「パパぁー!! おかえりなのー!!」
【オルクス大迷宮】の入場ゲートがある広場に、そんな幼女の元気な声が響き渡る。
各種の屋台が所狭しと並び立ち、迷宮に潜る冒険者や傭兵相手に商魂を唸らせて呼び込みをする商人達の喧騒。そんな彼等にも負けない声を張り上げるミュウに、周囲にいる戦闘のプロ達も微笑ましいものを見るように目元を和らげていた。ステテテテー!と可愛らしい足音を立てながら、ハジメへと一直線に駆け寄ってきたミュウは、そのままの勢いでハジメへと飛びつく。ハジメが受け損なうなど夢にも思っていないようだ。
普通はロケットのように突っ込んで来た幼女の頭突きを腹部に受けて身悶えするところだが、生憎、ハジメの肉体はそこまで弱くない。むしろ、ミュウが怪我をしないように衝撃を完全に受け流しつつ、しっかり受け止めた。
「ミュウ、迎えに来たのか? ティオはどうした?」
「うん。ティオお姉ちゃんが、そろそろパパが帰ってくるかもって。だから迎えに来たの。ティオお姉ちゃんは……」
「妾は、ここじゃよ」
人混みをかき分けて、妙齢の黒髪金眼の美女が現れる。言うまでもなくティオだ。ハジメは、いつはぐれてもおかしくない人混みの中で、何故、ミュウから離れたか聞く。
「ティオ。何かあったのか?」
「少しな、ご主人様が言ってた通り不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ」
「なるほど。それなら、しゃあないか……ありがとよティオ」
「フフ、褒めて貰えるだけで嬉しいのじゃ」
「そうかい」
そんな、ハジメとティオの会話を呆然と聞いていた光輝達。ハジメが、この四ヶ月の間に色々な経験を経て自分達では及びもつかないほど強くなったことは理解したが、「まさか父親になっているなんて!」と誰もが唖然とする。特に男子などは、「一体、どんな経験積んできたんだ!」と、視線が自然とユエやシア、そして突然現れた黒髪巨乳美女に向き、明らかに邪推をしていた。ハジメが、迷宮で無双した時より驚きの度合いは強いかもしれない。
誰もが驚愕してる中、一人が歩みでてハジメに話しかけた。
「……ハジメ」
ハジメはティオと話していると後方から声をかけられた。
その人物とは……
「説明してくれるよね?」
そこには、ニッコリと笑顔な優花だった。普段は可愛いだけだが、今回は違う。その笑顔からの圧が凄まじいのだ。
「……(やべぇ……完全に頭から抜けてた。いや、それより事情を説明しないと)」
優花の笑みにハジメは滝のように大量の冷や汗を流すもすぐさま事情説明をしようと口を開く。
「いや、その優花。ミュウはな、少しいろいろと事情があってな」
あたふたと説明するハジメ。しかし、優花は予想してたのか、スっと目を細め、次には溜息を吐いた。
「まぁ……そこの女の子のパパ呼びは気になるけど何らかの理由があるのは分かるわ。まぁ、察するにハジメの事だから助けたりしたんでしょ?……はぁ」
「そ、そうか……」
優花の的確な推測にハジメは一安心して、もしかしたら、このまま大丈夫ではないかと期待するが、その考えは甘かったとハジメは後悔した。
「私が言いたいのは……ユエさんやシアさんと後、着物を着てる人の事……三人共、ハジメのこと好きよね親愛とかじゃなくて恋愛として、ね?」
「………いや、それはーーそのぅ……」
「ねぇ……ハジメ、説明を……」
語彙力が無くなりつつあるハジメに優花が詰め寄ろうとするが、それを邪魔するかのようにミュウとティオが来た方向から声が掛かる。
「おいおい、どこ行こうってんだ? 俺らの仲間、ボロ雑巾みたいにしておいて、詫びの一つもないってのか? ア゛ァ゛!?」
邪魔をしたのは、薄汚い格好の武装した男達が、いやらしく頬を歪めながらティオを見て、そんな事を言いながらハジメ達に詰め寄ってくる。
「……あれか」
詰め寄られていたハジメは、ミュウを誘拐しようとした連中のお仲間だろうと察し、ティオに返り討ちにあったこともあって報復に来たと推測した。もっとも、その下卑た視線からは、ただの報復ではなく別のものを求めているのが丸分かりだったので、ハジメはスっと目を細める。
