各キャラクターの魅力を最大限引き出したつもりです。
「───フェンリル。それが俺の名前さ」
少年───フェンリルはニヤリと笑い、剣を抜いた。
「こいつがフェンリル……」
「……思ってたより小さい」
「君に言われたくはないね」
フェンリルに続いて、ゼータ、シータ、ニーナもそれぞれ己の得物を手に取った。
コミカルな会話とは裏腹に、張り詰めた空気が漂う。
最初に仕掛けたのは───シータだった。
「先手必勝」
「ぬっ!?」
何やら一瞬、魔力を溜めたかと思えば、とてつもない速さの直線軌道で、フェンリルの目の前までやって来る。
そして、勢いそのままに、ボディーブローをお見舞いした。
「また突っ走って……」
体をくの字に折ったフェンリルに対し、シータが更に連撃を打ち込む。
凄まじい速さで打ち込まれる拳や蹴りに、フェンリルは為されるがまま、不器用なダンスを踊るが如くであった。
「むっ」
「少し大人しくしてろ」
だが、そんな一方的な状況は長くは続かない。
顔面を殴ろうとしたシータの拳が掴まれる。そして、フェンリルは片手でシータを地面に叩きつけた。
「うっ……!」
「まだ終わりじゃないよ」
更に今度は首を掴んで、再び地面にシータを叩きつけようとする。
「相手はシータだけじゃないよ」
「おっと」
その寸前、楕円軌道を描き、フェンリルに接近する影があった。チャクラムだ。
その飛来するチャクラムを躱そうと、フェンリルの体勢が一瞬崩れる。その隙に、シータが体幹で足を持ち上げ、フェンリルの体を踏み台に跳んで離脱する。
チャクラムはフェンリルの服を軽く切り裂き、ゼータの手元に戻った。
「危なかった……ナイス、ゼータ」
「油断し過ぎ。もう少し緊張感を持って」
「……善処する」
二人は軽口を交わしつつ、前方を見据える。
そこには、唇から出た血を拭う少年の姿があった。
「この程度かい? 『シャドーガーデン』の実力というのは」
「まさか」
「まだ一割も出してない」
フェンリルの見え見えな挑発に、二人は淡々と答える。
「シータまだいける?」
「……全然余裕」
「そう来なくっちゃ」
実際、先程床に叩きつけられていたが、そのダメージを負っているようには見えなかった。
「まぁ、久方ぶりの遊び相手なんだ。焦らずゆっくりと楽しもうじゃないか」
そう言うと同時に、今度はフェンリルが仕掛けた。
無駄なく洗練された踏み込みで、一気に自分の間合いまで詰めてくる。そしてそこから放たれる一閃は、ゼータの首を狙う。それはまさに長年剣を振り続け、無駄を削いだ剣だった。
「ほう……」
だが、それは言ってしまえば無駄を削いだだけ。特筆するほど速くもなければ、独特のリズムがあるわけでもない。
ゼータは簡単にスライムソードで防いでみせた。彼女の主の剣は、もっと洗練されている。
そうして、防がれたことでできた空白に、割って入った影がある。シータだ。
横合いから滑り込むように現れた彼女は、手に持った短剣をフェンリルの右腕に突き刺した。
「悪くはない」
しかしフェンリルは、赤い鮮血が飛び散るのもお構いなしに、懐に入ってきたシータを剣の柄で殴る。こめかみを打ち抜かれたシータの意識がブレた瞬間に、追撃の蹴りを腹に入れ、吹き飛ばす。
「思った以上に手応えがな……うん?」
フェンリルは何か違和感を覚え、首を傾げる。だが、それが分かる前に背後に気配を察知した。
「ボクのことも、忘れないでよねっ!」
その気配の正体は、開戦当初から様子を伺い続けていたニーナだった。彼女の剣は『シャドーガーデン』のシンボルたる剣で、実力はその中でも頭一つ抜きん出たものだった。
だが、それでもこの場にいる者たちからすれば、ワンランク落ちるのは事実である。
振り向きざまに振られた一閃は、容易くニーナの刀身を打ち砕く。
