Rest In Peace   作:砂糖ノ塊

16 / 16
16.不幸と旅立ち

 昔々あるところに、それはそれは不幸な少年がいました。

 

 少年は生まれた時から不幸で、とある理由で実の親には棄てられ、生まれた国から遠く離れた、見ず知らずの貧しい老人に拾われて育てられました。

 

 それでも少年は自分の境遇を、不幸だと嘆くことはありませんでした。

 

 それどころか、自分が拾われたことを、今日も命があることを、毎日神に感謝していました。

 

 そんなある日、少年の育ての親だった老人が、病に倒れてしまいました。

 

貧しかった老人には医者に診てもらうお金はありません。

 

 少年はとても悲しみ、老人の手を握って彼の回復を神に祈り続けました。

 

 すると少年の想いに応えるように、老人の身体が光り輝き始めました。

 

 すると、先程まで顔色も悪く、息も絶え絶えだった老人が、すっかり元気になっているのです。

 

 少年は驚き、そして喜び、これは神の奇跡だと老人と共に神に感謝しました。

 

 そう、少年は神の加護を授かったのです。

 

 傷を癒し、病を治し、人の命を救う力を。

 

 

 

 

 

 これが少年の、不幸の始まりでした。

 

 

 

 

 

「変わりないようで何よりだよ救急箱。それに銃天使。私を覚えているかね?」

「…………ッ」

 

 クローバーさんが握る拳から血が滴っている。

 

「クローバーさん、大丈夫ですか?」

「…………あぁ」

 

 僕がクローバーさんの拳に手を添えると、クローバーさんは少し力を弛めたが、それでも目の前にいる悪魔に向けた眼光の鋭さは消えなかった。

 

「あの人は一体誰なんですか?」

「…………俺を、買っていた、奴隷として、縛り付けていた、男……!」

「何でこいつがここに…………それにこの魔法は……アンタ人間じゃなかったの!?」

「人間? そんな下等なもの、とうに捨ててやったわ」

 

 人間を捨てたって……

 

「悪魔憑き……」

「そんな矮小な存在と同じにするなッ!」

「っ!?」

 

 そいつは僕に向かって大声で怒鳴った。

 

 悪魔憑きじゃない? でも人間じゃなくなったって……

 

「我々は悪魔憑きなどではない! 自らの意思で動き、下級の悪魔なんぞ話にならない力を身につけた新たなる存在!」

 

「『新世代』だ」

「新……世代……」

 

 上級でも下級でもない、『新世代』って一体何なんだ?

 

「その『新世代』とやらが、単身ここに突っ込んできて、一体何の用かしら!?」

「そんなもの、決まっているだろう」

 

 男が指を鳴らすと、目の前に黒い机と、同じく黒い椅子が二脚現れた。

 

「復讐だよ。銃天使」

 

「お前への復讐の為に、私は人間を捨てたのさ」

 

 その言葉が開戦の合図だったのか、少ししてパキラちゃんと悪魔は向かい合って椅子に座った。

 

 真っ黒な机の上には、それと対比するように真っ白なパキラちゃんの銃が乗っている。

 

「ルールは単純。あの時と同じく、お前の銃に銀の弾を一発だけ込め、互いに向かって一発ずつ撃ち合う。相手に銃を渡す前にリボルバーを回転させてな」

「把握したわ」

 

「但し! 加護の力の使用を禁ずる!」

 

 悪魔がそう大声で宣言する。

 

「私の魔法、『大博打(ジャックポット)』の中でのギャンブルでこのルールを違えば、その時点でそいつは死ぬ!」

 

「お前がこのルールを破ればそこでお前の死は確定する……いいか銃天使、あの時と同じようにはいかんぞ……!」

「何をそんなに興奮しているのか、さっぱり分からないわね」

 

 目を血走らせる悪魔に、パキラちゃんは顔色ひとつ変えずに返した。

 

「…………まぁいい。そして次に、このギャンブルの勝利条件は"相手が死んだら"だ」

 

 ……? 相手が死んだら勝ちって……何でそんな……

 

「痛めつけたいのよ。アタシを。少なくとも一発当てただけで終わらせる気は無いみたいね」

 

 疑問が顔に出てた僕に、パキラちゃんは何でもないかのように言う。

 

「よく分かってるじゃないか」

「どうでもいいから早く始めましょう。ルールはそれで全部?」

「いや、あと一つ。ギャンブル中の他の人間の介入を禁ずる」

 

 悪魔は僕を、クローバーさんを見て言う。

 

「そこの()()()にお前の傷を治療されたら敵わないからな」

「……この子の名前は"クローバー"よ」

 

 落ち着きを取り戻しつつあったパキラちゃんの怒りが、静かに再燃した。

 

「二人とも、手出ししないでよ」

「姉さん……」

「分かってるわ。クローバー、お守りはちゃんと持ってる?」

 

 『お守り』。そう言ったパキラちゃんの目はとても真剣で、クローバーさんがほんの少し驚いた気がした。

 

「…………うん」

「ならよし。そこでグリフと一緒に大人しく見てなさい」

 

「アンタの仇、今度こそ蜂の巣にしてあげるから」

 

 そこから先、パキラちゃんがこちらを振り向くことは無かった。

 

「クローバーさん、『仇』ってどういうことですか? それにあの悪魔は……クローバーさんの知り合いなんですか?」

「グリフになら……友達になら……話しても、いいのかも、しれない」

 

 そして、クローバーさんは目線を二人から離さないまま、僕へ語り始めた。

 

 クローバーさんとパキラちゃんの出会い、そしてあの悪魔との因縁を。

 

「銃の確認は終わったかしら?」

「あぁ、今度こそ不正は無いな」

 

「それじゃ、始めましょうか」

 

 

 

 

 

加護の力を手に入れた少年は、それを人の為に使うことを決めました。

 

 どんな病気も、どんな怪我も、少年の加護の力でたちどころに治ってしまう。

 

 人々はそんな少年の力に感謝し、そしてそれ以上に恐怖しました。

 

 例え不治の病だとしても、どれだけ命に関わる重症だったとしても、人々は死ねないのです。

 

 少年が死なせてはくれない。

 

 いつしか少年の周りに住む人々は、不死者の集団と言われ、周囲の村々から恐れられるようになりました。

 

 そして人々は、人を超えた力を操る少年を、自分達を救ってくれたはずの少年を、次第にこう呼ぶようになっていきました。

 

 「悪魔」と。

 

 そうして徐々に人々は少年から離れていき、育ての親であった老人でさえも、少年を遠ざけました。

 

 他人を救う少年の力が、少年自身を苦しめていたのです。

 

 少年は再び、孤独になってしまいました。

 

 今まで救ってきた人に見放され、孤独な少年は宛もなく彷徨い続けました。

 

 どれくらい時間が経ったでしょう、歩き疲れた少年がふと目線を上げると、そこに人が立っていました。

 

 それが人攫いだとすぐに気がつけない程、少年の心は疲れ果てていました。

 

 抵抗もむなしく、少年は奴隷として売り飛ばされました。

 

 『人智を超えた力を持つ少年』

 

 欲深い人間達が、少年を見逃すはずがありません。

 

 人でも悪魔でもない、ただの"モノ"になった少年は、絶望の淵でこう思いました。

 

 この世で最も不幸なのは、きっと自分だろう、と。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。