ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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六十三話 異端認定

 

赤銅色の世界に再び足を踏み入れて一日半。

 

ハジメ達は、砂埃を盛大に巻き上げつつ魔力駆動四輪を駆りながら一路【アンカジ公国】を目指していた。本来の目的地は、【ハルツィナ樹海】ではあるのだが、優花が、再生魔法を使えば【アンカジ公国】のオアシスを元に戻せるのかもしれない、是非試してみたいと提案したためだ。

 

再生魔法は、文字通り、あらゆるものを〝元に戻す〟という効果がある。なので、回復魔法による浄化の効かない汚染されたオアシスでも、元に戻せるはずと踏み、ちょうど通り道であるし、前回は名物のフルーツを食する暇もなかったことから、ハジメ達も特に反対する理由はなく、優花の提案に乗ることにした。

 

そして、現在、アンカジの入場門が見え始めたところなのだが、何やら前回来た時と違って随分と行列が出来ていた。大きな荷馬車が数多いし、雰囲気からして、どうも商人の行列だろう。

 

しかし………

 

「でも随分と大規模な隊商だな……」

 

「……ん、時間かかりそう」

 

「多分、物資を運び込んでいるんじゃない?」

 

優花の推測通り、長蛇の列を作っているのは、【アンカジ公国】が【ハイリヒ王国】に救援依頼をし、要請に応えてやって来た救援物資運搬部隊に便乗した商人達であった。王国側の救援部隊は、当然の如く先に通されており、今見えている隊商も、よほどアコギな商売でもしない限り、アンカジ側は全て受け入れているようだった。

 

何せ、水源がやられてしまっていて、既に収穫して備蓄していたもの以外、作物類も安全のため廃棄処分にする必要があり、水以外に食料も大量に必要としているだろうし相手を選んでいる余裕はないだろう。

 

ハジメはそんな事を思いながら、吹き荒ぶ砂と砂漠の暑さに辟易した様子で順番待ちをする隊商を尻目に、四輪を操作して直接入場門まで突入した。

 

ハジメ達は、門前まで来ると周囲の注目を無視して四輪から降車した。周囲の人々は、いつも通り、優花達の美貌に目を奪われ、次いで、〝宝物庫〟に収納されて消えたように見える四輪に瞠目している。

 

「ああ、やはり使徒様方でしたか。戻って来られたのですね」

 

兵士は、優花の姿を見るとホッと胸をなで下ろした。おそらく、ビィズを連れてきた時か、ハジメ達が【グリューエン大火山】に〝静因石〟を取りに行く時に四輪を見たことがあったのだろう。

 

そして、それが、〝神の使徒〟の一人としてアンカジで知れ渡っている優花の乗り物であると認識していたようだ。概ね間違ってはいないので特に訂正はせず知名度は優花が一番なので、代表して前に出る。

 

「はい。実は、オアシスを浄化できるかもしれない術を手に入れたので試しに来ました。領主様に話を通しておきたいのですが……」

 

「オアシスを!? それは本当ですかっ!?」

 

「は、はい。あくまで可能性が高いというだけですが……」

 

「いえ、流石は使徒様です。と、こんなところで失礼しました。既に、領主様には伝令を送りました。入れ違いになってもいけませんから、待合室にご案内します。使徒様の来訪が伝われば、領主様も直ぐにやって来られるでしょう」

 

ハジメは凄いVIP対応だな、と思った。やはり、国を救ってもらったという認識なのかハジメが考えてると兵士のハジメ達を見る目には多大な敬意の色が見て取れた。そしてハジメ達は、好奇の視線を向けてくる商人達を尻目に、門番の案内を受けて再び【アンカジ公国】に足を踏み入れた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

領主であるランズィが息せき切ってやって来たのは、ハジメ達が待合室にやって来て十五分くらいだった。

 

それは、随分と早い到着だ。それだけ、ランズィ達にとってハジメ達は重要なんだろう。ハジメは少し照れてしまいそうになる。

 

