ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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七十話 神の使徒 ノイント

 

月下に銀翼がはためいた。

 

だが、それは飛翔のためではない。その銀翼から殺意をたっぷり乗せた銀羽の魔弾を射出するためだ。恐るべき連射性と威力を秘めた銀の魔弾は、標高八千メートルの夜闇を切り裂き、数多の閃光となって標的に殺到する。

 

それに対するは、紅色のスパークを迸らせる鋼鉄の兵器。あらゆる敵を粉砕してきた怪物が咆哮を上げる度に、飛来する銀羽は無残に飛び散り四散する。計算され尽くした弾道が、たった一発で幾枚も羽を蹴散らし、壁と見紛うほどの弾幕に穴を開ける。必要なのは踏み込む勇気。それこそが、完璧な回避を実現する。

 

「ひゃああ!」

 

お互いの命をベットした死合に似つかわしくない可愛らしい悲鳴が響いた。場違いな声を我慢しきれず出してしまったのは畑山愛子先生だ。ハジメのメツェライもかくやという銀羽の弾幕を撃ち放つ〝神の使徒〟ノイントの攻撃を、紙一重で回避し続けるハジメの片腕に抱かれながら、人生初のドッグファイトを経験中なのである。

 

「先生!口は閉じてろ!噛みまくって血だらけになるぞ!」

 

「そんなこと言ってみょッ!? か、かんじゃった……」

 

「チッ………」

 

ハジメは今この状況の自分の不利に対して舌打ちしながら打開策を張り巡らさせていた。流石に愛子を抱えている状態で激しく動くことは出来ないハジメは、今は〝瞬光〟で何とかなってるがずっと持つかは分からず、コチラに向かうティオを待つしかなかった。

 

ハジメは頼もしい仲間が救援に来ることを願い、再び全方位から包み込むように強襲してきた銀羽をシュラークで撃ち抜き回避しながら、ギュッと目を瞑ってしがみついている愛子に話しかける。

 

「先生、もう少し頑張れ。今、俺の仲間がこっちに向かってる。そいつが来れば地上に降りられるぞ」

 

「は、はい! で、でも南雲君は!?」

 

「もちろん、あの木偶をぶっ殺す」

 

「うぅ、足手纏いですみません……」

 

「………」

 

愛子は自分がお荷物になっていることを自覚しているためハジメに抱きつきながらも自分の弱さに歯噛みする愛子をハジメはジッと見ていた。

 

「……っ! 先生っ! つかまっとけよ!」

 

「ふぇ?」

 

悪寒が背筋に走り咄嗟にハジメは愛子を見ながらギュッと抱きしめて宙返りをする。すると頭上を銀色の砲撃が通り過ぎた。最初に、愛子が幽閉されていた隔離塔の上部を消し飛ばした閃光だ。

 

「それより気にすんな。元より、多少の無茶をするのは想定内だ。しかし〝ネームド〟が仕掛けてくんのは予想外だったが……」

 

「! あ、ありがとうございます……」

 

ハジメは悔しがってる愛子を励ましと安心させる為に話しかける。

 

ハジメも救出と神代魔法を修得するために教会側と衝突するのは想定内はしていたが神の使徒自体それも〝ネームド〟が出張るなんて想定外過ぎていた。アレスの話だと〝ネームド〟はアイツ等にとっての〝母〟エクストラの指示に従って動き、個々での実力も高いらしく、余程の事態しか動かないと聞いていた。

 

即ち、ハジメ達は、ネームドが出張るほどの危険な存在ということ。

 

「……雑談とは余裕ですね、イレギュラー」

 

「ぬぐぉお!?」

 

銀色の砲撃と銀羽の弾幕をかわした直後、ハジメのすぐ傍で機械的で冷たい声音が響く。咄嗟に義手の肘から散弾を背後に向かって放ちつつ、その激発の反動を利用して反転する。その目に飛び込んできたのは、ガントレットから出した双大剣の片方を盾にして散弾を防ぎつつ、もう一方の大剣を横殴りに振るうノイントの姿だった。

