ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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六十九話 シアの無双と密談

 

王都内、外ではアレスが魔物達の侵攻を抑えてる中、シアはユエの案でワザとユエから離れ、フリードの傍にいた魔人族達もフリードと引き離す為にゲートに入った。

 

「そのヘラヘラと笑った顔、虫酸が走る。四肢を引きちぎって、貴様の男の前に引きずって行ってやろう」

 

ゲートを抜けた先で、相対する魔人族の第一声がそれだった。どうも他の魔人族と違って、個人的な恨みあるようだと察したシアは、訝しそうに眉をしかめて尋ねてみる。

 

「……どこかで会いました? そんな眼を向けられる覚えがないんですが?」

 

「ウルのことを覚えているだろ?」

 

シアは、なぜそこでウルの話が出てくるのか分からず首を捻る。しかし、魔人族の男は、それを覚えていないという意味でとったのか、ギリッと歯を食いしばり、怨嗟の篭った声音で追加の情報を告げながらマントで分からなかったが片方の腕が肘から無くなっていた。

 

「こんな腕にしたのにかっ!俺が〝神の使徒〟の一人を操り、最後に貴様等に向かって攻撃した魔人族だぁ!」

 

「……………………ああ! あの時の人ですか」

 

「きざまぁ~」

 

明らかに今の今まで忘れてましたという様子のシアに、既に怒りのせいで呂律すら怪しくなっている男は、僅かな詠唱だけで風の刃を無数に放った。それを、何でもないようにひょいひょいと避けるシア。

 

「ちょっと、それだけで恨むのは意味が分からないです」

 

「なぁっ?! 貴様等のせいでっ片腕を失い、ウルの作戦を失敗したせいで私の階位(キャリア)も下がったんだぞっ!」

 

「! ああ、なるほど……」

 

シアは得心したように頷いた。

 

どうやら目の前の男は、ウルで自分達に愛子の殺害とウルの破壊を邪魔された挙句、ハジメに片腕を吹っ飛ばされた魔人族の男らしい。どうやらあの一件で片腕も失い、随分良い身分だったのだろう。その身分が下がったらしく、こんな事をした元凶のハジメに対して復讐に燃えているようだ。

 

「よくも、俺の築き上げて来た階位(キャリア)を……この俺、ミハイル・カイザーの出世の道を……もう少しで軍曹に就くことが確実だったのにぃ……」

 

血走った目で恨みを吐く男、改めミハイルに、シアは普段の明るさが嘘のような冷たい表情となって、実にあっさりした言葉で返した。

 

「知りませんよ、そんな事」

 

「な、なんだと!」

 

「いや、ただ単に自業自得でしょ? それにその腕だって変にハジメさんを怒らせたからですし………」

 

「う、うるさい、うるさい、うるさい!苦痛に狂うまでいたぶってから殺してやる!」

 

ミハイルは癇癪を起こしたように喚きたてると、大黒鷲を高速で飛行させながら再び竜巻を発生させてシアに突っ込んで来た。どうやら、竜巻はミハイルの魔法で大黒鷲の固有能力ではないらしい。騎乗のミハイルが更に詠唱すると、竜巻から風刃が無数に飛び出して、シアの退路を塞ごうとする。

 

シアはドリュッケンを振るって風の刃を蹴散らすと、そのまま体重を軽くして円盤を足場に大跳躍し、竜巻を纏う大黒鷲を避けた。しかし、避けた先には、ミハイルとシアが話している間に集まってきた魔人族と黒鷲の部隊がいた。ミハイルの騎乗しているのが大黒鷲であることから、彼の部下なのかもしれないと判断した。

 

すると、シアより上空にいた黒鷲部隊は、石の針を一斉に射出した。それはまさに篠突く雨のよう。シアは、炸裂スラッグ弾を撃ち放ち衝撃波で針の雨を蹴散らす。

 

そして、空いた弾幕の隙間に飛び込んで上空の黒鷲の一体に肉薄した。ギョッとする魔人族を尻目に、ドリュッケンを遠慮容赦一切なく振り抜く。直撃を受けた魔人族は、骨もろとも内臓を粉砕させながら吹き飛び夜闇の中へと消えていった。

 

シアは更に、勢いそのままに柄を伸長させて、離れた場所にいた黒鷲と魔人族も粉砕する。

 

「くっ、接近戦をするな! 空は我々の領域だ! 遠距離から魔法と石針で波状攻撃しろ!」

 

