最初は耐えていた。相手はまだ学生身分の子供だ。この世界の真実を知って、少し戸惑っているだけかもしれない。落ち着いたら、分かって貰える。ハジメの言い分を理解して貰えると思っていた。
しかし………
「なっ?! 邪魔って、俺は勇者だ! この世界でも相当な実力を持っているんだぞ! それを南雲っ! お前は足手纏いと言うのか?!」
「あぁ……特にご都合解釈を加速させてる勇者なんかいたら寧ろ邪魔にしかならねぇよ」
「南雲、貴様ァッ!」
「ちょっと!聖剣はダメよっ、光輝!」
「………」
この瞬間、理解した。目の前にいる勇者は自分を特別だと思っている。この世界の人達は自分を称えて当然だと。ただの自分中心の物語の登場人物でしかないと……
そして、この勇者の……この男の考え方と似ていて、見れば勇者はあのクズ共に重なって見えてしまった。
「!……おい、アレス!やめろ!」
「!」
最初に気が付いたのはハジメ。血相を変えて止めようとするも遅く、次にシアもギリギリのところで気付いたのだが、間に合わない。それ程、アレスの動きは早かった。光輝が聖剣を手にかける前に〝宝物庫〟から〝ロンギヌス〟を取り出し、光輝が聖剣を抜く時にはもう……
「……なっ」
ロンギヌスが光輝の顔面ギリギリにまで迫り矛先が突きつけられていた。
「この世界を甘く見るなよ……ガキ風情が」
発せられた言葉は、肌がヒリつく程冷たく、この部屋全体に浸透するように響いた。同時にアレスの〝威圧〟も放たれ、ハジメ達以外のクラスメイト達は息を呑んで息を荒くする。それは雫も同じだった。
「………(嘘……あの人の槍を何処で出したか分からないし、槍を光輝に向ける動きも早過ぎてて、ブレているようにしか見えなかった)」
そう、今さっきのアレスの行動をハジメ達はちゃんと捉えていたのだが、雫、浩介、戦いに慣れているメルドですら動いてるのはわかったが、手元がブレていることしか確認出来なかった。
「……っ、この槍を下ろして下さい」
光輝は、いつの間に自分の目の前にいきなり槍が突きつけられているのを驚いたものもすぐさま、気を取り直すとアレスに話しかける。
「じゃあ……先程の発言を撤回しなさい。勇者」
「撤回って……俺が間違ったことを言っていると?」
光輝はアレスの言葉の意味が分からずにキョトンとしている。それを更にアレスをイラつかせることを知らずに……
「それが分からないなら、君は神共と戦わない方が良い。貴様みたいな
アレスは冷めた眼差しを光輝に向ける。それはこの場全体に伝わりクラスメイト達の大半は顔を青ざめ、一部は耐えきれず吐き気を催してる。
「……っ! なら、南雲はどうなんですか?!コイツはクラスメイトである俺達に力も貸さない! 其処にいる園部さんを含めた女性達もコレクションにしか見てないんですよっ!」
「ちょっと、いい加減にしなさい光輝っ! それは言い過ぎよ!南雲君に謝りなさいっ!」
「「「「………」」」」
光輝のもの言いにハジメは俄然と無反応だったが、優花達は違った。ハジメの恋人達四人は光輝を冷酷な眼差しを向ける。それは、もう途轍もないくらい……
しかし、光輝は四人の視線に気付いておらず、雫に叱られて、少し口を噤む。
「………勇者。君にはハジメ殿のことをそう見ているのですか?」
「はいっ! 貴方もわかるでしょう! 彼女達は南雲に苦しめられて絶対に嫌がっています!」
アレスはハジメ達の方へ振り向き、ハジメと目が合う。そして、光輝に方へ向き直るとはぁと溜息を吐きながら口を開く。
「私には、四人共ハジメ殿と一緒にいるだけで幸せそうに見えますがね……」
「そ、それはっ……」
その言葉に光輝は口を噤むがアレスはそんなのを気にせずに言葉を続けていく。
「それに、私は知っている。ハジメ殿はちゃんと信念を、覚悟を持っていることを。だから私は彼等の旅に同行を申し出た。彼の覚悟は相当なものですよ。半端な覚悟を持つ貴方と違って」
「なっ……俺は半端な覚悟じゃない!」
「半端な覚悟だと認めないか……ふむ」
アレスの物言いに光輝は自分はハジメより、信念も覚悟もなく半端ものと劣っていると言われ更に苛立ち、反発を続ける。それに対して、アレスは反発する光輝を尻目にある事を思いつく。
