そこで零夢は知る事となる、なのはが自分の正体に気付いていた事を、それを引っ括めて弟として接してくれていた事を。
「いやぁ助かった! アンタらは命の恩人だ!」
たらふく料理を食べたガウマの生気は戻り、零夢達に頭を深々と下げて礼を述べていた。
「満腹になるまで食べてくれてこっちこそありがとうなんだけどな」
料理人としては光栄な事だった。
「それじゃあ自己紹介を………俺はレック………」
「あ、ガウマさん、もう本名教えちゃってるんで」
「お?そうなのか?まぁだけどここはちゃんと名乗らないと」
気を取り直してと一度咳払いをする、名前を知っている上での自己紹介を始めた。
「俺はガウマだ、今は新世紀中学生のレックスって名乗ってる」
「新世紀中学生?」
首を傾げるレヴィ。
「零夢君には話したんですけど」
再び蓬は自分達の世界の説明を始める。
「つまり、その新世紀中学生はグリッドマンのお助け隊みたいな感じ?」
「はい、そんは感じです」
簡潔に理解してくれたらしく、その問いに夢芽は肯定した。
「一つの存在の中に複数の宇宙ですか………さしずめグリッドマン・ユニバースとでも呼ぶべきでしょうか?」
簡潔に理解したレヴィとは違い、シュテルは細かい部分も理解していた。
「俺達の仲間もそう呼んでいます」
「当たりかよ、さすがテル姉って言うべきか」
「もっと誉めてくれても構いませんよ?」
ドヤッてるようだが表情が変わらないため解りづらい。
「んでガウマにはこの世界の説明をしないとな」
ガウマにもこの次元の話を始めた。思い返せば蓬達の世界があるグリッドマン・ユニバースとこの次元はどこか似てる感じがあった。一つの宇宙の中に複数の宇宙がある、一種の小型のマルチバースのようにも感じられる。
「俺達は帰れるんですか?」
「この次元の技術力では並行世界間の移動は難しいですね」
ちらりと零夢を見るシュテル。その目を見た零夢は首を横に振るう。
「中には並行世界間を移動できる能力者も居るのですが現状、その能力に頼るのも危険かと。何しろ都合よくその能力者が現れるのも確率からしてゼロに近いかと」
上手い事を言っているとレヴィは思った。確かに確率はゼロに等しいがそのゼロがすぐ傍に居るなんて考えられないだろう。
「なんでですか?」
蓬が尋ねた、その能力者に会えないのは解っているが並行世界間の移動が危険な事に疑問を抱いたのだ。
「ここ最近、この時空では異変が多発しています。その異変の一部のせいで私とレヴィは自分達が住んでいる世界に帰れなくなっているんです。複雑怪奇なグリッドマン・ユニバースからあなた方が迷い込んだ、それだけでも大異変なんです。なので、安易に並行世界間を移動しようとしてこことは別の時空に辿り着いてしまう可能性もありますし、最悪、時空の狭間に落ちて一生帰れない可能性も」
いかに蓬達が特殊な状況下に置かれている事を解りやすく説明するためにもストレートな表現をしていた。それにより蓬達も事の重大性を実感できたようだ。
「あなた方がこの時空に迷い込んだ原因を掴まない限りは仮に帰れたとしてもまた迷い込む可能性もあります、それもあなた方だけではなくその近しい人達も、もしかしたらその人達もすでにこの時空に来ている可能性もあります」
「なるほどな、そしたらしばらくはこの時空に留まっている方がいいのか?」
「はい。幸い、次元世界間の移動は大丈夫ですので広い範囲での行動は可能です。なのであなた方が原因を調査する事もできます、その前にこの時空での身分証明を作らなければなりませんが。そこは安心して下さい、そのような事態を想定した制度もありますし、DPUの施設に行けばすぐに発行してくれます」