まるでピンボールのように吹き飛んでいく仲間に、接近戦は無理だと判断したミハイルは、遠方からの攻撃を指示する。再び、四方八方から飛んできた魔法と石の針を激発による反動と円盤を足場にした連続跳躍で華麗に避け続けるシア。しかし、中距離以下には決して近づかず、シアが接近しようものなら全力で距離をとる戦い方に、シアは次第に苛つき始める。

 

「ちょっと面倒くさくなったので、新武装を使いわせて貰いますよぉ〜」

 

そして、炸裂スラッグ弾だけでは手が足りないと判断し、シアはこの場に似合わない喋り方で新ギミックを〝宝物庫〟から取り出した。

 

それは赤い金属球だ。大きさは直径二メートルほどで金属球の一部から鎖が伸びており、シアはその鎖の先をドリュッケンの天辺についた金具に取り付けた。そして、重力に引かれて落ちかけた金属球を足で蹴り上げると、大きく水平に振りかぶったドリュッケンをシアラ「そ〜れ」と呟きながらその金属球に叩きつけた。

 

ガギンッ!!

 

金属同士がぶつかる轟音と共に、信じられない速度で金属球が打ち出される。

 

標的にされた魔人族は慌てて回避しようとするが、突然、金属球の側面が激発し軌道が捻じ曲がった。その動きに対応できなかった魔人族と黒鷲は、総重量十トンまで加重された金属球に衝突され、全身の骨を砕かれながら一瞬でその命を夜空に散らすことになった。

 

敵を屠った金属球は、シアがドリュッケンを振るう事で鎖が引かれ一気に手元に戻ってくる。シアは、その間にも炸裂スラッグ弾を連発し、敵を牽制、あるいは撃ち滅ぼしていく。そして、戻ってきた金属球を再びぶっ叩き、別の標的に向けて弾き飛ばした。

 

そう、ドリュッケンの新ギミックとは、重量変化と軌道変更用ショットシェルが内蔵された〝剣玉〟であっ

 

「うりゃりゃりゃりゃりゃ!」

 

シアが、そんな雄叫びをあげながら王都の夜空に赤い剣玉を奔らせ続ける。ぶっ飛ばしては引き戻し、またぶっ飛ばしては引き戻す。赤い流星となって夜天を不規則に駆け巡る〝剣玉〟は、自身の赤だけでなく敵の血肉で赤く染まり始めた。

 

「おのれっ、奇怪な技を! 上だ! 範囲外の天頂から攻撃しろ!」

 

ミハイルが次々と殺られていく部下達の姿に唇を噛み締めながら指示を出し、自身は足止めのために旋回しながら牽制の魔法を連発する。シアは、それらの攻撃を重さを感じさせない跳躍で宙を舞うように軽く避けていく。

 

そうして、最後の一撃を避けた直後、頭上より範囲攻撃魔法が壁のごとく降り注いだ。

 

シアは、ドリュッケンを頭上に掲げると柄の中央を握ってグルグルと回し始める。すると、回転の遠心力によって鎖で繋がった金属球も一緒に大回転を始めた。猛烈な勢いで超高速回転するドリュッケンと剣玉は、赤い色で縁取った即席のラウンドシールドとなり、頭上から降り注いだ強力無比な複合魔法を吹き散らしていった。

 

「もらったぞ!」

 

頭上からの攻撃を防ぐことに手一杯と判断したミハイルが、シアに突撃する。大黒鷲の桁外れな量の石針を風系攻撃魔法〝砲皇〟に乗せて接近しながら放った。局所的な嵐が唸りを上げてシアに急迫する。

 

「むうっ」

 

シアは、自由落下に任せて一気に高度を落とし、風の砲撃を避けた。ミハイルは予想通りだと口元を歪め、回避直後の落下してきた瞬間を狙って再度、風の刃を放とうとした。しかし、標的を見据えるミハイルの目には、絶望に歪むシアの表情ではなく、虚空から現れた拳大の鉄球がシアの足元に落ちる光景が映っていた。

 

シアは、〝宝物庫〟から取り出した鉄球を最大強化した脚力を以て蹴り飛ばす。豪速で弾き出された鉄球は、狙い違わずミハイルの乗る大黒鷲に直撃しベギョ! と生々しい音を立ててめり込んだ。

 

クゥェエエエエエ!!!

