ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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クラスメイトside6 救援要請

 

場所は八十九層の最奥付近の部屋。

 

その正八角形の大きな部屋には四つの入口があるのだが、実は今、そのうちの二つの入口の間にはもう一つ通路があり、奥には隠し部屋が存在している。入口は、上手くカモフラージュされて閉じられており、隠し部屋は十畳ほどの大きさだ。

 

そこでは、光輝達が思い思いに身を投げ出し休息をとっていた。だが、その表情は一様に暗い。深く沈んだ表情で顔を俯かせる者ばかりだ。皆、満身創痍であるが故に苦痛に表情を歪めている者も多い。

 

いつもなら、そのカリスマを以て皆を鼓舞する光輝も、〝限界突破〟の副作用により全身をひどい倦怠感に襲われており壁に背を預けたまま口を真一文字に結んで黙り込んでいる。

 

そして、こういう時、いい意味で空気を読まず場を盛り上げてくれるクラス一のムードメイカーは、血の気の引いた青白い顔で、やはり苦痛に眉根を寄せながら荒い息を吐いて眠ったままだった。その事実も、皆が顔を俯かせる理由の一つだろう。

 

鈴の下半身は、膝から下がまだ石化しており、優花が継続して治療にあたっていた。太ももの貫通した痕は既に完治している。後は石化を解除するだけだ。しかし、運悪く、鈴が受けた触手の攻撃は彼女の体から大量の血を失わせた。おそらく、重要な血管を損傷したのだろう。優花だからこそ、治療が間に合ったと言える。

 

優花が、鈴にかかりきりになっているため、他の者はまだ治療は香織が受け持っているがその香織はオブジェの如く置かれている斎藤と近藤の石化した彫像を治療している。鈴や彼等の治療が終わっても、自分達が治療を受けられるのは、まだ先であると分かっているメンバーはごく一部を除いて特に文句を言う素振りはない。単に、その気力もないだけかもしれないが。

 

薄暗い即席の空間に漂う重苦しい空気に、雫が眉間に皺を寄せながら何とか皆を鼓舞しなければと頭を捻る。元来、雫は寡黙な方なので鈴のように場を和ませるのは苦手だ。しかし、光輝が〝限界突破〟と敗戦の影響で弱体化して使い物にならない以上、自分が何とかしなければならないだろうと、生来の面倒見の良さから考えているのだ。本当に苦労人である。

 

雫自身、肉体的にも精神的にも限界が近い事も有り、だんだん頭を捻るのも面倒になってきて、もういっそのこと空気を読まずに玉砕覚悟の一発ギャグでもかましてやろうかと、ちょっと壊れ気味なことを考えていると、即席通路の奥から野村と辻綾子が話をしながら現れた。

 

「ふぅ、何とか上手くカモフラージュ出来たと思う。流石に、あんな繊細な魔法行使なんてしたことないから疲れたよ……やっぱ、こう思うとホントに南雲って凄かったんだなって実感するよ」

 

「壁を違和感なく変形させるなんて領分違いよね……一から魔法陣を構築してやったんだから無理もないよ。お疲れ様」

 

「そっちこそ、石化を完全に解くのは骨が折れたろ? お疲れ」

 

二人の会話からわかるように、この空間を作成し、入口を周囲の壁と比べて違和感がないようにカモフラージュしたのは〝土術師〟の野村健太郎だ。なお、辻綾子が野村について行ったのは、野村の石化を治療するためだ。

 

「お疲れ様、野村君。これで少しは時間が稼げそうね」

 

「そっちの方もお疲れ。……それに園部の言う通り、もう、ここまで来たら回復するまで見つからない事を祈るしかないな。遠藤の方は……あっちも祈るしかないか」

 

「……浩介なら大丈夫よ。影の薄さでは誰にも負けないからアイツは」

 

「いや、園部さん 。それ、聞いてるだけで悲しくなるから口にしてやるなよ……」

 

「アビスゲートって言ってる奴が、こんなことで悲しくなるんじゃ駄目ね」

 

