ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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五十九話 二人だけの迷宮攻略

 

「けほっ、けほっ、うっ」

 

「はぁはぁ、無事か、優花?」

 

「う、うん。何とか……皆は……」

 

結構な量の海水を飲んでしまい、むせながら周囲を見渡す優花の目には、自分の腰に手を回して抱きしめるハジメの姿と、真っ白な砂浜が映っていた。周囲にはそれ以外何もなく、ずっと遠くに木々が鬱蒼と茂った雑木林のような場所が見えていて、頭上一面には水面がたゆたっていた。結界のようなもので海水の侵入を防いでいるようで広大な空間である。

 

「はぐれたな……まぁ、全員に小さな倉庫レベルとはいえ〝宝物庫〟を渡してあるし、あいつ等なら自分でどうにでもするさ」

 

「うん」

 

周りを見渡すもユエ達の姿が見えないのでハグれたと理解したハジメは自分と優花の服を見て大分濡れており、着替えた方が良いと判断して優花を呼び掛けた。

 

 

「よし、優花。服が濡れてるし、まずは着替えるか?」

 

「そうね。服がびしょ濡れだから着替えたいわ」

 

ハジメの呼びかけに優花は急いで立ち上がり、エリセンを出る前に俺から全員に贈られた小型版〝宝物庫〟から替えの衣服を取り出して服を脱ぎ始めた。ハジメはさりげなく背を向け、着替え終わるのを待っていたが、優花が時折「うわ〜、下着も濡れてる」と言ったり、服の擦れる音が聞こえ、ハジメは耳栓をして、自分の欲望(イド)理性(エゴ)で抑えつけようかと考えていた。

 

「着替えたわよ……ってハジメ何してんの?」

 

「えっ、いやっ、何もっ」

 

着替えを終えた優花はハジメの方へ視線を転じると座禅を組んでいるハジメの姿が目に入り、優花が怪訝な表情で質問すると、ハジメはビクッと体を震わせた後、何故か焦ったように返事をするので、優花は何故、焦るのか分からず首を傾げた。

 

「まぁ、良いけど……これから、どうするの?」

 

「んんっ。そうだな……このまま海底に戻っても、あいつらが何処に行ったのかなんて分からないし……深部目指して探索するしかないだろうな。アイツ等もそうするだろうしな」

 

咳払いしながら答えるハジメは遠くに見える密林を眺めながら、振り返る。優花は笑みを浮かべ頷いた。そんな優花の笑顔に、ハジメも笑みを浮かべながら頷き歩き出した。

 

真っ白な砂浜をシャクシャクと踏み鳴らしながらしばらく進み、二人は密林に入る。鬱蒼と茂った木々や草を、ハジメがバッサバッサと切り裂いていく。優花は、その後ろをついていくだけだ。

 

その時……

 

「わっ!ちょっ何?! ハジメ取ってっ」

 

「ん?……あぁ、コイツか。ちょっと待ってろ」

 

後ろの優花が突然、声をあげたので振り向くと、優花の後頭部に何かいたので、そっと抱きしめるように片手を優花の後頭部に伸ばした。

 

「取れたぞ。これは、魔物……いや、魔石の反応がねぇからただの蜘蛛だな」

 

「ありがと、ハジメ」

 

ハジメは優花から摘んだ蜘蛛が魔物じゃない事を確認すると、優花はホッと息を吐いた。

 

「しかし、魔物だけじゃないと分かればもう少し警戒しながら進むとするか。毒持ちだったらダルいし」

 

「うん、そうするわ」

 

ハジメと優花は今まで以上に集中した様子で辺りを警戒するが、楽しげ会話をしてるので、迷宮攻略とは違う雰囲気で密林を抜けていった。

 

その先は……

 

「これは……船の墓場ってやつか?」

 

「すごい……帆船なのに、なんて大きさ……」

 

密林を抜けた先は岩石地帯となっており、そこにはおびただしい数の帆船が半ば朽ちた状態で横たわっていた。そのどれもが最低でも百メートルはありそうな帆船ばかりで、遠目に見える一際大きな船は三百メートルくらいありそうだ。

 

ハジメも優花も思わず足を止めてその一種異様な光景に見入ってしまった。しかし、いつまでもそうしているわけにも行かず、ハジメと優花は気を取り直すと、船の墓場へと足を踏み入れた。

 

岩場の隙間を通り抜け、あるいは乗り越えて、時折、船の上も歩いて先へと進む。しかし、目に入るどの船も朽ちてはいるが、触っただけで崩壊するほどではない、一体いつからあるのか判断が難しいが、どの船もある共通点があった。

