ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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五十一話 アンカジ公国

 

未だ体内に異常事態を抱える青年は、意識は取り戻したもののまともに立つことも出来ない状態だった。砂漠の気温も相まって相当な量の発汗をしており、脱水症状の危険もあったので車内に招き入れ水を飲ませてやる。

 

青年は、四輪を馬車のようなものだと無理やり納得したものの、車内の快適さに違う意味で目眩を覚えていた。しかし、自分が使命を果たせず道半ばで倒れたことを思い出し、こんなところでのんびりしている場合ではないと気を取り直す。そして、自分を助けてくれたハジメ達と互いに自己紹介をした。

 

「まず、助けてくれた事に礼を言う。本当にありがとう。あのまま死んでいたらと思うと……アンカジまで終わってしまうところだった。私の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

「……ゼンゲンって確か」

 

ゼンゲンと言えば、北大陸における一分野の食料供給に置いて、ほぼ独占的な権限を持っているに等しいとぐらいの単なる名目だけの貴族ではなく、ハイリヒ王国の中でも信頼の厚い屈指の大貴族である。

 

その事を思い出したハジメは砂漠に倒れていた青年が領主の息子だと知り、顔には出なかったが内心驚いていた。

 

「でも何故こんなところに領主の息子が倒れてんだ? もしかしてアンカジに何かあったのか?」

 

「……じ、実は」

 

ビィズ曰く、こういうことらしい。

 

四日前、アンカジにおいて原因不明の高熱を発し倒れる人が続出した。それは本当に突然のことで、初日だけで人口二十七万人のうち三千人近くが意識不明に陥り、症状を訴える人が二万人に上ったという。直ぐに医療院は飽和状態となり、公共施設を全開放して医療関係者も総出で治療と原因究明に当たったが、優花と同じく進行を遅らせることは何とか出来ても完治させる事は出来なかった。

 

そうこうしているうちにも、次々と患者は増えていく。にもかかわらず、医療関係者の中にも倒れるものが現れ始めた。進行を遅らせるための魔法の使い手も圧倒的に数が足りず、なんの手立ても打てずに混乱する中で、遂に、処置を受けられなかった人々の中から死者が出始めた。発症してから僅か二日で死亡するという事実に絶望が立ち込める。

 

そんな中、一人の薬師が、ひょんなことから飲み水に〝液体鑑定〟をかけた。その結果、その水には魔力の暴走を促す毒素が含まれていることがわかったのだ。直ちに調査チームが組まれ、最悪の事態を想定しながらアンカジのオアシスが調べられたのだが、案の定、オアシスそのものが汚染されていた。

 

当然、アンカジのような砂漠のど真ん中にある国において、オアシスは生命線であるから、その警備、維持、管理は厳重に厳重を重ねてある。普通に考えれば、アンカジの警備を抜いて、オアシスに毒素を流し込むなど不可能に近いと言っても過言ではないほどに、あらゆる対策が施されているのだ。

 

一体どこから、どうやって、誰が……首を捻る調査チームだったが、それより重要なのは、二日以上前からストックしてある分以外、使える水がなくなってしまったということだ。そして、結局、既に汚染された水を飲んで感染してしまった患者を救う手立てがないということである。

 

ただ、全く方法がないというわけではない。一つ、患者達を救える方法が存在している。それは、〝静因石〟と呼ばれる鉱石を必要とする方法だ。この〝静因石〟は、魔力の活性を鎮める効果を持っている特殊な鉱石で、砂漠のずっと北方にある岩石地帯か【グリューエン大火山】で少量採取できる貴重な鉱石だ。魔法の研究に従事する者が、魔力調整や暴走の予防に求めることが多い。この〝静因石〟を粉末状にしたものを服用すれば体内の魔力を鎮めることが出来るだろうというわけだ。

 

