ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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五十二話 オアシスに潜むモノ

 

オアシスより現れたそれは、体長十メートル、無数の触手をウネウネとくねらせ、赤く輝く魔石を持っていた。スライム……そう表現するのが一番わかりやすいと思えるぐらい酷似していた。

 

「……バチェラムか?」

 

ハジメはそう思って魔物の名前を口にするが、すぐにそれを否定せざる得なかった。それはサイズがおかしいからだ。通常、バチェラムはせいぜい体長一メートルくらいの筈…それに、周囲の水を操るような力もなかったはずだ。少なくとも触手のように操ることは、自身の肉体以外では出来なかったはずだと記憶していた。

 

「なんだ……この魔物は一体何なんだ? バチェラム……なのか?」

 

呆然とランズィがそんな事を呟く。

 

「俺もそう思ったが違うと思うぞバチェラムに毒素を出す固有魔法を持った個体がいると思うか?」

 

「……確かに、そう考えるのが妥当か。だが、倒せるのか?」

 

ハジメとランズィが会話している間も、まるで怒り心頭といった感じで触手攻撃をしてくるオアシスバチュラム。ユエは氷結系の魔法で、ティオは火系の魔法で対処している。ハジメも、会話しながらドンナー・シュラークで迎撃しつつ、核と思しき赤い魔石を狙い撃つが、魔石はまるで意思を持っているかのように縦横無尽に体内を動き回り、中々狙いをつけさせない。

 

その様子を見て、ランズィが、ハジメの持つアーティファクトやユエ達の魔法に、もう驚いていられるかと投げやり気味にスルーすることを決めて、冷静な態度でハジメに勝算を尋ねた。

 

「ん~……ああ、大丈夫だ。もう捉えたしな」

 

ランズィの質問に対してお座なりな返事をしながら、目を細めジッと動き回る魔石の軌跡を追っていたハジメは、おもむろにシュラークをホルスターにしまうと、ドンナーだけを持って両手で構えた。持ち手の右腕を真っ直ぐ突き出し左肘を曲げて、足も前後に開いている。いわゆるウィーバー・スタンスと言われる射撃姿勢だ。ドンナーによる精密射撃体勢である。

 

ハジメの眼はまるで鷹のように鋭く細められ、魔石の動きを完全に捉えているようだ。そして……

 

ドパンッ!!

 

乾いた破裂音と共に空を切り裂き駆け抜けた一条の閃光は、カクっと慣性を無視して進路を変えた魔石を、まるで磁石が引き合うように、あるいは魔石そのものが自ら当たりにいったかのように寸分違わず撃ち抜いた。

 

レールガンの衝撃と熱量によって魔石は一瞬で消滅し、同時にオアシスバチュラムを構成していた水も力を失ってただの水へと戻った。ドザァー! と大量の水が降り注ぐ音を響かせながら、激しく波立つオアシスを見つめるランズィ達。

 

「……終わったのかね?」

 

「ああ、もう、オアシスに魔力反応はねぇよ。原因を排除した事がイコール浄化と言えるのかは分からないが」

 

ハジメの言葉に、自分達アンカジを存亡の危機に陥れた元凶が、あっさり撃退されたことに、まるで狐につままれたような気分になるランズィ達。それでも、元凶が目の前で消滅したことは確かなので、慌ててランズィの部下の一人が水質の鑑定を行った。

 

「……どうだ?」

 

「……いえ、汚染されたままです」

 

ランズィの期待するような声音に、しかし部下は落胆した様子で首を振った。オアシスから汲んだ水からも人々が感染していたことから予想していたことではあるが、オアシスバチュラムがいなくても一度汚染された水は残るという事実に、やはり皆落胆が隠せないようだ。

 

「まぁ、そう気を落とすでない。ご主人様が元凶を倒した以上、これ以上汚染が進むことはない。新鮮な水は地下水脈からいくらでも湧き出るのじゃから、上手く汚染水を排出してやれば、そう遠くないうちに元のオアシスを取り戻せよう」

 

ティオが慰めるようにランズィ達に言うと、彼等も、気を取り直し復興に向けて意欲を見せ始めた。ランズィを中心に一丸となっている姿から、アンカジの住民は、みながこの国を愛しているのだということがよくわかる。過酷な環境にある国だからこそ、愛国心も強いんだろう。

 