「なら、聞こう勇者。君はこの世界の人達を救えるのかい?」
「はいっ!救うっ、救えますっ! 皆や俺の力があれば絶対にっ!神など相手にならない!」
「…はぁ………なんかもう良いです。話すだけでストレスが溜まる(ここまでとは、思いませんでした)」
アレスの問いかけに光輝は大きく宣言した。その宣言を聞いたアレスはこの答えを予想していたのか、怒りを通り越して呆れたのか、ため息を吐きながらロンギヌスを〝宝物庫〟に戻す。
「やっぱり、勇者。君とは一生分かり合えないな……」
「ま、待ってくれませんか!」
アレスはそう呟くきながら光輝に冷酷な眼差しを向けて部屋から出て行こうとするが、光輝から待てがかかった。アレスは仕方なく立ち止まり光輝の方へと振り向く。
それも嫌悪に満ちた表情で……
「何か?」
「つかぬことを聞きますが……貴方は誰なんですか? 初対面で、しかも勇者の俺に槍なんか突きつけて……まぁ、南雲達といるから仲間だと思いますが、貴方は強──「てめぇよりは遥かに断然に強ぇよ」……南雲」
光輝は初めて会うアレスに、いきなり槍を突きつけられハジメとの一件もあり、少々苛立っていた。もし、アレスが自分より弱いと分かったら「何故、俺は連れて行かないのに、この人は連れていくのか?」とハジメに言おうと思ってたが、しかし、それはハジメによってバッサリと切られてしまった。
「アレスはてめぇよりも、数倍……いや、何十倍強い。俺達が保証する」
ハジメの言葉に優花達、そして愛子までも頷いていた。
「でもっ、それを言い切れるのは南雲達だけだ!何処にも確証が……「「あるぞ(あります)」」……えっ……リリィ、メルドさんまで?」
しかし、光輝は諦めずに言い返そうとしたが、が今度は王女であるリリアーナと尊敬するメルドに遮られてしまい、光輝の頭の中が困惑でいっぱいになる。そう困惑してる内に先に口を開いたのはリリアーナだった。
「光輝さん達は
「えっ!? 兄様!?」
「嘘、兄妹!?」
「えっ!? この人ってリリィのお兄さんなの!?」
「よく見れば、似てる……」
「あ、あの!皆さんアレス兄様はホントの兄妹じゃなくて、ただの親戚でして……」
リリアーナが真剣な表情で話しだすがいつもの癖でアレスを「兄様」と失言してしまい片手で口を素早く覆うが遅く、クラスメイト達にはちゃんと耳に入ってしまい事実を知る者以外の全員が驚愕した。そして場が慌てふためき、リリィは場を収めようとするが、静まらない。
「埓があかねぇな……」
ハジメは話が止まってしまい、進む気配もないので、威嚇射撃でもしようかと考えていると……
「お前達、一旦落ち着けぇ!リリアーナ様が話している最中だぞ!」
しかし、それはメルドの一喝によって、今さっきまで部屋中、騒いでいたのに嘘かのように静まった。そして、メルドは全員が口を閉じたのを確認すると口を開き、話し始めた。
「リリアーナ姫に変わって、俺が説明しよう。この男の名はアレス・バーン。ハイリヒ王国では最強の神官と呼ばれていた男だ」
「「「「「「!」」」」」」
「……メルドさん。〝元〟をつけ忘れていますよ」
メルドの言葉でハジメ達以外のクラスメイト達が目を見開いて驚愕する。
「えっ、でも〝元〟ってどういうことですか?」
しかし、クラスメイト達がメルドの言葉に息を呑む中、雫はアレスの発言の〝元〟が気になったのか、メルドとリリアーナに問う。
「それはな……アレスは〝異端者〟として王国から追放されてるんだ」
そして、メルドはハジメ達がリリアーナと再会した時にアレスの説明をした時と同じ話とアレスの実績についてを語りだした。
アレスは十五の歳で非戦闘職の神官でありながら王国最強にまで上り詰めたていたこと。その時には既に、騎士の中でも実力者だったメルドとの模擬戦形式だが、魔法有りの戦いに勝利していること。
五年前、辺境にある魔人族の村を殲滅戦に参加するも、裏切り、王国と教会の連合軍を全員殺しはしなかったものの戦闘不能にまで追いやり、圧倒的な差を見せて勝利する。
