ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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七十四話 魔王アルヴ

 

恵理と香織の裏切りにより、絶望の状況だったクラスメイト達。そんな状況に現れたのは恵理と香織の二人が死んだと言われていた二人……

 

「てめぇ等の好きにはさせねぇぞ」

 

「お前達には相応の罰を受けて貰ぞ」

 

「ガルルッ!」

 

遠藤浩介とメルドの二人と清水の従魔であるサーベルタイガー型の魔物〝ガルル〟だった。

 

「何でっ!アンタ達が生きてんだよっ!」

 

恵理は自分の計画にまたもや邪魔が入ったことに髪を掻きむしり、怒りを顕にする。そんな恵理に浩介はサングラスを装着し〝深淵卿〟へと変わると華麗なターンを決めてから恵理に告げた。

 

「フッ……中村よ。我を少し侮り過ぎたようだな」

 

「……殺すっ」

 

アビスゲートの一々キレのあるポーズ(煽り)にキレた恵理は傀儡の騎士達を一斉にアビスゲートとメルドに攻撃を指示をする。それに対してメルドはアビスゲートへ清水もガルルに指示を出した。

 

「浩介っ! お前は光輝達を解放しろっ!俺はこの馬鹿者達を抑える!」

 

「ガルル! お前もメルド団長のサポートを頼む!」

 

「承知! 行くぞっ我達!」

 

「「「「おうっ」」」」

 

「ガルゥッ!」

 

メルドの指示で、アビスゲートは光輝達の解放する為、分身を作り行動に出る。ガルルも主人である清水の指示でメルドのサポートにまわる。

 

「……ッ! させないっ!」

 

恵理は拘束を解除させない為に、アビスゲートに狙いを定めて騎士達を動かすが……

 

「お前達の相手はこの俺だ。 風魔の太刀を 我が身に纏いて 吹き荒れろ烈風よ 今此処に!──〝烈風豪斬〟!」

 

アビスゲートを追いかける傀儡騎士達の前へ詠唱を終えたメルドが立ちはだかり、翡翠の輝く剣から放たれる激しい風の斬撃が傀儡騎士達を吹き飛ばし闘技場の壁に激突する。

 

「どうした! お前達っ! 浩介の所に向かいたいなら、まず俺を倒してみろっ!」

 

そう告げるメルドは、正に王国騎士団団長と言える圧を飛ばしながら剣を構え直し残りの傀儡騎士達を薙ぎ倒していく。

 

「クっソッ……」

 

「恵理ちゃん! メルドさん何か強くなってない? あの魔法とか?」

 

「確かに……(メルドは確か……自分で魔法系は苦手と言っていた。 迷宮の時も大体は初歩系の風の魔法しか使ってないのに……)」

 

呆気に取られていた恵理と香織はメルドが上級魔法を使っているのを驚く。それは拘束されてる光輝達クラスメイト達も驚いていた。

 

「そこの二人、俺が上級魔法を行使してる事に、相当、驚いているようだな」

 

「「!」」

 

メルドは襲いかかる騎士達を易々と倒していきながら、恵理達の抱く疑問を素直に答えるように自分が持つ剣を見せる。そう、メルドが今、使っている剣はいつも使っている騎士剣では無く、翡翠に輝く綺麗な大剣だった。

 

「この剣はな、アーテイファクトで、名は〝風王天理〟。俺の信頼できる。ある男から貰ったモノでな。重要な時にしか使わんようにしてたのさ……そして、今がその時だ!!」

 

剣を説明をしながら、傀儡騎士を叩き斬るメルド。彼の強さは勇者でありステータスの差がある光輝にも渡り合える剣技を持つというのに。今、手に持つアーティファクトが加われば光輝にも勝る強さを得たメルドは正に最強の騎士だ。

 

「ガルルッ!」

 

それに続いて、清水の従魔であるガルルも物凄いスピードで闘技場を駆け抜けながら、騎士達を吹き飛ばしたり、その鋭利な二本の牙で騎士達に喰らいつく。

 

ガルルは、清水が従えてる従魔の中では攻撃型の魔物であり、その強さはオルクスの奈落の中層に匹敵するレベルの魔物である。

 

そんな二人と魔物の介入に盤上が逆転していく。

 

「もう滅茶苦茶だよっ……──光じ……キャッ!」

 

「香織、どうしたの?! って……これは投げナイフ? それにこれって……まさか!」

 

「これってアンタの仕業よね。中村さん?」

 

メルドとアビスゲート、清水の従魔の登場で、恵理の計画が滅茶苦茶二なり、内心舌打ちする香織は自分もサポートしようと魔法を放とうとしたが何者かによって、邪魔をされる。駆け寄った恵理は香織を邪魔した投げナイフを拾う。その投げナイフに恵理は見覚えがあった。そして、後方から此処にいる筈のない人物の声がして恐る恐る振り返る。

 

恵理と香織、他のクラスメイト達も声の方向に視線を向けた。

 

そこには………

 

「状況は、よく分かんないけど……見た感じ、中村さんと香織が何かしたんだよね?」

 

「みなさん! 一体、どうしたのですか! 恵里!香織! これは一体どういうことです!?」

 

手に数本の投げナイフを構えた少女──園部優花と最近、王都で見なかったリリアーナ姫だった。

 

「「ユウカ(ッチ)!」」

 

「優花!?」

 

