕の大盾を乱暴に振るってガキンッと音を響かせながらショットガンの弾を全て弾いてみせた。

 

「っ、硬すぎませんか!?」

 

人の腕などを軽く吹き飛ばせるほどの威力を誇るショットガンを至近距離で受けたというのにゾクトニアはまるで効いてないとことにシアは驚きの声を上げる。そこへ、後ろへ回り込んだもう一体がシアに向かって振り上げた両腕を勢いよく振り下ろす。

その凶悪な一撃に対してシアはドリュッケンを大振りに振るって攻撃の軌道を上手く逸らしつつ、それを起点に独楽のように回りだし遠心力を加えた強力な一撃を繰り出そうとしたが、

 

「うえぇ!?」

 

一撃が入る直前に、ゾクトニアは固有魔法を発動し青白い光を纏うと、シアの回転攻撃を諸に受けるも大盾にヒビを入れさせる程度に終わり、逆に、その余りの装甲の硬さにシアの腕がシビれてしまう。

 

「っ〜〜、どれだけ硬いんですかぁ!」

 

なんとか意地でドリュッケンを手から離さなかったものの骨にジンジンと響く感覚に涙目になって叫ぶシア。しかし、シアの文句など知ったことじゃない言わんばかりに二体のゾクトニアは問答無用に襲い掛かってくる。

 

「くぅ!」

 

執拗に振るわれる攻撃に、なんとか向かってくる攻撃の軌道を見切りながら持ち前のセンスで攻撃を躱し、隙を突いて反撃を与えようとするが、分厚い四枚の大盾と鎧によって防がれる。ならばと、ゾクトニアの動きよりも早く動き、顕になった隙を狙って攻撃するが、この狭い空間のせいで速さを加えた威力を上乗せが出来ないことによる火力不足で無意味に終わる。

如何に素早く翻弄して死角からの攻撃しても、如何に余程の力を込めた一撃をぶつけても、大盾は愚か鎧すらもマトモに砕けない事実にシアは悔しさのあまり歯噛みする。

 

「もう、あったまにきましたぁー!ギッタンギッタンにしてやるですぅ〜っ」

 

硬すぎるゾクトニアの装甲に対して沸々と込み上げていた怒りが爆発するシア。まさか、ここまで苦戦を強いられるとは思っていなかったのだろう。すると、シアが攻めあぐねている状況を見ていたハンセンの野太い笑い声が響く。

 

「ハハハッ! 理解したか小娘共!コイツ等は中級魔法は完全無効に加えて物理攻撃すらも高耐久の動く城壁! てめぇ等ていどじゃゾクトニアの装甲を破るのは不可能ってことだ!」

 

そう自慢気に語るハンセン。しかし、ゾクトニアの後ろで息巻いてるせいで小者にしか見えない。しかし、ハンセンの言ってることは正しく、その余りにも硬い装甲はシアを苦しめていた。

 

「っ?! またっ!」

 

再び、渾身の攻撃を放つが、再び青白い光を纏ったゾクトニアによる防御で完璧に相殺され弾かれる。そして、弾かれた反動でドリュッケンが後ろへ強く引っ張られ、そこを狙ったゾクトニアが襲い掛かるが持ち前の身体能力で攻撃を上手く躱すシア。だが、この膠着状態は確実にシアをジワジワと焦らせる。

 

「!」

 

そこへ、二体のゾクトニアによる同時攻撃。回避か防御か。普段ならどちらかを即決できるシアだが、今は焦る余り思考が纏まらず動きが遅れてしまう。直撃は避けられないと思ったその時、鮮やかな紫炎と颶風が合わさった攻撃が二体のゾクトニアを勢いよく吹き飛ばす。

 

「うへ?」

 

その光景に素っ頓狂な声を上げるシアだが、直後に、シアを助けた人物の声が話しかけてきた。

 

「無事かシアよ? 」

 

それは勿論、ティオだ。彼女は自分を攻めるゾクトニアと戦いながら周囲を俯瞰して危ない状況だったシアを助けたのだ。

 

「ティオさん!」

 

「シア、戦いで、そうかっかするのはいかん。変に焦ってしまって動きが疎かになってしまっておるぞ?」

 

そう苦言を呈しながらティオは、迫る二体の攻撃を反攻戦技〝流水〟を使い、まるで流れる水の如く敵の攻撃を軽やかに受け流すと共に見事な体捌きと扇術で二体のゾクトニアを圧倒する。

 

「ゾクトニア。魔人領西部辺りに生息しておる魔物じゃったな。確か、固有魔法は耐久と魔耐を上昇させる〝城壁〟。そして、上級魔法すらも無効化するとは言われておるが──」

 

ポツポツとゾクトニアについて語り始めるティオ。しかし、その間にも動きは止めずにゾクトニアの攻撃を軽やかに受け流し、

 

「それは全くの嘘じなゃ」

 

