作者さぁ、この手の「世の中の正義を信じてる無垢な子供」に理不尽を押し付けて大人気なく無双するのが性癖なんだ。
「さて、他の皆の進捗はどうかな?……陛下、繋げてもらっていいですか?」
ヒナタはマナ達の遺骨を踏み砕きながら、虚空に向かって呼び掛ける。
すると間も無く、ヒナタの左目が同心円を描く紫の瞳へと変化する。
"口寄せ輪廻眼"と呼ばれる、持ち主同士の視界を共有する魔眼の一種だった。
「よし、どれどれ~?……」
ヒナタはどこかワクワクした様子で、此処ではない何処かを見つめ始めた。
───
「キャアアアアアアッ!?」
悲鳴をあげながら、キュアブロッサムこと花咲つぼみは地面へと叩きつけられた。
「く……うっ……!」
地面に倒れたまま、つぼみは痛みに表情を歪める。
「もう終わり?」
そしてつぼみに対し、どこか見下す様な目で睨み付ける少女。
「その程度で正義気取りなんて……やっぱり貴女達プリキュアは現実が見えてないのよ」
彼女の名はフラン。天寿星ヴァンパイアの座を冠する
ハートキャッチプリキュアが住む希望ヶ花に派遣された、オーマジオウの精鋭『羅生転臨軍』の一人である。
「そんな事、ありませんっ……!」
つぼみの額から血が流れ落ちる中、それでも彼女は立ち上がる。
「確かに私達は、まだ未熟かもしれません……でもっ、この世界を守りたいって想いだけは、誰にも負けていませんっ……!」
「何一つ自分の物では無いというのに?」
「……え?」
「所詮はその理想も、この世界も、貴女の命すら、陛下の情けで与えられた借り物でしかないのよ」
「……ッ」
「いい加減目を覚ましなさい。貴女達の戦いは、陛下によって仕組まれたごっこ遊びに過ぎないのよ。もう貴女達もこの世界も必要無い、存在そのものが平和を乱す混乱の元よ」
「違う……違いますっ!」
「貴女の意見は求めてないわ、ただ陛下の決定に従いなさい」
フランは言葉を切り、黒い茨を走らせる。
「きゃあっ!」
咄嵯に避けようとしたつぼみだったが、それより速く左腕を貫く。
「あぐぅううッ!」
「もうお終いね」
フランが右手を翳すと、それに呼応する様につぼみの体を茨が縛り上げる。
「やめ、てください……」
「…………」
「お願いですから、これ以上酷い事をしないで下さい……」
苦痛に顔を歪ませながらも、懇願するつぼみ。
「酷い事なんて何もしていないわ、私はやるべき事をこなしているだけよ」
だがフランは、憎々し気に答えた。
「私の役割は、貴女が自分の物だと思っている陛下の力を回収する事。その為に、飼い主に歯向かう愚かなモルモットは躾なければならない」
そう言いながら、フランは掌にエネルギーを凝縮する。
それは黒く禍々しい薔薇を形作り、つぼみに向けて花弁を開く。
「ッ!」
「少しでも仕事の邪魔をした罰よ。精々惨たらしく、苦しみながら死になさい」
「あ、あぁ……っ!」
「さようなら、馬鹿で愚かなキュアブロッサム。──フローラルデスペアー」
そして、黒薔薇から破壊光線が放たれた。
────
「あ~、派手な爆発だねぇ。あれは確か、フランさんの方向かな?」
つぼみとフランの戦場から少し離れた別の戦場。そこでは、二人のプリキュアが襲撃者によって地に伏せていた。
「うぅ……えりか、大丈夫……?」
「いつきこそ……うっ!?」
倒れているのは、キュアマリンとキュアサンシャイン──来海えりかと明堂院いつき。
対する襲撃者は、フランと同じくプリキュアと同年代程度の少女だった。
「ごめん、ちょっとやり過ぎちゃった。まーでも、貴女達が悪いんだよ? 私の邪魔をするんだもん」
少女は呆れ顔を浮かべながら、二人を見下ろす。
「私はユナ。
ユナは両手に着けたクマのパペットから火炎と吹雪を吐き出す。二つの嵐は二人を飲み込みながら水蒸気爆発を起こし、衝撃波と共に砂煙を巻き上げた。