 

銀光を纏う長さ二メートル幅三十センチの大剣は、そこにあるだけで凄まじい威圧感を放ち、その宿した能力も凶悪だ。なにせノイントが操る銀の魔力は全て固有魔法〝分解〟が付与されているのだから。触れるだけで攻撃になるなど反則とも言っていい。しかし、そうは分かっていても、愛子がいる以上無茶な動きは出来ず、ハジメは咄嗟にシュラークを迫り来る大剣の腹に当てて軌道を逸らしつつ、自らは背中から倒れ込むように落下して、ギリギリ回避した。前髪をチリッと掠めながら大剣が通り過ぎ、冷や汗が吹き出る。

 

数瞬くらいならシュラークや義手でも〝金剛〟とアザンチウムの結合力が〝分解〟に抗って攻撃を防いでくれるが、受ける度に傷を負ってしまうのは避けられないだろう。今回も、わずかにシュラークの表面が削れてしまった。何度も同じことをしていれば、そう遠くない内に破壊されてしまう。

 

「………なっ!」

 

仰向けになりながら思考を張り巡らせてるハジメにノイントは、振るった大剣の遠心力に逆らわず、月光を反射してキラキラと煌く美しい銀髪を広げながら回転し、散弾を防いだ方の大剣を振り下ろした。途轍もない膂力から生み出された剣速は、もはやただの銀閃であり視認することも叶わない。

 

ハジメは再び義手のショットシェルを激発させ、反動で横回転しながら大剣をかわしつつ、シュラークの銃口をノイントに向けて、三度、引き金を引いた。轟音と共に三条の閃光がノイントの頭部、心臓、腹部に向かって正確に撃ち込む。

 

しかし、ノイントの反応速度も尋常ではない。ハジメが銃口を向けた瞬間には大剣を縦にかざしてその剣の腹で全て受け止めてしまう。ハジメは距離を取ることに思考を切り替えた。

 

「クロス・ビットォ!」

 

ハジメはレールガンの威力に押されて距離を離したノイントにクロスビットによる追撃をかける。装填された炸裂スラッグ弾が、紅色の波紋を夜空に波打たせながら、凄まじい衝撃をばら撒くが、ノイントは、その衝撃も、あっさり背中の銀翼で打ち消してしまうが、ハジメの目論見通り、距離を取ることには成功した。

 

「はわ、はわわ……何が、どうなって……」

 

「……先生。頼むから殺し合いの最中に、変に声出さないでくれ。何か気が抜けちまう」

 

「変って…南雲君!せ、先生相手に何を言って……」

 

 やっていることはコンマ数秒で勝敗が決してしまうような息つまる超高等戦闘だというのに、合間に入る愛子の悲鳴にハジメの気勢がガリガリ削られていた。「この人案外余裕なんじゃなかろうな?」と胡乱な眼差しを向けた。

 

「……足でまといを抱えて尚、これだけ凌ぐなど……やはり、あなたは強すぎる。主にとっては喜こばしいと思いますが……我が母にとっては貴方は危険過ぎる存在です」

 

「そりゃ嬉しい。クソ神共に褒めれられたって何も嬉しくないが……礼は言ってやるよ。どうも、ありがとう」

 

「……私を怒らせる策なら無駄です。私に感情はありません」

 

「は? 何言ってんだ? 紛う事なき本心に決まってるだろ?」

 

「……」

 

ハジメの侮辱にノイントは、スッと目を細めると大きく銀翼を広げ、今まで使わず、周りに浮かばせてるだけだった銀の魔力を纏う二つの〝柱〟を構えだした。

 

果たして本当に感情がなく、ただ無駄な会話をしたと仕切り直しただけなのかハジメの目には、どこか怒りを抱いているように見えたが、そんな事は考えるだけ無駄な事だとすぐさま切り捨てた。どうせ殺すのだ。ノイントが何を考えていようと、何を感じていようと、どうでもいい。ハジメは神共を殺すだけだ。とハジメは構えをとってノイントを睨む。

 

