陰のボスになりたくて!   作:若林布吉

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誤字修正、もうパート3くらいです。疲れてるのかな?


"最強"を見せてやろう

 

「定刻になりました」

 

 構成員の一人がそう告げた。

 アルファは高くそびえ立つ時計塔の上から街を見下ろす。長く綺麗な金色の髪は風にさらわれ、流された。

 

「静かな夜。まるで何も事件なんて起こっていないようだわ」

「そうですね」

 

 デルタにも、やり過ぎないように十分に言い含めておいた。それでも少し不安が残っていたが、杞憂で終わって何よりだ。

 

「ベータ様はシャドウ様に付いているようです」

「そう。彼はどこに?」

「それが……」

 

 構成員の彼女は少し言い淀んだ。

 

「そんなところに……いえ、きっと何か考えがあるのでしょう。私たちも予定通りに動くわよ」

「かしこまりました」

 

 アルファはもう一度だけ街を見下ろし、闇の中へと消えていった。

 

□□□

 

 怪しい組織の拠点と言えば地下水路だ! みたいなノリで来たわけだけど、見事に当たりだったみたい。

 僕は見張りであろう盗賊を斬り伏せ、長い廊下を進む。

 カツカツと無機質な音が一定のリズムで響く。静かな夜だ。

 

「シャドウ様。あちらに──」

 

 ベータの指差す方を見れば、扉の開いた部屋があった。中からは蝋燭の光が漏れ出ている。

 誰かいるのかな?

 

「ベータ、下がっていろ」

「はい」

 

 ベータは一礼して消える。気配を探れば少し離れた後ろにいるみたいだ。

 いや、本当に久々の実力者プレイだ。心が踊るね。

 僕は口元に微かに笑みを湛える。その笑みはプレイの一環でもあり、また、本心の発露でもあった。

 

「少し、遅かったみたいだ」

 

 僕が扉に背を預ければ、聞き覚えのある声がした。

 確か彼は──

 

「ゼノン・グリフィ」

「その通り。"次期ラウンズ"ゼノン・グリフィさ。君が教団に噛みつく野良犬だね?」

 

 ゼノンは余裕の笑みを崩さずに、僕に向き直る。ゼノンの剣先が僕の方を向く。

 

「あなたは……」

 

 高まりつつある緊張感の中、ゼノンの背後から女の声がした。

 これまた、聞き覚えのある声だった。

 って、アレクシアじゃないか。こんなところで何してるんだろう?

 

「我が名はシャドウ。今宵、裏に落ちた陰を狩りに来た」

「雑魚ばかり相手にして増長したみたいだ。しかし、残念だったね。教団の主力はここにいる」

 

 ゼノンがアレクシアのいる台の前に立ち、剣を構える。

 そういえば、ゼノンとアレクシアは結婚するんだっけ?

 ということは、アレクシアが拘束されてるのも、そういうプレイなのかもしれない。

 ここはその秘密を守るための拠点──悪いことしたかな?

 

「────」

 

 ちょっと気が削がれた僕は、ドアから背を離す。

 そのときに見えたアレクシアの瞳は僕に警戒こそすれど、ゼノンに対して敵対心を隠せないでいた。

 なるほど。アレクシアは無理矢理拘束されているのか。ゼノンのことも嫌いみたいだし、遠慮はいらないみたいだ。

 

「次期ラウンズ、ゼノン・グリフィ」

「シャドウ」

 

 互いに名乗りを上げて始まる戦い。うん。かっこいいね。

 僕はゼノンの剣を当たるギリギリで胸を滑らすように躱す。続く払いも、剣先が当たる寸前で避けた。

 僕は腕を組み、ゼノンを見る。

 

「少しはやるみたいだ。ならば……っ!」

 

 ゼノンの魔力が爆発的に高まる。その高まりが大気を、部屋を揺らす。

 悪くない魔力だ。

 でも、それだけじゃアルファたちにだって敵わないよ。

 

「見せてあげよう。これが、次期ラウンズの力だ」

 

 膨大な魔力の奔流と共に、超速の白刃が煌めく。普通なら防ぐことすらままならないだろう。

 けど、その刃が僕に届くことはなかった。

 

「なっ……!?」

 

 ゼノンは驚き固まる。

 いいねぇ、その表情。

 

「それで、教団の主力とやらはどこだ?」

 

 僕はゼノンと背中合わせで立つ。彼の表情が苦痛に歪むのが手に取るように分かる。

 ゼノンは振り向きざまに剣を薙ぐ。

 

「バカなっ!?」

 

 けれど、またしても剣は僕に当たらない。机の上の蝋燭が切れ、床に落ちる。

 僕は腕を組んだまま、壁に寄りかかる。

 ゼノンは動揺を隠せない顔で僕を見つめる。

 

「来ないのか? 次期ラウンズ」

「な、舐めるなァァァッ!」

 

 ゼノンは叫び吠えて、剣を薙ぐ。僕はスライムソードを作り出し、それを受け止める。

 

「──っ!」

 

 ゼノンが烈火の如く連撃を繰り出す。刃と刃がぶつかり合い、激しい火花が散る。

 一見すれば両者は互角。けれど、ゼノンのその表情が全てを物語っていた。

 

「凡人の剣……」

 

 そんな呟きが聞こえる。

 

「アァァァァッ!」

 

 必死の形相でゼノンは吠える。

 

「ふん。所詮は児戯か」

 

 僕はゼノンの袈裟斬りを最小限の動きで躱し、距離を詰める。そして、下から来るつばめがえしもほとんど動かずに避けた。

 

「ぐほっ……!」

 

 ゼノンの腹に蹴りを入れ、吹き飛ばす。ゼノンは壁に叩き付けられ、無様にも這いつくばった。

 