「あ~あ、やっぱり加減が難しいなぁ。これでも手を抜いてるつもりなのに、殺しちゃいそうになる」
ユナがパペットの中で指を鳴らすと、地面が隆起して蒸気を吹き飛ばす。
「う……うぅ……」
「く……うっ……」
そこには全身ボロボロになりながらも、辛うじて息のある二人の姿があった。
「ふぅん? まだ動けるんだ。凄いなぁ、普通の雑魚なら死んでる筈だけど」
「あんたが、こんな事をしたの……?」
「そだよ。いや、目の前で見てたんだから分かるじゃん。それとも何、視力でも持ってかれたの?」
「ふざけないで……! なんで……どうして、こんな酷い事が出来るの……!?」
「えぇ~、だってそれが私の仕事だし。ていうか、その台詞はこっちのモノだと思うけど」
「どういう意味……?」
「私達はこの世界を作った、オーマジオウ──ソウゴさんに選ばれた精鋭。そしてその役割は、平和を乱す存在の排除」
「……!」
「この世界はあくまで、ソウゴさんが暇潰しに作った箱庭世界に過ぎない。持ち主が飽きたら、処分するのは当たり前。不要な物に割いたリソースは回収して、使う物に再分配する。私達がやってるのは、そういう事なの。つまり、今は貴女達が平和の邪魔をしてるって訳」
「そんなの、間違ってる……!」
「それを決めるのは貴女達じゃなくてソウゴさんだから。それに私は、ただこうしてソウゴさんに指示された仕事を忠実にこなしてるの」
「何でそんなに平気そうなの!? 人を殺して、罪悪感とか感じないの……!?」
「全然。貴女達だって、ゲームのキャラメイクぐらいした事あるでしょ? それで出来たのが気に入らなかったら消す、私達からすれば貴女達はそういう存在。いくらでも作り直せる人形でしかないから」
「……ッ!」
「あ~あ、今怒ってる。でも事実でしょ? 貴女達の正義も友情も愛情も、今感じてる怒りも、所詮は予定調和の作り物。本物じゃない」
「違う……違う違う違うッ!」
えりかは立ち上がりながら否定する。だが彼女の心は、ユナの言葉を否定しきれないでいる。
「違わないよ。貴女達は被造物の末端で、私達は創造主の眷族。その力関係が覆しようの無い事実として、目の前の光景を物語っている」
「うるさいっ!」
「そうやって怒るのは、図星を突かれて誤魔化したい証拠。つまり貴女の心は、私の話を受け入れてるって事」
「黙れぇッ!」
えりかは激昂しながら、マリンタクトを構える。
「マリンシュート!」
必殺技が放たれるが、ユナは回避行動すら取らない。
マリンシュートは無抵抗のユナに命中した。
しかし、それはユナの羽織るローブを剥がす事も、立っている場所から動かす事も出来ていない。
「
それどころか、再び呆れた様な表情を向けられる。
「ゴールドフォルテバースト……!」
今度はいつきが技を放つが、まるで虫でも払うかの様に容易く弾かれる。
「この際だから、貴女達と私達の差を分かりやすく説明してあげようか」
えりかといつきの眼前に移動したユナは、瞬時に生成した火球をぶつけて二人を吹き飛ばす。
「ぐぅっ!?」
「うぁあっ!?」
「この世界の武装した一般人がレベル1~10、貴女達プリキュアが強化込みでレベル100だとしたら……」
ユナはそこで一度言葉を切り、絶望的な事実を伝える。
「私達のレベルは──10000000000だよ」
百と百億。それがえりか達とユナ達の決して埋まる事の無い実力差だった。
「な……!」
「そんな……!」
「更に付け加えておくと、私はその中では中の中位。上には上がいるのさ。それでも貴女達に勝ち目が無い事は分かったと思うけど?」
「うぅ……!」
「く……!」
「さーて、どうしよっか。このまま殺しちゃう? それとも、ソウゴさんからの命令通りちゃっちゃと徴収する?」
「誰が、あんたなんかに……!」
「そうだ! 僕達が此処で諦めたら、また別の誰かが犠牲になるだけだ……! 絶対に負けられない……!」
