ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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五十六話 灼熱の中の脱出・ある幻想の追憶

 

「何とか守れたな……」

 

「? ……ハジメ?」

 

「ハジメさん?」

 

小極光の豪雨に晒されながら、突然、呟いたハジメに、ユエとシアが訝しそうな表情を向ける。ハジメは、何でもないと頭を振って、二人に支えられながら何とか跳躍し、中央の島の端に足をかけた。

 

ティオが飛び立ってから、周囲のマグマは益々荒々しさを増し、既に中央の島以外の足場はマグマの海に沈んでしまった。五分もしない内に中央の島も呑み込まれるだろう。

 

降り注ぐ小極光をユエの〝絶禍〟が呑み込み、焦れた灰竜が直接攻撃を仕掛けてきてはシアのドリュッケンによりマグマの中に叩き落とされるということを繰り返す。灰竜の数も十体を切っていた。

 

中央の島には、最初に見たマグマのドームはなくなっていて、代わりに漆黒の建造物がその姿を見せていた。その傍らには、地面から数センチほど浮遊している円盤がある。真上がさっきまで開いていた天井のショートカット用出口だったので、本来は、これに乗って地上に出るのだろう。

 

ハジメ達は、灰竜達がハジメ達への攻撃よりも噴出するマグマ柱の回避に必死になり始めたのを尻目に、漆黒の建造物へと近づいた。

 

一見、扉などない唯の長方体に見えるが、壁の一部に毎度お馴染みの七大迷宮を示す文様が刻まれている場所があった。ハジメ達が、その前に立つと、スっと音もなく壁がスライドし、中に入ることが出来た。ハジメ達が中に入るのと、遂にマグマが中央の島をも呑み込もうと流れ込んできたのは同時だった。再び、スっと音もなく閉まる扉が、流れ込んできたマグマを間一髪でせき止める。

 

しばらく、扉を見つめていたハジメ達だったが、扉が溶かされてマグマが流れ込むということもないようなので、ホッと安堵の吐息を漏らした。

 

「一先ず、安心だな……それにしても、この部屋は振動も遮断するのか……凄いな」

 

「ん……ハジメ、あれ」

 

「魔法陣ですね」

 

ハジメは部屋に入った途端、大地震クラスの振動を感じなくなったことに驚き、その呟きに応じながら、傍らのユエが指を差す。その先には、複雑にして精緻な魔法陣があった。神代魔法の魔法陣だ。俺達は互いに頷き合い、その中へ踏み込んだ。

 

【オルクス大迷宮】の時と同じように、記録が勝手に溢れ出し迷宮攻略の軌跡が脳内を駆け巡る。そして、マグマ蛇を全て討伐したところで攻略を認められたようで、脳内に直接、神代魔法が刻み込まれていった。

 

「……やっぱり此処の神代魔法は空間操作の魔法か」

 

「……瞬間移動のタネ」

 

「ああ、あのいきなり背後に現れたやつですね」

 

そんな事を思ってるとユエが、フリードの奇襲について言及する。最初の奇襲も、おそらく、空間魔法を使ってあの場に現れ攻撃したのだろうとハジメと同じ予想に至った。

 

空間転移か空間を歪めて隠れていたのかは分からないが、厄介なことに変わりはない、二度目の奇襲も、咄嗟にシアが〝未来視〟の派生〝仮定未来〟を行使しなければ、ハジメは直撃を受けていたかもしれない。

 

ハジメ達が空間魔法を修得し、魔法陣の輝きが収まっていくと同時に、カコンと音を立てて壁の一部が開き、更に正面の壁に輝く文字が浮き出始めた。

 

〝人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを 切に願う───ナイズ・グリューエン〟

 

「……シンプルだな」

 

そのメッセージを見て、ハジメは素直にそう抱くと同時に、周りも見ると殺風景だと感じる。オルクスとは違って生活感がまるでないなく、本当に此処は魔法陣があるだけの部屋だと思われる。

 

「……身辺整理でもしたみたい」

 

「ナイズさんは魔法以外、何も残さなかったみたいですね」

 

