ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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六十七話 無双の始まり

 

突然の結界の消失と早くも伝わった魔人族の襲撃に、王都は大混乱に陥っていた。

 

人々は家から飛び出しては砕け散った大結界の残滓を呆然と眺め、そんな彼等に警邏隊の者達が「家から出るな!」と怒声を上げながら駆け回っている。決断の早い人間は既に最小限の荷物だけ持って王都からの脱出を試みており、また王宮内に避難しようとかなりの数の住人達が門前に集まって「中に入れろ!」と叫んでいた。

 

夜も遅い時間であることから、まだこの程度の騒ぎで済んでいるが、もうしばらくすれば暴徒と化す人々が出てもおかしくないだろう。王宮側もしばらくは都内の混乱には対処できないはずなので尚更だ。なにせ、今、一番混乱しているのは王宮なのだ。全くもって青天の霹靂とはこの事で、目が覚めたら喉元に剣を突きつけられたような状態だ。無理もないだろう。

 

彼等も急いで軍備を整えているようだが……

 

パキャァアアン!!

 

間に合わなかったようだ。

 

遂に最後の結界が破られ、大地を鳴動させながら魔人族の戦士達と神代魔法により生み出された魔物達が大挙して押し寄せた。残る守りは王都を囲む石の外壁だけ。それだけでも相当な強度を誇る防壁ではあるが……長く持つと考えるのは楽観が過ぎるだろう。

 

外壁を粉砕すべく、魔人族が複数人で上級魔法を組み上げる。魔物も固有魔法で炎や雷、氷や土の礫を放ち、体長四メートルはありそうなサイクロプスモドキがメイスを振りかぶって外壁を削りにかかった時だった。

 

「───〝千断(せんだん)〟」

 

その一言で魔法が発動し、サイクロプスモドキの身体、後ろにいた魔物達。そして複数人の魔人族の空間がズレた。そして、ブシャアアッと血が吹き出す音を鳴りながら魔物達と複数の魔人族の身体が細切れとなった。

 

その光景を後方から眺めていた魔人族が顔を青ざめ声を荒らげながら叫んだ。

 

「き、貴様は何者だ?! よくも、同胞を我が魔王様の忠実な部下達を!」

 

叫ぶ魔人族に対し、外壁に堂々と立ち塞がる神官服を身に纏った青年──アレスはそんな叫ぶ魔人族を相手を見て口を開いた。

 

「そうですね……何者です、か。まぁ、簡単に言えば貴方方の敵ですね」

 

笑顔でそう言い返すアレス。魔人族達は、その笑顔とまるで自分達を相手として見てない目を見て、段々と、魔人族の顔が怒りで歪みだしていく。

 

「舐めやがって………行けっ魔物共! 外壁なんかよりあの人間を優先的に殺せっ!」

 

魔人族は魔物と他の魔人族にそう指示してアレスに狙いを定めた。普通なら百を超える魔物に一斉に襲われたら手も足も出ずに死ぬだろう……しかし、アレスは違った。

 

アレスはハジメから貰い受けた〝宝物庫〟から聖槍〝ロンギヌス〟を取り出す。ロンギヌスに魔力を流し、刃の部分が光り輝く。そして、迫りくる魔物達をたったの横に一振。

 

「───〝天翔閃・極〟」

 

「っう?!」

 

横に振るわれたロンギヌスから普通の〝天翔閃〟より遥かに大きく光り輝く斬撃が飛ぶ。その斬撃はアレスに迫ってきていた魔物達を一瞬にして灰燼と化し、魔人族達もその斬撃からの生まれた風圧に吹き飛ばされそうになる。

 

アレスは、一振りした〝ロンギヌス〟を魔人族達の方向へ突きつけながら告げた。

 

「で? 次はどうきます?」

 

その言葉と態度は、次が来ても余裕で対処できるという表れ。魔人族達はアレスから伝わる強大な圧に萎縮してしまって少し後退る者、侮辱され表情が怒りに染める者がいる。しかし、アレスは動じない。

 

「舐めるぁぁ!!」

 

怒りが頂点に達した魔人族の一人が魔物達を連れ、アレスに突撃する。しかし、アレスはただ笑みを見せるだけ、

 

「さぁ、来い」

 

そして、アレスの無双が始まったのだった。

 

 

そんな様子を、城下町にある大きな時計塔の天辺からどうしたものかと眺めていたティオの傍に、王宮から飛び出してきたユエとシアが降り立った。

 

