Rest In Peace   作:砂糖ノ塊

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14.奇襲と逆襲

 〜【ヘルズゲート軍・本拠点】〜

 

「あなたが『ヘルズゲート』ですか……確かにこれは偽物ですね」

「キサマッ! ヘルズゲート様二何──」

 

 "怒り"。

 

 それも、私には無い感情ですね。

 

制裁(ザンクツィオーン)

「ガアアアアア!!!???」

 

 たかる羽虫を払うように、辺りの悪魔を薙ぎ払っていく。

 

「貴様、その禍々しい加護の力は……」

「知る必要はありません」

 

 そう、必要ない。この悪魔は本物じゃないから。

 

天罰(ネーメズィス)

 

 完全に捉えた…………ように見えたけれど。

 

 あの悪魔は無傷だ。躱した?

 

「……外しましたか」

「助かったぞ。モフク」

「これ程早く死なれては、我々も困ってしまいます」

 

 この悪魔、どこから現れたのでしょうか?

 

「ヘルズゲート様はどうぞお逃げ下さい。ここは私が引き受けましょうぞ」

「フッ、頼もしいことだ」

「老体をあまり当てにされても困りますが」

「逃げるのですか」

「戦争においてはな、王を取られたら負けなんだよ」

「あなたは本物の王ではないでしょう」

「この女……ッ」

 

 また"怒り"……

 

「モフク、殺せ」

「御意のままに」

 

制裁(ザンクツィオーン)

 

 二人まとめて拳を叩き込んだ、はずだ。

 

「消えた……」

 

 攻撃は命中せず、ヘルズゲートを名乗る悪魔と、途中から乱入してきた謎の悪魔は私の目の前から姿を消した。

 

 途中から乱入してきたあの悪魔。彼の仕業なのは間違いないでしょうが、何をしたのかが分からない以上、手の出しようがありません。

 

「こちらですよ。お嬢さん」

制裁(ザンクツィオーン)

 

 背後から声が聞こえる。それと同時に拳を叩き込む。

 

「おっと危ない危ない……普通、気配なく背後に回られたら驚きませんか?」

「私には"驚く"こともできませんので」

「…………おや、まさかお嬢さん──」

天罰(ネーメズィス)

 

 間髪入れずに攻撃を入れるが、ヒラリと身を翻し、またも躱される。

 

「やれやれ、少しは耳をお貸し頂けませんか?」

「お断りします」

「そうですか……残念です。『骸の修道女』シスター・ローズさん」

 

 この悪魔……私を知っている?

 

「…………」

「どうですか? 話、聞く気になりましたか?」

「……私の名前は、スオンです。ローズというのは既に死んだ人間の名です」

「そうでしたか、それは失礼致しました」

 

 一呼吸置いて、その悪魔は名乗る。

 

「それではシスター・スオン殿。改めまして、(わたくし)はヘルズゲート様に仕える悪魔、モフクと申します」

 

 上下を黒のスーツで揃え、同じく黒のシルクハットに、顔にはひび割れた奇妙な仮面を着けている。

 

 人間に取り付いた悪魔……何かが引っかかる。

 

「シスター・スオンです。今からあなたを殺します」

「それは何とも恐ろしい……ご覧の通り、私は既に老体の身。戦闘も不得手でして、どちらかと言うと逃亡の方が得意なんです」

 

 饒舌、かつ謎の魔法を使う。噂の"他とは違った上級"かもしれない。

 

「それに私が殺されると、色々困るのです。ひいては主人の損失に繋がりかねません」

「主人とはあの悪魔のことですか」

「フッ……アレに価値が無いということはお嬢さんもお分かりでしょう?」

 

 悪趣味な笑顔の仮面で表情は見えない。が、どうやら仮面の下も笑顔のようだった。

 

 『アレに価値が無い』? それはつまり……あの悪魔が本物のヘルズゲートではないことを知っている?

