間桐雁夜はどこまでも魔術師である   作:百目鬼猫

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双眸空虚

「雁夜、いくら刻印虫による底上げがなされたとはいえ、貴様は他の魔術師たちと比べて幾分にも見劣りする。 それは分かっておるな?」

 

「……何が言いたい、臓硯」

 

「なに、言っておる通りのことよ」

 

 召喚陣を挟んで相対している息子に対して、臓硯は嘲笑混じりにバーサーカーを呼ぶための道理と詠唱を教える。

 如何にも合理的な選択であるかのような説明だが実際は、目の前の息子をより苦しませるために魔力消費が激しいバーサーカーを呼ばせようとしている。

 

 それを悟ることが出来ずに素直に自身の話を聞く目の前の愚息に、臓硯は愉悦で腹が捩れてしまいそうであった。

 

 結局のところ、臓硯は今回の聖杯戦争にまったく本腰では無い。

 様子見で済ませようと思っていたところに、丁度いい暇つぶしが家に転がり込んできだけのことなのだ。

 

 それを知らずに、何よりも望んでいたはずの一般人としての人生を捨てて、この魔性の身に縋る目の前の愚息は滑稽に過ぎた。

 

「これで、俺が勝てば……桜ちゃんは救われるんだろうな」

 

「ああ、約束してやろう。 貴様が勝てば、桜は必要なくなる。 遠坂の元にも帰してやろう」

 

 無論、虚偽である。

 臓硯は心の底から目の前の男が負けると確信している。それも、惨たらしく、無様に這いつくばって、何一つ成し遂げることが出来ずに、死んでいくであろうと、臓硯は理解していた。

 

 間桐雁夜という愚か者が、本懐を遂げるなど万に一つも有り得ない。

 だというのに目の前の男は、これから来たる聖杯戦争に一丁前に覚悟を決めているというのが何とも滑稽で、臓硯は笑みを噛み殺すのに必死で仕方なかった。

 

「────では、始めようか。 可愛い可愛い我が息子よ」

 

 魔人はそう嘯いた。

 

 

『────では、始めようか。 可愛い可愛い我が息子よ』

 

「おえぇ〜…きっしょいこと言うなよなぁ…」

 

 間桐屋敷から遠く離れた住宅街の一軒家にて、安楽椅子に腰かけ、コーヒー片手に人形と視界共有をして様子を見ていた雁夜は心底から気持ち悪そうな表情を浮かべる。

 

 時刻は2時前。 そろそろ雁夜の魔力的なピークがやってくる時間だ。

 それは人形も同じで、召喚を行うとしたら今が頃合だ。

 

「それにしても、ここまでよく出鱈目を吐けるな、この妖怪爺は。

なぁにが、お前が勝ち抜くためにパラメータの底上げのために狂化を施してもらう、だよ。

どう考えても、俺を苦しめるためだろうが」

 

 ズズズと、勢いよくコーヒーを啜る。

 実際のところ、自分でサーヴァントを呼び出す場合でもバーサーカーを選択していたから、臓硯の選択が雁夜の計画に支障を齎すことはない。

 

 魔力供給のための環境は出来上がっているし、なにより負担の殆どは人形に行くようにしている。

 だから、正直な話これから召喚されるバーサーカーがどれだけ暴れようとここにいる魔術師・間桐雁夜には関係の無い話である。

 

「それにしても、なぜ臓硯はこんなにも今回の聖杯戦争に消極的なんだ…?」

 

 雁夜にとっての疑問はそこにあった。

 いくら自分や長男である鶴野が不甲斐ないとはいえ、聖杯戦争という大きなチャンスを見逃す理由がわからない。

 

 特に間桐以外の御三家は今回、かなり気合いを入れて此度の聖杯戦争に臨んでいるということを雁夜は一年間の潜伏生活で掴んでいた。

 アインツベルンは外様の魔術使いを雇っている、時臣はなにやらかなりの大金を払って中東から聖遺物を仕入れている、と時計塔時代の伝手や街に放った蟲を通じてそれぞれ情報を掴んでいる。

 

「本来なら、アインツベルンのように外様から誰か雇うなりなんなりすれば良かったはずだ。

それをわざわざ俺を虐めるためだけに参加枠を消費した。 なぜだ?」

 

 実際のところ、間桐臓硯が雁夜人形をマスターとして利用するかどうかは五分五分のところだった。

 想定していたプランとしては雁夜人形を臓硯に殺させて、本体である自分は潜伏してアサシンを召喚して臓硯を暗殺する、というものも用意していたほどには、今のルートは望み薄なものだったのだ。

 

「あの執念深い臓硯が様子見を選択する要因が存在している。 それはなんだ?」

 

 自身の推察では、聖杯戦争の本懐とは恐らくは第三魔法の再現にある。つまり、魔法経由で根源に到達しようとするというのがこの儀式の主題だ。

 

 他の参加者には伏せてあるが、間違いなく御三家はこれを狙うために聖杯戦争という儀式を執り行っている。

 

 第四次聖杯戦争に向けて様々な資料を漁ったが、この推察はおそらく間違っていない。

 では、なぜ間桐臓硯だけが消極的な姿勢を見せている?