「……優花、話は少し待ってくれないか? 終わったら、ちゃんと説明する」
「ちょっ、ハジメ?!」
しかし、これは一旦話を止めれるチャンスだと思えたハジメは、優花との話を切り上げ傭兵共の所に近付いていく。
傭兵共は自分達に近付くハジメを少しだけ視線を向けた。その後の視線がユエやシアにも向く。舐めるような視線に晒され、心底気持ち悪そうにハジメの影に体を隠れていたユエとシアに、やはり怯えていると勘違いしているらしく、ユエ達に囲まれていたハジメを恫喝し始めた。
「ガキィ! わかってんだろ? 死にたくなかったら、女置いてさっさと消えろ! なぁ~に、きっちりわび入れてもらったら返してやるよ!」
「まぁ、そん時には、既に壊れてるだろうけどな~」
何が面白いのか、ギャハハーと笑い出す男達。そのうちの一人がミュウまで性欲の対象と見て怯えさせ、また他の一人が兎人族を人間の性欲処理道具扱いし、優花でさえもその対象に入れた時点で、彼等の運命は決まった。
いつもの通り、空間すら軋んでいると錯覚しそうな大瀑布の如きプレッシャーが傭兵達に襲いかかる。彼等の聞くに耐えない発言に憤り、進み出た光輝がプレッシャーに巻き込まれフラついているのが視界の片隅に映っていたが、俺は気にすることもなく傭兵達に向かって歩み寄った。
今更になって、自分達が絶対に手を出してはいけない相手に喧嘩を売ってしまったことに気がつき慌てて謝罪しようとするが、プレッシャーのせいで四つん這い状態にされ、口を開くこともできないので、それも叶わない。
ハジメは四つん這いになる傭兵共に視線を合わせるかのように腰を下ろして問い掛けた。
「なぁ……一生歩けなくなるか、ここで死を迎えるのか……どちらにする?」
その告げられた事とハジメの重圧で傭兵共は大人なのにも関わらず涙目になっており、首を横にブンブン振ったりしたりして謝罪を示すように土下座をする。
「どちらも嫌なら、さっさと俺達の前から失せろ……もし、またこういう事をするなら次は容赦はしない。分かったか?」
ハジメの脅しに傭兵共は恐怖で喋れないのか壊れた人形のようにコクコクッ!と頷く。
「じゃあ、さっさと行け」
「「「「「「「「ひ、ひいっ!」」」」」」」」
ハジメは少しプレッシャーを緩めながらシッシッと手を動かしながら、再度脅し紛いな発言をすると傭兵共は一目散に逃げていった。その余りに容赦ないプレッシャーに、ユエ達と優花以外の者達は後退っていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
優花は傭兵たちから自分達を守るハジメの姿をジッと見つめていた。すると、こちらへ三人ほど近づいて来るのが分かり、視線を転じた。
「……優花」
「ゆ、優花さん」
「其方が優花かの?」
「えっと貴女は……」
「申し遅れたのぅ。妾はティオ・クラルスじゃ」
近づて来たのは、迷宮で出会ったユエとシア、そして、着物女性──ティオだった。
「……優花、迷宮の時は言えなかったけど私達……」
優花は今からユエが言うことをある程度察することができたので、ユエが言い切る前に優花が口を開いた。
「ユエ達が言いたい事がわかるよ。……三人共ハジメの事が好きなんだよね? 仲間とかの親愛じゃなくて恋愛として」
「「「!」」」
「やっぱりかぁ〜」
優花はユエ達の反応を見て、当たっているのが分かった。そして、困ったような笑みを浮かべて「しょうがないかぁー」と頷いていると、ユエが話し掛けてきた。
「……なんでわかったの?」
「……だって、大体ハジメのしそうな事は予想がつくからね〜。三人共、ハジメに助けられたりして惚れた口でしょ?」
「……やっぱり、優花は嫌? 人の恋人を好きになる私達のこと……」
ユエは少し俯きながら優花に聞いてきた。優花はそんなユエ達の表情を見てから真剣な表情で話す。
「うん、少し嫌な気持ちもある。だって、私とハジメが離れている間、私の知らないハジメを貴女達が知ってると思うと思わず嫉妬する」
その言葉にユエ達は息を呑む。それもそうだろう自分達も大好きな恋人の知らない部分が自分じゃなくて他の女が知ってるとなると誰でも嫉妬したくなる。しかし、優花は違った。
