Rest In Peace   作:砂糖ノ塊

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3:迷いの森と赤頭巾

「シスター! シスターー!?」

 

 こんな深い森の中でシスターを呼んでみてみても、返ってくるのは不気味な木々のざわめきだけ。

 

「はぁ……もう、どこに行っちゃったんですかシスター……」

 

 セトルグラへから一番近い街まで、この森を通るのが近道だって……

 

「言うんじゃなかったかなぁ……」

 

 事の始まりは数時間前、僕が荷物をまとめ終わり、いざ出発というときになってからの事だった。

 

 

 

 

 

「……あれ? シスター、そういえばどこか目的地はあるんですか?」

「先程も言いましたが、私の目的は悪魔を──」

「いや、そうじゃなくて……どこか目的の街とかは」

「ありません」

 

 そ、即答……

 

 この人、感情が有る無いとかそういうの抜きにしてもだいぶ大雑把だぞ……?

 

「グリフ、ここから一番近い街はどこにありますか?」

「えーっと……地図によると、こっちの森を抜けた先に少し大きめの街があるみたいです」

「そうですか……」

「……? どうしたんですか?」

「本当にその荷物持っていくんですか?」

「はい、そうですけど……」

 

 旅に必要そうな着替えとかそういうの諸々詰め込んだカバンだけど、もしかしてこれだけじゃ足りなかった?

 

「いえ、足りないというより寧ろ多すぎ、大きすぎかと」

 

 きっとシスターは僕が小さいから心配してくれてるんだ。

 

 でもこれくらい僕だって……両手持ちなら!

 

「大丈夫ですよ! これくらい持って歩けます!」

「…………」

 

 おかしい。感情が無いはずのシスターから疑惑の視線を向けられている気がする。

 

「とにかく! 僕は大丈夫ですから!!」

「そうですか」

「……というか、シスターは何も持ってないんですけど……今までどうやって旅してきたんですか」

「私にはこの十字架があればそれで十分です」

 

 こんなやり取りをしているから、地図に書かれた『迷いの森』という文字も見落とすんだ。

 

 まぁ、今更後悔しても遅いけど。

 

 

 

 

 

 〜【迷いの森】〜

 

「結構深い森ですね……」

「そのようですね」

「……なんか暗すぎませんか? 今はお昼の筈なのに全然日光が届いてない」

「木々の葉が太陽光を遮っていますね」

「多分ここ、夜になったら真っ暗ですよ……」

「では急ぎましょう」

 

 薄暗くて嫌な雰囲気の森だな……森に生えてる木もちょっと怖いっていうか……壁のシミが人の顔に見えるみたいな、そんな感じで木の形とかが──

 

「っと、ごめんなさい」

 

 いけないいけない。考え事をしていたら前を歩いていたシスターとぶつかっ…………

 

「え?」

 

 シスター……じゃない。

 

 僕がぶつかったのは大きな枯れ木、その幹のあたりに頭をぶつけてしまった。

 

「シスター?」

 

 周りを見渡してもあるのは一面の雑木林。

 

「…………え?」

 

 そして現在に至る。

 

 

 

 

 

「とりあえずシスターを探すしかないか……」

 

 探すって言ってもどこを?

 

「んー……こっちかな」

 

 僕がぶつかった枯れ木から左右に道が別れている。僕はその右側を選んで進み始めた。

 

「シスターー! どこですかー!」

 

 歩きながらシスターを呼んでみるが、やっぱり返答はない。

 

 やがて喉は乾き、足も重くなってくる。

 

「はぁ……おもっ……」

 

 持ってきたカバンを半ば引きずりながら進む。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 出口が見えない。一本道なのが唯一の救いか……

 

「ちょっと休憩……」

 

 カバンを地面に置き、そばに生えていた()()()に背を預ける。

 

 ん? 枯れ木?

 

「え……この枯れた木……」

 

 間違いない。僕がシスターとはぐれたことに気づいたときの……

 

「もしかして……戻ってきた?」

 

 背中に嫌な汗がじんわりと滲んでいく感覚を覚えた。

 

「……ッ!」

 

 休憩を早めに切り上げ、カバンを持って走り出す。

 

 今度は左側の道へ、嫌な予感を振り払うように全力で走った。

 

「あがッ!」

 

 地面から飛び出した木の根っこに躓いて頭から転んでしまう。

 

「いったぁ…………あ」

 

 人の嫌な予感ほど的中すると言ったのはミゲルさんだったっけ?

 

 まぁ、僕にそれを言ったミゲルさんが人間だったかどうかは分からないけれど。

 

 悪魔だろうと人間だろうと、ミゲルさんの言ったことは正しかった。

 

 起き上がった先にあったのは一本の枯れた木、そして分かれ道。

 

「……戻ってきてる」

 

 行けども行けども出口が見えないわけだ。ずっと同じところをグルグル回っていたんだから。

 

「え、でももう道は……」

 

 ない。

 

 右の道も左の道も、どちらの道を選んでもここに戻ってきてしまう。

 

 というかこの分かれ道の先が僕が今いるこの場所に続いているなら、僕とシスターはどこから来たんだ?