「うわー、辛辣ゥ……」

 

隠れ家の安全性が増したという話に、僅かに沈んだ空気が和らいだ気がして、とんだ黒歴史を作りそうになった雫は頬を綻ばせて野村を労った。それに対して、野村は苦笑いしながら、優花は鈴の治療をしながら今はここにいない一人の暗殺者に健闘を祈った。

 

 

〜数時間前〜

 

全員の避難が終わり、光輝、雫、優花、香織、恵理、永山はこれからどうするか話し合っていた。因みに、脳筋の龍太郎と深淵卿の影響で、シクシク鬱モードに陥ってる浩介は話しに不参加である。

 

「やっぱり、負けたままじゃ駄目だ、俺は戦う!」

 

「状況を考えなさい光輝、アンタも〝限界突破〟の副作用であまり動けないでしょう?」

 

「……ぐっ、だがっ!」

 

「雫ちゃんの言う通りだよ、鈴ちゃんや野村君達はまだ動ける状況じゃない……今、戦っても負けるだけだよ。それに、あの魔人族は光輝君が〝限界突破〟を使ってもまともに渡り合ってるんだよ?」

 

「うっ……でもどうすれば、全員で上に避難するのか?」

 

「それは無理よ、重症者がいるのに全員で避難なんかしたら魔物達の的になるし、もし魔人族達が追って来ていたらそこで終わりよ」

 

光輝達はあれやこれや提案したりして話し合ったが良い案は出なく、場の空気が沈みかけていたその時、一人の新しく黒歴史に刻ませた悲しみから立ち直った男が声を上げた。

 

「……俺が上に言って救援を呼ぶ」

 

「「「「「遠藤(君)?!」」」」」

 

「……浩介、大丈夫なの?」

 

「あぁ、お陰様でな……」

 

浩介の突然の言葉に光輝達は驚き、優花はもう動けるのかと心配した。

 

「しかし……遠藤、君はなんて言った?」

 

「聞こえなかったのか? 俺が上の階層に上がって、救援を呼ぶんだよ」

 

「流石に君でも無茶だっ」

 

「そうよ、遠藤君。考え直したら?」

 

光輝と雫は浩介の危険な提案を飲めずにいたが、浩介は譲らなかった。

 

「何を言ってるんだ?俺の影の薄さは一級品だ、安心しろ。それに、俺の親友なら、こんなとこでイジイジしてられるかっ」

 

「……っだが?!」

 

親指をグッと立てながら言う浩介に光輝は止めようと声をかけようとするが、その前に、優花が立ち上がった浩介の前に来ると、真剣な眼差しで声をかけた。

 

「浩介、大丈夫そ?」

 

「あぁ、任せろよ。俺はハジメの隣で、親友として戦うために努力してきたんだからな」

 

「……わかった。皆っ、浩介を信じよ。私も浩介の影の薄さなら保証するわ」

 

「えっ、ちょっ園部。何その支持の仕方……」

 

優花が浩介の意見に賛同した。優花の賛同に、この場にいる全員は考える。浩介自体、実力は光輝と並ぶぐらいは持つと、今までの浩介の戦闘を見て考えられる。それを考慮した結果、永山達、雫も渋々賛同した。そして、浩介一人で救援を呼ぶことになった。

 

「見つからないでよ。後、絶対に帰ってきて。私、もう……大切な人が居なくなるのは……」

 

「大丈夫だって、安心しろよ。救援を呼んで絶対に生きて帰ってくるからよ」

 

そして、浩介そう言って優花の言葉に頷くとは救援を呼びに向かったのだった。

 

 

 

〜現在〜

 

本当なら、浩介だけじゃなく、光輝達も直ぐにもっと浅い階層まで撤退したかったのだが、如何せん、それをなすだけの余力がなかった。満身創痍のメンバーに、戦闘不能が三人、弱体化中の光輝、とても八十層台を突破できるとは思えなかったのだ。

 

