ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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五十八話 メルジーネ海底遺跡

 

【海上の町エリセン】から西北西に約三百キロメートル。

ハジメ達は【メルジーネ海底遺跡】を探していたが見つからず難航していた。

 

「……マジで何処にあんだ?」

 

ハジメはミレディから聞いた七大迷宮の一つ【メルジーネ海底遺跡】の存在する場所とヒントを貰っているも〝月〟と〝グリューエンの証〟に従えとしか教えられず、場所も座標ぐらいで詳しい場所はわからなかった。

 

取り敢えずハジメは、方角と距離だけを頼りに大海原を進んできたが、昼間のうちにポイントまで到着し海底を探索したものの特に何も見つけることは出来なく、海底遺跡というくらいだから、それらしき痕跡が何かしらあるのではないかと考えたが甘かったと後悔する。

 

ただ、周囲百キロメートルの水深に比べると、ポイント周辺の水深が幾分浅いように感じたから、場所自体は間違えていないことは判明していた。

 

「座標は間違っていない。……でも、〝月〟ってのが分かんねぇんだよなぁ……」

 

そう呟きながら、ハジメはミレディの教えに従い月が出る夜を待つ為、潜水艇を停泊させ甲板の上で黄昏ていた。

 

今は、ちょうど日没の頃で、空も海も赤とオレンジに染まり、太陽が海に反射して水平線の彼方へと輝く一本道を作り出していいて美しかった。やはり、どこの世界でも自然が作り出す光景は美しいとハジメは沈む太陽を何となしに見つめながら、ふと、このまま太陽へと続く光の道を進んだならば、神共を殺せる武器を手に入れ日本に帰れはしないだろうかと、そんな有り得ない事を思った。そして、何を考えているんだかと苦笑いをこぼした。

 

「どうしたのハジメ?」

 

そんなハジメの様子に気がついて声を掛けてきたのは優花だった。

 

先程まで船内でシャワーを浴びていたはずで、その証拠に髪が湿っている。いや、優花だけではない。いつの間にかユエやシア、ティオも甲板に出てきており、皆、船内シャワーを浴びてきたようで、頬は上気し、湿った髪が頬や首筋に張り付いていて実に艶かしい姿だ。備え付けのシャワールームは天井から直接温水が降ってくる仕様なので、四人全員で入っても問題ない。ちなみにハジメが甲板で黄昏れているのは、下手をすればシャワールームに連れ込まれていた可能性があったからだ。

 

彼女達がシャワーを浴びようとした時、ティオがハジメを誘ったのだが、それに優花もシアも、もちろんユエも賛同し、断ったハジメに全員でにじり寄ってきたのである。

 

ハジメは四人が大切で愛しているが流石に四人一気には、迷宮攻略前だからする訳にはいかないと伝えた。

 

しかし、そんなハジメの言葉を嬉しそうにしながらも笑顔でスルーする優花達は、三人でハジメを抑えに掛かり、シアが背後からドリュッケンで意識を飛ばそうとしたのだ。ハジメは流石に身の危険を感じ、割かし本気で逃げ出し、甲板に出て来たわけだが……

 

ハジメは、そんな出来事を頭を振って追い出しつつ、優花の質問に答えた。

 

「ちょっと、日本を思い出していたんだよ。こういう自然の光景は、変わらねぇなって」

 

「……そっか。うん、そうね。向こうの海で見た夕日とそっくり……なんだかすごく懐かしい気がするわ。まだ半年も経っていないのにね」

 

「こっちでの日々が濃すぎるんだよ」

 

ハジメの隣に座り肩に頭を乗せた優花が、どこか遠い目をしながらハジメの言葉に同意する。

 

「……」

 

きっと、優花も日本で過ごしてきた日々を懐かしんでいるんだろうとハジメはそんな遠い目をしてる優花の頭が乗ってる方の腕を動かし更に抱き寄せた。

 

「……絶対に帰ろうな」

 

「ハジメ……うんっ」

 