その後、教会に招集をかけられ、普通なら異端者として処刑されるが、その沢山の功績と実力から王国にも教会にもアレスを倒せる戦力も手段もなく、追放という形になってしまったのだった。
「───と言うことだ。俺はあの時この報告を聞いた際は驚いたよ。俺にとっては、アレスは尊敬出来る奴であり、弟みたいに接していたからな……だからな、お前が生きてることが分かって俺は安心したんだ」
メルドの説明を終えるとクラスメイト達はメルドの顔を見る。それは、家族との再会に喜びを感じているような表情だった。
「……メルドさん、あの時は十分に説明を出来ずにすみませんでした。あの時はこの世界の真実を話すと、メルドさん、リリィ、私の大切な人達が神共によって何らかの形で干渉してくると思い、話すことを躊躇ってました」
アレスはメルドの表情を見て、申し訳なさそうに頭を下げて謝罪する。
あの時はまだ、神々とまともに戦える戦力もなく自分の大切な信頼できる人達を巻き込まみたくないと思って誰にも語らず去っていったことを……。
「何を言ってる昔のことだ。それに今はお前が話をしなかった理由も分かったしな……それより言わせてくれアレス、よく戻ってきてくれた……」
「私もですよ兄様。再会したときは色々あったから怒っちゃいましたけど、兄様が生きていたことに心から嬉しかったんですよ。だから、言わせてください……」
「「おかえり(なさい)」」
二人は何も裏もなく、ただ純粋に、尊敬していた弟みたいに接していた。実の兄のように慕っていた男の帰還を喜び、そして家族であるかのように「おかえり」と。
「……はい、アレス・バーン。今此処にただいま戻りました」
アレスは二人の言葉に涙を流しそうになるがグッと堪えな、二人の前に跪きながら「ただいま」と……。
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その後、話は進むがやはり光輝がご都合主義を加速させながら文句を言って、場を乱していく。最初にキレていたアレスも呆れている為、無視か沈黙を貫いている。
そして、ある人物がハジメ達に願い出た。
「……やはり、残ってはもらえないのでしょうか? せめて、王都の防衛体制が整うまで滞在して欲しいのですが……」
そう願い出たのはリリアーナだ。
未だ混乱の中にある王都において、大規模転移用魔法陣は撤去したものの、いつ魔人族の軍が攻めてくるかわからない状況ではハジメ達の存在はどうしても手放したくなかったのだ。相手の総大将らしきアルヴは、ハジメがいるから撤退した。ハジメ達は、そこにいるだけで既に抑止力になっているのである。
「〝ネームド〟の神の使徒と本格的に事を構えた以上、クソ神共も動きを見せたからな先を急ぎたいんだ。優花の蘇生に五日もかかったし、明日には出発する予定だ」
それを聞いたリリアーナは肩を落とすが、ハジメ達が出て行ったあと、魔人族達が取って返さない保証はないので王女として食い下がる。
「そこを何とか……せめて、あの光の柱……あれもハジメさんのアーティファクトですよね? あれを目に見える形で王都の守護に回せませんか?……お礼はできる限りのことをしますので」
「……ああ〝ヒュベリオン〟な。無理だ。あれ、最初の一撃でぶっ壊れたし……試作品だったからなぁ。もう少し改良しねぇと」
ハジメが魔物の大軍を消し飛ばした対大軍用殲滅兵器〝ヒュベリオン〟は、簡単に言えば太陽光収束レーザーである。【神山】を降りる前に上空へ飛ばしておいたものだ。
〝ヒュベリオン〟は、巨大な機体の中で太陽光をレンズで収束し、その熱量を設置された〝宝物庫〟にチャージすることが出来る。そして、臨界状態の〝宝物庫〟から溢れ出た莫大な熱量を重力魔法が付加された発射口を通して再び収束し地上に向けて発射するのだ。
そして、この〝ヒュベリオン〟最大の特徴は、夜でも太陽光を収束できる点にある。その秘密は、オスカー・オルクスの部屋を照らしていたあの擬似太陽だ。あれは、太陽光を空間魔法と再生魔法、それにハジメの把握しきれていない神代魔法の力が加わって作り出された〝解放者〟達の合作だったのだ。