しかし、北方の岩石地帯は遠すぎて往復に少なくとも一ヶ月以上はかかってしまう。また、アンカジの冒険者、特に【グリューエン大火山】の迷宮に入って〝静因石〟を採取し戻ってこられる程の者は既に病に倒れてしまっている。生半可な冒険者では、【グリューエン大火山】を包み込む砂嵐すら突破できないのだ。それに、仮にそれだけの実力者がいても、どちらにしろ安全な水のストックが圧倒的に足りない以上、王国への救援要請は必要だった。

 

その救援要請にしても、総人口二十七万人を抱えるアンカジ公国を一時的にでも潤すだけの水の運搬や【グリューエン大火山】という大迷宮に行って、戻ってこられる実力者の手配など容易く出来る内容ではない。公国から要請と言われれば無視することは出来ずとも、内容が内容だけに一度アンカジの現状を調査しようとするのが普通だ。しかし、そんな悠長な手続きを経てからでは遅いのだ。

 

なので、強権を発動出来るゼンゲン公か、その代理たるビィズが直接救援要請をする必要があった。

 

「父上や母上、妹も既に感染していて、アンカジにストックしてあった静因石を服用することで何とか持ち直したが、衰弱も激しく、とても王国や近隣の町まで赴くことなど出来そうもなかった。だから、私が救援を呼ぶため、一日前に護衛隊と共にアンカジを出発したのだ。その時、症状は出ていなかったが……感染していたのだろうな。おそらく、発症までには個人差があるのだろう。家族が倒れ、国が混乱し、救援は一刻を争うという状況に……動揺していたようだ。万全を期して静因石を服用しておくべきだった。今、こうしている間にも、アンカジの民は命を落としていっているというのに……情けない!」

 

力の入らない体に、それでもあらん限りの力を込めて拳を己の膝に叩きつけるビィズ。アンカジ公国の次期領主は、責任感の強い民思いな人物らしい。護衛をしていた者達も、サンドワームに襲われ全滅したというから、そのことも相まって悔しくてならないのだろう。

 

「………そうか、だからサンドワーム共が喰らわなかったのか……それなら納得だ」

 

ハジメは、サンドワーム達が、ビィズを喰らわなかった理由がわかったが、ビィズの話を推測するにおそらくワーム達はこの病を察知して捕食を躊躇ったことだと分かった。それにビィズ自身、病にかかったがゆえに力尽きたが、それゆえにサンドワームに襲われずに済んだということに納得してるいると……

 

「……君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸して欲しい」

 

そう言って、ビィズは深く頭を下げた。車内にしばし静寂が降りる。窓に当たる風に煽られた砂の当たる音がやけに大きく響いた。領主代理が、そう簡単に頭を下げるべきでないことはビィズ自身が一番分かっているのだろうが、降って湧いたような僥倖を逃してなるものかと必死なのだろう。

 

全員の視線がハジメを向く。

 

「……しょうがねぇな、次期領主に頭を下げられちまったならやるしかねぇな」

 

ハジメは肩を竦め苦笑いしながらビィズに向かって了承の意を伝えた。

 

もともと、【グリューエン大火山】には行く予定であり、その際、ミュウはアンカジに預けていこうと考えていた。いくら何でも、四歳の幼子を大迷宮に連れて行くのは妥当ではないし、迷宮攻略ついでに〝静因石〟を確保することは全くもって問題なく、ミュウは亜人族の子であるから魔力暴走という今回の病因は関わりがないので危険もない。どっちにしろ、道程の中で処理できる問題だとハジメは思っていた。

 

「ハジメ殿が〝金〟クラスなら、このまま大火山から〝静因石〟を採取してきてもらいたいのだが、水の確保のために王都へ行く必要もある。この移動型のアーティファクトは、ハジメ殿以外にも扱えるのだろうか?」

 

「まぁ、優花とミュウ以外は扱えるが……わざわざ王都まで行く必要はない。水の確保はどうにか出来るだろうから、一先ずアンカジに向かいたいんだが?」

 

「どうにか出来る? それはどういうことだ?」

 