「……ティオ、あの魔人族、見つけた?」

 

「ティオさん、あの人は何処ですか?」

 

「……お主等か、いやまだ見つかっておらんよ」

 

「……ん、そう。アレスは?」

 

「アッチの外壁で戦っておるよ」

 

そう言ってティオが指を指した方向に二人は目を向ける。そして、アレスの無双振りに舌を巻く。

 

「うひゃ〜、アレスさん、凄いですね」

 

「……ん、ホントに一人で抑えてる」

 

「うむ。王都の南方はアレスのおかげで余り被害はないのじゃが、やはり空や別のルートから魔物達が侵入はしてしまって王都は大混乱。……それに、此処の兵士達は頼りないしのう」

 

ユエとシアはアレスの実力を褒めていたがティオは冷静に今の状況を確認しており、王国の戦力に呆れ溜息を吐いた。そう、アレスが抑えて場所以外でも、魔物達が猛烈な勢いで外壁に突進して外壁を崩しており、更に上空には灰竜や黒鷲のような飛行型の魔物が飛び交い、外壁を無視して王都内へと侵入を果たしていた。

 

外壁上部や中程に詰めていた王国の兵士達が必死に応戦しているが、全く想定していなかった大軍相手では、その迎撃は突進してくる鋼鉄列車にエアガンで反撃しているようなものでティオが言うように頼りないモノだった。

 

三人が目を皿のようにしてフリードを探していると、念話石が反応する。ハジメからの通信だ。

 

〝おい! ティオ! 今すぐこっちに来てくれ!〟

 

〝ぬおっ! ご主人様? どうしたのじゃ?〟

 

念話石から思いのほか強い声音が響き、名を呼ばれたティオが思わず驚きの声を上げた。

 

〝アレスの予想通り使徒が出てきた。しかも、〝ネームド〟だ! だから先生を預かって欲しい。抱えたままじゃ全力が出せねぇ!〟

 

〝!? 相分かった! 直ぐに向かうのじゃ!〟

 

ハジメが全力を出さねばならない相手と相対しているという事を直ぐに悟ったティオは、一瞬で〝竜化〟すると咆哮一発、標高八千メートルの本山目指して一気にその場を飛び立った。

 

〝……ハジメ、気を付けて〟

 

〝ハジメさん!あの魔物使いは私とユエさんで確認しときますからっ!〟

 

〝は? お前らリリィ達といるんじゃ……っうお、あぶね! 悪い、ちょっと話してる暇はなさそうだ! 状況はそれなりに把握した。二人共気をつけてな〟

 

ハジメは、シアの言葉に何を言っているんだと最初は疑問を抱いたが、フリードの件だと把握してから、よほど戦闘が激しいのか直ぐに通信を切ってしまった。ユエとシアは、愛子を庇いながらとはいえ、ハジメを苦戦させる相手が居るという事に、一瞬、自分達も救援に駆けつけるべきかと考えた。

 

「ユエさん、どうします?」

 

「……ハジメなら大丈夫。ティオもいる。それより、魔物使いの確認。また、神代魔法の魔法陣を壊そうとするなら止める」

 

そう、ユエが戦場に出てきたのは、同じ神代魔法の使い手であり、まだ目的が分からないフリードを野放しにしたくなかったからという理由もあったのだ。

 

フリードが【神山】の大迷宮の詳しい場所を知っていた場合、先を越されると【グリューエン大火山】の時のように、また魔法陣を破壊される可能性がある。大迷宮は気が付けば魔物も構造も元通りになっている場合が多いので【グリューエン大火山】も時間経過で元に戻る可能性はあるが、どれくらい掛かるかは分からない。その為、それだけは何としても避けたいユエは、フリードが味方か敵のどっちであっても抑えようと考えた。

 

と、その時、時計塔の天辺にいるユエとシアに気がついたのか、体長三、四メートル程の黒い鷲のような魔物が二体、左右から挟撃するようにユエとシアを狙って急降下してきた。

 

クェエエエエエ!!