「剣筋は悪くない。後百年も修業すれば、俺にも届き得る……でも、それだけだ」
「くっ……!」
ニーナは間一髪で眼前を通り過ぎる刃を躱す。数本の髪の毛が切られ、はらりと落ちた。
「ナイス、ニーナ」
剣を失い、下がるニーナと入れ違いに、起き上がったシータが突っ込む。
「またそれかい。もう見飽き……」
そして、勢いは殺さず最短距離で、フェンリルにタックルする。更にその最中に、腰に手を回し、抱きついた。
「何の真似だ……ん?」
体幹で何とかバランスを保ったフェンリルが、シータの奇行に眉を
「やっちゃえゼータ」
シータが呟いたのと、フェンリルが上を見上げたのはほとんど同時であった。
先程感じた違和感───あるべき姿が見えなかったという違和感の正体に思い至る。
「お待たせ」
上空、漆黒の剣を大上段に構える獣人の姿が見えた。その周囲で、凄まじい程の魔力が渦巻いている。
「奥義───」
落ちてくる。自由落下に身を任せ、圧縮された魔力と共に、落ちてくる。
「あい・あむ───」
ばっと、フェンリルの動きを止めていたシータが離脱する。先程も見せた、超高速直線移動だ。
だが、そんなことはどうでも良かった。
フェンリルの目は、上空の光景に釘付けだったのだから。
「───あとみっく・もどき」
世界が真っ白に染まった。荒れ狂う魔力の奔流が世界を染めた。
□□□
「やった?」
「シータ、こういうとき、それは言っちゃ駄目だよ」
「どうして?」
「シャドウが言ってた」
「ふーん」
砂ぼこりのような、白い霧が辺りを包む中、呑気な話し声が響く。だが、内容は気の抜けたものであるが、声は硬かった。
「今のはシャドウ様の……?」
ニーナは混乱しているのか、首を巡らした。勿論、シャドウの姿は見当たらない。
「違う違う。今のは私がやったの」
「それは……すごいですね」
「まぁ、主ほどの威力は出ないんだけどね。でも、主が私を助けてくれたときと同じくらいは出てる……といいな」
ゼータが懐かしむように、目を細めた。
「ゼータ様───」
「ククク、死ぬかと思ったぞ」
「───っ!」
ゆっくりと白い靄が晴れる中、しわがれた声が響いた。
「あれ程の魔力、流石は〈悪魔憑き〉と言ったところか」
「お前は……!」
声のしたそこに立っていたのは、白髪の老人だった。今にも折れてしまいそうな程体は痩せ、深い皺がいくつも顔にはある。
だが、その見た目とは対照的に、与えてくるプレッシャーは一段と強まっている。
「それが本当の姿ってわけか」
「ククッ」
見たところ傷はない。シータに刺された傷も、『あとみっく・もどき』による傷もなかった。
ぽろぽろと、老人───フェンリルの手の中で剣の柄が崩れ落ちる。既に刀身はなかった。
「さて、少し本気を出すとしよう」
そう言って、フェンリルが虚空から剣を取り出した。その剣は彼の身長よりも長く、淀んだ血のような赤色であった。
「あれが魔剣『血牙』……」
───魔剣『血牙』。
それはかつての有名な剣士が使っていた魔剣だ。その変幻自在の刀身は、圧倒的超射程を生み、理不尽な暴力を相手に一方的に叩きつけるという……。
「さぁ、第二ラウンドといこうじゃないか」
そう言ったフェンリルの皺が更に深くなる。何とも醜い顔だった。
「ゼータ」
「ん、何?」
「……本気で行く。スイッチ頼んだ」
「オーケー。任された」
不敵な笑みを、ゼータは浮かべる。
「ふぅー」
対してシータは目を瞑り、大きく息を吐いた。肺の中の空気を全て押し出すように。
「すぅ……」
そして、右足を引くとともに、ゆっくりと息を吸う。肺の中を空気で満たすために。
「準備はできたか?」
「待っててくれるなんて、存外に優しいんだね」
「ククッ、『シャドーガーデン』の実力、見せてもらおうか───」