ハジメがそう思いながら頬をカリカリとかいてるとランズィが話しかけた。

 

「久しい……というほどでもないか。無事なようで何よりだ、ハジメ殿。ティオ殿に〝静因石〟を託して戻って来なかった時は本当に心配したぞ。貴殿は、既に我が公国の救世主なのだからな。礼の一つもしておらんのに勝手に死なれては困る」

 

「一介の冒険者に何言ってるんだよ。でもまぁ、この通りピンピンしてる。ありがとよ。それより領主、どうやら救援も無事に受けられているようだな」

 

「ああ。備蓄した食料と、ユエ殿が作ってくれた貯水池のおかげで十分に時間を稼げた。王国から援助の他、商人達のおかげで何とか民を飢えさせずに済んでいる」

 

そう言って、少し頬がこけたランズィは穏やかに笑った。アンカジを救うため連日東奔西走していたのだろう。疲労がにじみ出ているが、その分成果は出ているようで、表情を見る限りアンカジは十分に回せていけているようだ。

 

「領主様。オアシスの浄化は……」

 

「使徒殿……いや、優花殿。オアシスは相変わらずだ。新鮮な地下水のおかげで、少しずつ自然浄化は出来ているようだが……中々進まん。このペースだと完全に浄化されるまで少なくとも半年、土壌に染み込んだ分の浄化も考えると一年は掛かると計算されておる」

 

少し、憂鬱そうにそう語るランズィに、優花が今すぐ浄化できる可能性があると伝える。それを聞いたランズィの反応は劇的だった。掴みかからんばかりの勢いで「マジで!?」と唾を飛ばして確認する。

 

優花は完全にドン引きしながらコクコクと頷くが、ハジメの影にすぐさま隠れた。そんな優花を見て、取り乱したと咳払いしつつ居住まいを正したランズィは、早速、浄化を頼んできた。

 

「安心しろ、元よりその為に来たんだ」

 

ハジメはそう言いながら頷き、俺達一行はランズィに先導されオアシスへと向かった。

 

「やっぱ人気がねぇな……」

 

ハジメはそう呟きながら周りを見る。オアシスには、全くと言っていいほど人気がなく、普段は憩いの場所として大勢の人々で賑わっていると聞いてるが見る影もなかった。

そんなオアシスをランズィが無表情ながらも何処か寂しそうな雰囲気を漂わせながらオアシスを眺めていた。ランズィは賑わっていた頃のオアシスを思い出しているのであろうとハジメはランズィの気持ちを察し話しかけた。

 

「安心しろよ領主、優花の手に掛かればオアシスは元通りだからよ」

 

「……ハジメ殿、ありがとうございます」

 

ランズィはハジメに自分の気持ちが察せられたのを理解し、少し照れ臭そうにお礼をした。

 

優花は「なんか、期待を膨らまさされてる気がする」と呟きながらオアシスの畔に立って再生魔法を行使する。

 

再生魔法を入手したものの、ハジメは魔法は使えるがユエ達よりかは発動に時間が掛かる為、アーティファクト作成に使うが、相変わらずシアは適性が皆無だった。しかしシアはまともに発動できなくてもオートリジェネのような自動回復効果があるらしく、また、意識すれば傷や魔力、体力や精神力の回復も段違いに早くなるらしい。

 

一番適性が高かったのは優花で、次がティオ、その次がユエだった。ユエの場合、相変わらず、自前の固有魔法〝自動再生〟があるせいか、任意で行使する回復作用のある魔法は苦手なようで、反対に、〝神天治癒師〟である優花は、回復と〝再生〟に通じるものがあるようで一際高い適性を持っており、より広範囲に効率的に行使出来るようだが、やはり魔法陣は必要でユエの方が実戦的だ。

 