もちろん、メルド団長達が救援に来られるとは思っていない。メルド団長を含め七十層で拠点を築ける実力を持つのは六人。彼等を中心にして、次ぐ実力をもつ騎士団員やギルドの高ランク冒険者達の助力を得て、安全マージンを考えなければ七十層台の後半くらいまでは行けるだろうが、それ以上は無理だ。

 

仮にそこまで来てくれたとしても、八十層台は光輝達が自力で突破しなければならない。つまり、遠藤を一人行かせたのは救援を呼ぶためではなく、自分達の現状と魔人族が率いる魔物の情報を伝えるためなのだ。それは、浩介自体も理解しており、この情報をメルド団長に伝えて、コチラに戻って来るという算段だ。

 

光輝達は、確かに、聖教教会のイシュタル達から魔人族が魔物を多数、それも洗脳など既存の方法ではなく明確な意志を持たせて使役するという話を聞いていたが、あれほど強力な魔物とは聞いていなかった。驚異なのは個体の強さではなく〝数〟だったはずなのだ。

 

にもかかわらず、実際、魔人族が率いていたのは前人未到の【オルクス大迷宮】九十層レベルの魔物を苦もなく一掃し、光輝達チート持ちを圧倒出来る魔物達だった。そして、あの軍服を着た魔人族の男だ。流石にあれ程の人物が魔人族に多くは居ないと思われるが、たった一人で勇者である光輝すら圧倒した〝実力〟。そんな事が、そもそも可能ならもっと早く、人間族は滅ぼされていてもおかしくない。

 

つまり、イシュタルの情報は、あの時点では間違っていなかったのであり、結論としては、魔人族の率いる魔物は〝強力になっている〟ということだ。〝数〟に加えて個体の〝強さ〟も脅威となり、。この情報は、何が何でも確実に伝えなければならないと光輝達は判断したのである。

 

「白崎さんと優花ちゃん。近藤君と斉藤君の石化解除は任せるね。私じゃ時間がかかりすぎるから。代わりに他の皆の治癒は私がするからさ」

 

「うん、わかった。無理しないでね、辻さん」

 

「そっちもね、綾子」

 

「平気平気。というかそれはこっちのセリフだって……ごめんね。私がもっと出来れば、二人の負担も減らせるのに……」

 

野村達が話している傍らで、魔力回復薬をゴクゴクと喉を鳴らしながら服用する綾子が鈴の治療を続ける優花と近藤の治癒をしてる香織にそんな事をいった。同じ〝治癒師〟でありながら、二人に比べると大きく技量の劣る綾子は、表面上は何でもないように装っているが、内心では自分への情けなさと二人にばかり負担をかけることへの申し訳なさでいっぱいだし、特に優花は〝付与魔法〟も行使して、前衛のサポートもしてるので更に申し訳なかった。

 

 「そんな事はない」と言う二人に苦笑いを返しながら、仲間の治療に向かう綾子。彼女の治療により癒されていく仲間達の顔からは少しだけ暗さが消えた。そんな綾子を、何とも言えない表情で見つめている野村だったが、治療の邪魔になるかと思い声はかけなかった。

 

「……こんな状況だ。伝えたい事があるなら伝えておけ」

 

「……うっせぇよ」

 

永山が、どこか面白がるような表情で野村にそんな事をいうが、本人は不貞腐れたように顔を背けるだけだった。それから、数十時間。光輝達は、交代で仮眠を取りながら少しずつ体と心を癒していった。

 

 

~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

一方、一人、撤退と魔人族の情報伝達を託された遠藤浩介は、ただの一度も戦闘をせず全ての魔物をやり過ごしながらメルド団長達のいる七十層を目指して着実に歩みを進めていた。

 

「急がねぇとな……」

 

浩介は〝隠形〟を駆使して着実に七十層を目指しながら優花達の心配をしながら駆け出していた。そして未だにも迷宮の魔物には自分の存在は気付かれずにいた。浩介としては、ほんとは〝深淵卿〟を使って一気に登り詰めて行きたいところだったが、浩介の心が持たないだろうし、光輝達のところへ戻るための体力を残しておく為だ。