「……でも、それは、逆にすると貴女達は以前のハジメをよく知らないってことになる……だから、聞かせて?三人はハジメの事を本当に愛してる?」
「……!うん、好き。だってハジメがいてくれたから今の私がある!」
「わ、私もハジメさんのおかげで家族も救われたんです。大好きなんですぅ!」
「うむ、妾もご主人様の事は愛してるおる。あれ程の殿方は何処を探そうとも見つからん。それに、妾もご主人様のおかげで救われた身じゃ」
ユエ達の返事を聞いて、その言葉は嘘じゃないと分かり優花は少し笑みをこぼして頷いた。
「(本当に愛してるんだハジメのこと)……ふふ」
優花は、ユエ達三人のハジメへの気持ちを理解した。ハジメに対するその愛の重さにも……
「……優花?」
「うん、三人の気持ちは分かった……なら、私は構わないわ」
「「「えっ」」」
優花の答えに三人は目を見開いて驚いた表情をすると、シアとユエが戸惑った表情で聞いてくる。
「えっ?良いんですかっ?」
「……優花、ホントに良いの?」
「うん、だって三人共ハジメが好きなんしょ?ハジメもハジメで貴女達の事は大切にしてるように見えるしね」
それに、優花自身でも感じたことだった。ユエ達となら仲良くなれそうだと。仲間として、家族としても……。
優花はそう言った直後、自分の願望をユエ達に話す。
「でも、私もハジメと一緒にいたい……だから私もついて行く、ハジメの旅に」
「……ん、分かった。これからヨロシクね、優花」
「私も歓迎ですぅ〜」
「うむ、妾もじゃ」
「うん、こっちも宜しく頼むわ。ユエ、シア、ティオ」
「「「ん(ですぅ)(うむ)!」」」
危険な旅だからハジメは難色を示そうなのだろうが三人の歓迎に嬉しそうに優花は微笑むが、思い出したようにハッとした表情になってから、優花はユエ達にある話を切り出す。
「あっ!でも、三人に話があるんだけど良い?」
「「「?」」」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ハジメは傭兵共を追っ払っい、振り向くと優花がニコッとしながら立っていた。
「ハジメ」
「……優花、あのユエ達のことだけどな」
ハジメはそう言って、話を切り出そうとするが、次にくる優花の言葉にあっけらかんとなる。
「うん、ユエ達のことは許す」
「へっ?」
唐突な優花の言葉にハジメは間抜けな声が出てしまうも、すぐに気を取り直して聞き間違いかもしれないと再度聞く。
「ホントに良いのか?」
「うん、でも私も連れて行ってね。旅に」
優花のその言葉にハジメを一瞬、戸惑いながらも、少し難色な表情になふ。そして、少し圧のある声音で問い掛けた。
「……危険な旅だぞ」
「その事は十分に理解してる。それに、私もそれなりに強くなったわ。それに……」
優花はそう言いながらハジメに抱きつくと、顔を見上げる。そして、ハジメの顔を見つめながら満面の笑みを浮かべて答えた。
「どんな事があっても、絶対にハジメが守ってくれるんでしょ?」
「クハッ……それを言われたら何も言い返せねぇよ」
ハジメは、抱き着く優花の言葉と笑顔と、その可愛さに根負けてしまった。でも、元々ハジメとしては優花を連れていくつもりだったので、あの質問は優花の覚悟を試す為にしたものである。
「これから、よろしくな優花」
「うんっ」
そんな話をしながらハジメと優花は互いを抱き締め合いながら見つめ合っていた。
そして、優花も旅に同行することになったが、それについて光輝が抗議したが雫や浩介や永山達などが光輝の意見に反対し、優花自身も「私はハジメと一緒にいたい」と発言して流石に光輝も本人の意思なら、と苦い顔しながらも優花の攻略組から抜けるのを認めたが、その光景をある少女が憎たらしい視線で見ていたことを、その場にいた人達は知らない。
そんな事があってハジメ達は現在、入場ゲートを離れて、町の出入り口付近の広場に来ていた。ハジメはロア支部長の下へ依頼達成報告をし、二、三話してから、いろいろ騒がしてしまったので早々に町を出ることにしたのだ。元々、ロアにイルワからの手紙を届ける為だけに寄った様なものなので、旅用品で補充すべきものもなく、直ぐに出ても問題はなかった。
