束さんがやっつけちゃうぜ!   作:かきごおり

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アライバル・ライバル(下)

■■■

 

ちーちゃんの駆けるIS「暮桜」。このISが装備している武器は右手に握られたレーザーブレード。その一振りしかないという潔さだった。

 

 その代わりにとんでもない切れ味を誇っている。恐らく、拡張領域もほとんどないのだろう。高出力のブレードとちーちゃんに合わせた機動力それらに焦点を当てて他の悉くを切り捨てている。

 

 これが実際の戦闘ならそうはいかないだろう。だが、今回の戦闘はよーいどんで始まったものだから最初から距離は詰められている。

 

 なら、距離というアドバンテージは向こうにある。

 

「大体、連絡の一つもなしに失踪とはどういうことだ!猫かお前は!こっちがどれだけ心配したと思ってる!」

「言ってたら無理やり縛り付けて止めるでしょ、ちーちゃんなら!『俺』はそれが嫌だったんだよ!」

「当たり前だ!」

 

 剣戟の素早さは格段に向上している。「VTシステム」に搭載されてた「ブリュンヒルデ」なんてものは目じゃない。

 「紫舞機」に搭載されている半思考誘導型ミサイル「紫電」の悉くを切り伏せられている。それも『俺』が即興で仕込んだパターンもすぐに読み切って当たるものだけだ。他のブラフは全部無視してくる。

 

 これだからちーちゃんは!

 

「お前はいつもそうだ!いつもこちらを巻き込んでおきながら、自分から手放している。辛抱強さってやつを分かれ!」

「みんなが遅すぎるんだよ!『私』が懇切丁寧に教えても何も変わりやしない!」

 

 構えた荷電粒子砲の掃射も瞬時加速を駆使して掻い潜ってくる。ちーちゃんは超接近戦をご所望のようだ。なら、付き合ってやる。とことんだ。

 

「『赤陽(しゃくよう)』起きろ!」

 

 『私』の右肩部に搭載された装備が飛び出る。変形したのは二振りの刀を持った軽装の小型IS。女性型の意匠をあしらえた小型の機械人形。

 

「奏でろ!『青陰(せいおん)』!」

 

 『俺』の左肩部から射出され形を成したのは両腕に荷電粒子砲を搭載した重装のIS。男性型の意匠がある男性のような機械人形。

 

 これらは先の「ゴーレム」二機の反省点も含めて強化した完全個別操作型(オールマニュアル)のビットだ。小型にしつつ高出力化した装備。

 通常のビット兵器がレーザーやミサイル単品を発射する移動砲台でしかないのを発展させた機体。ミニISというものだ。

 脳の負荷が大きすぎて『私』にしか扱えないという特大の欠点を抱えた失敗作。けど、『俺』にはこれでちょうど良いくらいだ!

 

 思考制御しながら本体も操作する。頭で早口言葉とフラッシュ暗算をしながら、全力でマラソンをするという混乱具合だが、『私』ならできる!『俺』ならやれる!

 

「止められるもんなら!」

 

 「赤陽」で切り掛かり距離を作る。「青陰」でその攻撃の合間を縫うように弾幕を貼る。流石にちーちゃんも物理的に空間を弾幕で埋められると自慢のスピードも剣速も十全に使えなくなる。

 一人十字砲火だ。そこに『私』の展開したブレードで情報の負荷を与える!こっちは手数は多いが、そっちはブレード一本だ。剣で鍔迫り合いをするならそれでもいい。だが、他を回避する用意はあるかな?

 

 さあ、どう凌ぐちーちゃん。

 

===

 

 束のISは彼女の二面性を象徴するかのような歪さだった。冷静だが感情的。合理的だが理想家。矛盾したようで同居しているのが束だ。自身の手だけなら人智を超えられると分かっていながら周りを信じようとした親友だ。

 

 それの本気はやはり凄まじく。

 

「ちーちゃんだって派手に優勝しすぎなんだよ!おかげで『私』が作ったからみたいな印象になっちゃったじゃん!ちょっとは苦戦してよ!」

「うるさい!そもそも出場権を寄越したのはお前だ!」

「『俺』だって勝ってほしかった!けど、あそこまでやる!?会場の半分冷え切ってたよ!もう冷え冷え!」

 

 ハイパーセンサーで確認する限りミサイルが25発、その間を縫うように荷電粒子砲が14発、それを足止めするためのブレードの剣戟が6、いや7回。

 

 ミサイルの半分を薙ぎ倒し、空いたスペースに瞬時加速でねじ込んでレーザーを回避、そこを邪魔しようとする赤い小型機を蹴飛ばした。

 

 息の合ったコンビネーションだ。三機同時に行っている束の操作技術は他の操縦者と比較して隔絶している。模擬戦では猫をかぶっていたわけだ。

 

 僅かに空いた射撃の隙間そこをついて加速、目の前には青い砲撃仕様の小型機。

 腕の一本でも取ろうとするが束が割り込んできて大盾を構える。支援機を本体でカバーか。なるほど、そうきたか。

 