 

そんな雄叫びを上げて迫ってきた黒鷲に、シアは見もせず射撃モードのドリュッケンを〝宝物庫〟から取り出し、躊躇いなく炸裂スラッグ弾を撃ち放った。ユエもまた、見もせず右手をフィンガースナップするだけで無数の風刃を上方から豪雨のごとく降らせる。

 

今まさに二人の少女を喰らおうとしていた二体の黒鷲は、頭部を衝撃波によって爆砕され、また、ギロチン処刑でもされたかのように体の各所を切り落とされてバラバラになり、無残な姿となって民家の屋根に落ちていった。今頃、家の中のいる人達は屋根に何かが落ちてきた音にビクッとなって戦々恐々としていることだろう。

 

黒鷲が無残に絶命させられたことでユエとシアの存在に気がついた飛行型の魔物達が二人の周囲を旋回し始めた。よく見れば、その三分の一には魔人族が乗っているようだ。彼等は、黒鷲を落とされたことで警戒して上空を旋回しながら様子を見ていたようだが、その相手が兎人族と小柄な少女であるとわかると、馬鹿にするように鼻を鳴らしユエ達向かって、魔法の詠唱を始めた。

 

ユエ達としては、王都を守るために身命を賭して大軍とやり合うつもりなど毛頭なく、ただフリードだけが目的だったので、行きたければ勝手に行けという気持ちだったのだが、襲われたとあっては反撃しないわけにはいかない。

 

一応、シアが「私達は敵じゃないですよぉ~、さっきのは襲われて仕方なくですよぉ~」と呼びかけているが、彼等はますます馬鹿にしたように笑うだけで攻撃を止める気配はなかった取るに足らない相手だと侮って幾人かの仲間だけを残し先行した魔人族達は、次の瞬間、背後から響いた断末魔の悲鳴と轟音、そしてその原因を見て驚愕に目を見開くことになった。

 

ゴォガァアアアア!!

 

全身から雷を迸らせながら雷鳴の咆哮を上げる龍が、彼等の仲間と魔物達を次々と喰い散らかしていた。

 

その光景に、あり得べからざる事態に呆然とする魔人族達。何とか命からがら雷龍から逃げ出し、先行していた仲間のもとへ必死に飛んできた魔人族の一人が、助けを求めるように手を伸ばす……が、次の瞬間には背後から殺意の風に乗って飛来した炸裂スラッグ弾に撃ち抜かれ、騎乗していた灰竜ごと木っ端微塵となった。

 

魔人族のものか灰竜のものか分からない血肉が先行していた魔人族達にビチャビチャと降りかかる。

 

硬直していた魔人族達が、ハッと我に返り、追撃に備えて最大限の警戒をする。そして、仲間を一瞬で粉砕した原因たる少女達を探した。全く予想外のところから振るわれた死神の鎌に己の死を幻視しながら、緊張に流れる汗を拭うことも忘れて視線を巡らせる。そして、向けた視線の先にユエ達はいた。

 

しかし、その姿は彼等にとって、全くの予想外。なぜなら、自分達への追撃態勢に入っているどころか、ユエ達は彼等を見てすらいなかったのだ。最初と同じく、ただ外壁の外を何かを探すように眺めているだけ。その背中は、何よりも雄弁に物語っていた。

 

すなわち、眼中にない、と。

 

それを察した瞬間、緊張に強ばっていた魔人族達の表情が憤怒に歪んだ。戦友を粉微塵にしておいて、路傍の石を蹴り飛ばした程度の認識しかしていないユエ達に、戦士として、または一人の魔人族としての矜持を踏みにじられたと感じたのだ。彼等の全身を血液が沸騰したかのような灼熱が駆け巡る。

 

「貴様等ぁーーーー!!」

 

「うぉおおおお!!」

 

「死ねぇーー!!」

 

怒りに駆られながらも、戦士としての有能さが自然と陣形を整えさせ、絶妙な連携を取らせる。四方と上方から逃げ場をなくすように包囲し、一斉に魔法を放った。魔法に長けた魔人族達の魔法だ。普通なら、絶望に表情を歪める場面である。

 

しかし、当のユエが浮かべるのは呆れた表情。ついで、細くしなやかな指をタクトのように振るわれる。

 

「……彼我の実力差くらい、本能で悟れ」

 

そんな言葉と同時に、全ての魔法は雷龍がとぐろを巻いてユエ達を繭のように包むことで完全に防がれてしまった。そして、雷龍が一度その大食らいの顎門を開けば、彼等はまるで特攻しか知らぬと言わんばかりに自らその身を投げ出していく。

 

ならば反対側からと複数人で貫通性に優れた上級魔法を唱えようとすると、雷龍の一部が開いて、そこからウサミミをなびかせたシアが砲弾もかくやという速度で飛び出した。咄嗟に近くにいた魔人族が、詠唱の邪魔をさせてなるものかと、ほとんど無詠唱かと思う速度で完成させた初級魔法の炎弾を無数に放った。

 