 

と、ちゃんと考えていた浩介なのだが……

 

「やっぱ魔物でも俺の存在に気付いてくれないのかよ……」

 

音を立てなければ、目の前を歩いても自分に気がつかない魔物に若干虚しさを覚えて、泣いた。だが今は、それが最大の武器になっているのだと自分に言い聞かせつつ頭に叩き込んである帰還ルートをたどって、遂に七十層にたどり着いた。

 

逸る気持ちを抑えながら、メルド団長達が拠点を構える転移陣のある部屋に向かう。しばらくすると、浩介の気配感知に六人分の気配が感知された。間違いなくメルド団長達だ。距離的に、〝隠形〟を解いたので向こうも気づいたはずである。

 

浩介は、最後の角を曲がり、メルド団長達のいる転移部屋に出た。しかし、既に完全に姿を見せているのに、メルド団長達は特に気がつく気配がない……。

 

浩介は、死んだ魚みたいな目をしながらメルドに近づき、声を張り上げた。

 

「団長!俺です! 気づいてください! 大変なんです!」

 

「うおっ!? 何だ!? 敵襲かっ!?」

 

「何でだぁぁぁぁぁ!!」

 

声を張り上げた瞬間、メルド団長がそんな事を言いながら剣を抜いて飛び退り、警戒心たっぷりに周囲を見渡した。他の騎士達も、一様にビクッと体を震わせて、戦闘態勢に入っている。

 

「だから、俺ですって!マジそういうの勘弁して下さい!」

 

「えっ? って、浩介じゃないか。驚かせるなよ。ていうか他の連中はどうした? それに、何かお前ボロボロじゃないか?」

 

「ですから、大変なんです!」

 

メルド団長達は相手が浩介だとわかると、影の薄さは知っていたのでフッと肩の力を抜いた。しかし、戻ってくるには少々予定より早いことと、一人であること、そして、その浩介が、満身創痍といってもいいくらいボロボロであることから、直ぐさま何かがあったと察して険しい表情になった。

そして、浩介は、王国最精鋭の騎士達にすら、声をかけないとやっぱり気づかれないという事実に地味に傷つきながら、そんな場合ではないと思い直し、事の次第を早口で語り始めた。

 

浩介の報告を聞いたメルド団長達の表情は険しくなる。そして、浩介の肩に手を置いて、浩介の頑張りを称賛した。

 

「浩介。短時間で一度も戦わずに二十層も走破して来てよく伝えてくれた」

 

「いや、団長、俺はこのまま戻ります。あいつらは自力で戻るっていってたけど今度は負けないっていってたけど、天之河が〝限界突破〟を使っても倒しきれなかったヤバい魔人族がいます。そいつは、俺の〝深淵卿〟を発動した状態でも互角に渡り合える正真正銘の化け物です。それに、皆、逃げるので精一杯だったんだ。全員、かなり消耗してるし、傷が治っても今度、襲われたらヤバいんです。だから、先に地上に戻って、このことを伝えて下さい」

 

浩介は決然とした表情でメルドに告げる。

 

その言葉を受けてメルド団長は、悔しそうに唇を噛むと、自分のもつ最高級の回復薬全てを、それの入った道具袋ごと浩介に手渡した。他の団員達もメルドと同じく、悔しそうに表情を歪めて自らの道具袋を託した。

 

「───すまないな、浩介。一緒に、助けに行きたいのは山々だが……私達じゃあ、足でまといにしかならない……」

 

「あ、いや、気にしないで下さい。大分、薬系も少なくなってるだろうし、これだけでも助かりますよ」

 

「ふっ……そうか」

 

浩介は、コクリと頷くだけで優花達の元へ戻ろうと踵を返そうとした。が、その瞬間……

 

「浩介ッ!?」

 

「なっ、嘘だろ?! ま、まさかっ…!」

 

メルド団長が、突然、浩介を弾き飛ばすとギャリィイイ!! という金属同士が擦れ合うような音を響かせて、円を描くようにその手に持つ剣を振るった。そして、そのままくるりと一回転すると遠心力をたっぷりのせた見事な回し蹴りを揺らめく空間に放った。

 

ドガッ!

