陰のボスになりたくて!   作:若林布吉

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お久しぶりです。


六章 オリアナ王国
オリアナ王国へ


 結局、『無法都市』以来特にめぼしい事件などはなく、僕は大いにモブライフを満喫していた。勿論、裏ではちょこっと盗賊狩りもしてたけどね。

 流れとしては、秋休みが終わり、学園生活が始まって、モブ友たちと薄っぺらな友情を確認し合いつつ、時々アレクシアや姉さんの妨害を捌きながら、中間、期末テストをカンニングで乗り切って、ようやく冬休みになろうとしているところだった。

 僕が姉さんに呼び出されたのは、そんな時だった。

 

 呼び出されたのは、女子寮にある応接室だった。うん。かなり豪華だ。

 何故そんなところに呼び出されているのかといえば……いや、そもそもなんで正真正銘男児として生を受けた僕が女子寮に入れているのかと言えば、

 

「それで、ローズ先輩の件なのだけど……」

 

 この国の王女、アレクシア・ミドガルも同席しているからだった。

 

「私の護衛として、クレアさんにも一緒に来てもらうことになったわ」

「へぇー」

 

 どうやらアレクシアがオリアナ王国へと行くための護衛の一人に、姉さんが選ばれたらしい。

 なんか『無法都市』の一件で姉さんの株が上がったようだ。ジャガが言うには、魔剣士協会のエリート職員さんが姉さんをべた褒めしたのだとか。

 万事順調そうで何よりだ。

 僕は弟として誇らしいよ。

 

「アンタも来なさい」

「嫌だ」

 

 でも、だからと言って僕を巻き込まないで欲しい。王女の護衛とか、いや護衛じゃなくても近くにいるのすら、僕は嫌なんだ。

 ここまで歩んできたモブライフにそんな刺激は必要なかったし、これからのモブライフにも勿論必要ない。

 僕は、極めて論理的にこの誘いを棄却する言い訳を考えた。

 

「あっ、そういえば親にも顔見せないとなー。夏休みも秋休みも帰ってないし」

 

 勿論帰る気なんてさらさらないけどね。呼ばれたら帰るけど。

 ふっ、完璧だ。いくら姉さん、アレクシアとて、極めて論理的なこの言い訳には対抗できまい。

 

「あのハゲには冬休み中は帰れないって言っといたから大丈夫よ」

 

 なん……だと……。

 

「残念ながら、あなたに拒否権はないわ。シドくん」

 

 語尾にハートマークが付きそうな声音でアレクシアが言う。なんか背中にゾワッときた。なんだろう。

 

「ローズ先輩の望みでもあるしね……」

「何か言った?」

「いいえ、何でもないわ」

 

 かくして、僕は護衛……というより研修生的な立場で、オリアナ王国へと行くこととなった。

 

 あっ、そうそう。言い忘れてたけど、何でアレクシアがオリアナ王国に行くのかと言えば、ローズの結婚式があるからだ。相手は宰相のドエム・ケツハットらしい。中々ダンディーな声のおっさんだ。

 もうローズは一足先にオリアナ王国に戻っている。冬休みの前倒しが羨ましい。

 

 そして、冬休みがやってきた。

 

□□□

 

 オリアナ王国の王都までは馬車で片道三日かかるという。僕は姉さん、アレクシア、あともう一人護衛が乗った馬車で流れる雲を眺めていた。因みに、護衛の名前はマルコだそうだ。

 どこかで聞いた気がするけど、まぁいいか。

 

「随分と寂しいわね」

 

 ふと、アレクシアが呟いた。四人も乗っているのに、何を言っているのだろう。

 僕はそう思ったが、何も言わない。僕は女性には恥をかかせない主義なんだ。一応、アレクシアも女性だからね。

 

「四人も乗っているのに、何言ってるの?」

 

 おっと、流石姉さんだ。誰も言わなかったことを平然と言ってのけた。そこには別に痺れないけど。

 

「違うわ。さっきから一台も馬車とすれ違わないことを言ってるのよ」

「確かに……」

 

 姉さんは馬車から身を乗り出して周囲を見渡す。

 僕も軽く魔力を飛ばして周囲を見てみるが、確かに……うん? いや、結構いる。最近よく見る盗賊みたいな奴らが相当数いる。

 ざっくり二、三ダースくらいはいるね。

 でも、襲ってくる気配はない。というか、気配を消して潜伏中のようだ。バラバラになって、哨戒している奴もいる。

 こんなところで何してるんだろう。こんな国境近くで。

 

「本当に誰もいないわ」

 

 姉さんは座り直してそう言った。

 いるけどね。

 

「えぇ。誰もいないなんておかしいと思わない? まして、王女の結婚式なんて国を挙げて祭りをしているだろうに」

 

 いや、ダース単位でいるけどね。

 

「ねぇ、シドはどう思う?」

 

 むっ、ここで僕に振るのか。どう応えるべきか……うん。なんか面倒くさい。

 よし、寝たふりだ。

 

「すぴー」

「あら寝てるの?」

 

 そうそう。寝てるの。

 

「もう食べられ……うぐっ!?」

「いえ、起きてるわ」

 

 姉さんがエルボーで僕の鳩尾を正確に撃ち抜いた。辛うじて、正中線から外すことには成功したが、反応が遅れていたら今頃悶絶していたことだろう。

 その一連の流れを見て、アレクシアは少し引いているようだ。

 

「ゲホッゲホッ……いきなり肘打ちは酷いよ」

「うたた寝するアンタが悪いわ」

「いや、やることないし……」

「それより、さっきから誰ともすれ違わないんだけど、どう思う?」

「うーん、盗賊に襲われてるんじゃないかな」

「真面目に答えなさい」

「そう言われても……」

 