優花はハジメの言ったことに目を細め嬉しそうに俺の胸に顔を埋めた。すると、二人にしか通じない話題に寂しさを感じたのか、ユエは火照った体でトコトコと歩み寄るって、ハジメの片膝の上に腰をおろし、暑いだろうに背中を俺のもう片方の胸元にもたれかけさせ、真下から上目遣いで見つめ始めた。

 

その瞳は明らかに、自分も話に入れて欲しいと物語っていた。寂しさと同時に、ハジメ達の故郷のことを聞きたいという気持ちがあるようだ。

 

すると今度はユエの隣からシアが寄り添い、その目をキラキラさせる。明らかに構って欲しいという合図だ。空いている手でウサミミをモフる。「えへへ~」と頬を緩めるシア。背中には、ティオがもたれかかり特に何を要求するでもなく、静かに背中合わせになっているだけだが、体重のかけ具合から心底リラックスしていることが分かった。

 

広大な海の上で、小さく寄り添い合いながら夜天に月が輝き出すまでは今しばらく時間がかかるので暇つぶしに、ハジメは少し故郷のことを話すことにした。

 

ハジメの語りにユエ達が興味津々に相槌を打ち、優花がにこやかに補足を入れたりハジメの黒歴史も入れてきて止めに入った。そんな和やかな雰囲気を楽しんでいると、あっという間に時間は過ぎ去り、日は完全に水平線の向こう側へと消え、代わりに月が輝きを放ち始めていた。

 

「ふぅ……そろそろ頃合だな」

 

ハジメは懐から【グリューエン大火山】攻略の証であるペンダントを取り出した。ペンダントはサークル内に女性がランタンを掲げている姿がデザインされており、ランタンの部分だけがくり抜かれていて、穴あきになっている。

 

しかし、ハジメはエリセンに滞在している時にも、このペンダントを取り出して月にかざしてみたり、魔力を流してみたりしたのだが、特に何の変化もなく、本当に迷宮の〝カギ〟なのかと疑問に感じていた。

 

ハジメは内心首を捻りながら、取り敢えずペンダントを月にかざしてみた。ちょうどランタンの部分から月が顔を覗かせている。

 

しばらく眺めていたがやはり変化はなく、ハジメは溜息を吐きながら他の方法を試そうとした。

 

と、その時、ペンダントに変化が現れた。

 

「!」

 

「わぁ、ランタンに光が溜まっていきますぅ。綺麗ですねぇ」

 

「ホント……不思議。穴が空いているのに……」

 

ハジメは目を見開き、シアが感嘆の声を上げ、優花が同調するように瞳を輝かせる。

 

彼女達の言葉通り、ペンダントのランタンは、少しずつ月の光を吸収するように底の方から光を溜め始めていた。それに伴って、穴あき部分が光で塞がっていく。ユエとティオも、興味深げにペンダントを見つめた。

 

「昨夜も試してみたんだがな……」

 

「ふむ、ご主人様よ。おそらく、この場所でなければならなかったのではないかの?」

 

「……そうか。それなら一番納得できるな」

 

ハジメはティオの推測に納得してると、やがて、ランタンに光を溜めきったペンダントは全体に光を帯びると、その直後、ランタンから一直線に光を放ち、海面のとある場所を指し示した。

 

「岩壁地帯?」

 

その場所は海底の岩壁地帯だった。無数の歪な岩壁が山脈のように連なっている。昼間にも探索した場所で、その時には何もなかった場所だった。

 

ハジメは潜水艇で近寄りペンダントの光が海底の岩石の一点に当てると、ゴゴゴゴッ! と音を響かせて地震のような震動が発生し始めた。その音と震動は岩壁が動き出したことが原因で岩壁の一部が真っ二つに裂け、扉のように左右に開き出したのである。その奥には冥界に誘うかのような暗い道が続いていた。

 

「粋な演出しやがって……道理でいくら探しても見つからないわけだ……時間を無駄にしちまったな」

 

「……でも、楽しかった」

 

「そうよ。異世界で海底遊覧なんて、貴重な体験だと思うわよ?」

 

ハジメは昼間の探索が徒労だったとわかり、ガックリと肩を落とすが、ユエと優花は結構楽しんでいたようだ。

 