 

そんな音を響かせて、揺らめく空間は後方へと吹き飛ばされる。そして、五メートルほど先で地面に無数の爪痕が刻み込まれた。爪を立てて減速したのだろう。それを見て、地面に尻餅を付いていた浩介は、内心舌打ちしながら呟いた。

 

「ちっ、くそ! 気付かれてたのかよっ……!」

 

その言葉がまるで合図となったかのように、ぞろぞろと浩介達を追い詰めた魔物達が現れた。浩介は、すぐさまハジメから貰った小太刀を握り締め臨戦態勢をとった。

 

浩介は、ここに来るまでの間、〝隠形〟を使って気配や臭い、魔力残滓などの痕跡を消しながら移動したというのに魔人族が天之河達を探しながら移動する以上、一直線に駆け抜けた浩介にこんなに早く追いつくはずがないと思っていたのだが……

 

「俺の予想が随分と外れちまったか?」

 

そんな浩介の疑問は、続いて現れた悪夢のような男によって解消されることになった。

 

「一人だけでしたか。私の予想と食い違いましたね。逃げるなら転移陣のあるこの部屋まで来るかと思いまっていましたが……様子から見て、どこかの階層に隠れているようですね」

 

「まさか……転移陣っ、そういうことかよ!」

 

軍帽を深々と被りながら軽薄な笑みを浮かべ、四つ目狼の背に乗って現れた魔人族の男に、メルド団長達も臨戦態勢になる。彼の言葉からすると、どうやら、光輝達が一目散に転移陣へと逃げ込むと考えて、捜索せずに一直線にやって来たらしい。

しかし、予想が外れて天之河達を探さねばならないことに溜息を吐いている。それは同時に、天之河達がまだ無事であるということでもある。浩介もメルド団長達も僅かではあるがホッとしたように頬を緩めた。それに目ざとく気がついた魔人族の男が、浩介達をいや、浩介を見つめて嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「おや、君は〝アビスゲート〟だったかな?……勇者を探すのも良いが後にしよう。私は君と戦ってみたい。お相手願おうか?」

 

直後、魔人族の男は、魔物の背から降りると腰に携えた軍剣を抜きながら浩介に向かって駆ける。

それが合図となり男に続いて一斉に魔物が襲いかかったてきた。キメラが空間を揺らめかせながら突進し、黒猫が疾風となって距離を詰める。ブルタールモドキが、メイスを振りかぶりながら迫り、四つ目狼が後方より隙を覗う。

 

「円陣を組め!転移陣を死守する! 浩介ッ、お前は……逃げろ!地上へ!」

 

「えっ!?」

 

流石、王国の最精鋭と思わず称賛したくなるほど迅速な陣組みと連携で襲い来る魔物の攻撃を凌ぐメルド団長達。事前に浩介から魔物の話を聞いていた事から、自分達では攻撃力不足だと割り切り、徹底的に防御と受け流しを行っている。

 

メルド団長達と共に戦おうとした浩介は、メルド団長の「地上へ逃げろ」という言葉に思わず疑問の声を上げた。その疑問は当然だ。魔物との対抗が出来たとしても、あの軍服の魔人族の男にはメルド団長達では到底、相手にならないと思っているからだ。

 

「団長っ! 魔物も強いですが、その魔人族は本当にヤバいんですっ! 幾ら団長達でも死んでしまいますっ! 」

 

「我らは……ここを死地とする! 浩介! 向こう側で転移陣を壊せ!なるべく時間は稼いでやる!だから地上から助けを呼べ!」

 

「そ、そんな……」

 