「ふーん、あくまで苦しんで死にたいんだ。変わってるなぁ」
「あたしらは……! 絶対、アンタみたいな奴には屈しない!」
「うん、いいねぇ。その生意気な顔。鼻っ柱をへし折られた時が楽しみだよ」
「この鬼畜……!」
「あははっ、何とでも言って良いよ。私にお人形さんの言葉は響かないから」
「この……外道ぉッ!」
「はいは~い、外道でございま~す」
「許さない……!」
えりかの全身に力が満ちる。彼女は傷付いた身体に鞭打って立ち上がる。
「なっ……えりか!?」
「……マリンハート・エモーション!」
マリンタクトの先端に青い光が集束する。
「マリンシュー──」
「ほいっ」
渾身の一撃を放とうとしたえりかに対し、ユナは軽い掛け声で返す。
ユナがやったのは、早い話が腹パンだった。主に相手を気絶させたり、軽度の行動不能にする程度の攻撃。当たりどころにもよるが、そこまで殺傷能力のある動作ではない。
しかしその一撃だけで、
──えりかの大腿部から鳩尾辺りまでが消し飛んだ。
飛び散った血がシャワーとなって、いつきの全身に降り注ぐ。
「ありゃりゃ。威力調整はしたつもりだったけど、これでも駄目か。貴女達って、ホントに脆いよね」
ユナはグーパーする自分の手を見ながら、えりかに非難の声を向ける。
その声を浴びるえりかの体は、本来の六分の一も残されていなかった。
「あ……あ……あ……」
「う、あ……」
絶命するえりかと心折れたいつきの瞳から、完全に光が失われていく。
「あ~あ、つまんない終わり方だね。ゴーレムにまかせてみれば良かったかなぁ」
ユナは既に
「はぁ、あとはイングリスさんだけか」
ユナはそう言って、一緒に来たもう一人の仲間が戦っている方へ視線を向けた。
◆
「息が上がって来てますね、Ms.ムーンライト」
「ふぅ……ふぅ……、くっ!」
曇天の下、二つの銀色がぶつかりあっていた。
片方はハートキャッチプリキュアの残る一人、キュアムーンライトこと月影ゆり。その顔には疲労の色が浮かび、戦闘装束は全身の無数の切り傷で赤いぼろ切れになっている。
もう片方は、この町に現れた羅生転臨軍の残る一人である
レイピア片手に縦横無尽に駆ける銀髪紅眼の美少女は、ゆりとは反対に手傷も負っていない。それどころか、戦いが長引く程気力が増している様に見える。
「貴女は良い。他のプリキュアの方々とは違い、力に頼らない技術が見える」
イングリスは感嘆の声を上げる。
「ですが、それ故に勿体ない。貴女もやはり、命のやり取りの経験が無い。それさえあれば、貴女はもっと強くなれた」
「どうかしらね……!」
「えぇ、間違いなく。だからせめて、私が貴女に引導を渡し、本当の戦士として陛下のエインヘリヤルに迎えて差し上げましょう!」
途端、イングリスの姿が掻き消える。そして、次の瞬間には腹部に強烈な衝撃を覚えた。
「……ッ!」
ゆりは痛みを噛み殺しながらも、一切その威力を減衰させる事が出来ずに大きく吹き飛ばされる。
「ぐぅっ!」
地面に叩き付けられたゆりは、それでもすぐに体勢を立て直そうとする。だが、イングリスはその隙を与えなかった。
「流石ですね。他のお三方は起き上がる事も、視線で追う事も出来なかった」
イングリスは瞬時にゆりの背後に回り込むと、レイピアを突き出してゆりの膝を貫いていた。
そのままゆりの至近に指を突き付け、圧縮したエネルギーを放つ。
「エーテルストライク!」
「う、ぐぅっ!?」
どうにか体を捻り、急所への直撃は避けるゆり。しかし肩口を抉られ、体勢を崩す。そこへいつの間にか抜いていたレイピアの刀身が迫り、それを認識した頃にはバッサリと袈裟斬りにされていた。
「くっ……!」
「ふふっ、良い表情です。そんな顔も出来たんですね」
「……ッ!」
「さぁ、まだ楽しませてください! 私はまだ満足してませんよ!」
イングリスは嬉々とした笑みを浮かべると、再び姿を消す。
(速い……!)
