ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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クラスメイトside5 VS魔人族 Ⅱ

 

〝限界突破〟は、一時的に魔力を消費しながら基礎ステータスの三倍の力を得る技能である。ただし、文字通り限界を突破しているので、長時間の使用も常時使用もできないし、使用したあとは、使用時間に比例して弱体化してしまう。酷い倦怠感と本来の力の半分程度しか発揮できなくなるのだ。なので、ここぞという時の切り札として使用する時と場合を考えなければならない。

 

光輝は、魔物の強力さと回復が可能という事実に、このままでは仲間の士気が下がり押し切られると判断し、〝限界突破〟を使用して一気に白鴉と魔人族の男を倒そうと考えた。光輝の〝限界突破〟の宣言と共に、その体を純白の光が包み込む。同時に、メイスの一撃を弾かれたブルタールモドキが光輝の変化など知ったことではないと、再び襲いかかった。

 

「刃の如き意志よ 光に宿りて敵を切り裂け──〝光刃〟!」

 

光輝は、ブルタールモドキにより振るわれたメイスを屈んで躱すと、聖剣に光の刃を付加させて下段より一気に切り上げた。先程も、〝光刃〟を使って袈裟斬りにしたのだが、その時は、深手を与えるにとどまり戦闘不能にすることはできなかった。しかし、今度は〝限界突破〟により三倍に引き上げられたステータスと、光の刃の相乗効果もあってか、まるでバターを切り取るようにブルタールモドキの胴体を斜めに両断した。

 

一拍遅れて、ブルタールモドキの胴体が斜めにずれ、ドシャ! という生々しい音と共に崩れ落ちる。光輝は、踏み込んだ足をそのままに、一気に加速すると猛然と魔人族の男のもとへ突進した。

 

光輝と魔人族の男を隔てるものは何もない。いくら魔人族が魔法に優れた種族といえど、今更何をしようとも遅い。このまま、白鴉ともども切り裂いて終わりだ。誰もがそう思った。

 

その瞬間、

 

カキィィィインッ!

 

「流石は限界突破ですね。本気で受け止めないと力負けしそうですが……貴方のは軽いっ」

 

「なっ?!」

 

魔人族の男は〝限界突破〟をした光輝の斬撃を自分の剣で受け止められた挙句、純粋に力負けして弾かれたことに光輝は驚愕の声を上げて目を見開いた。

 

「じゃあ、まだ、楽しませて貰いましょうかっ!」

 

「……っ?!」

 

魔人族の男は聖剣が弾かれた際によろめいている光輝の腹に蹴りを入れ、距離を取った瞬間、一瞬で光輝に近付いて素早い剣撃で光輝の肩口を抉った。

 

「──っ」

 

光輝は肩の痛みを我慢して、体勢を整えようとするも魔人族の男が〝縮地〟で一瞬で距離を詰めると、光輝の鎧のグリーヴの上からの鎧の守りが薄い部分に傷を付けていく。

 

「ぐぅう!!」

 

「……はっ、勇者の実力はこんなもんですか……正直、期待ハズレですねっ!」

 

魔人族は光輝を押し倒し、残念な表情をしながら追撃しようとして軍剣を振り下ろす。

 

「光の恩寵よ、癒しと戒めをここに〝焦天〟!〝封縛〟!」

 

光輝のピンチを見た香織が、すかさず、光系の回復魔法を行使した。〝焦天〟一人用の中級回復魔法だ。先ほど使った複数人用の回復魔法〝回天〟より高い効果を発揮する。しかし、光輝の肩には剣が刺さっており、このままでは癒すことができない。なので、同時発動により、光系の中級捕縛魔法〝封縛〟を行使する。〝封縛〟は、対象を中心に光の檻を作り出して閉じ込める魔法だ。香織は、その魔法を光輝にかけた。光輝を中心に光の檻が瞬時に展開し、のしかかっていた魔人族を弾き飛ばす。

 

同時に、鈴達を襲っていたキメラと多足亀の相手をしていた後衛組の何人かが、光輝を襲おうとしているキメラ達に向かって攻撃魔法を放った。ただ、それなりに距離があることと、香織の〝周天〟が施されていないために動いていても見えにくい事から狙いは甘く大したダメージは与えられなかった。

