陰のボスになりたくて!   作:若林布吉

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失踪事件

 静かな夜だった。

 優しく吹き抜ける風が木々の葉を揺らし、温かな月光が降り注ぐ。さながら、散歩をするには良い夜だった。

 

「がぁーっ!!」

「な、なんだこい───ぐはッ!」

 

 漆黒の影が吹き抜け、儚い花々が咲く。それらはとても鮮やかな赤に闇を浸したような色合いで、不規則にその形を変えている。

 そんな美しき花々を眺めながら、僕は月より明るく光る金貨をせっせと集めていた。

 

「あっちは暴れてるなー」

 

 僕は、今も荒れ狂う暴風のように暴れ回っているデルタに目をやる。戦局は優勢、いや勝勢とでも言うべきか。最早誰一人戦う気力などはないようで、逃げるか狩られるのを待つかする盗賊ばかりで、まともに剣を持っている者はいなかった。

 

「こんなもんかな」

 

 金貨換算で締めて五百枚といったところだ。ただ、銀貨や銅貨もかなりあるので、集めた枚数自体は相当なものになる。

 全部スライムスーツに詰めて持ち運ぶとしよう。

 

「ボスー! 全部狩ったのです!」

「わっ、こらこらデルタ離れなさい」

 

 血まみれになったデルタが、尻尾をブンブン振りながら、僕に向かって突っ込んでくる。そして、何やらくんくんと僕の匂いを嗅ぎ始めた。

 

「あれ? ボスなんか大きくなった?」

「なってないよ」

「なってない?」

「そうそう」

「なってない!」

 

 デルタは何が楽しいのか、キャッキャと笑う。

 

「それじゃあ帰ろう」

「帰る!」

 

 そうして、出口の方を向いた僕は足元に綺麗な石が落ちていることに気が付いた。

 僕はそれを拾い上げる。

 

「何それボス?」

「うーん、何だろ。石ころって言うよりかは、飛◯石?」

「分かんない!」

 

 それはラピ◯タに出てくる飛◯石のようなものであった。青く透き通った正八面体の水晶のような形状で、淡く光っている。魔力が込められているのだろう。

 

「珍しい石だね。高く売れそう」

「ボスー、早く帰ろー」

「はいはい、分かったよ」

 

□□□

 

「ようこそおいでくださいました。主さ───ぺぎゃっ!?」

 

 盗賊狩りから帰ってきた僕らを待っていたのガンマだった。

 彼女は何もない平らな床で華麗にこける。

 なるほど。僕のモブ式奥義に足りなかったのは、この華麗さだったのかもしれない。鈍臭さとも言うが。

 

「ハハハ! ガンマまた転んでる! 鈍臭い!」

「……こほん。それで、主さま。本日はデルタの狩りについていらしたようですが……」

「あぁ、何か問題があったか?」

 

 ガンマの鼻からは赤い血が垂れてきている。それに、お付きの者が素早くハンカチを出して止血していた。

 うん。よくよく考えてみれば、デルタは『ミツゴシ商会』の任務で動いていたのだ。そこに部外者である僕が勝手に入っていったのは確かに、問題だったかもしれない。

 これは流石に怒られるかなー。まぁ、そうなったら、謝れば許してくれるてしょ。

 

「い、いえ! そのようなことはございません」

「あっそう? 良かった」

 

 ガンマは心が広くて良かった。

 

「それで主さま。教団の拠点で得たものについてなのですが……」

 

 うん? あぁ、お金のことか。これは僕が貰ったものだけど、ガンマがどうしてもと言うなら、千ゼニーくらいは貸して上げてもいいかもしれない。

 

「ふっ、ガンマ、欲しいか?」

「いいえ。主さまが持っていろと仰るのならともかく、私ガンマの方からそのようなことは申しません。主さまのご随意に」

「そうか」

 

 ガンマはお金いっぱい持ってるし、そんな細かいお金は気にしないみたいだ。

 やっぱり、お金を持つことで人は心に余裕が生まれる。僕にはもっとお金が必要だけど、焦っていいことはないから、もっとお金を集めよう。

 

「さて、そろそろ帰ろうかな。デルタ降りて」

「あうー、ボスもう行っちゃう?」

「まぁ、帰るからね」

「デルタ、主さまにはやるべきことがあるのよ。降りて」

「ガンマ! 弱い奴がデルタに命令するな!」

「えっ? わっ、ぺぎゃーっ!?」

 

 あぁ、また始まってしまった。デルタがガンマに馬乗りになっている。いつもはアルファが止めるんだけど、今はここにいないし。

 

