束さんがやっつけちゃうぜ!   作:かきごおり

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再誕編
アライバル・ライバル(上)


▲▲▲

 

 学校の暮らしにも慣れてきた。苗字も名前も変わったがそれにも慣れてしまった。

 剣道だけはなんとか続けているが、友達は作れそうにない。名前すら違うというのにどうやればいいのかという問題もある。小学生の途中で転校してきた私に居場所はなかった。

 

 それに監視の目もある。護衛のためにという名目らしいが、実際はどうなんだろうなとも思っている。姉に会わせないようにしているだけとも思わなくもない。

 

 その姉は現在、行方不明なままだが。

 

 借りている家にも一人で住むには広過ぎる。料理はしているが、味気ないと感じる。この生活はいつまで続くのだろうか。もしくはずっとこのまま?

 

 それは嫌だ。だが、それを変える力が私には。

 

「貴方が篠ノ之箒さんでしょうか?篠ノ之博士の妹ですよね」

 

 女性に話しかけられた。ぱっと見では私より年下のような気配すら感じられる童顔の女だった。

 

 私の本名を知っている?政府関係者かもしくは姉に対して人質にするための誘拐犯なのだろうか。

 

 それにしては帰宅時間の真っ只中の白昼堂々と襲いかかってくるものなのだろうか?奇妙な誘拐犯だ。

 

「申し遅れました。私は山田真弥です。所属は日本政府預かりのISの代表候補生ですかね?せんぱ、織斑千冬さんの後輩です」

「千冬さんの?」

 

 確か私と千冬さんは接触禁止命令が出ていたはず。それを回避するために別の人に頼んだ?

 

「ちょっと千冬さんに頼まれてまして。一緒に来てもらえませんか?」

「それはいいですけど。あの護衛の人はどうしました?」

「少し眠ってもらっています。夜が明ける前には目を覚ましますし、ああ大丈夫です!私も貴方の護衛はできますから」

 

 そういって力瘤を作った山田さん、代表候補生の話が本当なら頼もしい限りだが。

 

「もしかして全員をですか?誰にも気づかれずに?護衛対象の私からも?」

「そうですけど。それが何か?」

 

 なんだか千冬さんの後輩なのがよく分かる。さも当然のごとく話を進めているのに結構力押しな所とか。

 

▲▲▲

 

 ISで飛行して30分程度経った。正直、乗り心地は悪かった。鍛えていてよかったと思う。

 着いたのはなんの変哲もない場所。というか見覚えがない。私の生家からほど近いというだけで来たことはないはずだ。

 

「着きました」

「ありがとうございます。ここは?」

「ちょっと待ってくださいね。確かこのへんに」

 

 山田さんは緑色にカラーリングがついたIS「ラファール・リヴァイヴ」に乗ったまま目の前の家の倉庫を漁り出した。わざわざISに乗ったままで。

 

「よいしょ」

 

 地面が割れた。というかISの力で引っこ抜いた。埃が舞う。その床を引っこ抜いた先には階段が広がっていた。周りとは違う。なんというか新しい。

 

「さあ、この先へ向かいましょう。足元に気をつけて」

「地下空間か?これは」

 

 山田さんの先導で下に降りていく。山田さんはISは解除していた。先が見えない。これは長いな。

 

 しばらく歩いて5分ほどだろうか。結構な長さの地下に降っている気がする。階段の数は500から先は数えるのを止めた。少し冷える気がする。

 

「おっ、箒か久しぶりじゃないか」

「一夏か!?」

 

 知らない場所に居た知り合いに出会えてホッとする。しばらく見ないうちに一夏も男らしくなったというか。

 

「箒は変わらないな!」

 

 前言撤回だ。このアホは何も変わっていない。ため息が思わず出た。

 

「それで何故一夏がここに?」

「あぁ。俺もよく分からないんだよ。千冬姉に呼び出されたけどここがどこか見当も付かないしさ」

「ここは研究所ですよ。篠ノ之博士の」

 

 山田さんはそう告げた。

 研究所だと。目が慣れてきたので周りを見渡すと確かに見たことのないような高価そうな機材やだだっ広い空間が地下なのに広がっている。ここが姉さんが使っていた施設。

 

 それはいつの日か見たISのスタジアムと似たような構成だった。見下ろすように中央の空間を囲むように作られた観客席。尤も、他に私たち以外の人はこの観客席にはいないようだ。

 

「けど、姉さんは今は行方不明では」

「ええ。現在も行方不明。日本以外の国家では国際指名手配犯とさえ扱われています」

「そんな!?」

 

 政府はそんなことまでやっているのか!?

