僕は、願わくば永遠の命が欲しい。永く生きていれば、それだけ鍛錬に時間がかけられ、強くなれる。知識や経験だって、永く生きた方が積み重ねられるに決まっている。つまり、僕の理想とする『陰の実力者』により近付いていけるのだ。
それに、一〇〇年後くらいにひょっこり現れて、「まさか、あれは伝説の……」みたいな展開もやりたい。
他にも、今が歴史になる程遠い未来で、ネームドキャラや主人公キャラに「古の真実を教えてやろう……」みたいなこともやりたい。
これらをやるためには、どうしたって僕の寿命では足りない。まだ魔力パワーで六〇〇年くらいしか生きられないのに、"忘れ去られた伝説"みたいな展開はできないのだ。
僕は永遠の命が欲しい。不死になりたいとは言っていない。不老であるのなら、僕はそれでいい。
それが、僕のささやかな願いだった。
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僕は暗い部屋でベッドに横たわりながら、そのようなことを考えていた。
今日は昼寝をしてしまったせいか、どうも寝付きがよくない。うだうだと考えている内に、夜もだいぶ深くなっていた。
「そろそろ寝るか」
僕の平均睡眠時間は二時間程である。というのも、僕は魔力と前世のなんか健康に良さそうなものをかけ合わせた独自の睡眠法を確立しており、その結果として睡眠時間の短縮に成功したのだ。今の僕は、前世の人間なら誰しもが憧れる超ショートスリーパーなのだ。
僕は気合いを入れて眠ろうと試みる。だが、全く、これっぽっちも眠くない。
……うん、これはもう寝なくていいのではないだろうか。
「ふっ、まだ眠るには早いか……」
眠くないのに眠るなんて、時間の浪費もいいところだ。ふっ、僕は無駄を好まない主義なんだ。
僕はそう結論付けて起き上がる。
眠らないなら、まだまだ夜は長い。久しぶりに、寝静まった街を見下ろす僕、とかをやってみるのもいいかもしれない。
「ん?」
そう思って、スライムロングコートに着替え、部屋を出ようとしていたとき、僕はベッドの脇に何かが落ちていることに気付いた。
気になって見てみれば、それは『ミツゴシ商会』がだいぶ前に新しくオープンした『ロイヤルミツゴシ高級バー』の会員証だった。会員番号は『001』と書いてある。
「ふむ……」
バーか。秘密の会話をするにはぴったりの場所だ。何より、バーで飲んでいる姿はかっこいい。
「まだやってるかな」
ヒョロとジャガから巻き上げたお金もあるし、友達割引もしてくれるかもしれない。最悪、駄目そうなら逃げればいい。
よし、行こう。『ミツゴシ商会』が運営しているなら、知り合いがいるかもしれないし。もしかしたら、『陰の実力者』プレイに付き合ってくれるかもしれない。
僕はミツゴシ製のスーツに着替え直し、部屋を出た。
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僕が『ロイヤルミツゴシ高級バー』に着くと、丁度店じまいの準備をしている店員に出会った。
「あれ、もう終わりかな?」
「はい、すみま……」
愛想よく振り返ったその人の顔が固まる。完全に動きを止めて、まるで彫刻のようだ。
「あの……」
「あ、いえ、その……我が『ロイヤルミツゴシ高級バー』に何かご用ですか?」
「まぁ、ちょっと飲みに……」
僕がそう言うと、店員さんは急いで中に入っていった。僕は一人、寒い店外に取り残されていた。
うん、やっぱり迷惑だったかな。ここは日を改めて出直してこようか。
そう思い踵を返したところで、さっきの店員さんが戻ってくる。はぁはぁ、と肩で息をしていた。なんでそんなに急いでいたのだろう。
「シド・カゲノー様、ど、どうぞご入店ください」
「あれ、でも、もう閉店だったんでしょ。 いいの?」
「はい。今、開店しましたから」
「開店したのか」
「はい。開店しました」
閉店してすぐ開店するとは。これが新時代の営業スタイルか。
まぁ、入っていいと言うのなら、ありがたく入ってしまおう。
「なんか悪いね」
「滅相もございません」
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「あなたがここに来るなんて、珍しいわね」
僕がお店に入ると、聞き慣れた声が聞こえてきた。アルファだ。
彼女の前には半分くらいまで水の入ったグラスが一つ、置いてあった。チェイサーかな。
僕は彼女の隣に腰を下ろす。
「最近よく会うね」
「昔は毎日のように顔を合わせていたのに、不思議なものね」
「今日は一人で飲んでたの?」
「えぇ……お酒は、飲んでないけれど」
そう言って、彼女は水を一口飲んだ。
僕はバーテンダーにウォッカマティーニを頼む。……なんで、ウォッカがあるんだ。
「……まぁ、いいか」
どうせ、ガンマたちのせいだ。
「そのスーツ、ようやく着てくれたみたいね」
「まぁね」
彼女は少し嬉しそうに頬を緩めた。けれど、何だかいつもと雰囲気が違うような気がする。いつもよりちょっと、暗い印象を受けた。
悩み事でもあるのだろうか。
こういうとき、僕はどうするべきか。順当に考えれば、悩みを聞くべきだろうが、アルファが抱えている問題だ。面倒なものに違いない。
うん、こういうときは気付かなかったふりだ。僕は、何も見ていない。
「あなたの目標は裏社会のボスになる、よね?」
僕が心の中でそのようなことを考えていると、神妙な面持ちでアルファがそう聞いてきた。
僕は考えてみた。
僕の夢はあくまで『陰の実力者』になることだ。何をどうすればなれるのかは分からないが、日々それっぽいことをして研鑽を積んでいる。
それを踏まえた上で、裏社会のボスになることについて考える。
物語の冒頭、謎の雰囲気を醸し出していた男が、中終盤に実は組織のボスだった! という展開は一度やってみたい。
他にも、裏社会のボスであるということは、いっぱい配下がいそうだ。組織的に裏で動くというのも、かっこいいのでやりたい。昔はアルファたちとよく一緒に動いてそれっぽいことをしていたのだが、最近はなんだかんだ一人だ。
一人には一人の、複数人には複数人のいいところがあると思うが、ずっとやってないとやりたくなる。
それに、大規模な組織の行動というものはやったことがない。そういう意味でも、やってみたい。
うん、裏社会のボスにも、夢が詰まっている。
「そうだね。僕は裏社会のボスになりたい」
僕のその言葉を聞いた彼女は、安堵したように大きく息を吐き出した。
「それが聞けて良かったわ」
アルファは立ち上がる。もう行くのだろう。
僕は味のよく分からないウォッカマティーニを飲む。感想を述べるなら、お酒の味がした、だ。
そこで僕は隣にいる気配がどこにも行っていないことに気が付いた。
「あれ、まだ行かないの?」
「いえ……そうね」
アルファは少し考える素振りを見せる。
「あなた、他に何か夢とか目標とかはあるかしら?」
「藪から棒にどうしたの?」
「少し、気になって」
「夢とか目標とかじゃないけど、欲しいものならあるよ」
「それは?」
「永遠の命」
僕は即答した。丁度さっきまで欲しいと考えていたものだけに、この答えは必然であった。
アルファはピクリと眉を動かした。
「そう、永遠の命ね。覚えておくわ」
「別に覚えなくてもいいけど」
「ふふっ、覚えておくわ」
そう言って、アルファは店を出ていった。
残った僕は一人、お酒を飲んでから帰宅した。
本当は前回アルファと会ったときに「永遠の命が欲しい」と伝える予定だったのですが、書いていなかったことに気付き、急遽入れました。少し強引ですが、ご愛嬌ということで。