優花が詠唱を始める。長い詠唱だ。エリセン滞在中に修練して最初は七分もかかっていた魔法を今では二分に縮め付与との複合まで出来ている。たった一週間でそれなのだから、十二分にチートで、魔法の天才であるユエでさえも「優花……やべぇ」と口をこぼしながら、その類まれない回復魔法と付与術の技術に驚愕していた。

 

静謐さと、どこか荘厳さを感じさせる詠唱に、ランズィと彼の部下達が息を呑む。決して邪魔をしてはならない神聖な儀式のように感じたのだ。緊張感が場を支配する中、いよいよ優花の再生魔法が発動した。

 

「――〝絶象〟」

 

瞑目したままアーティファクトの両手を突き出し呟かれた魔法名。

 

次の瞬間、前方に蛍火のような淡い光が発生し、スっと流れるようにオアシスの中央へと落ちた。すると、オアシス全体が輝きだし、淡い光の粒子が湧き上がって天へと登っていく。それは、まるでこの世の悪いものが浄化され天へと召されていくような神秘的で心に迫る光景だった。

 

誰もがその光景に息をするのも忘れて見蕩れる。術の効果が終わり、オアシスを覆った神秘の輝きが空に溶けるように消えた後も、ランズィ達は、しばらく余韻に浸るように言葉もなく佇んでいた。

 

「おっ……と、お疲れ優花」

 

「ありがと、ハジメ」

 

「どういたしまして……おい、領主。見蕩れてないで水質を調べろ」

 

少し疲れた様子で肩を揺らす優花を支えつつ、ハジメはランズィを促す。ハッと我を取り戻したランズィは、部下に命じて水質の調査をさせた。部下の男性が慌てて検知の魔法を使いオアシスを調べる。固唾を呑んで見守るランズィ達に、検知を終えた男は信じられないといった表情でゆっくりと振り返り、ポロリとこぼすように結果を報告した。

 

「……戻っています」

 

「……もう一度言ってくれ」

 

ランズィの再確認の言葉に部下の男は、息を吸って、今度ははっきりと告げた。

 

「オアシスに異常なし! 元のオアシスです! 完全に浄化されています!」

 

その瞬間、ランズィの部下達が一斉に歓声を上げた。手に持った書類やら荷物やらを宙に放り出して互いに抱き合ったり肩を叩きあって喜びをあらわにしている。ランズィも深く息を吐きながら感じ入ったように目を瞑り天を仰いでいた。

 

「あとは、土壌の再生だな……領主、作物は全て廃棄したのか?」

 

「……いや、一箇所にまとめてあるだけだ。廃棄処理にまわす人手も時間も惜しかったのでな……まさか……それも?」

 

「ユエとティオも加われば、いけるんじゃないか? どうだ?」

 

「……ん、問題ない」

 

「うむ。せっかく丹精込めて作ったのじゃ。全て捨てるのは不憫じゃしの。任せるが良い」

 

ハジメ達の言葉に、本当に土壌も作物も復活するのだと実感し、ランズィは、胸に手を当てると、人目もはばからず深々と頭を下げた。領主がすることではないが、そうせずにはいられないほどランズィの感謝の念は深かったのだ。公国への深い愛情が、そのまま感謝の念に転化したようなものだ。

 

ランズィからの礼を受けながら、早速、ハジメ達は農地地帯の方へ移動しようとした。

 

「……」

 

「ハジメ?」

 

ハジメは不意に感じた不穏な気配を感じその歩を止め、それに気付いた優花が尋ねるが手で制して視線を巡らす。そして遠目に何やら殺気立った集団が肩で風を切りながら迫ってくる様子が見えた。

 

「チッ……誰かと思えば、やっぱり、教会の連中か」

 

アンカジ公国の兵士とは異なる装いの兵士が隊列を組んで一直線に向かってくるのでハジメは〝遠見〟で確認するとこの町の聖教教会関係者と神殿騎士の集団のようで悪態をついた。

 