 

激痛と衝撃に大黒鷲が悲鳴を上げ錐揉みしながら落下する。ミハイルもまた、悪態を吐きなが苦し紛れに石針を内包させた風の砲弾を放ち、大黒鷲と一緒に落ちていった。

 

ようやく頭上からの魔法攻撃を凌ぎ切ったシアは、迫る風の砲弾をギリギリ、ドリュッケンで弾き飛ばす。しかし、内包された石の針までは完全には防げず、いくつかの針が肩や腕に突き刺ってしまった。

 

「やったぞ! コートリスの石針が刺さっている!」

 

「これで終わりだ!」

 

石の針自体はそれほど大きなダメージではないのに、シアが石針を喰らった事で魔人族達が一様に喜色を浮かべている。

 

「ん? どういうことです?……!」

 

シアはその事に怪訝そうな表情をするがその疑問の答えは直ぐに出た。針の刺さった部分から徐々に石化が始まったのだ。どうやら、黒鷲はコートリスという名の魔物らしく、その固有魔法は石化の石針を無数に飛ばすことが出来るらしい。

 

普通は、状態異常を解くために特定の薬を使うか、光系の回復魔法で浄化をしなければならない。今、この戦場にはシア一人なので、これで終わりだと魔人族達は思ったのだろう。仮に薬の類を持っていても服用させる隙など与えず攻撃し続ければ、そうかからずに石化出来るからだ。

 

しかし、彼等の勝利を確信した表情は次の瞬間、唖然としたものに変わり、そして最終的に絶望へと変わった。

 

なぜなら……

 

「むむっ、不覚です。しかし、これくらいなら!」

 

そう言って、シアは刺さった針を抜き捨てると、少し集中するように目を細めた。すると、一拍おいて、じわじわと広がっていた石化がピタリと止まり、次いで、潮が引くように石化した部分が元の肌色を取り戻していった。そして、最終的には、針が刺さった傷口も塞がり、何事もなかったかのような無傷の状態に戻ってしまった。

 

「な、なんで!」

 

「どうなってるんだ!」

 

回復魔法が使われた気配も、薬を使った素振りも見せず、ただ少しの集中により体の傷どころか石化すら治癒してしまったシアに、魔人族達は、その表情に恐怖を浮かべ始めた。それは理解できない未知への恐怖だ。声も狼狽して震えている。

 

シアの傷が治ったのは、どうということもない。ただ再生魔法を使っただけである。相変わらず、適性は悲しい程になく、自分の体の傷や状態異常を癒すくらいしか出来ない。

 

ユエの〝自動再生〟のように欠損した部分が再生したり、瞬時に重症でも治せたり、自動で発動したりもしない。外部の何かを再生することも出来ない。だが、多少の傷や単純な骨折、進行の遅い状態異常なら少し集中するだけで数秒あれば癒すことが出来る。時間をかければある程度の重症でも大丈夫だ。

 

魔人族達が絶望するのも仕方ないことだろう。圧倒的な破壊力に回復機能まであるのだから、攻略方法が思いつかない。シアを見る目が、かつてハジメと相対した者達が彼を見る目と同じになっている。すなわち、この化け物めっ! と。

 

「さぁ、行きますよ?」

 

狼狽えて硬直する魔人族達の眼前にシアがドリュッケンを振りかぶった状態で飛び上がってくる。そして、一撃必殺! と振るわれた一撃で、また一人、魔人族が絶命した。その瞬間、残りの魔人族が恐慌を来たしたように意味不明な叫び声を上げて、連携も何もなくがむしゃらに特攻を仕掛けていった。

 

シアは冷静に剣玉を振り回しながら、あるいは炸裂スラッグ弾を撃ちながら確実に仕留めて数を減らしていく。

 

いよいよミハイル部隊の最後の一人がドリュッケンの餌食となったその時、急に月明かりが遮られ影が一帯を覆った。

 

シアが上を仰ぎ見れば、暗雲を背後に、上空からミハイルが降って来るところだった。大黒鷲も限界のようで、上空からの急降下しかまともな攻撃が出来なかったのだろう。

 

「天より降り注ぐ無数の雷、避けられるものなら避けてみろ!」

 

おそらく、確実に仕留めるために、雷に打たれた瞬間に刺し違える覚悟で特攻する気なのだろう。いくら細分化して威力が弱まっている上に、シアが超人的とは言え、落雷に打たれれば少なくとも硬直は免れない。

 

そして雷の落ちる速度は秒速百五十キロメートル。認識して避けるなど不可能だ。ミハイルの眼にも、部下が殺られていく中ひたすら耐えて詠唱し放った渾身の魔法故に、今度こそ仕留める! という強靭な意志が見て取れる。

 