 

「……あなた、まさか」

「初めに言ったはずですよ。私は()()()()()()様にお仕えしていると」

 

 この悪魔は本物のヘルズゲートに繋がっている……そう考えるのが自然。

 

「やはり殺すのは辞めます。あなたは生け捕りにして教会に引きずり出します」

「それも困りますな。それでは皆さんが逃げる時間も十分稼げたことですし、私も逃げさせていただきます」

「皆さん……?」

 

 そういえば周りにいた悪魔達がやけに静か……

 

「誰もいない…………あなた何を──」

 

 消えていたのは周りの悪魔だけではない。

 

 モフクと名乗ったあの悪魔も、私の目の前から消えていた。

 

 そういえばあのモフクという悪魔は何も無いところから突然現れ、そしてヘルズゲートを名乗るあの悪魔も、今のように突然消えた。

 

 ここにいた悪魔達だって、逃げようとする素振りを見せたら追撃は十分可能だったのに。

 

「瞬間移動……いや」

 

『それでは皆さんが逃げる時間も十分稼げたことですし──』

 

 あの悪魔の口振りからして、ここにいた悪魔が逃げるのには時間がかかる。

 

 考えられる可能性は…………

 

制裁(ザンクツィオーン)

 

 拳を一点集中ではなく、この空間全体を薙ぐように繰り出す。

 

「グッ──」

 

 拳が何かに当たった。

 

 『骸女』……よ分かりましたね……」

「考えてみれば簡単な事です」

 

 何も無い空間から、徐々にモフクの姿が明らかになっていく。

 

「『逃げる時間を十分に稼ぐ』必要があるということは、あなたの魔法は瞬間移動の類では無さそう……あと考えられるのは"透明化"くらいでしたから」

「それだけの理由で、ですか?」

「半分、当たればいいな程度で振り回しました」

「…………フフフフフフッ」

 

 突然笑いだしたけれど、何がそんなに面白いのだろう?

 

 私にも"喜び"があれば分かるのだろうか?

 

「ご明察、と言っておきましょうか。いくら当てずっぽうで私を攻撃できたと言ってもね」

 

「【逃避行(ハイドアンドシーク)】」

 

「それが私の魔法です。能力は先程お嬢さんが言った『透明化』と言った所でしょうか」

 

 こう見えてもかくれんぼは得意なんですよと、無邪気に笑う。

 

 ……彼は何がそんなに楽しいのだろう?

 

「この力は自分だけではなく、他者にも有効な魔法でしてね。周りにいた悪魔達を透明化させて逃がしました」

「随分能力について話してくれるんですね」

「えぇ、余裕がありますので。それでは、かくれんぼの第二ラウンドと行きましょうか」

「遊びに付き合っている時間はありません」

「つれませんね、骸の

 

 先程よりもゆっくりと、自慢の魔法を見せびらかすように、モフクの身体が薄くなっていく。

 

「【逃避行(ハイドアンドシーク)】」

 

 さて……どうやって捕まえましょうか。

 

 

 

 

 

 〜【ブルーティカス東門】〜

 

 疲れた。

 

 その一言に尽きる。

 

 悪魔を殺しまくって興奮した脳みそに反して、もう身体がガッタガタだ。

 

 婆ちゃんの形見の斧も血でドロドロだぜ……

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「あー……くっそ…………」

 

 俺の隣のアホ天使も酷ぇ面してやがる。コイツの生命力ってのも、どうやら限界超えずに済んだみてぇだな。

 

「うそ……だろ…………」

「あの数を……たった二人で……」

 

 ハッ、ヒヨっ子騎士団共が……何ビビってやがんだよ…………

 

「アタシの……勝ちね…………」

「あ"?」

「忘れたわけ……? 始まる前に言った勝負のことよ……」

「アタシが200、アンタが150ちょっとかしら……惜しかったわねぇ……?」

 

 こんのクソガキ……ッ! いっつも勝負事になると要らねぇ意地はりやがる……!!

 

「ボケてんじゃねぇよアホ天使……オレが150だぁ? 200対250でオレの勝ちに決まってんだろうが……!」

「アンタこそ、悪魔にやられてボケたんじゃないでしょうね?」

「無傷だクソ野郎!!」

「無傷なわけないでしょ!?」

 

「な、何で二人は喧嘩してるんだ……?」

「さぁ……」

 

「ならアタシは300よ! 300対250!」

「ならオレは400だ!」

「500!!」

「600!!」

「900!!!」

「999!!! そんでテメェを記念すべき1000匹目にしてやらぁぁああッ!!!」

「上等よ! 返り討ちにして完膚なきまでにアタシの勝ちにしてやるわバーカバーカ!」

「じ、銃天使様!」

「何よ!?」

 

 アホ天使が兵士の呼び掛けに気を取られた! 今がチャンス!!

