陰のボスになりたくて!   作:若林布吉

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原作を知る方は前半部分(最初の"□□□"まで)を読み飛ばしていただいて構いません。
二章が長くなり過ぎた反省として、同じ展開はカット(もしくは縮小)していく方針にします。


三章 聖域
やられるまでがモブの仕事


『暇なら聖地に来て』

 

 先日、アルファからそんな手紙が届いた。

 今は半焼により前倒しとなった夏休みの最中だ。特にやりたいこともないし、適当に盗賊狩りでもしようと思っていた矢先にその手紙は来た。

 勿論、僕はアルファの誘いに乗った。アルファのこういう誘いは楽しいイベントがセットのことが多いんだ。

 あ、そうそう。聖地というのは、この世界で最もポピュラーな宗教である『聖教』の聖地リンドブルムのことだ。

 聖地までは走れば一日、馬車なら四日くらいで着く距離だ。僕はモブらしく馬車で移動することに決めた。

 けど、それが仇となり、途中からローズと共に移動することとなった。

 いや、僕は断った。角が立たず、明らかに萎縮してますよ! といった感じで断った。

 でも、王族パワーには敵わなかったんだ。

 そんなわけで、僕はローズと同じ馬車で聖地まで旅をした。

 その中で知ったんだけど、聖地では『女神の試練』というイベントがあるらしい。ローズはその来賓として呼ばれているそうだ。恐らく、アルファの誘いもそれに関係してるんだろうね。

 本当はもう少し『女神の試練』の話を聞きたかったんだけど、ローズが途中から変な話を始めたので、それは叶わなかった。

 多分、ローズは何らかの宗教に入ってるんだと思う。呼び方もいつの間にかシド君になってるし。

 それで、ようやく聖地に着いて、僕は一人で安宿に泊まろうと思った。けど、ローズの王族パワーの前に、またしても敗北してしまう。結局、僕は一泊三十万ゼニーの高級ホテルに泊まった。

 それからも、ローズに連れられて、色々なところを回って遊んだ。勿論、僕の出費はない。

 そのとき僕は思ったんだ。寄生型のモブもありではないか、と。

 ……まぁ、そんな冗談は置いとこう。

 そういえば、聖地に着いてローズと街を見回っていたら、ベータと会った。ナツメ・カフカという名前で作家をやってるらしい。代表作は『吾輩はドラゴンである』だそうだ。

 ……丸パクリじゃねーか。

 ベータもガンマみたく、僕の前世の知識を使って荒稼ぎしているようだ。

 いや、いいんだ。君たちは君たちの道を行けば。少し思うところはあっても、僕は気にしないよ。

 言い忘れてたけど、ベータも来賓として呼ばれたそうだ。

 で、翌朝入った温泉には何故かアレクシアがいた。いや、早朝は仕切りがなくなって混浴となるのは知ってたけど。まさかアレクシアと会うとは思わなかった。

 そこではお互いに干渉せず、僕はそれなりにリフレッシュできた。まぁ、少しは会話したんだけど。彼女も来賓として呼ばれてるようだ。

 あと、『女神の試練』についても話してくれた。挑戦者に相応しい古代の戦士が呼び出されて、その者と戦うとのこと。まぁ、大抵は呼び出されることすらないとも言ってたけどね。

 その後もイプシロンと会ったり、ジャガのお土産買ったりと色々あった。

 

□□□

 

 そんなこんなで、僕は今、観客席から『女神の試練』を眺めていた。

 まぁ、メインの『女神の試練』は日が暮れてから行われるらしい。それまでは来賓紹介だったり、何らかの催しだったりがある。

 この世界じゃ、こういう大きなイベントはあまりないから、僕もそれなりに楽しめた。賭け試合で小金も稼げたしね。

 そして夜。

 いよいよメインイベントが始まった。一人目は何処かの騎士団の猛者らしい。

 意気揚々と入った彼は、結局戦わずして会場を去る。古代の戦士は呼び出されなかったのだ。

 それからも単調な展開が続いて十四人目。アンネローゼ・フシアナスというベガルタから流れてきた戦士が、遂に古代の戦士を呼び出した。ボルグというらしい。

 結果はアンネローゼの勝ち。ボルグはあんまりぱっとしなかった。

 それからちょこちょこ古代の戦士が呼び出される。けど、誰一人彼らには勝てなかった。

 分かったことは、あのアンネローゼは強かったってこと。ということは、あのボルグも実は強かったのかもしれない。

 夜も更け、次第に挑戦者の残り数も減っていく。会場が終局への雰囲気を漂わす中、僕はアルファの登場はまだかと思いながら、観戦する。

 また一人、無駄に参加費だけ払う哀れな挑戦者が去っていく。その後ろ姿に秘めたるは哀愁か、はたまた次なる挑戦への情熱か。どっちでもいいや。

 その挑戦者が去れば、実況者が次の挑戦者の名前を高らかに叫ぶ。

 

「────次はミドガル魔剣士学園からの挑戦者、シド・カゲノー!!」

「ん?」

 