「ムッ……園部! ならハジメが王国にいるのだな!」

 

「園部さん!?」

 

「リリアーナ姫! ご無事で!」

 

「姫様!」

 

クラスメイト達とメルドからは優花とリリィの登場で驚愕と共に歓喜の声、そして……

 

「っ!? なんで、君がここにいるのかなぁ! 君達はほんとに僕の邪魔ばかりするね!」

 

「園部ェェェェェ!」

 

更に邪魔者に対して嫌味を言い放つ恵里、憎き相手が現れ怒りのあまり顔を酷く歪めながら叫ぶ香織。恵理は、急いで現れた優花達に騎士達を差し向けようとした時だった。

 

ガチャン、と何かが外れる音がした。

 

「まさか………」

 

「まさか……拘束が…」

 

恵理と香織はまさかと思い顔を青ざめながら、拘束されているクラスメイト達の方へ目を向ける。

 

「フッ……全員の解放完了。ミッションコンプリート」

 

「流石ね、浩介」

 

「浩ちん〜。ありがと〜」

 

「サンキューな遠藤!」

 

「はぁ〜、上手くいった。よくやったガルル!」

 

「恵理、香織……貴女達のしたことは看過できないわよ」

 

「恵理、香織! もうやめてくれ! こんな事をしても意味ないっ!投降するんだっ!」

目の前の光景には、アビスゲートの手によって拘束が全て外され、自分達の装備を手にしたクラスメイト達だった。近くにいた騎士達もアビスゲートの分身とメルドの連携によって倒れている。

 

「クソ、クソ、クソ、クソッ!あ〜もうっ、滅茶苦茶だ!」

 

「アイツを殺してないのに、ハジメ君を……」

 

傀儡騎士達を倒され、クラスメイト達も全員解放された。恵理は悪態をつきながら髪を毟るように荒く掻く。香織は計画が失敗した事に絶望しブツブツと言い始める。

そんな二人に関係なくクラスメイト達とメルド、優花達はどんどん恵理達へ迫る。恵理達はそれに合わせるかのように後退る。もう……勝負は決まったと誰もがそう思った。

 

しかし………

 

『少し、君達に期待していたのだが……惜しかったな。でも安心してくれたまえ、私が来たのだからね』

 

何処か透き通った声が闘技場内に響き渡ると同時に一つの影が現れた。

 

「なっ!?」

 

「えっ何!? 瞬間移動っ!?」

 

「あれって、アレス兄様が使ってた……」

 

「アレは何者だ?」

 

「……ヤバイぞ、彼奴は」

 

「空間魔法? いや、ゲートが見えてない」

 

クラスメイト達は突然、自分達と恵理達の間に何者かが現れ、驚愕し、雫、メルド、浩介、優花はその相手の異様な気配に気付き、すぐさま得物を構える。

 

その者は全身が黒色の軍服で少し豪華さを感じる長めのケープを身に纏い、顔は見せたくないのか頭全体を覆う仮面を被っている。

 

「……そうか、人間族共には自己紹介がまだだったな…私の名はアルヴ。〝魔人族の王〟アルヴヘイトだ」

 

己の正体を知らないことに対して仮面の男は自己紹介をする。そして、その名を聞いた瞬間、この場にいる全員に衝撃が走る。それもそうだろう。目の前に現れた仮面の存在は魔人族の王なのだから。

 

「嘘でしょ。まさか魔王様が直々にボク達を助けに来たのかい?」

 

「あぁ、少し予定が変わってしまったね。私の大事な部下がイレギュラー達の介入で大ケガを負ったらしいんだ。その子から救助に向かえないと連絡が入ったから、私が直に君たちを助けに来たんだ」

 

「でも、何で魔王様が私達をそこまで……」

 

「君達は、まだあの方達を楽しませれる面白い駒だからね。生かしておきたいんだよ」

 

「………」

 

「………あぁ、そういうこと」

 

恵理と香織は魔王の登場に驚きと歓喜に感じたが、どうして自分達を助けるのか気になって聞くと、アルヴの返答に恵理はヘラヘラしながらも納得した。そして、状況を覆そうなことを理解した恵理は、倒された傀儡の騎士達を再び、立ち上がらせ、またもやクラスメイト達に向けて襲いかかるように指示する。

 

そんな中、一人の人物がアルヴへ向かって全力疾走する。

 

「お前が、貴様が魔王アルヴか! お前が恵理と香織を洗脳させた元凶だな!俺がお前を倒して世界を救う!ウオオオオッ──〝限界突破覇潰ィィ〟!!」

 

「光輝!止まれっ!」

 

「光輝っ、無茶よっ!」

 

「おいっ、馬鹿勇者!」

 

傀儡の騎士達の対処をしてる中、光輝はアルヴの登場で恵理と香織はアルヴに操られことで裏切ったと解釈したのかアルヴへ向かって限界突破〝覇潰〟を発動する。メルド、雫、アビスゲートは光輝に止まるように叫ぶが、光輝は無我夢中にアルヴに突っ込む。

 

「ウオオオオッ! 天へと羽ばたけ───〝天翔閃〟!」

 

光輝がアルヴに迫りながら〝限界突破覇潰〟によって威力が底上げされた光の斬撃を飛ばす。

 

「君が勇者か……聞いていた通り面白い駒ではあるが……弱いな」

 