ハジメは潜水艇を操作して海底の割れ目へと侵入していきペンダントのランタンは、まだ半分ほど光を溜めた状態だが、既に光の放出を止めており、暗い海底を照らすのは潜水艇のライトだけだ。

 

「う~む、海底遺跡と聞いた時から思っておったのだが、この〝せんすいてい〟? がなければ、まず、平凡な輩では、迷宮に入ることも出来なさそうじゃな」

 

「……強力な結界が使えないとダメ」

 

「他にも、空気と光、あと水流操作も最低限同時に使えないとダメだな」

 

「でも、ここにくるのに【グリューエン大火山】攻略が必須ですから、大迷宮を攻略している時点で普通じゃないですよね」

 

「もしかしたら、空間魔法を利用するのがセオリーなのかも」

 

「まぁ、それが一番考えられるな……じゃあ進むぞ」

 

道なりに深く潜行しながら、ハジメ達は潜水艇がない場合の攻略方法について考察してみた。確かに、ファンタジックな入口に感動はしたのだが、普通に考えれば、超一流レベルの魔法の使い手が幾人もいなければ、侵入すら出来ないという時点で、他の大迷宮と同じく厄介なことこの上ないとわかる。

 

ハジメ達は、気を引き締め直し、フロント水晶越しに見える海底の様子に更に注意を払っていた。

 

と、その時、

 

ゴォウン!!

 

「うおっ!?」

 

「んっ!」

 

「わわっ!」

 

「きゃっ!」

 

「何じゃっ!?」

 

突如、横殴りの衝撃が船体を襲い、一気に一定方向へ流され始めた。マグマの激流に流された時のように、船体がぐるんぐるんと回るが、そこは既に対策済みだ。組み込んだ船底の重力石が一気に重みを増し、船体を安定させる。

 

「うっ、このぐるぐる感は、もう味わいたくなかったですぅ~」

 

シアが【グリューエン大火山】の地下で流されたときの事を思い出し、顔を青くしてイヤイヤと頭を振っていた。

 

「直ぐに立て直しただろ? もう、大丈夫だって。それより、この激流がどこに続いているかだな……」

 

そんなシアに苦笑いを浮かべつつ、ハジメはフロント水晶から外の様子を観察する。緑光石の明かりが洞窟内の暗闇を払拭し、その全体像をあらわにしている。見た感じだと、どうやら巨大な円形状の洞窟内を流れる奔流に捕まっているようで、ハジメは船体を制御しながら、取り敢えず流されるまま進む。しばらくそうしていると、船尾に組み込まれている〝遠透石〟が赤黒く光る無数の物体を捉えた。

 

「なんか近づいてきてるな……まぁ、赤黒い魔力を纏っている時点で魔物だろうが」

 

「……殺る?」

 

ハジメがそう呟くと、隣の座席に座るユエが手に魔力に集めながら可愛い顔でギャングのような事をさらりと口にする。

 

「いや、武装を使う。有効打になるか確認しておきたい」

 

ハジメが潜水艇の後部にあるギミックを作動させる。すると、真っ赤に染めたペットボトルくらいの大きさの魚雷が無数に発射していった。

 

潜水艇が先に進み、やがて、赤黒い魔力を纏って追いかけてくる魔物――トビウオのような姿をした無数の魚型の魔物達が、魚雷群に突っ込んでいった。

 

ドォゴォオオオオ!!!

 

背後で盛大な爆発が連続して発生し、大量の気泡がトビウオモドキの群れを包み込む。そして、衝撃で体を引きちぎられバラバラにされたトビウオモドキの残骸が、赤い血肉と共に泡の中から飛び出し、文字通り海の藻屑となって激流に流されていった。

 

「うん、前より威力が上がっているな。改良は成功だ」

 

「うわぁ~、ハジメさん。今、窓の外を死んだ魚のような目をした物が流れて行きましたよ」

 

「シアよ、それは紛う事無き死んだ魚じゃ」

 

「改めて思うけど、ハジメの作るアーティファクトって反則よね」

 

それから度々、トビウオモドキに遭遇するが容易く蹴散らし先へ進めた。

 

どれくらいそうやって進んだのか。

 