しかし、シアは、まるで気にした様子もなく、ドリュッケンの激発の反動で軌道を変えると全弾あっさり躱し、ギョッとしている詠唱中の魔人族三人に向けてドリュッケンを横殴りにフルスイングした。

 

「りゃぁあああ!」

 

気合一発。振るわれたドリュッケンは、重力魔法の力でインパクトの瞬間だけ四トンの重量を得る。それを、最近更に上昇した身体強化で振るった。結果は言わずもがな。魔人族の三人は為すすべもなくまとめて上半身を爆砕され、騎乗していた魔物も衝撃で背骨を砕かれて断末魔の悲鳴を上げながら吹き飛んでいった。

 

空中にあるシアは、その場で自身の重さをドリュッケンも含めて五キロ以下まで落とし、再度、激発を利用して羽のように軽やかに宙を舞う。そして、ドリュッケンを変形させて射撃モードに切り替え、先程炎弾を放ってきた魔人族に向けて炸裂スラッグ弾を轟音と共に解き放った。狙い通り、王都の夜空にまた一つ、真っ赤な花が咲いた。

 

シアは、〝宝物庫〟から取り出した二枚の鈍色の円盤を宙に放ち、重力を無視して空中に浮くそれを足場にした。そして、その場に留まりドリュッケンで肩をトントンしながら周囲を見渡す。ちょうど、少し離れたところで、ユエ達に襲いかかってきた魔人族の最後の一人が死に物狂いでユエに特攻しているところだった。

 

「小娘がぁああ!! 殺してやるぅ!!」

 

血走った目が、刺し違えてでも! という決死の意志を感じさせる。しかし、そんな彼に対するユエの態度は実に冷めていた。

 

「……三百年早い、坊や」

 

雷龍が、彼の仲間を襲っている隙を突いたつもりだったのだろう。ユエが雷龍を戻すより先に仕留められると口元を歪めた魔人族は、直後、真下から飛んできた風刃に首をすっぱりと切り落とされて、錐揉みしながら眼下の路地へと落ちていった。

 

ユエは、無意味な時間を取ったと直ぐにフリード探しを再開する。隣に、ドリュッケンを担いだままのシアが降り立った。

 

「これ完全に私達…目をつけらたんじゃないですか?」

 

「……関係ない。くるなら返り討ちにするだけ」

 

「まぁ、確かにそうなんですけど……」

 

軽口を叩き合いながらも、フリードを探す二人だったが、中々見つからないので、よもや、既に大迷宮の場所を把握していて空間転移したんじゃ……と内心不安になり始めた、その時、

 

「ッ!? ユエさん!」

 

「んっ」

 

シアが警告を発すると同時に、ユエは躊躇うことなく時計塔から飛び退いた。直後、何もない空間に楕円形の膜が出来たかと思うと、そこから二つ特大の極光が迸った。極光は、一瞬でユエ達が直前までいた時計塔の上部を消し飛ばし、それだけにとどまらず射線上にあった建物を根こそぎ吹き飛ばしていく。

 

「やはり、予知の類か」

 

「フリード様。アレが報告にあった魔王様に害を成す者達ですね」

 

「あぁ……そうだ。ゲルマン」

 

二人の男の声が響くと同時に、楕円形の膜から白竜に乗った赤髪の魔人族フリードと前回見たものより巨大な灰竜に乗ったゲルマンと呼ばれた魔人族の男が現れた。その二人の表情は、フリードは無表情であり、ゲルマンは渾身の不意打ちが簡単に回避されたことに対する苛立ちが表れていた。

 

二頭の竜が完全に〝ゲート〟から現れると、タイミングを合わせたように黒鷲や灰竜に乗った魔人族が数百単位で集まり、ユエとシアを包囲した。

 

どうやら、ここでユエとシアを完全に仕留めるつもりらしい。

 

「まさか、フリード様の御力をもってしても生還していたとは……やはり、報告にあった男はアルヴ様に害を成す……危険過ぎる。まずは、確実に奴の仲間である貴様等から仕留めさせてもらう」

 

ゲルマンの憎しみすら宿っていそうな言葉を向けられて、しかし、ユエとシアは二人して不敵に口元を歪めた。そして、同時に同じ言葉を返す。それは奇しくも、八千メートル上空で彼女達の愛する少年が敵に放った言葉と同じだった。

 

「「殺れるものなら殺ってみて(下さい)」」

 

その言葉が合図になったかのように、周囲の魔物と魔人族が一斉に魔法を放った。

 