フェンリルは言い終わるや否や、『血刃』を振るう。数メートルと伸びた『血刃』が狙うのは、カンガルー・スタートの姿勢で動かないシータだ。
シータは、しかし、動かない。
「シータ様!」
『血刃』の間合いより外にいるニーナが叫ぶ。
だが、シータは動かない。
───いや、ニーナには見えなかったのだ。
気が付けば、『血刃』は空を切っていた。シータの姿はどこにもない。
「ほう……ならば、これはどうだ?」
長く伸びた『血刃』が何本もの線を描く。その剣速は、ニーナの動体視力をして、捉えきれないものだった。
だが、そんな剣も全て空を切る。むしろ、どこを目標に振っているのかさえ、ニーナには分からない。
傍から見れば、フェンリルが高速で素振りをしているようにしか見えないのだ。
そんな素振りの軌跡も、徐々にフェンリルを中心に収束していく。『血刃』が短くなっているのだ。短くなる度に、剣速は更なる高みへと上っていく。
やがて、剣閃すらも形を失い、赤みがかった影しか見えなくなった頃、ピタリと『血刃』が止まる。
「見事だ」
直後、フェンリルは吹き飛ばされた。
□□□
シータが本気を出せば、体術においてシャドウとも数秒は戦える。
では、何故数秒だけなのか。それは、全力を出したシータの息が数秒しか保たないからだ。
シータは全力を出すとき、最初に息を吸ったきり、その後は呼吸をしない。呼吸による空白を省き、極限まで切り詰めたアップテンポで以て、相手を圧倒し、制圧する。それが彼女の戦闘スタイルであり、切り札だった。
それは並の肺活量では、到底なし得ないものだ。そして、それ故に体にかかる負荷も尋常じゃない。
そうやって、魂を削る真似をしてでも、やらなければいけないときがあるのだ。
シータは、カンガルー・スタートの体勢から、軽くホップして『血刃』を避ける。だが、その避ける動作で同時に前にも進んでいた。
続く『血刃』の連撃も、ほとんど軌道を逸らさずに、最小限
そう、最小限
体には深くはない無数の傷が刻まれていく。それでも、シータの足は止まらない。
何故余裕を持って躱さないのか。
答えは単純だ。
時間がないのだ。シータが動ける時間では、『カップムードル』だってできやしない。
そんな致命傷だけは避けたような回避で、ほぼ一直線に進む。
徐々に『血刃』の密度が高まり、裂傷の数も指数関数的に増えていく。このまま血を流し続ければ、遠くない未来に倒れるだろう。
だが、それよりも前に、シータはフェンリルを己の間合いの内に入れた。
「見事だ」
そして、瞬きよりも速く距離を踏み潰し、最大限力の乗ったパンチを打ち込んだ。
□□□
フェンリルは何とか急所に来る攻撃をいなしつつ、しかし、反撃には出れないでいた。
───この敵は手強い。
それがフェンリルの印象だ。
ハイペースで繰り出される一発一発が重い。時折来る"大技"は、防いだ腕の骨を容易く粉砕する。そして、連撃の端々で、拳から、つま先から、膝から、ピック状のスライムが出て、確実にダメージを与えてくる。
フェンリルはそれらを捌きつつ、魔力で自己修復しながら、それでも防戦に回るしかできなかった。
そして、フェンリルを悩ませているものはもう一つあった。
「ぬっ」
突然シータがしゃがんだかと思えば、高速で飛来するものがある。
矢だ。
それも、十全に魔力が乗り、直撃すれば即死しかねないものだった。
「ぐっ……」
フェンリルは僅かに体を傾ける。しかし、それでは完全に躱し切ることはできない。
矢は肩口に命中し、肉は
即座に回復を試みるが、そればっかりに意識を集中させるわけには行かない。再びシータによる連撃が始まった。
しかし、その動きは先に比べて些か悪い。
「ハッ、もう疲れたか?」
「……」
シータは何も言わない。だが、動きは目に見えて悪くなる。
やがて。
「ぷはっ」