今のハジメでは、擬似的とはいえ太陽の創造など到底できない。そして〝ヒュベリオン〟は試作段階だったせいもあり、その自身の熱量に耐えられずに壊れてしまったので、もうあの一撃は撃てないのである。もっとも、ハジメが作り出した大軍用殲滅兵器は〝ヒュベリオン〟だけではないのだが……
「そう……ですか──「だが……」……え?」
「出発前までには此処の大結界は直しとくよ。リリィには世話になってるからな」
「ホントですかっ! ありがとうございますハジメさん!っと……キャッ!」
「うおっ!……と、リリィ、ケガはねぇか?」
「う…あっ……えぇ……はい、だ、大丈夫です」
ハジメの言葉にガクリと肩を落とすリリアーナだったが、次のハジメの言葉にパァ!と表情を輝かせ嬉しさの余りかハジメの元へ駆け寄るが何かに躓いて転びそうになってしまうところを、ハジメがリリアーナがコケる直前に抱き締める形でリリアーナを受け止め怪我をさせずに済む。リリィは唐突にハジメに抱きついてしまったせいか段々と、顔がみるみると赤く染まっていく。
「………まさか、リリィ」
雫はそんなリリアーナの顔を見て、何かを察した。
そして……
「……ねぇ、優花。やっぱり再会した時もそうだったけどあの王女って……」
「やっぱりハジメさんって、凄い誑しですよね。特に女性に対する」
「そうじゃのぅ〜、ホントに妾達の旦那様は……」
「まぁ、ハジメはハジメだからねぇ……はぁ」
ハジメの恋人達はコソコソと話し合っていた。その内容は当のハジメにも微かに聞こえており「俺ってそんなに誑しか?」と疑問顔になる。すると、「んん」と咳払いする雫が予定を聞く。
「それで、南雲君達はどこへ向かうの?神代魔法を求めているなら大迷宮を目指すのよね?西から帰って来たなら……樹海かしら?」
「ああ、そのつもりだ。フューレン経由で向かうつもりだったが、一端南下するのも面倒いからこのまま東に向かおうと思ってる」
ハジメの予定を聞いて、恥ずかしそうにしてたリリアーナが何か思いついたような表情をする。
「では、帝国領を通るのですか?」
「まぁ、経路的にそうなるな……」
「でしたら、私もついて行って宜しいでしょうか?」
「ん? なんでだ?」
「今回の王都侵攻で帝国とも話し合わねばならない事が山ほどあります。既に使者と大使の方が帝国に向かわれましたが、会談は早ければ早いほうがいい。南雲さんの移動用アーティファクトがあれば帝国まですぐでしょう? それなら、直接私が乗り込んで向こうで話し合ってしまおうと思いまして」
「凄い大胆だな……まぁ、でもそうか」
何とも大胆というかフットワークの軽いリリアーナの提案にハジメは驚くものの、よく考えれば助けを求めるために単身王城から飛び出し隊商に紛れて王都を脱出するようなお姫様なのだ。当然の発想と言えば当然かと、妙に納得できる。
そして、通り道に降ろしていくだけなら手間にもならないので、それくらいいいかと了承の意を伝えた。
「送るのはいいが、すまないが帝都には入らない。後、言っとくが皇帝との会談なんて絶対付き添えないぞ?」
「ふふ、そこまで図々しいこと言いませんよ。送って下さるだけで十分ですよ」
用心深い発言に、思わず苦笑いを浮かべるリリアーナだったが、そこへハジメとアレスに黙らされた光輝が再び発言する。
「だったら、俺達もついて行くぞ。こんな奴にリリィは任せられない。道中の護衛は俺達がする。それに、南雲達より早く俺がこの世界を救う! そのためには力が必要だ! 神代魔法の力が!お前に付いていけば神代魔法が手に入るんだろ!」
「いや、場所くらい教えてやるから勝手に行けよ。ついて来るとか迷惑極まりないっつうの。それにこれはお遊びじゃねぇよ? 何が
勝手に盛りがって何言ってんだと呆れ顔をするハジメ。アレスもまた表情を険しくする。非難しながら頼るとか意味がわからなかった。そこに、愛子がおずおずと以前のハジメの言葉を指摘する。
「でも、南雲君、今の私達では大迷宮に挑んでも返り討ちだって言ってませんでした?」
「………」
そんな愛子の指摘に神妙な面持ちでハジメは頷くと、自分のコートに手をかけ。
「……そうだな。先生の言う通り、お前等が思うより大迷宮はそんな生半可なモノじゃないな」
「えっ、ちょっと、南雲君!?」