「デルタ、あんまりいじめちゃ駄目だよ」

「分かってるのです! どっちが上かちょっと分からせてやるだけなのです!」

「ほどほどにね。じゃあ、僕は帰るから」

「あ、主さまーッ!」

 

 うん。デルタも殺しはしないだろうし、ガンマはなんだかんだ言って頑丈だから、大丈夫でしょ。

 僕は二人が取っ組み合う声を聞きながら、そこを後にした。

 

□□□

 

「そういえば、シド君、ヒョロ君聞きました?」

 

 翌日───より正確に言うなら日付は変わってないんだけど───の昼食で、ジャガがそう切り出した。

 ジャガがこう話し始めるときは、何かあるときだ。僕の経験はそう語っている。

 

「何の話?」

「実はですよ、シド君、ヒョロ君……」

 

 ぐいっとジャガが乗り出す。そして、周囲をぐるりと見回した後、小声で言った。

 

「昨日の夜から、ミドガル魔剣士学園の生徒一人が行方不明らしいんです」

「うちらから行方不明者が? ははーん。さては、検査が厳し過ぎて逃げ出したんだな。根性なしなやつもいたもんだ」

「そうですね。自分たちのように強い信念も、溢れ出る才能も持たないしょうもない人だったんでしょう。まぁ、自分はあんな検査余裕でしたけど」

 

 ふむ……。

 

「つん」

「わひゃっ!? ちょっとシド君!? そこは今筋肉痛だから、触らないでくださいよ!」

「余裕だったんじゃないの?」

「も、勿論余裕でしたよ。ねぇ? ヒョロ君」

「お、そうだな。余裕過ぎて、むしろ調子がいいくらいだぜ」

 

 ヒョロが得意そうにのたまった。

 

「調子がいいの?」

「あぁ! 朝起きたら財布の中の銀貨が二枚になってたんだぜ! あれ、なんでシドお前、二人もいる……」

「えっ、ちょっとヒョロ君!?」

 

 急に顔が青くなったかと思えば、ヒョロが机に突っ伏してしまった。

 

「とりあえず、医務室に運ぼうか」

「そ、そうですね。それで、シド君。悪いんですけど、自分はその……この体でして」

「分かったよ」

 

 僕は白目を剥いているヒョロを背負う。そして、医務室に向かった。ジャガが地図を広げて先頭を行く。

 その道中、ふと気になったことがあった。

 

「そう言えば、いなくなった生徒って誰なの?」

「えーっと、確かサイショー・ギセイとかって名前の二年生だったはずですよ」

「へー、聞いたことないけど、どんな人?」

 

 少なくとも、ネームドキャラではないだろう。僕のリサーチには引っかかってないわけだし。

 

「そこそこの成績はあったみたいですよ。選抜大会でも、手堅い戦い方で危なげなく勝ち上がっていたようですし」

「ふーん。失踪ねぇ……」

「あっ、そういえば。さっきは言いそびれたのですが、学術都市の研究者の方でも何人かいなくなってるみたいですよ」

「へー、研究者も?」

 

 ジャガは「えぇ」と頷き、パラパラと懐から出した手帳をめくる。

 

「最初に失踪者が出たのは昨年の秋頃のようですね。つまり、二学期の辺りです」

「秋頃だと、僕たちは休みだったでしょ?」

「休み……『無法都市』……うぅ……」

 

 ジャガは嫌なことを思い出したとばかりに、顔をしかめる。そして、こほんと一つ咳払い。一体何があったのだろうか。

 

「それから、月に一度か二度の間隔で、失踪者が出ているみたいですね。それが、今回は魔剣士だったみたいですが」

「ふーん。なるほどね」

 

 何か面白そうなことが、僕の知らないところで起こっているみたいだ。

 失踪事件イベント! この波に乗らない手はないだろう。

 

「面白くなってきたね」

「はい? シド君なんか言いましたか?」

「いや、何でもないよ。それより、これ本当にこっちで合ってる? 全然人いないけど」

「あれ、こっちと聞いていたのですが、どこかで間違えたのでしょうか」

 

 何か目印になるものはないかと、僕は周りを見回す。

 

「十番倉庫って書いてあるけど」

「えっ、十番倉庫ですか?」

 

 ジャガは地図を大きく広げてよくよく目を凝らして見ている。

 

「それ、上と下が逆じゃない?」

「あっ」

 

 結局、医務室に辿り着いたのは、それから三十分後であった。

 

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