 

「天乃河君っ ──〝攻撃力上昇、速度上昇、防御力上昇付与〟!」

 

それでも、光輝が体勢を立て直す時間は稼げたようで、聖剣を構え直すと、優花の付与と治癒されながら唱えていた詠唱を完成させ反撃に出た。

 

「──〝天翔剣四翼〟!」

 

振るわれた聖剣から曲線を描く光の斬撃が揺らめく空間四つに飛翔する。狙われたキメラ達とは、〝限界突破〟により強化された光輝の十八番に危機感を抱き回避しようとするのだが、魔人族の男は動こうとしなかった。

 

「「(捕らえよ)〝縛印〟!」」

 

香織のほとんど無詠唱と言っていい程の短い詠唱と優花のほぼ無詠唱により、光系中級捕縛魔法〝縛印〟が発動する。回避しようとしたキメラ達と魔人族の男の足元から光の鎖が無数に飛び出し、首、足、胴体に絡みついた。キメラの力なら引きちぎることも難しくはないが、一瞬、動きを止められることは避けられない。

 

結果、四体のキメラは、光輝の〝天翔剣〟の直撃を受けて血飛沫を撒き散らしながら絶命したが、魔人族の男は“天翔剣”の直撃を跳ね返した。光輝は、魔人族の男に向き直ると聖剣を突きつけながら睨みつける。

 

「残念だったな。お前の切り札は俺達には通用しなかった。もう、お前を守るものは何もないぞ!」

 

光輝の言葉を受けた魔人族の男はまだ平然としていた。寧ろ余裕そうな表情で笑みを浮かべてる。

 

「……別に、アレは切り札ってわけじゃないですけどね」

 

「強がりをっ!」

 

「まぁ、強がりかどうかは私とこれらをを撃退してからにしてみては? こっちは、〝異教の使徒〟とやらの力もある程度確認出来ましたし、もう貴方の実力は把握しましたから用はないですし」

 

「なにをいっ『きゃぁああ!』ッ!?」

 

魔人族の男が面倒そうに髪をかき上げながらそんな事をいい、それに対して光輝が問いただそうとしたその時、後方から悲鳴が響き渡った。

 

思わず振り返った光輝の目に映ったのは、更に五体のブルタールモドキとキメラ、そして見たことのない黒い四つ目の狼、背中から四本の触手を生やした体長六十センチ程の黒猫が、一斉に仲間に襲いかかり、永山のパーティーの一人で彼の親友でもある野村健太郎が黒猫の触手に脇腹を貫かれている光景だった。悲鳴を上げたのは同じく永山のパーティーの一人である吉野真央だ。

 

「健太郎っ!」

 

「真央、しっかりして! 私が回復するから!」

 

同じパーティーメンバーである永山が、野村を貫く触手を抜き取り、怒りの炎を宿した眼で黒猫を殴りかかる。

 

野村が苦悶の声を上げながら崩れ落ちたことに茫然としている吉野に、やはり同じパーティーの辻綾子が叱咤の声を張り上げながら、直ぐさま治癒魔法を発動した。ちょうど、永山が受けた切り傷を癒そうと詠唱を完了していたのは幸いだった。

 

「なっ、まだあんなに!」

 

後方を振り返って、いつの間にか現れた新手に光輝が驚愕の声を漏らす。

 

「キメラの固有魔法〝迷彩〟は、触れているものにも効果を発揮します。その可能性を考えませんでしたか? ほら、追加いきますよ」

 

「ッ!?」

 

いきなり現れた大量の魔物に、劣勢を強いられる仲間。それを見て、光輝が急いで引き返そうとする。そんな光輝に、キメラの〝迷彩〟効果で隠れていただけだとタネ明かしをしながら、更に魔物をけしかける魔人族の男。彼の背後から、四つ目狼と黒猫が十頭ずつ光輝目掛けて殺到する。

 

「くっ、ぉおお!」

 