アルヴは光輝の〝天翔閃〟を片手で鷲掴みそのまま意図も容易く破壊した。その光景に光輝、そしてクラスメイト達、誰もが驚愕する。

 

「なっ……俺は、俺は、俺はっ、弱くないっ!! ウオォォォォッ! ──〝神威〟!」

 

光輝はアルヴに〝弱い〟と言われ怒りが爆発し更に加速。〝縮地〟でアルヴとの距離を詰め、既に詠唱をしてストックにさせていた〝神威〟を発動する。光輝は神々しく輝きを増す聖剣を空へ掲げ、そのまま振り落とそうするが……。

 

「遅い、弱い、単純だね……」

 

呆れた顔でアルヴは軽々しく〝神威〟を避けると、どういう理屈かは分からないが、一瞬で光輝の後ろに周り込むと横腹に蹴りを入れる。瞬間、ボキッと鈍い音が響く。

 

「アガッ!?」

 

アバラ骨が折れたことで痛みに苦しむ光輝。そこへ、アルヴは追撃で攻撃をしようと光輝に仕掛けるが、光輝はアルヴがまた攻撃をするのを気付き、横腹が痛むのを我慢して全身を使って紙一重に回避をする。

 

しかし………

 

「……読めてるよ」

 

アルヴは光輝が避けるのを読んでいたのか、すぐさま、体勢を変えながら光輝へ詰め寄り顔面を掴んで地面に叩きつけるように投げ飛ばす。

 

「グハァッ!」

 

投げ飛ばされた光輝は受け身を取れる暇もなく、地面に叩きつけられ全身のいくつかの骨が折れる。そして、余りの衝撃に臓器が耐えれず光輝は口から大量の血を吐き出しながら大の字に倒れながら気を失う。

 

「光輝っ!」

 

「今代の勇者の実力はこんなモノか………」

 

雫は、為す術なく地面に叩きのめされた光輝の方へ駆け寄る。アルヴは、今代の勇者の実力に少し落胆するが……「まぁ、人格としては面白い駒だし」と呟いている。

 

「「オオオオォォォ!」」

 

そして、光輝と入れ替わるように龍太郎、永山がクラスメイト達を守る為にとアルヴに突貫する。

 

「次は脳の無い雑魚共か……」

 

突拍子もなく向かってくる二人にアルヴは溜息を一つと共に二人の強烈な突きを軽々しく受け止める。

 

「なにぃっ!?」

 

「なんだと!」

 

渾身の突きが止められたことに二人からは驚愕の声が漏れる。

 

そんな二人を気にせずアルヴは永山の腹に蹴りを入れ吹っ飛ばす。その瞬間、永山からボキボキと骨が折れる音が聞こえた。何本か骨が折れたのだろう。そして、アルヴは片方の手で抑えてる龍太郎の手をバキッと音を立てながら握り潰した。

 

「グゥゥゥッ!」

 

龍太郎は片手を握り潰された痛みに耐えれず、にその場で倒れ込み苦悶の声を上げる。

 

「フッ……他愛のないな……ッ!」

 

蹲る龍太郎へトドメを刺そうとしたアルヴだったが、目の前に黒の線が奔る。

 

「やはり、この太刀を受け止めるかっ!」

 

その正体は、龍太郎の影から現れたアビスゲートだった。しかし、アビスゲートの奇襲は失敗に終わる。

 

「まさか、私の感知を欺ける者がいるなんてね驚いたよ」

 

「ご褒めに預かり光栄だ。しかし、魔人の王よ、我ばかりを気にしてばかりで良いのか?」

 

「どういう………ッ!」

 

「ハァァァァァッ!」

 

「よくやった!浩介!」

 

「行くぞっ!ガルル!」

 

「ルガァッ!」

 

アビスゲートの言葉に首を傾げるアルヴであったが、いつの間にかかアルヴへ詰め寄っていた雫と、メルドは雄叫びと共にアビスゲートの称賛をしながらアルヴに斬り掛かっており、清水もガルルに騎乗してアルヴに状態異常の魔法の詠唱をしながら、ガルル共に突貫する。

 

「それが……どうしたっ!」

 

アルヴは、アビスゲートに気にし過ぎて感知を怠ってしまい雫とメルドの接近に気付くのを遅れてしまうが、全身を回転させながら片方の足で雫を蹴り飛ばし、その勢いでアビスゲートを殴り飛ばすと、斬りかかるメルドを踵蹴りで横腹に蹴りを入れる。その威力は鎧に強く伝わり、メルドは吹き飛ばされていく。清水とガルルには、一瞬で清水の頭上へと移動すると清水を蹴りで吹き飛ばし、闘技場の壁にのめり込み、ガルルも同じように蹴り飛ばした。

 

「少しは連携が取れてはいたが……私には通用しないよ」

 

スっと華麗に着地したアルヴは、アビスゲート達の連携に褒めはしたが、それだけだった。対し雫達は自分達とアルヴのかけ離れた実力差に歯噛みする。

 

「ぐっ………なんて、実力なの……」

 

「クッ……流石は魔王と呼ばれる者だな……強い」

 

「グッ……姫様、お前達っ……光輝達と姫様を連れて此処から離れろ!俺が出来るだけ時間を稼ぐ!」

 

「……ッ!駄目です!メルド団長も傷がっ!」

 

「……そうだぞ、メルド団長。あの時に助かった命をもう無駄にするのか?」

 

