陰のボスになりたくて!   作:若林布吉

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前半戦は『無法都市』での出来事の復習となっています。詳細が気になる方は原作か、アニメ二期をどうぞ。


嵐の後の宴

 クレア・カゲノーは『無法都市』から王都までの帰路に着いていた。その道中、乗り継ぎの関係で、とある無名の都市に滞在する必要があった。

 これは、そのときの話である。

 

 クレアはぼーっと流れ行く雲を見ながら、思案に耽っていた。

 その内容とは勿論、『無法都市』での出来事に関するものだった。

 ───『無法都市』での出来事。

 今思い出してみても、あたりに現実離れしたものだったと思う。

 始まりはグールの異常発生であった。月が赤く染まり、『無法都市』の至るところでグールが現れた。

 しかも、そのグールは通常の個体に増して、強力な力を持っていたのだ。

 そして、日を経るごとに月の赤さも増していき、グールはより多く、より強く、より凶暴になっていった。

 そのとき初めて、アイリスが言っていた『赤き月』の伝説が本物だったのだと実感した。

 だってそうだろう。誰があのような荒唐無稽な話を信じられるというのだ。話を聞いたときも、半信半疑というより、半分以上疑っていた。

 とまぁ、そんなわけで凶暴化したグールを切る毎日が続いていた。

 がしかし、それも長くは続かなかった。

 

 その日は、一段と月が赤かった。そればかりか、夜が明ける気配すらなかった。

 クレアは前日までと同様に、魔剣士協会の面々と協力して、何とか戦線を築いていた。だが、その日のグールは数、質ともに今までの比ではなかった。 

 戦闘が始まってすぐ、死傷者が続出し、脱走する者も相次いだ。クレアもエリート職員と名乗る者と共闘し、何とか目の前の敵を切っていたが、体力も底を尽き始めていた。

 

『あっ……』

 

 それは隣で戦うエリート職員殿も同じだったのだろう。地面に広がる血により、バランスを崩してしまったのだ。

 

『クローディア!』

 

 クレアは叫ぶも間に合わない。

 そのときだった。

 

『始まったか……』

 

 一瞬にして、周囲のグールが吹き飛んだのだ。そして、その中心で佇む男がいた。漆黒のマントを纏った男だ。

 

『もうお前たちの手には負えない……死にたくなくば、立ち去るといい……』

 

 その声はどこか悲哀を帯びたものだった。

 

『待って! あなたは!?』

 

 去ろうとする彼を、クレアは呼び止めた。それが何故かは分からない。ただ、親近感のような何かを感じたのは事実であった。

 

『我が名はシャドウ……陰に潜み、陰を狩る者……』

『シャドウ……』

 

 シャドウと名乗った男はそれだけ言って、消えた。

 ただ、確実に血の匂いが濃くなっていた。その香りは、この都市に三本ある支配者の塔、その一つである『紅の塔』からしていた。

 

『あっちね……』

 

 

 クレアはその後、メアリーという少女と出会い、共に地下道から『紅の塔』に侵入した。

 途中、『黒の塔』支配者のジャガーノートと戦闘になりつつも、メアリーの秘めたる力で何とか退け、『紅の塔』の最上階にたどり着いたのだ。

 

 クレアたちがたどり着いたとき、既に『血の女王』エリザベートは目を覚ましていた。

 その力は凄まじくクレアたちは足元にも及ばなかった。

 後から合流した『白の塔』支配者ユキメ、ジャガーノート、そして漆黒のボディースーツの一団の力を合わせても、まだ足りなかった。

 ……その際、クレアに謎の力が目覚めたのだが、その話は置いておこう。

 エリザベートに圧倒され、もう駄目かと思ったとき、彼は現れた。

 彼───シャドウだ。

 クレアはその姿を見て、何故か安心してしまった。それ故に、傷を負ったクレアの意識はそこまでだった。

 後から聞いた話によると、シャドウは最初こそ苦戦を強いられていたようだが、最後には強大な魔力によってエリザベートを倒したらしい。

 『無法都市』を出るときに見たが、『紅の塔』は完全に消滅していた。一体、どれ程の魔力だったというのだろうか。

 

 

「はぁ」

「浮かない顔ね。どうしたの?」

 