雫が声を上げるたのは、ハジメが話しながらコートを脱ぎ始めたからだ。そしてガチャガチャと音が鳴る。それは、ハジメが義手を取り外した音だった。そして、更にハジメは眼帯を取り外す。そこには傷と義眼が顕になる
「見れば分かる通り、俺は大迷宮で左腕と右目を失った」
「「「「「「「……っ」」」」」」」
「それでも、俺は帰るべき場所がある。守るべきモノがある。俺はずっと奈落でそれを信念として生きる糧として足掻いて攻略してきた」
ハジメの話にクラスメイト達は息を呑みながら聞く。
「それで、俺のこの話を聞いても、覚悟をもって神代魔法を獲得したいなら連れてってやらんことも無い」
ハジメの言葉に沈黙が続く。だが、一人の人物が出て、沈黙を破った。
「南雲君、お願いできないかしら。一度でいいの。一つでも神代魔法を持っているかいないかで、他の大迷宮の攻略に決定的な差ができるわ。一度だけついて行かせてくれない?」
「八重樫……寄生したところで、魔法は手に入らないぞ? 迷宮に攻略したと認められるだけの行動と結果が必要だ」
「もちろんよ。神々を倒したいと思う気持ちは私達も一緒。それに、私は香織を止めたいの。あの子は絶対に私の手で止めないといけない。だから大迷宮も死に物狂い、不退転の意志で挑むわ。だから、お願いします。何度も救われておいて、恩を返すといったばかりの口で何を言うのかと思うだろうけど、今は、貴方に頼るしかないの。もう一度だけ力を貸して」
「鈴からもお願い、南雲君。もっと強くなって、もう一度恵里と話をしたい。だからお願い!このお礼は必ずするから鈴達も連れて行って!」
今のハジメの話を聞いて、怖いと感じる手の震えも抑えられずとも雫は決心する。その顔は、恩も返せないうちにまた頼らなければならない事を心苦しく思っているのか酷く強ばっているが、覚悟がみられた。自分の手で親友を止めたいと。
そして、そんな雫に感化されたのか、ずっと黙っていた鈴まで頭を下げだした。どうやら、恵里の事で色々考えているようだ。その声音や表情には必死さが窺えた。
「頼めねぇか、南雲。せめて、自分と仲間を守れるようにになりてぇんだ。それに、俺としても幼なじみが裏切ってんのをただ見てるだけなのは……耐えられねぇ!」
必死さで言えば、龍太郎も同じぐらいで、土下座と同じくらいにまで頭を下げている。
「………」
「ハジメ、どうするの?」
優花は考え込んでるハジメに話しかける。
「……お前等の覚悟は分かった。八重樫、谷口、坂上の三人は連れて行く」
「あ、ありがとう!南雲君」
「ありがとう!南雲君」
「助かるぜっ!南雲!」
ハジメの言葉に三人はよろこびを見せる。だがある人物は声を上げる。
「なっ……なんで!雫達は了承して、俺は駄目なんだ南雲!」
それは当然、光輝だった。どうやら、ハジメの答えに不満を感じたのだろう。怒りを滲ませながら声を張り上げる。
しかし当のハジメは………
「それが分かってねぇから俺は連れて行かないんだよ。アホ勇者」
「なっ! 南雲っ、お前何処に行く気だ?!」
そう言い捨てるとハジメは席に立つ。それに続いて優花達も立ち上がる。それに光輝は反応するが、ハジメは軽く受け流し、呆れた眼差しを光輝に向ける。
「てめぇと何時までも話すことはねぇよ。俺はやるべき事が山程ある。時間の無駄だ」
そう言ってハジメは部屋を出ていく。それに続いて優花達も出て行った。最後にアレスは部屋を出る前に光輝に一つ忠告する。
「勇者。自分の価値観を人に押しつけるのはやめた方が良いし、それにハジメ殿に向けるその醜い感情は辞めることをオススメしますね」
「………ッ!」
アレスは最後の方は光輝ぐらいにしか聞こえない程度の声で伝えると、部屋を出ていく。
そして、光輝はアレスに言われた言葉が頭から離れず、ずっと立ち尽くすだけだった……。
編集しました。七月三十一日
愛子はハーレムに入れるか入れないか
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いる
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いらない