「らしいな。オスカーの手記にもナイズってやつも出てたな。すごく寡黙なやつだったみたいだってアレ…攻略の証じゃないか?ユエ頼めるか?」

 

「……ん」

 

ハジメはユエに頼むとユエはハジメを支える役をシア一人に任せて、拳サイズの開いた壁のところに行き、中に入っていたペンダントを取り出した。それを、そっとハジメの首にかける。

 

「ありがとよ、ユエ」

 

「……ん!」

 

「ふぅん……しかし、グリューエンの証はペンダントか」

 

ハジメはペンダントを見て、以外に造りが凝っているのがわかる。ナイズ・グリューエンはこういうのが趣味なのか、もしくは何かのヒントなのかもしれないとハジメはそう感じた。

 

そんな感想を抱きつつハジメは二人に呼びかけた。

 

「……さて、魔法も証も手に入れた。次は、脱出なわけだが」

 

「……どうするの?」

 

「何か、考えがあるんですよね? たぶん、外は完全にマグマで満たされてしまってますよ?」

 

懸念を伝えつつも、不安は微塵も感じさせないユエとシアにハジメは、二人の寄せてくれる信頼を嬉しく思いながら脱出計画を話す。

 

「実は、この建物のすぐ外に潜水艇を用意してある。次のメルジーネ海底遺跡で必要になるだろうと思って作っておいたものだ。果たして、マグマの中でも耐えられるか少々不安ではあったんだが、金剛で覆った小舟が大丈夫だったから、いけると踏んだんだ。やはり大丈夫だったみたいだな」

 

ハジメは、フリードの奴が要石を破壊したと告げたときに〝宝物庫〟から直接マグマの中に潜水艇を転送しておいて溶け出すようなら、直ぐに強行突破してティオと一緒に天井から脱出するつもりだったが、しばらく様子を見ても溶け出す様子がなかったので、マグマに満たされても後から脱出できると踏んだが、明らかにヤバイレベルで【グリューエン大火山】自体が激震し、あちこち崩壊していたことから、スムーズに脱出できない可能性が大いにあった。アンカジへ戻るタイムリミットが迫る中、悠長に脱出ルートを探っている時間はない。なので、その場合に備えてティオを先に脱出させたのである。確実に、タイムリミット内に〝静因石〟を持ち帰るために。

 

「一体、いつの間にそんなこと……」

 

「……流石ハジメ」

 

シアが呆れたような声を出す、ユエは瞳に呆れを宿していたが感嘆を漏らしてた。

 

「脱出ルートは、当然、天井のショートカットだ。ユエ、潜水艇の搭乗口まで結界を頼む」

 

「んっ……任せて」

 

ハジメの言葉に頷いて、ユエが念を入れて〝聖絶〟を三重に重ね掛けする。光り輝く障壁が三人を包み込んだ。三人は、互いに頷きあって扉の前に立つ。そして、煮えたぎるマグマで満たされた外界への扉を開いた。

 

直後、ゴバッ! と音を立てて、灼熱の奔流が部屋の中に流れ込んでくる。〝聖絶〟はしっかりとマグマからハジメ達を守ったが、一瞬にして視界の全てが紅蓮に染まっていく。マグマの中からマグマを見るという有り得ない体験に、覚悟していたとは言え、流石のハジメ達も言葉に詰まった。

 

世界広しと言えど、このような体験をした事があるのはハジメ達くらいだろう。しかし、本人達は二度とこんな体験はしたくはないが。

 

「すぐ外だ。行くぞ!」

 

「んっ」

 

「は、はいです!」

 

ハジメは二人に号令を出し、ゆっくりと部屋の外に出てすぐに傍に待機させていた潜水艇を見つける事ができた。

 

「よかった……。流されては無いようだな」

 

一度、確認はしたが流されてたらとかでハジメは不安を抱いていたが、少し懸念していた事が無事で安堵の息を漏らし、ユエは、〝聖絶〟の障壁を調整しながらハッチまで行き、ようやく三人は潜水艇に乗り込むことができた。思わず、体に入っていた力が抜けてしまう。

 

と、その瞬間、

 

ドォゴォオオオ!!!