メルド団長の考えは明確だ。地上へ逃げるにしても、誰かが僅かでも時間を稼がねば直ぐに魔物達も転移してしまう。

そうなれば、追っ手を撒く方法がなくなってしまい、追いつかれて殺される可能性が高い。なので、一人を逃がして、残り全員で時間稼ぎをするのがベストなのだ。時間を稼げれば、対となる三十層の転移陣を一部破壊することで、完全に追っ手を撒ける。転移陣は、直接地面に掘り込んであるタイプなので、〝錬成〟で簡単に修復できる。逃げ切って、地上の駐屯部隊に事の顛末を伝えた後、再び、光輝達が使えるように修復すればいい。

 

「………でもっ」

 

しかし、そのやり方がベストだと分かっていても、命を犠牲にする方法を拒否しようとする浩介に、激しい戦闘を繰り広げるメルド団長の心根と願いが、雄叫びとなって届けられる。

 

「無力ですまない! 助けてやれなくてすまない! 選ぶことしか出来なくてすまない! 浩介! 不甲斐ない私だが最後の願いだ! 聞いてくれ!」

 

戸惑う浩介に、親友(ハジメ)と同じくらいに信頼を寄せていた男から最後だという願いが届く。

 

「生きろぉ!」

 

「……ッ! 団長っ……はい!!」

 

浩介は、グッと唇を噛むと全力で踵を返し転移陣へと向かった。ここで、メルド団長の思いと覚悟に応えられなければ男ではないと思ったからだ。

 

「逃がしませんよっ!」

 

魔人族の男が、浩介を逃がせまいと、加速しながら軍剣を握りしめ追いかける。浩介との距離が二、三メートル程に近付くと軍剣を浩介に目掛けて振り下ろすが

 

しかし……

 

ガキィィンッ!

 

騎士団員の一人が円陣から飛び出し、浩介を庇い、剣と剣とのぶつかり合いによって大きな金属音が鳴り響いた。

 

「ア、アランさん!」

 

「ぐっ……いいから気にせず行けぇ!」

 

魔人族の男の攻撃を受け止めているアランと呼ばれた騎士は、ニッと実に男臭い笑みを浮かべて浩介にそう言った。浩介は、噛み切るほど唇を強く噛み締めて、転移陣へと再び駆ける。

 

「……雑魚の人間の分際で、お前達! アビスゲートを集中的に狙えっ。決して逃がすなぁっ!」

 

魔人族の男が声を荒あげて、改めてそう命じるが……その命令はするのには既に遅かった。

 

「ハッ、私達の勝ちだ! ハイリヒ王国の騎士を舐めるなぁ!」

 

メルド団長が不敵な笑みを浮かべながら、そう叫ぶと同時に浩介が転移陣を起動し終え、その姿を消した。魔人族の男は、メルド団長の言葉を無視して魔物を突っ込ませる。魔物は直接魔力を操れるので、面倒な起動詠唱をすることもなく転移陣を起動出来、それ故、今なら、まだ間に合うと考えたからだ。

 

しかし、

 

「舐めるなと言っている!」

 

メルド団長達が光輝達にはない巧みな技と連携、そして経験からくる動きで魔物達を妨害する。多勢に無勢でありながら、その防御能力と粘り強さは賞賛に値するものだった。

 

もっとも、メルド団長達がいくら死力を尽くしたところで相対する魔物の数と強さは異常。腹を石の槍で貫かれていたアランが、遂に力尽きて、魔物の攻撃に踏ん張りきれずバランスを崩し膝を突いた。その綻びから、キメラの一体が防衛線を突破し転移陣に到達する。

 

二体のキメラが消えるのと、魔法陣が輝きを失うのは同時だった……。

 

「くっ、二体、送られてしまったか……浩介……死ぬなよ『グルゥゥアアアアアアァ!』……っ!」

 

「……よくやりましたよ貴方達は、流石に私も驚いた。〝剣聖〟の私が褒めてやります」

 

メルド団長の呟きは魔物の咆哮にかき消された。浩介を逃したことの腹いせに魔人族の男がメルド団長達に魔物達を一斉に差し向けたからだ。

 

「〝剣聖〟だと……」

 

