ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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五十話 大砂漠でのトラブル

 

赤銅色の世界。

 

【グリューエン大砂漠】は、まさにそう表現する以外にない場所だった。砂の色が赤銅色なのはもちろんだが、砂自体が微細なのだろう。常に一定方向から吹く風により易々と舞い上げられた砂が大気の色をも赤銅色に染め上げ、三百六十度、見渡す限り一色となっているのだ。

 

また、大小様々な砂丘が無数に存在しており、その表面は風に煽られて常に波立っている。刻一刻と表面の模様や砂丘の形を変えていく様は、砂丘全体が〝生きている〟と表現したくなる程だ。照りつける太陽と、その太陽からの熱を余さず溜め込む砂の大地が強烈な熱気を放っており、四十度は軽く超えているだろう。舞う砂と合わせて、旅の道としては最悪の環境だ。

 

もっとも、それは〝普通の〟旅人の場合である。

 

現在、そんな過酷な環境を、知ったことではないと突き進む黒い箱型の乗り物、魔力駆動四輪が砂埃を後方に巻き上げながら爆走していた。道なき道だが、それは車内に設置した方位磁石が解決してくれている。

 

「……外、すごいですね……普通の馬車とかじゃなくて本当に良かったです」

 

「全くじゃ。この環境でどうこうなるわけではないが……流石に、積極的に進みたい場所ではないのぉ」

 

車内の後部座席で窓にビシバシ当たる砂と赤銅色の外世界を眺めながらシアとティオがしみじみした様子でそんなことを呟いた。いくら竜人族のティオでも、流石にこの環境は鬱陶しいだけらしい。

 

「前に来たときとぜんぜん違うの! とっても涼しいし、目も痛くないの! パパはすごいの!」

 

「そうね~、ハジメはすごいね~。ミュウちゃん、冷たいお水飲む?」

 

「飲むぅ~。優花お姉ちゃん、ありがとうなの~」

 

前部の窓際の席で優花の膝の上に抱えられるようにして座るミュウが、以前、誘拐されて通った時との違いに興奮したように万歳して、快適空間を生み出したハジメにキラキラした眼差しを送っていた。

 

無理もないだろう。海人族であるミュウにとって砂漠の横断は、どれほど過酷なものだったか。四歳という幼さを考えれば、むしろ衰弱死しなかったことが不思議なくらいだ。そんな環境を耐えてきたミュウからすれば、ギャップも相まって驚きもひとしおだろう。なにせ、この四輪、きちんと冷暖房完備付きである。

 

そして、ハジメを称えるミュウに賛同しながら、砂漠では望めるはずもない冷たい水を普通に差し出したのは、ホルアドの町で、再会した恋人の優花だ。ちなみに、この水は、やはり車内備え付けの冷蔵庫から取り出したものだ。 

 

「……ん、やっぱり優花も子供の扱いに慣れてる」

 

その時、その光景を見ていたユエが優花の幼子との接し方に慣れてる事が気になり、優花はそれに答えた。

 

「まぁね、店の手伝いをしてる時に常連さんの子供をお守りをハジメとしてたしね〜。ミュウちゃんぐらいの子なら慣れてるわ。ねっ、ハジメ」

 

「あぁ」

 

優花の言葉に運転しながらハジメも一言で返事をすると、後部座席にいるシアがハッと思い出したかのように話す。

 

「あっそうえば、以前ハジメさんとデートした時にそんな事を言ってたですぅ〜」

 

「ほぅ、優花の家は店でも開いておるかの?」

 

「ええ、家はね〝ウィステリア〟っていうレストランを開いているの」

 

「……私、優花のお店行ってみたい」

 

 

ユエがそう言うと優花は嬉しそうに微笑んでからユエ達にご馳走様すると約束した。

 

「ふふ、ありがと。……じゃあ、戻ったならユエ達にご馳走様してあげるわ。ねっ、ハジメ?」

 

「まぁ、そうだな。それにユエ達が店の手伝いをしてくれるなら更に客も来るかもなー」

 

「まぁ……そうだけど、流石にユエ達がウェイトレスやったら客は来ると思うけど絶対手が回らなくなるわよ」

 

「……それも、そうだな」

 