 

「けど、それは今は関係ないと思います。あるのは2人の中にしかないものだけ」

 

 人は私たちだけだと思っていたが、違う。ISスーツを纏い、目を瞑り、瞑想をしている女性。彼女はそこで立って待っている。

 

 織斑千冬。先の「モンド・グロッソ」で優勝した「地上最強(ブリュンヒルデ)」。

 

「来たか」

 

 千冬さんはそう呟いてこちらを見た。

 

「あれ?随分と物々しい感じだね」

 

 そう飄々と語る女性。それは私の背後に立っていた。

 

 忘れもしない私の姉。いつの間にか足音もなく私たちの背後、階段からやってきていた。長い髪、ウサギの耳を模したガジェット。独特なファンタジー要素溢れる服装。

 

「ちーちゃん。ティータイムにしてはコーディネートがなってないと思うなァ『束さん』としては」

「そうか?お前と語り合うにはこの服装だと私は思っていたがな」

 

 「天災」篠ノ之束が私の後ろに居た。行方不明のはずの姉は確かにいる。それも待ち合わせに着いたばかりの乙女のような口調で。笑顔なのに酷く不機嫌そうな顔で。

 

■■■

 

「箒ちゃん。久しぶり元気にしてた?」

「姉さん。私は貴方に」

「んー。麗しい姉妹仲もいいけどさ。『束さん』ってば用事があってね。後で話そうよ。そんなに掛からないと思うしさ」

 

 いっくんもいるじゃん。はろはろ〜。

 なんでいるのかと思ったけど、理由はもう知っている。ちーちゃんの差金だろうってことは。後なんか知らないメガネをかけた女性の人。記憶にないや。

 

 本当は中央の演習エリアへ続く階段があるけれど、時間がかかってしょうがないから横着しよう。

 

「ちょっ!?」

 

 箒ちゃんが驚く声が聞こえるけど無視無視。だってそんなことで一々驚いてたら時間が足りないよ?

 15mほどあるフロアへジャンプ。衝撃もさほどなのでゆっくりと降り立った。そうしてちーちゃんと向き合う。

 

「『束さん』に用事があるって。どういうことかな?ちーちゃん。これでも忙しい身なんだよ?わかってる?」

 

 急に連絡をよこしてこんな辺鄙な研究施設に呼び出されたので来てみればこれだ。長話したいなら電話でもいいと思うし、そもそも研究もまだ中途も中途だ。帰って計算と実験の準備をしなくちゃいけないのに。

 

 言葉通りに『私』は忙しい。

 

「何、ちょっとした野暮用だ。小学生の時、お前に言ったこと忘れてはいないだろう?」

 

 「お前のように強くなりたい」って奴?

 そんなものとっくにちーちゃんは『私』より強いって。あの後、『俺』は剣道でボコボコにされたんだからさ。

 

「さぁ?『束さん』はちょっと覚えてないかなー。ごめんね」

「あの後、お前は剣道から逃げてISを作り始めたな」

「…ふーん。まあそういうことにしておいてもいいよ」

 

 なーんか、棘のある言い方だな。別に『俺』は剣道はもういいと思って辞めただけであってちーちゃんに負けたからでは。

 

「最近はそうだな『モンド・グロッソ』だな。親友に優勝させておいてお前はずっと見ているだけだった」

「そーれはどうなのかなぁ?ちーちゃん?」

 

 あの時の『俺』は開催宣言をする側だったから自主的に出場を取りやめていただけだ。流石に無法だと判断したから。

 ちーちゃんだって最後らへんは割とノリノリだっただろう。

 