黒猫の触手が途轍もない速度で伸長し、四方八方から光輝を襲った。光輝は、聖剣を風車のように回転させ襲い来る触手の尽くを切り裂き、接近してきた黒猫の一体目掛けて横薙ぎの一撃を放った。光輝の顔面を狙ったせいか、空中に飛び上がっていた黒猫には避けるすべはないはずだった。光輝も「まず一体!」と魔物の絶命を確信していた。

 

しかし、次の瞬間、その確信はあっさり覆される。何と、黒猫が空中を足場に宙返りし、光輝の一撃を避けたのだ。そして、その体格に似合わない鋭い爪で光輝の首を狙った一撃を放とうとしたが、その前に何者かに切り付けられた。

 

「余所見をするな馬鹿タレがっ」

 

「なっ遠藤っ!」

 

「アビスゲートだ! こちらも反撃をさせて貰おう!行くぞ我達!」

 

「「「おうっ!」」」

 

アビスゲートの掛け声に合わせて、分身達が光輝達を包囲していく魔物達を撃退していく。しかし、一撃で絶命させなければ、即座に白鴉が回復させてしまう。なので光輝達もアビスゲートと共に応戦していく。

 

優花と香織と、同じく〝治癒師〟の天職をもつ辻綾子が三人がかりで味方を治癒し続けているからこそ何とか致命的な戦線の崩壊は避けられているが、状況を打開する決定打を打つことができない。

 

光輝が〝限界突破〟の力をもって敵を蹴散らそうとするが、魔物達も光輝に対しては常に五体以上が連携してヒット&アウェイを繰り返し決して無理をしようとしないので攻めきることができない。

 

雫の〝無拍子〟による高速移動も、速度に優れた黒猫と〝先読〟の固有能力をもつ四つ目狼の連携により対応され、手傷は負わせても致命傷を与えるには至らない。

 

アビスゲートとその分身も連携能力で、この応戦体勢を維持させている要なので絶命するまでの攻撃は前回のキメラでの傷が癒えておらず、無理に動こうとすると分身が消えてしまうので無理に行動が出来ない状態。

 

必死に応戦しながらも、次第に、クラスメイト達の表情に絶望の影がちらつき始めた。そして、その感情は、魔人族の男の参戦により更に大きくなる。

 

「ククッ、アビスゲートでしたか……もしかしたら勇者より危険因子ですね。我が偉大なる魔王様の邪魔になるかもしれない、ここで排除しときましょうか……地の底に眠りし金眼の蜥蜴 大地が産みし魔眼の主─〝落牢〟」

 

アビスゲートを危険と判断し、短縮された詠唱を完了した直後、魔人族の掲げた手に灰色の渦巻く球体が出来上がり、放物線を描いて光輝達の方へ飛来した。速度は決して早くはない。今の光輝達の中に回避できないものなどいない。一見、何の驚異も感じない攻撃魔法だったが、それを見た先ほど腹を触手で貫かれた野村健太郎が、血を失ったために青ざめている顔に更に焦りの表情を浮かべて叫んだ。

 

「ッ!? ヤバイッ! 谷口ィ!! あれを止めろぉ! バリア系を使え!」

 

「ふぇ!? りょ、了解! ここは聖域なりて 神敵を通さず!───〝聖絶〟!」

 

切羽詰った野村の指示に鈴が詠唱省略した光系の上級防御魔法を発動する。輝く障壁がドーム状となって光輝達全員を包み込んだ。もっとも、〝聖絶〟に敵味方の選別機能などないので、ドーム状の障壁の中には多くの魔物も取り込んでしまっている。〝聖絶〟は強力な魔法なだけあって消費魔力が大きい。なので、普段ならこんな無意味な使い方はしない。しかし、野村の叫びが、魔人族の女から放たれた魔法の危険性をこれでもかと伝えていたので、できる限り強力なバリア系の防御魔法として、咄嗟に〝聖絶〟を選んだのだ。

 

鈴が〝聖絶〟を展開した直後、灰色の渦巻く球体が障壁に衝突した。灰色の球体は、障壁を突破しようと見かけによらない凄まじい威力で圧力をかける。鈴は、突破させてなるものかと、自身の魔力がガリガリと削られていく感覚に歯を食いしばりながら必死に耐えた。