すると、ノイントが再び銀翼をはためかせながら片手を天に掲げる。それと同時に浮かぶだけだった柱がノイントの手の動きに合わせるかのように動き出した。

 

 そして……

 

「聖杭起動──〝聖槍顕現〟」

 

ノイントの冷たく凍てつくような声に反応して柱が変化していき、二つの柱が槍の形に変形していく。その神秘的な光景にハジメは、足が止まってしまう。

 

「なっ……」

 

ハジメが唖然とした束の間、ノイントは顕現させた聖槍を二つをハジメに目掛けて飛ばしてきた。その速さはハジメでもギリギリで捉える程の速さだった。

 

「?!、ぐぅっ……」

 

「南雲君?!」

 

飛んで来た聖槍がいつの間にかハジメの目の前に迫っており、ハジメは咄嗟に愛子を庇うように避けたが背中に多少の傷を負い、苦悶の声を上げる。

 

「大丈夫だ。先……「〝劫火浪〟」…っ!」

 

ノイントは銀羽を宙にばら撒くいており、ノイントの前方に一瞬で集まると、何枚もの銀羽が重なって魔法陣を形成しており、ハジメが心配の声を上げる先生に何か言おうとした矢先、魔法を発動させた。

 

発動された魔法は、天空を焦がす津波の如き大火。

 

「チッ……!」

 

魔弾だけでなく属性魔法も使えんのかよっ、とハジメは内心悪態をつく。ノイントは今まで魔法も今さっきの柱を使ってこなかったのは、単純に銀の魔弾だけで十分だと判断していたためだろう。つまり、本気になったということだ。ハジメは今までノイントは本気じゃなかった事を知り、苛立ち舌打ちする。

 

「見つかるかどうか分かんねぇが……」

 

うねりを上げて頭上より覆い尽くすように迫る熱量、展開規模共に桁外れの大火に、先生は戸惑いだすが無視し、俺は頬に汗を流しながら必死に魔法の核を探す。

 

しかし、ノイントの発動した魔法は超広範囲魔法であり、【神山】全体を昼と見紛うほどに照らす大規模なもの。大海に落ちた針を一本探すが如く、核の位置は判然できない。

 

そして、容赦なく訪れるタイムリミット。

 

「まだ試作段階だが……」

 

数百メートルに及んだ炎の津波は、ハジメと愛子を逃がすことなく完全に呑み込む前にハジメはクロス・ビットのある新ギミックを発動させた。

 

「……これも凌ぐのですか」

 

ノイントがそう呟いた直後、術の効果が終わり、大火が霧散していくその中心で、四機のクロスビットに囲まれたハジメと愛子が無傷で姿を現れる。

 

四機のクロスビットはそれぞれ、ハジメを中心として三角錐の頂点の位置に浮遊しており、それぞれを起点にワイヤーで繋がっている。そしてそのワイヤー同士で繋がった面には紅色の光の膜が張られている。

 

「試作段階だったが……上手くいったようだな」

 

「こ、これは……」

 

ハジメは上手くいったことにどこかホッとしたような表情をする。これは、生成魔法により空間魔法を付与したワイヤーと鉱石をクロスビットに組み込み、四点で結合させてボックス型の結界を張るギミックだ。単なる障壁ではなく、空間そのものを遮断するタイプなので、理論上の防御力は折り紙付きだ。ただ、まだ実験段階で、実際にどの程度まで耐えられるのか確証がなかったので、ハジメとしてはちょっと不安があった。

 

驚いてキョロキョロと結界を見る愛子を抱き締め直しノイントを見れば、彼女は、聖槍をハジメに目掛けて飛ばしながらまたもや魔法陣を形成させていた。

 

ただし、今度は二十以上の魔法陣を、聖槍を、銀羽をハジメに撃ち込みながら同時展開するという形で。

 

「面倒くせぇっ!」

 

まさに怒涛の攻撃。おそらく、四点結界は相当な強固さを発揮してくれるだろうが、内側に篭っていてはジリ貧だ。おまけに、ノイントの分解能力とあの聖槍にどこまで耐えられるか全く分からない。