数十万人分の水を確保できるという言葉に、訝しむビィズ。ハジメは笑みを零しながら話す。

 

「それは、水系の魔法で貯水池を作る」

 

「は?」

 

ハジメの言葉にビィズは口をポカンと開けて唖然としていた。その反応は当たり前だろう。

 

もちろん、普通の術師ではおよそ不可能だろうが、ここには魔法に関して稀代の天才がいる。そう、ユエだ。しかも、彼女ならば、魔力をすぐさま回復する手段も多数持ち合わせている。ビィズなりランジィなりがアンカジに残っている静因石をしっかり服用し体調を万全に整えて、改めて王国に救援要請をしに行くくらいの時間は十分に稼げるはずである。

 

その辺りのことを掻い摘んで説明すると、最初は信じられないといった風のビィズだったが、どちらにしろ今の自分の状態ではまともに王国までたどり着けるか微妙だったので、〝神の使徒〟たる優花の説得も相まってアンカジに引き返すことを了承した。

 

砂漠地帯を滑るように高速で走り出す四輪に再び驚きながら、ビィズは、なぜ〝神の使徒〟たる優花が単独で冒険者達と一緒にいるのか、なぜ海人族の幼子が人間族のハジメをパパと呼ぶのか、兎人族と和気あいあいとしているのか、疑問に思いつつも、見えてきた希望に胸の内を熱くするのだった。

 

 

~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「……フューレンとはまた違う感じの綺麗だな」

 

赤銅色の砂が舞う中、たどり着いたアンカジは、中立商業都市フューレンを超える外壁に囲まれた乳白色の都だった。外壁も建築物も軒並みミルク色で、外界の赤銅色とのコントラストが美しくハジメは言葉をこぼした。

 

そして、ふとハジメはフューレンにはなかった不規則な形で都を囲む外壁の各所から光の柱が天へと登り、上空で他の柱と合流してアンカジ全体を覆う強大なドームを形成していて時折、何かがぶつかったのか波紋のようなものが広がって、まるで水中から揺れる水面を眺めているような、不思議で美しい光景が広がっている建築物的な何かが気になりハジメはビィズにアレはなんなのかと聞いた。

 

「……ビィズ、あの町を覆っているアレは何だ?」

 

「あぁ、アレは〝真意の裁断〟というアーティファクトです」

 

「〝真意の裁断〟?」

 

ビィズに聞くと、どうやら砂の侵入を阻み、空気や水分など必要なものは通す作用がある便利な障壁なのだが、何を通すかは設定者の側で決めることが出来る。そして、単純な障壁機能だけでなく探知機能もあり、何を探知するかの設定も出来る。その探知の設定は汎用性があり、闇系魔法が組み込まれているのか精神作用も探知可能らしい。

 

「へぇ……そこまでの機能を搭載しているのか。しかし、このアーティファクト、見るだけで分かる程の凄い技術だな……」

 

「わかるのですか、ハジメ殿は」

 

「あぁ、一度調べてみたいほどだ」

 

ハジメがそう言うほど〝真意の裁断〟というアーティファクトは魅力的だった。

 

そしてハジメ達は、これまた光り輝く巨大な門からアンカジへと入都した。砂の侵入を防ぐ目的から門まで魔法によるバリア式になっているようだ。門番は、魔力駆動四輪を見ても、驚きはしたがアンカジの現状が影響しているのか暗い雰囲気で覇気もなく、どこか投げやり気味であった。もっとも、四輪の後部座席に次期領主が座っていることに気がついた途端、直立不動となり、兵士らしい覇気を取り戻したが。

 

アンカジの入場門は高台にあった。ここに訪れた者が、アンカジの美しさを最初に一望出来るようにという心遣いらしい。

 

確かに、美しい都だとハジメ達は感嘆した。太陽の光を反射してキラキラときらめくオアシスが東側にあり、その周辺には多くの木々が生えていてい非常に緑豊かだった。オアシスの水は、幾筋もの川となって町中に流れ込み、砂漠のど真ん中だというのに小船があちこちに停泊している。町のいたるところに緑豊かな広場が設置されていて、広大な土地を広々と利用していることがよくわかる。