そう断言するティオに、ハンセンは強く否定した。

 

「はぁ?!戯言をほざいてんじゃねぇぞ! 上級魔法の巻物スクロールを十発以上を受けても無傷だったんだぞ!」

 

「たかが、魔法を込めただけの道具で試したと言われても片腹痛い。此奴は耐久力が高いが、生物には必ず限界もある」

 

ハンセンの言葉を即座に両断するティオ。その態度に怒りを顕にしたハンセンが言う。

 

「じゃあ、なんだ!? テメェは魔法で其奴等を倒せるのかよ!!?」

 

「──ああ、できるぞ」

 

鼻で笑ってそう断言したティオは手に持つ扇子に魔力を込めると共に紫炎を纏わせる。これは〝魔力操作〟の派生である〝魔力圧縮〟だ。しかも、戦いながらコントロールを乱さずに〝魔力圧縮〟を続けていく。

やがて、扇子に凝縮された魔力は膨大な熱気と圧を放っており、準備が完了したのを確認したティオは敵の動きを乱す〝乱風〟によって隙を顕にさせると二体のゾクトニアに向け手に持つ扇子を横一線に振るう。

 

「これで、終わりじゃよ」

 

瞬間、膨大に圧縮されレーザー光線となった紫炎によって二体のゾクトニアはまるで紙切れの如く横一線に両断して絶命させる。その信じられない光景にシアとハンセンは目を見開く。

対してティオは全く余裕の表情で、軽く一息を吐くとシアを見る。驚いていたシアもティオの視線に気付き、彼女の方を見て、そして、その意味も理解する。

 

──今度はお主の番じゃ。

 

それはティオからの期待とシアならば出来るという信頼。

 

それを理解したシアは深く頷くとドリュッケンを強く握り締め呼吸を整える。同時にティオからの攻撃から復帰したゾクトニア達もシアへの方へ向かって動き出した。

 

「(ティオさんは魔力を扇子に圧縮させていた。ならば私も!)」

 

シアは目を閉じる。そして、己の魔力を全身とドリュッケンに流し込んで圧縮させていく。凝縮された魔力は体に凄く負荷を与えてくるがそれを我慢して圧縮を続ける。しかし、そこへゾクトニア達が駆け付ける。そして、飛び上がりシアへ攻撃を振るおうとした瞬間、シアの目がカッと見開いた。

全身とドリュッケンに圧縮された魔力はシアの〝身体強化〟の上限を越えた〝圧縮強化〟という新たな力で放たれるシアの一撃は音よりも早く放たれた。

 

「は?」

 

常人では到底、見えることが不可能な速さで放たれたシアの一撃は音を置き去りにしてゾクトニア達の大盾と鎧を真っ正面から完全に打ち砕き、ハンセンが見たのは床に飛び散るゾクトニアだったものの残骸。

 

「ひ、ひぃぃ!!」

 

事を理解した瞬間、血の気が失せ顔を蒼白とさせるハンセン。

 

 

 

 

「」

 

「……シアよ。お主、やっぱりご主人様の仲間じゃの……言動がよう似とるの〜」

 

後ろを振り返りながら、ツッコミを入れるティオの言葉はさらっと無視して、シアはハンセンにミュウの事を聞く。ミュウと言われて一瞬、訝しそうな表情を見せたハンセンだが、海人族の子と言われ思い至ったのか少しずつ重さを増していくドリュッケンに苦悶の表情を浮かべながら必死に答えた。どうやら、今日の夕方頃に行われる裏オークションの会場の地下に移送されたようだ。

 

ちなみに、ハンセンはシアとミュウの関係を知らなかったようで、なぜ、海人族の子にこだわるのか疑問に思ったようだ。おそらく、シア達とミュウのやり取りを見ていたハンセンの部下が咄嗟に思いつきでシアの誘拐計画を練って実行したのだろう。元々、シアはフリートホーフの誘拐リストの上位に載っていたわけであるから、自分で誘拐して組織内での株を上げようとでもしたに違いない。

 

シアは、首のチョーカに手を触れて念話石を起動すると、ハジメに連絡をとった。

 

〝ハジメさん、ハジメさん。聞こえますか? シアです〟

 

〝…………シア。ああ、聞こえる。どうした?〟

 

〝ミュウちゃんの居場所が分かりました。ハジメさんは今、観光区ですよね? そちらの方が近いので先に向かって下さい〟

 

〝了解した〟

 

シアは、ハジメに詳しい場所を伝えると念話を切った。既にドリュッケンの重さで呼吸もままならないのか、青紫っぽい顔色になっているハンセン。シアは、ドリュッケンにかけた重力魔法を解いて、通常の重さに戻すとハンセンの上から退かせて肩に担いだ。ドリュッケンの重さからは解放されたものの、既に出血多量で意識が朦朧とし始めているハンセンは、それでも必死にシアに手を伸ばし助けを求めた。

 

「た、助け……医者を……」

 

「子供の人生を食い物にしておいて、それは都合が良すぎるというものですよ……それにあなたのような人間を逃したりしたら、ハジメさんとユエさんに怒られてしまいます。というわけで、さよならです」

 

「や、やめ!」

 

グシャ!