清水とガルルは壁に激突した勢いで意識を失っており、吹き飛ばされただけの三人は身体がボロボロにしながらも得物を杖にしてよろよろと立ち上がる。

 

「楽しく話は良いが……私の事を忘れてないかい」

 

「「「……ッ!」」」

 

「雫!」

 

「雑魚が何言おうか知らんが……一人ぐらい構わないか、死んで「───〝聖絶〟!──〝防御力上昇〟、〝光属性魔法強化付与〟!」……ほぅ」

 

そんな三人の会話にアルヴは気にせず三人の中で一番近くに転がっていた雫を殺そうと手刀を繰り出すが、展開されち光の障壁が阻む。

 

「そんな汚い手で雫を触らないで貰える?」

 

それは、優花が張った付与されて強化された障壁。アルヴはこれほどの付与された障壁に感心し、優花へ視線を向ける。

 

「ほぅ……貴様は、確か報告にあったイレギュラーの………!? な、な、何故! クリ……スタ様だと?」

 

アルヴは優花を見た瞬間、驚愕した。

 

「え?」

 

「まさか、貴女の魂魄はそこにあったとは………こ早急に始末せねばいけなくては!」

 

アルヴは優花を見て仮面越しからでも分かる程、動揺していた。そして、血相を変えると、標的を雫から優花へと変更して、一気に殺さんと加速する。

 

「……っお前等ァァ!園部を守れぇぇっ!!」

 

優花を狙うアルヴを見てアビスゲートは大声で呼びかける。しかし、清水は意識を取り戻すも全身の痛みで身動きが取れない。他のクラスメイト達も立ち上がった傀儡騎士達の対処に追われ、身動きの取れない状態。そして、優花の傍にいたリリィはアビスゲートの声を聞いて咄嗟に〝聖絶〟を発動しようとした。

 

しかし、その判断は余りにも遅かった。

 

グチャッ!と音がリリアーナのすぐ近くで聞こえた。

 

「えっ……」

 

それは、何かが潰れた音だった。リリアーナはその音の聞こえる方へ目を向ける。

 

「カハッ……」

 

「イヤァァァァァ!!ユウカァァァ!!」

 

リリアーナの目に映ったのはアルヴの手刀によって、心臓を貫かれた優花の姿。

 

「貴女様は、早急にこの盤上から消えて貰わらないと困るのだ。貴女様の存在は、もしかしたら奴を呼び起こす可能性がある厄災(・・)を」

 

そう淡々と告げながらアルヴは優花の体を貫いた手を抜き取る。

 

「ユウカァァアア!」

 

「嘘……ユウカっち!!」

 

「ゆ、優花……嘘?」

 

幼なじみの妙子と奈々の絶叫が響き渡り、雫は自分の友達が名前を呼び合えるようになった人が貫かれるのを見て放心する。

 

その光景に呆気を取られた恵理はアルヴの急変具合と優花を殺したことに探るような目を向けながら隣にいる香織に声をかける。

 

「アハハ……園部さん死んだね。よかったね、香織」

 

「うん!本当は、私の手で殺したかったけど、結果オーライ!アルヴさんに感謝だよっ!」

 

声をかけられた香織は自分の殺したい相手が殺されたのは納得いかなかったが、憎き相手が死んで嬉しそうだ。

 

直後、怒りの絶叫が響き渡る。

 

「……ッ貴様ァァァァァァァァア!」

 

アビスゲート……いや浩介だ。怒髪天を衝くと言った様子で、小太刀を構え無我夢中にアルヴに突貫していく。

 

「駄目だっ、浩介!」

 

「遠藤っ、駄目だ!」

 

「遠藤君っ!」

 

メルド、そしてクラスメイト達は遠藤の突貫をやめさせようと叫ぶが、浩介は無視して怒りに任せてアルヴへと突貫していく。

 

「死ねぇぇ!」

 

「……五月蝿い蝿が、見て分からないのか私は今、忙しいんだ。アルヴの名に命ずる──〝止まれ〟」

 

「がっ……身体が……!?(動けねぇ!)」

 

アルヴから発せられた制止の言葉に、浩介は為す術なく体が動かなくなる。

 

「てめぇ……何を…」

 

「貴様に使うことはないと思ったが、私は今、忙しい。早急にこの女を確実に殺さないといけないんだ」

 

「……や……めろ」

 

「断る。次は頭を砕こうか……」

 

浩介の言葉を無視してアルヴは心臓を貫かれて目が虚ろの優花の頭を砕くために片足を上げる。

 

傀儡の騎士達の肉壁越しにメルド、龍太郎や永山、雫や清水、健太郎や綾子、更には居残り組の生徒達まで怒声を上げて制止する。

 

「やめてよ……優花が」

 

「やめてよ……ユウカっちに…そんなことしないで…」

 

「グォォ!……園部に触るなっ!」

 

そして、長年共にした大切な幼なじみの三人も涙を流しながして制止の声を荒あげる。しかし、そんな声は虚しくアルヴには響かず、彼の動きは止まらない。

 

香織はそんな光景に、ニヤニヤが止まらず、まだかまだかと嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

そして───

 

その声は絶望渦巻く裏切りの戦場にやけに明瞭に響いた。

 

「……一体、どうなってやがる?」

 

それは白髪眼帯の少年、南雲ハジメの声だった。

 

ハジメの登場に、まるで時間が停止したように全員が動きを止めた。それはハジメが凄絶なプレッシャーを放っていたからだ。

 