代わり映えのない景色に違和感を覚え始めた頃、周囲の壁がやたら破壊された場所に出くわした。よく見れば、岩壁の隙間にトビウオモドキのちぎれた頭部が挟まっており、虚ろな目を海中に向けている。

 

「……ここ、さっき通った場所だな」

 

「……そうみたい。ぐるぐる回ってる?」

 

どうやら、円環状の洞窟を一周してきたらしい。大迷宮の先へと進んでいるつもりだったが、ここはただの海底洞窟で道を誤ったか?と思ってしまう。

 

ハジメは疑問に思いながら、今度は道なりに進むのではなく、周囲に何かないか更に注意深く探索しながらの航行となった。

 

その結果、

 

「あっ、ハジメ。あそこにもあったわ!」

 

「これで、五ヶ所目か……」

 

洞窟の数ヶ所に五十センチくらいの大きさのメルジーネの紋章が刻まれている場所を発見した。メルジーネの紋章は五芒星の頂点のひとつから中央に向かって線が伸びており、その中央に三日月のような文様があるというものだ。それが円環状の洞窟の五ヶ所にあるのである。

 

ハジメ達は、じっくり調べるため、最初に発見した紋章に近付いた。激流にさらされているので、船体の制御に気を遣いながら動かす。

 

「まぁ、五芒星の紋章に五ヶ所の目印、それと光を残したペンダントとくれば……」

 

ハジメは呟きながら、首から下げたペンダントを取り出し、フロント水晶越しにかざしてみた。すると、案の定ペンダントが反応し、ランタンから光が一直線に伸びる。そして、その光が紋章に当たると、紋章が一気に輝きだした。

 

「これ、魔法でこの場に来る人達は大変ね……直ぐに気が付けないと魔力が持たないわよ」

 

優花の言う通り、このような仕掛けを魔法で何とか生命維持している者達にさせるのは相当酷だろうな【グリューエン大火山】とは別の意味で限界ギリギリを狙っているのかもしれない、ホントに意地が悪い。

 

その後、更に三ヶ所の紋章にランタンの光を注ぎ、最後の紋章の場所にやって来た。ランタンに溜まっていた光も、放出するごとに少なくなっていき、ちょうど後一回分くらいの量となっている。

 

ハジメが、ペンダントをかざし最後の紋章に光を注ぐと、遂に、円環の洞窟から先に進む道が開かれた。ゴゴゴゴッ! と轟音を響かせて、洞窟の壁が縦真っ二つに別れた。

 

特に何事もなく奥へ進むと、真下へと通じる水路があった。潜水艇を進める。すると、突然、船体が浮遊感に包まれ一気に落下した。

 

「おぉ?」

 

「んっ」

 

「ひゃっ!?」

 

「ぬおっ」

 

「はうぅ!」

 

それぞれ、五者五様の悲鳴を上げる。直後、ズシンッ! と轟音を響かせながら潜水艇が硬い地面に叩きつけられた。激しい衝撃が船内に伝わり、特に体が丈夫なわけではない優花が呻き声を上げる。

 

「っ……優花、無事か?」

 

「うぅ、だ、大丈夫。それより、ここは?」

 

優花が顔をしかめながらもフロント水晶から外を見ると、先程までと異なり、外は海中ではなく空洞になっているようだった。ハジメは取り敢えず周りを警戒しながら優花達と船外に出た。外は大きな半球状の空間だったか、頭上を見上げれば大きな穴があってどういう原理なのか水面がたゆたっていてハジメ達はそこから落ちてきたようだ。

 

「どうやら、ここからが本番みたいだな。海底遺跡っていうより洞窟だが」

 

「……全部水中でなくて良かった」

 

ハジメは潜水艇を〝宝物庫〟に戻しながら、洞窟の奥に見える通路に進もうとユエ達を促す……寸前でユエに呼びかけようとする前に優花が声をあげた。

 

「ねぇ、ハジメ。上から魔力を感じるけど……」

 

「おっ、優花も気付いたのか、ユエ」

 

「ん」

 

それだけで、ユエは即座に障壁を展開した。

 