 

シアは、振り下ろしたドリュッケンを勢いよく振り回して付着した血を吹き飛ばすと再び背中に背負い、ティオに向き直った。

 

「ティオさん。ここは手っ取り早く潰して、早くハジメさん達と合流しましょう!」

 

「う、うむ……シアも大概容赦ないのじゃ……」

 

「? ……何か言いました?」

 

「な、何でもないのじゃ〜」

 

ボソッと呟かれた言葉に反応して笑みを返すシアにティオは冷や汗を垂らしながらシラを切り、フリートホーフ本拠地の破壊活動に勤しむ。

 

シアとティオが立ち去った後には、無数の屍と瓦礫の山だけが残った。〝フリートホーフ〟フューレンにおいて、裏世界では三本の指に入る巨大な組織は、この日、実にあっさりと壊滅したのだった。

 

 

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「…シア達の所は心配無用だな」

 

「……ん」

 

シアから念話をもらったハジメとユエは、情報の場所に急行していた。ミュウがオークションに出される以上、命の心配はないだろうが精神的な負担は相当なもののはずだ。奪還は早いに越したことはない。

 

目的の場所に到着すると、その入口には二人の黒服に身を包んだ巨漢が待ち構えていた。ハジメは、騒ぎを起こしてまたミュウが移送されては堪らないと思い、裏路地に移動すると錬成を使って地下へと侵入して、ユエと共に、気配遮断を使いながら素早く移動していく。

 

「(此処だな……)」

 

やがて、ハジメは地下深くに無数の牢獄を見つけた。入口に監視が一人が居眠りしており、その監視の前を素通りして行くと、中には、人間の子供達が十人ほどいて、冷たい石畳の上で身を寄せ合って蹲っていた。十中八九、今日のオークションで売りに出される子供達だろう。

 

「……完全にクロだな」

 

この世界は、基本的に、人間族のほとんどは聖教教会の信者であることから、そのような人間を奴隷や売り物にすることは禁じられている。人間族でもそのような売買の対象となるのは犯罪者だけで、神を裏切った者として、奴隷扱いや売り物とすることが許されるらしいが、眼前で震えている子供達が、そろってそのような境遇に落とされべき犯罪者とは到底思えない。正規の手続きで奴隷にされる人間は表のオークションに出されるが、ここにいる時点で、違法に捕らえられ、売り物にされていることは確定な証拠だった。

 

ハジメは、突然入ってきたことに怯える子供達と鉄格子越しに屈んで視線を合わせると、静かな声音で尋ねた。

 

「ここに、海人族の女の子はこなかったか?」

 

てっきり、自分達の順番だと怯えていた子供達は、予想外の質問に戸惑ったように顔を見合わせる。牢屋の中にはミュウの姿はなかった。そのため、ハジメは、他にも牢屋があるのか、それとも既に連れ出された後なのか、子供達に尋ねてみたのだ。

 

しばらく沈黙していた子供達だが、ハジメの隣りにユエがしゃがみ込み優しげな瞳で「……大丈夫」と呟くと、少し安心したのか、一人の七、八歳くらいの少年がおずおずと質問に答えた。

 

「えっと、海人族の子なら少し前に連れて行かれたよ……お兄さん達は誰なの?」

 

やはり、既に連れて行かれたあとかと内心舌打ちしたハジメは、不安そうな少年に向かって簡潔に優しく笑みを浮かべながら返した。

 

「君達を助けに来たんだ」

 

「えっ!? 助けてくれるの!」

 

ハジメの言葉に、驚愕と喜色を浮かべて、つい大声を出してしまう少年。その声は薄暗い地下牢によく響き渡った。慌てて口を両手で抑える少年だったが、監視にはばっちり聞こえていたようで「何騒いでんだ!」と目を覚ましてドタドタと地下牢に入ってきた。

 

そして、ハジメ達を見つけて、一瞬硬直するものの「てめぇら何者だ!」と叫びながら短剣を抜いて襲いかかる。それを見て、子供達は、刺されて倒れるハジメとユエの姿を幻視し悲鳴を上げた。

 

だが、そんな事はありえなかった。ハジメは、突き出された刃物を左手で無造作に掴み取り、そのまま力を込めて短剣の刃を粉々に砕いてしまった。

 

ハジメが、手を広げるとバラバラとこぼれ落ちる刃の欠片。監視の男は、それが何なのか一瞬理解出来なかったようでキョトンとした表情をすると、手元の短剣に目を落とした。そして、柄だけになっている姿を見て、ようやく何が起こったのか理解し、「なっ、なっ」と言葉を詰まらせながら顔を青ざめさせて一歩後退った。

 

ハジメは、問答無用で一歩詰めると男の頭を鷲掴みにし、そのまま地面に叩きつけた。

 

グシャ!