 

「この森、普通の森じゃないぞ……?」

 

 地図を開いてこの森の全体像を把握しようと試みる。

 

「迷いの森」

 

 遅すぎた。

 

 こんな丁寧に名前がつけられている。『迷いの森』なんて名前が。

 

「ど、どうすれば……」

 

 このままじゃシスターと合流するどころかこの森から出られないぞ!?

 

 でも、こんな同じような木ばかり生えている森からどうやって出口を見つければ……

 

「…………待てよ? そういえばなんでこの木だけ枯れてるんだ?」

 

 他は全部同じような木なのに、何でこの木だけ……

 

「あれ、何これ?」

 

 よく見ると木の根っこに光るなにかが刺さっていた。

 

「……斧?」

 

 銀色に光り輝く、片手で持てそうな大きさの両刃斧が枯れ木の根っこに深々と突き刺さっている。

 

 思わず手にとってみる、がびくともしない。

 

「うわっ、結構深く刺さってる……」

 

 カバンを置いて、今度は両手で思いっきり引っ張ってみる。

 

「ぐぬぬぬぬ…………」

 

「とりゃあああ!!!」

 

 勢いで手から飛んでいきそうになったが、無事銀の斧は木の根っこから抜けた。

 

 一面銀色に光る斧。装飾品のように飾りがあしらえてある。

 

「綺麗な斧だ……あとだいぶ重い」

 

 何だこの斧、僕のカバンくらい重いぞ? 両手じゃないととてもじゃないが持ち上げられない。

 

「僕って、自分が思ってるより非力なのかなぁ……」

 

 『深く突き刺さった斧を抜く』という一仕事を終えた後だったからだろうか……

 

 そんな隙をつかれてしまった。

 

「え?」

 

 斧が刺さっていた部分から、無数の木の根が僕に向かって伸びてきた!

 

「え!? ちょ、待っ──」

 

 どうやら僕は、自分が思ってるより非力で、どんくさかったみたいだ。

 

 あっという間に全身を木の根っこに縛り上げられた。

 

「う、うわあああ!!!!!」

 

 すごい力で締め上げられ身動きが取れない。

 

「抜け出せない……! 誰かた──むぐ!?」

 

 マズイ! 口をふさがれた!!

 

「(この木……成長、いや再生してる……!?)」

 

 さっきまで枯れ木だったのに、もう他の木と同じような木になっている。

 

 唯一違うのは、僕に攻撃してきているという所だけだ。

 

「(息が……もう…………)」

 

 僕は……死ぬのか……? こんなところで……?

 

「(いや……だ…………)」

 

 やっとなのに……やっと変われると思ったのに……!

 

 あの村でただ祈っていただけの僕から、やっと変われるって! そう思っていたのに!!

 

「(死にたく…………ない……!)」

 

 死にたくない。

 

 まだ、死ねない。

 

「(死にたくないッ!!!)」

 

 動け、動け! 動け!!

 

 こんな木の根っこが何だって言うんだ! 簡単に諦めるな!!

 

「(この斧なら……もしかしたら……!)」

 

 もし僕が斧を抜いたことで枯れ木が再生したのなら、それはこの斧でもとに戻すことが出来るということ!

 

 幸い斧は手に持っている、後は腕を動かせれば!

 

「(千切れろ……千切れろッ……!!)」

 

 腕を封じているこの根を……千切れば…………

 

「(だめ……か……いや、まだだ……!)」

 

 最期の……一瞬まで…………

 

「(あきら…………める…………な…………)」

 

 

 

 ──ダァン!!

 

 

「……っ! ゴホゴホッ!!!」

 

 息が、出来る。

 

 僕を締め上げていた根っこはバラバラに切り落とされ、僕の身体は自由になった。

 

 誰かが助けてくれたのか……?

 

「シスター! …………じゃない」

 

 また間違えたけれど、今度は木じゃなくて女の人だ。

 

 ベージュ色のボサボサとした長髪。

 

 まるで宝石のように紅く、獣のように鋭い瞳。

 

 そしてその瞳と同じくらい赤いフードを羽織った女の人。

 

 その手には古びた猟銃と、そして僕が拾った物と同じ、銀の斧が握られていた。

 

「あ、あなたは……」

「話は後だ! とっととずらかるぞ!」

「え! あ!」

 

 首根っこを掴まれ、すごい速さで引っ張られる!

