ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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五十四話 大火山の深層

 

【グリューエン大火山】たぶん、きっと五十層くらい。

 

それが、現在、ハジメ達のいる階層だ。なぜ〝たぶん〟なのか。それは、ハジメ達の置かれた状況が少々特異なので、はっきりと現在の階層がわからないからである。

 

具体的には、ハジメ達は宙を流れる大河の如きマグマの上を赤銅色の岩石で出来た小舟のようなものに乗ってどんぶらこと流されているのだった。

 

「しくじったな……」

 

自分の判断ミスで溜息を吐きながらそんな事を呟いた。

 

なぜ、ハジメ達がこんな事態になったのは少し前の階層に遡る。そこの階層で攻略しながらも静因石を探していたハジメ達は、相変わらず自分達を炙り続けるマグマが時々不自然な動きを見せていることに気がついた。

 

具体的には、岩などで流れを邪魔されているわけでもないのに大きく流れが変わっていたり、何もないのに流れが急激に遅くなっていたり、宙を流れるマグマでは一部だけ大量にマグマが滴り落ちていたり、というものである。

 

大抵、それは通路から離れたマグマの対岸だったり、攻略の障害にはならなかったので気にも止めていなかったのだが、たまたま〝鉱物系探査〟の効果範囲にその場所が入り、その不自然な動きが〝静因石〟を原因としていることが判明したのである。マグマそのものに宿っているらしい魔力が〝静因石〟により鎮静されて、流れが阻害された結果だったのだ。

 

ハジメ達は、ならば、マグマの動きが強く阻害されている場所に〝静因石〟は大量にあるはずと推測し探した結果、確かに大量の〝静因石〟が埋まっている場所を多数発見したのである。マグマの動きに注意しながら、相当な量の〝静因石〟を集めたハジメ達は、予備用にもう少しだけ集めておこうと、とある場所に向かった。

 

そこは、宙に流れるマグマが大きく壁を迂回するように流れている場所だった。ハジメが錬成を使って即席の階段を作成して近寄り、〝鉱物系探査〟を使うと充分な量の〝静因石〟が埋まっていることがわかった。

 

早速、錬成の〝鉱物分離〟を使い静因石だけを回収するハジメだったが、暑さによる集中力の低下と何度も繰り返した〝静因石〟の回収に油断があったのか、壁の向こう側の様子というものに注意が向いていなかった。

 

自分のミスに気が付いたのは、〝静因石〟を〝宝物庫〟に収納し、その効力が失われた瞬間、〝静因石〟が取り除かれた壁の奥からマグマが勢いよく噴き出した後である。

 

咄嗟に飛び退いたが、噴き出すマグマの勢いは激しく、まるで亀裂の入ったダムから水が噴出し決壊するように、穴を押し広げて一気になだれ込んできた。

 

あまりの勢いに一瞬で周囲をマグマで取り囲まれたハジメ達は、ユエが、障壁を張って凌いでいる間に、ハジメが錬成で小舟を作り出しそれに乗って事なきを得たのである。小舟は、直ぐに灼熱のマグマに熱せられたが、ハジメが〝金剛〟の派生〝付与強化〟により小舟に金剛をかけたので問題はなかった。

 

そして、流されるままにマグマの上を漂っていると、いつの間にか宙を流れるマグマに乗って、階段とは異なるルートで【グリューエン大火山】の深部へと、時に灼熱の急流滑りを味わいながら流されていき、現在に至るというわけだ。

 

ちなみに、マグマの空中ロードに乗ったとき、普通に川底を抜けそうになったのだが、シアが咄嗟に重力魔法〝付与効果〟で小舟の重さを軽減したのでマグマに乗ることができた。〝付与効果〟は、シアが触れているものの重量を、自身の体重と同じように調整出来るというものだ。

 

「あっ、ハジメさん。またトンネルですよ」

 

「そろそろ、標高的には麓辺りじゃ。何かあるかもしれんぞ?」

 

シアが指差した方向を見れば、確かに、ハジメ達が流されているマグマが壁に空いた大穴の中に続いていた。マグマ自体に照らされて下方へと続いていることが分かる。今までも、洞窟に入る度に階層を下げてきたので、普通に階段を使って降りるよりショートカットになっているはずだ。

 

ティオの忠告に頷きながら、いざ、洞窟内に突入していく。マグマの空中ロードは、広々とした洞窟の中央を蛇のようにくねりながら続いている。と、しばらく順調に高度を下げていたマグマの空中ロードだが、カーブを曲がった先でいきなり途切れていた。いや、正確には滝といっても過言ではないくらい急激に下っていたのだ。