「そして優勝した時のことだ。私はお前と戦いたいと言った。そうしたら今度はどうだ。お前は全ての責任から逃げ出して逃走した」

「流石にひどい言種だね。流石に『私』も堪忍袋ってものがね」

 

 明らかな挑発だ。分かっている。冷静な『私』はそう判断しているし『俺』も分かっているはずだ。

 

 けど、どうしてだろうか。ヒートアップしていく感覚を抑える気がなくなってきている。

 

「だから、仕方ないから私が準備することにした」

 

 ちーちゃんがISを装備する。「白騎士」に似た、でも明らかに違う。なんなら見たことのない装備だ。

 

「知り合いに頼んで作ってもらったIS『暮桜(くれざくら)』だ。流石に全てお前にお膳立てされた状態で戦うのもなと思ってな」

 

 なんだそのIS。知らない。というかちーちゃんが頼んで他の人に作ってもらったって言うの!?

 いや『私』なら、『俺』ならいくらでもそれより良いやつなんて作れるんだけど!?

 

「最初はお前の力抜きで証明をしようと思っていた。お前の力がなくとも、()()()()はできるぞとな。束、お前の苦悩も理解しているつもりだった」

 

 ちーちゃんはブレードを展開する。「白騎士」とは似ても似つかないレーザーブレード。だってそうだ「白騎士」のコアは『私』が持っているのだから。

 

 どう足掻いてもちーちゃんが使うISは「白騎士」擬きであって「白騎士」には絶対なれない。

 

「つもりだったが、私もだんだん腹が立ってきてな。これはもう殴り合いしかないとしか思えなくてな」

 

 そうしてちーちゃんは気取ったふうに、にやついて観客席を指し示した。それは箒ちゃんやいっくんがいる場所だ。

 

「後は妹のいる場所だ。尻尾を巻いて逃げ出すわけにもいかないだろう?束」

 

 その言葉で『私』は、『俺』は。

 

▲▲▲

 

 千冬さんの話は完全な屁理屈だった。子供のようなわがままだった。彼女らの口論はそんな幼稚なものでしかなくて。

 

 完璧な姉ならそんなものは冷静に論破するだろうとさえ私は思っていた。取り付く島もないほどにあしらうだろうと。

 

 思っていたはずなのに。姉は大きく笑った。

 

「あはははははっはははっ!!!」

 

 転げるように笑う彼女は私の今までのイメージとは違う。公で披露していたような「天災」とさえ呼ばれているような彼女がその言いがかりにすぎないそれを笑った。

 

 一頻り笑い疲れたのか姉は目元に付いた涙を拭いながら高らかに告げた。

 

「いいよ、乗ってあげる。ちーちゃん、後悔させてあげるよ!今まで『俺』がISに乗らなかったのは『私』が乗らなかったのは、ただの手加減でしかないってことを!『紫舞機(しぶき)』ィ!出番だ!」

 

 そういって姉さんはISを装備する。機体装甲は紫色。それは彼女の髪色のようだが、所々マーブル塗装をしているように赤や青の濃淡が強く艶やかにされている箇所が見られる。

 千冬さんの「暮桜」に比べると歪に肥大化しているし、ISの基本的な姿を比べてもかなり外れた機体設計をしていると素人目ながらに思った。

 

 左右非対称のIS。それが姉さんが開発していた機体だった。

 

「ようやくか。まあ、勝つのは私だが。いくぞ『暮桜』!」

「言うねぇ!開発者で『天災』たる『束さん』が負けるわけないんですけど!泣いても怒んないでよ!」

 

 今までの姉なら不自然だと思っただろう。その色使いは完璧な姉ではないと思ったからだ。

 けど、今の姉にはなぜかとても似合っている。

 

「ふふふ」

「ははは」

「「あーはっはっはっはっはっは!!!」」

 

 大笑いしながら彼女たちはぶつかり合う。

 それが彼女たちのたった一つの語る術なのだと。

 

 私は思った。




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