陰のボスになりたくて!   作:若林布吉

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不穏な予感

「アルファ様。奪われたディアボロスの体が保管されている場所が分かりました」

 

 ガンマがそう報告してきたのは、ある日の穏やかな昼下がりのことだった。

 シータが教団の何者かに命を奪われたあの日、同時にディアボロスの右腕以下、ゼータたちが集めていた体がすべてなくなっていることが判明していた。『シャドーガーデン』の総力を挙げてその足取りを追っていたのだが、ここまでついぞ、何ら手掛かりを見つけることはできていなかった。

 それが、今日になって急に情報が上がってくるとは……。

何かあるのかもしれないと、アルファの中で警鐘が鳴る。これは罠だ、と。

 

「裏付けは取れたの?」

「いいえ、まだです。今、ゼータが確認しに行っています」

「そう、あの子が」

 

 ゼータは『七陰』から一段降格して、ナンバーズとして動いている。ガーデン内でも多少混乱はあったが、最近ではだいぶ落ち着いてきていた。

 それは良い兆候だとアルファも思っていた。だが、良くない兆候もあった。

 彼女は、シータの死に対してかなりの責任を感じている様子だったのだ。あなたは悪くないと言っても、どこか上の空の返事しかしない。間違いなく、今の彼女は平静ではないだろう。

 けれど、潜入任務において、彼女以上の適任はいない。罠の可能性も高いところに潜入できる者は、彼女を置いて他にいないだろう。

 

「分かったわ。ゼータには彼女の望むだけの支援をしてあげて。ただ、彼女とは別に、その情報元を洗いなおすのと、他にもそれらしい場所はないかの調査をしてちょうだい」

「やっぱり、アルファ様も怪しいと思っているのですね」

「えぇ」

 

 そう言って、最後にもう一度、渡された資料に目を通す。見落としはないか、確認するためだ。

 そこで、何気なく見ていた地名に微かに見覚えがあった。つい最近、聞いたか見たかした気がする。

「ガンマ、このベガルタ街道付近で、最近何かあったかしら?」

「……何か、とは教団関係のことですか?」

「いえ、それ以外でもいいのだけれど。ちょっと、最近見た気がしたの」

 

 ガンマは少し考える素振りを見せると、すぐに「あっ」と手を打った。

 

「そういえば、魔剣士学園の生徒向けに『紅の騎士団』のインターンシップがその付近で行われているはずです」

「あぁ、それで見たのね。……そのインターンって、確かシャドウも参加していたかしら?」

「はい。アレクシア王女に誘われたとかで」

「アレクシア王女に?」

 

 学校では目立たない生活を送っているはずの彼を、何故王女が誘ったのだろう? そして、何故彼はその誘いに乗ったのだろう?

 彼の考えていることは、アルファ程度では全く分からないが、彼が動いているということは、何かがそこにあるのかもしれない。それに、色々な情報がそこに集中している。これは、何か大きなことが起こる前触れかもしれない。

 

「ガンマ、至急ベータをゼータの応援に向かわせてちょうだい。確か、またベガルタ方面に向かっているはずだから。それと、デルタには絶対に王都を出ないように厳命しておいて。もしごねるようなら、私が首輪を付けに行くとも」

「承知しました。他には何かありますか?」

「……今、『ミツゴシ商会』で新しく計画している事業は全て一旦ストップして、通常業務だけでいいわ。余った人員は、訓練と休息に当てて。停止の期限は、とりあえずゼータからの報告があるまで。それから先は彼女の報告で決める」

「分かりました。それでは、失礼いたします」

 

 頭を下げて退出するガンマを見送り、アルファは席を立つ。そして、最近『陰の叡智』からイータが作ったという長距離無線機に手を伸ばした。離れたところにいる相手にも即座に情報伝達できるこれは、当然ガーデン内でもトップシークレットであり、繋がる相手も数少ない。当分は、『ミツゴシ商会』を通して市場に出すこともしないだろう。

 さて、そんな無線でアルファが連絡を入れたのは、

 

「イータ。大至急、あれを完成させて。金に糸目は付けないわ」

 

 受話器からは、『ブイ』とだけ返ってきたのだった。

 

□□□

 

 インターンが始まってからすでに二日経っていた。この間、初日に現れたような強力な魔獣が出ることもなく、盗賊が出ることもなく、実に平和な日々が続いていた。確か、募集の広告には二泊三日と書かれていたので、今日が最終日であるはずだ。

これでようやく、アレクシアから解放される。というのも、この二日間、アレクシアがことあるごとに僕に付きまとっていたので、かなり鬱陶しかったのだ。ヒョロとジャガを押し付けてみても、彼らには見向きもしないし。

因みに、ジャガは初日にアレクシアに助けられて以来、「ふっ、自分の魅力にアレクシア王女もようやく気付いてしまったようですね」などと言っていた。

 

 さて、そんなインターン生活を送っていた僕は今、アレクシアと一緒に、街道から少し離れたところを歩いていた。右手は開けており、左手にはあまり人の手が入っていない森林が広がっている。いかにも魔獣とか盗賊とかがいそうな雰囲気だ。

金ぴかの人曰く「今日は最終日だから、普段オレたちがやっているようにツーマンセルで行動してもらう」だそうだ。もし怪我人とか死人とかが出たら、監督不行き届きとかにならないのだろうか。

 

「はぁ……」

「何ため息なんてついているのよ」

 

 僕はアレクシアを見て、もう一度ため息を吐く。

 

「さっきからその態度は何なのかしら?」

「高貴な王女様と行動を共にしなければならないわが身の不幸を嘆いているだけだよ」

「どういう意味よ」

 

 と、今度はアレクシアが大きなため息を吐いた。貧乏貴族と行動をと身にしなければならないわが身の不幸を嘆いているのだろうか。

 

「あなた、なにか隠していることあるでしょう?」

「隠していること?」

 

 なんだろう。僕は彼女に隠し事はしていないと思うんだけど。全く心当たりがない。

 何かあったかと軽く思考を巡らせつつ、視線を彷徨わせていた僕は、左手の森の奥で何かが動くのが見えた気がした。

 

「あれは?」

「ちょっと、話を逸らさな……何かあるわね」

 

 そう言って、アレクシアは目を細めている。うん? 僕の目にはもう動くものは見えていないんだけど、彼女は一体何を見ているのだろう?

 

「あれは、洞窟かしら?」

「洞窟?」

 

 彼女の見ている方向を僕も目を細めて見てみる。すると、確かに何か洞窟のようなものが見える。

 

「よし、行ってみよう」

 

 あのような場所にはかなりの確率で盗賊——今考えれば教団だったのかもしれない——がいるのだ。

 

「いや、行く必要はないでしょう」

 

 洞窟の方へ行こうとする僕の首根っこをアレクシアが掴む。

 

「どうせただの洞窟よ」

「ああいった場所には、よからぬ輩がいるかもしれないでしょ。僕たちは今街道警備中なんだから、確認しないと」

「……それもそうね」

 

 少し考え、アレクシアが同意する。

 

「じゃあ、行くわよ」

「盗賊狩るのは任せた」

「あなたは何するのよ」

「戦利品回収」

「なによ、それ」

 

 と、そんな感じで、僕たちは森の中へと入っていったのだった。

 

 




来週は日曜含めて色々立て込んでいるので、投稿できないかもしれません。
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