優花がいる時も男の客が多かったのに、ユエ達が加わるとなると更に混雑してしまうだろうとハジメは軽く想像することが出来た。

 

「あっ…そうえば、優花さん私、気になる事があって〜」

 

「どうしたのシア?」

 

「その〜ウィステリア?でお手伝いしていたハジメさんってどんな感じでした?」

 

「いや、前言ったろ特に何もただ手伝いをしてただけだぞ?」

 

シアがそんな事を聞くのでハジメは面倒そうに話を切り上げようとしたが………

 

「……ん! 私も知りたい」

 

「妾もじゃ!」

 

「ミュウもなの〜」

 

シアに続いてユエ、ティオ、ミュウも気になると次々と言い出し、止めれず優花も優花で笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「そうね〜、女性客に人気だったわ。常連さんには指名で呼び出されるぐらいの人気でね。一緒に手伝いをしていた浩介が誰にも呼ばれてなくて、いじけていた時があったわね」

 

「「「……」」」

 

シアの質問を優花が答えた瞬間、ユエ、シア、ティオの三人がジッと視線をハジメに転じた。運転してるハジメは後ろから突き刺さるような視線を感じながら咳払いをする。

 

「んんっ。さ、三人共……運転中にそんな目で見ないでくれ、気が散る」

 

「……ハジメの誑し」

 

「誑しですぅ」

 

「誑しなのじゃ」

 

「違げぇよ!お前等が思ってることはねぇから!」

 

ハジメはそう言って、ユエ達の思っていることは一切無いと否定するが……

 

「……絶対嘘」

 

「そうですよっ、ブルックの町の時だって『お兄様の傍にい隊』とかの人達だっていたじゃないですか!」

 

「えっ、何それ、知らない」

 

「いやっ、ユエとシアだってあったろそう言うファンクラブは! 後、日本にいた時はあんなヤバイファンクラブみたいのはなかったからな俺!後、優花は知らなくていいあのカオスは!」

 

戦闘や色々なことは一切疑うことなくハジメを信用してるユエ達が女性関係だけ信用してないことにハジメの頬がピクピクと引き攣っていた。そして、そんな四人の会話の様子を優花はミュウをあやしながら楽しげにみていた。

 

「(まぁ、でも本人は気付いてないけど、非公式のファンクラブがあるし、創始者が真実ちゃんだし……)」

 

優花は、そう口にせず、遠い目をしながら窓に映る景色を眺めていた。何故か空の彼方に笑顔でサムズアップする真実の姿が浮かんだ。

 

「ん? なんじゃ、あれは? ご主人様よ。三時方向で何やら騒ぎじゃ」

 

ハジメ達はそんな雑談をしながら目的地に向かっていると、不意に、そんな様子を面白げに見ていたティオがハジメに注意を促した。窓の外に何かを発見したらしい。

 

ハジメが、言われるままにそちらを見ると、どうやら右手にある大きな砂丘の向こう側に、いわゆるサンドワームと呼ばれるミミズ型の魔物が相当数集まっているようだった。砂丘の頂上から無数の頭が見えている。

 

このサンドワームは、平均二十メートル、大きいものでは百メートルにもなる大型の魔物だ。この【グリューエン大砂漠】にのみ生息し、普段は地中を潜行していて、獲物が近くを通ると真下から三重構造のずらりと牙が並んだ大口を開けて襲いかかる。察知が難しく奇襲に優れているので、大砂漠を横断する者には死神のごとく恐れられているらしい。

 

幸い、サンドワーム自身も察知能力は低いので、偶然近くを通るなど不運に見舞われない限り、遠くから発見され狙われるということはない。なので、砂丘の向こう側には運のなかった者がいるという事なのだが……

 

「? なんで、アイツ等あんなとこでグルグル回ってんだ?」

 

サンドワームが出現しているだけならティオも疑問顔をしてハジメに注視させる事はなかった。ハジメの感知系スキルなら、サンドワームの奇襲にも気がつけるし、四輪の速度なら直前でも十分攻撃範囲から抜け出せるからだ。異常だったのは、サンドワームに襲われている者がいるとして、何故かサンドワームがそれに襲いかからずに、様子を伺うようにして周囲を旋回しているからなのである。

 