そこである問題が起こった。
ハジメ達のところにある少女が歩み寄って来た。傍にいた優花はその少女を見た瞬間「えー……」と声を零しながらハジメの後ろにそっと隠れた。
その少女とは……
「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな? ……ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」
「………………は?」
白崎香織だった。
第一声から、前振りなく挨拶でも願望でもなく、ただ決定事項を伝えるという展開にハジメの目が点になる。思わず、間抜けな声で問い返してしまった。
直ぐに理解が及ばずポカンとするハジメに代わって、隣にいたユエが進み出て、睨みながら冷えると感じさせるような声音で香織に話し掛ける。
「……お前にそんな資格はない」
「資格って何かな? ハジメくんをどれだけ想っているかってこと? だったら、誰にも負けないよ?」
ユエの言葉に、そう平然と返した香織。ユエが、どんどん冷めた目になってきている。
ユエはハジメと奈落で過ごしていた時、休憩の合間にハジメの話を聞いてる中、ハジメが香織の話題を出した時があった。その時のハジメの表情は嫌悪感が丸出しであり、ユエも聞いていて鳥肌が立った。
その時の事と、この現状を見る限り、ユエ自身も香織とは合わないし嫌だと感じたのだろう。
香織は、ユエを見下しながら目を合わせたあと、スッと視線を逸らして、揺るぎない眼差しをハジメに向ける。
そして、両手を胸の前で組み頬を真っ赤に染めて、深呼吸を一回すると、震えそうになる声を必死に抑えながらはっきりと……告げた。
「貴方が好きです」
「……白崎」
白崎の表情には、羞恥とハジメの答えを予想しているからこそ瞳が濁って見えた。それに……白崎は優花を視線を捉えるとそれは殺意が宿ってるように見えた。
しかし、その目でハジメは確信した。
「(……やっぱり、もう一人はコイツだったか)」
香織の瞳を見て確信したハジメ。予想はしてたが、やはり怒りが湧く。それを内心で抑えて平静を保ちながら冷めきった眼差しで答えた。
「俺には、優花とユエ達がいる。白崎の想いにはえられない。だから、連れては行かない」
はっきり返答したハジメに、香織は唇を噛んで俯くものの、しかし、一拍後には、目に力を宿して顔を上げた。
「……でも、その中に私がいても良いよね?」
「……いや、白崎。俺は、この際はっきりとお前に言いたかったことがある」
「えっ! な、何かな、かな!?」
「俺はこの世界に来る前からお前の事は
「えっ……」
ハジメの言葉を聞いた瞬間、香織は絶望したような表情になった。ハジメはそんな香織に近付くと、香織にしか聞こえないような声音で囁いた。
「それに、ベヒモスの時に優花に撃った
「……ッ!」
ハジメがそう言った瞬間、香織は顔を青ざめたのでハジメはやっぱりと思った。あの時、優花に撃った魔弾の犯人は白崎香織だと。
「……(まぁ、となると俺に撃った奴は檜山の奴が妥当だろうな)」
そしてハジメは、同時に自分に対して魔法を放った犯人に見当つけた後、香織に再度、厳しい眼差しで囁きながら告げた。
「俺はそんな奴が旅に同行して欲しくないし、優花達に手を出すというなら殺す。ベヒモスの件のことはアイツ等には言わないでやるからとっとと俺の前から消えろ」
「………」
そう言った直後、香織は俯きながら歯を食いしばると走り去っていった。すると、更にダルい奴が絡んできた。それも怒りに満ちた表情で。
「おいっ!南雲っ、香織に何をした!」
それは勇者(笑)の光輝だった。ハジメは頭を痛めたように頭を抱える。
「なんだよ、俺はただ白崎の告白を断っただけだぞ?」
「嘘だっ!お前が何かして泣かせたんだろっ!」