 

今までの比ではない激震が空間全体を襲った。そして、突如、マグマが一定方向へと猛烈な勢いで流れ始める。潜水艇は、その激流に翻弄される中、ハジメ達はミキサーにかけられたように上に下に、右に左にと転げまわる事になった。

 

「ぐわっ!?」

 

「んにゃ!?」

 

「はぅ!? 痛いですぅ!」

 

それぞれ、船内の壁に体のあちこちをぶつけて、悲鳴を上げる。ユエが、咄嗟に〝絶禍〟の応用版を発動し、自分達を黒く渦く小さな球体に引き寄せることで、何とかシェイクされる状況を脱した。

 

「た、たすかった。ありがとうな、ユエ」

 

「有難うございますぅ、ユエさん」

 

「ん……それより」

 

ハジメはユエに、〝絶禍〟を移動させて操縦席にまで運んで貰ってから、魔力を流し込んで、潜水艇のコントロールを試みた。しかし、やっぱり激しい流れとマグマの粘性により、思うように舵が取れずに、火口とどんどん遠ざかっていくことにハジメは歯噛みする。

 

「ちっ、これが噴火だってなら、外に放り出されて、むしろラッキーなんだがな」

 

「……違うの?」

 

苦虫を噛み潰したような表情をするハジメに、ユエが首をかしげる。

 

「ああ。マグマの中でも方向を見失わないよう、クロスビットに特定石を仕込んでおいたんだが、墜落する前に、脱出口付近に射出して置いたから、少なくとも天井のショートカットの場所はわかるんだが……この流れ、出口から遠ざかってやがる」

 

「えっ? それって地下に潜ってるってことですか?」

 

「ああ、真下ってわけじゃなくて、斜め下って感じだが……さて、どこに繋がっているのやら……ユエ、シア。やっぱり直ぐには戻れそうにない。このまま行くとこまで行くしかないようだ」

 

覚悟の決まった表情でそう語るハジメに、ユエとシアはただ優しげに目元を緩めて、そっと寄り添った。

 

「……最後まで傍にいる。それが叶うなら何も問題ない」

 

「ふふ……文字通り、例え火の中水の中ですね。私も、お二人と一緒にいられるなら〝どこまででも〟ですよ!」

 

「……クハッ…そうか。そうだな」

 

ハジメも、そんな二人に頬を緩め笑いながら返した。そして、同時に思う自分は彼女達に〝約束〟をしたんだ〝必ず戻る〟と………

 

「……どんな事があっても生き残ってやるさ!」

 

そしてハジメ達三人は、潜水艇の中で寄り添いながら、灼熱の奔流に流されていったのだった……。

 

 

~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

【グリューエン大火山】からの脱出が叶わず、ハジメ達が何処とも知れないマグマが流れる地下道を流されている頃、赤銅色の砂が吹きすさぶ【グリューエン大砂漠】の上空をフラフラと飛ぶ影があった。

 

言わずもがな、〝竜化〟状態のティオである。

 

〝むぅ……これはちとマズイのじゃ……全く、厄介なブレスを吐きおって……致し方ない。ご主人様よ、許してたもれ〟

 

強行突破のせいで、少なくない灰竜の極光を浴びていたティオは、極光の毒素に蝕まれて傷を悪化させていた。このままでは、アンカジに到着する前に倒れてしまうと判断したティオは、勝手に秘薬を使う事をハジメに謝罪して、〝宝物庫〟から神水を取り出し容器ごと噛み砕いて服用した。

 

ブレスの連発と限界以上に身体能力や飛行能力に注ぎ込んだため大量に消費した魔力が、かなりの勢いで回復していく。また、傷も瞬時に治るわけではなかったが少なくとも毒素の影響は抑えられたようだった。

 

それから飛ぶこと数時間、ようやく前方にアンカジの姿が見えてきた。これ以上、飛行を続ければ、アンカジの監視塔からもティオの姿が見えるだろう。ティオは、一瞬、竜化を解いて行くべきかと考えたが、おそらく生きているであろう魔人族のフリードに知られた事と、きっと、今後、ハジメの旅について行くなら〝竜化〟が必要な場面はいくらでもあるだろうと考えて、すっぱり割り切ることにした。