 

それに、この結界の難点は空間が遮断されているので、展開中は俺も攻撃できないという点にある。なので、俺は急いで結界を解除すると、ノイントから大きく距離をとり、再びティオが来るまで回避に徹しようとした。と、その時、突如、【神山】全体に響くような歌が聞こえ始めた。

 

「何だ………聖歌?」

 

ハジメが、銀羽の弾丸と二つの聖槍をかわしながら何事かと歌声のする方へ視線を向ければ、そこには、イシュタル率いる聖教教会の司祭達が集まり、手を組んで祈りのポーズを取りながら歌を歌っている光景が目に入った。どこか荘厳さを感じさせる司祭百人からなる合唱は、地球でも見たことのある聖歌というやつだろう。

 

一体、何をしているんだとハジメが訝しんだ直後、

 

──ズンッ

 

「……ッ!? なんだ? 体がっ…」

 

「南雲君!? あうっ、な、何ですか、これ……」

 

ハジメと愛子の体に異変が訪れた。

 

体から力が抜け、魔力が霧散していくのだ。まるで、体の中からあらゆるエネルギーが抜き出されているような感覚。しかも、光の粒子のようなものがまとわりつき、やたらと動きを阻害する。

 

「くっ、状態異常の魔法かっ……流石総本山。外敵対策はバッチリってか?」

 

ハジメの推測は当たっていた。

 

イシュタル達は、〝本当の神の使徒〟たるノイントが戦っている事に気が付き、援護すべく〝覇堕の聖歌〟という魔法を行使しているのだ。これは、相対する敵を拘束しつつ衰弱させていくという凶悪な魔法で、司祭複数人による合唱という形で歌い続ける間だけ発動するという変則的な魔法だった。

 

「イシュタルですか。……あれは自分の役割というものをよく理解している。よい駒です」

 

「チッ……気持ち悪りぃんだよ!狂信者共!」

 

恍惚とした表情で、地上からノイントを見つめているイシュタルに、感情を感じさせない眼差しを返しながらノイントがそんな感想を述べる。イシュタルの表情を見れば、ノイントの戦いに協力しているという事実自体が、人生の絶頂といった様子で気持ち悪過ぎて悪態をつく。

 

そんなイシュタル達司祭の中身はともかく、現在、展開している魔法は正直なところ厄介なこと極まりないものだった。

 

「ぐっ……」

 

ハジメは、徐々に抜けていく力を、その身に内包する膨大な魔力で補いながら、ノイントの攻撃を回避する。しかし、明らかに先ほどまでに比べれば動きに精細を欠いていた。そして、そんな状態で凌ぎ続けられるほど、ノイントの攻撃は甘くなかった。

 

ノイントの周囲に形成された魔法陣から、雷撃が飛び出し、空に不規則な軌跡を描きながら殺到する。しかし、ハジメは雷に耐性がある。雷撃を直撃しても大してダメージはない。しかし、雷撃はハジメの直撃する寸前に爆発し、眩い閃光を放った。そんな突然な回避不可能な目眩しにハジメは一瞬、目を守ろうとして動きを止めてしまう。

 

刹那の硬直。しかし、ノイントからすれば致命的な隙だ。

 

「ッ!?」

 

超速で踏み込んできたノイントが、二つの聖槍と共に双大剣を十字に振るう。感電による硬直のため、僅かに反応が遅れたが、どうにかシュラークで一撃を逸らすものの、唐竹の一撃をかわしきれず肩を切り裂かれ、一本の聖槍が太腿の肉を僅かに抉りだした。

 

「ぐぅう!───〝紅雷玉〟!」

 

苦しげな声を上げながら、ハジメはすぐさま義手の激発で体を弾き、片足が抉られたが無視して〝空力〟を使って必死にノイントの剣界から離脱を図る。当然、そんな暇は与えないと苛烈な剣戟と聖槍が襲い来るが、自爆も辞さいないクロスビットの砲撃と雷魔法により、どうにか距離を取ることができた。

 