 そう言って、隣に座ったのは魔剣士協会の(自称)エリート職員、クローディアだ。

 ここはクレアの泊まる宿、その食堂だ。今は夕食時というには早く、客の数は少ない。

 

「まぁ、ちょっとね……」

 

 クレアは曖昧に笑って言葉を濁した。

 彼女との出会いは先に回想したように、『無法都市』での一件のときだ。あれから少し仲良くなって、これから本部に戻るというので、旅路を共にしているのだ。

 

「自分の無力さに少し打ちひしがれていただけよ」

 

 これでどの口で、弟を守ると言えるのだろう。自分の身一つ守れないというのに。

 

「そう……よし!」

 

 クローディアはぽんっと膝を打って立ち上がる。続いて、クレアを立ち上がらせた。

 

「ちょっ……何よっ」

「さぁ行きますよ」

「えっ、いや、どこに?」

「飲みに」

「……は?」

 

□□□

 

 そんなこんなで、クレアとクローディアは手近な居酒屋に足を踏み入れたのだった。

 因みに、ミドガル王国において飲酒の年齢規制はないのでクレアも飲める。普段は全く飲まないが。

 

「とりあえず、そうね……」

 

 クローディアがぱぱっと手早く注文を済ます。

 

「私はウーロン茶に───」

「何のためにここに来たと思ってるの?」

「いやでも……」

「ウイスキーロックで」

「かしこまりましたーっ!」

「ちょっ、せめて水割りで!」

 

 危うく、一杯目でスマッシュするところだった。今は夕暮れだ。おねんねにはまだ早い。

 

「うだうだ悩んじゃうときは、パーッと飲んで忘れるんですよ」

「……忘れちゃいけないときは?」

「一旦忘れて、必要なら思い出せばいい」

 

 本当にそれでいいんだろうか。

 クレアは何となく、周囲を観察してみる。

 そこには、仕事が終わり相棒と共に至福の一時を過ごす者、複数人で宴会を始める者たち、そして連れ添いに何かを言われながら浴びるように酒を飲む者がいた。

 まだ夜の帳は落ち切っていないのに、賑やかなものだった。だが、その賑やかな雰囲気に、クレアの心も少し軽くなった。

 

「あぁもうっ! ホントにムカつくわ。あの老(がい)共」

「ちょっとクローディア? 言葉遣いが普段より……」

「ほらほら、あなたも飲みなさいってばぁっ! ほらほらほらほら」

「いや待ってって。これ度数高いから!」

 

 クローディアに無理やり飲まされ、喉を熱い液体が通り過ぎる。お腹の辺りが熱くなる。

 なんか気持ち悪い。

 

「うっぷ……」

「あっ、あれって、ほら『無法都市』にいた……何だっけ?」

「……どれ?」

 

 クローディアの指差す方を見れば、二人の男が飲んでいるのが見えた。金ピカ鎧と筋肉ダルマだ。

 

「あれ、ゴルドー何とかとクイなんちゃらじゃない」

「あぁそうそう! 二人とも中々の使い手だったね。ちょっとお二人さんっ!」

「あっ……行っちゃった」

 

 クローディアは焼き鳥片手に二人の方へ行ってしまった。完全に出来上がっている。

 二人はクローディアの姿を見て驚き、その様子を見て更に驚いた。

 曰く、「これクローディアさんか!?」

 曰く、「いやまさか……でもバトルパワーは同等……いやそれ以じょ、っておわっ!?」

 曰く、「さぁ二人とも飲むよ!」

 酒場は夜に向け、一段と賑やかさを増していく。周りも巻き込んで、盛大に。見れば、『無法都市』で出会った魔剣士たちの姿もあった。

 この盛り上がりのせいか、酒のせいか、クレアは段々と考え悩むのがバカらしくなってきた。

 ええいっままよっ! とグラスを傾けた。

 

「おーぉ、盛り上がってるねぇ」

「……うん?」

 

 ……なんか頭がぼーっとしてきた気がする。というか、世界が明るい。わぁ、星が回るるるる……

 

「あーぁ、こんな時間から皆んな出来上がっちゃってるよ」

「アンタは?」

「おぉ、ここにも顔が赤い少女が!」

「少女じゃないわヨ。らいねんは、学校そつぎょうするんだからっ!」

「そりゃあすまない。別に悪気があったってわけじゃあないんだよ」

「……ふん」

 