ハジメ達の傍までやって来た彼等は、すぐさま、半円状に包囲した。そして、神殿騎士達の合間から白い豪奢な法衣を来た初老の男が進み出てきた。物騒な雰囲気に、ランズィが咄嗟に男と俺達の間に割って入る。

 

「ゼンゲン公……こちらへ。彼等は危険だ。特にその黒の服装をした白髪の男の皮を被った()にはな」

 

「フォルビン司教、これは一体何事か。彼等が危険? 二度に渡り、我が公国を救った英雄ですぞ? 彼等への無礼は、アンカジの領主として見逃せませんな」

 

フォルビン司教と呼ばれた初老の男は、馬鹿にするようにランズィの言葉を鼻で笑った。

 

「ふん、英雄? 言葉を慎みたまえ。彼等は、既に〝異端者認定〟を受けている。不用意な言葉は、貴公自身の首を絞めることになりますぞ」

 

「……」

 

ハジメは、フォルビンの発言で、豊穣の女神効果は駄目だったと知る。しかし、これといって別に期待はしてなかったので、異端認定はそろそろ来るだろうと思ってたから焦る程ではないが、先生には恥ずかし二つ名を作っちまったと心の中で謝罪をした。

 

「異端者認定……だと? 馬鹿な、私は何も聞いていない」

 

ハジメに対する〝異端者認定〟という言葉に、ランズィが息を呑んだ。ランズィとて、聖教教会の信者だ。その意味の重さは重々承知している。それ故に、何かの間違いでは? と信じられない思いでフォルビン司教に返した。

 

「当然でしょうな。今朝方、届いたばかりの知らせだ。このタイミングで異端者の方からやって来るとは……クク、何とも絶妙なタイミングだと思わんかね? きっと、神が私に告げておられるのだ。神敵を滅ぼせとな……これで私も中央に……」

 

最後のセリフは声が小さく聞こえなかったが、どうやらハジメが異端者認定を受けたことは本当らしいと理解し、思わず、背後にいるハジメに振り返るランズィ。

 

だが、下手にハジメが行動するとランズィやアンカジ公国に迷惑が掛かると思い、ハジメは肩を竦めるのみで視線で「どうするんだ?」と問いかけるだけにした。

 

ハジメの視線を受けて眉間に皺を寄せるランズィに、如何にも調子に乗った様子のフォルビン司教がニヤニヤと嗤いながら口を開いた。

 

「さぁ、私は、これから神敵を討伐せねばならん。相当凶悪な男だという話だが、果たして神殿騎士百人を相手に、どこまで抗えるものか見ものですな。……さぁさぁ、ゼンゲン公よ、そこを退くのだ。よもや我ら教会と事を構える気ではないだろう?」

 

ランズィは瞑目する。そして、ハジメの力、その他あらゆる情報を考察して何となく異端者認定を受けた理由を察した。自らが管理できない巨大な力を教会は許さなかったのだろうと。

 

しかし、ハジメ達の力の大きさを思えば、自殺行為に等しいその決定に、魔人族と相対する前に、ハジメ一行と戦争でもする気なのかと中央上層部の者達の正気を疑った。そして、どうにもキナ臭いと思いつつ、一番重要なことに思いを巡らせた。

 

それは、ハジメ達がアンカジを救ってくれたということ。毒に侵され倒れた民を癒し、生命線というべき水を用意し、オアシスに潜む怪物を討伐し、今再び戻って公国の象徴たるオアシスすら浄化してくれた。

 

この莫大な恩義に、どう報いるべきか頭を悩ましていたのはついさっきのことだ。ランズィは目を見開くと、ちょうどいい機会ではないかと口元に笑みを浮かべた。そして、黙り込んだランズィにイライラした様子のフォルビン司祭に領主たる威厳をもって、その鋭い眼光を真っ向からぶつけ、アンカジ公国領主の答えを叩きつけた。

 

「断る」

 

「……今、何といった?」

 

「……へぇ」

 