 それからまだ一悶着あったが、無事に三日間の行程を終え、僕たちは無事に王都に着くことができたのだった。

 因みに、国境を越えるとそれなりに馬車は見かけるようになった。

 

□□□

 

 木々すらも眠るほど夜が深くなった頃、イプシロンはスライムスーツに身を包み、森の中を歩いていた。

 後ろに続くのは三人。今回の作戦に際してアルファより推薦された664番と665番、そして構成員の中でも抜きん出た強さを持つ559番だ。

 

「このすぐ先です」

 

 559番の視線の先には、既に廃れた遺跡があった。その中には怪しげな集団がいる。

 

「全部1stチルドレンね」

「はい」

 

 これだけ1stチルドレンが集められているのだ。今回は当たりかもしれない。

 

「計画通りに」

「はい」

 

 559番は返事し、追従するように他二人も頷いた。

 ここはサイショ砦の近くにある森の中だ。サイショ砦はつい二日前にドエム派によって落とされた。その際、ネームドチルドレンが動員されたのが確認されている。

 故に、この地に何かがあるというのがイプシロンの見解だ。

 今回はその何かを特定、物品などであれば、回収することが目的である。

 

「あれは……『疾風』のクアドイ。教団の幹部です」

「当たりみたいね」

 

 突撃の号令をかけようとしたイプシロンは、クアドイの隣にいる人物を見て、それを思い留める。

 

「ではレイナ王妃、祭壇に手を」

 

 ───どうして王妃がここに? いやまさか、ここに鍵があるということかしら?

 イプシロンは559番に目配せする。559番は頷いた。 

 王妃が祭壇に手をかざすと、祭壇は光輝き、魔術文字を浮かび上がらせる。

 やがて光は収束し、祭壇上には小さな指輪が現れる。

 

「これが、オリアナ王国の……」

「───行けっ!」

「なっ!?」

 

 イプシロンが命じた途端、三つの影が飛び出した。その影はみるみるうちに、チルドレンたちを斬っていく。あれよあれよと地獄絵図だ。

 それだけではない。イプシロンから放たれた見えない刃が正確に、豆腐を切るようにチルドレンを切り裂くのだ。

 瞬く間に、二十人ほどが地に倒れ伏す。残ってるのも丁度同数程度だ。

 

「貴様ら、何者だッ!」

「お前に名乗る名はない」

 

 じりじりとチルドレンたちを遺跡の奥へと追い込んでいく。

 

「大人しくその指輪を渡してもらおう」

「なっ……貴様らこれが何か分かっているのかッ!?」

 

 クアドイが目を裂けんばかりに見開いた。

 イプシロンは何も答えない。

 大鎌に魔力を込めつつ、距離を詰める。

 そのときだった。

 

「───なっ!? ぐっ……!」

「イプシロン様!?」

 

 風切り音が聞こえたかと思えば、背中に鋭い痛みが走った。

 イプシロンは痛みを堪えながらも振り返る。

 

「ほう、イプシロンというのか」

 

 男だ。燃えるような赤髪の男が入り口に立っていた。男はゆったりとした歩調で入ってくる。

 

「一撃で倒せなかったのは、随分と久しぶりのことだ」

「あなたは……」

 

 イプシロンが誰何(すいか)すれば、男は優雅に一礼してみせた。そして、名乗る。

 

「私はナイツ・オブ・ラウンズ第九席『人越の魔剣』モードレッド」

「くっ……よりにもよって、ラウンズ……!」

「ククッ、やはりここを襲いにきたな」

「も、モードレッド様! 助けにきてくれたのですか! さぁ、二方向から挟み撃ちに───」

 

 モードレッドの姿を見たクアドイは、目に見えて分かるほど声を弾ませ、剣を構える。その動きに合わせて、チルドレンたちも剣を構える。

 モードレッドはそんなクアドイへ向け、手を振った。

 直後、赤い花が咲く。クアドイだったものはがたっと崩れ落ちた。

 

「少し考えれば、そんなわけがないことなど分かるだろうに」

 

 モードレッドはやれやれとため息を吐く。

 

「さて、イプシロン嬢。舞踏会はまだまだ始まったばかりだ。ごゆるりと楽しんでくだされ」

「……あら、私はダンスが苦手だけどいいのかしら?」

「御冗談を。シロン嬢」

 

 モードレッドは肩を揺らして笑う。

 

「さて、こうして歓談するのも悪くはないが───」

「あなたたち、逃げなさいッ!」

 

 イプシロンが叫ぶと同時に559番は動いた。近くにいたチルドレンを真っ二つに裂きつつ、空いた手で665番を回収する。そして、そのまま流れで未だ呆けて動けていなかった664番を回収した。

 だが、出口にはモードレッドがおり、559番の手は塞がっている。

 モードレッドが剣を構えた。

 

「シッ───!」

 

 そのモードレッドへ不可視の刃が迫る。 

 モードレッドはギリギリのところでその刃を躱した。頬にピッと赤い線が入る。

 その間に、559番は遺跡から脱出する。

 

「まんまと逃げられたな。まぁいい」

 

 ちらりとその姿を見たモードレッドは、イプシロンに向き直る。余裕のある笑みを浮かべていた。

 

「主さま、力を……」

 

 未だ傷の癒え切っていない背中を庇いつつ、イプシロンは大鎌を構えた。

 




いつもは作っていないのですが、本章からは原作とだいぶ異なっていくためにプロットを作ることにしました。その都合上、章と章の間は投稿が遅れそうです。ご了承ください。
イプシロンの明日はどうなるか! お楽しみに!
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