こういう時にシュテルが居てくれて助かったととても感じていた。自分も説明できない訳ではないが立場が特殊なのは一緒、自分の正体についても触れなければならない。教えるのがダメという訳ではないが話がややこしくなるためだ。
「そしたら善は急げだね。手続きは地元の市役所でやってくれるからすぐに行こうか」
レヴィの提案に頷く一同。シュテルとレヴィはバリアジャケットを解除して私服に戻るとその光景に蓬達に驚かれるも移動しながら説明をするのだった。
そして、港町の市役所にやって来た一行は少し慌ただしい事に気付いた。
「なんか慌ただしいですね」
「どうしたんでしょうか?」
夢芽とシュテルが首を傾げていた。職員達は何やら椅子やら長机を外に運び出しているようで何かを行おうとしていた。
「どうしたんですか~?」
レヴィが女性職員に尋ねてみる。その女性職員はニコニコしながら答えてくれた。
「急にねお祭りを開こうって話になって準備してるの。こんな漁業難に陥っていても活気を失っちゃいけないって漁業組合の組長さんが提案してくれてね、なんでもこんな状況なのに観光に来てくれた男の子と出会って思い立ったとかで」
それが誰の事を指しているのか、当の本人が解った。
(あのオッサン、漁業組合の偉い人だったのかよ)
「その提案を聞いた市長も乗ってね、町の人達もこのまま落ち込んでる訳にはいかないって盛り上がっていってもう大忙しなの。そろそろ行かないと!」
そう言うと女性職員は去っていった。
「この状況だと手続き難しそうだな」
「ええ、まぁ最終手段がありますのでそこでどうにかしましょう」
「科特隊だな」
「はい」
もちろん科特隊もその手続きを行え、身分証の発行もできる。別の時空からの来訪者を保護するのも科特隊の役目なため設備が整っている。
「アリシアが居ますし彼女に直接頼みましょう」
ひとまず市役所を後にし、アリシアと連絡を取るとすぐに合流できた。
「ごめ~んちょっと遅くなった~」
「いえ、任務中なのにすみません」
「いいよいいよ、これも科特隊の仕事だからね」
快く応じるアリシアに感謝するシュテル。
「それで君達三人が別の時空から来たって?」
「はい、ガウマって言います」
「麻中蓬です」
「南夢芽です」
「おっけおっけ、簡単な質問してデータを本部に転送するから」
アリシアは手際よく三人に質問していくと同時に顔写真の撮影も行う。基本的には年齢と名前、性別と本当に簡単な質問だ、そして、住んでいる場所だ。
「フジヨキ台高校……うん、この時空の地球にはない学校だね」
メモリーディスプレイでデータを確認するアリシア、これにより彼らが別の時空からの来訪者である事の信憑性が高まった。
「それに新世紀中学生って………バンド名?」
「いや、まぁそうっぽいですけどさっき話したグリッドマンのお助け隊みたいな?まぁ俺はその新人でダイナゼノン……俺単体だけだとダイナレックスっていう赤い竜っぽい怪獣になるんですけど」
「赤い竜?」
その単語に引っ掛かるアリシア。
「もしかして、目撃された赤い竜って………」
その正体がガウマである事が判明した瞬間だった。
「ガウマさん、食料探すためにダイナレックスに?」
「そうそう、空腹で意識が朦朧としてたみたいで何があったか覚えてないんだよ。なんか妙な光が見えた気がしたけど」
記憶が曖昧な部分もあるがガウマがなぜ海で救助されたのか判明した。
「まぁとりあえず君達の話は全面的に信用できるって判断したから身分証明の作成を依頼するね。明日には出来上がってここの市役所で発行できるから行動する場合はシュテルとレヴィ、零夢と行動して。職務質問とかされた時が面倒だから」