 すごく僕に似た感じの人がいるみたいだ。まぁ、世界にはそっくりさんが三人いるらしいから、その内の一人がここにいても不思議じゃないだろう。

 

「勇敢なる挑戦者を拍手で迎えよう!」

 

 会場が拍手で湧くも、誰も現れない。

 ……これは、もしや僕のことだったりするのかな。

 でも、僕はエントリーなんてしてない。第一、僕にそんな金はない。参加費は十万ゼニーもするんだ。

 そうやって現実逃避していると、ふと目に入った人物がいた。ローズだ。来賓席からキョロキョロと会場を見回している。

 

「まさか……」

 

 彼女が勝手にエントリーを? 僕は嵌められたのか。やはり宗教は恐ろしい。

 

「おぅ……」

 

 僕は頬を引きつらせる。

 僕には三つの選択肢がある。やるか、逃げるか、壊すかだ。どれも一長一短がある。

 僕は僅か一秒の間にいつくものシミュレーションをし、悩んだ。

 

「よし……」

 

 そして、一つの解へと辿り着く。

 モブとしての誇り、『陰の実力者』としてのプレイを両立させる素晴らしい案だと我ながら褒め称えたい。

 僕は入口から戦うフィールドへと入った。

 歓声はそのときに最高潮に達したのだった。

 

□□□

 

 アレクシアはただ今入場した少年の姿を眺める。黒髪の特筆すべき点のない少年だ。

 

「────ッ!」

 

 その姿を見たナツメ・カフカという胡散臭い女が息を呑むのが分かった。

 

「どうかされましたか、ナツメ先生?」

「い、いえ、何でもないですよ、アレクシア王女」

 

 絶対なにかある。アレクシアの勘はそう告げていた。

 だが、そんな内面はおくびにも出さずにアレクシアは少年の方を見る。

 

「嘘……」

 

 するとどうだろう。古代文字が反応し、光り輝くではないか。その光が粒子となっめ集まり、人の形を成す。

 

「『災厄の魔女』アウロラ……」

「まさか……」

 

 光が収まり、現れた女を見て、隣のナツメとネルソンが呟いた。

 長い黒髪に鮮やかなヴァイオレットの瞳。薄いローブを纏ったある種芸術を感じる美を持った容姿だった。

 

「アウロラとは? 何かご存知で、ナツメ先生?」

「いえ、私も名前だけしか知りませんが……」

 

 嘘を言っているようには思えない。胡散臭いが、その言葉だけは信じることにする。

 

「あんな少年が……いやしかし、そんなはずは……」

 

 ネルソンが目を見開いてまじまじとアウロラを見ていた。心なしか、その視線は彼女の胸元に……

 

「気持ち悪いわ」

「気持ち悪いですね」

 

 それに気付いた二人が同時に呟く。初めて意見が一致したかもしれない。

 

「大司祭代理様、何か知っているのでしょうか?」

「あれは、かつて世界を混沌に導いた『災厄の魔女』。歴史上で最強の女でしょう」

 

 未だ驚愕の衝撃から逃れられていないのか、アウロラから視線を外さずにネルソンは答える。

 それを聞き、訳知り顔の二人に遅れ遊ばせながらも、アレクシアは驚愕に息を呑む。

 

「ポチ……じゃなくて、あのシド・カゲノーという少年は何者なの……」

 

 そんな怪物を呼び出せるとは……。

 因みに、ポチとは昔飼っていた犬の名前だ。

 少年とアウロラはしばらくの間見つめ合う。その姿を見て、アレクシアは何故だか二人が会話しているかのように感じた。

 ()()()()()の出現に湧いていた会場も徐々に熱を失い、やがて静寂に包まれる。その静寂に含まれるのは中々始まらない戦いへの困惑や苛立ち、そして、今までのどの戦士とも違うアウロラへの期待だった。

 

「頑張ってください。シド君……!」

 

 ここまで会話に入って来なかったローズが祈るように手を組む。というか、完全に意識はあっちに向いているようだ。

 そうして、会場全体が妙な緊張感に包まれた頃、戦いは突然に始まった。

 

「シド君……!」

「シャ……!」

 

 アウロラから放たれた一本の赤い槍が少年に突き刺さる。少年はそのまま吹き飛び、壁と衝突した。

 激しくほこりが巻き上げられ、少年の姿は確認できない。しかし、少年が最初いた場所から伸びる赤黒い線がその傷の重大さを言い表していた。

 

「これは……駄目ね」

 

 あの出血では致命傷だろう。

 顔見知りが死ぬのはアレクシアと言えど心が痛むが、元々死ぬ可能性のある試合なのだ。仕方がないだろう。

 会場全体に諦めや失望の雰囲気が漂う。

 そんな中、その声は酷くクリアーに響いた。

 

「我が名はシャドウ。今宵、聖域に眠りし記憶を解き放とう……」

「シャドウ!?」

「シャ……!」

 

 アウロラに相対して、漆黒のロングコートを身に纏う男が立っていた。

 




かなり巻きすぎた感はあります。
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