間桐雁夜はどこまでも魔術師である   作:百目鬼猫

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進展

「────ア、アサシンが死んだ!!!」

 

 雁夜は叫んだ。

 使い魔越しに遠坂邸を見ていたらなんか全身タイツのアサシンらしきサーヴァントがダンスしながら乗り込んできたと思ったら、なんか金ピカのやば気のやつに跡形も無く吹き飛ばされた。

 その情報を前に、雁夜は叫ばずには居られなかった。

 

「は?は?は? なんだこれ! なんだあのアサシン! なんで踊ってたんだ…!? いやそれはどうでもいい! あの金ピカはなんだ!? 反則だろあれ!!!」

 

 閑静な住宅街の一室で、彼は心の限り叫んだ。

 防音防臭のために魔術的な対策は行っているため外に声が外に漏れる恐れは無い。だから雁夜は一切周りを気にせず叫ぶ。

 

「あれが時臣のサーヴァント…? セイバー…いや武器を射出してたしアーチャーか…?

アーチャーって別に弓使わなきゃいけないわけじゃないんだな……いや、それはこの際どうでもいい!! ……あれに勝てるやつ、いるのか……?」

 

 境界記録帯(ゴーストライナー)の規格外さは事前の調査で把握していたつもりだったが、想定が甘かったことをここに至って雁夜は痛感した。

 

 仮に自身のサーヴァントであるバーサーカーと、つい先程、推定アサシンを討滅した推定アーチャーがかち合ったとしよう。

 果たして勝てるであろうか。一応、バーサーカーがどんな宝具を持っているかは把握している。

 

 『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』であれば、あの武器の射出にもある程度の対処は可能どころか反撃も望めるだろう。しかし、だ。

 

「あの武器の射出は一体、どれくらいの物量を秘めている…?」

 

 先程の金ピカは全くの惜しげも無く無数の武器、おそらくその一本一本が宝具であろう代物を行使するのではなく使い捨てるかのように射出した。

 

 バーサーカーであれば対処は可能だ。しかし、流石に無限にあの射出が続けば話は違ってくる。

 それに問題は武器の射出だけではない。

 

「まず間違いなく、あれよりもヤバいもんを持ってるよなぁ…」

 

 あの金ピカの本気は間違いなくヤバい。

 真名は全くと言っていいほどわからないが、秘めたる宝具は間違いなくとてつもない力を有した代物であろうことは予想に難しくない。

 

 つまるところバーサーカーが金ピカと真正面で当たれば、武器の射出で消耗したところを奴の切り札でざっくりやられる、なんてことになりかねない。

 

「こりゃ、タイマンでかち合えば間違いなく敗退することになるぞ…

臓硯を殺すにはバーサーカー、というかサーヴァントの存在は必要不可欠だ。

でも間違いなく、あのバーサーカーどっかで暴走してあの金ピカか同じくらいヤバいやつに突っ込みそうだよなぁ…」

 

 これは召喚から今日までの数日間で、身に染みて学んだことだった。

 奴はあまりにピーキーなのだ。まだ聖杯戦争はまともに始まっていないのに、まるで赤子のように突発的に暴走しては雁夜と雁夜人形から魔力をごっそりと持っていく。

 

 生粋の独身である雁夜も、なぜかマタニティブルーになってしまいそうだった。

 嘆息とともに最早使い慣れた安楽椅子に身を預けた。

 

「それにしても、アサシンのマスターは馬鹿だな。 初っ端から御三家に突っ込ませるとは……」

 

 考えるはアサシンのマスターの思惑。

 流石に、軽挙妄動すぎやしないかとアサシンの最期を回顧しながら考える。

 

「一騎しかいないサーヴァントを随分と贅沢な使い方したな。 それとも、アサシンを引いて自暴自棄にでもなったか? いや、それとも」

 

 アサシンのマスターそのものが囮だった、そんな考えが間桐雁夜の頭によぎった。

 囮、というよりかはその陣営における本命が別にいる。だから、アサシンを適当に使い捨てた。

 

「例えば、アサシンのマスターが別のマスターの魔術師の弟子かなんかで、師匠のために自身のサーヴァントを使い捨てにした、ってのは十分にありそうだな」

 

 だとしたら、アサシンのマスターが組んでいた人物は聖杯戦争に備えていた人物ということになる。

 外様枠、例えば協会枠からの参加者がそこまで徹底的な謀略を用意するとは考えにくい。御三家の工作により、時計塔などにおける聖杯戦争はあくまで辺境の魔術儀式(※しかも3回も失敗してる)、という程度の認識だ。

 

「つまり、アサシンのマスターは御三家の誰かに従っていた……ってことか」

 

 間桐家はこの一年間、人形を通して見てきたがそんな素振りは一切無かった。だから、考えられるのはアインツベルンか遠坂だ。

 アインツベルンは著名な魔術使いを雇ったという情報がある。 アサシンのマスターがこの魔術使いである可能性は十分に有り得るだろう。

 

 対して遠坂はどうだろう。

 遠坂の陣営にアサシンのマスターがいたとするのであれば、なぜ二騎のサーヴァントを従えているというアドバンテージを捨てるのか、という疑問に直面する。

 