 

「オラ死ねぇ!」

 

「悪魔達の様子が変ですッ!!!」

 

 思わず斧を振り下ろす手を止める。

 

「ン……だと……?」

「見てください! この悪魔達の死体を!」

「…………?」

 

 殺しに殺しまくった悪魔達の死体はその辺に転がっている。これの何が変な──

 

「「……は?」」

 

 オレとアホ天使の間抜けな声が重なってしまった。

 

 いや、そんなことより気にしなければならない異常事態が、目の前で起こっている。

 

「おい、アホ天使」

「最悪ね……アンタと同じこと気づくなんて」

 

 心底嫌だという顔で、転がっている悪魔の死体を睨む。きっとオレも似たような顔してやがるな。

 

 オレたちの視線の先には悪魔の死体がある。

 

 血塗れになり、首やら腕やらがぶった切られ、頭も心臓も蜂の巣になって、

 

 ()()()()()()()()()()()

 

「悪魔ってのは銀武器や神の加護でしか殺せねぇ……」

「そして死んだ悪魔の身体は灰となって消える……」

「だったらよ」

「なら」

 

「「なんでこいつらは消えない……!?」」

 

 嫌な予感がオレの脳内を駆け巡る。

 

 その時だ。

 

「な、何だ!?」

「これは……」

 

 悪魔達の死体、散乱しているそれらが集まって、真っ黒い一つの球体に変化した。

 

 そしてここらにあった悪魔の死体を全て吸収し終わった後、その球体はブルーティカス内部へと向かって行く。

 

「〖天使の回転式拳銃(エンジェリックリボルバー)〗!」

 

 すぐさまアホ天使が球体に狙いを定め撃つ。が……

 

「弾かれた……!?」

 

 続けざまに何発か撃ったがその全てが弾かれ、銃の残弾も無くなってしまった。

 

「逃がすかッ! 〖再装天(リロード)〗!!」

「アホ天使! テメェどこ行く気だ!!」

「決まってんでしょ!? アレを追いかけんのよ!!」

「追いかけるつったって……」

「レ、レフ殿!」

「今度は何──っておいアホ天使!!」

 

 兵士の一人がオレの言葉を遮り、その間にアホは走り去ってしまった。

 

「んのアホが……ッ!」

「レフ殿あれを!!」

「だから何だよ…………ッ!」

 

 兵士の指差す方向には更に悪魔の軍勢が……

 

「援軍……だと!?」

 

「援軍、とは少し違うな」

 

 周囲の空気すら凍らせるような冷たい声と、自分の心臓が飛び跳ねる音が聞こえた。

 

 背筋を駆け上がっていく……これは一体何だ?

 

「"恐怖"だ。人間」

 

「アガッ!?」

「アオオオアアオアアッ!!!」

「ヴヴヴゥゥゥッ!!」

「何だ? 一体何が──」

 

 そして呻く悪魔達は、いつかのように首を吹き飛ばされ、その灰は集まって黒い球体へと変貌する。

 

 だがそれよりも、オレの視線はもっと別のヤツに引き付けられた。

 

「ひっ!?」

「な、何だあいつは!!」

「おいおい……随分お早い再会だな」

 

 この寒くもねぇ日に、黒いコートとマフラーを着た白髪の悪魔。

 

 ったく……マジで勘弁してくれよ……

 

「レフ殿……」

「テメェら……オレが時間を稼ぐから、さっさとブルーティカスに逃げろ。アレはテメェらが束になっても止められやしねぇ……」

「ですが!」

「いいかッ!! 一秒でも長く時間を稼ぐ! 死ぬ気で逃げて悪魔神父に伝えろッ!!」

 

 

 

ヘルズゲート(本物)が来ちまったってな!!」

 

 

 

 さて……どうやって遊んでやろうか?


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