 

「またかっ、全員振り落とされるなよ!」

 

内心舌打ちしながらハジメの言葉にユエ達も頷き、小舟の縁やハジメの腰にしがみつく。ジェットコースターが最初の落下ポイントに登るまでの、あのジワジワとした緊張感が漂う中、遂に、ハジメ達の小舟が落下を開始した。

 

ゴウォゴウォ

 

耳元で、そんな風の吹き荒れる音がする。途轍もない速度で激流と化したマグマを、シアの重力魔法を使った体重移動とティオの風によって制御しながら下っていく。マグマの粘性など存在しないとばかりに速度は刻一刻と増していった。

 

ハジメは、靴裏にスパイクを錬成し体を固定しながら、油断なく周囲を警戒する。

 

しかし、こういう時に限って……

 

「ちっ、やっぱり出たか」

 

ハジメは舌打ちすると同時にドンナーを抜き、躊躇いなく引き金を引いた。周囲に轟く炸裂音。それが三度響くと共に三条の閃光が空を切り裂いて目標を違わず撃破する。襲いかかってきたのは翼からマグマを撒き散らすコウモリだった。

 

このマグマコウモリは、一体一体の脅威度はそれほど高くない。かなりの速度で飛べることとマグマ混じりの炎弾を飛ばすくらいしか出来ない。雑魚同然の敵である。

 

だが、マグマコウモリの厄介なところは、群れで襲って来るところだ。一匹見つけたら三十匹はいると思え、という黒いGのような魔物で、岩壁の隙間などからわらわらと現れるのである。

 

今も、三羽のマグマコウモリを瞬殺したが、案の定、激流を下る際の猛スピードがもたらす風音に紛れて、おびただしい数の翼がはためく音が聞こえ始めた。

 

「……ハジメ、左と後ろ、任せて」

 

「ああ、任せた。シア、ティオ、船の制御は頼んだ」

 

「はいです!」

 

「うむ、任された」

 

ティオの冗談とも本気ともつかない変態発言はスルーして、ハジメとユエが小舟の上で対角線上に背中合わせになった直後、マグマコウモリの群れがその姿を見せた。

 

それはもう、一つの生き物といっても過言ではない。おびただしい数のマグマコウモリは、まるで鳥類の一糸乱れぬ集団行動のように一塊となって波打つように動き回る。その姿は傍から見れば一匹の龍のようだ。翼がマグマを纏い赤く赤熱化しているので、さながら炎龍といったところだろう。

 

一塊となって迫ってきたマグマコウモリは、途中で二手に分かれると、前方と後方から挟撃を仕掛けてきた。いくら一体一体が弱くとも、一つの巨大な生き物を形取れる程の数では、普通は物量で押し切られるだろうがハジメには通じない。

 

「殲滅してやるよ」

 

ハジメはそう呟き、〝宝物庫〟から〝メツェライ〟を取り出すと、腰だめに構えて、そのトリガーを引いた。

 

ドゥルルルルルル!!

 

独特の射撃音を響かせながら、恐るべき威力と連射を遺憾無く発揮した殺意の嵐は、その弾丸の一発一発を以て遥か後方まで有無を言わせず貫き通す。洞窟の壁を破砕するまでの道程で射線上にいたマグマコウモリは、一切の抵抗も許されず粉砕され地へと落ちていった。

 

「ほらよ。追加だ」

 

更に、ハジメはオルカンを取り出すと〝メツェライ〟を持つ手とは反対の手で肩に担ぎ、容赦なくその暴威を解放した。火花の尾を引いて飛び出したロケット弾は、メツェライの弾幕により中央に固められた群れのど真ん中に突き刺さり、轟音と共に凄絶な衝撃を撒き散らした。

 

結果は明白。木っ端微塵に砕かれたマグマコウモリの群れは、その体の破片を以て一時のスコールとなった。そして、後方から迫っていたマグマコウモリも同じようなものだ。

 

「〝嵐龍〟」

 

ユエが右手を真っ直ぐ伸ばし、そう呟いた瞬間、緑色の豪風が集まり球体を作った。そして瞬く間に、まるで羽化でもするかのように球形を解いて一匹の龍へと変貌する。緑色の風で編まれた〝嵐龍〟と呼ばれた風の龍は、マグマコウモリの群れを一睨みすると、その顎門を開いて哀れな獲物を喰らい尽くさんと飛びかかった。