全く予想外の言葉に、ハジメは以外な言葉に笑みを漏らし、フォルビン司教の表情が面白いほど間抜け顔になっていた。あの顔からして内心、聖教教会の決定に逆らうなど有り得ないことなのだから当然だろうと慢心していたのだろう、良い様だった。そう思ってるとランズィも苦笑いしながらも、揺るがぬ決意で言葉を繰り返した。

 

「断ると言った。彼等は救国の英雄。例え、聖教教会であろうと彼等に仇なすことは私が許さん」

 

「なっ、なっ、き、貴様! 正気か! 教会に逆らう事がどういうことかわからんわけではないだろう! 異端者の烙印を押されたいのか!」

 

ランズィの言葉に、驚愕の余り言葉を詰まらせながら怒声をあげるフォルビン司教。周囲の神殿騎士達も困惑したように顔を見合わせている。

 

「フォルビン司教。中央は、彼等の偉業を知らないのではないか?彼は、この猛毒に襲われ滅亡の危機に瀕した公国を救ったのだぞ? 報告によれば、勇者一行も、ウルの町も彼に救われているというではないか……そんな相手に異端者認定? その決定の方が正気とは思えんよ。故に、ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、この異端者認定に異議とアンカジを救ったという新たな事実を加味しての再考を申し立てる」

 

「だ、黙れ! 決定事項だ!これは神のご意志だ! 逆らうことは許されん! 公よ、これ以上、その異端者を庇うのであれば、貴様も、いやアンカジそのものを異端認定することになるぞ! それでもよいのかっ!」

 

どこか狂的な光を瞳に宿しながら、フォルビン司教は、とても聖職者とは思えない雰囲気で喚きたてた。それを冷めた目で見つめるランズィ。

 

ハジメはランズィの傍に向かってから問いかける。

 

「……おい、いいのか? 王国と教会の両方と事を構えることになるぞ。領主として、その判断はどうなんだ?」

 

ランズィは、ハジメの言葉には答えず事の成り行きを見守っていた部下達に視線を向けた。

 

「オイオイ、マジかよコイツ等……」

 

ハジメも、誘われるように視線を向けると、二人の視線に気がついた部下達は一瞬瞑目した後、覚悟を決めたように決然とした表情を見せた。瞳はギラリと輝いている。明らかに、「殺ったるでぇ!」という表情で苦笑いしてしまった。その意志をフォルビン司教も読み取ったようで、更に激高し顔を真っ赤にして最後の警告を突きつけた。

 

「いいのだな? 公よ、貴様はここで終わることになるぞ。いや、貴様だけではない。貴様の部下も、それに与する者も全員終わる。神罰を受け尽く滅びるのだ」

 

「このアンカジに、自らを救ってくれた英雄を売るような恥知らずはいない。神罰? 私が信仰する神は、そんな恥知らずをこそ裁くお方だと思っていたのだが? 司教殿の信仰する神とは異なるのかね?」

 

ランズィの言葉に、怒りを通り越してしまったのか無表情になったフォルビン司教は、片手を上げて神殿騎士達に攻撃の合図を送ろうとした。と、その時、ヒュ! と音を立てて何かが飛来し、一人の神殿騎士のヘルメットにカン! と音を立ててぶつかった。足元を見れば、そこにあるのは小石だった。神殿騎士達は何のダメージもないが、なぜこんなものが? と首を捻る。しかし、そんな疑問も束の間、石は次々と飛来し、神殿騎士達の甲冑に音を立ててぶつかっていった。

 

何事かと石が飛来して来る方を見てみれば、いつの間にかアンカジの住民達が大勢集まり、神殿騎士達を包囲していた。

 

彼等は、オアシスから発生した神秘的な光と、慌ただしく駆けていく神殿騎士達を見て、何事かと野次馬根性で追いかけて来た人々だった。

 