しかし、直後、ミハイルは信じられない光景を見ることになった。なんと、シアが降り注ぐ落雷を避けているのだ。いや、正確には最初から当たらない場所がわかっているかのように、落雷が落ちる前に移動しているのである。

 

ミハイルの誤算。それは、シアには認識できなくても避ける術があったこと。

 

シアの固有魔法〝未来視〟その新たな派生〝天啓視〟。最大二秒先の未来を任意で見ることが出来る。〝仮定未来〟の劣化版のような能力だが、それより魔力を消費しないので、何度か連発できる使い勝手のいい能力だ。日々、鍛錬を続けてきたシアの努力の賜物である。

 

「ハジメさんの雷の方が速いですぅ〜」

 

「何なんだ、何なんだ貴様は!」

 

「……ただのウサミミ少女です」

 

 自分でも余り信じていない返しをしながら、全ての落雷を避けたシアは、当然、突撃してきたミハイルもあっさりかわし、すれ違い様に剣玉を振るった。

 

そして、大きく円を描いてミハイルの周囲を旋回した剣玉は、その鎖をミハイルに巻き付かせて一瞬で拘束してしまった。

 

「ぬぐぉお! 離せぇ!」

 

「放しますよぉ、お望み通りぃ!」

 

シアは、鎖に囚われたミハイルをドリュッケンを振るうことで更に振り回し、遠心力がたっぷり乗ったところで地面に向かって解放した。重量級の鉄塊が振り回されることで生み出された遠心力は凄まじく、ミハイルは、隕石の落下もかくやという勢いで地面に叩きつけられた。

 

咄嗟に、風の障壁を張って即死だけは免れたようだが、全身の骨が砕けているのか微動だにせず仰向けに横たわり、口からはゴボッゴボッと血を吐いている。

 

シアは、その傍らに降り立った。

 

ドリュッケンを肩に担いで、ツカツカとミハイルに歩み寄る。ミハイルは、朦朧とする意識を何とかつなぎ止めながら、虚ろな瞳をシアに向けた。その口元には、仇を討てなかった自分の不甲斐なさにか、あるいは、百人近い部下と共に全滅させられたという有り得ない事態にか、ミハイル自身にも分からない自嘲気味の笑みが浮かんでいた。ここまで完膚なきまでに叩きのめされれば、もう、笑うしかないという心境なのかもしれない。

 

自分を見下ろすシアに、ミハイルは己の最後を悟り、自分をこんな目にした元凶を恨みつつ、掠れる声で最後に悪態をついた。

 

「……ごほっ、このっ…げほっ……化け物めっ!」

 

「ふふ、有難うございます!」

 

ミハイル最後の口撃は、むしろシアを喜ばせただけらしい。

 

最後に、己の頭に振り下ろされた大槌の打撃面を見ながら、ミハイルは衝撃と共に意識を闇に落とした。

 

止めを刺したドリュッケンを担ぎ上げながら、シアは、ミハイルの最後の言葉に頬を緩める。

 

「どうやら、ようやく私も、化け物と呼ばれる程度には強くなれたようですね……ふふ、ハジメさん達に少しは近づけたみたいです。さて、アレスさんとユエさんの方は……」

 

〝シア!〟

 

「うひゃっ!」

 

シアはユエとアレスはどうなったのかと考えながらどっちかの方に向かおうとした時、ユエからの唐突な念話で驚きで変な声を上げる

 

〝ユエさん、どうしましたか? フリードとはどうでした?〟

 

〝そんな事より早く王宮の方に向かって!私も今向かってる最中だからっ〟

 

〝え? どういう事です?〟

 

〝優花が危ないっ!〟

 

〝……っ?! 分かりました私も今から向かいますっ!〟

 

〝ん……急いでっ!〟

 

「一体何が……って考えるよりも行動ですぅ!」

 

シアは、ユエの念話に焦燥感を感じ疑問に思ったが〝優花が危ない〟の一言でシアは血相を変え、ユエと合流すべく一気に駆け出したのだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

シアを離れさせたユエは目の前にいる白竜に乗った魔人族将軍フリード・ハグアーと視線を交わしていた。

 

「君達とは、ちゃんと話がしたかった」

 

パチンッ

 

「!」

 

先に口を開いたのはフリードの方だった。そしてフリードは口を開くと同時に指を鳴らす。その瞬間、ユエとフリードの周りに深い霧が二人を隠すかのように覆い込んだ。

 

「……何をしたの?」

 

ユエはフリードの行動に、訝しみながら目を細めるがフリードは両手を上げており戦う意思は無いと分かる。

 