「南雲君っ!?」

 

「大丈夫だから、黙ってろっ!」

 

肩から飛び散ったハジメの血が、ピッと愛子の頬に付く。クロスビットがもたらした衝撃により、〝金剛〟で守られていたとはいえ、少なくない衝撃を受けた先生だったが、揺らぐ意識を必死に繋ぎ留め、ハジメに悲鳴じみた心配の声を上げた。

 

だが、ハジメとしても愛子を気遣う暇がない。素っ気ない返事をしている間にも、ノイントは銀羽を射出して二つの聖槍を浮かばせながら急迫しているのだ。ハジメは、シュラークで撃ち落としつつ〝金剛〟と〝風雷閃〟も使って捌く。体にまとわりつく光の粒子と倦怠感のせいで、遂に回避しきれなくなっていた。

 

そんなハジメに、ノイントは正面から突っ込むと見せかけて銀翼をカッ! と発光させた。爆ぜる光が目を灼く。

 

「……ッ!」

 

しかし、ハジメの持つ感知系能力ですぐさま見失ったノイントの気配を背後に感じて、振り向きざまにシュラークを連射した。

 

「(当たった感覚がしねぇ…。まさか囮かっ)……っ!?」

 

ハジメの予想が当たり背筋が粟立った。本能がけたたましく警鐘を鳴らす。ハジメは振り向く暇も惜しんで、腕だけ後方に向けると狙いも付けずに引き金を引いた。

 

撃ち放たれた弾丸は、運良くノイントの頭部に飛翔したが、彼女は首を捻るだけであっさり回避され、双大剣の片割れが俺の背中目掛けて袈裟斬りに振るわれる。咄嗟にハジメは、〝金剛〟の派生〝集中強化〟を全力で行使し、覚悟を決めて斬撃に備えた。

 

ノイントの大剣は、ハジメの〝金剛〟と一瞬の間拮抗するも、直ぐに分解能力によってその防壁を切り裂いていき、肉体に切っ先を届かせ振り抜かれ、更に追撃で二つの聖槍がハジメの肉体を貫きはしなかったが突き刺さる。

 

「がぁあ!!」

 

「南雲君!」

 

ハジメは背中に焼き付くような痛みを感じ、思わず口から苦悶の声を漏らす。愛子が焦ったような表情で声を上げる。しかし、ハジメは斬られた際の衝撃も利用して自ら前方に飛ぶと宙返りしながらノイントと相対する。

 

ノイントは、すぐさま追撃に入り、既に大剣を振りかぶしながら聖槍をハジメに目掛けて飛ばす。

 

「ハァハァ……」

 

ハジメは、出血も酷い状態であるが、動きづらい体での対応を諦めクロスビットに〝金剛〟を纏わせて盾にしつつ、他のクロスビットをノイントの左右に展開し内蔵された弾丸を炸裂させる。

 

ノイントは、クロスビットの弾丸を回転しながら広げた銀翼で打ち払うとそのまま突進し、ハジメが盾にしたクロスビットを一之大剣で斬り付け、更に、クロスビットに食い込んだ一之大剣に弐之大剣を叩きつけることで、あっさり切断してしまい、雷魔法を発動しようとしたが聖槍に魔法自体を破壊され、不発となってしまう。

 

「クソがっ!」

 

ハジメは目を見開いてその瞳を、間近に踏み込んだノイントが覗き込んだ。その無機質な眼差しが雄弁に物語っていた。すなわち、〝これで終わりです〟と。しかし、ハジメは大切な仲間達、そして大切な彼女達が脳裏に過りハジメは瞳にまた炎を宿したように目を吊り上げる。

 

「まだ諦める訳にはいかねぇ!」

 

ハジメはこの状況で愛子を死なせないためには、対価が必要で、代わりにハジメが傷つくという対価だった。こんな事なら、後の弱体化を覚悟してでも、ティオを待たずに〝限界突破〟を使っておくべきだったかと後悔するが。今となってはどうでも良いと切り捨て左腕を犠牲にする覚悟を決める。

 

そして、ノイントの大剣と聖槍が、かざしたハジメの義手を切り裂いて、その奥の肉体に致命傷を負わせようと振るわれたまさにその瞬間……

 

グゥガァアアアアア!!!