 

隠れ里はそう簡単に見つかることはないし、万が一見つかっても、竜人族はそう簡単にやられはしない。それに、五百年前の悪夢(迫害)が襲いかかったとしても、ティオが助けを求めれば、ハジメは力を貸してくれる。だって自分はハジメの〝大切〟だから。

 

そんな考え事をしているうちに、遂にアンカジまで数キロの位置までやって来た。見れば、監視塔の上が何やら非常に慌ただしい。勘違いで攻撃を受けても面倒なので、ティオは入場門の方へ迂回し、少し離れた場所に着地した。

 

ズドオオン!!

 

と、半ば墜落する形で砂塵を巻き上げながら着地したティオのもとへ、アンカジの兵士達が隊列を組んでやってきた。見れば、壁の上にも大勢の兵士が弓や魔法陣の刻まれた杖などをもって待機している。

 

もうもうと巻き上がる砂埃が風にさらわれて晴れていく。兵士達が、緊張にゴクリと喉を鳴らす音が響く。しかし、砂埃が晴れた先にいるのが黒髪金眼の美女で、しかも何やら随分と疲弊しているようだとわかると、一様に困惑したような表情となって仲間同士顔を見合わせた。

 

そんな、混乱する兵士達の隙間を通り抜けて、一人の少女が飛び出す。少し赤みがかかった栗色髪の少女、優花だ。後ろから危険だと兵士達や領主の息子ビィズが制止の声をかけるが、まるっと無視して猛然と、片膝をついて荒い息を吐くティオのもとへ駆け寄った。

 

監視塔からの報告があった時点で、優花は、ティオが竜人族であると知っていたため、ハジメ達が帰ってきたと察し、急いで駆けつけたのだ。

 

「ティオ! 大丈夫なの!?」

 

「むっ、優花か……うむ、割かし平気じゃ。ちと疲れたがの」

 

体中、あちこちに怪我を負って疲弊した様子のティオに、優花が血相を変える。すぐ傍に膝をつくと、急いでティオの容態を診察し出した。そして、見たことのない毒素が体に入っているとわかると、すぐさま浄化と回復魔法を付与を重ねがけしてから同時にかけ始めた。

 

「! そんな……こんなに付与をした回復魔法なのに浄化が遅いなんて……」

 

しかし、極光の毒素は、神水ですら解毒に時間がかかる代物だ。優花の回復魔法だけではすぐさま浄化することは出来なかった。それに、顔を歪める優花だったが、先程服用した神水の効果と優花のズバ抜けた回復魔法のおかげでかなり回復できたティオは、優花に「心配するでない、もうすぐ浄化できるのじゃ」と微笑みながら頭を撫でた。

 

本当に、ティオの表情から心配ないことを察すると、優花は肩の力を抜いて安堵の笑みを浮かべる。そして、キョロキョロと辺りを見回し、次第に不安そうな表情になった。

 

「ティオ……ハジメは? 一人なの? どうして……あの噴火は……」

 

「落ち着くのじゃ、優花。全部説明する。まずは、後ろの兵達を落ち着かせて、話せる場所に案内しておくれ」

 

「あっ、うん、そうね」

 

背後で困惑にざわつく兵達に今更ながらに気がつき、優花は不安そうな表情をしながらも力強く頷いた。ティオが悲愴な表情をしていないことも、落ち着きを取り戻した要因だ。

 

優花は、ビィズや駆けつけたランズィ達のもとへ戻り、事情説明をしながらティオを落ち着いて話のできる場所に案内したのだった。

 

 

「それじゃあ、ハジメ達は……」

 

「うむ、あとから追いかけてくるはずじゃ。ご主人様は、微塵も諦めておらんかった。時間がなくて詳しくは聞けんかったが、何か打開策があったのは確かじゃよ」

 

【グリューエン大火山】で何があったのかを聞いた優花は、顔を青ざめさせて手をギュッと握り締めた。アンカジの人々を震撼させた大噴火を見たときから感じていた不安が急速に膨れ上がっていく。

 