 

そんな生々しい音共に、一瞬で男は絶命する。

 

「監視なら、まず警笛鳴らせよ。雑魚が」

 

呆れた表情でそんな事を言いながら、文字通り監視を瞬殺したハジメに、子供達は目を丸くして驚いている。そんな視線にもお構いなしにハジメは、錬成で鉄格子を分解してしまう。子供達の目には、一瞬で鉄格子を消し去ってしまったように見えたため更に驚いてポカンと口を開いたまま硬直してしまった。

 

「ユエ、悪いが、この子達を頼めるか? 俺は、どうやらもうひと暴れしなきゃならないみたいだ」

 

「ん……任せて」

 

「おそらく、もうすぐ保安署の連中も駆けつけるだろうしな。そいつらに預ければいい。イルワ支部長が色々手を回してくれるだろうし……細かい事は、あの人に丸投げしよう」

 

ユエが、若干、同情するような眼差しで遠くを見た。それはギルド支部がある方角だった。実は、ここに来る前に、適当に捕まえた冒険者にイルワ宛の念話石を届けてもらい、事の次第をイルワに説明しておいたのだ。

 

「やはり、ランク金は役に立つな〜」

 

ハジメはそう薄ら笑みを浮かべながら呟いた。

 

ちなみに、イルワの方から念話石を起動することは出来ないので、彼は一方的にハジメから、巨大裏組織と喧嘩しているという報告と事後処理もろもろ宜しくという話を聞かされ、執務室で真っ白になっていたりする。

 

ハジメは、再び、地下牢から錬成で上階への通路を作ると子供達をユエに任せてオークション会場へ急ごうとした。と、その時、先ほどの少年が呼び止める。

 

「兄ちゃん! 助けてくれてありがとう! あの子も絶対助けてやってくれよ! すっげー怯えてたんだ。俺、なんも出来なくて……」

 

「……」

 

自分の無力に悔しそうに俯く少年の頭を、俺はわしゃわしゃと撫で回した。

 

「わっ、な、なに?」

 

「ま、悔しいなら守りたいなら強くなればいい。今回は、俺がやっとくさ。次、何かあればお前が守ればいいさ」

 

それだけ言うと、ハジメはさっさと踵を返して地下牢を出て行った。呆然と両手で撫でられた頭を抑えていた少年は、次の瞬間には目をキラキラさせて少し男らしい顔つきでグッと握り拳を握った。ユエは、そんな少年に微笑ましげな眼差しを向けると、子供達を連れて地上へと向かったたのだった。

 

 

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オークション会場は、一種異様な雰囲気に包まれていた。

 

会場の客はおよそ百人ほど。その誰もが奇妙な仮面をつけており、物音一つ立てずに、ただ目当ての商品が出てくるたびに番号札を静かに上げるのだ。素性をバラしたくないがために、声を出すことも躊躇われるのだろう。

 

そんな細心の注意を払っているはずの彼等ですら、その商品が出てきた瞬間、思わず驚愕の声を漏らした。

 

出てきたのは二メートル四方の水槽に入れられた海人族の幼女ミュウだ。衣服は剥ぎ取られ裸で入れられており、水槽の隅で膝を抱えて縮こまっている。海人族は水中でも呼吸出来るので、本物の海人族であると証明するために入れられているのだろう。一度逃げ出したせいか、今度は手足に金属製の枷をはめられている。小さな手足には酷く痛々しい光景だ。

 

多くの視線に晒され怯えるミュウを尻目に競りは進んでいく。ものすごい勢いで値段が上がっていくようだ。一度は人目に付いたというのに、彼等は海人族を買って隠し通せると思っているのだろうか。もしかすると、昼間の騒ぎをまだ知らないのかもしれない。

 

ざわつく会場に、ますます縮こまるミュウは、その手に持っていた黒い布をギュッと握り締めた。それは、ハジメの眼帯だ。ミュウと別れる際、ミュウを宥めることに忙しくてすっかりその存在を忘れていたハジメは、後になって思い出し、現在は予備の眼帯を着けている。

 

ミュウは、身を縮こまらせながら考えた。やっぱり、痛いことしたから置いていかれたのだろうか? 黒い布を取ったから怒らせてしまったのだろうか? 自分は、お兄ちゃんとお姉ちゃんに嫌われてしまったのだろうか? そう思うと、悲しくて悲しくて、ホロリと涙が出てくる。もう一度会えたら、痛くしたことをゴメンなさいするから、黒い布も返すから、そうしたら今度こそ……どうか一緒にいて欲しい。

 

「お兄ちゃん……お姉ちゃん……」

 