彼等は、神殿騎士が、自分達を献身的に治療してくれた〝神の使徒〟たる優花や、特効薬である〝静因石〟を大迷宮に挑んでまで採ってきてくれたハジメ達を取り囲み、それを敬愛する領主が庇っている姿を見て、「教会のやつら乱心でもしたのか!」と憤慨し、敵意もあらわに少しでも力になろうと投石を始めたのである。

 

「やめよ! アンカジの民よ! 奴らは異端者認定を受けた神敵である! やつらの討伐は神の意志である!」

 

フォルビンが、殺気立つ住民達の誤解を解こうと大声で叫ぶ。彼等はまだ、ハジメ達が異端者認定を受けていることを知らないだけで、司教たる自分が教えてやれば直ぐに静まるだろうと思っいるらしい。

 

実際、聖教教会司教の言葉に、住民達は困惑をあらわにして顔を見合わせ、投石の手を止めた。

 

しかし、そこへ今度はランズィの言葉が、威厳と共に放たれる。

 

「我が愛すべき公国民達よ。聞け! 彼等は、たった今、我らのオアシスを浄化してくれた! 我らのオアシスが彼等の尽力で戻ってきたのだ! そして、汚染された土地も! 作物も! 全て浄化してくれるという! 彼等は、我らのアンカジを取り戻してくれたのだ! この場で多くは語れん。故に、己の心で判断せよ! 救国の英雄を、このまま殺させるか、守るか。……私は、守ることにした!」

 

フォルビン司教は、「そんな言葉で、教会の威光に逆らうわけがない」と嘲笑混じりの笑みをランズィに向けようとして、次の瞬間、その表情を凍てつかせた。

 

カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!

 

住民達の意思が投石という形をもって示されたからだった。

 

「なっ、なっ……」

 

「クハッ……」

 

再び言葉を詰まらせたフォルビン司教に住民達の言葉が叩きつけられたのを見てハジメは笑みをこぼした。

 

「ふざけるな! 俺達の恩人を殺らせるかよ!」

 

「教会は何もしてくれなかったじゃない! なのに、助けてくれた使徒様を害そうなんて正気じゃないわ!」

 

「何が異端者だ! お前らの方がよほど異端者だろうが!」

 

「きっと、異端者認定なんて何かの間違いよ!」

 

「優花様を守れ!」

 

「領主様に続け!」

 

「優花様、貴女にこの身を捧げますぅ!」

 

「おい、誰かビィズ会長を呼べ!〝優花様にご奉仕し隊〟を出してもらうんだ!」

 

「おい、何だその隊?聞いてねぇぞ……おい領主、今すぐ息子を呼べ」

 

どうやら、住民達はランズィと優花に深い敬愛の念を持っているらしい。信仰心を押しのけて、目の前のランズィと一行を守ろうと気勢をあげた。いや、きっと信仰心自体は変わらないのだろう。ただ、自分達の信仰する神が、自分達を救ってくれた〝神の使徒〟である優花を害すはずがないと信じているようだ。だが、変にブルックのような集団をいつの間にか創っているビィズとは〝オハナシ〟をしないといけないとハジメは笑みを浮べながら指を鳴らす。

 

そうこうしていると、事態を知った住民達が、続々と集まってくる。彼等一人一人の力は当然のごとく神殿騎士には全く及ばないが、際限なく湧き上がる怒りと敵意にフォルビン司教や助祭、神殿騎士達はたじろいだ様に後退っていた。

 

「司教殿、これがアンカジの意思だ。先程の申し立て……聞いてはもらえませんかな?」

 

「ぬっ、ぐぅ……ただで済むとは思わないことだっ」

 

歯軋りしながら最後にハジメ達を煮え滾った眼で睨みつけると、フォルビン司教は踵を返しその後を、神殿騎士達が慌てて付いていく。フォルビン司教は激情を少しでも発散しようとしているかのように、大きな足音を立てながら教会の方へと消えていった。

 

「……本当によかったのか? 今更だが、俺達のことは放っておいても良かったんだぞ?」

 