 

「それにしても……戦艦ばっかだな」

 

「うん。でも、あの一番大きな船だけは客船っぽいよ。装飾とか見ても豪華だし……」

 

ハジメは一通り見ると墓場にある船には、どれも地球の戦艦や帆船のように横腹に砲門が付いているわけではなかった。しかし、それでもハジメが戦艦と断定したのは、どの船も激しい戦闘跡が残っていたからだ。見た目から言って、魔法による攻撃を受けたものだろう。スッパリ切断されたマストや、焼け焦げた甲板、石化したロープや網など残っていた。

 

大砲というものがないなら、遠隔の敵を倒すには魔法しかなく、それらの跡から昔の戦闘方法が想像できる。そして、ハジメの推測は、船の墓場のちょうど中腹に来たあたりで事実であると証明された。

 

――うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 

――ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

「ッ!? なんだ!?」

 

「ハジメ! 周りがっ!」

 

突然、大勢の人間の雄叫びが聞こえたかと思うと、周囲の風景がぐにゃりと歪み始めた。ハジメ達は驚いて足を止めて何事かと周囲を見渡すが、そうしている間にも風景の歪みは一層激しくなり――気が付けば、大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。

 

ハジメは周囲に視線を巡らせば、そこには船の墓場などなく、何百隻という帆船が二組に分かれて相対し、その上で武器を手に雄叫びを上げる人々の姿があった。

 

「な、なんだこりゃ……」

 

「ハ、ハ、ハジメ? 私、夢でも見てるの? ハジメ、ちゃんとここにいるわよね? ね?」

 

ハジメも優花も度肝を抜かれてしまい、何とか混乱しそうな精神を落ち着かせながら周囲の様子を見ることしかできない。そうこうしている内に、大きな火花が上空に上がり、花火のように大きな音と共に弾けると、何百隻という船が一斉に進み出した。俺達が乗る船と相対している側の船団も花火を打ち上げると一斉に進み出す。

 

そして、一定の距離まで近づくと、そのまま体当たりでもする勢いで突貫しながら、両者とも魔法を撃ち合いだした。

 

ゴォオオオオオオオオ!!

 

ドォガァアアン!!

 

ドバァアアアア!!!

 

「おぉ!?」

 

「きゃっ!」

 

轟音と共に火炎弾が飛び交い船体に穴を穿ち、巨大な竜巻がマストを狙って突き進み、海面が凍りついて航行を止め、着弾した灰色の球が即座に帆を石化させていく。

 

ハジメ達の乗る船の甲板にも炎弾が着弾し、盛大に燃え上がり始めた。船員が直ちに、魔法を使って海水を汲み上げ消火にかかっていく。

 

これは戦場だとハジメは察するも、このおびただしい船団と人々は戦争、放たれる魔法に込められた殺意の風が、ぬるりと肌を撫でてきて気持ち悪るく感じる。が何故、ハジメ達が戦場に紛れ込んでいる? 、と……

 

「これが、此処の試練なのか?」

 

ハジメ達はその様子を呆然と見ていた背後から再び炎弾が飛来した。放っておけば直撃コースだった。

 

ハジメは、なぜいきなり戦場に紛れ込んだのか? 試練なのか? などと疑問で頭の中を埋め尽くしながらも、とにかくドンナーを抜き、炎弾を迎撃すべくレールガンを撃ち放った。

 

炸裂音と共に一条の閃光となって飛翔した弾丸は、しかし、全く予想外なことに炎弾を迎撃するどころか直撃したにも関わらず、そのまますり抜けて空の彼方へと消えていってしまった。

 

「なにぃ!?」

 

ハジメはもう何度目かわからない驚愕の声を上げながら、傍の優花を抱いて回避行動に出ようとする。

 

「待って、防ぐ! ───〝光絶〟!」

 

優花の詠唱と共に、光系初級防御魔法の障壁が出現した。ハジメとしては、確かに魔法の核を撃ち抜いたのにすり抜けた正体不明の攻撃など避けるに越したことはなかったのだが、優花が魔法を発動してその場に留まろうとしたので、仕方なく〝金剛〟を発動し炎弾に備える。

 

しかし、ハジメの心配は杞憂に終わり、優花の障壁はしっかり炎弾を防いだ。

 

「射撃のミス?」

 