本来なら傀儡兵達に感情はないため、ハジメのプレッシャーで動きを止めることなどないのだが、術者である恵里が、生物特有の強者の傍では身を潜めてやり過ごすという本能的な行動を思わずとったため、傀儡兵達もつられてしまったのである。

 

ハジメは自分を注視する何百人という人間の視線をまるで意に介さず、周囲の状況を睥睨する。クラスメイト達を襲う大量の兵士と騎士達、一塊になって円陣を組んでいるクラスメイト達、血を垂らしながら立ち上がるメルドと気を失ってる光輝、黒刀を片手に膝をついている雫、壁に埋め込まれている清水、涙を流す自分の大切な幼なじみ達、身体を動かせない体を無理矢理にも動かそうとする親友、硬直して此方を見る恵里と香織、そして……黒ずくめの仮面の男のすぐ近くで、命の鼓動を止めている優花(愛しの人)……

 

「ほぅ……貴様がイレギュラー……ッ!?」

 

アルヴはハジメを見て何か言おうとしたが途端にやめた……いや止まってしまった。

 

その姿を見た瞬間、この世のものとは思えないおぞましい気配が広場を一瞬で侵食した。体中を虫が這い回るような、体の中を直接かき混ぜられ心臓を鷲掴みにされているような、怖気を震う気配。圧倒的な死の気配だ。血が凍りつくとはまさにこのこと。一瞬で体は温度を失い、濃密な殺意があらゆる死を幻視させる。

 

刹那、ハジメの姿が消えた。

 

そして、誰もが認識できない速度で移動したハジメは、轟音と共に優花の傍に姿を見せる。轟音は、アルヴが吹き飛び広場の奥の壁を崩壊させながら叩きつけられた音だった。ハジメは一瞬でアルヴの懐に踏み込むと、優花に影響が出ないように手加減しながら殴り飛ばしたのである。

 

「流石はイレギュラーッ! 私でも、今の動きを捉えることが出来なかった!」

 

アルヴはハジメの動きを捉えられないことに驚愕しながら、ハジメに加減されたとはいえ殴り飛ばしたことに感心する。

 

しかし、ハジメはアルヴなんて気にせず、片腕で優花を優しく抱き止めると、そっと顔にかかった髪を払った。そして、自分の後に続いて駆け付けていた仲間を大声で呼ぶ。

 

「ティオ! 頼む!」

 

「優花!……うむ、任せよ!」

 

「そ、園部さんっ!」

 

ハジメの呼びかけに応えて、一緒にやって来たティオが我を取り戻したように急いで駆けつけた。傍らの愛子も血相を変えて優花の傍にやって来る。ハジメから優花を受け取ったティオは急いで詠唱を始めた。

 

「無駄だイレギュラー、もうその女は死んだ。何しようと無理だ。しかし、良い条件があるぞ。私の軍門に降れ。そしたら貴様の命と此処にいる人間共の命を落とすことはないと保証する。どうだろう?」

 

アルヴはハジメに交渉を持ち込む。内心、ハジメが軍門に降れば主には褒められはしないだろうが他の三柱には褒められると思っているからだ。クラスメイト達はアルヴの交渉に驚愕するのを尻目に、ハジメはスッと立ち上がる。

 

「うるせぇ………死ねよ」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

大切な宝物を守るように優花を強く抱きしめているハジメの頭の中から、再び、あの声が聞こえ出した。しかし、今度は、あの激しい頭痛はしない。

 

『我を───俺──使え』

 

『今───なら、──少し──扱え─る』

 

それは、誘い。

 

────良いのか?

 

『あぁ……我が力を────』

 

ハジメはその言葉に息を呑む。そして、その力とはそれなりに代償が必要だろう。禁忌と呼べる力だろう。普段のハジメなら迂闊に手出しをしないだろう。

 

そう、普段ならば……

 

『ハジメっ』

 

脳裏に過ぎるのは優花(愛しの彼女)の笑顔。しかし、もう一生、その愛しい姿を見ることは叶わない。

 

ならば、だからこそハジメの答えは既に決まってる。

 

────わかった。使わせろ、その力。

 

なんも臆することなく禁忌に触れる。

 

『なら、使え我の……俺の───』

 

───あぁ、有難くお前の力を

 

────『存分に使えっ(わせて貰う)!』

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「うるせぇ……死ねよ」

 

ハジメは誰にも見せたことがないほどの殺気を放ちながら告げると〝宝物庫〟からオルカンを取り出す。だが、ハジメがオルカンに触れた瞬間、オルカンの形が変わり始めていく。

 

金属が融解し、再び固まり、変形していく。やがて、オルカンは禍々しいフォルムとなって新たに再誕した。

 

───オルカン──D.M

 

普段の見た目より、禍々しくなったそれは、ハジメの意思の答えるかのように呼応した。

 

まるで、魔物の咆哮の如く、ハジメはアルヴに向けてオルカンに内蔵されている全てのミサイルを全弾発射した。しかし……ティオ、そしてオルカンを知ってる者達は目を疑った。オルカンは普通、最大十二発ぐらいしか打てず更に撃つなら弾倉を変えなくちゃいけないそ。それなのに、ハジメが今使っている。オルカンから放たれたミサイルの量はそれを軽く凌駕し百発を優に超える量を発射させているのだ。

 

「なぁっ!?」

 