 

当然、マグマコウモリ達は、炎弾を放ちつつも、〝嵐龍〟を避けるように更に二手に分かれて迂回しようとした。しかし、ユエの〝龍〟は、その全てが重力魔法との複合魔法だ。当然、〝嵐龍〟も唯の風で編まれただけの龍ではなく、風刃で構成され、自らに引き寄せる重力を纏った龍であり、一度、発動すれば逃れることは至難だ。

 

マグマコウモリ達は、いつか見た〝雷龍〟や〝蒼龍〟の餌食となった魔物達のように、抗うことも許されず〝嵐龍〟へと引き寄せられ、風刃の嵐に肉体を切り刻まれて血肉を撒き散らし四散した。なお、ユエが〝雷龍〟や〝蒼龍〟を使わなかったのは、マグマコウモリが熱に強そうだった事と、翼を切り裂けば事足りると判断したためである。

 

最後に、〝嵐龍〟は群れのど真ん中で弾け飛ぶと、その体を構成していた幾百幾千の風刃を全方向に撒き散らし、マグマコウモリの殲滅を完了した。

 

「う~む、ご主人様とユエの殲滅力は、いつ見ても恐ろしいものがあるのぉ」

 

「流石ですぅ!」

 

「お前達もよくやったよ」

 

小舟を制御して激流に上手く乗りながら、ティオとシアが苦笑い気味に称賛を送る。それに肩を竦めつつメツェライとオルカンを〝宝物庫〟にしまったハジメは、得意気に胸をはるユエの頭を撫で、シアのウサミミを軽く撫で、ティオには頭をポンと手を置き、前方に視線を戻した。ユエ達も、頭を撫でられたりしたことに目元を緩めて嬉しそうにしながら視線を周囲の警戒に戻す。

 

マグマの激流空中ロードを、魔物に襲われながら下っているというのに結構余裕のあるハジメ達。だが、その余裕に釘を刺したかったのか、今まで下り続けていたマグマが突然上方へと向かい始めた。

 

勢いよく数十メートルを登ると、その先に光が見えた。洞窟の出口だ。だが、問題なのは、今度こそ本当にマグマが途切れていることであった。

 

「!──掴まれ!」

 

ハジメの号令に、再び、小舟にしがみつくユエ達。小舟は、激流を下ってきた勢いそのままに猛烈な勢いで洞窟の外へと放り出された。

 

襲い来る浮遊感に、ハジメは素早く周囲の状況を把握する。飛び出した空間は、かつて見た【ライセン大迷宮】の最終試練の部屋よりも尚、広大な空間だった。

 

【ライセン大迷宮】の部屋と異なり球体ではなく、自然そのままに歪な形をしているため正確な広さは把握しきれないが、少なくとも直径三キロメートル以上はある。地面はほとんどマグマで満たされており、所々に岩石が飛び出していて僅かな足場を提供していた。周囲の壁も大きくせり出している場所もあれば、逆に削れているところもある。空中には、やはり無数のマグマの川が交差していて、そのほとんどは下方のマグマの海へと消えていっている。

 

ぐつぐつと煮え立つ灼熱の海とフレアのごとく噴き上がる火柱。地獄の釜というものがあるのなら、きっとこんな光景に違いない。ハジメ達は、ごく自然にそんな感想を抱いた。だが、なにより目に付いたのは、マグマの海の中央にある小さな島だ。海面から十メートル程の高さにせり出ている岩石の島。それだけなら、ほかの足場より大きいというだけなのだが、その上をマグマのドームが覆っているのである。まるで小型の太陽のような球体のマグマが、島の中央に存在している異様さは視線を奪うには十分だった。

 

「〝風よ〟」

 

飛び出した勢いでひっくり返った小舟を、ティオが空中で立て直し、それぞれ己の姿勢を制御して再び乗り込んだ。ユエが、小舟の落下速度を〝来翔〟で調整する。柔らかくマグマの海に着地した小舟の上で、明らかに今までと雰囲気の異なる場所に、警戒を最大にする。

 

「……あそこが住処?」

 

ユエが、チラリとマグマドームのある中央の島に視線をやりながら呟く。

 

「階層の深さ的にも、そう考えるのが妥当だが、そうなると……」

 

「最後のガーディアンがいるはず……じゃな? ご主人様よ」

 