 

「またこんな風に引っ張られるのぉぉぉおおおお!!??」

 

 どうやら僕は非力でどんくさい上に、雑に運びやすいらしい。

 

 

 

 

 

「ここまで逃げりゃあ十分だろ」

「うぇ……おぇ……」

 

 なんなんだこのひと…………めがまわる…………

 

「ったくよ……何だってこんな森に迷い込んでやがんだよテメェは」

「え……えっと…………」

「……まあいい」

 

 僕の目の前に手が差し出される。

 

「…………?」

「その斧、返せ。オレのだ」

「あ! どうぞ……」

 

 やっぱりこの人の斧だったんだ……

 

「よかった……」

「あの……あなたは…………」

「ほら、この道を真っ直ぐ行きゃ森を抜けられるだろうよ」

「…………え?」

 

 指を指した先には、確かに今まで通ってきた道とは違う一本道が続いている。

 

「ガキはさっさとママのところにでも帰んな」

「ま、待ってください!」

「あ?」

 

 この人……なんか怖いな……

 

 喋り方もぶっきらぼうだし……でも、悪い人じゃない……のかな?

 

「何だよガキ、何かあんのか?」

「まだ森の中に残ってる人がいるんです!」

「……はぁ!?」

 

 彼女はその紅い瞳を大きく見開いた。

 

「おいおい……テメェらこの森が今どんだけ危険なのか知ってんのか!?」

「い、いいえ……」

「何も知らずにこの森に入ったのかよ……」

 

 呆れられてる……

 

「いや、まぁ知ってたら普通入んねぇよなこんなとこ……」

「この森ってそんなに危険なんですか……?」

「チッ……ああ、そうだよ」

 

 全身から面倒くさいというオーラを出しながらも、紅い瞳の彼女はこの森について説明してくれた。

 

「この『迷いの森』はな、名前の通り一度入ったものを迷わせるつー厄介な森なんだよ」

 

「テメェも見ただろ? あの動く木を。あいつらのおかげで出口までの道のりが漏れなく潰されるってわけだ」

「だからいくら歩いても同じ場所に戻されたんだ……」

 

 やっぱりこの森を通るのはマズかった……

 

「だがな、こういう物には必ずタネがあるもんだ」

「タネ?」

「当たり前だろ。んなクソ面倒くせぇ木が勝手に生えるわけ無ぇだろうが」

「そうですよね……じゃあ」

 

「悪魔」

 

「…………え?」

「どっかのクソ悪魔が裏で操ってやがんだ。んでオレがそれを討伐しに来たってわけだ」

「ま、また…………?」

 

 不気味に笑う村の皆(悪魔)の顔が、僕の脳裏をかすめていく。

 

「だから危ねぇんだよ。ガキは帰りやが……」

 

 ほとんど反射的に、僕は彼女の赤いフードの裾を掴んでいた。

 

「……おい、何してんだ」

「僕も連れてってください」

「は?」

「まだ森の中に残ってる人がいるんです……放っておけません!」

「はぁ……んなもん、知らずにこの森に入ったそいつの自業自得だろ。いいから離せ」

「…………嫌です」

「離せ」

「嫌です!!」

「ッあーーークソがッ!! テメェ何なんだよマジで!!!」

「連れてってくれるまで絶対に離しませんから!!」

「テメェみたいなガキは足手まといになるのがオチだ!! 死にたくねぇならとっとと──」

「ないですよ! 帰るところなんて!!」

「…………ッ!」

 

 少し怯んだのか、赤いフードの彼女は驚いたような顔でこちらを見てきた。

 

「今、森の中で彷徨ってる人は僕の恩人なんです」

「ここで逃げたら、僕はあの人を見捨てたことになる……そんなの、出来るはずがない!!」

「……じゃあ、テメェには一体何ができんだよ」

 

 僕に……出来ることは…………

 

 非力で、どんくさくて、シスターみたいに特別な力もないけれど……

 

「………………ぁ」

「聞こえねぇよ、もっとデカい声で喋れ」

 

 

 

「諦めないこと!!」

 

 

 

「…………」

ます…………」

「…………ハッ」

 

「アッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 涙目になりながら彼女は笑う。

 

「あーあ、笑った笑った」

「なんで笑うんですか……」

「いや悪い、思ってもみなかった返事が返ってきたからよ」

「…………」

「でもよ、口だけなら誰だって言えるぜ?」

 

「覚悟はあんのかよ あ?」

 

「約束します! 僕は何があっても諦めません!!」

 

 こちらを見定めるように見つめてくる紅い瞳を、精一杯真っ直ぐ見つめ返す。

 

「……お前、中々いいじゃねぇか。見どころあるぜ」

「え?」

「手伝ってやるよ、お前の恩人探し」

「本当ですか!?」

「ああ、だがさっきも言った通り、この森は今悪魔がいる可能性が高い。オレの側を離れたら死ぬと思え」

「……わ、分かりました」

 

 待っててくださいシスター……今行きます……!

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