 

「クハッ…………遅ぇよ」

 

竜の咆哮と共に、黒色の閃光が下方から凄まじい勢いで迫って来た。それは、あらゆるものを消滅させる灼熱のブレス。黒き暴虐の嵐は、狙い違わずノイントへと襲いかかるを見てハジメは苦笑しながら「ナイスタイミング」と呟く。咄嗟に、ノイントは銀翼で身を包み防御態勢をとっていた。

 

直後、黒色のブレスはノイントの銀翼に直撃し、分解されながらも凄まじい勢いで吹き飛ばす。黒と銀の魔力が衝突し、空中に黒銀の魔力を撒き散らしながら、ノイントは教会の塔の一つに背中から突っ込んだ。その衝撃により塔がガラガラと音を立てながら崩れ落ちていく。

 

下方からイシュタル率いる司祭達が上げている悲鳴が聞こえる。信望する神の使徒が吹き飛ばされ動揺しているようだ。

 

「……ざまぁ」

 

ハジメは呟いた後、〝宝物庫〟からオルカンを取り出すと、イシュタル達の方を見もせずに十二発全弾を無造作に撃ち込んだ。今度は、違う種類の悲鳴が聞こえてきたが無視だ。なぜなら、そんな雑音などかき消すような聞きたかったハジメにとって愛しい彼女達の一人の声が響き渡ったからだ。

 

〝ご主人様よ。無事かの?〟

 

その声に、ノイントを警戒しながらもハジメの頬が緩む。待ち人ならぬ待ち竜のご到着だ。

 

「ティオ、助かった。ちょっとヤバかったんだ」

 

ハジメの言葉に嬉しそうにしながらも、ハジメの姿と言葉でそれほどまでの強敵かと直ぐに険しさを取り戻す黒竜姿のティオが、翼をはためかせながら傍らにやって来た。

 

〝間に合ったようで何よりじゃが、ご主人様、足や背中が……〟

 

「大丈夫だ安心しろ……ティオは先生を頼む」

 

心配するティオにハジメは嬉しさを感じるが今は戦闘中、すぐに険しさを取り戻しながら竜化したティオの頬を擦りながら愛子の保護を頼む。

 

〝了解した、が……後で妾を可愛がっておくれ〟

 

竜化していても甘えるような視線を向けながらそんなことを言うティオにハジメは苦笑いしながら口を開く。

 

「……わかったよ」

 

〝本当か! その言葉忘れるでないぞ! さぁ、先生殿よ、妾の背に乗るがいい〟

 

ハジメは、こんな状況でも自らの欲望に忠実なティオ(思い返せばユエ、シア、優花もだが)に呆れた表情をしながらも、抱きしめていた愛子をその背に乗せる。

 

愛子は、なんだかハジメとティオの会話に「不純異性交友?」と呟きながら、ようやくハジメの足でまといから解放されるとあって素直にティオの背にしがみついた。

 

「えっと、ティオさん。よろしくお願いします」

 

〝うむ。任せよ。先生殿はご主人様の恩師というじゃからの、敵の手には渡さんよ〟

 

愛子は、ティオの〝恩師〟という言葉に嬉しそうにしたが、心配そうにハジメの方を見ていた。その表情はどう見ても教師が生徒を憂う類のものだった。と、その時、ノイントの突っ込んだ塔が轟音と共に根元から吹き飛んだ。もうもうと舞う砂埃を、銀翼をはためかせて起こした風圧で吹き飛ばしながら無傷のノイントが姿を現す。

 

「生きてはいると思っていたが……無傷かよ」

 

ティオのブレスでも、銀翼の防御は貫けないことにハジメはノイントの無傷に対して内心舌打ちするが、ティオ達のことが優先なのでティオに指で「行け」とジェスチャーする。

 