そして光輝の視線が、スッとハジメへと向く。ハジメは、我関せずと言った感じで遠くを見ていた。その周りには美女、美少女が侍っている。その光景を見て、光輝の目が次第に吊り上がり始めた。何故ハジメにあんなに美少女達が集まってると思うと、今まで感じたことのない黒い感情が湧き上がってきたのだ。そして、衝動のままに、ご都合解釈もフル稼働する。
「やっぱり園部さん。行ってはダメだ。これは、園部さんのために言っているんだ。見てくれ、あの南雲を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき南雲の事を『ご主人様』って呼んでいた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。南雲は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。園部さん、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君のために俺は君を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」
光輝の余りに突飛な物言いに、雫達が唖然とする。しかし、ヒートアップしている光輝はもう止まらない。説得のために向けられていた優花への視線は、何を思ったのかハジメの傍らのユエ達に転じられる。
「君達もだ。これ以上、その男の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな? 安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ」
そんな事を言って爽やかな笑顔を浮かべながら、ユエ達に手を差し伸べる光輝。雫は顔を手で覆いながら天を仰ぎ、優花はなんか腕をさすりながら「見て、ハジメ。鳥肌が凄いよ」とハジメに見せていた。するとハジメの方も「あっ、俺もだ」と呟いており、光輝のことなんて眼中にないらしい。
そして、光輝に笑顔と共に誘いを受けたユエ達はというと……
「「「…………」」」
もう、言葉もなかった。光輝から視線を逸らし、両手で腕を摩っている。よく見ればユエ達もハジメと優花と同じように素肌に鳥肌が立っていた。ある意味、結構なダメージだったらしい。ティオが、「アレが勇者なのかの……?」と、眉を八の字にしてハジメの後ろに隠れる。
そんなユエ達の様子に、手を差し出したまま笑顔が引き攣る光輝。視線を合わせてもらえないどころか、気持ち悪そうにハジメの影にそそくさと退避する姿に、若干のショックを受ける。
そして、そのショックは怒りへと転化され行動で示された。無謀にもハジメを睨みながら聖剣を引き抜いたのだ。光輝は、もう止まらないと言わんばかりに聖剣を地面に突き立てると俺に向けてビシッと指を差し宣言した。
「南雲ハジメ! 俺と決闘しろ! 武器を捨てて素手で勝負だ! 俺が勝ったら、二度と園部さんには近寄らないでもらう! そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」
「……イタタタ、やべぇよ。勇者が予想以上にイタイ。何かもう見てられないんだけど」
「何をごちゃごちゃ言っている! 怖気づいたか!」
聖剣を地面に突き立てて素手の勝負にしたのは、きっと剣を抜いた後で、同じようにハジメが武器を使ったら敵わないと考え直したからに違いない。意識的にか無意識的にかはわからないが……ユエ達も優花達も、流石に光輝の言動にドン引きしていた。
しかし、光輝は完全に自分の正義を信じ込んでおり、ハジメに不幸にされている女の子達を救ってみせると息巻き、周囲の空気に気がついていない。元々の思い込みの強さと猪突猛進さ、それに初めて感じた〝嫉妬〟が合わさり、完全に暴走しているようだ。
ハジメの返事も聞かず、猛然と駆け出す光輝。ハジメは、溜息を吐きながら二歩、三歩と後退りした。それを見て、武器を使わない戦いに怖気づいたと考えた光輝は、より一層、力強く踏み込んだ。あと数歩で拳が届くという段階でも、ハジメは両手をだらんと下げたまま特に反応もしない。光輝は、ハジメが反応しきれていないのだと思い、勝利を確信した。
その瞬間……
ズボッ!
