陰のボスになりたくて!   作:若林布吉

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遂に学園へ


これぞモブの戦いだ!

 僕は馬車に揺られながら、外の景色を眺めていた。

 乗り合いの馬車には多くの人がいる。僕は馬車に乗る大勢の一人だ。うん、モブっぽいね。

 貴族は15歳になると王都の学園へ通うのがこの国の慣習である。

 そう、僕は15歳になったのだ。

 僕が通うことになる『ミドガル魔剣士学園』は大陸最高峰の魔剣士学園で、国内はもちろん、国外からも将来有望な魔剣士が集まるらしい。

 僕はこの学園生活をモブとして過ごして、裏では『陰の実力者』として色々なイベントを楽しみたいと思っている。

 

「わくわくするね」

 

 僕は胸の高まりを覚え、微かに笑みを湛えたのだった。

 

□□□

 

 僕が入学してから2ヵ月が経った。僕はその間、情報収集と理想的な人間関係、地位の構築に勤しんだ。

 その成果は上々だ。

 まず、この学園、そして隣の学術学園のネームドキャラは大体把握した。

 今最も大物であろう人物はやはり、この国の第二王女アレクシア・ミドガルだろう。

 才色兼備で民衆からの支持も高い。剣に関してあまり良い噂は聞かないけど、完璧人間と言って差し支えないと思う。

 その他にもちらほら主役級がいる。彼らとはあまり関わらない方向で行こう。

 次に僕の成績なんだけど、中の下をキープしている。まぁ、大体はカンニングしてモブ水準に調整してるんだけどね。

 最後に、僕は二人のモブくんたちと友達になった。ヒョロ・ガリとジャガ・イモだ。

 ふっ、彼らの詳細説明なんていらないさ。なんて言っても、彼らは僕の認めた天然もののモブなのだから。モブの詳細なんて知りたい人がいるだろうか、いやいないね。

 

 そんなわけで僕は今、夕焼け色に染まった学校の屋上にいた。

 どんなわけかと言えば、先日の魔力測定で最下位は告白するという賭けをしたのだ。勿論僕は魔力を抑えたので負けた。

 けど、これは考えようによってはチャンスだ。

 

『興味ないわ』

 

 その一言により、今まで百人余りの男たちが彼女に告白しては無惨にも散ってきた。

 僕もこの波に乗り、『罰ゲームに負けて女子に告白』という実にモブらしいイベントをこなすのだ!

 僕は授業から解放され、帰宅する生徒諸君を見下ろしながら、精神を整える。

 僕は今日、このときのために、日々先達諸君の情報を集め、昨夜は夜なべしてまで練習をしてきたのだ。最早、今の僕にモブ度で勝る存在などいはしない。

 

「来たね」

 

 屋上の扉が開き、アレクシア王女その人が現れる。

 僕は微かに表情を強張らせ、彼女と対面した。

 

□□□

 

 アレクシア・ミドガルは、屋上へ続く階段を登っていた。コツコツと無機質な音が一定のリズムで鳴り続ける。

 

「シド・カゲノーとか言ったかしら?」

 

 無謀にも、この国の王女である自分に告白しようとする男爵家の人物の名だ。

 今どき実にベタなもので、アレクシアの机に手紙と花を添えての呼び出しだ。

 面白味に欠ける手紙に、面白味に欠ける花。場所も放課後の屋上と、何十回と見たシチュエーションだ。

 本来なら断る所だが、この状況は大変都合がいい。

 アレクシアは人前では見せない邪悪な笑みを浮かべた。

 

 アレクシアは屋上へと出る扉を開ける。

 薄暗い空間に赤みがかった斜陽が差し込んだ。

 アレクシアは自分の肘を抱える。

 

「それで、話って何かしら?」

 

 そう問いかけつつ、相手の身なりを観察する。

 黒い髪に黒い瞳。平凡な顔立ちだ。制服の着こなしは普通で、改造などはないが、ネクタイを緩め、袖を捲くっている。アクセサリーの類はなく、靴なども一般的なものだった。

 ぱっとしない平凡な青年。それがアレクシアの第一印象である。そしてそれは、アレクシアからして僥倖であった。

 

「アレクシア王女」

 

 シドは片膝をつき、花束を差し出す。

 

「僕があなたを必ず幸せにしてみせます」

 

 真摯に訴えるが如く、シドは言う。

 

「例え槍が降ろうと、魔力が失くなろうと僕があなたを守ってみせます」

「……」

 

 それは無理だろうとアレクシアは思った。

 

「あなたは例えるなら太陽です。世界の中心で輝き──」

「…………」

 

 長い。長過ぎる。

 今もつらつらと世迷い言を述べる青年にアレクシアは苛立つ。とんとんと人差し指で腕を叩く速度が徐々に早くなった。

 一言、付き合ってくださいと言えば承諾して終わりなのに。無駄な時間がどんどん流れていく。

 

「──ので、あなたの側にいたいのです。アレクシア王女」

 

 ようやく終わるのだろうか。吐き出したくなるため息を呑み込み、アレクシアは続く言葉を待った。

 

「僕と──結婚を前提にお付き合いください!」

 

 分かりました、と答えようとしたアレクシアの口に待ったがかかる。

 考えれば分かることだ。男爵家の人間が王族と結婚などできないと。

 周りからの反対は間違いなくあり、駆け落ちでもしなければ実現できないものだ。

 アレクシアもそのくらいのことは分かっている。ここでは「はい」と答えて、後でそれを理由に断ればいいのだ。所詮は"当て馬"なのだから。

 だが、アレクシアの口から肯定の言葉は出なかった。

 "結婚"と聞いて、嫌な顔が思い浮かんだのだ。

 結局、アレクシアはいつものように「興味ないわ」とだけ答えてその場を立ち去った。その間、一度も振り返ることはなかった。

 故に気が付くことはなかった。振られたはずの青年が満足そうに笑い、振ったはずの自分が唇を噛んでいる事実に。

 

 アレクシアは、自分のことが少しだけ嫌いになった。

 

□□□

 

「顔を上げてください。シドくん」

「お前の勇姿はしっかり見届けたぞ」

「二人ともありがとう」

 

 ヒョロとジャガの慰めに、僕はお礼を言う。

 僕は落ち込んだ風を装ってはいるが、反面内心は達成感に満ちていた。

 昨日の告白は、僕の独自の調査で、多く見られた告白の仕方のパターンをいくつか組み合わせたものだ。使う言葉から選び抜き、アナウンサーにも匹敵する滑舌で流れるように言い切った。

 今回の告白には、もう一つ『緊張でガチガチのモブ』という選択肢があった。

 けど、結局は『大勢に同化するモブ』を選んだのだ。

 僕らは日替わり定食980ゼニー貧乏貴族コースを食べ、午後の授業へと向かう。

 今日はいつもより、世界が明るく見えた。

 




本当はヒョロくんかジャガくんを"当て馬"にする予定だったのですが、それだと後の拷問で自分が犯人だと自供していまいそうなのでやめました。
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