「……しかし、あのバチュラムらしき魔物は一体なんだったのか……新種の魔物が地下水脈から流れ込みでもしたのだろうか?」

 

気を取り直したランズィが首を傾げてオアシスを眺める。それにハジメは可能性だと思われる話だが答えることにした。

 

「おそらく……いや、大方、魔人族の仕業じゃないか?」

 

「!? 魔人族だと? ハジメ殿、貴殿がそう言うからには思い当たる事があるのだな?」

 

ハジメの言葉に驚いた表情を見せたランズィは、しかし、すぐさま冷静さを取り戻し、ハジメに続きを促した。水の確保と元凶の排除を成し遂げたハジメに、ランズィは敬意と信頼を寄せているようで、最初の、胡乱な眼差しはもはや微塵もない。

 

ハジメは、オアシスバチュラムが、魔人族の神代魔法による新たな魔物だと推測していた。それはオアシスバチュラムの特異性もそうだが、ウルの町で先生を狙い、オルクスで勇者一行を狙ったという事実があるからだ。

 

おそらく、魔人族の魔物の軍備は整いつつあるのだろう。そして、いざ戦争となる前に、危険や不確定要素、北大陸の要所に対する調査と打撃を行っているのだ。愛子という食料供給を一変させかねない存在と、聖教教会が魔人族の魔物に対抗するため異世界から喚んだ勇者を狙ったのがいい証拠だ。そして、アンカジは、エリセンから海産系食料供給の中継点であり、果物やその他食料の供給も多大であることから食料関係において間違いなく要所であると言える。しかも、襲撃した場合、大砂漠のど真ん中という地理から、救援も呼びにくい。魔人族が狙うのもおかしな話ではないのだ。

 

それに魔人族側が持ってる神代魔法は唯、魔物を操る魔法ではなく、もしかしたら魔物を今さっきのバチェラムやオルクスにいたアハトドみたいに魔物に新たな固有魔法を注ぎ強化や改造が出来る魔法……ハジメの生成魔法に似たような類いの魔法だろうとハジメは推測する。

 

ハジメは最後に考えていた事以外のことを、ランズィに話すと、彼は低く唸り声を上げ苦い表情を見せた。

 

「魔物のことは聞き及んでいる。こちらでも独自に調査はしていたが……よもや、あんなものまで使役できるようになっているとは……見通しが甘かったか」

 

「まぁ、仕方ないんじゃないか? 王都でも、おそらく新種の魔物なんて情報は掴んでいないだろうし。なにせ、勇者一行が襲われたのも、つい最近だ。今頃、あちこちで大騒ぎだろうよ」

 

「いよいよ、本格的に動き出したということか……ハジメ殿……貴殿は冒険者と名乗っていたが……そのアーティファクトといい、強さといい、やはり優花殿と同じ……」

 

ハジメが、何も答えず肩を竦めると、ランズィは何か事情があるのだろうとそれ以上の詮索を止めた。どんな事情があろうとアンカジがハジメ達に救われたことに変わりはない。恩人に対しては、無用な詮索をするよりやるべき事がある。

 

「……ハジメ殿、ユエ殿、ティオ殿。アンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、国を代表して礼を言う。この国は貴殿等に救われた」

 

そう言うと、ランズィを含め彼等の部下達も深々と頭を下げた。領主たる者が、そう簡単に頭を下げるべきではないのだが、ハジメが〝神の使徒〟の一人であるか否かに関わらず、きっと、ランズィは頭を下げただろう。ほんの少しの付き合いしかないが、それでも彼の愛国心が並々ならぬものであると理解できる。だからこそ、周囲の部下達もランズィが一介の冒険者を名乗るハジメに頭を下げても止めようとせず、一緒に頭を下げているのだ。この辺りは、息子にもしっかり受け継がれているのだろう。仕草も言動もそっくりである。

 

そんな彼等に、ハジメは少し笑みを浮かべながら……

 

「……気にすんな、ただ単に成り行きで助けたまでだ。感謝するならアンタの息子にしとけ」

 

ハジメとしては、優花の頼みでもあったし、ミュウを預けなければならない以上、アンカジの安全確保は必要なことだったので、それほど感謝される程の事でもないし、アンカジのこの状況を見れば、ハジメは動いていたのだろう。

 

「……」

 