吐き出すように息を吐いたかと思えば、彼女は距離を取る。
「ごほぉっ……」
だが、もう限界なようで、片膝を着いてしまった。
「シータ! 早く下がって!」
「ぺっ……善処する」
唾を吐き、シータは背を向け退く。
フェンリルは、その隙を見逃さない。
「私に背を向けるなんてな……古流剣術奥義───」
「なっ! シータ避けて!」
「───っ」
「『
咄嗟にシータはスライムソードを作り、フェンリルの剣の軌道に割り込ませる。
しかし、フェンリルの剣はその剣をすり抜けるようにして───
「シータ!?」
「シータ様!」
真っ赤な花が咲いた。シータは地に倒れ伏す。
「お前……っ!」
ゼータがスライムソードを持って、シータの側に立つフェンリルに突貫する。そのままフェンリルを斬りつけた。
激しい連撃を軽くいなされているが、確実にその場からは離れる。
その裏で、ニーナがシータを回収する。かろうじて、呼吸はまだあった。
「シータの容態は!?」
「まだ何とかなりますっ!」
言いつつ、ニーナは魔力を込める。少しずつ、繊細に傷を癒していく。
ゼータはシータの容態を聞いて、何も言わず戦闘に戻った。心なしか、動きが柔らかくなっている。
「ごふっ……」
「シータ様! ニーナです! 分かりますかっ!?」
「……うるさい」
青い顔をして、煩わしそうにシータは眉を顰める。そして、今も戦うゼータの方を見た。
ゼータは『空蝉』を警戒してか、間合いを外して中距離戦闘を展開していた。
剣で『血刃』を弾きつつ、チャクラムとナイフを
だが、それらは簡単に防がれて、決定打にはなり得ていなかった。
「……遅かった」
「はい?」
「遅かった」
遅、かった?
主語が抜けたその言葉は一体何を指しているのだろうか。少なくとも、今のゼータの戦いではないように思えた。
シータはそれだけ言って、ふっと体の力を抜く。
「シータさっ! ……なんだ、眠っただけか」
言いたいことだけ言って満足した顔だ。まだ治療中なのに……。
ニーナは治療を続けながら、先程の言葉の意味を考える。
「さて、もう残り魔力も少ない。全力で行くとしよう」
フェンリルの纏う魔力量が爆発的に増える。それと同時に、嫌なプレッシャーが吹き付ける。
「中々楽しかったぞ」
フェンリルが構えると、それら魔力がぎゅっと凝縮され、不自然に自然な空白が生まれる。
「見よ。我が『空蝉』を更に昇華させた奥義───『空蝉の血刃』」
「───っ!」
急に背中に寒気が走り、ゼータは大きく飛び退いた。
直後、霧が割れ、地面が割れる。遅れて赤い剣閃が走った。
───それは、本来あるべき順序とは全く逆の現象であった。
「くっ……」
そのチグハグな攻撃は、フェンリルが剣を振る度にその数を増やしていく。
やがて、その数は九つの数字を数えるようになった。
「バケモノめ……っ」
その九つの剣閃を、ゼータはかろうじて直感だけで躱す。だが、直感で全てを避けられるはずもなく、浅くない傷が蓄積されていく。
「遅い……」
その様子を見ていたニーナは、じっと考える。シータの言葉の意味を。
遅いとは、単純な剣閃を言うわけではないだろう。フェンリルの剣は間違いなく一級品だ。
では、攻撃のテンポの話だろうか。いや、それもない。彼の九つの剣はゼータでさえ防ぎ切れていない。
「それなら……」
遅い。その主語は何だ。
フェンリルを観察しろ。何が遅いというのだ。
剣速、テンポ、反射、現象……。
「まさか……」
ニーナははっとして、顔を上げる。
そう、現象だ。あれは明らかに遅い。
それが意味することは───
「ゼータ様! 見えているのはダミーです!」
「ダミー!?」
「ほう……」
ニーナも剣を抜き放ち、加勢に向かう。もうシータの治療は終わった。峠は越えただろう。
「ダミーってどういうことっ!?」
