陰のボスになりたくて!   作:若林布吉

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グレンとかマルコのキャラが分からない……。おかしな点があるかもしれません。

追記
原作を読み返したのですが、やっぱりマルコはもう少し優しい感じにします。急な変更、申し訳ございません。


【至急】情報求む

 グレンは強く剣を握りしめ、カースを睨みつける。けれども、カースはただ突っ立っているだけだった。敵意や緊張などは一切感じられない。

 自然体のあるがままで、そこにいた。

 

「マルコ、お客さんの相手は俺がやる。バーネット嬢を連れて校長室へ行けっ!」

 

 グレンが叫ぶ。その声には強張った響きが入り混じっていた。

 それは、何故だかは分からないが、グレンの本能が警鐘を鳴らしていたためであり、実際微かに剣先も震えていた。その震えが武者震いでないことは、グレン自身が一番よく分かっている。

 

「バーネット様、こちらへ」

「は、はい!」

 

 一瞬虚をつかれたマルコはしかし、即座にシェリーを連れ退室する。その間も、カースは気味の悪い笑みを浮かべるばかりで、何も行動はしなかった。

 

「見す見す逃してくれるとは、親切なことだな」

 

 煽るようにグレンが言う。対してカースは笑みを崩さない。

 

「親切! これは異なことを言いますね。嗚呼ッ! 世界に懇ろ(ねんごろ)なんてものあるのでしょうか」

 

 カースが虚ろを見つめて剣を抜く。だが、それでもまだ戦意というものは感じられない。

 グレンは剣を構えながら、一歩距離を詰める。

 

「狂人め」

 

 そして、一息に間合いを踏み潰し、切り込んだ。

 

「届きませんよ」

「くっ」

 

 だが、いつの間にかそこにあった剣により防がれる。そして、続く二撃、三撃も易易と防がれた。

 

「世界は美しい。そしてそれ故に無常ッ! どれだけ強かろうと努力しようと、魔力が無ければ子羊同然!」

 

 カースが笑いながら歌うように言葉を紡ぐ。グレンがいくら連撃を繰り出そうと、その不快な歌を止めることは叶わない。

 

「『痩騎士』さんは流石ですねぇ。よく先を見据えておられる。不条理な世界に身を置くからこそなんでしょうか。だとすれば! 嗚呼、なんと嘆かわしいことでしょう!」

「何の話だ?」

 

 グレンが問えば、気味の悪い笑みが一層深くなる。ニィと口の端が吊り上がり、濁った瞳が半月を描く。

 

「向こうには別働隊がいるのですよ」

「向こう? ……まさかっ」

 

 グレンはついさっき退室した部下と、護衛対象である少女の姿を思い浮かべる。

 別働隊の規模は不明だが、マルコ一人では手に余ることは目に見えている。本来なら、今すぐ救援に向かうべきだ。

 だが───

 

「まさか! まさかですが、この場を脱し、救援に行こうなんて考えていませんか?」

 

 目の前にいるカースせいで、それはできそうにない。彼の放つプレッシャーがグレンの選択肢を削っているのだ。

 

「だが、それでも───」

 

 グレンは椅子をカース目掛けて蹴飛ばす。カースはその椅子をものの一振りで粉砕し、破片が飛び散った。

 

「任務を遂行するッ!」

 

 その隙にカースの死角にグレンが潜り込む。そして、下段から剣を払う。

 

「甘い! なんと安直な攻撃でしょうか。嗚呼、嘆きを越して憐れみすら浮かんできますよ!」

 

 けれども、グレンの振るったその剣は防がれた。剣と剣とがぶつかり合い、花びらのような火の粉が散る。

 だが、ここまでは分かっていたことだ。

 

「ダァァッ!!」

 

 グレンはつばぜり合いで剣を押し込む。相手が油断している今だけがチャンスなのだ。

 一歩、カースが押されて下がった。

 

「舐めるなァァァッ!!」

 

 グレンはそこから一気に力のベクトルを反転させ、回転する。そして、そのままその勢いでカースの脇腹を蹴った。

 カースが腹を押さえ、よろける。

 

「あぁ、痛い。痛いですねぇ。そして嗚呼! なんと健気なんでしょう───」

 

 そうして脇腹を押さえたままカースはケタケタと笑う。肩を震わし、不気味な声で、カラカラと笑った。

 続く攻勢をかけようとしていたグレンの剣が止まる。

 

「───だからこその悲劇! 全ての企みも思惑も気泡と化すそれは、まさに悲劇ですよ!」

「くっ、新手か!?」

 

 廊下を歩く足音が聞こえる。マルコたちが行った方と同じ方向からだ。

 よもやもうマルコはやられてしまったのか。だとすれば早すぎる。一体どれだけの戦力を相手方は揃えているのだろうか。

 

「悲しいですか? 不安ですか? 憤ってますか?」

 

 グレンの胸中に無事を信じる気持ちと、最悪の想像が入り混じる。嫌な冷たい汗が背中を流れた。

 カースからは目を離さず、扉を見る。足音は、着実に近づいていた。

 

「おやおや?」

 

 そして、ようやく姿を現すといったところで、どさりと何かが転がった。黒く大きな塊───それはローブを纏った血まみれの男だった。

 

「アーティファクトの……回収……まだ…………情報……求む……」

 

 遅れて、少女が入ってくる。茶色い髪のボケっとした少女だ。黒いボディースーツに見を包んでいる。更によく見れば、エルフだということも分かる。

 