「ショートカットして来たっぽいですし、とっくに通り過ぎたと考えてはダメですか?」

 

ハジメの考えをティオが確認し、僅かな異変も見逃さないと鋭い視線を周囲に配る。そんなハジメ達の様子に気を引き締めながらも、シアがとある方向を見ながら楽観論を呟いてみた。

 

ハジメが、シアの視線をたどると、大きな足場とその先に階段があるのが見えた。おそらく、正規のルートをたどれば、その階段から出てくることになるんだと推測する。

 

しかし、いくらマグマの空中ロードに乗って流れてくることが普通は有り得ないことだとしても、大迷宮の最終試練までショートカット出来たと考えるのは楽観が過ぎるというものだ。シアも、そうだったらいいなぁ~と口にしつつも、その鋭い表情はまるで信じていない事を示している。

 

その警戒が正しかった事は、直後、宙を流れるマグマから、マグマそのものが弾丸のごとく飛び出してくるという形で証明された。

 

「むっ、任せよ!」

 

ティオの掛け声と共に魔法が発動し、マグマの海から炎塊が飛び出して頭上より迫るマグマの塊が相殺された。

 

しかし、その攻撃は唯の始まりの合図に過ぎなかったようだ。ティオの放った炎塊がマグマと相殺され飛び散った直後、マグマの海や頭上のマグマの川からマシンガンのごとく炎塊が撃ち放たれたのだ。

 

「ちっ、散開だ!」

 

このままでは、小舟ごと今いる場所に釘付けにされると判断したハジメは、小舟を放棄して近くの足場に散開するように指示を出した。凄まじい物量の炎塊が一瞬前までいた小舟を粉砕し、マグマの海へと沈めていく。

 

ハジメ達は、それぞれ別の足場に着地し、なお、追ってくるマグマの塊を迎撃していった。迎撃そのものは切羽詰るというほどのものではなかったのだが、いつ終わるともしれない波状攻撃に苛立たしげな表情を俺は見せる。それは、マグマの海により、景色が歪むほど熱せられた空気も原因だろう。

 

そんな状況を打開すべく、ハジメは、ガンスピンしてドンナー・シュラークのリロードを終えると同時に、振り返らず肩越しにシュラークの銃口を真後ろに向けた。そして、前方に向けた義手の肘から散弾を発射してマグマの塊を迎撃しつつ、背後でユエに迫っていたマグマの塊を、シュラークの連射で撃ち落としていく。

 

その意図を、言葉はなくとも正確に読み取ったユエは、一瞬出来た隙をついて重力魔法を発動させる。

 

「〝絶禍〟」

 

響き渡る魔法名と共に四人の中間地点に黒く渦巻く球体が出現し、飛び交うマグマの塊を次々と引き寄せていった。黒き小さな星は、呑み込んだ全てを超重力のもと押し潰し圧縮していく。

 

「いっそ、乗り込むか」

 

ユエの魔法により炎塊の弾幕に隙ができ、ハジメは、〝空力〟で宙を跳ぶと一気にマグマドームのある中央の島へと接近した。

 

ハジメ達を襲う弾幕で一番厄介なのは、止める手段が目に見えないことだ。場所的に、明らかに【グリューエン大火山】の最終試練なのだが、今までの大迷宮と異なり目に見える敵が存在しないので、何をすればクリアと判断されるのかが分からない。そのため、もっとも怪しい中央の島に乗り込んでやろうと思い至ったのだ。

 

ハジメは、中央の島へと宙を駆けながら〝念話〟を使ってユエに連絡を取る。

 

〝中央の島を調べる。援護を頼む〟

 

〝了解〟

 

ユエの〝絶禍〟の効果範囲からマグマの塊がハジメを襲うが、そうはさせじとティオがマグマの海より無数に炎弾を飛ばして迎撃し、シアもドリュッケンを戦鎚に展開せずショットガンモードで迎撃していく。ユエは、〝絶禍〟を展開維持しながら、更にティオと同じく炎弾をマグマの海より作り出して迎撃に当たった。

 

ユエ達の援護をもらって、一直線に中央の島へと迫ったハジメは、〝空力〟による最後の跳躍を行い飛び移ろうとした。

 

だが、その瞬間、

 

「ゴォアアアアア!!!」

 

「っ?!──下かっ!」

 