「考えてみてください! フェンリルの剣は過程より先に、結果が起こっているんですっ!」
「……なるほど。そうか」
得心が行ったように、ゼータは頷く。そして、回り込むように横に飛んだ。ニーナはその反対に回り込む。
フェンリルを二人で挟み込む形だ。
「まさか『空蝉』を見破るとはな……少々見くびっていたぞ」
「シータ様のおかげです」
じりじりと間合いを測る。嫌な汗が、ニーナの背中を伝う。
「ふっ……だが、見破るのと見切るのは訳が違う───見切れるかな?」
九つの赤い線が、空中を自在に舞う。その一つ一つが即死級の威力を秘めたものだ。
それでも、ニーナは震える己の心を叱咤し、全力で踏み込んだ。反対では、ゼータもチャクラムを投擲し、スライムソードを持って踏み込んでいた。投擲をした分、ニーナより一歩遅い。
「まずは雑魚からだ」
九つの剣閃が、ニーナを狙う。
───見える線は全てダミーだ。
ニーナは魔力の流れを感じ取ろうと目を瞑る。
探るのは不自然な魔力の動き……ではない。むしろ、自然な場所が怪しい。不自然な魔力の動きは全てダミーだろう。
ニーナは不自然に自然な魔力を探る。それは、砂漠から小さなダイヤを見つけるに等しい作業であった。
とどのつまりは、ほとんど直感で見つけると言っても良かった。
その直感で持って、一本、二本……と躱していく。どれもあまり速くない。ニーナなら察知さえできれば簡単に避けられる。
そうして、七本、八本と躱してはたと気付く。
───九本目がない!
ニーナは焦る。もう不自然に自然な魔力はない。では、ダミーの中に本命があるのか? いや───ニーナは目を開けた。
「残念だね」
「ぬっ……!」
ニーナは首を狙いに来た『血刃』を受け止める。
それは直感で防いだというよりも、賭けで防いだというべきだろう。なぜならば───
「決めに来るときに、首を狙う癖は治した方がいいよ」
「ほざけ……っ!」
フェンリルが最初の一本目をニーナに向けて放ったときだった。
「すぐ後ろの敵を忘れる癖も、治した方がいい」
「がっ……はっ……」
フェンリルの胸に漆黒の刃が突き立てられる。
むせ返るほど血の匂いが広まり、床にポタポタと垂れ落ちる。
刃が抜かれ、支えを失ったフェンリルはどさりと地面に倒れ伏す。赤い血溜まりが広がっていく。
「ここまでか……」
そう言ったフェンリルの顔は、無念というには余りにも清々しいものだった。
「今までで一番手強かったよ」
「当たり前だ……私は……俺は、ラウンズの第五席フェンリルだぞ」
「……右腕は貰っていくよ」
「ふん……好きにしろ」
ゼータは尻尾揺らして、シータを肩に担ぐ。心なしか、いつもより覇気がない。疲れているのだろう。
「忘れるな」
「……何が?」
「今回の俺の敗北は、間違いなく円卓が協力する結果を招くだろう。……ごほっ」
フェンリルは血を吐き咳き込む。
「数百年ぶりのことだ。その力は───」
「問題ない」
「───侮ると後悔するぞ」
「問題ない。私たちにはシャドウがいる」
興味を失くしたのか、ゼータは顔を背け、扉の方へ歩き出す。
だが、最後に一度だけ振り向いた。
「それに、私は主に拾われたちっぽけな子猫だから」
「……ハッ! 傑物だな」
ゼータは前を向く。もう振り返らない。
二つ分の無機質な足音だけが、静かに響いていた。
ウィクトーリアがいない分、攻め手が減って苦戦した感じです。
作者の脳内戦力順位としては「シャドウ≫フェンリル≧アルファ>デルタ>ゼータ>ベータ=イプシロン>イータ≫ローズ>クレア>アレクシア」といった感じです。シータは数秒ならフェンリルの上に来るでしょう。
フェンリルはもっと評価されていいと思います。
〈追記〉
前に五章ラストと言いましたが、もう一つだけ話を追加します。クレアさんの話です。