ミュウがそう呟いたとき、不意に大きな音と共に水槽に衝撃が走った。「ひぅ!」と怯えたように眉を八の字にして周囲を見渡すミュウ。すると、すぐ近くにタキシードを着て仮面をつけた男が、しきりに何か怒鳴りつけながら水槽を蹴っているようだと気が付く。どうやら更に値段を釣り上げるために泳ぐ姿でも客に見せたかったらしく、一向に動かないミュウに痺れを切らして水槽を蹴り飛ばしているらしい。

 

しかし、ますます怯えるミュウは、むしろ更に縮こまり動かなくなる。ハジメの眼帯を握り締めたままギュウと体を縮めて、襲い来る衝撃音と水槽の揺れにひたすら耐える。

 

フリートホーフの構成員の一人で裏オークションの司会をしているこの男は、余りに動かないミュウに、もしや病気なのではと疑われて値段を下げられるのを恐れて、係りの人間に棒を持ってこさせた。それで直接突いて動かそうというのだろう。ざわつく客に焦りを浮かべて思わず悪態をつく。

 

「全く、辛気臭いガキですね。人間様の手を煩わせているんじゃありませんよ。半端者の能無しのごときが!」

 

そう言って、司会の男が脚立に登り上から棒をミュウ目掛けて突き降ろそうとした。その光景にミュウはギュウと目を瞑り、衝撃に備える。が、やってくるはずの衝撃の代わりに届いたのは……聞きたかった人の声だった。

 

「そのセリフ、そっくりそのまま返そうか? クソ野郎」

 

それはハジメだった。

 

ハジメは天井から舞い降り男の頭を踏みつけると、そのまま脚立ごと猛烈な勢いで床に押しつぶした。ビシャアア! と司会の男から破裂したように血が飛び散る。まさに圧殺という有様だった。

 

「そのセリフ、そっくりそのまま返すそうか? クソ野郎」

 

ハジメは、潰れて一瞬で絶命した男の事など目もくれず義手で水槽を殴りつけた。バリンッ! という破砕音と共に水槽が壊され中の水が流れ出す。

 

「ひゃう!」

 

流れの勢いで、思わず悲鳴を上げるミュウを抱き締めるとミュウは目をパチクリとし、初めて会った時のようにジッーとハジメを見つめる。

 

「よぉ、ミュウ。お前、会うたびにびしょ濡れだな?」

 

冗談めかしてそんな事を言うハジメに、ミュウは、やはりジーと見つめたまま、ポツリと囁くように尋ねる。

 

「……お兄ちゃん?」

 

「お兄ちゃんかどうかは別として、お前に髪を引っ張られ、頬を引っ掻かれた挙句、眼帯を取られたハジメさんなら、確かに俺だ」

 

ハジメが苦笑いしながらそう返すと、ミュウはまん丸の瞳をジワッと潤ませる。

 

そして……

 

「お兄ちゃん!!」

 

ハジメの首元にギュッウ~と抱きついてひっぐひっぐと嗚咽を漏らし始めた。

 

「よく、耐えたな。今度はしっかりと守ってやる」

 

ハジメはそう言って、ミュウの背中をポンポンと叩きながら手早く毛布でくるんでやった。と、再会した二人に水を差すように、ドタドタと黒服を着た男達がハジメとミュウを取り囲んだ。客席は、どうせ逃げられるはずがないとでも思っているのか、ざわついてはいるものの、未だ逃げ出す様子はない。

 

「クソガキ、フリートホーフに手を出すとは相当頭が悪いようだな。その商品を置いていくなら、苦しまずに殺してやるぞ?」

 

二十人近くの屈強そうな男に囲まれて、ミュウは、首元から顔を離し不安そうにハジメを見上げた。

 

「ミュウ、目を閉じてろ」

 

ハジメは、ミュウの耳元に顔を近づけると、煩くなるから耳を塞いで、囁き、小さなぷくぷくしたミュウの手を取って自分の耳に当てさせる。ミュウは不思議そうにしながらも、焦燥感も不安感もまるで感じさせない余裕の態度をとるハジメに安心したように頷くと、素直に両手で耳を塞いで目を瞑り、ハジメの胸元にギュッと顔を埋めた。

 

完全に無視された形の黒服は額に青筋を浮かべて、商品に傷をつけるな! ガキは殺せ! と大声で命じた。その瞬間、

 

「──〝轟雷閃〟」

 

ハジメがそう呟くと共に紅い閃光が黒服達を襲った。そして、リーダー格と思われる黒服の頭部と他の黒服の男十人程の首から上が無くなった。誰もが「えっ?」と事態を理解できないように目を丸くして首から上が無く崩れ落ちる黒服達を見つめる。

 

ようやく、ハジメを尋常ならざる相手だと悟ったのか、黒服たちは後退り、客達は悲鳴を上げて我先にと出口に殺到し始めた。

 

「む、無詠唱ォ?! お、お前、何者なんだ! 何が、何で……こんなっ!」

 