ゆりは傷だらけになりながら、必死にイングリスの動きを追う。
イングリスの戦闘スタイルは、一言で言えば超高速移動による連続攻撃だった。その動きを目で追い切る事は難しく、一瞬でも意識を逸らせば忽ちの内に致命の一撃を貰ってしまう。
またイングリスの攻撃はその細腕からは想像がつかない程に重く、一撃一撃が必殺級であり掠るだけでも重傷は免れない。加えて、彼女の表面は鉄を凌駕する程の硬度を誇る。
ゆりがごく稀にイングリスの動きを捉える事が出来ても、ゆりの攻撃力ではイングリスの防御を越える事は出来ない。
つまり現状、ゆりは完全に手詰まりの状態に陥っているのだ。
「どうしました? 先程までの威勢の良さが消えていますよ?」
イングリスが挑発する様に言う。
「くっ……!」
ゆりはイングリスの言葉に歯噛みするが、事実何一つ有効な手を打てていない。
イングリスは余裕たっぷりな様子で、この短いやり取りの間にもゆりの周りをぐるりと回り、更に何度も切りつけて無数の傷をつけている。
「ふむ……。そろそろ終わりにしましょうか。貴女の体力も限界でしょうし」
「……」
「それに、私はあまり気が長く無いのです」
イングリスはそう言って、右手のレイピアを振り上げる。
「終わりですよ」
イングリスがレイピアの切っ先に神通力を集め始める。
その動作だけで、彼女が何をしようとしているのかが理解出来てしまう。
「……ッ!」
ゆりはイングリスが技を完成させる前に動く。
だがそれは、これまでの戦いで培った経験則から来る反射的な行動に過ぎなかった。
「遅いです」
イングリスはゆりがこちらに向かってくるのを眺めながら、溜めていた力を解放させる。
「エーテル・ケラウノス!」
瞬間、凄まじいエネルギーの奔流がゆりを襲う。
「あああぁっ!!」
閃光と衝撃の中、悲痛な叫び声を上げるゆり。
電撃を浴びた事で肉体に重度の火傷を負い、全身に激しい痛みが生じる。その上、細胞単位で秒間数億回も撹拌され、ゆりの肉体は内側から崩れだす。
「く……う……」
「ふふふふ、残念ですね。Ms.ムーンライト」
言葉通り、イングリスは残念そうに笑いかける。
「けれど、ごめんなさい。どうやら貴女の可能性は、この辺りが打ち止めの様です。貴女が死んだら、私が口添えして陛下の幕下に加えて貰いますから。そこから一緒に強くなりましょう?」
イングリスはそう言って、ゆっくりとゆりに近付いて行く。
「それでは一旦さようなら。──聖隸」
イングリスは光の翼を輝かせ、力の徴収を開始した。
「がっ、ああああぁぁぁぁっ!?」
ゆりは絶叫を上げ、地面をのたうち回る。
「あ、あぁっ!」
「痛いかもしれませんが、我慢して下さい。これは本来、貴女の力では無いのです。だからこれからは、貴女自身の力で強くなりましょう」
イングリスはゆりを励ます様に声を掛ける。その視線の先で、どんどんゆりのプリキュアの力が、皮膚が、肉が剥がれていく。
「……ッ!…………ッッ!!」
ゆりは血塗れで、苦痛を噛み潰す様な眼差しをイングリスに向ける。
しかしイングリスはニコニコと、その様子を見守るだけだった。
◆
「あ、フランさん! ユナさん!」
数分後、イングリスはフラン、ユナ両名と合流し、互いの成果を報告する。
「どうやら順調に進んだ様で」
「えぇまぁ、苦戦する様な相手でもありませんし。っていうかイングリスさん、また手加減せずにやったでしょう?」
「はい。あ! 一応言っておくと、今回は界王拳も超サイヤ人も、仙人モードも尾獣チャクラも八門遁甲も、
イングリスは悪びれずに言うが、ユナは天を仰いで溜め息を吐く。
『完聖体だけ』とは言うが、先程のユナのレベルの例えを用いて言えば、その完聖体の使用だけでレベルは倍以上に底上げされる。
元々何の強化も乗せなくとも、たった一人だけで世界を滅ぼすには過剰だと言われるのが羅生転臨軍の闘士なのだ。
その闘士が少しでもパワーアップすれば、その災害規模は計り知れない。
「……終わったなら帰るわ」
会話に参加しなかったフランが踵を返すと、その背にイングリスが声をかける。
「フランさん、一緒にご飯でも食べていきませんか?」
「私達は死人よ、食事は必要無いわ」
「そう言わず。私の奢りですから」
イングリスがそう言うと、ユナが口を挟む。
「結束を高めるのも、平和の道じゃない? 折角だし、ご馳走になっとこうよ」
「……好きにして」
「じゃ、行きましょう!」
そうして三人は、まるで人を殺したとは思えない気軽さで町に繰り出した。
──ハートキャッチプリキュア 全滅
はい、誰でしょう? 既に二人程丸分かりな気もしますが。