「まるで、食うべきか食わざるべきか迷っているようじゃのう?」

 

「まぁ、そう見えるな。そんな事あんのか?」

 

「妾の知識にはないのじゃ。奴等は悪食じゃからの、獲物を前にして躊躇うということはないはずじゃが……」

 

ティオは、ユエ以上に長生きな上、ユエと異なり幽閉されていたわけでもないので知識は結構深い。なので、魔物に関する情報などでは頼りになる。その彼女が首をかしげるということは、何か異常事態が起きているのは間違いないだろう。

 

「ティオでも知識がないことなら尚更、巻き込まれないようにもう少し離れていくか」

 

ハジメはそう言って、確認せず巻き込まれる前にさっさと距離を取ることにした。

 

と、そのとき、

 

「っ!? 掴まれ!」

 

ハジメは、そう叫ぶと一気に四輪を加速させた。直後、四輪の後部にかすりつつ、僅かに車体を浮き上がらせながら砂色の巨体が後方より飛び出してきた。大口を開けたそれはサンドワームだ。

 

「クソッ……アッチに気を取り過ぎてたか!」

 

ハジメは、旋回していたサンドワーム達に気を取られ過ぎたことに悪態をつきながら、さらに右に左にとハンドルをきり、砂地を高速で駆け抜けていく。そのSの字を描くように走る四輪の真下より、二体目、三体目とサンドワームが飛び出してきた。

 

「きゃぁあ!」

 

「ひぅ!」

 

「わわわ!」

 

優花、ミュウ、シアの順に悲鳴が上がる。強烈な遠心力に振り回され、膝の上にいるミュウを守るように優花はミュウを抱きしめた。そして、小柄なユエは何故かシートベルトが取れてしまい遠心力で浮遊してしまった同時にゴンッと鈍い音がした後、ハジメの膝上へと着地をしたのだが……

 

「………痛い、グスッ」

 

上手く着地したユエだが、四輪の天井に頭をぶつけたらしく頭にコブが出来ており、涙目になりながらコブの部分を摩っていた。

 

「ちっ……お前等まだ来るからどっかにしがみつけ! ユエはシートベルトを着ける時間ねぇから俺にしがみついとけ!」

 

「「「わかった(のじゃ)(ですぅ)!」」」

 

「……グス、ん」

 

サンドワームの奇襲を受けながら、俺は全員に指示をして、ユエは、涙目になりながら「サンドワーム……絶対に許さん」とサンドワームに物凄い殺意を込めて呟きながらハジメの胸元に顔を押し付けながら抱きついた。

 

「クソッ…面倒だな。アレを使っうか……」

 

そうこうしているうち、現れた三体のサンドワームが、地中より上体を出した状態で全ての奇襲をかわした四輪を睥睨し、今度はその巨体に物を言わせて頭上から襲いかかろうとした。

 

これが唯の馬車であったなら、その攻撃で終わっていたかもしれない。しかし、これは、ハジメが身に付けた知識の片鱗が作り出したアーティファクトだ。ただ食らいつかれたくらいでは、ビクともしない。

 

それに……

 

「てめぇ等、コレの餌食になって貰おうか!」

 

そんな事を言いながら、ハジメは、四輪をドリフトさせて車体の向きを変え、バック走行すると同時に四輪の特定部位に魔力を流し込み、内蔵された機能を稼働させる。

 

ガコンッ! カシャ! カシャ!

 

機械音が響き渡るのと同時に、四輪のボンネットの一部がスライドして開き、中から四発のロケット弾がセットされたアームがせり出してきた。そのアームは、獲物を探すようにカクカクと動き、迫り来るサンドワームの方へ砲身を向けると、バシュ! という音をさせて、火花散らす死の弾頭を吐き出した。

 

オレンジの輝く尾を引きながら、大口を開けるサンドワームの、まさにその口内に飛び込んだロケット弾は、一瞬の間の後、盛大に爆発し内部からサンドワームを盛大に破壊した。サンドワームの真っ赤な血肉がシャワーのように降り注ぎ、バックで走る四輪のフロントガラスにもベチャベチャとへばりついた。

 

「うへぇ……優花、ミュウが見ないようにしてやっててくれないか」

 