 

「……まさか、聖杯になにか不安要素があるのか?」

 

 そんな推察を口にして、すぐに頭の中で否定をする。

 断定するにはあまりにも判断材料が足りない。このままだと仮説に仮説を重ねるという愚考に陥ることは時間の問題だ。

 

「今は、考えても仕方がない……か」

 

 今まさに行われている召喚を見守りながら、雁夜はそう呟いた。

 自分の魔力が消費される感覚がする。負担の割合が少ないはずの本体でこの消費を迫られているということは、雁夜人形の負担は考えるまでもない。

 

「本当に性格が悪いな……あのクソジジイ……」

 

 急速に疲れていく感覚に身を任せて、安楽椅子に身体全体を預けた。

 召喚こそ行われたが聖杯戦争が完全に勃発されるまではまだ時間が残されている。とりあえず、今は休息を優先しよう。

 雁夜はそう楽観的な考えの元、目を瞑り眠りについた。

 

 

 魔術師・間桐雁夜は気がつけば何も無い空間に立っていた。

 目前には、この世の全てに絶望したかのような面持ちの長髪の男が立っている。甲冑を身にまとっている辺り、目の前の男は騎士かなにかかと雁夜はぼんやりと考えていた。

 

「貴様は────なんだ」

 

 目の前の男は、まるで薄気味悪いものを見るかのような目で雁夜を睨みつけている。

 

「満たされているようで空虚───空虚のようで満たされている。

貴様はなんだ───なぜ、そんな目ができる───

己の写し身に苦痛を強いているというのに────なぜそのように平然としていられる」

 

 目の前の男は呪詛を振り撒く。

 だというのに、雁夜は特に動揺することもなく、ただ漠然と目の前の男を見つめている。

 

「貴様を動かすものはなんだ───憎悪では無い───野望ともまた違う───気味が悪い───

理解ができない────」

 

 好き放題言いやがるなぁ、なんてことをぼんやり考えはするものの、口にすることは出来ない。というよりも口なんて部位は今の雁夜には無い。だから一切の音を発することは出来ない。

 そんな荒唐無稽な事実を、雁夜は受け入れていた。

 

「気味が悪い──嗚呼、気味が悪い──

だが許容しよう───貴様が我の憎悪を駆動するために力を供給するのであれば────ああ、例えそれが醜悪な毒虫からの供物であっても」

 

────許容しよう。

 

 

 雁夜が目覚めた頃にはすでに外は朝日が綺麗に昇っていた。

 

「……変な夢を見たせいで目覚めが悪いな」

 

 やや不機嫌そうに呟き、カーテンを開く。外はいつも通りの日常が広がっていた。

 それぞれの家から通勤や通学のために老若男女が出てくる。雁夜が潜伏している家からも夫と息子──もっとも中身は蟲だが──が元気に家から出ていった。

 

「昨日の時点で6騎の召喚が確認された、か。こりゃ、あんまりゆっくりもしてられないなぁ」

 

 教会からの通達を読み、トーストを齧りながら呟く。と言っても、通達が行っているのは雁夜人形の方に向けてであり、雁夜自身は視界共有でそれを覗き見ているに過ぎなかった。

 

 ゆっくりもしていられない、と言っても雁夜自身はやることは少ない。

 ちょっと腕試しついでに時臣に喧嘩を売ってみようかな、なんて計画とは全く関係のないことを考えてすらいる。

 流石に予想される消耗が激しいため、実際にはするつもりはないが、仮に雁夜人形が破壊されかけたりしたら割り込んだりはするかもしれない。

 

 ただこれも聖杯戦争が本格化してからの話なので、今は本当にすることが無い。

 

「仕方ないし、TVゲームでもしてるかぁ」

 

 結局、雁夜はアサシン陣営が動くまでの間、ゲームをして過ごすことにした。

 

 

────表面上はゲームに一喜一憂しているような振る舞いの彼の目は、どこまでも空虚であった。

 

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