混乱し、恐怖に戦きながらも、必死に虚勢を張って声を荒げる黒服の一人。奥から更に十人ほどやってきたがホールの惨状をみて尻込みしている。

 

そんな彼等をハジメは鼻で笑う。

 

「何で? 見りゃわかるだろ? 奪われたもんを奪い返しに来ただけだ。あとは……唯の見せしめだな。俺の連れに手を出すとこうなるっていう。だから、終わりは派手にいかせてもらうぞ?」

 

ハジメはそう言うと、〝空力〟を使ってホールの天井まで上がって行き、いつの間にか空いていた穴に飛び込んでそのまま建物の外まで空いた穴を通って地上へと出た。

 

〝ユエ。ミュウは無事確保した。そっちはどうだ?〟

 

〝……ん、避難完了。後は、客がワラワラ出てくるところ〟

 

〝そうか、じゃあフィナーレは派手に行こうか〟

 

〝んっ!〟

 

ハジメは、〝空力〟で更に上空に駆け上がりながら、ミュウに話しかけた。律儀に言いつけを守り耳を塞いで胸元に顔を埋めていたミュウは、ハジメの「もういいぞ、ミュウ」という言葉に目をパチクリさせながら周囲を見渡し……「ふわっ!?」という驚きの声を上げた。

 

「お兄ちゃん凄いの! お空飛んでるの!」

 

「飛んでるんじゃなくて跳んでるだけなんだが……まぁいいか。それより、ミュウ、ちょっと派手な花火が見れるぞ?」

 

「花火?」

 

「花火ってのは……綺麗な紅い閃光だ」

 

「閃光?」

 

碌な説明が出来ていないが、これからやることに変わりはないのでハジメは気にせずにミュウを片腕で抱っこしたまま、〝空力〟で上空に留まりつつ、ハジメはミュウに「た〜ま〜や〜って言えば良い」と伝え、ある複合の新魔法を放った。

 

「んじゃ、行こうか───〝紅雷華〟」

 

「た~ま~や~?」

 

ハジメの一言と間延びしたミュウの声が夕暮れの空に響いた瞬間、フューレン全体に轟くほどの轟音と共に周囲のフリートホーフの関連建物をも巻き込んで凄絶な紅い閃光の衝撃が走り、裏オークションの会場は言わんばかりに木っ端微塵に粉砕されていき、紅き雷の華が咲き誇った。

 

「おぉ〜(初めて放ったが、威力は凄まじいな……)」

 

「ふぇえええ!?」

 

「どうだ、ミュウ? 驚いたか?」

 

「花火スゴイ…」

 

ミュウが紅雷華を見て目を輝かせてると追い打ちをかけるように、少し離れた空に突然暗雲が立ち込め始めた。そして、雷鳴の咆吼と共に、四体の〝雷龍〟が出現した。

 

「おっ、アッチも始まったな」

 

ユエが生み出した〝雷龍〟四体は、それぞれ別方向に雷を迸らせながら赤く燃える空を悠然と突き進む。おそらく、フューレンにいるほとんどの人が、その偉容を目撃していることだろう。そして、四体の雷龍は、取り残していたフリートホーフの重要拠点四ヶ所に、雷鳴を轟かせながら同時に〝落ちた〟。稲光で更に周囲と空を染め上げて、轟音と共に建物が崩壊する音がフューレンに響き渡った。

 

ちなみに、関係のない一般人には危害が及ばないように注意はしている。関連施設やその周辺にも、無人偵察機を飛ばして、しっかりフリートホーフと関係のない人がいないか確認済みだ。なので吹き飛んだり消し炭になっているのはフリートホーフの人間だけである。個人の人格までは知ったことではない。

 

〝ハジメさん! ミュウちゃんは無事ですか!?〟

 

〝ちょ、待つのじゃシアよ。って早いのじゃ!〟

 

ミュウと二人で収まりつつある炎や噴煙を眺めていると、シアからの念話が入った。そうえば、二人には何をするのか詳細は伝えていなかったことを思い出すハジメ。

 

〝ああ。無事だよ。奴等の拠点も大体潰したし……そうだな。多分、悲鳴を上げているだろうイルワ支部長のもとにでも集合しようか〟

 

〝うぅ~、良かったぁ~。支部長さんのところですね? 了解です。直ぐに向かいますから早くミュウちゃんに会わせて下さいね?〟

 

〝ああ。わかってるよ。じゃあ、向こうでな〟

 

〝はいですぅ〟

 

突然、遠くを見つめて沈黙したハジメに、不思議そうな眼差しを向けるミュウ。ハジメが「お姉ちゃんと、もう直ぐ会えるぞ?」と伝えると、「お姉ちゃん!」と嬉しそうに頬を綻ばせたと、地上に降りたハジメの下へ捕まっていた子供達を保安員に引き渡したユエがやって来た。抱っこされるミュウをジーと見つめている。ミュウの方は、そわそわと視線を彷徨わせて、ハジメを見上げた。その目が、「この人誰なの?」と言っている。