「もう、してるから大丈…。んっ! ミュウちゃん、苦しかったの? でも、先っぽを摘むのは勘弁して」

 

「(……聞かなかったことにしよう)」

 

更に、迫り来るサンドワームにロケット弾を放つハジメは、ミュウには刺激が強いだろうと優花に配慮を頼むが、俺のする事を察していたのか既にミュウを対面方向で胸元に抱きしめて見えないようにしていた。ただ、優花に強く抱きしめられ顔を包まれて苦しかったのか、ミュウが抜け出そうとしたようで、その際、優花の何処かに触ってしまったようだ。思わず、優花が喘ぐような場所を。ハジメは、聞こえなかったことにした。

 

ハジメは、そのまま砂丘の上へと四輪を走らせる。下方に地中の浅い部分を移動してくるサンドワームの群れが見えた。微妙に砂が盛り上がっており隠密性がない。

 

向こうも、ハジメ達が気がついていることを察して、奇襲よりも速度を重視しているのだろうと推測したハジメは、ロケットランチャーをしまうと、代わりの兵器を起動した。ボンネットの中央が縦に割れて、そこから長方形型の機械がせり出てくる。そして、長方形型の箱は、カシュン! と音を立てながら銃身を伸ばしていき、最終的にシュラーゲンに酷似したライフル銃となった。

 

直後、四輪内蔵型シュラーゲンから紅いスパークが迸り、アームが角度を調整すると同時にドウゥ!! と射撃音を轟かせながら一条の閃光が赤銅色の世界を切り裂いた。

 

解き放たれた超速の弾丸は、もこもこと盛り上がって進んで来る砂地に着弾し、衝撃と共に砂埃を盛大に巻き上げた。その噴火の如き砂柱には当然、砂色の肉片と真っ赤な血が多分に含まれている。

 

四輪内蔵型シュラーゲンは、その後も次々と紅の閃光を吐き出し続け、獲物を狩らんと迫っていたサンドワームの尽くを地中にいながら爆ぜさせ、不毛の大地へのささやかな栄養として還していった。

 

「ハジメ! あれ!」

 

「……白い人?」

 

白煙を上げる四輪内蔵型シュラーゲンを収納するのと、優花が驚いたように声を上げ前方に指を差すのは同時だった。優花が指を差した先には、ユエが呟いたように白い衣服に身を包んだ人が倒れ伏していた。

 

おそらく、先程のサンドワーム達は、あの人物を狙っていたのだろう。しかし、なぜ食わなかったんだと疑問に思うがこの距離からでは分からない。

 

「お願い、ハジメ。あの場所に……」

 

「わかってる……俺も気になるしな」

 

懇願するような眼差しをハジメに向ける優花。ハジメとしても、なぜ、あの状態で砂漠の魔物に襲われないのか興味があったので優花の頼みを了承する。

 

もしかしたら、魔物を遠ざける方法やアイテムでもあるのかもしれない。実際、樹海にはフェアドレン水晶という魔除けの効果を持つ石がある。魔物が寄り付きにくくなるという程度の効果しかないが、もしかしたらより強力なアイテムがある可能性は否定できないしな。

 

そんなわけで、四輪を走らせ倒れている人の近くまでやって来て、ハジメは窓からその人物を観察した。

 

「あの衣服、確か………」

 

ハジメは衣服を見て、ガラベーヤ(エジプト民族衣装)に酷似してると思った。それに顔に大きなフードの付いた外套のせいで顔はわからないし、うつ伏せに倒れている上に、フードが隠れているが体格的に男だろう。

 

四輪から降りた優花が、小走りで倒れる人物に駆け寄り仰向けにした。

 

「!……これって……」

 

フードを取りあらわになった男の顔は、まだ若い二十歳半ばくらいの青年だった。だが、優花が驚いたのは、そこではなく、その青年の状態だった。苦しそうに歪められた顔には大量の汗が浮かび、呼吸は荒く、脈も早い。服越しでもわかるほど全身から高熱を発している。しかも、まるで内部から強烈な圧力でもかかっているかのように血管が浮き出ており、目や鼻といった粘膜から出血もしている。明らかに尋常な様子ではない。

 

「……見る限り、ただの日射病や風邪というわけではなさそうだな」

 

