陰のボスになりたくて!   作:若林布吉

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最近筆の調子がいいです。


四章 ブシン祭
それってどこの特戦隊?


 僕は今、騒然と湧く街を見下ろしていた。

 様々な人種や国籍、文化を持つ人々が入り乱れる王都。けれど、そんな彼らでも、確かに"『ブシン祭』を楽しむ"という目的だけは一致していた。

 今後とも決して交わることのない人々と、奇妙な一体感が生まれていたのだ。

 僕はこの雰囲気は好きだ。何かありそうな感じがする。

 

「ふっ……約束の時間だな」

 

 僕は薄い笑みを張り付け、群衆の中へと紛れ込んだ。

 

□□□

 

「お待ちしておりました。主さま」

「ふむ……」

 

 『ミツゴシ商会』王都支店を訪れた僕は、何やかんやであの玉座の間に通される。すると、そこにはガンマがいた。

 因みに、約束していた時間より五分だけ遅れてしまった。

 

「すまない。遅れた……」

「いえっ! 主さまにも何か事情があったことはお察しいたします!」

「ふむ……そうか」

 

 特に事情はなかったけど、そういうことにしておこう。こういうときに、実力者の設定は役に立つ。

 僕は玉座に座り足を組む。前見たときと同じように、ガンマと美女が跪いていた。

 いいね。何度見ても良い光景だ。

 

「例のものは?」

「準備はできております」

 

 ガンマがパンパンと二度手を打つと、扉が開き、何やらカートに乗ったそれが運ばれてきた。

 

「主さまの『陰の叡智』を参考に、改良を施したスライムです。魔力を流すと本物の肌と遜色ない質感に変わります」

「へぇー」

 

 僕はそのスライムを顔に付けて、薄く伸ばす。何だか、顔に粘土を貼り付けただけって感じだ。

 

「失礼します」

 

 そんな感想を抱いていると、ニューの声がした。彼女は彫刻刀のようなナイフを取り出し、

 

「どのような顔にいたしましょう?」

 

 どうやら、彼女がメイクしてくれるみたいだ。確か、前に会ったときメイクが得意だと言っていた気がする。

 

「そうだね……」

 

 僕は思案する。

 ぶっちゃけてしまえば、僕は僕以外の人物に成り切れればいいのだ。『ブシン祭』にシドとして出るのは勿論、シャドウとして出るのもなんか違う気がするからね。

 けど、『ブシン祭』には出たい。『ブシン祭』に出て、「何だあいつは!?」的なムーブがやりたいのだ。

 そんな僕は、頭をフル回転させて考える。どうすれば、より楽しいかを。

 

「あっ」

「……? どうかしましたか」

「ふむ……いや、何でもない」

 

 そんなとき、天啓が舞い降りた。『女神の試練』以来二度目の天啓だ。……ずいぶんスパンが短いね。

 

「あまり強くなさそうな感じで頼む」

「強くなさそう、ですか。承りました」

「それと、男じゃなくて女にしてほしい」

「ぶっ!?」

 

 ガンマが突然コケる。歩いていないのにコケるなんて、なんて器用なんだ。

 むくりと起き上がったガンマは鼻から血を出していた。

 

「主さまが、女装されるのですか!?」

「……あぁ」

 

 イメージしてみたんだけど、うん。かなり良いと思う。

 ───国中が注目する大会に、突如として現れた不気味な仮面の戦士。その戦士は全身を漆黒のコートに包み、性別さえ分からない。だが、圧倒的な強さを持っていた。

 その戦士が、決勝でマスクを取ると、なんと女だった!