ハジメはそう言って、訝しげな表情をしながらと首を捻って、再度、飛来した炎弾に向かって発砲してみた。今度も、魔眼石には、確かに魔法の核を撃ち抜いたように見えたのだが、やはり、弾丸は炎弾をすり抜けて明後日の方向へ飛んでいく。

 

「クハッ……そういう事か」

 

ハジメはそれを見て、攻撃の有効性についてある程度の推測を立て、別の攻撃方法を試してみることにした。飛来する炎弾を防ぐため、優花が、もう一度障壁を張ろうとしたのを制止して、ドンナーに〝風爪〟を発動した。そして、回避と同時に〝風爪〟で炎弾を斬り付けると、今度は、炎弾をすり抜けることもなく真っ二つにすることが出来て、笑みを零す。

 

「ハジメ、分かったの?」

 

「あぁ、どうやらこれはただの幻覚ってわけでもないが、現実というわけでもないようだ。実体のある攻撃は効かないが、魔力を伴った攻撃は有効らしい。全く、本当にどうなってんだか」

 

ハジメが、厄介な状況に溜息を吐いていると、すぐ後ろで「ぐぁああ」と苦悶の声が上がった。何事かと振り返ると、年若い男がカットラスを片手に腹部を抑えて蹲っていた。足元に血だまりが出来て、傍らには血濡れの氷柱が転がっている。おそらく、被弾したのだろうな

 

咄嗟に、優花は、「大丈夫ですか!」と声を掛けながら近寄り、回復魔法を行使した。彼女の放つ純白の光が青年を包み込む。優花の〝神天治癒師〟としての腕なら瞬く間に治るはずだ……と思われたが、結果は予想外。青年は回復魔法をかけられた瞬間、淡い光となって霧散してしまった。

 

「え? えっ? ど、どうして……」

 

混乱している優花に、回復魔法を掛けるとこを見ていたハジメはある推測を優花に話しをしたた。

 

「魔力さえ伴っていれば、魔法の属性や効果は関係ないってことじゃないか?」

 

「嘘ぉ……えー、何それ幻覚でもこれは少しキツイわよ。……ハジメ、大迷宮ってこんなにヤラシイの?」

 

「まぁ……そうだなそれに今回の大迷宮は特にそういう精神をゴッソリ削るタイプのヤラシイ迷宮だな……」

 

「はぁ、分かったわ。でも、そうと分かれば、問題ないわ。さっきは取り乱しちゃったけど今度は大丈夫、安心して」

 

「クハッ……流石は優花だな」

 

ハジメの淡々とした説明に優花は眉を顰めてウンザリした表情になるのだが今度は大丈夫と言って真剣な表情になっていたこれ程の精神力を持ってる優花は流石だとハジメは思う。すると、不穏な気配を感じ、優花から視線を外した。

 

「ハジメ?」

 

「……来るぞ」

 

「えっ、何が……っ!」

 

ハジメが視線を外したのを気になった優花が声をかけたが、ハジメは呼びかけただけで優花は最初は疑問顔だったが何かを感じ取り周囲を見渡した。

 

見渡せば、雄叫びを上げながら、かなり近くまで迫ってきた相手の船団に攻撃する兵士達に紛れて、いつの間にか、かなりの数の男達が暗く澱んだ目でハジメと優花の方を見ていた。

 

優花が、ハジメの視線に気がつき同じように視線を巡らせた直後、彼等はハジメ達に向かって一斉に襲いかかってくるのを見てハジメは歯噛みする。

 

「幻覚の癖に、俺達のことは認識すんのかよ」

 

ハジメがそう言っていると、ハジメ達に向かってくる者達が何かを言っており、ハジメと優花の二人は回避行動を取りながら、耳を傾ける。

 

そして、聞こえてきたのは………

 

「全ては神々の御為にぃ!」

 

「エヒト様ぁ!最高神 ラーゼン(・・・・)様ぁ! 万歳ぃ!」

 

「異教徒めぇ! 我が神々の為に死ねぇ!」

 

そこにあったのは狂気だった。血走った眼に、唾液を撒き散らしながら絶叫を上げる口元。まともに見れたものではない。相対する船団は、明らかに何処かの国同士の戦争なのだろうと察することが出来るが、その理由もわかってしまった。これは宗教戦争なのだ。よく耳を澄ませば、相対する船団の兵士達からも同じような怒号と雄叫びが聞こえてくる。ただ、呼ぶ神の名が異なるだけだ。

 

しかしハジメはある神の名が気になり眉を顰めた。

 