 

「ミュウ、彼女の名前はユエ。俺の大切な仲間だ」

 

「……シアお姉ちゃんも?」

 

「あぁ、仲間だな」

 

「恋人じゃないの?」

 

「違うな、俺の恋人はここから、ちょっと離れた所にいるんだ」

 

「……ミュウも会える?」

 

「さぁな……どうだろうな?」

 

ハジメとミュウがそんな話をしてるとユエがおもむろに進み出てきたのだ。「むっ」と警戒するミュウ。だが、ユエはそんなミュウの警戒心などお構いなしにミュウを奪い取るり、むぎゅ~と音がしそうなほどキツく抱きしめた。「むぅ~」と唸り声を上げながらジタバタもがくミュウだが、ユエは一向に離さない。そして一言、

 

「……可愛すぐる」

 

「…クハッ」

 

どうやらウチの吸血姫様はミュウの事が相当お気に召したらしい。ようやくプハッと顔を上げて呼吸を確保したミュウは、至近距離でユエと見つめあった。

 

「……ミュウ。私はユエ。一人でよく頑張った。とっても偉い」

 

ユエは、優しげに目元を和らげると、抱きしめたままミュウの頭をいい子いい子する。その優しい手つきと温かい雰囲気にミュウは自然と気が緩みホロホロと涙を流し始めた。そのまま、盛大にワッーと泣き始める。

 

ハジメは苦笑いしながらミュウの頭を撫で、泣き止むのを待って冒険者ギルドの支部長のもとへ向かうのだった。

 

 

~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「倒壊した建物二十二棟、半壊した建物四十四棟、消滅した建物五棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員九十八名、再起不能四十四名、重傷二十八名、行方不明者百十九名……で? 何か言い訳はあるかい?」

 

「計画的にやっただけだ。反省も後悔もない」

 

「はぁ~~~~~~~~~」

 

冒険者ギルドの応接室で、報告書片手にジト目で俺を睨むイルワだったが、出された茶菓子を膝に載せた海人族の幼女と分け合いながらモリモリ食べている姿と反省の欠片もない言葉に激しく脱力する。

 

「まさかと思うけど……メアシュタットの水槽やら壁やらを破壊してリーマンが空を飛んで逃げたという話……関係ないよね?」

 

「……ミュウ、これも美味いぞ? 食ってみろ」

 

「あ~ん」

 

ハジメは平然とミュウにお菓子を食べさせているが、隣に座るシアの目が一瞬泳いだのをイルワは見逃さなかった。再び、深い、それはもうとても深い溜息を吐く。片手が自然と胃の辺りを撫でさすり、傍らの秘書長ドットが、さり気なく胃薬を渡した。

 

「まぁ、やりすぎ感は否めないけど、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね……今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える。彼等は明確な証拠を残さず、表向きはまっとうな商売をしているし、仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りでね……はっきりいって彼等の根絶なんて夢物語というのが現状だった……ただ、これで裏世界の均衡が大きく崩れたからね……はぁ、保安局と連携して冒険者も色々大変になりそうだよ」

 

「まぁ、元々、其の辺はフューレンの行政が何とかするところだろ。今回は、たまたま身内にまで手を出されそうだったから、反撃したまでだし……」

 

「唯の反撃で、フューレンにおける裏世界三大組織の一つを半日で殲滅かい? ホント、洒落にならないね」

 

苦笑いするイルワは、何だか十年くらい一気に年をとったようだ。

 

「まぁな……」

 

流石に、ちょっと可哀想に感じたハジメは少しイルワに同情してしまったのである提案をした。

 

「一応、そういう犯罪者集団が二度と俺達に手を出さないように、見せしめを兼ねて盛大にやったんだ。支部長も、俺らの名前使ってくれていいんだぞ? 何なら、支部長お抱えの〝金〟だってことにすれば……相当抑止力になるんじゃないか?」

 

「おや、いいのかい? それは凄く助かるのだけど……そういう利用されるようなのは嫌うタイプだろう?」

 

「良いさ、アンタには色々やって貰ったしな…これぐらいはするさ」

 

「感謝するよハジメ君」

 

イルワはハジメからの提案を有り難く受け取った。

 

ちなみに、その後、フリートホーフの崩壊に乗じて勢力を伸ばそうと画策した他二つの組織だったが、イルワの「なまはげが来るぞ~」と言わんばかりの効果的なハジメ達の名の使い方のおかげで大きな混乱が起こることはなかった。この件で、ハジメは〝フューレン支部長の懐刀〟とか〝白髪眼帯の雷使い〟とか〝紅い化け物〟とか色々二つ名が付くことになったが……ハジメの知ったことではない。ないったらないのだ。

 