 

「あの〝結界師〟邪魔ですね。──殺れ」

 

と、魔人族の男から命令でも受けたのか、魔物の動きが変化する。複数体が一斉に鈴を狙い始めたのだ。

 

「……っ、谷口さんっ──〝防御力上昇付与〟!」

 

「鈴!」

 

「谷口を守れ!」

 

優花が鈴に付与をして、恵里が鈴の名を呼びながら魔法を放って接近するブルタールモドキを妨害する。鈴を中心に恵里とは反対側でキメラや四つ目狼と戦っていた斎藤良樹と近藤礼一が、野村の呼びかけに応えて鈴の傍に駆けつけようとする。が、〝聖絶〟の維持で動けない鈴に、隙間を縫うようにして黒猫が一気に接近した。野村が、咄嗟に地面から石の槍を発動させて串刺しにしようとするが、黒猫は空中でジグザグに跳躍すると、身をひねりながら石の槍を躱し、触手を全本射出した。

 

「谷口ぃ!」

 

「あぐぅ!?」

 

野村が鈴の名を呼んで警告するが、時すでに遅し。触手は、咄嗟に身をひねった鈴の腹と太もも、右腕を優花の付与で防御力が上がってるにも関わらず意図も簡単に貫通した。更に捉えたまま横薙ぎに振るって鈴の小柄な体を猛烈な勢いで投げ捨てた。

 

鈴は、血飛沫を撒き散らしながら、背中から地面に叩きつけられて息を詰まらせる。そして、呼吸を取り戻すと同時に激痛に耐え兼ねて悲鳴を上げた。

 

「あぁああああ!!」

 

「谷口さん!」

 

「鈴!」

 

その苦悶の声を聞いて優花と恵里が、思わず悲鳴じみた声で鈴の名を呼ぶ。直ぐさま、優花が回復魔法を行使しようと精神を集中するが、それより鈴の施した光り輝く結界が消滅する方が早かった。

 

「皆の者っ、あの球体から離れろぉ!」

 

アビスゲートが焦燥感に満ちた声で警告を発する。だが、鈴の鉄壁を誇った〝聖絶〟と今の今まで拮抗していた魔法だ。今更、その警告は遅すぎた。

 

結界が消滅し、勢いよく飛び込んできた灰色の渦巻く球体は、そのまま地面に着弾すると音もなく破裂し猛烈な勢いで灰色の煙を周囲に撒き散らした。

 

傍には、倒れて痛みにもがく鈴と駆けつけようとしていた斎藤と近藤、それに野村。灰色の煙は、一瞬で彼等を包み込む。魔物の影はない。着弾と同時に、一斉に距離をとったからだ。

 

灰色の煙はなおも広がり、光輝達をも包み込もうとする。

 

「風よっ!〝風爆〟!」

 

優花が、咄嗟に、突風を放つ風系統の魔法で灰色の煙を部屋の外に押し出す。魔法で作り出された煙だからか、通常のものと違って簡単に吹き飛びはしなかったが、〟限界突破〟中の光輝の魔法は威力も上がっているので、僅かな拮抗の末、迷宮の通路へと排出することに成功した。

 

だが、煙が晴れたその先には……

 

「そんな、鈴!」

 

「野村くん!」

 

「斎藤! 近藤!」

 

完全に石化し物言わぬ彫像となった斎藤と近藤、下半身を石化された鈴、その鈴に覆いかぶさった状態で左半身を石化された野村の姿があった。

 

斎藤と近藤は、何が起こったのかわからないという様なポカンとした表情のまま固まっている。鈴は、下半身を石化された事で更なる激痛に襲われたようで苦悶の表情を浮かべたまま意識を失っていた。

 

一方、鈴を庇いながら、それでもなお一番被害が軽微だった野村だが、やはり激痛に襲われているらしく食いしばった歯の奥から痛みに耐えるうめき声が漏れていた。野村の被害が軽かったのは、彼が〝土術師〟の天職持ちだからだ。土属性に天賦の才を持っており、当然、土系魔法に対する高い耐性も持っている。

 

「貴様ァ! よくも!」

 