刹那、頭上からレーザーの如き水流が流星さながらに襲いかかる。圧縮された水のレーザー、〝破断〟と同じようなもので、直撃すれば、容易く人体に穴を穿つぐらいの威力だろう。

 

しかしユエの障壁は、例え即行で張られたものであっても強固極まりないものだ。それを証明するように、天より降り注ぐ暴威をあっさり防ぎ切った。〝魔力感知〟を持ってる優花とハジメが魔力の高まりと殺意をいち早く察知し、阿吽の呼吸でユエが応えたために、奇襲は奇襲となり得なかった。当然、ハジメが呼びかけた瞬間に、攻撃を察していたシアやティオにも動揺はない。

 

「でも、流石ね。ユエはこれ程の障壁が出せるなんて」

 

「……優花もハジメ程の感知能力があって凄い」

 

「それ程でもないわよって、原因はアレよね……灰となりて 大地に還れ───〝螺炎〟」

 

優花はユエと褒め合いながら〝破断〟を放っている原因に向けて魔法を放ち、天井を焼き払った。それに伴って、ボロボロと攻撃を放っていた原因が落ちてきた。

 

「やはり、水中生物系の魔物は火に弱ぇな」

 

ハジメはそう呟きながら、魔物が焼き尽くされるのを眺めていた。魔物の排除を終えると、ハジメ達は奥の通路へと歩みを進める。通路は先程の部屋よりも低くなっており、足元には膝くらいまで海水で満たされていた。

 

「あ~、歩きにくいな……」

 

「……降りる?」

 

「そうよハジメ。ユエは良いとして、私は降ろしても良いわよ?」

 

ハジメはザバァサバァと海水をかき分けながら、鬱陶しそうに愚痴をこぼすとそれに対して、ハジメの肩に座っているユエとお姫様抱っこされている優花が、気遣うようにそう言った。ユエの身長的に、他の者より浸かる部分が多くなってしまうのでハジメが担ぎ上げ、優花も服が濡れるといけないので抱っこしているのだ。

 

「問題ねぇよ、これぐらい」

 

そんなハジメは少し羨ましそうに見つめてくるシアの視線をスルーして、問題ないと返しながら進んでいく。

 

「っ……何だ?」

 

ハジメ達は魔物を倒しながら進んでると大きな空間に入ったその途端、半透明でゼリー状の何かが通路へ続く入口を一瞬で塞いだのだ。

 

「私がやります! うりゃあ!!」

 

咄嗟に、最後尾にいたシアは、その壁を壊そうとドリュッケンを振るった、が、表面が飛び散っただけで、ゼリー状の壁自体は壊れなかった。そして、その飛沫がシアの胸元に付着する。

 

「ひゃわ! 何ですか、これ!」

 

シアが、困惑と驚愕の混じった声を張り上げた。視線を向ければ、何と、シアの胸元の衣服が溶け出している。衣服と下着に包まれた、シアの豊満な双丘がドンドンさらけ出されていく。

 

「シア、動くでない!」

 

咄嗟に、ティオが、絶妙な火加減でゼリー状の飛沫だけを焼き尽くした。 少し、皮膚にもついてしまったようでシアの胸元が赤く腫れている。どうやら、出入り口を塞いだゼリーは強力な溶解作用があるようだなとハジメは思ってると、何かを感知した。

 

「っ! また来るぞ!」

 

ゼリーの奴は何だと考えながら警戒して、ゼリーの壁から離れた直後、今度は頭上から、無数の触手が襲いかかった。

 

「ユエッ」

 

「……ん!」

 

先端が槍のように鋭く尖っているが、見た目は出入り口を塞いだゼリーと同じだとすれば、同じように強力な溶解作用があるかもしれないと、再び、ユエに呼びかけ障壁を張って貰う。更に、ティオと優花が炎を繰り出して、触手を焼き払いにかかった。

 

「正直、ユエの防御とティオと優花の攻撃のコンボって、割と反則臭いよな」

 

ハジメがそう呟くとそれを余裕と見たのか、シアが傍にそろりそろりと近寄り、露になった胸の谷間を殊更強調して、実にあざとい感じで頬を染めながら上目遣いでおねだりを始めた。

