陰のボスになりたくて!   作:若林布吉

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すみません。ゲームしてて、気付いたら19:00回ってました。ゴールデンウィークだからと羽目を外しすぎました。


シータvsガンマ+α

 ゼータたちの戦闘に巻き込まれないよう戦場を変えてすぐ、魔力が高まるのを感じたかと思えば、直後に轟音と衝撃が届いてきた。天井が崩落したのかもしれない。

 

「ウィクトーリア」

「向こうも始まったみたいね」

 

 ウィクトーリアがにっと白い歯を見せ笑う。シータには、笑う彼女の姿がまるで獲物を前に舌なめずりをする肉食獣のように見えた。

 

「それじゃあ予定通りに」

「教官も任せてくれていいのよ?」

「大丈夫。それより早くやっつけて、こっちに加勢しに来て」

「簡単に言ってくれるわね」

 

 ウィクトーリアはそう言い残して前に出る。その背中に気負いはなく、負ける可能性を微塵も考えていないようだった。

 前に出てきたウィクトーリアに、二つの影が立ちふさがる。カイとオメガだ。

 

「ナンバーズが二人。準備運動には丁度いいわ」

 

 そして、戦いが始まった。

 

□□□

 

 残ったのはシータと、ガンマ、ニュー、ラムダである。字面で見ればシータに割く戦力が多いが、ガンマにはほとんど戦闘能力がない。実質、均等な戦力配置である。

 ガンマたちが事前に話していた通りに、戦いが進みつつある。

 

「──シータ」

 

 そんな中、ガンマは悲壮な面持ちで呼びかけた。対してシータは、何も言わずにゆるゆると首を振った。何を言いたいかは分かっていて、その上での回答。それなりに長い付き合いの二人の間では、これだけでも意思疎通ができた。

 だが、ガンマはまだ納得いっていないようだった。何かを言いかけて、しかし口を閉じている。

 

「ガンマ様。後は私達が……」

「いいえ、ラムダ。大丈夫よ」

 

 前に出ようとするラムダの肩を掴んで、ガンマは剣を抜いた。うだうだと言ってはいられない。ガンマはガーデンの支柱たる『七陰』であり、今この場で最も責任を持つ者だ。トップが揺らげばそれに連なる者も揺らぐ。その必然を知らないガンマではない。

 故に、己を殺して剣を握るのだ。

 それを見て、ニュー、ラムダもそれぞれの得物を握る。

 シータも、刃渡り十数センチのナイフを握るが、棒立ちのまま突っ立っていた。眠たげなその瞳は、三者の間を揺れ動く。油断なく目を配っていると言えば聞こえはいいが、その瞳に敵意のようなものは見えない。ただ何となく眺めている、そのように感じられた。

 そんな彼女の纏う雰囲気がふと変わる。独特の雰囲気を持ち、余人には何を考えているか悟らせない彼女だが、このときばかりは分かった。

 戦闘の始まる予感。ガンマたちはそれを感じていた。

 

「一つだけ言うなら、シータもゼータも、主のために動いているのは変わらない」

「それはどういう……」

「ガンマ様!」

 

 意味深なシータの発言に眉を顰めたのも束の間、一瞬にして距離を詰めた彼女の蹴りがガンマのこめかみを狙う。

 刹那の意識の隙間を縫った彼女の奇襲に、反応が一手遅れた。

 そして、その一手の遅れが致命的な結果を招く。農夫が簡単に雑草を刈り取るように、カミソリのようなその蹴りはガンマの意識を容易く刈り取った。

 

□□□

 

 夢とは儚いものであると言ったのは誰なのだろうか。夢は掴みどころがなく、曖昧で、起きればすぐに記憶の彼方へ吹き飛んでいってしまう。

 ガンマは夢を見ていた。とても懐かしい夢だ。

 夢の中でガンマは、主と一緒にいた。ここは木の香りに満ちた始まりの家だ。

 

『主さま』

『ん? なに?』

『主さまは何故戦うのでしょうか?』

『夢が、あるからだよ。どうしても叶えたい夢が』

『裏社会のボスになるというのが、夢なんですか?』

『いや、それも単なる小目標……通過点に過ぎない。ボスになって終わるわけじゃないからね』

『……! 確かにその通りですね! では、その先は何をするんですか?』

『まだ決め……』

 

 そこで主は顎に手を当て意味深な笑みを浮かべた。

 

『ふっ、まだ言えない。一〇〇年単位で計画を立てねばならないからな』

『そんな計画を……! しかし、主さまは人間で、そこまで長生きは……』

『──本当に、そう思うか?』

 

□□□

 

 ゆっくりと、ガンマの意識が浮上する。夢から現実への回帰は、海と空が水面でがらりと入れ替わるに、ある境界で唐突に反転する。

 頭に重い痛みが響く。最悪の気分の中で、何が起こったのかを思い出す。

 ガンマは、どうやらシータの蹴りで意識を失っていたようだ。たった一撃でダウンしてしまう自分が情けない。

 

「反省は後よ。今は……」

 

 頭が痛い以外に体に問題はない。

 顔を上げて、今の状況を整理する。

 現在進行形で、シータとニュー、ラムダたちは戦っていた。ニューの刃を受け流しつつ、シータが上段へ向けて回し蹴りをする。だが、その足はニューに届く前に、横合いから割って入ってきたラムダの鞭に絡め取られていた。