「……ラーゼン?」

 

ハジメはそんな神の名を聞いた事はなく、王国の図書館にもそんな名は載ってなかったのを記憶している。しかし、今はそんな事を考えるより、襲ってくる狂人共の対処が優先だった。

 

ハジメは優花を後ろから抱きしめつつ、その肩越しにドンナーを突き出し発砲した。ただし、飛び出したのは弾丸ではなく、純粋な魔力の塊だ。〝魔力操作〟の派生〝魔力放射〟と〝魔力圧縮〟によって放たれたそれは、通常であれば、対象への物理的作用は余りなく魔力そのものを吹き飛ばすという効果をもつが魔力が枯渇すれば人も魔物も動けなくなるので、ある意味、無傷での無力化という意味では使える技術でハジメが面倒臭い相手(寄った町で店や宿で絡んできた奴)に使う時に使っていた。

 

そして、ドンナーによって撃ち放たれた紅色の弾丸は、一瞬で空を駆け抜けると、狂気を瞳に宿しカットラスを振り上げる兵士の眉間をぶち抜いた。それだけに留まらず、貫通して更に背後の兵士にも着弾し、その体を一瞬で霧散させた。

 

「優花! 飛ぶぞ! 舌を噛むなよ!」

 

「えっ此処から?! ちょっとハジメ待っ…きゃあああ!!」

 

狭い甲板の上で四方から囲まれるのも面倒なので、ハジメは優花をお姫様抱っこで抱き上げると〝空力〟を使い一気に飛び上がった。余りの勢いに待ったをかけた優花から悲鳴が上がる。

 

ハジメは先に物見台にいた兵士を蹴り落としつつ、四本あるマストの内の一本にある物見台に着地した。

 

下方で、狂気に彩られた兵士達が血走った眼でハジメ達を見上げている。今の今まで敵国同士で殺意を向け合っていたというのに、どういう訳か一部の人間達がハジメ達を標的にしている。しかも、狙う場合に限って敵味方の区別なく襲ってきてその数も、まるで質の悪い病原菌に感染でもしているかのように、次々と増加していって気持ち悪いと感じてしまう。

 

それに、一瞬前まで目の前の敵と相対していたというのに、突然、動きを止めるとグリンッ! と首を捻ってハジメ達を凝視して直後に群がって来る光景は軽くホラーだった。狂気に当てられた優花など、既に真っ青になってハジメの胸元にギュッと離れないように顔を埋めていた。その理由は簡単、優花は大のホラー苦手である。ホラー映画をハジメ達五人で見た時は、優花はずっとハジメの後ろに隠れながら、しがみついていた程だ。

 

「さて、どうすれば、この気持ち悪い空間から抜け出せるんだ?」

 

「……どこかに脱出口がある……とか?」

 

「海のど真ん中だぞ?」

 

「じゃあ、戦争を終わらせる……とか?」

 

「終わらせる……なるほど、一理あるな」

 

「えっあれ? えっと、冗談で言ったつもりだけど……」

 

「うん、きっとそうだな。それ以外思いつかないし、何より俺好みだし」

 

「ちょっとハジメ?!」

 

ハジメは、マストのロープを使って振り子の要領で迫ってきた兵士数人を見もせず魔力弾で撃ち抜き霧散させ、撃ち放った紅色の弾丸を〝魔力操作〟の派生〝遠隔操作〟で誘導し、更に飛来した炎弾を迎撃していく。ハジメはこの時、〝魔力砲〟でも作れば良かったと思っていた。

 

「優花、脱出方法はよく分からないが、襲われたのは事実なんだから、取り敢えず全員ぶちのめすぞ」

 

「はぁ、それしか方法がないと思うしね……分かったわ!」

 

ハジメの言葉に優花は溜息を吐きながら決然とした表情で詠唱を始める。ハジメは狂気が吹き荒れる戦場は、優花の精神を掘削機のように削り取っていると思ったが大丈夫そうだと分かり、その姿に見蕩れてしまっていた。

 

ハジメはそんな彼女を守るように周囲を睥睨した。眼下を見れば、そこかしこで相手の船に乗り込み敵味方混じり合って殺し合いが行われていた。

 

ハジメ達が攻撃した場合と異なり、幻想同士の殺し合いでは、きっちり流血する。甲板の上には、誰の物とも知れない臓物や欠損した手足、あるいは頭部が撒き散らされ、かなりスプラッタな状態になっていた。どいつもこいつも、〝神々のため〟〝異教徒〟〝神罰〟を連呼し、眼に狂気を宿して殺意を撒き散らしている正に狂っている。