アルヴは驚愕の声を上げながら百を越えるミサイルを回避に専念する。おびただしい数のミサイルを紙一重に避けていく。しかし、アルヴは驚愕する。避けたはずのミサイル郡は一気に方向転換を始め、またアルヴを狙い始める。

 

「ホーミングだ、と」

 

その衝撃の余りアルヴは止まり、隙が生まれる。そう、発射されたミサイルは全て追走型へと作り替えられているのだ。

 

「ぐぁぁぁぁ!」

 

隙が生まれたアルヴ目掛けて百を超えるミサイルが直撃し、直後……轟音と共に大爆発が起こる。爆煙が闘技場の上空に広がる中、アルヴは服をボロボロしながらも生きており、空中に浮きながら悪態を吐く。

 

「クソッ……この私がっ!〝五神〟の一人であるこの私がっ!」

 

「やっぱ……てめぇは神の一人か」

 

「な!」

 

アルヴがミサイルの餌食になってる中、すぐさまアルヴに元へ駆け出していたハジメ。アルヴの口から相手が〝神〟であると理解すると、そのまま後ろに周り込み紅雷を纏った足で全力の回し蹴りを入れる。

 

「グオッ!」

 

背骨を勢いよく蹴られたアルヴはその勢いのまま、壁に激突して壁にのめり込むが、すぐさま立て直して、恵理と香織を呼ぶ。

 

「エリよっ! 傀儡の騎士をイレギュラーに差し向けろ!カオリは私に回復魔法をっ!」

 

「……ッ! 了解!」

 

「……えっ?、えっ?、うん!」

 

ハジメの化け物ぶりに唖然としていた二人だったがアルヴの指示に反応してすぐさま、慌てながらも指示された事を取り掛かる。恵理はアルヴの指示通りに傀儡騎士達を全てハジメを狙うように指示する。が、

 

「邪魔……」

 

冷めきった目でハジメは、そう呟きながらオルカンを〝宝物庫〟へ仕舞うと代わりにメツェライを取り出した。そして、メツェライもオルカンと同様ににハジメが触れた瞬間、形が変わっていく………

 

─── メツェライ─D.M

 

変容し、虚空から現れた見るからに凶悪なフォルムの重兵器に、その場の全員が息を呑む。

 

咄嗟に、雫と動けるようになった浩介が叫んだ。

 

「みんな! 伏せなさい!」

 

「お前等! 伏せろっ!」

 

龍太郎や永山が立ち尽くしているクラスメイト達を覆いかぶさる様に引きずり倒した。

 

直後、独特の回転音と射撃音を響かせながら、破壊の権化が咆哮をあげる。かつて、解放者の操るゴーレム騎士を尽く粉砕し、数万からなる魔物の大群を血の海に沈め、〝ネームドの神の使徒〟が放つ死の銀羽すら相殺した怪物の牙。そして、オルカンと同様メツェライも禍々しい形となり砲門の数が倍となっており、容量が耐えきれないのか紅いスパークが漏れだしていた。そんなものを解き放たれて、たかだか傀儡兵如きが一瞬でも耐えられるわけがなかった。

 

電磁加速された弾丸は、一人一発など生温いと言わんばかりに全ての障碍を撃ち砕き、広場の壁を紙屑のように吹き飛ばしながら、ハジメを中心に薙ぎ払われる。傀儡兵達は、その貴賎に区別なく体を砕け散らせて原型を留めない唯の肉塊へと成り下がっていった。

 

「嘘でしょ」

 

恵理はそんな光景を眺めながら苦笑いしてヘナヘナと座り込む。

 

やがて、メツェライの咆哮が止み、静寂が戻った広場にハジメの後ろに回り込み攻撃を仕掛けるアルヴ。

 

「はっ! 油断したな!イレギュラーよ!」

 

香織の回復が済んだアルヴは奇襲しようとするがハジメはもう、メツェライを閉まっており、此方へ振り返らずに立ち尽くす姿にアルヴはハジメの態度に少し苛立ちを感じながらハジメに攻撃を仕掛ける。

 

しかし……

 

「お前って神なのに単純(・・)だな……」

 

「はっ?」

 

唐突に告げれらた言葉にアルヴは、少しの疑問と下に見られたことに怒りを感じる。しかし、その疑問はすぐに解決したのだった。

 

「……死ねゴミ────〝五天龍〟!」

 

ゴガアァァァァ!

 

アルヴの後ろの上空、そこからユエが冷めた眼差しでアルヴを睨み付けながら、自身の最強の魔法〝五天龍〟を発動する。

 

「なっ……ッ! アルヴの名に命ずる!──〝消えろ〟!」

 

「……む! その声、何処かで……」

 

アルヴの後ろから五つの龍がアルヴに向かって喰らいつこうと顎を開く。アルヴは浩介にしたように一言、命令しただけで〝五天龍〟は消えるが、まだアルヴに対する攻撃が続いていく。

 

「うりゃぁぁぁぁぁ!」

 

ユエの〝五天龍〟にしか目を向けていなかったアルヴの隙をついてシアがドリュッケンを全力で振り下ろす。

 

「っ?! クソッ……まだいたか!イレギュラー共め──「まさかとは思いませんが、シア殿だけだと思っているんですか? クソ神」……っ!?」

 

「喰らいなさい〝衝魂〟!」

 

「グハァッ!」

 