 

「あのぉ、ハジメさん。火傷しちゃったので、お薬塗ってもらえませんかぁ」

 

「……お前、状況わかってんの?」

 

「いや、ユエさんとティオさんと優花さんが無双してるので大丈夫かと……」

 

シアが胸のちょうど谷間あたりに出来た火傷の幾つかをハジメに見せつけながら、そんなことをのたまった。

 

だから……

 

「はぁ……優花」

 

「あっ、うん……ティオ少し任せるわ」

 

「うむ」

 

「はい、じゃあシア…癒しをここに───〝天恵〟」

 

ハジメが優花に頼みすかさずシアの負傷を治してしまった。「あぁ~、お胸を触ってもらうチャンスがぁ!」と嘆くシアに、全員が冷たい視線を送る。

 

「む?……ハジメ、このゼリー、魔法も溶かすみたい」

 

嘆くシアに冷たい視線を送っていると、ユエから声がかかる。見れば、ユエの張った障壁がジワジワと溶かされているのがわかった。

 

「ふむ、やはりか。先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃ。どうやら、炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの」

 

「そうか」

 

ティオの言葉が正しければ、このゼリーは魔力そのものを溶かすことも出来る可能性がある。中々に強力で厄介な能力だとハジメは眉を顰める。そんなハジメの内心が聞こえたわけではないだろうが、遂に、ゼリーを操っているであろう魔物が姿を現した。

 

天井の僅かな亀裂から染み出すように現れたそれは、空中に留まり形を形成していく。半透明で人型、ただし手足はヒレのようで、全身に極小の赤いキラキラした斑点を持ち、頭部には触覚のようなものが二本生えている。まるで、宙を泳ぐようにヒレの手足をゆらりゆらりと動かすその姿は、クリオネのようだった。

 

その巨大クリオネは、何の予備動作もなく全身から触手を飛び出させ、同時に頭部からシャワーのようにゼリーの飛沫を飛び散らせた。

 

「ユエも攻撃に転じて! 防御は私が! ───〝聖絶〟!──〝防御力上昇二重付与〟!」

 

優花は、派生技能〝遅延発動〟で、あらかじめ唱えておいた〝聖絶〟と防御力上昇の付与を重ね掛けして強力な障壁を発動する。それにコクリと頷いたユエはティオと一緒に巨大クリオネに向けて火炎を繰り出した。シアもドリュッケンを砲撃モードに切り替えて焼夷弾を撃ち放つ。

 

 全ての攻撃は巨大クリオネに直撃し、その体を爆発四散させ、満足気にしてたがハジメが警告の声を上げる。

 

「まだだ! 反応が消えてない。優花は障壁を維持してくれ……なんだこれ、魔物の反応が部屋全体に……」

 

どういうことだ? とハジメは目を見開く。感知系能力は部屋全体に魔物の反応を捉えていてしかも、魔眼石で見える視界は赤黒い色一色で染まっており、まるで、部屋そのものが魔物みたいだ。

 

ハジメは未だかつて遭遇したことのない事態に鋭さを帯びる。すると、その懸念は当たっていたようで、四散したはずのクリオネが瞬く間に再生してしまった。

 

「ふむ、ご主人様よ。無限に再生されてはかなわん。魔石はどこじゃ?」

 

「そういえば、透明の癖に魔石が見当たりませんね?」

 

ティオの推測に頷きつつ、シアがハジメを見る。

 

「……ない」

 

「……ハジメ?」

 

ハジメの困惑してる表情が気になったユエが呼びかけると、ハジメは、頭をガリガリと掻きながら見たままを報告した。

 

「……ない。あいつには、魔石がない」

 

その言葉に全員が目を丸くする。

 

「ハ、ハジメ? 魔石がないって……じゃあ、あれは魔物じゃないってこと?」

 

「わからん。だが、強いて言うなら、あのゼリー状の体、その全てが魔石だ。俺の魔眼石には、あいつの体全てが赤黒い色一色に染まって見える。あと、部屋全体も同じ色だから注意しろ。あるいは、ここは既に奴の腹の中だ!」

 

ハジメが驚愕の事実を話すと同時に、再び、巨大クリオネが攻撃を開始した。今度は、触手とゼリーの豪雨だけでなく、足元の海水を伝って魚雷のように体の一部を飛ばしてきてもいる。

 

「チッ……」

 

ハジメは、〝宝物庫〟から黒い大型ライフルのようなものを取り出した。その大型ライフルには、本来マガジンが装填されるべき場所にボンベのようなものが取り付けられており、口径も弾丸を発射するとは思えないほど大きい。

 

それもそのはずだ。それはライフルではなく……

 

ゴォオオオオオーー!!