そんな腹の底まで響くような重厚な咆哮が響いたかと思うと、宙を飛ぶ俺の直下から大口を開けた巨大な蛇が襲いかかってきた。その巨大な蛇は全身にマグマを纏わせているせいか、周囲をマグマで満たされたこの場所では熱源感知にも気配感知にも引っかからず、そして、マグマの海全体に魔力が満ちているようなので魔力感知にも引っかからなかったことから、完全な不意打ちと形になってしまった。

 

「チィっ……!」

 

ハジメは不意打ちの形を取られながらも、超人的な反応速度で体を捻ると、辛うじてその顎門による攻撃を回避していく。

 

一瞬前までハジメがいた場所を、マグマ蛇がバクンッ! と口を閉じながら通り過ぎる。ハジメは、空中で猫のように体を反転させながら、銃口を通り過ぎるマグマ蛇の頭に照準し発砲した。必殺の破壊力を秘めた閃光が狙い違わずマグマ蛇の頭を捉え、弾き飛ばすが……

 

「なにっ!?」

 

マグマ蛇は健在であり、ハジメは驚愕の声をあげる。マグマ蛇の頭部は確かに弾け飛んだのだが、それはマグマの飛沫が飛び散っただけであり、中身が全くなかったのだ。今までの【グリューエン大火山】の魔物達は、基本的にマグマを身に纏ってはいたが、それはあくまで纏っているのであって肉体がきちんとあった。断じて、マグマだけで構成されていたわけではない。

 

ハジメは直ぐに立ち直ると、物は試しにと頭部以外の部分を滅多撃ちにした。幾条もの閃光が情け容赦なくマグマ蛇の体を貫いていくが、やはり、どこにも肉体がないことを確認する。

 

「どうやら、ホントにこの蛇はマグマだけで構成されてるらしいな」

 

ハジメは眉を顰めながらもも、取り敢えず、体のあちこちを四散させたことでマグマ蛇を行動不能に出来たので、その脇を通り抜け〝空力〟で中央の島へ再度跳ぼうとした。

 

だが、マグマ蛇の攻撃は、まだ終わってなく、ハジメが、脇を抜けようとした瞬間、頭部を失い体中を四散させておきながらも突如身をくねらせ体当たりをした。

 

「チッ……面倒なっ!」

 

ハジメは、義手のショットシェルを激発させ、その反動で体を流しギリギリ回避に成功した。

 

「ふぅ……ッ!」

 

一息吐いた瞬間、ハジメの背筋を悪寒が駆け抜けた。ハジメは、本能に従って、間髪入れず義手のショットシェルを連続して激発させながら、〝空力〟も併用してその場を高速で離脱する。

 

すると、ハジメの軌跡を追うようにしてマグマの海からマグマ蛇が次々と飛び出し、その巨大な顎門をバクンッ! バクンッ! と閉じていった。

 

「あっ、ぶねぇ……」

 

ハジメは、宙をくるくると回りながら後退すると近くの足場に着地する。その傍にユエ達もやって来た。ハジメが襲われている間に、炎塊の掃射は一時止んだようだ。

 

「……ハジメ、無事?」

 

「ああ、問題ない。それより、ようやく本命が現れたようだ」

 

ハジメの腕にそっと触れながら安否を気遣うユエに、ハジメは前方から目を逸らさず、そっと触れ返すことで応える。その目には、ザバァ! と音を立てながら次々と出現するマグマ蛇の姿が映っていた。

 

「やはり、中央の島が終着点のようじゃの。通りたければ我らを倒していけと言わんばかりじゃ」

 

「でも、さっきハジメさんが撃った相手、普通に再生してますよ? 倒せるんでしょうか?」

 

遂に二十体以上のマグマ蛇がその鎌首をもたげ、ハジメ達を睥睨するに至った。最初に、ハジメから銃撃を受けたマグマ蛇も、既に再生を終え何事もなかったかのように元通りの姿を晒している。

 

シアが、眉をしかめてその点を指摘した。ライセン大迷宮のときは、再生する騎士に動揺していたというのに、今は、冷静に攻略方法を考えているようだ。それを示すようにウサミミがピコピコと忙しなく動き回っている。ハジメは、随分と逞しくなったものだと苦笑いしつつ、自分の推測を伝えた。

 

「おそらく、バチュラム系の魔物と同じで、マグマを形成するための核、魔石があるんだろう。マグマが邪魔で俺の魔眼でも位置を特定出来ないが……それをぶち壊すしか攻略法はないな」

 

ハジメの言葉に全員が頷くのと、総数二十体のマグマ蛇が一斉に襲いかかるのは同時だった。

 

