陰のボスになりたくて!   作:若林布吉

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どこかでメインイベントが進行してる気がする

 ガンマはニューからの報告を聞き、眉を寄せた。

 

「やはり、教団の手のものでしたか」

 

 ミドガル王国の剣術指南役ゼノン・グリフィ。元々教団と関係があると疑っていたが、今回の調査ではっきりした。

 

「まだ公表はされてませんが、アレクシア王女との婚約も決まっているようです」

「アルファ様はなんと?」

「まだなんとも。ですが、王都周辺の拠点に少しずつガーデンの構成員が集結しています」

「そう……」

 

 ガンマは目を伏せる。

 

「もう一度王都にある教団のアジトを洗い直しなさい」

「かしこまりました」

 

 そう言ってニューは退室する。

 ガンマは物憂しげに瞑目し、首を振る。そして、『ミツゴシ商会』の通常業務へと戻った。

 

□□□

 

 先日の大成功のおかげで大変機嫌のいい僕は、いつもよりも早めの登校だ。ヒョロとジャガは置いてきた。モブ友の友情はかくも儚いものなのだ。

 学園の敷地に入ってから、僕は鼻歌混じりに、いつもより若干遠回りで校舎へ向かう。そして、体育館のような王都ブシン流の教室前を通ったときだった。

 

「あっ」

「えっ」

 

 黒い道着に身を包み、剣を振るアレクシアに出会った。

 

「どうしてあなたがここにいるのかしら?」

「それはこっちが聞きたいよ」

 

 アレクシアは憮然とした態度で言う。

 

「ここが王都ブシン流一部の教室だからよ」

「あーそうなんだ」

 

 因みに僕は九部だ。最終的には五部あたりで落ち着こうかと思っている。

 

「それでどうしてあなたがいるのかしら?」

「今朝は調子が良かったからちょっと散歩をしていたんだ」

「そう」

 

 アレクシアはそれきり黙って剣を振る。

 僕はしばらくその様を眺めていた。

 

「良い剣だね」

 

 僕は呟いた。

 

「……どうも」

 

 アレクシアは素っ気なく言った。

 彼女の剣は基本に忠実だ。基礎をしっかりやっている。それは一目見れば分かる。

 けど地味だ。地味だけど無駄が排除され、研ぎ澄まされたその様は、正しく努力の結晶でもある。

 ……デルタにも見習ってもらいたいものだ。

 僕は僕にとって最も許し難い剣を使う獣人の少女を思い浮かべた。

 

「あなた、一昨日と人が変わり過ぎじゃないかしら?」

 

 どのくらい経っただろう。剣を振るのを止めたアレクシアはタオルで汗を拭う。

 

「そうかな?」

「一昨日はもっとうるさ…………いえ、気持ち悪かったわ」

「直球な物言いだね」

「そういう性分なの」

 

 気が付けばけっこう時間が経っていたみたいだ。遠く校門の方向からガヤガヤと話し声が聞こえる。教室内の時計を見れば、いつもの登校時間と同じくらいだった。

 

「今のあなたなら丁度良かったのに」

 

 僕が時計に気を取られていると、アレクシアが何かを言った。

 

「うん? 何か言った?」

「いいえ。あなたのこと、嫌いじゃなさそうだわって話よ」

「この前フッたのに?」

「……嫌いだからフッたってわけじゃないわ」

 

 アレクシアは道具の片付けを始める。

 僕はそろそろ教室に行こうかな。

 

「私はあなたのこと、どちらかと言えば好きよ」

「告白? ならごめん」

「違うわ。欠点の多そうなあなたのことは嫌いじゃないということよ」

「褒めてないよね」

 

 アレクシアはそれから喋ることなく荷物を纏める。教室に行く前に更衣室へ行くのだろう。制服を抱えていた。

 僕はもう行こうかと思ったが、最後に一言だけ言いたいことがあった。

 

「褒めてくれたお返しじゃないけど、僕は『凡人の剣』──君のその剣は、好きだよ」

「──っ」

 

 僕は僕の信念に誓ってその言葉に嘘はないと宣言しよう。僕は『凡人の剣』が好きだ。だって僕の剣も『凡人の剣』だからね。

 アレクシアが何かを言いたそうにばっと僕の方を見る。けど僕はそれに取り合わず、その場を離れた。

 

□□□

 

「それより皆さん、聞きましたか?」

 

 アレクシアと別れてからはいつも通りの日常だった。普通に教室に入って、普通に授業を受ける。

 そして、僕は今日も今日とて日替わり定食980ゼニー貧乏貴族コースを食べていた。

 僕の対面には二人、ヒョロとジャガだ。

 その片割れのジャガが、周囲の様子を伺い、声を低くして話す。

 

「──アレクシア王女、今日からしばらく休学らしいですよ」

「まじか!」

「へー」

 

 ヒョロが大きな声を上げて驚く。それを見たジャガが慌てて声を落とすように言った。

 

「もしかして、この前の告白が罰ゲームだってことによっぽど気分を害されたとかか? だとしたら……」

 

 うん。それはないんじゃないかな。

 ヒョロはぷるぷると震えていた。「処刑だ……」などと世迷い言も呟いている。

 そんなヒョロに気付かず、ジャガは手帳を開いて「これはまだ噂なんですが……」と続けた。

 

「どうやら、結婚の準備に入るのだとか」

「け、けっ、結婚!?」

「へー」

 

 ヒョロはまた、声が大きいとジャガに窘められる。

 

「そ、それで、相手は?」

「こちらもはっきりしませんが……相手はあの、国の剣術指南役ゼノン・グリフィ先生らしいです」

「まじかっ」

「へー」

 

 僕は適当に相づちを打った。

 今朝見たときはそんな様子はなかったんだけど。まぁ、僕は彼女のことに詳しくないから些細な変化なんて分からないけどね。

 

「結婚かー。しかも相手がゼノン先生だなんてなー。流石に俺もゼノン先生には勝てないぜ」

「えぇ、まったくです。自分だって告白すれば付き合うことくらいはできたでしょうが……」

「そだねー」

 

 食べ終わった僕は水を飲んで席を立つ。そして未だ賑わう空間を抜け、食器を返した。

 

□□□

 

 放課後、僕は久しぶりに一人で帰っていた。

 ヒョロは最近王都に出店し、一気に流行り始めた『ミツゴシ商会』に行くらしい。

 ジャガは……言葉にはしてなかったけど、誰かに会いに行くみたいだ。「今日は彼女が服屋に行く日……」とか言っていた。

 

「あとで……」

 

 僕がモブらしく一人でとぼとぼと帰っていると、そんな声が聞こえた。

 

「アルファか」

 

 振り向いては見るけど、雑踏に紛れて既に姿は見えない。

 西に大きく傾いた太陽が、夜の到来を告げているかのようだった。

 

 

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