「じゃあやはりアインツベルン……いや…」

 

 仮に今のアサシン討滅が何かしらの意図の元行われたデモンストレーションであったとしたら、どうだろう。

 

「御三家の屋敷なんて皆、使い魔かなんかしらで見張ってるからな…」

 

 今の一幕が狂言だとしたら、なんの目的で行われたか。

 あの金ピカの示威行為も有り得るが、それだと少し弱い。

 

 仮に遠坂陣営によるものだとしたら、何を周知させたいか。

 それは間違いなく、アサシンが敗退したということだろう。つまり……

 

「アサシンは死んでない…ってことか?」

 

 結局、雁夜はその後考えることを一旦やめにすることにした。

 眠りにつきながら、遠坂時臣との戦闘がどこか現実味を帯びていくことを感じていた。

 

 

 

 アサシンが消滅して一日後、埠頭にある倉庫街にて戦況が大きく進行しようとしていた。

 ランサーを名乗るサーヴァントが、わざわざ自身の場所を晒して戦闘に誘ったのだ。

 

 これにより、最初に誘いに乗ったのがセイバー陣営である。

 マスターらしき女性の風貌を見る限り、アインツベルン家の人間?であろうことを雁夜は遠巻きで見ながら察した。

 

「ランサーのマスターは……まぁどこかで観戦はしてるか。 俺みたいに」

 

 雁夜は十分に距離を取った場所で、肉眼で埠頭の観戦に興じていた。

 無論、ただの野次馬根性でそのようなリスクを取ったわけではない。

 雁夜人形がどうやらバーサーカーとともにこの戦闘に参戦しそうだったからである。

 

「多分、時臣も絡んでくるだろうしなぁ」

 

 時臣が絡んでくるということはあの金ピカも絡んでくるということであり、これはさすがに使い魔越しに注視するだけに収めるわけにはいかない。

 

「それに、どうも海の向こうからなんか嫌なのが来てる気配もある」

 

 これに関してはよくわからない。

 気配というよりかは予感に近いその感覚は間違いなく、海の向こうからこの冬木に向かって飛んできている。

 

「……今はとりあえず、目の前に集中するか」

 

 埠頭ではセイバーとランサーが騎士然とした戦闘を行なっている。

 サーヴァント同士の戦いとはやはり浮世離れしていて、人間の領域など当たり前のように超越していた。

 

 雁夜は観戦していて段々と、ヒーローショーでも見ているような気分になりかけていたが、第三者の乱入によってその気分も霧散した。

 

「双方剣を収めよ! 王の前であるぞ! ……我が名は征服王イスカンダル!!此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した!」

 

 イスカンダルを名乗る赤毛の大男の声はかなり離れた位置にいるはずの雁夜にすら届いた。

 クラス名どころか真名すら惜しげも無く披露する乱入者には面を食らったが、雁夜が驚愕したのはまた別の点に対してであった。

 

「おいおい、あれは…」

 

 イスカンダルもといライダーに対してなにやら怒っているマスターらしき青年を、雁夜は知っていた。

 

「ウェイバー・ベルベット……あのクソガキ、マスターだったのかよ…」

 

 雁夜は愕然と、呟いた。

 

 

 決闘騒ぎが起きていた埠頭とはやや離れた港で、二人の邪悪な魔術師が相対していた。

 

「────あーあ、まさかまともに掻き乱せずに退場することになるだなんて、僕も堕ちたもんだね、アハハハハ!」

 

 身のほとんどを蝕まれた少年は、心底から面白そうに笑った。

 対する間桐臓硯は忌々しげに吐き捨てる。

 

「遠くから観戦する程度ならば看過してやったというのに、舞台に上がってこようとするとは、随分と無粋な観客もおるもんじゃのう…早う去ね」

 

「うーん、ちょっとキエフの蟲遣いを舐めすぎてたかも。 ジルに一目会いたかったんだけどなぁ……まぁ、これもこれで面白いよね!」

 

 両者の間で会話は成立していなかった。

 笑う少年の腸が地面にボタボタと音を鳴らして落ちていく。しかし、少年はそれすらも面白いとケラケラと笑った。

 

「とうの昔に魂が腐り落ちたこの身ではあるが、貴様の醜悪さに比べれば幾分かはマシだの」

 

「そうかなー? まぁ、自分のことなんて誰も客観視できないものか! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() !」

 

「……? 何を」

 

 目の前の少年に言葉の真意を問おうとした刹那、少年は沈黙して崩れ落ちた。死んだのだ。

 

「……所詮、狂人の戯言。 気にすることもない、か」

 

 臓硯は少年の亡骸を蟲に処理させ、より一層外部に対する防御を強めた。

 しかし、なぜか少年が最期に遺した言葉が頭から離れずにいた。

 それを誤魔化すかのように、間桐臓硯はその場から離れ、戦地へと這いずりながら向かう愚息を見て、気を紛らわす。

 

 そのようにしている間にも、自身が喰われ続けているとは知らずに。

 

 


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