マグマ蛇達は、まるで、太陽フレアのように噴き上がると頭上より口から炎塊を飛ばしながら急迫する。二十体による全方位攻撃だ。普通なら逃げ場もなく大質量のマグマに呑み込まれて終わりだろう。

 

「ティオ!」

 

「わかったのじゃ!久しぶりの一撃存分に味わうが良い!」

 

ハジメの掛け声に反応したティオはそう言って揃えて前に突き出された両手の先には、膨大な量の黒色魔力。それが瞬く間に集束・圧縮されていき、次の瞬間には、一気に解き放たれた。

 

それは竜人族のブレスだ。

 

かつて、ハジメをして全力の防御を強いた恐るべき威力を誇る黒色の閃光は、ティオの正面から迫っていたマグマ蛇を跡形もなく消滅させ、更に横薙ぎに振るわれたことにより、あたかも巨大な黒色閃光のブレードのようにマグマ蛇達を消滅させていった。

 

一気に八体ものマグマ蛇が消滅し、それにより出来た包囲の穴から、ハジメ達は一気に飛び出した。

 

「クハッ……流石は大迷宮っ」

 

矢張りと言うべきか跡形もなく消し飛ばされれば、魔石がどこにあろうとも一緒に消滅しただろうと思われたが、そう簡単には行かなく、ハジメは苦笑いしながら悪態を吐きながら、マグマ蛇を見る。

 

ハジメ達が数瞬前までいた場所に着弾した十二体のマグマ蛇は、足場を粉砕しながらマグマの海へと消えていったものの、再び出現する時には、きっちり二十体に戻っていてハジメはマグマ蛇を見ながらハジメは疑問を呈す。

 

「しかし、魔石が吹き飛んだ瞬間は確認したぞ? 倒すことがクリア条件じゃないのか?」

 

確かにハジメはティオのブレスがマグマ蛇に到達した瞬間から〝瞬光〟を発動し、跳ね上がった動体視力で確かにマグマ蛇の中に魔石がありブレスによって消滅した瞬間を確認した筈だ。

 

そんな事を思いながらハジメが迷宮攻略の方法に考えていると、シアが中央の島の方を指差し声を張り上げた。

 

「ハジメさん! 見て下さい! 岩壁が光ってますぅ!」

 

「なに?」

 

言われた通り中央の島に視線をやると、確かに、岩壁の一部が拳大の光を放っていた。オレンジ色の光は、先程までは気がつかなかったが、岩壁に埋め込まれている何らかの鉱石から放たれているようだった。

 

ハジメが〝遠見〟で確認すると、保護色になっていてわかりづらいが、どうやら、かなりの数の鉱石が規則正しく中央の島の岩壁に埋め込まれているようだとわかった。中央の島は円柱形なので、鉱石が並ぶ間隔と島の外周から考えると、ざっと百個の鉱石が埋め込まれている事になる。そして、現在、光を放っている鉱石は八個……先程、ティオが消滅させたマグマ蛇と同数だった。

 

「なるほどな……このマグマ蛇を百体倒すってのがクリア条件ってところか」

 

「……この暑さで、あれを百体相手にする……迷宮のコンセプトにも合ってる」

 

ただでさえ暑さと奇襲により疲弊しているであろう挑戦者を、最後の最後で一番長く深く集中しなければならない状況に追い込む。

 

確かに、ハジメ達も相当精神を疲労させている。しかし、その表情には疲労の色はなく、攻略方法を見つけさえすればどうとでもしてやるという不敵な笑みしか浮かんでいなかった。

 

そうして全員が、やるべき事を理解して気合を入れ直した直後、再び、マグマ蛇達が襲いかかった。マグマの塊が豪雨のごとく降り注ぎ、大質量のマグマ蛇が不規則な動きを以て獲物を捉え焼き尽くさんと迫る。

 

ハジメ達は再び散開し、それぞれ反撃に出た。

 

ティオが竜の翼を背から生やし、そこから発生させた風でその身を浮かせながら、真空刃を伴った竜巻を砲撃の如くぶっ放す。風系統の中級攻撃魔法〝砲皇〟だ。

 

「これで九体目じゃ! 今のところ妾が一歩リードじゃな。ご主人様よ!妾が一番多く倒したらご褒美を所望するぞ! もちろん、二人っきりで一晩じゃ!もちろん優花からの許可は貰っておるぞ!」

 