 

兵士達の鮮血が海風に乗って桜吹雪のように舞い散る中、マストの上の物見台にいる俺達にも、いや、むしろハジメ達を狙って双方の兵士が執拗に襲いかかってきた。

 

その度に、紅色の弾丸と雷魔法が縦横無尽に飛び回り、敵の尽くを撃ち抜き、黒焦げにしていく。更には、ハジメと優花の周囲を衛星のようにヒュンヒュンと飛び回って、攻性防御の役割を果たす魔力弾と雷魔法の〝紅雷玉〟もあった。

 

それでも、狂気の兵士達は怯むどころか気にする様子もなく、特攻を繰り返して来た。飛翔の魔法で何十人という兵士達が頭上から、そして、隣のマストやマストにかかる網を伝って兵士達が迫って来る。見れば、俺達の乗る船にやたらと攻撃が集中しており、魔眼石には、俺達に向かって手を掲げる術師達から最上級クラスの魔力の高まりが見えていた。

 

「チッ……多すぎるだろっ!」

 

ハジメは苦言を呈しながら、何とか狙撃してやろうかと考えたその時、優花の詠唱が終わり、彼女の最上級魔法が発動する。

 

「――ここに聖母は微笑む〝聖典〟──〝範囲向上付与〟!」

 

直後、優花を中心に光の波紋が一気に戦場を駆け抜け脈動を打つように何度も何度も広がり、その範囲は半径一キロメートルに及んだ。そして、その波紋に触れた敵の一人一人を光で包み込んでいった。

 

───光系最上級回復魔法〝聖典〟

 

超広範囲型の回復魔法で、領域内にいる者を全員まとめて回復させる効果を持ち、範囲は、術者の魔力量や技量にもよるが、最低でも半径五百メートル以内の者に効果がある魔法で、あらかじめ〝目印〟を持たせておけば、領域内で対象を指定して回復させることも出来る魔法である。

 

だが当然、普通は数十人掛りで行使する魔法で、長時間の詠唱と馬鹿デカイ魔法陣も必要だと本にあったがたった一、二分で、しかも一人で行使してそれに付与術も行使したりする。なので、回復魔法や支援系のバフの魔法なら優花はユエを超えるチートヒーラーである。

 

優花の放った〝聖典〟の光が戦場を包み込むと同時に、領域内の兵士達は敵味方の区別なく全てが体を霧散させて消え去った。魔法の効果が終わり、優花の体が魔力枯渇で傾ぐ。ハジメは苦笑いしながらすかさず支えに入った。

 

「流石だな優花」

 

「ふふ、そんなことないわよ。ハジメ達の方がずっと凄いよ」

 

「そんな謙遜すんな。後、魔力も回復しておけ」

 

「そうね、ありがとハジメ」

 

優花は、ハジメの素直な称賛に嬉しくてはにかむも、ハジメ達の方が凄いと言葉にしながら笑みをこぼした。

 

そして、「〝補充〟」と呟いてハジメから貰った魔晶石の指輪により失った魔力を充填していく。優花は魔力の直接操作が出来ないので、ハジメが魔法陣を刻んで詠唱で取り出せるように改良している。ハジメは、優花の魔力の回復を待ってから、再び戦闘に入った。

 

「早急に終わらせて先に進むぞ」

 

「了解〜」

 

そして二国の大艦隊は、その後、一時間ほどでたった二人の人間に殲滅されたのだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「うっ、魔法使い過ぎて魔力が………」

 

「優花、大丈夫か?ヤバイなら抱っこするが……」

 

「いや、そこまでしなくて良いから、ハジメ過保護過ぎ」

 

「ゔっ」

 

最後の兵士達を消滅させた直後、再び、周囲の景色がぐにゃりと歪み、気が付けば、ハジメ達は元の場所に戻っていた。やはり、殲滅で正解だったかと、安堵の吐息を漏らした直後、優花は魔力の使い過ぎでその場で両膝を着きながら倒れて「疲れた〜」と呟いているので、ハジメは心配になりお姫様抱っこしようと言ったが優花に「過保護過ぎ」と言われ少しへこんでしまった。

 

「ねぇ、ハジメ。あの幻覚みたいなの何だったの? やっぱこの廃船と関係あるわよね?」

 

魔力がそれなりに回復したのだろう優花は立ち上がり、近くの岩場に腰掛けながら問いかける。ハジメは戦闘中に少し考えてあった推測を話した。

 