シアの全力の一撃をなんとか回避をするアルヴにゲートから現れたアレスが奇襲を仕掛け〝衝魂〟を放ち、防御無視の衝撃を与える。受け身なしに魂魄を震わす衝撃を喰らったアルヴはそのまま苦悶の声を上げながら地面に激突する。

 

「この私がっ………「もう終わりだよ」…ッ!」

 

地面の直撃により砂埃が舞う中、アルヴは、まだだと立ち上がろとした時、ガチャッとり音が鳴り、視線を向けるとハジメが己の頭に銃口が押し当てられていた。そこへユエ、シア、アレスが降り立つ。

 

「てめぇは俺を完全に怒らせた。地獄を見せてやるよ」

 

「ッ、ッ! この私を愚弄してぇ……アルヴの名に命ずる──〝動くなぁ〟!」

 

「「「「……!」」」」

 

アルヴの命令の言葉。同時にハジメ達の動きが止まる。その隙にアルヴはすぐさま、離れて恵理と香織を回収して、上空へと駆ける。

 

「……余興は済んだ。イレギュラー、今回の勝利は貴様に譲ろう……しかし、次は私が勝つ! まぁ、これに生き残れたならの場合だが……どうするイレギュラー?」

 

アルヴが言うのは王都内に侵入しようとした十万を超える魔物達の生き残り。そして、ハジメは周囲の気配を辿ればいつの間にか魔物立ちが取り囲んでいる状態だった。

 

ハジメは自分達が本気で戦えば、甚大な被害が出ることを理解しているため人質作戦に出たのだろうと推測する。と、その時、優花に何かをしていたティオがハジメに向かって声を張り上げた。

 

「ご主人様よ! どうにか固定は出来たのじゃ! しかし、これ以上は……時間がかかる……出来ればユエとアレスの協力が欲しいところじゃ。固定も半端な状態ではいつまでも保たんぞ!」

 

ハジメは肩越しにティオを振り返ると力強く頷いた。何のことかわからないクラスメイト達は訝しそうな表情だ。そして、後ろにユエとアレスに視線を向けると、二人は力強く頷きティオの元へ駆けるがユエは一度、ハジメの方へ駆け寄り、そのまま耳元で「フリードは味方。後、周りにいる魔物は殲滅しても問題ない」と囁く。

 

ハジメはユエの報告に「了解」と言いながら頷く。ユエはハジメの返答に頷きそのままティオの元へ急行した。

 

ハジメはアルヴに向けていた冷ややかな視線を王都の外──生き残りの魔物の大軍がいる方へ向けた。そして、無言で〝宝物庫〟から拳大の感応石を取り出した。訝しむアルヴを尻目に感応石は発動し、クロスビットを操る指輪型のそれとは比べ物にならない光を放つ。

 

猛烈に嫌な予感がしたアルヴは、咄嗟にハジメに向けて魔法を放とうとする。しかし、ハジメのドンナーによる牽制で射線を取れず、結果、それの発動を許してしまった。

 

───天より降り注ぐ断罪の光。

 

そう表現する他ない天と地を繋ぐ光の柱。触れたものを、種族も性別も貴賎も区別せず、一切合切消し去る無慈悲なる破壊。大気を灼き焦がし、闇を切り裂いて、まるで昼間のように太陽の光で目標を薙ぎ払う。

 

キュワァアアアアア!!と、独特な調べを咆哮の如く世界に響き渡らせ大地に突き立った光の柱は、直径五十メートルくらいだろうか。光の真下にいた生物は魔物も魔人族も関係なく一瞬で蒸発し、凄絶な衝撃と熱波が周囲に破壊と焼滅を撒き散らした。

 

また、ハジメが手元の感応石に魔力を注ぎ込むと、光の柱は滑るように移動し地上で逃げ惑う魔物の尽くを焼き滅ぼしていった。

 

防御不能。回避不能。それこそ、ハジメ達のように空間転移でもしない限り、生物の足ではとても逃げ切れない。外壁の崩れた部分から王都内に侵入しようとしていた魔物と魔人族が後方から近づいて来る光の柱を見て恐慌に駆られた様に死に物狂いで前に進み出す。

 

光の柱はジグザグに移動しながら大軍を蹂躙し尽くし、外壁の手前まで来るとフッと霧散するように虚空へ消えていった。

 

そして、思考が停止し、呆然と佇むことしか出来ないのは、ハジメの目の前にいるアルヴや恵里と香織、雫達も同じだった。

 

「さっさと消えろクソ共……今回は優花を助けることが優先だからな見逃してやる。 だが、次はてめぇ等、他のクソ神共まとめてぶっ殺してやる。覚悟しとけ」

 

ハジメとしてもクソ神の一人を逃がすのは業腹ではあったが、今は一刻も早く優花に対して処置しなければならない。時間が経てば、手の施しようがなくなってしまうのだ。まして初めての試みであり、ぶっつけ本番の作業である。しかも、実は先の光の一撃は試作品段階の兵器であり、今の一発で壊れてしまった。大軍への指揮権があるであろうと思われるアルヴを殺すのは得策ではなかった。

 

余りにも存外な扱いを受けたアルヴは怒りの余り唇を噛み切り、握った拳から血を垂れ流すほど内心荒れ狂っていたが、自分達神への宣戦布告を受け取り、称賛と怨嗟の篭った捨て台詞を吐く。

 