九体目のマグマ蛇を吹き飛ばし切り刻みながら、そんな事をのたまうティオ。呆れた表情で「いつの間に許可を貰ってんだよ」と呟くハジメだったが、シアがそれを遮る。

 

「なっ!ティオさんだけずるいです!私も参戦しますよ! ハジメさん、私も勝ったら一晩ですぅ!」

 

「えっ? あっ、おっ───」

 

そんな事を叫びながら、シアは、跳躍した先にいるマグマ蛇の頭部にドリュッケンを上段から振り下ろした。インパクトの瞬間、淡青色の魔力の波紋が広がり、次いで凄絶な衝撃が発生。頭部から下にあるマグマの海まで一気に爆砕した。弾けとんだマグマ蛇の跡にキラキラした鉱物が舞っている。〝魔衝波〟の衝撃により砕かれた魔石だ。

 

一体のマグマ蛇を屠った空中のシアに、背後からマグマの塊が迫る。シアは、ドリュッケンを激発させ、その反動で回避した。しかし、それを狙っていたかのように、シアが落ちる場所にマグマ蛇が顎門を開いて襲いかかる。

 

しかし、シアは特に焦ることもなく、背中のホルスターから取り出した一枚の円盤を宙に放り投げた。その直径三十センチ程の大きさの円盤は、落下することなくシアの少し下方で宙に浮き、シアは、その上を足場にして重さを感じさせずに再度宙を舞った。

 

この円盤は、クロスビット等と同じ原理の空飛ぶ足場で、シアの意思に従って感応石により操作される。これに、シア自身の体重操作が加われば、まさに〝宙を舞う〟という戦闘が可能になる。目測を外されシアの下方を虚しく通り過ぎるマグマ蛇に、シアは変形させたドリュッケンの銃口を向けてトリガーを引いた。撃ち放たれたのはいつもの散弾ではなくスラッグ弾だ。

 

ただし、普通のスラッグ弾ではない。ハジメ特製の〝魔衝波〟が付与された特殊鉱石を使った弾丸で、着弾と同時に込められた魔力が衝撃波に変換される。威力だけなら、グレネード弾を遥かに凌ぐレベルだ。

 

ドリュッケンの咆哮と共に飛び出した炸裂スラッグ弾は、狙い違わず背後からマグマ蛇に直撃し、頭部から胴体まで全てを巻き込んで大爆発を起こした。その衝撃で、再び、砕け散った魔石がキラキラと宙を舞う。

 

「おい、コラお前等。俺の……」

 

「……なら、私も二人っきりで一晩か優花も入れて三人で一晩」

 

「おい、ユエっ! お前は何言ってんだ!」

 

ハジメは、ティオとシアの勝手な競争にツッコミを入れようと口を開いたが、それを遮ってユエも討伐競争に参戦の意を示し、内容が内容でツッコンでしまった。

 

ユエは、楽しみという雰囲気を醸し出しながら、しかし、魔法についてはどこまでも凶悪なものを繰り出した。最近十八番の〝雷龍〟である。

 

ただし、熟練度がどんどん上がっているのか、出現した〝雷龍〟の数は七体。それをほぼ同時に、それぞれ別の標的に向けて解き放った。雷鳴の咆哮が響き渡る。ユエに喰らいつこうとしていたマグマ蛇達は、逆にマグマの塊などものともしない雷龍の群れに次々と呑み込まれ、体内の魔石ごと砕かれていった。

 

その光景を見て、「やっぱり、ユエさんが一番の強敵ですぅ!」とシアが、「ユエはバグっとるよ! 絶対、おかしいのじゃ!」とティオが、それぞれ焦りの表情を浮かべて悪態をつきつつ、より一層苛烈な攻撃を繰り出し、討伐数を伸ばしていった。

 

「はぁ……まぁ別に、いいけどな。楽しんでいるようだし……しかし戻ったら優花を問い詰めねぇとな」

 

ハジメは、そんな自分が景品になっている競争に闘志を燃やす女子三人に肩を竦め愛しの彼女の元に戻ったら問い詰めようと考えながら若干、諦めた感を醸し出しだすも、背後から襲いかかってきたマグマ蛇に、振り向くことなく肩越しにシュラークを連射する。

 

放たれた弾丸は、マグマ蛇の各箇所に均等に着弾し衝撃を以てそのマグマの肉体を吹き飛ばした。同時に、衝撃で魔石が宙を舞う。ハジメは、すっと半身になって前方から飛んできたマグマの塊をかわしながら、右のドンナーでマグマの海に落ちる寸前の魔石をピンポイントで撃ち抜いていく。