ハジメはそう呟きながら、まるでウイルス感染者のような青年の傍にいる事に危機感を覚えたが、この人物を放っておけないし、治癒の専門家が診察しているので大人しく様子を見ることにした。優花は〝浸透看破〟を行使する。これは、魔力を相手に浸透させることで対象の状態を診察し、その結果を自らのステータスプレートに表示する技能である。

 

優花は、片手を青年の胸に置き、もう片手に自分のステータスプレートを持って診察用の魔法を行使した。その結果……

 

「……魔力暴走? 摂取した毒物で体内の魔力が暴走しているの?」

 

「優花? 何がわかったんだ?」

 

「う、うん。これなんだけど……」

 

そう言って優花が見せたステータスプレートにはこう表示されていた

 

====================================

 

状態:魔力の過剰活性 体外への排出不可

 

症状:発熱 意識混濁 全身の疼痛 毛細血管の破裂とそれに伴う出血

 

原因:体内の水分に異常あり 

 

====================================

 

「魔力暴走……俺みたいに魔物の肉でも食ったのか?」

 

「おそらくだけど、ちょっと違うと思うわ。何かよくない飲み物を摂取したりして、それが原因で魔力暴走状態になっているみたい……しかも、外に排出できないから、内側から強制的に活性化・圧迫させられて、肉体が付いてこれてない……このままじゃ、内蔵や血管が破裂しちゃう。出血多量や衰弱死の可能性も……。ここに回帰を求める 〝万天〟」

 

ハジメがそう言うと、優花は少し違うと結論を下し、回復魔法を唱えた。使ったのは〝万天〟。中級回復魔法の一つで、効果は状態異常の解除だ。以前の魔人族の襲撃の時に谷口達にかけられた石化を解いた術であるらしい。

 

 しかし……

 

「……ほとんど効果がない……もしかして、それほど溶け込んでいる?」

 

どうやら、〝万天〟では、進行を遅らせることは出来ても、完全に治すことは出来なかったようだ。体内から圧迫されているせいか、青年は、苦しそうに呻き声を上げている。粘膜から出血も止まらない。優花は、今の段階では、明確な治療法が思いつかなかったので、歯噛みしながら応急措置を採ることにした。

 

「ここは聖域にして我が領域 全ての魔は我が意に降れ 〝廻聖〟──効果上昇・回復速度上昇・回復力増加付与」

 

「……凄い技量」

 

「ほぅ……」

 

光系の上級回復魔法〝廻聖〟。これは、一定範囲内における人々の魔力を他者に譲渡する魔法だ。基本的には、自分の魔力を仲間に譲渡することで、対象の魔力枯渇を一時的に免れさせたり、強力な魔法を放つのに魔力が足りない場合に援護する事を目的とした魔法だ。

 

もっとも、優花は、本来十小節は必要な詠唱を僅か二小節まで省略し、更に付与術士でも、普通じゃ出来る事が難しいとされる複数付与までして、実戦でもある程度使えるレベルに仕上げていたりしていた。その技量に魔法天才であるユエと年長組のティオは感嘆の声を漏らしていた。

 

純白の光が、青年を中心に広がり蛍火のような淡い光が湧き上がる。神秘的な光景だ。目を瞑り、青年の胸に手を起きながら意識を集中する優花の姿は、淡い光に包まれていることもあって、どこか神々しさすら感じてしまいそんな姿にハジメは見蕩れていた。

 

ハジメ以外でもミュウは、シアに抱っこされながら、「きれい……」とうっとりした表情で優花を見つめている。

 

周囲で、ハジメ達が感嘆の声を上げていることに気がついた様子もなく、優花は、青年から取り出した魔力を、ハジメ自身が優花の手を取って着けた神結晶の指輪に収めていった。

「どうやら、上級魔法による強制ドレインは有効か……」

 

徐々に、青年の呼吸が安定し、体の赤みも薄まり、出血も収まってきたようだ。優花は、〝廻聖〟の行使をやめると初級回復魔法〝天恵〟を発動し、青年の傷ついた血管を癒していった。

 