三人は解りましたと口を揃えて言い放つ、これで手続きは終了した。
「本当に手慣れてますね」
「別の時空からってのはそうそうないんだけどDPUが把握してない次元世界から迷い込むって話はよくあるからね」
そういう事案に特化してるんだなと感心するガウマ。
「あ! そうそう! みんなこの町でお祭りやるのは知ってるよね?」
それが忙しくてアリシアに手続きを頼んだわけなため知らない訳はない。
「そのお祭りに町の人達が集まるからそこでいろいろ話を聞いてみようって思ってるんだ、それでそのお手伝いして欲しいんだけど」
「それは構わないッスよ」
「何もしないで一日待つよりかは」
「蓬とガウマさんがそれでいいなら」
「そしたら俺は出店でもしてようかなぁ」
「なら私とレヴィはそのお手伝いを」
「いいねいいね、お祭りの屋台、王様も居たらもっと面白かったのにな~」
それぞれ答えつつ方針が決まり、早速行動を開始した。シュテルは市役所に戻って出店の手続き、アリシアは引き続き調査、残りは材料の調達だ。
「零夢君、なんの屋台やるの?」
「せっかく海鮮が豊富な世界なんだ、そんで祭りだろ?だったら定番中の定番のあの食べ物って行きたいけどさすがに競争率が激しいだろうし、猛者も沢山居るだろうから~パンケーキ作りの経験を活かしてお好み焼き屋をやるつもり」
「え?だけどシュテルさんには何も言ってないよ?」
「大丈夫大丈夫、シュテるんは解ってるから。零夢の考えはお見通しだろうから」
「悔しいけどそうなんだよなぁ」
もう一人の姉であるシュテル。なのはと同様によく零夢の事を見ている。だからこそ自分の正体に気付けたのだろう。
「さぁて! せっかくの祭りだから盛り上がっていこうぜ!」
「「「おー!」」」
拳を突き上げ盛り上げる零夢、ガウマと蓬とレヴィも釣られて拳を突き上げる。
「おー」
四人に反して夢芽は小さく突き上げていた。
そして夜を迎えたルヴェラの港町。その海の傍に沢山のテントが張られており、その下で町の人々はそれぞれの得意料理を作り、美味しそうな匂いを漂わせ、盛り上がりを見せていた。
「テル姉、仕込みは完了してるぜ」
「こちらも鉄板の温度は適切です、いつでもどうぞ」
そして零夢達も、出店の許可が取れた事でお好み焼き屋をオープン。店の看板となるプレートには実家と同じで日本語で『翠屋』と書かれていた。
「よーし! 翠屋出張店、オープン!」
零夢は鉄板に生地を流し込み、調理開始と共にオープンした。
「あれ?兄ちゃん昼間に会った……」
「あ、昼間に会ったオッサン」
すると、最初の客は昼間に出会った漁師の男性……つまり、漁業組合の会長だ。
「お前さんも店出してるのか?」
「俺、こっち側だからさ。一緒に御輿を担いで楽しみたいんだよ」
出来上がったお好み焼きを漁業組合の会長に渡す零夢。それを一切れ口に入れた瞬間、彼の目は大きく開いた。
「美味い! 美味いじゃないか!」
「粉物は自信あるんだ、もっと食っていいけど他にもお客さん、呼んでくれよ?」
「ああ! おーい! ここに美味いお好み焼き食わしてくれる店があるぞー!」
現地の言葉でもお好み焼きで通ってくれていて助かった。すぐに町の人達はこの料理に親しみを持ち、慣れてくれたお陰で行列ができるのもすぐだった。
「違う世界なのにお好み焼きで通じるんだな」
「他の世界との繋がりがあるからもありますが意外と類似点とか多いんです。だからこそ考古学が重宝されるんです。地球の料理が別の世界が由来のものがあったり、その逆も然り」