光輝が、仲間の惨状に憤怒の表情を浮かべる。光輝を包む〝限界突破〟の輝きがより一層眩い光を放ち始めた。今にも、魔人族の男に突貫しそうだ。

 

だが、そんな光輝をストッパーのアビスゲートと雫が声を張り上げて諌める。そして、撤退に全力を注げと指示を出した。

 

「やめろ馬鹿っ!」

 

「待ちなさい! 光輝! 撤退するわよ! 退路を切り開いて!」

 

「なっ!? あんなことされて、逃げろっていうのか!」

 

しかし、仲間を傷つけられた事に激しい怒りを抱く光輝は、キッと二人を睨みつけて反論した。光輝から放たれるプレッシャーが二人にも降り注ぐが、険しい表情のまま光輝を説得する。

 

「聞きなさい! 園部さんと香織なら、きっと治せる。でも、それには時間がかかるわ。治療が遅くなれば、手遅れになる可能性もある。一度引いて態勢を立て直す必要があるのよ! それに、三人欠けた上に、今、あんたが飛び出したら、次の攻勢に皆はもう耐えられない! 本当に全滅するわよ!」

 

「ぐっ、だが……」

 

「天乃河、貴様の〝限界突破〟も、そろそろヤバイのだろう?! この状況で、貴様が弱体化してしまったら、確実にこのパーティーは終わるっ。少しは冷静になれっ! また、我が親友の時と同じような愚行をするのか!」

 

理路整然とした幼馴染の言葉とアビスゲートは親友のハジメの時と同じような行動をするのかと怒鳴った。二人の言葉に、光輝は、唇を噛んで逡巡するが、二人が唇の端から血を流していることに気がついて、茹だった頭がスッと冷えるのを感じた。二人も悔しいのだ。思わず、唇を噛み切ってしまう程に。大事な仲間をやられて、出来ることなら今すぐ敵をぶっ飛ばしてやりたいのだ。

 

「わかった! 全員、撤退するぞ! 遠藤、雫、龍太郎! 少しだけ耐えてくれ!」

 

「承った、しかし我はアビスゲートだっ」

 

「任せなさい!」

 

「おうよ!」

 

光輝は、聖剣を天に突き出すように構えると長い詠唱を始めた。今までは、詠唱時間が長い上に状況の打開にならないので使わなかったが、撤退のための道を切り開くにはちょうどいい魔法だ。

 

ただし、詠唱中は完全に無防備になるので身の守りをアビスゲートと雫と龍太郎に託さねばならない。それは、光輝が引き受けていた魔物も彼等が相手取らなければならないということだ。当然、三人に対応しきれるはずもなく、必死に応戦しながらもかなりの勢いで傷ついていく。

 

「撤退なんてさせると思うかい?」

 

そんなことを呟きながら、魔人族の男が光輝達の背後にある通路にも魔物を回し退路を塞いでいく。そして、何やら詠唱を始めた光輝を標的に軍剣を抜き、突貫した。

 

だが、そこで、始めて魔人族の男にとって不測の事態が起こる。

 

「「「「「ガァアア!!」」」」」

 

「……!」

 

何と、味方のはずのキメラが五体、魔人族の男を襲ったのである。驚愕に目を見開きながら、咄嗟に、素早い斬撃で五体を一瞬で肉塊にしながら切り刻み回避する。

 

魔人族の男は、「……ふむ」と動揺せず考察しながら襲いかかってきたキメラを思い出す。すると、あることに気がついた。それは、どのキメラも体が損壊しているということだ。あるキメラは頭がなかったし、またあるキメラは胴体に深い傷がついていた。

 

「……降霊術ですか」

 

「あなたに光輝君の邪魔はさせない!」

 

そんなことを叫びながら、手をタクトのように振るって死体のキメラに魔人族の男を包囲させたのは恵里だった。

 

「……降霊術の使い手の情報なかったのですが、これは嬉しい情報だ」

 

魔人族は笑みを浮かべまた光輝達に向かって駆け出していく。しかし既に光輝の詠唱の終わっており遂にその時が…訪れた。

 

「行くぞ! 〝天落流雨〟!」

 