 ……といった感じだ。

 この世界じゃ、女性が強いことは珍しくはないけど、それでもインパクトはあると思う。なんなら、マスクを取るまでは男っぽい声にしてみるのもアリだ。

 

「女性役が必要だというのなら、ガーデンの構成員が……なんでしたら、私、ガンマもおります!」

「それは分かっている。だが……すまない」

「主さま……分かりました」

 

 僕が全てを悟ったような低い声で謝れば、ガンマも何かを悟ったように息を呑む。

 何も分かりあえてはいないけど、言葉にしなくても伝わる思考。僕は高い所と、このシリーズが好きだ。

 

「……それでしたら、スライムを使わずとも可能だと思いますが」

 

 そうやって訪れた静寂を破ったのは、そこまで沈黙を守っていたニューだった。

 

「ほう……」

「シャドウ様は素材がとてもよろしいので、ウィッグと多少のメイクで、かなり美人になれると思います」

 

 マスクを外せば下は美女……これもアリだね。むしろいい。

 

「だけど、それでは毎回メイクが必要になるでしょう?」

「それは、そうですが……」

「まぁ、いいんじゃない? 僕も多少はメイクできるし」

 

 変装は『陰の実力者』の必須技能だ。これを会得することで、実力者は神出鬼没の称号を手にできるのだから。

 

「ですが、声は……」

「───これでどうだ?」

「───っ!?」

 

 僕は声帯をイジって声を変える。若干姉さんの声に似ている気がする。

 

「これで、どうかしら?」

「……流石です。主さま」

 

 ニューも頷いていた。

 

「よし。ならば、これで行こう……いいえ、行くことにするわ」

 

 それから僕は、ニューにメイクを教わった。

 

□□□

 

 『ブシン祭』参加受付の前にはそこそこ長い列ができていた。筋骨隆々の歴戦の猛者のような者もいれば、最近剣を持ったばかりだろう若者もいる。

 アンネローゼ・フシアナスも、先程まではその内の一人だった。

 

「何かしら?」

 

 後ろの方がざわついている。

 既に受け付けを終え、帰路についていたアンネローゼは踵を返す。

 

「やんのか、このヤローッ!」

「テメー、誰に喧嘩売ってんだ? あぁ?」

 

 人が集まり円となった中心で、二人の男が睨み合っていた。掴みかかりそうな雰囲気だ。

 

「まったく……」

 

 どこへ行っても、このような手合いはいるのだ。大抵は、大して力を持たない弱者同士であることが多いが、偶に実力者も混ざっていたりする。

 死人が出る前に止めようと思い、アンネローゼは見物する。

 周囲からは歓声や野次が飛び交う。

「いけいけーぇ!」だの、「やれやれーぇ!」だの、無責任にも程がある。

 そして、とうとう睨み合っていた男の片方が手を出した。

 

「いたっ、やったなこのヤローッ!」

 

 そうなれば殴り合いが始まるのは必然。周囲の賑わいはさらに増す。

 

「……素人ね」

 

 キレのない動き、次がない途切れ途切れの攻撃、過度な回避。精錬さなど一切感じられない。

 

「そろそろ止めよう」

 

 だが、そんな戦い……いや、喧嘩でも決着はつく。最初に殴りかかった男は、立つこともできなくなったのか、膝から崩れ落ちる。

 しかし、その状態になってももう一人は止まろうとしなかった。馬乗りになって尚も攻撃しようとしている。

 

「ちょっと、そこまでに……」

「───邪魔」

 

 その声が響いたのは、アンネローゼが出たのとほとんど同時だった。

 真っ黒な衣装に全身を包み、顔には狐の仮面をした人物が円の中心に割って入る。仮面のせいでくぐもっていたのか、その性別の判断さえできない。

 

「何だお前は!」

 

 水を差された男は、気分を害されたのか声を荒らげて立ち上がる。

 

「邪魔」

「うるせぇなぁ!」

 

 そして、血まみれになった拳を仮面の人物に叩きつけた……はずだった。

 

「あっ?」

 

 だが、その拳は宙を切る。何が起こったのか分からず、動けない男の横を、仮面の人物は悠々と通り過ぎる。まるで、何事もなかったかのような様子だ。

 

「くそっ、何だお前ッ」

 

 男は通り過ぎた仮面の人物の背後から殴りかかる。けれど、それも同様に空振ってしまった。

 

「一体何が起こってるんだ……」

 