ガウマの疑問に答えるシュテル。ギャラクシークライシス以降、謎が増えたこの時空、考古学者の存在は必要不可欠であり、発祥や由来を研究して謎を解くのもアリシアや他の考古学者達の使命でもある。
「零夢君、あっという間に行列作っちゃった」
「そんじゃあ蓬、僕達も行くよ」
「了解です、ガウマさんも列整理お願いします」
「任せておけ!」
ガウマは看板を持ち最後尾を示し、蓬とレヴィは並ぶ人々の会計を先に済ませ、夢芽が会計を済ました客に商品を渡す事でで零夢とシュテルに料理に集中させる。
「零夢、生地は?」
「まだまだ行けるぜって言いたいけど予備、作ってくれるか?」
「了解です」
生地作りをするシュテル、零夢は焼くスピードを上げようと幾つも生地を流し、焼き始め、見極めるとコテで素早く裏返していき、出来上がった物をプラスチックの容器に乗せて蓬達が会計が済ませた客達に渡していく。
「おお~繁盛してるじゃん」
そこにアリシアと、同じ科特隊の隊員でありガンウインガーのパイロットを務めていた『歌川ベニオ』と、ガンローダーのパイロットを務めていた『黒田ミカヅキ』がやって来た。
「アイツがアリシアの知り合い?」
「うんそう、たまたまルヴェラに来ててね」
「翠屋って………確かエース・オブ・エースの実家やったよね?」
ミカヅキが指摘した、科特隊でもエース・オブ・エースは有名で公開されているパーソナルデータを覚えていた。
「大丈夫なのかよ名前勝手に使ってて?」
「大丈夫大丈夫、寧ろ喜ぶと思うんだよね。次男がお店を宣伝してくれてるぅって」
「え?次男?」
「うん、アレ、なのはの弟だから」
「お、弟!?」
思わず声を上げるベニオ、ミカヅキも驚いていたが目をパチパチと瞬きさせるぐらいだった。
「翠屋の名前使うって事はちょっと吹っ切れてるんだ」
様子を見て安心するアリシア、彼がなのはと再び会う日も近いのだと感じると自然と微笑んでた。
「零夢~遊び来たよ~」
「やっと来たアリシア! 手が回らないんだ! 手伝って!」
「いきなりかよ……もうちょっと自分の腕の事を考えてよねまったく」
呆れつつも手伝う姿勢を見せるアリシア。
「俺らどうしよっか?」
「面白そうやからうちらも手伝おっか?」
「だな」
ニッと笑うベニオ、アリシアに一声掛けて翠屋出張店の手伝いを行い、この行列は材料が切れるまで続いた。
「材料が切れたので閉店しまーす!」
看板に品切の紙が貼られた事により翠屋出張店は閉店、後片付けを始めていた。
「大繁盛だったな」
「まぁ粉物は零夢の十八番だからね。パンケーキなんて作らせたらベニオ、お代わりしまくるよ?」
「そんなに?」
「翠屋の評判、知らない訳ないでしょ?」
そんな話をしていると零夢がやって来る。その手にはお好み焼きが乗せられた紙の皿が、それも三つもだ。
「悪い悪い、疲れてるだろうに手伝わせちまって」
「いいっていいって、こっちの二人も誰かさんみたいに祭りに来たら一緒に神輿担いでる子らだから」
笑って返すアリシア。
「はいこれ、手伝ってくれたお礼。パイロットの二人には大きめに作っておいたから」
「あ! あんがとな~」
「サンキュー」
料理を受け取っていく三人だったがミカヅキが何かおかしい事に気付いた。
「ん?パイロット?」
科特隊である事はアリシアと一緒だから解るはずだが、なぜパイロットと呼んだのか解らなかった。
「朝っぱらからこそ泥の相手して疲れただろ?」
こそ泥、その言葉に当てはまるのは輸送船を襲撃していたバロッサ星人である事が解った。それならニュースになっているはずなので知っていても不思議ではないが自分達は大した活躍はしていない、バロッサ星人を捕まえたのはウルトラマンだ。