ハジメは自分達の件に変に関わらなくても良いのに申し訳ないと思いながらランズィに困ったような表情でそう告げる。優花達も、自分達のせいでアンカジが、今度は王国や教会からの危機にさらされるのでは心配顔だった。

 

だが、そんなハジメ達に、ランズィは何でもないように涼しい表情で答えた。

 

「そうだろうな。つまり君達は、教会よりも怖い存在ということだ。救国の英雄だからというのもあるがね、半分は、君達を敵に回さないためだ。信じられないような魔法をいくつも使い、未知の化け物をいとも簡単に屠り、大迷宮すらたった数日で攻略して戻ってくる。教会の威光をそよ風のように受け流し、百人の神殿騎士を歯牙にもかけない。万群を正面から叩き潰し、勇者すら追い詰めた魔物を瞬殺したという報告も入っている……いや、実に恐ろしい。父から領主を継いで結構な年月が経つが、その中でも一、二を争う英断だったと自負しているよ」

 

「クハッ……そうかよ」

 

ハジメとしては、ランズィが自分達を教会に引き渡したとしても敵対認定するつもりはなかったのだが、ランズィは万一の可能性も考えて、教会と俺達を天秤にかけ後者をとったのだろう。確かに、国のためとは言え、教会の威光に逆らう行為だ。英断と言っても過言ではない。

 

ハジメは、覚悟していた教会の異端認定とその結果の衝突が、いきなり自分達以外の人々によって回避されたことに何とも言えない曖昧な笑みを浮かべた。そして、わらわらと自分達の安否を気遣って集まってくるアンカジの人々と、それにオロオロしつつも嬉しそうに笑う優花達を見て笑みをこぼすのだが、ハッとしてハジメはランズィに話し掛ける。

 

「おい、領主。早く息子を呼べ」

 

「いや、しかし……ハジメ殿」

 

「良いから、呼べ」

 

「りょ、了解した」

 

謎の隊を創った領主の息子のビィズとのオハナシをしないとな、とハジメはそう思いながら不敵な笑みを浮かべた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

教会との騒動から三日。

 

「二日も過ごしちまった……」

 

「だね〜」

 

「……ん、楽しいから仕方ない」

 

「ですぅ〜」

 

「うむ」

 

農作地帯と作物の汚染を浄化したハジメ達は、輝きを取り戻したオアシスを少し高台にある場所から眺めていた。

 

視線の先には、キラキラと輝く湖面の周りには、笑顔と活気を取り戻した多くの人々が集っていた。湖畔の草地に寝そべり、水際ではしゃぐ子供を見守る夫婦、桟橋から釣り糸を垂らす少年達、湖面に浮かべたボートで愛を語らい合う恋人達。訪れている人達は様々だが、皆一様に、笑顔で満ち満ちていた。

 

救った価値はあったな。と、ハジメは高台から笑みを浮かべながらそう思った。そして今日ハジメ達は、アンカジを発つと決めた。

 

当初は、汚染場所の再生さえすれば、特産のフルーツでも買ってさっさと出発するつもりだったのだが、ビィズとのオハナシ、領主一家や領主館の人々、そしてアンカジの住民達に何かと引き止められて、結局、余分に二日も過ごしてしまった。

 

アンカジにおけるハジメ達への歓迎ぶりは凄まじく、放っておけば出発時に見送りパレードまでしそうな勢いだったので、ランズィに頼んで何とか抑えてもらったほどだ。見送りは領主館で終わらせてもらい、ハジメ達は、自分達だけで門近くまで来て、最後にオアシスを眺めているのである。

 

「なぁ、そろそろ目立つからさ、着替えるか、せめて上から何か羽織ってくれよ」

 

ハジメは、そろそろ門に向かおうと踵を返しつつ、傍にいる優花達にそんなことを言った。

 

「あれ、飽きちゃった?」

 