しかし、優花が不安で必死に握り締めた手に、ティオが、そっと自分の手を重ね合わせる。そして、力強い眼差しで私を見つめた。

 

「優花よ。ご主人様からの伝言じゃ」

 

「ハジメからの?」

 

「うむ。正確には優花とミュウにじゃが……〝あとで会おう絶対に戻ると約束する〟じゃ」

 

優花は、〝必ず帰る〟とか〝心配するな〟など、そんな私達を安心させるための言葉かと思っていたのだが、〝約束する〟とその言葉で優花は確信して笑みを浮かべた。

 

「ふふ…そっか、ならハジメは大丈夫よ」

 

「うむ、優花。しかし何故お主はもう安心しておるのじゃ? まだご主人様の現状が分かっておらぬのに? 」

 

「だって……ハジメが約束(・・)って言ったんでしょ? なら大丈夫よ。 だってハジメは約束を必ず守る人だから」

 

「……フフ、そうじゃったな」

 

ティオは優花のその言葉に目を丸くしたが、次には納得したように微笑みながら頷いた。

 

「なら私もやるべき事をやらないとね」

 

「そうじゃな。もちろん、妾も手伝うからの」

 

ハジメは、大迷宮でハジメが行方不明になったという事実に目眩を覚えていたものの、ハジメなら大丈夫だと、約束をしたんだと、ティオと同じくギュッと拳を握りながら信じた。そして、先に、ランズィ達に渡しておいた大量の〝静因石〟が、現在、粉末状にされ患者さん達に配られている頃だと判断し、衰弱した人々を癒すためにグッと瞳に力を入れて立ち上がった。

 

「ハジメ……(私も頑張るからっ、そっちも頑張りなさいよ!)」

 

その後、宮殿で、領主の娘であるアイリー(十四歳)に構われているミュウとも合流し、事情説明が行われた。ハジメパパがいないことに泣きべそをかくミュウちゃんだったが、ハジメパパの娘は、そう簡単に泣いたりしないとティオとハジメに言われて、ほっぺをプクッと膨らませながら懸命に泣くのを堪えるということがあった。

 

ミュウは海人族ではあるが、〝神の使徒〟たる優花の連れであることと、少し関わればわかってしまうその愛らしさに、アンカジの宮殿にいる者達はこぞってノックアウトされていたらしく、特に、アイリーに至っては病み上がりで外出禁止となっていることもあり、ミュウを構い倒しているようだ。

 

ティオが竜人族であるという事についても、ランズィ達は思うところがあるようだったが、命懸けで〝静因石〟を取ってきてくれた事から、公国の恩人であることに変わりはなく、そう大きな騒ぎにはならなかったらしい。

 

優花達は患者達を次々と癒していったが、二日経ってもハジメ達が戻ってこないことに、次第に表情を暗くしたが、諦めずに私は患者さん達を癒し続けた。ティオは何度か【グリューエン大火山】までのルートを探索してみたが、ハジメ達の痕跡はなく途方に暮れた。

 

そしてティオが戻ってから三日目の晩、優花は、ミュウちゃんとティオに提案をした。

 

「今日で、私の処置が必要な患者さんはいなくなったと思う。あとは、時間をかけて安静にするか、医療院のスタッフに任せれば問題ないわ。だから……ハジメ達を探しに行こうと思うの」

 

「パパ? お迎えに行くの?」

 

「ふむ、そうじゃな。妾も、そろそろ動くべきかと思っておった」

 

優花の言葉に、ミュウちゃんは嬉しそうに身を乗り出し、ティオは真剣な表情で賛同した。

 

「でも、流石に、【グリューエン大火山】にミュウちゃんを連れて行く訳にはいかないよね」

 

「そうじゃな。それでは、ご主人様が、ここにミュウを預けていった意味がない。それに、今は噴火の影響で、どちらにしろまともな探索は出来んじゃろ」

 

「うん。私もそう思う。だから、先にエリセンに行ってミュウちゃんをママさんに会わせようと思うの」

 

「ふむ、それが妥当じゃろうな……よかろう。ならば、妾の背に乗っていくがよい。エリセンまでなら、急げば一日もかからず行けるじゃろう。早朝に出れば夕方までには到着できよう」