「ったく………転売目的で海賊行為してんじゃねーよなー取り調べ大変だったろ?バロッサ星人ってプライド高いから」
「そうそう、翻訳機切ってバロバロしか言わなくなってさ、こっちが翻訳機使えって挑発しやがって……何度掴み掛かろうと思った事か」
深く溜め息を吐くベニオ、お疲れな所で手伝わせてしまって本当に申し訳なく思った。
「ねぇねぇアリシア、ちょいおかしいない?」
「私も思った、ねー零夢」
そこでアリシアが話し掛け、ベニオと話していた零夢は彼女の方を向く。
「どうした?」
「なんでベニオとミカヅキがパイロットやってるの解ったの?」
「へ?あっ」
ようやく本人も気付き、どう説明しようか戸惑う零夢。
「内緒にしておこうとか思ってたわけじゃないんだよ、忙しいと思って流してたんだよ」
「え?何突然?何をカミングアウトするの?」
真剣な声色となる零夢。今度はアリシアが戸惑い始めてしまう。
「おう、あんちゃんに科特隊の嬢ちゃん達」
すると、そこに割って入ってきてのは漁業組合の会長だった。
「会長さん、どうしたんだ?今日はもう閉店だぜ?」
「違う違う、お礼を言いに来たんだよ。本当にこの世界に来てくれてありがとうってね」
「お礼を言われるほどじゃないよ、たまたま寄っただけだし」
「私達も仕事ですから」
零夢の話は一旦お預けとなり、ここは彼と話をする事にした。
「それにまさか一緒に祭りで屋台も出してくれるなんて、君らのお陰でかなり盛り上がったよ」
「そうか?観光客一人来たからって祭りをしようなんて普通じゃできないよ」
「そうかもな、だけど本当に嬉しかったんだよ。漁獲難で盛り上がらなかったからね、幸いルヴェラは海だけじゃないから」
ルヴェラは港町の郊外に出れば緑豊かな自然が広がっており、鉱山跡地には遺跡が在り、歴史的文化も残されている観光に特化した世界だった。
「すみません、私達も調べてはいるんですけど」
自分達の努力が不足していると反省するアリシア達だが会長はそんな事ないと訂正する。
「嬢ちゃん達がそんな顔する必要ないよ、ワシらが海の変化に気付けんかったのが悪いんだから」
海を見つめる会長、彼の方が反省しているようだった。
「ラゴン様を怒らせちゃったのかな?」
「ラゴン様ってこの町の守り神の?」
「ああ、昔は今よりもっと祭りを開催してたんだ。ラゴン様に捧げるためのな」
これは貴重な話が聞けそうだと零夢とアリシアは会長の話に集中した。ここは二人に任せようとベニオとミカヅキはその場を離れ、後片付けの手伝いを始めた。
「ラゴン様は恥ずかしがり屋だけど祭りが大好きでな、お面を付けて隠れて参加してたんだ。まぁ俺達も気付いてたけどあえて気付かないふりして祭りに遊びに来た客として接してたんだ。子供達もラゴン様と一緒に遊んで楽しそうだったよ。もちろん俺も遊んだことあるぞ」
懐かしそうに語る会長、楽しそうだがどこか寂しげだった。
「最近はそうでもないのか?」
「ああ、ギャラクシークライシス以降はね。時空変動のせいで海の生態系も変わってしまったからね………もしかしたらラゴン様はもう」
居ない可能性もある、ギャラクシークライシスが解決しても問題は山積みだった。20年近く経った現在でも、解決できない問題はある。それは数年、数十年、数百年単位も掛かる問題もある。
「エルトリアの死蝕問題も解決速度が上がったけどそれでもまだ時間掛かるし」
シュテルやレヴィが住むエルトリアでは『死蝕』と呼ばれる汚染現象が問題となっている。
「最初の内はそうでもなかったけど徐々に変わっちまったんだろうな、この海も………すまないね、老人の昔話なんて聞かせて、祭りを楽しんでな。これから花火も上がるから」