「ほうほう……それは2ndの死体。あなた様はどちら様で?」

「マスターにも……アルファ様にも……名前は言うなって……言われてる……」

「ならばやはり、()()()()ですか? 『痩騎士』さんの最悪の想像は的中してしまいましたか!」

 

 心底愉快そうにカースが笑う。だが、グレンには笑っているようで、怒っているようにも感じられた。

 

「何か……知ってそうな……顔…………教えてくれれば……実験には……使わない………………約束する」

 

 冷たい眼差しで少女が言った。寝不足なのか、目の下には隈ができている。

 

「ノー! 世界はままならないものなのですよ」

「なら……死んで」

 

 少女がそう呟くや否や、少女の影が伸びる。それがそのまま、カースの元まで行き、下から数メートル程の刃が突き出た。

 カースは間一髪で体を捻り、その刃を躱す。

 

「嗚呼ッ怒りが、鬱憤が、憎悪が、満たし満たされ満ちていていて! これこそまさに憤りッ!」

 

 そんな戯言を言いながら、カースが突き出た刃を切り裂いた。切り裂かれた漆黒の刃は存在が嘘だったかのように砕けて、床に散る。

 

「スライム……?」

 

 そして、その刃は液体状になり床に広がった。それは漆黒のスライムのようであったのだ。

 

「絶対に……聞き出す……!」

 

 少女の強い決意の籠もった声が部屋に静かに響いた。

 

□□□

 

 シェリーはパタパタとうるさい足音を鳴らしながら、前を行くマルコの背中を追いかける。

 

「バーネット様」

 

 曲がり角で、マルコがシェリーに止まるよう指示する。そのまま彼は壁に張り付き、警戒しながら先を見る。

 その様子を、シェリーは固唾を呑んで見守った。

 と、そこで、不意に肩を叩かれる。

 

「ひゃ……」

「おっと、声は出さないでね」

 

 思い切り叫び声を上げようとしたシェリーの口が塞がれ、聞き覚えのある声が掛けられた。

 

「ぃおくん!」

「静かにね」

 

 見ればそこには最近友達になった少年、シド・カゲノーがいた。

 彼は人差し指を唇に当て、黙るように促す。そして、シェリーの口を覆っていた手を離した。

 

「誰だお前ッ!」

 

 まさかの出会いへの驚きが落ち着いて来た頃、切羽詰まった声がした。マルコだ。

 剣を抜き、睨みつけるように少年を見ている。

 少年は「ひぃ!」という情けない悲鳴と共に両手を上げる。

 その音に気付いたのか、少年の向こう、廊下の奥から"襲撃者"が姿を現した。だが、瞬きをしたらいなくなっていた。気のせいだったのだろうか。

 

「ぼ、僕はこの学園の生徒ですぅ!」

「その血まみれの服はどうした! どう見ても致命傷だろう!」

「えっ! シド君大丈夫ですか!?」

「こ、これは……そう、奇跡的に一命を取り留めたんです」

 

 マルコは少年の言葉を疑っているようで、剣は向けたままだ。そのマルコに、信じてほしいと少年が涙ながらに訴える。その様子を見ていたシェリーの胸は熱くなり、咄嗟にマルコと少年の間に割って入った。

 

「あ、あの! この人は……友達、ですから……! そ、それで……信用できますっ!」

 

 精一杯に、少年を庇う。その真摯な説得を受けてか、マルコは剣を下ろす。一応は信じてくれたみたいだ。

 

「分かりました……でも───」

 

 マルコがシェリーに耳打ちする。

 

「───彼が何らかのアーティファクトで変装し、生徒の制服を奪った可能性もあります。お気を緩めないでください」

「は、はい……」

 

 口ではそう答えたが、実際シェリーはその可能性はないと考えていた。先程のあの優しい声も、あの手の温かさも嘘には思えなかったのだ。

 シェリーは俯く。

 

「少年、名前を聞いても?」

「し、シド・カゲノーでふ」

「カゲノー君、剣は使えるかい?」

 

 マルコが少年に一本の剣を渡した。それは、道中で斬り伏せた"襲撃者"から奪ったものだった。

 

「一応は……」

 

 少年はその剣を震える手で受け取る。そして、ぎこちない動作で腰に差した。

 

「行きましょう」

 

 マルコはそう言って、先頭を行こうと歩き出す。

 

「あの……」

「どうかしましたか? バーネット様」

 

 そのマルコにシェリーは声をかける。ぎゅっとポケットにあるアーティファクトを握った。

 

「副学園長の部屋に行き先を変えて頂きたいです」

「……それは如何なる理由でですか?」

「……そこに行けば、今の状態をなんとかできる、かもしれません」

 

 いつもは合わせなかった目線を合わせる。友達として、上級生として彼に弱い姿を見せるわけにはいかないと思ったのだ。

 マルコは眉間にしわを寄せ悩むが、早々に答えを出したようで頷いた。

 

「分かりました」

 

 その答えを聞いて、シェリーはほっと胸を撫で下ろす。

 

「『強欲の瞳』……」

 

 シェリーは小さく呟いた。それは、この現象を引き起こせるアーティファクトの名だった。

 そして、彼女にとって因縁深いものでもある。

 

「お母様……お義父様……」

 

 祈るように、シェリーは再び呟く。

 

「あぁそうそう。とりあえず、そのうるさいローファーは脱ごうか」

「は、はい」

 

 少年に指摘されたシェリーは赤面しながらローファーを脱いだのだった。

 




シドくんの行動は概ね原作通りです。別働隊はシドくんとイータの部隊により殲滅されました。
ルスランは原作よりも踏んだり蹴ったりですね。
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