「取り敢えず……今すぐ、どうこうなることはないと思うけど、根本的な解決は何も出来てないわ。魔力を抜きすぎると、今度は衰弱死してしまうかもしれないし、圧迫を減らす程度にしか抜き取れてないの。このままだと、また魔力暴走の影響で内から圧迫されるか、肉体的疲労でもそのまま衰弱死する……可能性が高いと思う。勉強した中では、こんな症状に覚えはないの……ユエとティオは何か知らない?」

 

「……ん……ごめん、私もこんな症状知らない」

 

「すまぬ、優花…妾もこんな症状は知らぬ」

 

青年が危機を脱したことに、一応の安堵を見せるも完全な治療は出来なかったことに憂いを見せる優花が、知識の深いユエとティオに助けを求めた。二人も記憶を探るように視線を彷徨わせるが、該当知識はないようだった。結局、原因不明の病としか言い様がないという状況だ。

 

「優花、念のため俺達も診察しておいてくれ。未知の病だというなら空気感染の可能性もあるだろ。まぁ、魔力暴走ならミュウの心配は無用だが」

 

「うん、わかった」

 

ハジメの言葉に頷いて、優花が全員を調べたが特に異常は見当たらなかった。そうなると、呼吸での周囲の感染の危機はないらしい。

 

そうこうしていると、青年が呻き声を上げ、そのまぶたがふるふると震えだした。お目覚めのようだ。ゆっくりと目を開けて周囲を見わたす青年は、心配そうに自分を間近で見つめる優花を見て「女神? そうか、ここはあの世か……」などとほざきだした。

 

そして、今度は違う理由で体を熱くし始めたので、嫉妬半分といい加減、暑さと砂のウザさにうんざりしていたハジメは、嫌な表情を隠しもせずに、優花に手を伸ばそうとしている青年を腕を掴み、強制的に上体を起こさせた。

 

「うおっ!?」

 

「ハ、ハジメ!?」

 

「スマン、スマンちょっとイラッとしてな……まぁそんな事より……なぁ、お前その衣服は確かアンカジ公国の衣服だろ話せる状態なら何があったか?此処で何してたか話して貰えないか?」

 

ハジメの記憶が確かなら、青年の着ているガラベーヤ風の衣服や外套は、図書館の本に書かれていた【グリューエン大砂漠】最大のオアシスである【アンカジ公国】の特徴的な服装だったと記憶している。青年が、アンカジで何かに感染でもしたのだというなら、これから向かうはずだった場所が危険地帯に変わってしまうし、是非とも、その辺のことを聞いておきたいのだ。

 

いきなり上体を起こされ驚いたように声を上げる青年といきなりのハジメの行動に驚きの声を上げた優花を尻目に、ハジメは、青年に何があったのか事情を聞く。

 

ハジメのいきなりの行動で正気を取り戻した青年は、自分を取り囲むハジメ達と背後の見たこともない黒い物体に目を白黒させて混乱していたが、ハジメから大雑把な事情を聞くと、命の恩人であると理解し、頭を下げて礼を言うと共に事情を話し始めた。

 

その話を聞きながら、ハジメは、どこに行ってもトラブルが付き纏うことに、よもやクソ神共のいたずらじゃあないだろうな?と若干疑わしそうに赤銅色の空を仰ぎ見るのだった……。

 

 




優花の装備品がわからないと思うので書いておきました。

・投げナイフ(ハジメ命名・ハウンド)…ホルアドを出た時点にハジメが渡した物、以前の物より魔力が伝わり易く、魔法陣に魔力を流し簡単な詠唱をするだけで雷や風を纏える事が出来る。軽さ鋭さも上がっており硬さもアザンチウム製なので折れたりの心配は無い。

・神結晶の指輪……ハジメが優花との一夜を過ごした後、渡した物であり能力はユエとティオが持ってるネックレスは同様で魔力をストックが出来る。因みに優花はこれを渡され、少しの間ウットリしながら指輪を眺めてた。
余談だが、優花の指輪を見たユエ、シア、ティオの三人はハジメに自分達も欲しいと言い。ハジメも「しょうがねぇな」と呟きながら、ユエとティオには優花と同じ神結晶で作った指輪をシアには水晶などで作った指輪を渡した。三人はそれを見ながら優花と同じようにうっとりと眺めていた。

編集しました。十一月二十二日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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