 

ハジメがシュラークで放った弾丸も、シアに渡したのと同じ炸裂弾だ。ただ、弾丸の大きさの問題で、炸裂スラッグ弾程の威力はでない。もちろん、シュラーゲンなどを使えば、それ以上の破壊力をもたらす事もできるが、今回は、初使用なので実験も兼ねて二丁の拳銃でも使用している。

 

拳銃サイズの弾丸では、一撃でマグマ蛇を魔石ごと吹き飛ばす威力はないため、ハジメは、大体二発ほど撃ってマグマの鎧を衝撃で吹き飛ばし、露出した魔石をドンナーでピンポイント狙撃する方法を取った。当然、レールガンならマグマの鎧など無視して魔石を貫通できるが、貫通力が高すぎて、位置を特定しづらい魔石を狙うには不適当だったのだ。

 

「……遅ぇよ」

 

更に、二体のマグマ蛇が左右から挟撃するが、〝空力〟と〝縮地〟で高速離脱すると、空中で上下逆さになり、シュラークを発砲する。

 

ドォパァアン!!

 

響く炸裂音は一発。しかし、解き放たれた殺意の塊は四発。猛烈な勢いで以て左右から襲いかかったマグマ蛇達は、突如、見失った獲物に混乱する暇もなく直上から襲い来た衝撃にマグマの体を四散させ、核となっていた魔石を露出させる。

 

同時に、ドンナーから放たれた二条の閃光が、一ミリの狂いもなく二つの魔石を撃ち抜き粉砕した。

 

気が付けば、中央の島の岩壁、その外周に規則正しく埋め込まれた鉱石は、そのほとんどを発光させており、残り八個というところまで来ていた。本格的な戦闘が始まってから、まだ十分も経っていない。

 

【グリューエン大火山】のコンセプトが、悪環境による集中力低下状態での長時間戦闘だという推測が当たっていたのだとしたら、ハジメ達に対しては、完全に創設者の思惑は外れてしまったと言えるだろうな。

 

ティオのブレスが、マグマ蛇をまとめてなぎ払う。

 

――残り六体

 

シアの、ドリュッケンによる一撃と、ほぼ同時に放たれた炸裂スラッグ弾がマグマ蛇をまとめて爆砕する。

 

――残り四体

 

ユエに対し、直下のマグマの海から奇襲をかけて喰らいつこうとしたマグマ蛇と直上から挟撃をしかけたマグマ蛇が、とぐろを巻いてユエを包み込んだ〝雷龍〟に阻まれ、立ち往生する。そして次の瞬間、その二体のマグマ蛇を四体の〝雷龍〟が逆に挟撃し、喰らい尽くす。

 

――残り二体

 

ハジメに、急速突進してきたマグマ蛇がマグマの塊を散弾のごとく撒き散らす。しかし、ゆらりゆらりと木の葉が舞うようにマグマの塊をかわしていき、マグマ蛇が喰らいつこうとした瞬間、交差しながらシュラークを発砲し弾け飛びながら慣性に従って吹き飛んだ魔石を見もせずにドンナーで狙撃し粉砕した。

 

遂に最後の一体となったマグマ蛇が、直下のマグマの海から奇襲をかけ、そのまま直上に〝空力〟で飛び上がると、真下からガバッと顎門を開いて迫るマグマ蛇の口内に向けてシュラークを発砲した。

 

着弾と同時に紅い衝撃波が撒き散らされ飛び散るマグマの隙間から僅かに魔石が姿を現す。ハジメは、右のドンナーを構えた。ユエ達が満足気な眼差しでハジメが最後の一撃を放つところを見つめている。

 

「これで、終わりだ」

 

それを視界の端に捉えながら、俺は【グリューエン大火山】攻略のための最後の一発を放った。

 

――その瞬間

 

「───ッ?!」

 

ズドォオオオオオオオオ!!!!

 

頭上より、極光が降り注いだ。

 

まるで天より放たれた神罰の如きそれは、ハジメがかつて瀕死の重傷を負った光。いや、それより遥かに強力かも知れない。大気すら悲鳴を上げるその一撃は、攻撃の瞬間という戦闘においてもっとも無防備な一瞬を狙って放たれ――ハジメを、最後のマグマ蛇もろとも呑み込んでいったのだった……。

 




編集しました。十一月二十四日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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