「無様だな。次期ラウンズ」

「……っ!!」

 

 ゼノンが歯を食いしばる。

 

「貴様、一体何者だ!? それだけの力がありながら、どうして正体を隠す!?」

 

 それは悲痛な叫びだった。そして、同時に無力故の叫びであった。

 

「貴様が知る必要はない。我らは陰を狩るだけだ──今はまだ、な」

 

 僕は悲哀の籠もった声で告げる。 

 まぁ、何も悲しみとかはないんだけどね。

 

「フフッ、ククッ、いいだろう。貴様が、貴様らがその気だと言うのなら、私もそれに応えようじゃないか」

 

 そう言って、ゼノンが懐から怪しい錠剤を取り出す。赤い錠剤だ。

 

「覚醒者3rd」

 

 ゼノンがそれを飲むと同時に、凄まじい程に魔力が膨れ上がる。その膨張が暴風を生み出し、室内を荒らした。

 筋肉は引き締まり、目は充血する。毛細血管は体表に浮き出て、別人のようだ。

 

「最強の力を見せてやろう」

「──」

 

 最強。その言葉に、僅かに僕は苛立つ。

 技術とフィジカル。どちらかしか選べないとすれば、僕はフィジカルを選ぶ。

 だが、フィジカルだけでは最強とは呼べない。

 僕の信じる『陰の実力者』は最強であり、技術では決して負けてはいけないのだ。なぜなら、技術は努力の結晶であり、技術の敗北は努力の敗北だからだ。

 ゼノンは今この瞬間、確かにフィジカルでは僕を上回ったかもしれない。

 けど、技術は僕には及ばない。そして、突然増えた魔力を上手く扱えるとは思えない。

 そんな状態で"最強"を語るゼノンに僕は苛立っていた。

 

「醜いな……」

「醜い……」

 

 僕とアレクシアの声が重なる。初めて意見が一致したかもしれない。あんまり話したこともないけど。

 

「醜いだと?」

 

 ゼノンから笑みが消える。

 

「その程度で"最強"を語るな。それは"最強"への冒涜だ」

「貴様ッ!」

「借り物の力で最強に至る道は、ない」

 

 僕の周囲に青紫の魔力が現れる。それは緻密に力強く練られている。

 ──あまり派手にやり過ぎないようにして。

 

「分かってるよ、アルファ」

 

 本当は『アイ・アム・アトミック』を打ちたかった。

 けど、アルファにも事情があるのだろう。わざわざ『シャドーガーデン』の設定まで使って用意していたのだから。

 僕はここまで良い舞台を用意してくれたアルファへの感謝も込めて、『アイ・アム・アトミック』を使うのを止める。

 

「な、なんだ。その魔力は……!」

 

 ならばせめて、最高の"力"と"技術"を見せようじゃないか。

 アレクシアよ、これが『剣の頂き』だ。

 僕は全ての魔力を剣に集中させる。そして、今日一番綺麗な剣を振るった。

 

□□□

 

 それは、今まで見たこともない程に完成された剣だった。

 無駄を削ぎ、数多の修練を重ね続けた悠久の剣──それが、かつてアレクシアの信じた『凡人の剣』と同じであった。

 断末魔を上げる暇すらなく、ゼノンが倒れる。

 漆黒を纏った男──シャドウは剣に振って、血糊を落とす。

 そして、部屋の奥、化け物のいる方を見た。

 

「哀れだな……」

 

 それは悲しみを孕んだ声だった。

 シャドウは高々と剣を上げる。

 ジャララと鎖の音がする。

 

「今は静かに眠るがいい」

 

 先程とは違い、優しい魔力が剣を包む。

 振り下ろされた剣に当たり、化け物が魔力に包まれた。

 光で一瞬見えなくなり、目を開ける。するとそこにはもう化け物はいなかった。

 シャドウは次にアレクシアの方を見る。

 

「目撃者は全員始末するのかしら?」

 

 それがたとえ化け物であったとしても。

 覚悟を決め、せめてその顔くらいは記憶に焼き付けてやろうと睨む。

 シャドウは何も言わずに、ただ剣を振った。

 

「──っ!」

 

 アレクシアを拘束していた拘束具が甲高い音を立て切られる。

 

「……」

 

 アレクシアは久方ぶりに自由になった手をさする。その際も、シャドウから目は離さない。

 そんなアレクシアを一瞥し、シャドウは部屋を出ようとする。

 

「ま、待ちなさいっ!」

 

 あまりの呆気なさに、アレクシアは思わずシャドウを呼び止めた。じんわりと冷や汗が背中を濡らす。

 シャドウはゆっくりと振り返った。

 

「私はアレクシア・ミドガル。この国の王女よ」

 

 自分でもバカなことをしていると分かっている。それでも、ここで何もしないのは王女として失格だと感じた。

 

「あなたの目的を教えなさい。あなたは何なの? どうしてここに来たの? それに"我ら"って、他に仲間が──」

「ふっ」

 

 アレクシアの質問にシャドウは鼻を鳴らす。

 

「我らは『シャドーガーデン』。陰に潜み、陰を狩る者だ」

「『シャドーガーデン』……陰を、狩る……?」

 

 目的らしきものは分かったが、言っていることはほとんど分からない。『陰』とは何を指しているのだろうか。

 

「あ、ちょ、待ちなさい!」

 

 そして、シャドウはそれだけ言って今度こそ立ち去った。コツコツと冷たい音が遠ざかる。

 暗い地下の部屋にはアレクシア一人が取り残された。

 




無事にシドくんは約束を守れたようです。その影響でアレクシア王女は原作よりもシャドウを過小評価しています。まぁ、誤差みたいなものですが
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