 

スイスイと進んでいく話に、ミュウが頭の上で〝?〟の花を大量に咲かせていた。そんなミュウの姿に優花は「まだ、子供だもんね」と微笑みながら見ていた。

 

そして優花は、ミュウちゃんに、丁寧にわかりやすく説明すると、直接ハジメを迎えに行けないことに悲しげな表情をしたが、母親にも会いたかったようで、二人でハジメパパが会いに来るのを待っていて欲しいと伝えると、渋々ではあるが納得をしてくれた。実母と天秤にかけられるとか、どこまでパパなんだと優花とティオは二人揃って苦笑いを浮かべずにはいられなかった。

 

「……私も欲しいな、子供」

 

優花はそんなミュウちゃんを見ながらお腹に手をあてながらひっそりと誰にも聞こえないような声音で呟いた。

 

翌日、引き止めたそうな領主やビィズに見送られながら、竜化したティオの背に乗って私達は西の空へと飛び立った。背後で、盛大な感謝や私を称える人々の声が砂塵をものともせず響き渡る。

 

「ハジメ……待ってるから」

 

優花はそう呟きながら、再びはぐれてしまった愛しい人を想い、必ず見つけると決意を胸に秘めて、真っ直ぐ前を向いた。

 

「……ッ?!」

 

その瞬間、優花の頭に自分の知らない記憶か夢か分からない映像がよぎった。

 

そこには何処か分からない場所で二つの黒いモヤがあった。モヤの正体は、目を拗らせながら見ると男女だとわかった。そして男の方は分からなかったが女の方のモヤには翼があるように見えた。

 

そして、会話が聞こえてくる。

 

『───、私待──るから』

 

『────ろ、──スタ、俺──る』

 

───なんだろ?会話をしてると思うけど、所どころが聞こえなくて、何を言ってるのか分からないわね……。

 

『──!───ナ』

 

『──ず、俺はラ───倒す』

 

『え───自由──為に』

 

途切れ途切れしか聞こえない会話が終わると二つのモヤは抱き締めあってるように見えた。それは、まさに恋人のように……

 

そして、段々と景色が黒く見えなくなってきていた。

 

(……ッ!なにこれ?! 視界がっ!)

 

そしてその黒は優花の視界も覆っていき、そして私の周りは真っ黒になった……。

 

「う……!アレ?! 此処はティオの上……」

 

いきなりの事に優花は最初は戸惑ったが次第に落ち着きを取り戻していく。すると、竜化しているティオと私の上に座ってるミュウが話しかけた。

 

〝優花どうかしたかの?〟

 

「優花お姉ちゃん、どうしたの〜?」

 

「いや、ティオ、ミュウちゃん。今さっき私に何か変な事とかなかった?」

 

優花がそんな質問をすると二人は首を傾げた。

 

〝はて? 優花、其方はずっと妾の上で呆けておっただけじゃぞ?〟

 

「ミュウも〜優花お姉ちゃん、ぼうっとしてただけにしか見えなかったの〜」

 

「そっか……」

 

じゃあ今さっきのは夢?思ってしまうが、心の奥底で違うと否定してしまう。

 

〝優花、其方…少し無理をしてるのではないか? ご主人様の事もあるだろうしこの移動の時ぐらいに寝ても大丈夫じゃぞ?〟

 

「ミュウもそう思うの〜」

 

「うん、ありがと二人共、私は大丈夫だから」

 

優花は平気だと言って二人に無駄な心配をさせたくないと思うと、また、 夢? 記憶?のような映像をのことを考えてしまう。

 

「(本当になんだったろ?アレ……ただの夢じゃない気がする……誰かの記憶ような……)」

 

いや、しかし今はそんな事よりハジメ達の方が重要だと優花はその考えを切り捨てる。そして……

 

「ハジメ……」

 

優花はそう呟いて愛しの彼との再会を願った。

 

しかし……その先で、拍子抜けするほどあっさり再会するとは夢にも思わなかった。

 

そして、優花は知る由もなかった。あの記憶のような夢はどれだけ重要なものだということを……。




編集しました。十一月二十五日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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