メルド団長の方も魔人族の男が言った二つ名に覚えがあった。それは、見たわけではない。しかし、耳にしていた。

 

魔人族には精鋭の中でも抜き出た強さを持つ者達がおり、その中でも若くして剣士の最強の域に辿り着いた者がいると、その者は黒の軍服を着ており、周りから畏怖と畏敬の念が込められて与えられた二つ名。

 

それが………〝剣聖〟である。

 

メルド団長は、目の前に魔人族の最強格の一人がであることに、冷や汗が止まらない。が、その反面、一人の騎士として笑みが止まらない。

 

「フッ、まさか、あの魔人の〝剣聖〟がお見えになるとはな……魔人族側も勇者の存在には焦っていることだな。なればこそ、お前達の戦力の低下の為に俺達はここを死地と定めて最後まで暴れるだけだ。お前達、ハイリヒ王国騎士団の意地を見せてやれ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

「……やってみろ雑魚共」

 

メルド団長の号令に、部下の騎士達が威勢のいい雄叫びを以て応える。その雄叫びに込められた気迫は、一瞬とはいえ、周囲の魔物達を怯ませる程のものだった。

 

……その十分後

 

転移陣のある七十層の部屋に再び静寂が戻った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「うぉぉぉぉー!!」

 

そんな雄叫びを上げながら、【オルクス大迷宮】三十層の転移陣から飛び出した浩介は、直ぐさま、腰に携えたショートソードを振りかぶり、眼下の魔法陣の破壊を試みた。

 

「な、何だ!?……ってお前! 何をする気だ!」

 

「やめろ!」

 

「取り押さえろ!」

 

転移陣から現れた黒装束の少年が、いきなり雄叫びを上げながら手に持つ剣で魔法陣を傷付け始めたことに、一瞬、呆然とするも、周囲の騎士団の正装をした者達が怒号を上げながら浩介に飛びかかりその破壊活動を妨害する。

 

彼等は、メルド団長の部下で三十層側の転移陣を保護する役目をおった者達だ。実力不足で、三十層での警備が限界な者達でもある。一撃で魔法陣を破壊できなかった浩介が、二撃、三撃と加えあと一歩で陣の一部を破壊できるというところで、辛くも魔法陣破壊を阻止する事ができた。

 

「は、放せ! 早く、壊さないと! 奴等が! 放せ!」

 

「なっ、君は勇者一行の!? なぜ、君が……」

 

狂乱とも言える行為を行った人物が、よく見知った勇者の仲間の一人とわかると、驚愕の声を漏らしながら思わず手を緩める団員達。その隙に、再度、ショートソードを振りかぶって魔法陣の一部を破壊しようと浩介だったが、一歩、遅かった。

 

魔法陣が、再び輝き起動する。そして、次の瞬間には、浩介達に揺らめく空間が襲いかかった。

 

「くっそぉ!」

 

浩介は小太刀で一瞬で襲いかかってきたキメラの首を刈り取り、転移陣に向かって、投げナイフを投げた。

 

パァン! そんな澄んだ音が響き渡る。それは、魔法陣が破壊された証拠だ。魔法陣の転移の際に使われた魔力残滓が霧散したのだ。

 

「これでっ…っ……がぁ、あぁあああああ!!!クソッ…もう一体いたのかよ?!」

 

転移陣の破壊に成功し、これ以上の追っ手はないと思わず安堵の吐息を漏らす浩介だったが、次の瞬間には右腕に襲いかかったキメラの牙が喰い込み、その激痛に絶叫を上げた。キメラの強靭な顎が、そのまま浩介の右腕を噛みちぎろうとする。

 

「……っおおおおおお!」

 

浩介は声にならない声をあげながら左手で小太刀を抜き取りキメラの首を切り裂き、右腕を引き抜いた。

 

「…っ! 行かねぇと……早くっ……救援をっ!」

 

浩介はメルドから貰った回復薬の一つを一気に飲み込み、幼なじみを仲間達を助ける為にひたすら地上を目指すのだった……。

 




編集しました。十一月十八日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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