ハジメの言葉にランズィは、てっきり「いや、気にしないでくれ。人として当然のことをしたまでだ」等と謙遜しつつ、さり気なく下心でも出してくるかと思っていたので、思わずキョトンとした表情をしてしまう。別にランズィとしては、救国に対する礼は元からするつもりだったので、それでも構わなかったのだが、まさか、まったく下心のない言葉に予想外だった。

 

「しかし、領主としてもハジメ殿にはそれなりに恩を返したい……だが、アンカジには未だ苦しんでいる患者達が大勢いる……それも、頼めるかね?」

 

政治家として、あるいは貴族として、腹の探り合いが日常とかしているランズィは、下心のないハジメの言葉に少し戸惑った様子だったが、やがて何かに納得したのか苦笑いをして頷いた。そして、感染者たちを救うため〝静因石〟の採取を改めて依頼した。

 

「まぁ……もともと、【グリューエン大火山】に用があって来たんだ。そっちも問題ない。ただ、どれくらい採取する必要があるんだ?」

 

あっさり引き受けたハジメにホッと胸を撫で下ろし、ランズィは、現在の患者数と必要な採取量を伝えた。相当な量であったが、ハジメには〝宝物庫〟があるので問題ない。こういうところでも、普通の冒険者では全ての患者を救うことは出来なかっただろうと、ランズィはハジメ達との出会いを神に感謝するのだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

医療院では、優花がシアを伴って獅子奮迅の活躍を見せていた。緊急性の高い患者から魔力を一斉に抜き取っては魔晶石にストックし、半径十メートル以内に集めた患者の病の進行を一斉に遅らせ、同時に衰弱を回復させるよう回復魔法も行使したり、付与術も行使する。

 

シアは、動けない患者達を、その剛力をもって一気に運んでいた。馬車を走らせるのではなく、馬車に詰めた患者達を馬車ごと持ち上げて、建物の上をピョンピョン飛び跳ねながら他の施設を行ったり来たりしている。緊急性の高い患者は、優花が各施設を移動するより、集めて一気に処置した方が効率的だからだ。

 

もっとも、この方法、非力なはずのウサミミ少女の有り得ない光景に、それを見た者は自分も病気にかかって幻覚を見始めたのだと絶望して医療院に駆け込むという姿が多々見られたので、余計に医療院が混乱するという弊害もあったのだが。

 

医療院の職員達は、上級魔法を連発したり、複数の回復魔法を当たり前のように同時行使したり、有り得ない程の付与術を行う優花の姿に、驚愕を通り越すと深い尊敬の念を抱いたようで、今や、全員が優花の指示のもと患者達の治療に当たっていた。

 

そんな優花を中心とした彼等の元に、ハジメ達がやって来る。そして、共にいたランズィより水の確保と元凶の排除がなされた事が大声で伝えられると、一斉に歓声が上がった。多くの人が亡くなり、砂漠の真ん中で安全な水も確保できず、絶望に包まれていた人達が笑顔を取り戻し始める。その知らせは、すぐさま各所に伝えられていき、病に倒れ伏す人々も、もう少し耐えれば助かるはずだと気力を奮い立たせた。

 

「優花、これから【グリューエン大火山】に挑む。どれくらい持ちそうだ?」

 

「ハジメ……」

 

歓声に包まれる医療院において、なお、治療の手を休めない優花にハジメが歩み寄り尋ねた。

 

優花は、ハジメの姿を見て嬉しそうに頬を綻ばせるが、直ぐに真剣な表情となって虚空を見つめた。そして、計算を終えたのか、ハジメを見つめ返して〝二日〟と答えた。それが、魔力的にも患者の体力的にも、持たせられる限界だと判断したのだろう。

 

「ハジメ。私は、ここに残って患者さん達の治療をするわ。だから静因石をお願い。貴重な鉱物らしいけど……大量に必要だからハジメしか頼める人がいないの……攻略の邪魔になるかもしれないけど」

 

「……優花」

 

「ハジメ?っちょ、皆のまっ……ん」

 

優花は、アンカジに来るまでの道中で、ハジメから狂った神の話や旅の目的は聞いており、ハジメがこの世界の神共を殺すことも聞いている上、ハジメの迷宮攻略の邪魔をしたくなく少し俯いていた。

 

それを見たハジメは優花の手を取って自分の元に抱き寄せてから唇を合わせる。優花もいきなりの行動で戸惑うが、ハジメからのキスも顔を紅くしながらも快く受け入れた。

 