 

北側は農業地帯のようだ。アンカジは果物の産出量が豊富という話を証明するように、ハジメが〝遠見〟で見る限り多種多様な果物が育てられているのがわかった。西側には、一際大きな宮殿らしき建造物があり、他の乳白色の建物と異なって純白と言っていい白さだった。他とは一線を画す荘厳さと規模なので、あれが領主の住む場所なのだろう。その宮殿の周辺に無骨な建物が区画に沿って規則正しく並んでいるので、行政区にでもなっているのかもしれない。

 

砂漠の国って言うよりも水の都と表現したくなるのがアンカジ公国だった。

 

だが、普段は、エリセンとの中継地であることや果物の取引で交易が盛んであり、また、観光地としても人気のあることから活気と喧騒に満ちた都であるはずが、今は、暗く陰気な雰囲気に覆われていた。通りに出ている者は極めて少なく、ほとんどの店も営業していないようだ。誰もが戸口をしっかり締め切って、まるで嵐が過ぎ去るのをジッと蹲って待っているかのような、そんな静けさが支配していた。

 

「……使徒様やハジメ殿にも、活気に満ちた我が国をお見せしたかった。すまないが、今は、時間がない。都の案内は全てが解決した後にでも私自らさせていただこう。一先ずは、父上のもとへ。あの宮殿だ」

 

一行は、ビィズの言葉に頷き、原因のオアシスを背にして進みだしたのだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「父上!」

 

「ビィズ! お前、どうしっ……いや、待て、それは何だ!?」

 

ビィズの顔パスで宮殿内に入ったハジメ達は、そのまま領主ランズィの執務室へと通された。衰弱が激しいと聞いていたのだが、どうやら治癒魔法と回復薬を多用して根性で執務に乗り出していたらしい。

 

そんなランズィは、一日前に救援要請を出しに王都へ向かったはずの息子が帰ってきたことに驚きをあらわにしつつ、その息子の有様を見て、ここに来るまでの間に宮殿内で働く者達が見せたのと全く同じ様に目を剥いた。

 

無理もない。なにせ、現在ビィズは、宙に浮いているのだから。正確には、宙に浮くクロスビットの上にうつ伏せに倒れる感じで乗っかりつつ運ばれているのである。ビィズも衰弱が激しく、優花の魔法で何とか持ち直し意識ははっきりしているものの、自力で歩行するには少々心許ない有様だった。見かねた優花が肩を貸そうとしたところ、ビィズが顔を赤くして「ああ、使徒様自ら私を……」等といって潤んだ瞳で優花を見つめ始めたので、ハジメが、クロスビットを突貫させて無理やり乗せると、そのまま運んで来たのである。

 

ちなみに、その行為はハジメがただ単に嫉妬でした事なので優花に「病人には優しくしなさい!」と正座させられ叱られてしまった。

 

クロスビットにしがみつきながらという微妙に情けない姿でありながらも、事情説明を手早く済ませるビィズ。話はトントン拍子に進み、執事らしき人が持ってきた静因石の粉末を服用して完治させたビィズに優花が回復魔法を掛けると、全快とまでは行かずとも行動を起こすに支障がない程度には治ったようだ。

 

なお、完治といっても、体内の水分に溶け込んだ毒素がなくなったわけではなく、単に、静因石により効果を発揮できなくなったというだけである。体内の水分に溶け込んでいる以上、時間と共に排出される可能性はあるので、今のところ様子見をするしかない。

 

「じゃあ、そろそろ動くか。優花はシアを連れて医療院と患者が収容されている施設へ。魔晶石も持っていけ。俺達は、水の確保だ。領主、最低でも二百メートル四方の開けた場所はあるか?」

 

「む? うむ、農業地帯に行けばいくらでもあるが……」

 