「安心してくれ。コレは私の作ったある特殊な魔物でね。幻覚作用の霧をだす固有魔法を持つ魔物だ。今、周りからは私と君が戦っている幻覚を見せている。後、少し君に頼みがある」

 

「……頼み?」

 

ユエはフリードの頼みに少し警戒しつつ耳を傾ける。

 

「あぁ、今下にいる。魔物達に向けて強大な魔法を放ってくれないか? 安心してくれ、魔力回復薬も渡しておこう」

 

フリードはそう言って、懐から魔力回復薬の瓶を取り出しユエに投げ渡した。ユエはフリードから貰った。魔力回復薬を上手くキャッチしてから首を傾げる。

 

「……何故?」

 

「今さっきも言ったが、この霧は幻覚作用ある。でも、それだけだ。魔法の幻覚を見せても外部には影響はなくてな。もしかしたら救援に来た部下が来てしまったら訝しむかもしれない」

 

「……そういうことなら」

 

ユエはフリードの言い分に理解し、今自分が出せる全力の魔法を放った。

 

「───〝五天龍〟」

 

直後、二人の下から暗雲が立ち込め雷鳴が轟き、渦巻く風が竜巻となって吹き荒れ、集う水流が冷気を帯びて凍りつき、灰色の砂煙が大蛇雲の如く棚引いて形を成し、蒼き殲滅の炎が大気すら焦がしながら圧縮される。

 

その結果、王都の夜天に出現したのは五体の魔龍。それぞれ、別の属性を持ち、重力魔法と複合された龍である。

 

ゴォアァアアアア!!!

 

凄まじい咆哮が五体の龍から発せられ、大気をビリビリと震わせる。巨体を誇り神々しくすらある魔龍の群れに、灰竜達は本能が己の上位者であるとでも悟ったのか、怯えたように小さく情けない鳴き声を上げた。

 

雷龍が最初にアブソドに突撃し、アブソドも喰らい尽くしてやろうと大口を開ける。僅かばかり取り込まれる雷龍だったが、雷龍の後ろから飛び出した蒼龍が、その業火を以て相対するアブソドを融解させていった。

 

「クァアアアアアアアアン!!」

 

生きたまま甲羅から溶かされていく苦痛に、堪らず苦痛の声を上げて固有魔法を解いてしまったアブソドを放置して、雷龍は次の標的を狙う。それは嵐龍を呑み込もうとしている別のアブソドだ。神鳴る音を響かせながら雷龍の顎門がアブソドに喰らいつき、その灼熱によって身の端から灰に変えていった。

 

また、少し離れたところでは、氷龍がアブソドを凍てつかせ、石龍が周囲一帯を根こそぎ巻き込んで石化させていく。雷龍により解放された嵐龍は、身の内に蓄えた風の刃でアブソド以外の黒豹などの魔物共も一緒くたに切り刻んでいった。

 

「──凄まじいな。でも、これで救援に来る者は居ないだろう……って、大丈夫なのか?顔色が悪いぞ?」

 

「……ん、平気」

 

フリードはユエの魔法に目を見開き感嘆した。そして視線を向けると、流石に、五天龍の行使はキツかったのか、額に大量の汗を浮かべて肩で息をするユエを見て、声をかけるがユエは「……平気」と言いながらフリードに貰った魔力回復薬を飲み、しばらくすると顔色は徐々に戻っていった。

 

「それにしても、素晴らしい魔法だえっと「ユエ」……ユエ」

 

「……でも、良いの?貴方の魔物でしょ、アレ」

 

ユエは首を傾げながら自分が倒していった魔物達の残骸を指さす。しかしフリードは肩を竦めながら口を開いた。

 

「安心してくれたまえ。あの魔物達はアルヴに献上する為に創り出した魔物に過ぎない。簡単に言えば実験、お遊び程度で創ったような魔物だ。私が本気で創り出した魔物は、この私の相棒であるウラノスと私の信頼できる部下達と隠し部屋にいる魔物達だけだ」

 

そう言いながら、フリードは笑みを浮かべて、今も乗っている相棒のウラノスを撫でる。すると、ウラノスも方も「クルァァン」と嬉しそうに鳴いていた。

 

「……!(嘘……アレをお遊びで……)」

 

しかし、ユエの方はフリードの言葉に驚いていた。あの魔物達はハジメの言い分によるとオルクスの奈落の下層魔物達と実力は変わりないという。そうなると、フリードが本気で創り出した魔物達はどれくらいの強さを持ってるのかと息を呑む。