大気すら焦がしかねない熱量の炎槍が乱れ飛び、水のレーザーが空間を縦横無尽に切り裂き、殺意の風が刃となって襲い掛かり、氷雪の砲撃が咆哮を上げ、石化の礫が永久牢獄という名の死を撒き散らし、蛇の如き雷の鞭が奇怪な動きで夜天を奔る。そして、駄目押しとばかりに極光が空を切り裂いた。

 

魔人族四十人以上、魔物の数は百体以上。四方上下全てが敵。視界は攻撃の嵐で埋め尽くされている。

 

しかし、ユエもシアも、逃げ場のない死に囲まれながら焦りは一切なく、まして回避する素振りも見せずに佇んでいた。何人かの魔人族が「諦めたか……」と若干拍子抜けするような表情になったが、フリードだけはユエのやろうとしていることを察して「まさか、もう其処まで扱えるようになったのか」と誰にも聞こえない程度の声音で呟きながら笑みをこぼすと、少しゲルマン達から距離を取る。

 

「〝界穿〟」

 

ユエが神代魔法のトリガーを引く。

 

直後、二つの光り輝くゲートが飛来する極光の前に重なるようにして出現した。ゲルマンは訝しそうに眉を潜める。あんな座標にゲートをつなげては、極光を空間転移させても、直ぐにもう一つのゲートから出てきて直撃するだけだろうと。しかし、そのゲルマンの予想は、ゲートを一対しか展開していないという事を前提とした考えと使い手であるフリードが自身の限界を基準にしていると教えられた考えでもある。

 

だから、ユエとシアが眼前のゲートに飛び込んだ意味が咄嗟に理解出来なかったし、いつの間にか自分達の背後にゲートが開いている事にも直ぐに気がつくことが出来なかった。

 

「しまっ、回避せよっ!!」

 

ユエ達がゲートの向こう側に消え、極光がゲートを通る瞬間、自分の思い違いに気が付いたゲルマンが部下達に警告を発するが、時すでに遅し、だった。

 

ゲルマン自身と既に移動してたフリードは回避が間に合ったものの、部下の多くは背後から……極光の直撃を受けて死を意識する間もない消滅を余儀なくされた。

 

「おのれ、私に部下を殺させたな!……まさか同時発動出来るとは……まだ見くびっていたということかっ」

 

ゲルマンは瞳に憤怒を浮かべ、フリードさえ出来ていないと言っていたゲートの二対同時発動という至難の業を実戦で成功させたユエに畏怖にも似た念を抱く。詠唱した形跡も魔法陣を用いた様子もなく、その正体が気なるところだったが、今は、消えた二人を探さなければならない。

 

「フリード様! ゲルマン様! あそこにっ!」

 

二人の部下の一人が外壁の外を指差す。そこには、確かにユエとシアがいた。

 

真下に民家があっては戦いづらかった。ゲルマン自身ユエ達との対決を望むなら、そのまま王都侵攻に踵を返すとも思えなかったので、外壁の外へ空間転移したのである。もちろん、万一、自分達がユエ達を無視して王都侵攻を続行すれば、その背中に向けて死神の鎌を振り下ろすだけだ。

 

ゲルマン達もそれがわかっているので、ユエ達に背を向けることはない。そして、遠目にユエが右手を自分達に伸ばし手の甲を向けると指をクイクイと曲げる仕草をした時点で、魔人族達の怒りは軽く沸点を超えた。

 

明らかな挑発だが、見た目幼さの残る少女と、蔑む対象である兎人族の少女にしてやられて多くの戦友を失い、その上で「相手をしてあげる」という上から目線……自分達を少数ながら優れた種族と誇ってはばからない魔人族の戦士達にとっては看過できない挑発だった。

 

「小娘ごときがぁ!」

 

「薄汚い獣風情が粋がるなぁ!」

 

「魔王アルヴ様の加護を受けしの我等を愚弄しおってぇぇ!」

 

そんな罵詈雑言を叫びながら、魔人族達が一斉に襲いかかった。タイムラグのない致死性の魔法を連発するユエを警戒して魔物を先行させる。地上からも、大軍の一部がユエ達を標的に定め猛然と襲いかかってきた。

 

シアは、〝宝物庫〟のおかげで、実質無制限と言ってもいいくらい大量に保管している炸裂スラッグ弾を惜しむことなく連発する。空で、あるいは地上で、シアの魔力が青白いムーンストーン色の波紋となって広がり、次の瞬間には衝撃波に変換されて破壊を撒き散らした。後に残るのは、轢死あるいは圧死でもしたかのようなひしゃげ、砕けた遺体のみ。