光輝の掲げた聖剣から、一条の閃光が打ち上げられたかと思うと、その光は天井付近で破裂するように飛び散り、周囲の魔物達に流星の如く降り注いだ。

 

この〝天落流雨〟は、敵の直上からピンポイントで複数同時に攻撃するという光系の攻撃魔法だ。威力は分散しているためそこまで高くはなく、本来は多数の雑魚敵掃討に用いるものだが、それでも〝限界突破〟中に使えば、五十層クラスの魔物くらいなら十分効果を発揮する爆撃のような魔法である。

 

ただ、やはり、異常な強さをもつ魔人族の魔物達には、さほどダメージにならなかったようで、精々吹き飛ばして仲間達から引き離すくらいの効果しか発揮しなかったし、魔人族の男も軍剣で魔法を弾いているのだが、光輝にとっては、それで十分だった。隙を作り、仲間が撤退出来る状況を作ることができれば。

 

光輝はそれを確認すると、馬鹿みたいに詠唱の長いこの魔法の本領を発揮させた。

 

「〝収束〟!」

 

「!」

 

天より降り注ぎ、魔物達を一時的に後退させた光の雨は、光輝の詠唱によって再び聖剣に収束していく。流星が尾を引いて一点に集まる光景は中々に幻想的だった。光輝は、収束させた光を纏って輝く聖剣を、真っ直ぐ退路となる通路とその前に陣取る魔物達に向けて突き出し、裂帛の気合とともに一連の魔法の最後のトリガーを引いた。

 

「〝天爪流雨〟!」

 

直後、突き出された聖剣から無数の流星が砲撃のごとく撃ち放たれる。同じ砲撃でも光輝の切り札である〝神威〟には遠く及ばない威力であり、当然、退路を塞ぐ魔物達を一掃することなど叶わない。

 

本来なら、〝神威〟を使いたいところだが、詠唱が長すぎてとても盾となってくれている三人がもつとは思えなかったので仕方ない。しかし、それでも、〝天爪流雨〟は今の状況では最適の手だった。流星となって退路上の魔物達に直進した光の奔流は、着弾と同時に無数の爆発を引き起こした。砲撃を構成する無数の光弾がクラスター爆弾のように破裂したのだ。それによって衝撃が連続して発生し、魔物達は体勢を崩され大きく吹き飛ばされた。

 

「「「「ルァアアア!!」」」」

 

魔物達がきつく目を閉じたまま悲鳴を上げる。〝天爪流雨〟の副次効果、閃光による視覚へのダメージだ。間近で発生した強烈な光によって眼を灼かれたのである。混乱したように目元を手でこすりながら、闇雲に暴れる魔物達。

 

彼等は既に、退路上にはいない。通路に向かって一直線に道が開かれた。

 

「今だ! 撤退するぞ!」

 

光輝の号令で、全員が一斉に動き出す。石化している近藤と斎藤は、永山が一人で肩に担ぎ、気絶している鈴は優花が背負った。野村は、まだ左腕が石化したままだったが、激痛を堪えながらも自力で立ち上がり、通路に向かって走り始める。

 

「逃がしはしませんよ」

 

魔人族の男は光輝の行動に驚きはしたが、そのまま走り光輝達が引き離した距離は瞬く間に詰められていく。と、そこで野村が身を翻し、痛みに顔をしかめながらも不敵な笑みを浮かべて右手を突き出し、鈴を背負っていた優花も魔法を発動した。

 

「土系統で負けるわけにゃあ行かねぇんだよ! お返しだ! 〝落牢〟!」

 

「効果上昇付与──〝縛光鎖〟!」

 

先程の魔人族の男と同じく灰色の渦巻く球体が野村の手より放たれ、優花の傍から光の鎖が出現し、魔人族の男に放たれた。魔人族の男は咄嗟に歩みを止め素早く後退して二つの魔法を回避した。

 

「……ちっ、逃しましたか」

 

回避した後、魔人族の男は光輝達の方を見たが一行は撤退をしており、魔人族の男は舌打ちをしながら光輝達が逃げていったであろう道を見つめるのだった……。

 




編集しました。十一月十七日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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