「おそらくだが、昔あった戦争を幻術か何かで再現したんだろうな。……まぁ、迷宮の挑戦者を襲うという改良は加えられているみたいだが……あるいは、これがこの迷宮のコンセプトなのかもしれない」

 

「コンセプト?」

 

「ああ。【グリューエン大火山】でティオが言ってたんだよ。大迷宮にはそれぞれ〝解放者〟達が用意したコンセプトがあるんじゃないか? ってな。それが本当だとすれば、ここは……」

 

「……〝狂った神々がもたらすものの悲惨さを知れ〟…とか?」

 

「ああ、大体そんな気がするよ」

 

ハジメの言葉を引き継ぎ、答えを呟いた優花は先程までの光景を思い出して再び、寒気に襲われたように体をぶるりと震わせながら顔を青ざめさせた。

 

優花の精神を苛んだのは、兵士達の狂気だろう。〝狂信者〟という言葉がぴったり当てはまる彼等の言動が、思想が、そしてその果ての殺し合いが気持ち悪くて仕方なかったし、狂気の宿った瞳で体中から血を噴き出しながらも哄笑し続ける者や、死期を悟ったからか自らの心臓を抉り出し神々に捧げようと天にかかげる者、俺達を殺すために弟ごと刺し貫こうとした兄と、それを誇らしげに笑う弟。戦争は狂気が満ちる場所なのだろうが、それにしても余りに凄惨だった。その全て〝神々の御為〟というのだから、尚更だ。

 

顔を青ざめている優花を見かねて、ハジメはすぐ隣に腰掛けて優花を抱きしめた。狂気に呑まれそうになっている優花を放っておくことは出来ない。優花は、少し驚いたようにハジメを見ると、嬉しそうに頬を緩めてギュッとハジメの背中に手をやって抱きしめ返す。

 

「ハジメ、ありがと……」

 

「気にするな。狂気に呑まれそうになる辛さは……わかる。俺も奈落の底で堕ちそうになったしな……」

 

「……そうならなかったのはどうして?」

 

「お前のおかげだよ、優花」

 

「私?」

 

優花はハジメの答えに驚いて目を見開いていると、ハジメはそんな優花を優しげに見つめながら、彼女の髪に身に着けてある髪飾りにそっと触れた。

 

「正確にはこの髪飾りだけどな。……この髪飾りがあったからこそ思ったんだ。〝優花のもとへ戻らないと、守らないと、約束したんだと〟な」

 

「ハジメ……」

 

懐かしそうに、それでいて愛しそうに優花を見るハジメの表情を見て、優花は嬉しそうにハジメを見つめ返す。

 

「ふふ、ありがとハジメ」

 

「どういたし───!」

 

ハジメは返事をしようとした。その瞬間、優花が逃がさないようにか両手でハジメの頬を触れると、そのまま顔を近付けさせ、キスをした。それもディープの方だ。

 

「ちゅっ、くちゅ、ぷちゅ、ちゅるっ……」

 

口の中でハジメの唾液と優花の唾液が混ざり合い、舌が絡み合っていく。

 

「(ヤバイ、はまりそう)」

 

ハジメは優花とのディープキスで脳内が蕩けてしまい意識が飛びそうになる。しかし、此処は大迷宮、ハジメはどうにか意識を飛ぶのを回避して、優花の唇と自分の唇を離れさせた。

 

「……ぷはっ!…おい、優花。いきなりディープは驚いたぞ」

 

「ゴメン……話を聞いたら、つい嬉しくなっちゃって……私……」

 

ハジメは優花の唐突のディープに驚いてると、優花は嬉しそうに顔を真っ赤にして手イジイジしながら話す姿にハジメはゴクリと音を立てて、口の中にある唾液を飲み込む。

 

「(可愛い顔しやがって……)まぁ……良いか。優花、もう魔力も精神も回復したろ?」

 

「うん、バッチリ」

 

「そうか…じゃあ行こうか。愛しのお姫様(・・・・・・)

 

「ふふ、ありがと。私の王子様(・・・・・)

 

ハジメは優花の回復を聞いて、回復したと知ると優花の前で片膝を突いてから片手を指し出し、優花はそれを見て嬉しそうにハジメの手を取って互いに笑みを浮かべ合うと、ハジメ達は手を繋ぎ合いながら一番遠くに鎮座する最大級の帆船へと歩みを進めたのだった……。




編集しました。十一月二十七日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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