 

火炎放射器なのだから。タール状のフラム鉱石が、摂氏三千度の消えない炎を撒き散らす。

 

ハジメは狙うのは巨大クリオネでも、触手や飛沫でもない。周囲の赤黒い反応を示す〝壁〟を狙い本体への対応はユエ達に任せる。

 

すると何の変哲もないと思っていた壁が、ハジメの火炎放射によって壁紙が剥がれるようにボロボロと燃え尽きていく。どうやら、壁そのものが巨大クリオネというわけではないらしい。

 

ユエ達による本体への攻撃も激しさを増し、巨大クリオネもいよいよ本気になってきたのか、壁全体から凄まじい勢いで湧き出してきた。しかも、いつの間にか水位まで上がってきており、最初は膝辺りまでだったのが、今や腰辺りまで増水してきている。ユエに至っては、既に胸元付近まで水に浸かっていた。

 

ユエ達は何度も巨大クリオネを倒しているのだが、直ぐにゼリーが集まり、終わりが見えない。

 

「………」

 

ハジメは考える。今は殲滅の方法が見つからない上に、戦闘力を削がれる水中に没するのは非常にまず。なにせ、巨大クリオネには籠城が通用しない魔法で障壁を張ろうとも、潜水艇を出して中に入ろうとも、殲滅方法がなくてはいずれ溶かされるだろう。

 

「……此処は一度離脱するか」

 

そう呟いたハジメは決断して、必死に周囲を見渡す。そして、地面にある亀裂から渦巻きが発生しているのを発見した。

 

「一度、態勢を立て直すぞ。地面の下に空間がある。どこに繋がってるかわからない。覚悟を決めろ!」

 

「んっ」

 

「はいですぅ」

 

「承知じゃ」

 

「わかった!」

 

全員の返事を受け取り、ハジメは火炎放射器を振り回して襲い来るゼリーを焼き払いながら、渦巻く亀裂に向かって〝錬成〟を行った。亀裂を押し広げ、ドンドン深く穴を開けていく。

 

ハジメは、水中に潜り、ポーチから長さ十五センチ直径三センチ程の円筒を取り出した。中程にシュノーケルのマウスピース部分のような突起がついている。これは、小型の酸素ボンベだ。生成魔法で空間魔法を付与した鉱石で出来ており、中には〝宝物庫〟と同じく空間が広がっていて、空気が入れてあるが三十分程度しか持たない。

 

タイムリミットを頭の片隅に、ハジメは水中で〝錬成〟を繰り返していき、やがて地面が反応しなくなると、〝宝物庫〟からパイルバンカーを取り出した。そして、アンカーで水中に固定すると、一気にチャージする。

 

キィイイイイイ!! 

 

そして、階層破りの一撃を放つ引き金を引いた。

 

ドォゴオオオオン!!!

 

水中にくぐもった轟音が振動と共に伝播する。

 

次の瞬間、貫通した縦穴へ途轍もない勢いで水が流れ込んでいった。腰元まで上がってきていた海水が、いきなり勢いよく流れ始めたので、ユエ達も足をさらわれて穴へと流されて来る。ハジメは、激流の中、水中で必死に踏ん張りながら〝宝物庫〟から巨大な岩石と無数の焼夷手榴弾を転送しつつ、ユエ達と共に地下の空間へと流されていった。

 

背後で、くぐもった爆音が響く。巨大クリオネの追撃に対し、少しでも時間が稼げたのか確かめることは出来なかったのだった……。

 




編集しました。十一月二十六日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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