乾いた笑いを見せ、会長はその場から去っていった。
「ギャラクシークライシスが終息しても個々じゃ問題が残ったままなんだよね」
アリシアの何気ないその一言に考えさせられる零夢の頭に過るのは大先輩の言葉だった。
(ウルトラマンは神ではない………いくら頑張っても救えないものだってある………理解していたつもりだけど)
改めて実感すると元気がなくなってくる、その救えなかったものの中には一番大切な姉が居るのだから。
「だけど、ウルトラマンが居たから今があると思うんだ私」
「そうか?管理局や科特隊も頑張ってただろ?」
「そうだけど、ウルトラマン達が先頭に立ってくれたから追い掛けようと思ったんじゃないかな?ウルトラマン達に追い付きたい、肩を並べたい、そう思ったと思うよ?私も今の仕事に就いてからそうだし、なのはもそう」
「姉ちゃんも?」
頷くアリシア。
「なのはも、大好きなウルトラマンが居るから追い付きたい、一緒に戦いたい、空を飛びたいってよく言ってたよ」
その大好きなウルトラマンが誰の事かなんて自分が一番よく解っている。だが、自分にそんな資格あるのか不安になってしまう事もある。
「それじゃあ零夢はなのはが居なかったら自分はどうなってたと思う?」
「それは……」
もしかしたらセブンかレオが見付けていたのかもしれない、だが、先になのはが見付けてくれたから高町零夢が生まれた訳だ。なのはが居なければここには居ないはず。
「それと同じだよ、もちろん私もそう。本当だったら居ないはずの人間なのにそんな私にまたチャンスが巡ってきた。理由はちょっと複雑だけどね、それでもあのバット星人が居なかったら私はここに居なかった、そこだけは感謝してるかな?まぁしてやってるって言った方がいいかもしれないけど」
ニッと笑うアリシア。アリシアの身の上は複雑であった。簡単に説明してしまうと“一度死んで蘇った”、という事だ。
「ウルトラマン達が頑張ったんだから私達も頑張らないと、この時空に住む人間としてね」
ウルトラマン達の活躍はこの時空に住む人々を奮起させていた。それは自分も同じだ、まだ記憶を失っていた頃、士郎やなのは達から何度も聞かされたのだから。
「ま、だけどウルトラマンもこの時空に住んでるなら一緒に頑張って欲しいかな?そういう宇宙人も沢山いるんだしね」
イタズラな笑みを浮かべるアリシア。そういう風に言えるのはこの時空が様々な種族と共存しているから言える事、ウルトラマンだけが特別ではないのだ、みんなが特別。後輩の言葉を借りればみんながウルトラマンという事になる。
「だな、俺も姉ちゃんの憧れに恥じないように頑張らないとな」
「なんで零夢がなのはの憧れなの?」
またまた意味が解らないと首を傾げていると水平線が大きく揺らぐのが見え、波となって岸に叩き付けられた。
「地震による津波じゃない!?」
よく見れば海面が膨らんでいるのが見えた。その膨らみの先端は怪しい光を発し、そこに何か居るのを物語っていた。
「あの光………そうだ! あの光! 俺が意識を失う前に見た光だ!」
ガウマはその輝きを見て記憶を取り戻していた。極限状態の時に見た光と同じだと、その瞬間、膨らみは爆発したかのように弾けて水飛沫が上がり、海中からその巨大な姿を現した。両腕や両足、更に首の両端にヒレを生やし、魚が二足歩行となったようなフォルムをし、頭にはアンコウが持つような触角型の発光器官が伸びていた。
「怪獣!?」
その巨大な姿に人々は一瞬でパニックとなる。
「皆さん落ち着いて! 落ち着いて避難して下さい!」
ベニオが大声で呼び掛け、ミカヅキは警備に来ていたルヴェラの管理局部隊と一緒に避難誘導を行い始めているとアリシアはメモリーディスプレイのカメラを怪獣に向けて画像検索を行う。