「ッ!?」
光輝の姿が消えた。
正確には、拳に力を乗せるため最後の一歩に最大限の力を込めて踏み込んだ瞬間、落ちたのだ。落とし穴に。ハジメは、最初に二、三歩下がった時に、靴から錬成を行い、地面の下に深さ四メートル程の穴を作って置いたのだ。
その落とし穴は、光輝を呑み込むと瞬時に元の石畳に戻った。そして、地面の下からくぐもった爆発音が響く。落とし穴を錬成した時、ついでとばかりに閃光手榴弾と衝撃手榴弾、麻痺手榴弾と催涙手榴弾を〝宝物庫〟から地面の下に転送しておいたのである。
おそらく地面の下では、脱出しようとした天之河に爆発の衝撃が襲いかかり、閃光が視覚を潰し、催涙成分が目と鼻を虐め抜き、麻痺成分が悶えることも許さずに体を硬直させ始めていることだろう。
「……ご重傷様」
ハジメはそう言ったてから再び錬成を行い、いつか二尾狼にした様に光輝の周囲を石で固めていった。一応、空気がなければ死ぬかもしれないので顔の周りは塞がずに、小さな空気穴だけ開けといてあげた。
この間、傍目には、ハジメは何もせず突っ立っているだけに見えるので、一人で憤り、一人で突っ込み、一人で落ちて姿を消した光輝は物凄く……滑稽だった。
「あ~、八重樫。一応、生きてるから後で掘り出してやってくれ」
「……言いたいことは山ほどあるのだけど……了解したわ」
光輝に関する面倒事は八重樫雫に!という日本にいた時からの暗黙の了解のまま、雫に面倒事を押し付けるハジメに、手で目元を覆いながら溜息をつく雫。ようやく、邪魔者はいなくなった。……と思ったら、今度は檜山達が騒ぎ出す。曰く、優花の抜ける穴が大きすぎる。今回の事もあるし、優花が抜けたら今度こそ死人が出るかもしれない。だから、どうか残ってくれと説得を繰り返す。特に、檜山の異議訴えが激しい。まるで、長年望んでいたものがもう直ぐ手に入るという段階で手の中からこぼれ落ちることに焦っているような、そんな様子だ。
檜山達四人は、優花の決意が固く説得が困難だと知ると、今度は、ハジメを残留させようと説得をし始めた。過去のバカにした事は謝るので、これからは仲良くしよう等とふざけたことを平気でぬかす。
そんなこと微塵も思っていないだろうに、馴れ馴れしく笑みを浮かべながらハジメの機嫌を覗う彼等に、ハジメだけでなく、雫達も不愉快そうな表情をしている。そんな中、ハジメは、再会してから初めて檜山の眼を至近距離から見た。その眼は、優花が出て行くことも影響してか、狂的な光を放ち始めているようにハジメには思えた。
雫達が、檜山達を諌めようと再び争論になりそうな段階で、ハジメは、せっかくなので、あの日の真実の確認と現状の解決のために檜山に話しかけてみることにした。口元に皮肉気な笑みを浮かべながら。
「なぁ、檜山。火属性魔法の腕は上がったか?」
「……え?」
突然、投げかけられた質問に檜山がポカンとする。しかし、質問の意図に気がついたのか徐々に顔色を青ざめさせていった。
「な、なに言ってんだ。俺は前衛だし……一番適性あるのは風属性だ」
「へぇ、てっきり火属性だと思っていたよ」
「か、勘違いだろ? いきなり、何言い出して……」
「じゃあ、好きなんだな。特に
「……」
今や、檜山の顔色は青を通り越して白へと変化していた。その反応を見て、ハジメは確信する。そして、出ていこうとする優花への焦った態度から見て、その動機も察する。よく、今まで襲われなかったものだと、ハジメは優花と香織の走り去った方角をチラリと見やった。