〝承知。しかし、先生殿の安全を確保したら助太刀するぞ? 少なくとも教会の連中は妾が何とかしよう〟

 

「……助かる」

 

ハジメは既に猛烈な殺気を噴き出しながらノイントをギラつく眼で睨んでいると、ティオは、先程俺に掛けられていた弱体化の魔法の原因を察して、イシュタル達を睨みながら頼もしいこと言う。ハジメは、ノイントに集中しろということだ。

 

ハジメは、その言葉に口元を吊り上げると一つ頷いて簡潔ながらも感謝して、今度は自らノイントへと向かって猛然と宙を駆けていった。

 

「さぁ、神の木偶。第二ラウンドといこうかっ!」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「南雲君! 気をつけて!」

 

両手を胸の前で組み祈るようなポーズの愛子に、ティオは愛子を地上に下ろすことを説明する。

 

〝先生殿よ。ご主人様が心配なのは分かるが、少し急ぐのじゃ。貴女を地上に送り届けて、妾はあそこの老害共を叩かねばならん。ご主人様の邪魔をされては敵わんからな〟

 

そう言って踵を返そうとしたティオに愛子は待ったをかけた。何事かと、首だけ振り返って背に乗る愛子に視線を向けたティオに、愛子は、決然とした眼差しを返した。

 

「ティオさん。今から私を地上に降ろして、また戻って来るとすればかなりの時間がかかるのではありませんか? ここは標高八千メートルです。往復するのも大変なはず……」

 

〝むっ? 確かに、その通りじゃが……まさか先生殿よ〟

 

「はい。ティオさんが南雲君のために戦うというのなら、私にも手伝わせて下さい。早急にイシュタルさん達をどうにかしておかないと、南雲君はどんどん衰弱してしまいます。私を下に送り届ける時間が勿体ないです」

 

愛子の言うことは最もではあるのだが、ティオとしては正直気が進まない。

 

オルカンの攻撃で負傷者が多数出たようだが、直ぐに立て直し結界を張りながら再び聖歌の準備をしているイシュタル達を見れば、ティオとしても、今すぐにでもぶっ飛ばしに行きたいところだ。だが、それで万一、愛子が傷つけば、ハジメとの約束を反故にする事になってしまう。

 

〝じゃが、言っては悪いが先生殿に何ができる? 魔法陣も戦闘経験もなかろう? 司祭達と神殿騎士達を相手に戦えるのかの?〟

 

愛子は、ティオの厳しい意見にぐっと歯を食いしばると、おもむろに自分の指を口に含んだ。そして、ギュッと目を瞑ると一気に指の腹を噛み切り、指先から滴る血を反対の手の甲に塗り付け即席の魔法陣を描き出す。

 

「私、こう見えて魔力だけなら勇者である天之河君並なんです。戦闘経験はないけれど……ティオさんの援護くらいはしてみせます! 人と戦うのは……正直怖いですが、やるしかないんです。これから先、皆で生き残って日本に帰るためには、誰よりも私が逃げちゃダメなんです!」

 

王国は侵攻を受け、国王も司祭達も狂信者と成り果てた。当初予定していた神を頼っての帰還はもう有り得ないだろう。この異世界で寄る辺なく愛子達は前に進まねばならないのだ。

 

ならば、先生である自分こそが、たとえ忌避するべきことでも、それがすべき事ならやらねばならない。そんな決意を愛子の眼差しから読み取ったティオは、逡巡したものの、仕方あるまいと愛子の同行を許すことにした。

 

〝既に決めたというなら是非もない。ご主人様も、それが先生殿の意志だというなら文句は言うまい。よかろう。共に愚か者共を蹴散らすとしようか!〟

 

「はい!」

 

愛子の緊張と恐怖、そしてそれらを必死に制しようとする決意が表れた返事を合図に、ティオは聖教教会を象徴する大神殿に向かって一気に飛翔した。相手取るのは、数百人規模の司祭達と神殿騎士団。

 

今、ティオと愛子という異色のタッグチームがこの世界最大の宗教総本山に挑むのだった……。

 




編集しました。十二月五日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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