「なら、優花とシア以外は、そっちだな。シアは、魔晶石がたまったらユエに持って来てやってくれ」

 

ハジメがメンバーに指示を出す。ハジメ達のやることは簡単だ。優花が、ビィズにやったのと同じように、〝廻聖〟を使って、患者たちから魔力を少しずつ抜きつつ、〝万天〟で病の進行を遅らせて応急処置をする。取り出した魔力は魔晶石にストックし、貯まったらそれをユエに渡して水を作る魔力の足しにする。

 

ハジメは、貯水池を作るユエに協力したあと、そのままオアシスに向かい、一応、原因の調査をする。まぁ、分かれば解決してもいいし、分からなければそのまま【グリューエン大火山】に向かう。そういうプランだ。

 

ハジメの号令に、全員が元気よく頷いた。

 

 

現在、領主のランズィと護衛や付き人多数、そしてハジメ、ユエ、ティオ、ミュウはアンカジ北部にある農業地帯の一角に来ていた。二百メートル四方どころかその三倍はありそうな平地が広がっている。普段は、とある作物を育てている場所らしいのだが、時期的なものから今は休耕地になっているそうだ。

 

未だ、半信半疑のランズィは、この非常時に謀ったと分かれば即座に死刑にしてやると言わんばかりの眼光でハジメ達を睨んでいた。藁をも掴む思いで水という生命線の確保を任せたが、常識的に考えて不可能な話なので、ランズィの眼差しも仕方のないものだ。

 

もっとも、その疑いを孕んだ眼差しは、ユエが魔法を行使した瞬間驚愕一色に染まった。

 

「〝壊劫〟」

 

前方の農地に頭上に向けて真っ直ぐにつき出された右手の先に、黒く渦巻く球体が出現する。その球体は、農地の上で形を変え、薄く四角く引き伸ばされていき、遂に二百メートル四方の薄い膜となった。そして、一瞬の停滞のあと、音も立てずに地面へと落下し、そのまま何事もなかったかのように大地を押しつぶした。

 

凄まじい圧力により盛大に陥没する大地。地響きが鳴り響く。それは、さながら大地が上げた悲鳴のようだ。一瞬にして、超重力を掛けられた農地は二百メートル四方、深さ五メートルの巨大な貯水所となった。

 

ハジメがチラリとランズィ達を見ると、お付の人々も含めて全員が、顎が外れないか心配になるほどカクンと口を開けて、目も飛び出さんばかりに見開いていた。衝撃が強すぎて声が出ていないようだ。

 

神代魔法を半分程の出力で放ったユエは、「ふぅ」と息を吐く。魔力枯渇というほどではないが、一気に大量に消費したことに変わりはなく僅かだが倦怠感を感じたのだ。ウルでの戦争時のように魔晶石からストックしてある魔力を取り出してもいいのだが、この後、【グリューエン大火山】に挑むことを考えれば、出来るだけ魔晶石の魔力は温存しておきたい。また、戦争時と違い時間はあるので、ハジメはもう一つの魔力補給方法を実行する。

 

フラリと背後に体を倒れさせるユエだったが、体を支えようともがく仕草は見せない。自分からしたことであるし、そんな事をしなくても倒れないことはわかりきっているからだ。案の定、ポスンと音を立てて、ユエの体はハジメの腕の中に収まった。

 

ユエは、嬉しそうに頬を緩め、ハジメの首に腕を回すと抱きついた。

 

そして、

 

「……いただきます」

 

そのままハジメの首筋に噛み付いた。

 

カプッ! チュ~、

 

ハジメの体から血が流れ出していく。ユエは、うっとりと瞳を潤ませながら、何度も何度もハジメの首筋に舌を這わせた。普段から、その見た目に反してどこか色気を漂わせているユエであったが、吸血するとそれが顕著になる。体全体からフェロモンでも放出しているのではないかと思うほど、妖艶な雰囲気になるのだ。

 

んっ あむっ ぴちゃぴちゃ あふぅ 

 