「……安心しろ、こんな事ぐらい攻略に支障はねぇよ。……それに、ミュウを人がバッタバッタと倒れて逝く場所に置いて行くわけにも行かないだろ?」

 

「ふふ……ハジメはそうだったわね、頼りにしてる。ごめんなさい。安心して、ミュウちゃんは私がしっかり見てるから」

 

「おう、頼む」

 

優花は、そんなハジメの態度に、「ハジメはそうだもんね」と呟きながら頬を緩め、ハジメの胸元に顔を埋めながら顔を見上げ、信頼と愛情をたっぷり含めた眼差しをハジメに向けた。

 

「私も頑張るから……無事に帰ってきてね。待ってるから……」

 

「ああ」

 

優花の、愛しげに細められた眼差しと、まるで戦地に夫を送り出す妻のような雰囲気に、思わず、見蕩れて再びキスをしようと、お互い顔を近付けていくが……

 

「ん?」

 

しかし、コートをグッ、と誰かに引っ張られてると感じたハジメは後ろに目を向けた先には……ユエがいた。いつか見た、無機質な眼差しでジーとハジメを見ている。すごく見ている。よく見るとシアもティオもジーと見ている。

 

「……んんっ。さっ、行くか」

 

そんな重圧の視線にハジメは、優花とのキスを諦めてさっさと【グリューエン大火山】へと向かうことにした。事前に話は通してあったが、医療院で忙しい優花だけでなく、ランズィにもミュウの世話を改めて頼んでおく。ハジメ達の関係に苦笑い気味のランズィは、快くミュウの世話を引き受けてくれた。

 

あらかじめ言い聞かせてあったものの、ハジメが出発すると雰囲気で察した途端、寂しそうに顔をうつむかせるミュウに、ハジメは膝をついて目線を合わせ、ゆっくり頭を撫でた。

 

「ミュウ、行ってくる。いい子で留守番してるんだぞ?」

 

「うぅ、いい子してるの。だから、早く帰ってきて欲しいの、パパ」

 

「ああ、出来るだけ早く帰る」

 

服の裾をギュッと両手で握り締め、泣くのを我慢するミュウと、それを優しく宥めるハジメの姿は、種族など関係なく、誰が見ても親子だった。修羅場により冷えた空気がほんわかと暖かくなる。ハジメはミュウの背中を押し、優花の方へ行かせる。そして、未だにもジーと見てるユエ、シア、ティオに出発の号令をかけた。

 

踵を返そうとするハジメに、ミュウが爆弾を落とした。

 

「ミュウも、さっきの優花お姉ちゃんみたいにパパとチュウするの~」

 

「はぁっ?!」

 

「……ハジメっ私にも私にも!」

 

「ハジメさん私にもお願いしますぅ!」

 

「妾も欲しいのぉ〜」

 

ミュウ(爆弾)を初めに、便乗したユエ、シア、ティオが順にキスをハジメせがんできた。

 

「いや、待てお前等、此処は人前だし──「……優花とはした」……うっ、でもな……なっ、優花?」

 

流石に人前だとかでやり過ごそうとしたがユエに論破され言葉に詰まったハジメは最後の砦である優花に頼みの眼差しを向けた。

 

「ん〜、それぐらい、良いわよ? ほら、言ったじゃない?私はユエ達なら全然構わないって」

 

その優花の言葉にハジメは優花はユエ達側だと確信し、味方にならないと判断し、諦める。

 

「……優花の許可も得れた」

 

「ま、待て……一旦落ち着こうか……なっ?」

 

無邪気に手を伸ばして来るミュウに、便乗する三人。ハジメが、色々言って躱そうとするが(ミュウには強くは言えない)、遂には、

 

「パパは、ミュウが嫌いなの?」

 

と、涙目でそんな事を言われてはグゥの音も出ない。

 

結局、ミュウの頬にキスをすることになり、今度は、多くの患者が倒れている中で、生暖かな視線を受けるという意味のわからない状況になって、ハジメは逃げるように【グリューエン大火山】へと出発するのだった。

 

ちなみに、ハジメとのキスを望んでいた三人も〝駆動四輪〟を出す前に人が居ないところでユエから順に唇を合わせたキスをした。ユエとは前に一度したが、シアとティオは初めてだったので顔を真っ赤にしていてその反応が初々しくて可愛らしかったとハジメは口にはしなかったがそう思ったのだった……。

 

 

 




編集しました。十一月二十三日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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