そして、色々あり、豹変ともいえる檜山の態度に訝しそうな表情をする近藤達だったが、檜山が、感情を押し殺した尋常でない様子だったので、渋々、ハジメへの説得を諦めた。
ようやく、本当にようやく、ハジメ達は出発を妨げる邪魔者がいなくなった。優花が、宿に預けてある自身の荷物を取りに行っている僅かな間、坂上達が天之河を掘り起こしているのを尻目に、雫と浩介が俺に話しかけた。
「何というか……いろいろごめんなさい。それと、改めて礼をいうわ。ありがとう。助けてくれたことも……後、香織の事は本当に、ごめんなさい」
「今日も災難だったな〜、ハジメ」
「クハッ……お前等も相変わらずだな、それに八重樫。白崎の件はお前が謝ることじゃねぇよ。あれはアイツ自身の問題だ」
「そ、そう。でも……」
「はぁ……」
ハジメは雫の性格の悪いところにため息を吐きながらも彼女に近付くと雫の頭をポンと手を置く。
「……っ//!」
「はぁ、八重樫お前な、そんなに気苦労してるとマジで体が壊れるぞ。俺はお前の事は信頼してるからな」
「なっ、な……」
ハジメの唐突な行動に雫は顔を真っ赤に染まっていた。そして、雫の反応にハジメが首を傾げるていると、後ろから「ハジメ」と聞こえ、そして浩介が「後ろを向け」とジェスチャーしながら言ってるので後ろを向くと、ニコニコしている優花達がいた。
「ゆ、優花……」
「ハジメ、雫に何してるの?」
「いや、八重樫は凄く苦労してんだなって思って……」
「ふ〜ん。まぁ良いわ。私の準備終わったよ」
「おっ、そうか……なら」
名状しがたい表情の優花達を気にしつつ、いよいよ出発するハジメ達。浩介と雫や谷口など女性陣と永山のパーティー、それに報告を済ませて駆けつけたメルド団長が見送りのためホルアドの入口に集まった。そして、ハジメが取り出した魔力駆動四輪に、もはや驚きを通り越して呆れた視線を向ける。浩介は「ハジメ、これはやり過ぎだろ」と呟いていた。
雫と優花が、お互いに手を取り合いしばしのお別れを惜しんでいると、ハジメが、〝宝物庫〟から黒塗りの鞘に入った剣とあるボックスを取り出し雫と浩介に手渡した。
「これは?」
「八重樫、得物失ってたろ? やるよ。まぁ、日本にいたとき色々世話になった礼だ」
雫が、ハジメに手渡された剣を受け取り鞘からゆっくり抜刀すると、まるで光を吸収するような漆黒の刀身が現れた。刃紋はなく、僅かな反りが入っており、先端から少しの間は両刃になっている。いわゆる小烏丸造りと呼ばれる刀に酷似していた。ハジメは日本刀自体には詳しくないが、〝脳内設計〟と練成の鍛錬の過程で造り出したもので良作の一つだ。
「世界一硬い鉱石を圧縮して作ったから頑丈さは折り紙付きだし、切れ味は素人が適当に振っても鋼鉄を切り裂けるレベルだ。扱いは……八重樫にいうことじゃないだろうが、気を付けてくれ」
「……こんなすごいもの……流石、錬成師というわけね。ありがとう。遠慮なく受け取っておくわ」
一振り二振りし、全体のバランスと風すら切り裂きそうな手応えに感嘆して、笑みを浮かべながら素直に礼をいう雫。正直、雫の扱う八重樫流の剣術は当然日本刀を前提とするものなので、前の剣ではどうしても技を放つときに違和感があった。なので、刀が手に入ったのは素直に嬉しく、自然笑みも可憐なものになる。
「ハジメ、この箱は?」
「それはな、開けて見ろ」
「おっおう………ってこれはっ!」
浩介が箱を開けて驚愕しながら叫んだ。しかし、その表情は嬉しそうだ。そんな浩介が喜ぶほどの物とは……
「お前が転移した時に欲しがっていた小太刀やクナイのセットだ。全部、世界一硬い鉱石を圧縮して作ったから頑丈さは一流だ」