「ミュウにはこれを見るのはちと早すぎるのぅ……」

 

ランズィは顔を紅くしながらもこちらを真剣にみていた。ティオは流石にミュウに見せるのはまだ早いという分別はあったのか、頬を紅くしながら後ろから目隠しをしていた。ミュウは「見えないの~」としきりに文句を言っていたが背後から抱きしめられ、シアを超える巨乳に後頭部からすっぽり収まってしまっているため抵抗は出来ないようだ。

 

ハジメから血をもらい〝血力変換〟により魔力に変換したユエは、そっと、俺の首筋から体を離すと、一度舌舐りして「……ご馳走様」と言って俺から抱きつくのをやめて地面に降り立った。

 

「ユエ、もう十分か?」

 

「……ん、大丈夫問題ない」

 

そんな会話をしてるとランズィが話しかけて来た。

 

「ハ、ハジメ殿。もしかしてだが、そちらのお嬢さんは……」

 

ハジメはランズィの目を見て、これは誤魔化せないと判断して、苦笑いしながら返事をする。

 

「あ〜、まぁ察してくれないか?」

 

「……うむ、今はコチラとしても緊急事態だからな見なかった事にしよう」

 

「……感謝する」

 

ランズィの言葉に安堵の息を吐いたハジメはユエと仕上げの仕事に取り掛かった。

 

ハジメは、貯水池に降りると、四輪を〝宝物庫〟から取り出し走り出す。四輪についている整地機能で土中の鉱物を〝鉱物分離〟で取り出し、水が吸収されないように貯水池の表面を金属コーティングしているのだ。そして、コーティングを終えて戻ってくると、今度はユエが腕を突き出し、即席の貯水池に水系魔法を行使した。

 

「〝虚波〟」

 

水系上級魔法の一つで、大波を作り出して相手にぶつける魔法だ。普通の術師では、大波と言っても、せいぜい十から二十メートル四方の津波が発生する程度だが、ユエが行使すると桁が変わる。横幅百五十メートル高さ百メートルの津波が虚空に発生し、一気に貯水池へと流れ込んだ。この貯水池に貯められる水の総量は約二十万トン。途中、何度かハジメから吸血をし、魔力を補給して半分ほど溜め込んだ。だが、ハジメの血量にも限界はある。

 

流石にこれ以上、血を吸われては貧血になるという辺りで、現場にシアが飛び込んで来た。手には、優花から預かった魔晶石がある。少量ずつとは言え、数千人規模の患者からドレインした魔力だ。相当な量が蓄えられている。優花が、医療院や施設に趣いてからまだ、二時間も経っていない。その短時間で、それだけの人間に処置を施したという点では、確かに、優花も十分にチートである。

 

シアが、再び、優花の手伝いに戻ったと同時に、ユエは〝虚波〟の連発を再開する。ほどなくして、二百メートル四方の貯水池は、汚染されていない新鮮な水でなみなみと満たされた。

 

「こんなことが……」

 

ランズィは、あり得べからざる事態に呆然としながら眼前で太陽の光を反射してオアシスと同じように光り輝く池を見つめた。言葉もないようだ。

 

「取り敢えず、これで当分は保つだろう。あとは、オアシスを調べてみて……何も分からなければ、稼いだ時間で水については救援要請すればいい」

 

「あ、ああ。いや、聞きたい事は色々あるが……ありがとう。心から感謝する。これで、我が国民を干上がらせずに済む。オアシスの方も私が案内しよう」

 

ランズィはまだ衝撃から立ち直りきれずにいるようだが、それでもすべきことは弁えている様で、ハジメ達への態度をガラリと変えると誠意を込めて礼をした。

 

ハジメ達は、そのままオアシスへと移動する。

 

オアシスは、相変わらずキラキラと光を反射して美しく輝いており、とても毒素を含んでいるようには見えなかった。

 

しかし……

 

「……ん?(魔力反応だと?)」

 

「……ハジメ?」

 