「アーカイブドキュメントに記録を確認、レジストコードは深海怪獣ゲードス! コイツ、主食が魚って書いてある………もしかして」
この漁獲難はこの『深海怪獣ゲードス』が引き起こしていた可能性がある事を示しており、アリシアは補足を読む。
「過去の記録にも多くの魚を食らって漁業に損害をもたらしたって書いてある………」
その犯人が海から姿を現した、つまり、自分の縄張りのエサを食い尽くし、残りが保管されているこの港町を襲おうとしているのだと解った。
「アリシア! ここは管理局に避難を任せて俺達はガンフェニックスで迎撃する!」
「うん! お願い! 私は管理局と一緒に避難誘導する!」
ベニオとミカヅキは駆け出し、自分達が駆る翼の下へと向かった。アリシアもマップを開いて避難場所を確認する。
「みんなも早く避難して! 管理局の誘導に従えば避難所に辿り着くから!」
零夢達に呼び掛けるアリシア、ここは専門家の指示に従うのが筋と思うガウマ。
「アリシア、飛行許可はそのままですよね?」
「え?うん、今日一日は大丈夫だよ………まさか」
「無論協力します。彼女達が戻ってくるまで時間が掛かります、それなら私とレヴィが食い止める方が効率的ですし、戦力は多いに越した事はありません」
「………まぁ行くなって言って行かないなんて選択肢はないのは解ってるし………了解、だけど気を付けてね」
「はい、レヴィ」
「オーライ」
ゲードスが居る方向へと足を向けて歩き出すシュテルとレヴィ。シュテルは零夢の横を過ぎようとすると耳元で囁く。
「町の人達が避難するまでは大人しくしてて下さいね。あなたの出番はそれからです」
それを言い残すと見計らっていたレヴィと共に走り出した。
「ったく……どんだけ整えてくれるんだよ」
「整えるって?」
「こっちの話。さっさと避難終わらせるぞ!」
「なんで零夢も誘導するつもりでいるの!?」
零夢も避難誘導に参加。主にお年寄りや子供達の補助を行っていた。
「ガウマさん」
呼び掛ける蓬。
「ここは様子見だ。俺が出ても混乱させちまうだけだからな。ま、もしもん時は任せておけよ」
ニッと笑うガウマを見て蓬と夢芽は安心感を抱いた。
「まったく、シュテるんはしゃぎ過ぎじゃない?」
「そうですか?」
走るシュテルとレヴィ。レヴィは少し呆れたような感じだった。
「そんで、着いてくんでしょ?」
「ええ、ナノハには悪いですが零夢の旅に着いていこうかと。レヴィは?」
「ま、エルトリアにはまだまだ帰れそうにないし、それに目指す場所は同じだからね、シュテるんには悪いけど着いていかせて貰うよ」
二人はこれからの事について話し合っていた。自分達が住む世界に帰れない、便宜的にアリシアの部隊に協力しているが今回の事件が解決したら別れようと考えていた。零夢に着いていくために。
「んでガウマ達も連れてくでしょう?」
「彼らの意思もありますが恐らくは」
着いていくと予想していた。彼らも自分達の世界に帰られねばならないため。
「さぁて、さっさと終わらせてこれからの事を話そうね!」
「ええ」
レヴィの手に水色の三角形の宝石が握られており、シュテルの手には紐で結ばれた紫色の丸い宝石が握られていた。
「ルシフェリオン!」
「バルニフィカス!」
それぞれの愛機の名を叫び、起動キーとなるキーワードを叫んだ。
「「セーットアーップ!」」
それがキーとなり、愛機からそれぞれ、『ルシフェリオン』からは朱色、『バルニフィカス』からは水色の光が放たれ、その輝きに包まれると飛び立ち、光を振り切るとシュテルとレヴィは零夢と再会した時の