「嘘っ、こんなにか。マジで助かる、ハジメ。……後、少し良いか?」
「ん?」
浩介に手招きされながら呼ばれたハジメ。近付くと浩介はハジメにしか聞こえないような声音で話しかける。
「ハジメ、俺は此処に残るわ」
「……どうしてだ?俺としては浩介も着いて来て貰った方が心強いが……」
「それは有難いんだけどよ……少しな、お前が言ってたように教会のことが気になってな。少し調べようと思う」
「……危険じゃねぇか?」
浩介の考えは一理あると思う。が、教会の力はまだ完全に把握は出来ていない。それに教会は神共(クソ野郎共)との繋がりがあるだろうし、もしかしたらヤバい奴がいる可能性があるとハジメは思い、浩介を心配する。
「それでもだ。俺もお前の力になりたいしな、それにヤバくなったしても俺は影が薄いからな、逃げてやるぜ」
そう言いながら浩介はニヤッと笑みを向けながら親指をグッと立てた。
「はぁ、妙子の奴にちゃんと告白を出来てないアビスゲートが何言ってんだ」
「ちょっ、何言ってんのお前!」
ハジメはそう言って浩介を煽ると、浩介は声を張り上げ誤魔化していた。耳は真っ赤だったが、そんな他愛ない話をしてからハジメは真剣な表情をしてから言った。
「……気をつけろよ」
「お前もな、ハジメ」
「クハッ……誰に言ってんだ」
二人そう言い合って笑い合いながらグータッチをした。そして、別れを済ませ、浩介と雫達が見送る中、ハジメ達はホルアドの町を後にした。
天気は快晴。目指すは【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】。新たな仲間を加え賑やかさを増しながら、ハジメの旅は続くのだった……。
ーホルアドを出てから寄った宿での夜ー
ハジメは風呂を済ませ、部屋に戻ると、ユエ達やミュウの姿はなく、優花だけがネグリジェ姿でベッドに座っていた。
「なっ、優花っ……//!アレ、おいユエ達は?」
「ユエ達は違う部屋にいるの」
「えっ何故?」
「今日……話し合って、約束してくれたから……」
普段なら見ることのない顔を真っ赤になるハジメ。そんな顔を赤くしながら質問すると優花も優花で顔を真っ赤になって手をいじいじとしながら答えた。
「ねぇ……ハジメ」
「なっ、なんだ?」
「私はハジメが好き、大好き。でも、私はまだハジメの知らない部分を知りたい。……だから教えて?」
(……ッ、その顔は反則だろ)
「……ッ!優花!」
「!」
ハジメは流石に優花の「お願い」の顔が愛おしくなり、いつの間にか彼女をベッドに押し倒していた。
二人の手はギュッと握り合うと、顔の距離が段々と近づき互いに心臓の音が聞こえる程の距離だ。
「……良いんだな」
「うん、優しくしてね?」
「……それは、少しお願い出来ない約束だな」
「ハジ……んぅ」
優花が何かを言う前にハジメは唇を合わせた。優花の表情は蕩けており、息も荒く妖艶さが増している。その表情にハジメの脳内が優花に支配されていく。
「…ぷはっ、今夜は寝かせねぇぞ」
「……うん」
そして、ハジメは優花の胸を揉みだしていく。すると優花がビクッと反応する。
「……ん、あ//」
そんな、優花の喘ぎ声と胸の柔らかさに耐えれなくなったハジメの理性の枷が外れてしまう。
「……っ、もう我慢できねぇ!」
「あっ、ハジ……激し、あ//」
そして、ハジメと優花の眠れない長い夜が始まった。
編集しました。十一月二十一日
愛子はハーレムに入れるか入れないか
-
いる
-
いらない