 ……なんかわからないけど謝ったからゆるしてあげようじゃない。シドもまえに「姉さんは心が広い!」っていってたんだから。あたりまえよね。

 

「さてと、俺も混ざりに行こうかな」

「私も行くっ!」

 

 テーブルの中央では、クイントンとクローディアが飲み比べをしていた。すぐにクローディアは潰れてしまったが。

 クイントンが上着を脱いで雄叫びを上げる。歓声が上がった。

 

「次ぃ掛かってくんのは誰だコラァ!」

「じゃあ俺が」

「おっしゃこい!」

 

 先程クレアに、声を掛けた男が名乗りを上げた。

 クレアはそれらをカウンターから楽しそうに眺めるゴルドーの隣に腰掛けた。

 

「君はクレア・カゲノーだね?」

「そうよ」

「『無法都市』でも見たけど、中々強いみたいだ」

「あたりまえよ!」

「バトルパワーは……ちょっと言わない方がいいだろうね」

 

 ゴルドーは意味深に笑うが、その実、顔は青かった。

 みんな赤い顔なのに、青かった。

 

「まったく、しけたつらしてんじゃないわよ!」

「あいたっ!?」

 

 クレアはそんなゴルドーの後頭部をペシンと叩いた。

 

「いい? みんなでさわいで、パーッとわすれるのよ。くろーみあ? あれ、ひあ? とにかく、いってたわ!」

「そ、そうかい」

 

 ゴルドーは引き気味だった。

 

「おっ、こっちも盛り上がってるのかい?」

「アンタさっきの」

 

 後ろを振り返ってみると、クイントンが潰れていた。グースカとクローディアと並んで寝息を立てている。

 

「まぁまぁ、俺にも名前ってもんがあるのさ。アンタじゃなくて名前で呼んでくれたまえ」

「なまえしらないわ」

「あれまぁ、名乗ってなかったっけか。俺はそうだねぇ、ディディと、そう呼んでくれ」

「でで?」

「ハハッ、舌が回ってないね」

 

 ディディと名乗った男は肩を揺らして笑った。

 

「あんた……いや、ディディ、もうクイントンを潰したのか?」

「うん? あぁ、彼のことね。そうだよ。一番高い酒で勝負したら、飲み慣れてなかったのか、すぐに潰れちゃったんだよ、彼」

「なるほど……」

「いやぁ、儲かった。ただ酒ほど美味いものはないからねぇ」

「ハハハ……」

 

 さっきからゴルドーだけこの雰囲気について行けてない。やはり、盛り上がるためには知能を同じレベルまで落とさねばならないのだろう。

 

「ところで、最近何か面白い話ない?」

 

 ディディもカウンターの席に座る。

 

「ついこのまえ、『あかきつき』がげんじつになったわ!」

「ほう。『赤き月』の伝説がねぇ……他には?」

「すごいんだから! しゃどうは! どんなだったかみてないけど……」

「シャドウかぁ。……そっちの金ピカ君は、何か面白い話ない?」

「ここでオレに振るのか……そうだな。オリアナ王女の結婚式、なんてどうだ? 近々やるらしいぞ」

「ほうほう。オリアナ王国ねぇ……」

 

 楽しい雰囲気には、人が寄ってくる。客が客を呼ぶように、次々と店内に客が入ってくる。盛り上がりは最高潮で、それはもう喧騒であった。

 今日の夜の中心はここだ、とばかりにみんなが騒ぐ。

 そんな中、一人だけ静かに姿を消す者がいた。

 

「面白そうだねぇ。次はオリアナに行こうかな」

 

 それに気付く者は一人もいない。

 クレアも悩みを忘れ、この一時を大いに楽しんだ。

 

 翌日、生まれて初めての二日酔いにクレアが苦しめられたのは、想像に難くないだろう。

 




クレア「もう二度とお酒なんて飲まないわ……」
クローディア関連は捏造したものです。あと地味に、ゴルドー何とかさんと、クイなんちゃらさんは奴隷落ち回避しました。
なんか怪しい男が動きましたね。
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