大暴れしたハジメ達の処遇については、イルワが関係各所を奔走してくれたおかげと、意外にも治安を守るはずの保安局が、正当防衛的な理由で不問としてくれたので特に問題はなかった。どうやら、保安局としても、一度預かった子供を、保安署を爆破されて奪われたというのが相当頭に来ていたようだ。

 

また、日頃自分達を馬鹿にするように違法行為を続ける裏組織は腹に据えかねていたようで、挨拶に来た還暦を超えているであろう局長は実に男臭い笑みを浮かべて俺達にサムズアップして帰っていった。心なし、足取りが「ランラン、ルンルン」といった感じに軽かったのがその心情を表している。

 

「それで、そのミュウ君についてだけど……」

 

イルワがはむはむとクッキーを両手で持ってリスのように食べているミュウに視線を向ける。ミュウは、その視線にビクッとなると、また引き離されるのではないかと不安そうにハジメやユエ、シア、ティオを見た。

 

「こちらで預かって、正規の手続きでエリセンに送還するか、君達に預けて依頼という形で送還してもらうか……二つの方法がある。君達はどっちがいいかな?」

 

誘拐された海人族の子を、公的機関に預けなくていいのかと首を傾げるハジメに、イルワが説明するところによると、〝金〟と今回の暴れっぷりの原因がミュウの保護だったという点から、任せてもいいということになったらしい。

 

「ハジメさん……私、絶対、この子を守ってみせます。だから、一緒に……お願いします」

 

シアが、ハジメに頭を下げる。どうしても、ミュウが家に帰るまで一緒にいたいようだ。ユエとティオは、ハジメの判断に任せるようで沈黙したまま見つめている。

 

「お兄ちゃん……一緒……め?」

 

「まぁ、最初からそうするつもりで助けたからな……ここまで情を抱かせておいて、はいさよならなんて真似は流石にしねぇよ」

 

「ハジメさん!」

 

「パパ!」

 

ミュウとシアは歓喜したがハジメはミュウの発言に脳が一瞬フリーズして身体が硬直した。

 

「……ミュウ。今なんて言ったんだ? なんか、聞いてはいけないような単語が聞こえたんだが……」

 

ハジメの疑問に、ミュウは平然と返した。

 

「……パパ!」

 

「………………な、何だって? 悪い、ミュウ。よく聞こえなかったんだ。もう一度頼む」

 

「パパ」

 

「……そ、それはあれか? 海人族の言葉で〝お兄ちゃん〟とか〝ハジメ〟という意味か?」

 

「ううん。パパはパパなの」

 

「うん、ちょっと待とうか」

 

ハジメが、目元を手で押さえ揉みほぐしている内に、シアがおずおずとミュウに何故〝パパ〟なのか聞いてみる。すると……

 

「ミュウね、パパいないの……ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの……キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにもいるのにミュウにはいないの……だからお兄ちゃんがパパなの」

 

「何となくわかったが、何が〝だから〟何だとツッコミたい。ミュウ。頼むからパパは勘弁してくれ。俺は、まだ十七なんだぞ?」

 

「やっ、パパなの!」

 

「出会った時のお兄ちゃん呼びにしてくれ!」

 

「やっーー!! パパはミュウのパパなのー!」

 

その後、あの手この手でミュウの〝パパ〟を撤回させようと試みるが、ミュウ的にお兄ちゃんよりしっくり来たようで意外なほどの強情さを見せて、結局、撤回には至らなかった。

 

「ハァ……こうなったら、もう、エリセンに送り届けた時に母親に説得してもらうしかないか」

 

ハジメはミュウの説得に出来ないと判断し、奈落を出てから一番ダメージを受けたような表情で引き下がった。

 

イルワとの話し合いを終え宿に戻ってからは、アホ三人は誰がミュウに〝ママ〟と呼ばせるかで紛争が勃発し、取り敢えず、ハジメは恋人でもないのにそんな論争をしてる三人の頭に軽めの拳骨(ハジメ基準)をして黙らせた。

 

結局、〝ママ〟は本物のママしかダメらしく、三人とも〝お姉ちゃん〟で落ち着いた。

 

そして夜、ミュウたっての希望で全員で川の字になって眠る事になり、ミュウがハジメと誰の間で寝るかで再び揉めて、精神的に疲れきったハジメが強引にミュウを間にして三人を縛って寝た出来事があったが、なんとか眠りに付き激動の一日を終えることが出来た。

 

この日、ハジメは十七歳でパパになった……これより子連れの旅が始まったのであった………。

 

 

~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

おまけ

 

ハジメ「なぁユエ…」

 

ユエ「…ん?」

 

ハジメ「もし、優花と再会したら吊るされそうな気がするんだが?」

 

ユエ「……再会したら三人の女を侍らしながら子連れで帰って来る恋人………ん、頑張ってハジメっ!」

 

ハジメ「うん、吊るされるなこれは……」

 

ハジメは遠い目をしながら空を見上げるのだった。

 




編集しました。十一月十六日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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