「……私達、神々への宣戦布告はしっかりと受け取っておこう……しかし、貴様だけは、我が主に申し訳ないが貴様は私の獲物だっ!私に恥を晒したのだっ! プライドを傷付けたのだ! だから、私は必ず貴様を殺すっ!」

 

アルヴは恵里と香織を浮かせたまま一緒に霧のように消えていく。恵里は、その強靭なステータスで未だ生きながらえている光輝を見て、妄執と狂気の宿った笑みを向け、香織も未だに自分達を睨むハジメに頬を染めながら深く笑みを浮かべる。二人のそれは言葉に出さなくても分かる。必ず光輝を、ハジメを手に入れるという意志の篭った眼差しを向けていた。

 

ハジメはアルヴ達が姿を消した後、急ぎでティオ達の元へ駆け付ける。そして、優花をお姫様抱っこで抱え上げ、そのまま広場を出ていこうとする。

 

そこへ、雫、妙子と奈々、二人を支えながらこちらに向かう浩介の四人がハジメの元へ駆けつけ、必死な表情でハジメを呼びかけた。

 

「ハジメ……ごめん、私…何も…出来なくて………」

 

「ハジメっち……ユウガっぢがぁ、うわぁァァン」

 

「ハジメすまねぇっ! 園部をっ、アイツを守れなかった! 今度こそは助けれると大切な皆をっ、守れるって……ホントにすまねぇっ! 」

 

幼なじみ三人は自分の力不足で優花を、大切な幼なじみを守れなかったことに後悔し、涙を流しながら謝り続ける。

 

そして……

 

「南雲君! 香織が裏切…って…優花を……私……どうすれば……」

 

雫は今まで見たことがないほど憔悴しきった様子で、放っておけばそのまま精神を病むのではないかと思えるほど悲愴な表情をしていた。戦闘中は、まだ張り詰めた心が雫を支えていたが、脅威が去った途端、親友の裏切りとそれが友達の死への原因という耐え難い痛みに苛まれているのだろう。

 

「……シア、優花を頼む」

 

「は、はいですぅ!」

 

ハジメはシアに優花を預けると、ティオに先に行くように伝える。四人の様子を見て察したユエ達は、ティオの案内に従って広場を足早に出て行った。

 

クラスメイト達が怒涛の展開に未だ動けずにいる中、ハジメは女の子座りで項垂れる雫、泣いて謝る三人の幼なじみの眼前に膝を付く。そして、両手で四人を一気に抱きしめた。

 

「妙子、奈々、安心しろ。優花は俺が絶対に助けるから信じてくれ。約束する。」

 

「浩介……お前はよくやってるよ。お前が力不足な訳ない。だって俺の親友であって右腕だろ? なら自信を持て、〝深淵卿〟はそんなタマじゃねぇだろ」

 

「八重樫、折れるな。親友が裏切ったことは辛いだろうが優花の件は俺達を信じて待っていてくれ。必ず、もう一度会わせてやる」

 

「ハジメ…」

 

「ハジメっち」

 

「ハジメ」

 

「南雲君……」

 

光を失い虚ろになっていた四人の瞳に、僅かだが力が戻る。ハジメは、そこでフッと笑うと言葉をかけた。

 

「俺は、お前達四人のことを信頼してる。だから、お前達も俺を信用して待っててくれないか?」

 

「そうよね……。〝約束〟って言ったもんな。なら、私はハジメを信じる」

 

「うん! 私も、ハジメっちなら救えるって信じてる!」

 

「そうだな……お前の言う通りだなハジメ。でも俺は今は〝深淵卿〟じゃねぇ」

 

「………信じて……いいのよね?」

 

ハジメは笑みを収めて真剣な表情でしっかりと頷く。

 

間近でハジメの輝く瞳と見つめ合い、四人はハジメが本気だと理解する。本気で既に死んだはずの優花をどうにかしようとしているのだ。その強靭な意志の宿った瞳に四人は凍てついた心が僅かに溶かされたのを感じた。

 

そしてハジメは雫が精神的に壊れてしまう危険性が格段に減った事を確認すると、〝宝物庫〟から試験管型容器二つを取り出し、雫の手に握らせた。

 

「これって……」

 

「二人の幼馴染に飲ませてやれ。片方は全身骨折、もう片方は右手が潰れてんだろ?」

 

ハジメの言葉にハッとした様子で倒れ伏す光輝と右手を痛そうにしてる龍太郎に視線を移す雫。龍太郎は大丈夫そうだが、光輝は完全に気を失っており、見るからに危険な様子だ。ハジメが手渡した神水が、以前死にかけのメルドを一瞬で治癒したのを思い出し、秘薬中の秘薬だと察する。ハジメとしては、せっかく声をかけても親友の裏切りの後に光輝の死で雫が折れてしまっては困るくらいの認識だったのだが……雫の表情を見れば予想以上に感謝されてしまっているようだった。

 

雫はギュッと神水の容器を握り締めると、少し潤んだ瞳でハジメを見つめ「…ありがとう、南雲君」とお礼の言葉を述べた。ハジメは、お礼の言葉を受け取ると直ぐに立ち上がり踵を返す。

 

「優花…待ってろ。俺が…俺達が絶対に助けるからな」

 

そう、誰にも聞こえない声音で呟くと、ユエ達の後を追うように物凄い速さで走り去って行くのだった……。

 




編集しました。七月三十日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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