「……ん? そうなの?」

 

「いや、ユエ、優花よ。ご主人様の目はそう言っておらん。単に目立たぬようにという事じゃろう」

 

「まぁ、門を通るのにこの格好はないですからね~」

 

シアがその場でくるりと華麗にターンを決めながら〝この格好〟と言ったのは、いわゆるベリーダンスで着るような衣装だった。チョリ・トップスを着てへそ出し、下はハーレムパンツやヤードスカートだ。非常に扇情的で、ちっちゃなおへそが眩しい。この衣装を着て踊られたりしたら目が釘付けになること請け合いにしてるらしい。

 

アンカジにおけるドレス衣装らしい。領主の奥方からプレゼントされた優花達がこれを着てハジメに披露したとき性癖に刺さってしまい、その勢いでハジメの理性クンが欲望クンに負けてしまい目が一瞬、野獣になってしまった。

 

ハジメはこの一瞬を後悔した。そのせいで優花達は味をしめてしまい普段から着るようになってしまい、夜でも四人が一斉に誘惑してくる為、ハジメの堅牢な理性の壁が崩されてしまい、昨日もそうだったが今日も余り元気が出なくてヤツれてしまっている。

 

そして、どうにかして優花達に普段着を着させないとハジメは決意したのだった。

 

そんな事があって結局、出発間際の今になっても、全員、エロティックな衣装のままなのである。ハジメの性癖が明らかになって、その点をガンガンと積極的に突かれながら、どこか嬉しくも疲れた表情をしながらは、どうやって、普通の服を着させようか悩みながら門に向かうのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜

 

 

アンカジを出発して二日。

 

そろそろホルアドに通じる街道に差し掛かる頃、四輪を走らせるハジメ達は、賊らしき連中に襲われている隊商と遭遇した。

 

そこで、ハジメと優花は、意外すぎる人物と一人の白ローブと再会を果たすことになったのだった………。

 




〜オマケ〜

とある一室。そこには二人の人物がソファーに腰掛け、対面に座っていた。その刃一人は圧があり、もう一人はその圧に怯えている様子だった。

ハジメ「おい、ビィズ」

ビィズ「あっその……ハジメ殿」

ハジメ「何だアレは?〝優花様にご奉仕し隊〟って」

ビィズ「あっ、あの隊は優花様の魅力をひ、広めたく」

ハジメ「………」

ゴゴゴ……

ビィズ「ヒィッ、すみまっ……」

ハジメ「素晴らしいじゃねぇかっ! 何で創設の時に俺を呼ばねぇんだ!」

ビィズ「え?」

ハジメ「そういうモンを創るなら俺がいた方が心強いだろっ!」

ビィズはハジメの以外の返事に素っ頓狂な声を上げてしまう。でも、ハジメが自分と同じ思想を持つ〝同士〟だと分かると、目を輝かせる。

ビィズ「でっでは!」

ハジメ「あぁ!同士よ!」

ビィズ「ハジメ殿!」

二人は笑みを互いに浮かべ固い握手を交わした後、話を進めていく。

ビィズ「……では、ハジメ殿を名誉会長に……」

ハジメ「あぁ後、隊員共に優花に対する卑猥な言動を控えとけよ?つい、殺っちまいそうになる」

ビィズ「分かりました。隊員には固く言っておきます」

ハジメ「おぉ、頼んだぜ、ビィズ隊長」

ビィズ「任せてください、ハジメ名誉会長」

ハジメ・ビィズ「ハハハハハハッ」

固い握手を結びながら笑い合うハジメとビィズ。しかし、そんな楽しい一時は一瞬で終わりを告げた。

優花「ねぇ、何話してんの?」

ハジメ・ビィズ「あ」

声がして振り返るとニコニコ笑顔の優花が立っていた。

その後、馬鹿二人は笑ってないのにニコニコ笑顔の優花の前で土下座している姿があったのだった……。

編集しました。十一月二十九日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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