陰のボスになりたくて!   作:若林布吉

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七章始まります。今回は短めです。


七章 学術都市ラワガス
モブ的選抜大会


 冬休みも終わり、新学期がやってきた。校門をくぐる生徒の間には、陰鬱としていて、けれど興奮した雰囲気が漂っている。

 そんな彼らの多くが話題にするのは、一つはオリアナ王国での話だ。もう女王となり、この学園からもいなくなった女王ローズ・オリアナ。彼女の結婚式での勇姿は、冬休み中の彼らの元まで届いていた。そして、口々に彼女を褒め称えていたのだ。

 そして、もう一つ。

 彼らの口上に上るのは、『留学生』についての話だった。

 曰く、ミドガル王国と学術都市の間で何らかの取り決めがなされた。

 曰く、学術都市は研究に協力してくれる魔剣士を求めている。

 曰く、行った者は生きては帰ってこれない……

 などなど、好き勝手に噂が飛び交っていた。しかし、新たなるイベントに校内が微かに熱気に包まれているのは、疑いようのない事実だった。

 

□□□

 

「というわけなんですよ!」

 

 朝の電車の中。ジャガが鼻息荒く、血走った目で留学生についての話をしていた。

 僕は大きめのあくびをしながら、その話を聞いていた。

 

「留学生か。まっ、俺たちには関係ない話だな」

 

 ヒョロが朝ご飯を食べそびれたからと、さっき買ったパンを頬張る。カツサンドだ。中々いい匂いがする。

 そんなヒョロに、ジャガは分かってないな、と言わんばかりに肩を竦めてみせた。

 

「分かってませんね、ヒョロ君」

 

 いや、実際に言ってた。

 

「あにがあよ?」

「ヒョロ君。食べるか話すかはっきりしてください」

「……で、何が分かってないって? どうせ、成績優秀な奴が選ばれるんだろ?」

「ふふふ、そうとも限らないんですよ」

 

 ジャガが気持ち悪い笑みを浮かべながら、一枚の紙を取り出す。

 

「ほら、これを見てください」

「えーと、なになに……『留学生は選抜大会で決定する。大会は希望者を成績別に分け行う』……ということは、つまり?」

「つまり、自分たちにもチャンスがあるんですよ!」

「なるほど! そういうことか!」

 

 ヒョロが合点がいったとはがりに手を叩く。

 

「そういうことです! そんなわけで、ヒョロ君、シド君、希望届けを出しましょう!」

「えっ、僕は別に……」

「おっしゃ、そうだな! シド行くぞ! 白衣を着た美人を捕まえに!」

「だから、僕は……」

「そうですね! メガネ女子を探しにラワガスに行きましょう!」

「いや……」

「じゃあ、そういうことだから、お前の分も出しとくぞ」

「あー、うん。もういいや」

「よし……あれ? 俺のカツがない」

 

 そんなわけで、僕は選抜大会にエントリーすることになったとさ。

 中々いいカツだった。

 

□□□

 

 さて、本日は晴天。選抜大会日和だ。

 僕は運動場に作られた簡素な闘技場に足を踏み入れ、周囲を見回す。

 

「頑張れよー」

「ファイトですよー」

 

 そんなモブ声援が静かに響いていた。他に声援のようなものはなく、観客もちらほらといった感じだ。

 まぁ、それも無理はないことなのだが。

 というのも、僕が参加しているクラスは一番下なのだ。同時刻に一番上のクラスも試合をしているということもあり、こっちに見物人はほとんど来ていないのだった。

 

 そんなわけで、今僕の前に相対するのはぱっとしない生徒だった。名前はアーベ・レージである。

 肉体も、構えも、表情も何一つ魅力を感じさせることはない。見た目も、体重も、何もかもがオール平均で、逆に名前を覚えてしまったモブ中のモブ。ある意味、ネームドである人物だった。

 

「適当に負けよう」

 

 僕は留学には興味はない。レポートとか色々面倒だし、その時間は訓練に回したいのだ。

 だから、適当に戦ってさっさと負けよう。

 ふっ、今こそ勝負だ。どちらがより、モブモブしいかを!

 適当に剣を構え、試合開始の笛が鳴る。

 直後、僕は走り出した。

 

「うわあぁぁぁっ!!」

 

 間の抜けるような声を張り上げる。相手は咄嗟のことに動転して動けていないようだ。

 ……くっ! まさかこんな隙だらけの突撃にも反応しないとは! これが真正のモブの力……ッ!

 

「だが、まだ負けてはいないッ!」

 

 僕は着地の瞬間に足首の力を抜く。そうすることで、着地の衝撃により自然と足を捻るのだ。

 ───これぞ、『モブ式奥義・母なる大地との接触(モブタンブル・キッス)』だ!

 僕は右足首を有り得ない方向に曲げながら、盛大に地面に倒れ込む。そして、盛大に木の床に口付けをした。ついでに、ポケットから密かに出した血糊で額を赤く染めておく。

 ふふっ、どうだ! これなら、流石のモブでも僕に負けはしまい!

 僕は勝利を確信しながら、顔を上げた。

 だが、目に映る光景に、僕の表情は強張った。

 

「なん……だと……!?」

 

 アーベは倒れていた。どうしてかは分からないが、口から泡を吹いて白目を剥いていた。

 一体何が起こったんだ、と僕は周囲を見回す。しかし、異常は見受けられない。

 では何が……。

 そうして、よくアーベを観察していた僕はその側に落ちている剣を見て悟った。

 剣には、血が付いていたのだ。血糊ではない血が。

 

「まさか、自分の剣を……いやしかし、どうやって……」

 

 一体どうすれば、自然に、自分に剣を突き立てられるのだ? どうやってもそれは不自然な行為であるはず……

 

「うわぁ、あいつドジだなぁ。相手がコケたのに驚いてコケるとかな」

「そうですね。しかも、その拍子に投げた剣が自分に当たるなんて、最早芸術ですよ」

「……」

 

 ヒョロとジャガの会話を聞き、僕は合点がいった。そして同時に、認めなければならなかった。

 この勝負は、僕の負けだということを……

 

 結局、その後も勝ち続けた僕は留学生に選ばれてしまった。そこに至るまでの全ての試合が、涙必至の熱い戦いであった。

 今回の大会で僕は学んだ。まだまだ、僕はモブプロたちには力が及ばないことを。だから、僕はこれからも鍛錬を続けよう。いつか、モブプロたちに並べるように……。

 あっ、そうそう。余談だけど、ジャガとヒョロも留学生に選ばれたみたい。

 ふっ、奴らもまだまだモブ度が足りないな……。




次回からはちゃんと学術都市に行きます
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