 

ユエは驚愕の余り言葉が出ないでいると、フリードが話しかける。

 

「そうだ。今、南雲ハジメと他の貴女の仲間達が此処に居ないのが惜しいが、ここで改めて名乗らせてくれ。私の名はフリード・バグアー。解放者の意思を引き継ぎ、人間、亜人、魔人族が平等に手を取り合える未来を創る事を目的にしている者だ」

 

フリードはこの場にハジメ達が居ないのを惜しみながらも淡々と【グリューエン大火山】とは違った自己紹介をする。これがフリードの素らしい。

 

「……やっぱり(やっぱり、フリードはハジメが言ってたように味方だったんだ……でも)」

 

フリードの二度目の自己紹介でユエはフリードは自分達の味方であると確信した。だがユエにはある心残りがあり口にする。

 

「……なんで、ハジメをあんなに傷付けたの?」

 

ユエはフリードが味方だとわかったが、グリューエンの件で大切な人が死にそうになった事で何故そこまでしたのかを目を細めながら理由を聞く。

 

「グリューエンの件は済まない。私は外に出向く度にアルヴの指示で監視型の神獣(・・)を着けられているんだ。その為、下手な行動が出来なかったのが最大の理由だ」

 

「最大の理由……他に理由があるの?ねぇ?」

 

フリードは頭を下げ謝罪をしたが、彼の言葉の中に最大の理由(・・・・・)という事にユエは引っかかり、更に問い詰める。

 

「……怒らないか?」

 

フリードは少し冷や汗を流しながらユエに問いかけるとユエはうんうんと頷くだけだ。

 

「……ん、怒らないから」

 

フリードはユエの視点を入れないように顔を逸らしながらボソッ話しだす。

 

「……実力を確かめたかった。戦ってみたかった。そして戦って、久しぶりに強者との戦いが楽しくて……つい」

 

「……怒るよ?」

 

フリードのもう一つの理由は、ただ単に戦いたかったということにユエは冷酷な眼差しでフリードを睨み付ける。よく見れば片方の手の平から雷魔法を発動しようする。

 

「す、すまない。魔法だけはやめてくれっ」

 

「……ん、冗談だから」

 

フリードは慌てて謝るとユエは冗談と言って雷魔法を解除する。フリードはそれを聞いて安堵する。

 

「冗談か……心臓に悪い。まぁ、君達と話せる機会が出来て良かったよ」

 

「……ん、私も……あっ、そうだ。ハジメがフリードが味方だと判断したらコレを渡せって」

 

ユエはそう言いながら懐からある小切手をフリードの傍まで寄って渡した。

 

「ふむ。これは……座標か?」

 

フリードはユエから受け取った小切手の内容を見て、何処かの座標と判断する。すると、ユエはフリードの言葉に頷きながら答える。

 

「……ん、そこにはミレディ・ライセンの大迷宮の場所の座標が書かれてる」

 

ユエの言葉にフリードは目を見開いて驚愕する。

 

「! 良いのかっ?! こんな代物を?」

 

「……ん、ハジメからの伝言『親友の件はすまない』ってそれはそのお詫びみたいなモノらしい」

 

「───感謝する」

 

フリードはそう言いながら貰った小切手を大事そうに握りしめた。

 

「そろそろ……霧が晴れるな……ユエ殿。そろそろ……ん?……少し待ってくれ、部下からの連絡だ」

 

フリードはそろそろ霧が晴れる時間が来る為、ユエをそのまま戻そうとした時だった。〝念話〟の固有魔法を持った連絡用魔物から連絡がかかる

 

「────は? 何だとっ?!」

 

「……! どうしたの?」

 

フリードは部下と連絡してると、何か重要なことを報告されたのか大声を上げる。ユエはその声に驚いたものもすぐさま何があったかフリードに問い掛けた。

 

「ユエっ、貴女は早く王宮の方へ!」

 

「……どう言う事?」

 

フリードの突然の焦り具合にユエは真剣な表情になりながら耳を傾ける。

 

「部下からの連絡でアルヴ(魔人族を支配する者)がコチラに向かっていると連絡が入った!」

 

「!」

 

「目的は協力者の保護の為らしい……そろそろ私にも連絡が来るだろう。ユエは急いで王宮へっ!」

 

「……ん!(王宮………優花がっ)」

 

フリードの報告でユエは王宮にいる大事な仲間がいるのを思い出し、すぐさま駆け出したのだった……。

 




編集しました。十二月四日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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