 

と、そこへ、白竜と強化灰竜、灰竜から一斉に吐かれたブレスが殺到する。直撃すれば身体強化中のシアといえどもただでは済まない破壊の嵐。しかし、シアが慌てることはない。

 

「〝絶禍〟」

 

シアの眼下にユエの放った黒く渦巻く球体が出現する。超重力を内包する漆黒の球体は、さながらブラックホールのようにシアに迫っていた極光群の軌道を下方に捻じ曲げてその内へと呑み込んでいった。

 

「あの時も使っていたな。……私の知らぬ神代魔法か。総員聞け! 私は金髪の術師を相手をする! お前達は全員で兎人族を狙え! 引き離して、連携を取らせるな!」

 

「「「「「了解!」」」」」」

 

「フリード様!私も手伝いますっ!」

 

ゲルマンは自分の放った極光で部下達を消した事にユエに相当な憎しみを抱いてるらしく瞳には怒りの炎が宿っているように見えた。

 

「………」

 

「フリード様?」

 

「ゲルマン。お前は南方にいる魔物達と部下達の侵攻を抑えてる者のところに向かえ。奴もかなり危険な人物と思える」

 

「し、しかし……フリ──「私の命令を聞かないとという事か偉くなったのだなゲルマン軍曹」……っ! 分かりました」

 

ゲルマンはフリードの命令を逆らおうとしたのだがフリードの言葉と肌からひしひしと感じる壮絶な圧に萎縮してしまった。

 

「ゲルマン。もう一度言おう。此処にいる灰竜達と部下達も連れて南に向かえ」

 

「ぐっ……り、了解しました」

 

ゲルマンは苦虫を噛み潰したような表情で不満があったが、上司であり、魔人族の英雄であるフリードの言葉に逆らえず、指示通りに灰竜と黒鷲に乗った部下を連れて南方を抑えてるアレスの元へ急行していったのだった。

 

その離れ際にフリードは「やっと監視が外れた」と呟いていた。その光景を魔物達の攻撃から避けながら眺めていたユエはフリードの行動や言動である魂胆に気付きシアに念話で話しかけた。

 

〝……シア、フリードの案に乗ろうと思う〟

 

〝えっ、でも……まだ信用できませんよ。あれだってハジメさんがティオさんの報告などで推測した事ですし〟

 

〝でも、やってみる可能性はゼロじゃない〟

 

〝もうっ、しょうがないですね〜。じゃあ私は部下の人達を相手をしときますので〟

 

〝……ん、助かる〟

 

ユエの案に乗ったシアは、空中で咄嗟にドリュッケンを振るって弾き飛ばす。すると絶妙なタイミングで数人の魔人族が決死の覚悟による特攻を図ったため、そちらの対応に追われることになった。ドリュッケンの激発の反動を使用してその場で一回転し、襲い来た全ての魔人族を放射状に吹き飛ばす。

 

急いで正面から突撃してきた竜巻を纏う黒鷲と魔人族と相対し直すものの、流石にカウンターを放つ暇はなく、また回避も間に合いそうになかったので、ドリュッケンを盾代わりにかざして防御体勢をとった。ドリュッケンのギミックが作動し、カシュンカシュンと音を立てて打撃面からラウンドシールドが展開される。

 

「貴様等だけはぁ! 必ず殺すっ!」

 

そんな雄叫びを上げながら金髪を短く切り揃えた魔人族の男が、ただ仲間を殺された怒りだけとは思えない壮絶な憎悪を宿した眼でシアを射貫きながら、彼女の構えたドリュッケンに衝突した。誘導が上手くいったシアは、ユエにサインを送りそれを確認したユエはシアの背後に空間転移のゲートを展開した。

 

〝じゃっユエさん、お願いしますぅ〜〟

 

〝ん……シアもそっちは頼んだ〟

 

〝はいですぅ〟

 

ゲートに押し込まれる寸前、ユエが「グッドラック!」とでも言うようにサムズアップしている姿を見て、シアは小さく笑みを浮かべ、シアもサムズアップした。その笑みと行動を見て眼前の大黒鷲に乗った魔人族が再び憤怒に顔を歪めるが、シアは特に気にすることもなく、そのまま魔人族の男と共にゲートに呑み込まれて作戦通りにユエから引き離されていったのだった……。




編集しました。十二月二日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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