 そのままラムダが器用に鞭を操り、シータの体勢を崩し、転倒させる。その隙を見逃さなかったニューが、倒れ込んだシータの首を狙って剣を突いた。

 それを横に転がることで回避したシータは、思いっきり鞭の絡みついている足を振る。鞭を奪うつもりだったのだろうが、ラムダもただやられるわけにはいかない。負けじと引っ張り返した。

 そうやって両者が引っ張ることにより、鞭の繊維が僅かな時間だが、極限まで伸びて悲鳴を上げていた。それを見たシータは、今一度足を振って繊維を伸ばすと、魔力を込めた短剣で鞭を両断する。

 シータは、見事鞭を切ることに成功した。だが、少し手数を割きすぎてもいた。地を這うようなニューの刃がシータを襲う。

 咄嗟に回避を試みるが、完全に躱すことはできなかった。右足のふくらはぎを剣が抉る。真っ赤な鮮血が、辺りに飛び散っていた。

 戦局はこちらが優勢のようだ。単純な数の差はすなわち手数の差であり、それがそのまま勝負を決めていた。

 機動力重視のシータに足のダメージは痛い。大幅な戦力ダウンが予想される。

 

「すぅー、はぁー……やるしかないか」

 

 だが、シータには微塵も諦めた様子がない。傷も少しは魔力で癒やしたようだが、まだ血は溢れ出している。

 なのに、何食わぬ顔で立ち上がったかと思えば、深呼吸をし、クラウチングスタートの構えを取った。

 

「二人とも気を付けて! ここで決める気よ!」

 

 それを見たガンマは叫んでいた。

 シータの持つ諸刃の剣、その鋭さをよく知っていたからだ。

 ニュー、ラムダもそれは分かっていたのだろう。返事もそぞろに、シータの動向を注視していた。

 しかし──

 

「消えたっ!?」

 

 驚きのあまりか、ニューが叫ぶ。

 だが、それも仕方ないだろう。少し離れて見ていたガンマですら、動き出しの部分しか見えなかったのだから。

 

「まず一人」

 

 突然、ラムダの頭がブレたかと思うと、彼女はがくんと膝をついて倒れた。完全に意識が飛んでいる。そして、遅れてそのような言葉がガンマの耳に届く。

 何が起こったのか考えるまでもない。シータがやったのだ。

 記憶にある動きよりも格段によくなっている。

 続けて、同じようにニューも倒れる。瞬きもできないような一瞬の出来事だった。次はガンマの番だろう。

 ガンマに戦闘能力はない。だが、だからと言って簡単にやられるつもりはない。

 それに、ガンマはシータの弱点を知っている。時間はガンマの味方だ。

 初撃、これは間違いなく頭を狙ってくるはずだ。ここまでの攻撃と、過去の経験から間違い。案の定、予めガードしていた剣に凄まじい衝撃が乗っかり、ガンマは吹き飛ぶ。

 ゴロゴロと回転しながらも、ガンマは相手の次の手を考える。地面を転がるのは、ガンマの十八番である。

 シータの性格から考えて追撃は、

 

「動きが止まってすぐ!」

 

 壁に激突したガンマは回転し過ぎて回る視界の中、脇目も振らずに横に飛ぶ。三半規管が混乱しているので厳密に横から不明だが、とにかくその場を離れた。

 直後、ガンマの元いた位置が凹んでひびが入った。壁の崩れる大きな音がする。

 だが、それに気を取られている暇はない。さらなる追撃があるはずなのだから……

 

「……今のを躱されるとは思わなかった」

 

 しかし、期待していた次はなかった。少し乱れた呼吸をしながら、膝をつくガンマを見下ろしている。

 

「思い違いをしていたようね……」

 

 そうだ。初めから『最弱』のガンマに勝ち目などなかったのだ。ナンバーズ二人相手ならともかく、ガンマに本気を出す必要なんてない。わざわざ危険な速攻を仕掛ける必要そのものが、存在しないのだ。

 それに気付いたガンマは、しかし諦めずに立ち上がる。まだ負けてはいないのだ。最後までは足掻かなくては。

 けれど、シータにはもう戦闘する意思はないようだ。再び、ゆるゆると首を振る。

 

「シータもゼータも、ウィクトーリアもニーナも、全てはシャドーのために動いてる」

 

 先ほども聞いた言葉だ。だが、それが本当だとして、

 

「どうして、ガーデンを裏切ったというの?」

「別に、裏切ったわけじゃない」

「それはどういう……」

「ちょっとすれ違っちゃっただけ。話せば分かる。多分」

「多分って……でも、何を話せというの?」

「シータからは言えない。ゼータに聞いて」

「あなたさっきから何を言っているの」

「この戦いを止められるのはアルファ様とゼータだけ。だから、口の上手いガンマに後は任せた。シータは、ウィクトーリアが殺しちゃってないか見に行くから。バイバイ」

「あっ、ちょっと待ちなさい!」

 

 ガンマの静止も聞かずに、シータはいなくなる。完全に置いていかれたガンマは、シータの言っていた拙い言葉を思い出し、考える。

 

 やがて、どのくらい経っただろうか。突然顔を上げたガンマは、倒れるニューとラムダをしっかり寝かした後、駆け出した。今も戦いが起こっているだろう方角へ。




次回で終わりそう、かな?
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