ハジメが、眉をしかめてオアシスの一点を凝視する。様子の変化に気がついたユエがハジメに首を傾げて疑問顔を見せた。

 

「いや、何か、今、魔眼石に反応があってな……領主。調査チームってのはどの程度調べたんだ?」

 

「……確か、資料ではオアシスとそこから流れる川、各所井戸の水質調査と地下水脈の調査を行ったようだ。水質は息子から聞いての通り、地下水脈は特に異常は見つからなかった。もっとも、調べられたのは、このオアシスから数十メートルが限度だが。オアシスの底まではまだ手が回っていない」

 

「オアシスの底には、何かアーティファクトでも沈めてあるのか?」

 

「? いや。オアシスの警備と管理に、〝真意の裁断〟が使われているが、それは地上に設置してある……結界系のアーティファクトでな、オアシス全体を汚染されるなどありえん事だ。事実、今までオアシスが汚染されたことなど一度もなかったのだ」

 

それを聞いてハジメはニヤッと不敵な笑みを見せた。

 

「……へぇ。じゃあ、あれだな原因は」

 

あるはずのないものがあると言われランズィ達が動揺する。ハジメは、オアシスのすぐ近くまで来るとオアシスに手を入れ魔法を放った。

 

「──〝アスタリスク・スパーク〟」

 

ハジメが魔法のトリガーを引いた瞬間……

 

ドゴォオオオ!!!

 

凄まじい雷音と共にオアシスの中央で巨大な水柱が噴き上がった。再び顎がカクンと落ちて目を剥くランズィ達。

 

「ちっ、これも使ってみるか……試験がてらになるし」

 

ハジメはそんなことを言いながら、今度は十個くらいのペットボトルのような形の金属塊を取り出しポイポイとオアシスに投げ込んでいく。そして、やっぱり数秒ほどすると、オアシスのあちこちで大爆発と巨大な水柱が噴き上がった。ハジメが投げ込んだのは、いわゆる魚雷である。この先、エリセン経由で向かう事になる七大迷宮の一つ【メルジーネ海底遺跡】は海の底にあるらしいので(ミレディ情報)、海用の兵器と言えば魚雷だろうと試作品をいくつか作っておいたのである。せっかくだし試してみようと実験がてら放り込んでみたのだ。

 

「(威力は良いが、スピードが足りない)……要改良だな」

 

ちなみに、この魚雷、〝特定感知〟や〝追跡〟を生成魔法により付加された鉱石を組み込んで作成されており、一度、敵をロックオンすると後は自泳して追いかけ、接触により爆発する。つまり、水中の何かは、現在、絶賛未知の兵器に追い掛け回されているということだ。

 

「おいおいおい! ハジメ殿! 一体何をやったんだ! あぁ! 桟橋が吹き飛んだぞ!魚達の肉片がぁ! オアシスが赤く染まっていくぅ!」

 

「……それは、スマンがおい見ろそろそろ元凶のお出ましだ」

 

オアシスの景観が徐々に悲惨な感じで変わっていく様にランズィが悲鳴を上げ部下と共に俺にしがみついて、必死に阻止しようとしたがハジメの言葉で足を止めた。

 

その直後、

 

シュバ!

 

風を切り裂く勢いで無数の水が触手となってハジメ達に襲いかかった。咄嗟に、ドンナー・シュラークで迎撃し水の触手を弾き飛ばす。ユエは氷結させて、ティオは炎で即座に蒸発させて防ぐ。

 

何事かと、オアシスの方を見たランズィ達の目に、今日何度目かわからない驚愕の光景が飛び込んできた。ハジメの度重なる爆撃に怒りをあらわにするように水面が突如盛り上がったかと思うと、重力に逆らってそのまませり上がり、十メートル近い高さの小山になったのである。

 

「なんだ……これは……」

 

ランズィの呆然としたつぶやきが、やけに明瞭に響き渡ったのだった……。

 




編集しました。十一月二十三日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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