 ギャラリーの誰かが呟いた。

 先程まで過度な興奮状態にあった男も、気が抜かれたように大人しくなっている。

 仮面の人物の前方で円が割れる。誰も、この不気味な人物に関わりたくないのだろう。

 だが、アンネローゼには分かる。()の人物が持つ圧倒的な技量が。

 彼の人物は、男が殴る直前で半歩だけ横にズレたのだ。そして、絶妙な歩法であたかも歩いているようにしながら、パンチの軌道上から逃れたのだ。

 

「待って!」

 

 アンネローゼは声を上げた。

 ギャラリーの視線がアンネローゼに集まる。それは好奇の目であり、不安の目であり、いずれもが固唾を呑むのが分かった。

 仮面の人物はゆっくりと振り返る。

 

「アナタ、名前はなんて言うのよ」

「……ギニュー・モリータ」

「ギニュー……」

 

 ギニューはそれだけ言って立ち去った。

 

 もう、喧嘩をするような雰囲気ではなかった。

 

□□□

 

 無事受け付けを済ませた僕は、ルンルン気分で帰宅していた。帰りに『まぐろなるど』に寄ったので、僕の手にはサンドが二つある。

 

「そういえば、さっきの人凄かったなぁ」

 

 『まぐろなるど』での出来事だが、袋いっぱいにサンドを買うエルフがいたのだ。大食い選手かな。

 それはともかく、今日は大成功だった。

 僕が受け付けに行くと、丁度喧嘩をやっていたみたいだった。乱入しないで行くか迷ったけど、結局頃合いを見計らって乗り込んだ。

 結果は上々。

 周囲の人々は、僕が去った後、「何だあいつは!?」と賑わっていた。

 

「本戦が楽しみだ」

 

 本戦をより盛り上げるために、帰ってからイメトレをしなければ。

 

「油断大敵ですよ、シド君」

「……ローズ先輩か」

 

 僕の首筋に冷たい感触がある。多分、練習用の細剣だ。殺気を感じなかったから、反応しなかったのだ。

 

「やぁ、練習かい?」

「えぇ、少し時間ができたので剣を振りに。『まぐろなるど』の行ったのですか?」

「うん。あそこの店長さんとは知り合いでね」

「そうなんですか」

 

 僕は食べ終わったサンドの包みをポケットにしまう。

 

「ごめんなさい。名残惜しいですが、そろそろ時間なので失礼します」

 

 ローズはそう言ってお辞儀する。辺りはもう、薄闇に包まれていた。

 

「うん、またね」

「……あの」

 

 失礼すると言ったのに、ローズは何か言いたそうだった。

 

「どうかした?」

「……これから、お父さまと会います。そこで、婚約者が紹介されるそうです」

「そうなんだ……おめでとう、とは言わないでおくよ」

 

 彼女はそれを望んでいないように思えたから。

 

「私はオリアナ王国の王女です。王女として多くの期待を背負い、生きてきました。ですが、私はそれをワガママで裏切りました」

「うん」

「もしかしたら、私はまた多くの期待を裏切るかもしれません」

「うん」

 

 ローズは悲しげな表情で微笑んだ。

 

「ですが、今度は私のワガママではありません……いえ、どうでしょうか……」

 

 彼女はゆるゆると首を振る。

 

「もし……もし、何かあったら、シド君は私のことを信じてくれますか?」

「分かった。信じるよ」

 

 彼女はほっとしたように、息を吐く。

 

「あなたに信じていただけるなら、私はそれ以上は望みません。また、こうやって話せることを願っています」

 

 ローズは顔を隠すように俯いて、そのまま立ち去ろうとする。

 

「ねぇ」

 

 僕は彼女を呼び止めて、持っていたもう一つのサンドを投げた。

 

「これは……」

「あげるよ」

「……ありがとう」

 

 ローズは柔らかく微笑んだ。

 




シドくんはジミナではなく、ギニューとなりました。因みに、漢字表記は「偽乳」です。ゆったりしたコートで隠してはいますが、ばっちり盛ってます。
イプシロン「───!?」
ノリだけで書きました。
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