新(オリ)キャラ登場です。因みに、好きなギリシア文字はθです
アルファは椅子に座り、報告書を読んでいた。やがて読み終わったのか、顔を上げてはぁ、とため息を吐く。
「お疲れですか? アルファ様」
「あらガンマ。いいえ、大丈夫だわ」
ガンマはアルファの前にティーカップを置く。カップからは白い湯気が立っていた。
「ありがとう、ガンマ」
そう言ってアルファはティーカップに口を付ける。彼が好きな、上品な味わいだ。
アルファは彼のことを考え口元を緩めるが、すぐに難しい顔になる。
「シャドウと会って三年になるけど、敵は思っていたよりも強大だわ」
──『ディアボロス教団』。
先日襲撃した〈悪魔憑き〉を輸送する一団。迂闊にもその内の一人がその名前を口にしたのだ。
「ガーデンは大きくなった。でも相手の底はまだ見えない……一度、彼と話す必要がありそうね」
「アルファ様!」
今後の方針について思案していたアルファの元へ、ベータが駆け込んでくる。随分と焦っているようで、口がパクパクとしていて、言葉が出ていない。
アルファは立ち上がり、ベータに優しく声を掛けた。
「大丈夫。落ち着いて。何があったの?」
「クレア様が……」
「シャドウの姉ね。彼女がどうしたの?」
ベータは意を決したように、言った。
「クレア様が──攫われました!」
□□□
「このハゲェェー!」
僕はそんな怒号が聞こえる姉さんの部屋からバレないように退散する。
いや残念だ。姉さんは良い人だった。
犯行は夜中に行われたようだ。僕は修行していたので、その間に攫われたのだろう。
「シータか」
気配を消して出てきた僕にピッタリとついて来る人物に話しかける。
その人物はただ無言で頷いた。
彼女はナンバーズの第一席シータだ。『七陰』という名前を決めた後にアルファが連れてきたため、『七陰』ではない。
アルファ曰くまだまだ増えるらしいので、丁度良いだろう。
彼女はアルファたちと比べてもかなり小柄だ。ピンクの髪は腰の辺りまで伸び、黒いローブを着ている。そのローブはかなりぶかぶかで、袖から手は見えず、口元も何故かある襟に隠れていた。
「"組織"のアジト、その候補地」
部屋に着くと、シータは様々な資料を広げて色々説明を始めた。抑揚の乏しいその様は『七陰』第七席イータと通ずるものがあるが、彼女程間が空かずに聞き取りやすい。
僕はほとんど古代文字で何が書いてあるか分からない資料を横目に、シータの話を流し聞いていた。
ある程度聞いたところで、僕は広げられた地図にナイフを投げる。
狙うのは何かありそうなところだ。
「あっ」
狙った場所からずれた。それも大幅に。
「シャドー、どうかした?」
首を傾げて見つめるシータに、僕は咳払いをする。
「そこが奴らの隠しアジトだ。そこに姉さんはいる」
「──! 確かに、こっちの情報と合わせれば、そんな気もする」
「気もするって……」
シータは意外と適当なのだ。
僕はお約束ができて満足した。後は、その刺した位置付近に盗賊がいることを願おう。
「アルファ様に報告してくる」
そう言って、シータは出て行った。
僕は窓から庭を眺めて意味深に呟く。
「我らが陰を知るときは近い……!」
うん。いい感じ。
□□□
その夜、僕らは暗い森の中を走っていた。
「ゼータが先行して見張っているわ……こっちよ」
アルファが前を行き、ゼータ、ガンマ以外の『七陰』が続く。ガンマとシータはお留守番だ。ないと思うけど、また屋敷を襲撃されると大変だしね。
久びさの実力者プレイだ。
「アルファ、先に行く」
「えっ、シャドウ! そっちは──」
少しだけ僕も高揚していたようだ。アルファの静止を振り切り、僕は先行した。
この後結局、僕は盛大に道に迷うのだった。
□□□
「あなたのお姉さんは無事戻って来たみたいね」
「あー、そうみたいだね」
僕は昨夜の実力者プレイに大変満足していた。特に、「ならば潜ろう。どこまでも」なんて最高だった。あのおっさんの名演技には拍手を送りたいね。
「それでシャドウ。『ディアボロス教団』のことなのだけど──」
「ふっ」
「シャドウ?」
しまった。全然話を聞いてなかった。
アルファが小首を傾げて不思議そうな顔をしている。
ここはいつもの──
「皆まで言うな、アルファ」
「シャドウ……」
「敵はこちらの想定していたよりも強大だ」
「──!」
「だがそれがどうした。我らは我らの道を行く。陰に潜み、陰を狩る。それだけだろう?」
一瞬呆けたような顔をしたアルファは、すぐに首を振って笑った。
「えぇそうね。あなたの言う通りだわ」
なんか良く分からないけど、アルファは納得してくれたようだ。
そして、アルファは意を決したような顔になる。
「シャドウ。一つ話があるわ」
「ふむ」
どうやらある"組織"はアルファたちの中で『ディアボロス教団』という名前になったみたいだ。
その教団はなんと世界規模の巨大組織で、〈悪魔憑き〉を適応者と呼んで処分しているみたいだ。
それに対抗するため、一人は僕の補佐に残ってそれ以外は世界に散るらしい。
僕は悟った。彼女たちは大人になったのだと。そして例え一人になっても『陰の実力者』になる決意を強くする。
立ち去ろうとするアルファ。僕はシャドウモードで、呟くように言った。
「孤独な瞳は月の最も満ちるとき、失われし真実を映す」
「シャドウ?」
「ふっ、奴らの好きにはさせないさ。必ず取り戻す」
アルファは顎に手を当てて、考え込む。しかし、すぐに「分かったわ」とだけ言い残し、今度こそいなくなった。
僕は感傷に浸る間もなく、
「ちょっとシドー! 攫われたお姉ちゃんが帰ったのよ! 心配の言葉はないわけ!?」
ほとんど傷の完治した姉さんが僕の部屋に入ってきたのだった。
次回はゼータ回です。(恐らく)書籍やアニメ、マスターオブガーデンにはない話です。あっても悪しからず。