 だが、甘いな。その程度は読めている。

 

「ちゃんと寝ろ!お前はできるからって無茶を平気で押し通す!食生活もだ!食えれば良いってもんじゃないバランスも考えろ!」

「はぁー!?できるから起きてるだけですけど!?10徹しても他の人に20倍は動けますし!それに好きなもんくらい食べさせてよ!」

「量を!加減!しろ!」

 

 「雪片(ゆきひら)」が盾に当たる寸前に格納、腕が盾を通過した後に再度ブレードを展開する。「高速切替」の応用のようなものこれで腕はもらった。

 

 束も左手に持っていた盾を咄嗟に右手に切り替えてガードのタイミングを合わせてきた。

 

「やるな、束!」

「ちーちゃんこそ、しぶといねぇ!」

 

 今までにないほど頭が冴え渡っている。思考が加速している。瞬きのような刹那、ハイパーセンサーでも加速しきれない時間の隙間を縫うように考え、実行し、阻まれる。

 

 これが束の全力か!

 

▲▲▲

 

「すげぇ、束さんも三機同時に動かしてるし、それを互角に凌いでいる千冬姉も」

「先輩って『モンド・グロッソ』でも全力じゃなかったんですね…」

 

 一夏と山田さんの台詞に私も同意する。

 ただ、聞こえてくる話題はもはやISの話題ではなくもはや口論ですらない。愚痴のぶつけ合いだ。それを喋りながらもお互いの剣戟は続く。

 

 いや、続いているのではないこれは。

 

「加速している…?この状況から」

「やっと束様も千冬様もお互いに小手調べを終えたということでしょう」

「うぉっ!?」「うわっ!?」

 

 私の座っていた座席の隣に目を瞑ったままの銀髪の少女が腰掛けていた。私と同年代だろうか?恐らく姉さんの知り合いなのだろうが。

 

「お初にお目にかかります。私はしがない従者、くーちゃんとお呼びいただければ今は結構です。一夏様、箒様、そして山田様」

「く、くーちゃん?姉さんらしいあだ名だ」

「これでも気に入ってますので悪しからず」

 

 くーちゃんと名乗った少女は目を瞑ったままでも周りを認識しているの姉さんと千冬さんの攻防に首を向けている。

 

「束様は常に自分を抑えて生きてきました」

「えぇ…?」「今でもだいぶ振り回されている気がするが」

「あれでも人の迷惑をかけないギリギリを攻めていたのです。きっと」

「篠ノ之博士ってあれでも自重してたんですか?」

「そうですね。多分」

 

 その語尾は不安しか残らないのだが。

 

「束様は全力を出すのを恐れています。出せば人類史に並び立つものはいないのではないかという恐怖に。常に晒されている。孤独を酷く嫌っているお方です。それはまるでウサギのように」

「姉さんがウサギなのかはともかく、恐れているのはなんとなくわかるな」

 

 姉さんは熱中することはあっても全力を出すことはほとんどない。かなり昔のことだが、美術コンクールで優勝して賞状を貰って帰ってきたことがあった。本当は嬉しいはずのことなのに姉さんは「あんまり努力してないからなぁ」と嘯いていた。

 あれ以来、コンクールに出ることは辞めていた。家に帰るのも減っていった。

 

「でも今は全力をぶつけられる千冬様がいます」

「そうだな。千冬姉も束さんも楽しそうだ」

「ああ」

 

 一夏に同意する。

 昔の姉さんは完璧で私とはやることなすこと全てが桁違い。私とは違う人間なんだなと漠然と思っていた。テレビで見る芸能人のように遠い人間。ニュースで見る姉さんはどれもが輝いていて、それでいて窮屈そうにしていた。

 

「今の姉さんはとても自由で、とても楽しそうだ」

 

 あれが篠ノ之束。少し人より才覚があって寂しがりやの傍迷惑なところもある私の姉。

 

 そう思うと少し気が楽になった。私の姉は人間だとそう思えた。

 

「はーっ!?分かんないかなぁ!?箒ちゃんが一番可愛いんですけど!?剣道もできて私譲りだし、*1才色兼備の自慢の妹なんですけど!?」

「だが、一夏よりは劣るな!!あいつの作る料理はうまい。*2誰にも渡したくないほどだ!箒も素晴らしいが一夏には勝てんな!!」

「ちーちゃん、ブラコンすぎ!!!」*3

「なんだと、このシスコンが!!!」*4

 

 ただ本人たちがいるのに弟妹自慢というのはいかがなものだとは思う。

 

「姉さん…」

「千冬姉…」

 

 すごく恥ずかしいし、くーちゃんと山田さんの生暖かい目線も痛い。

 上がったはずの姉の株がまた静かに下落する音を確かに私は聞いた。

 

■■■

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

 『俺』の息が上がる。『私』の心臓は脈打つ。鼻血はとめどなく。

 頭が痛い!疲れた!喋る元気もない!

 

 もうやめても良いかと体は問いかけてくるが無視して酷使する。

 

 こんな楽しいひと時を自分の体を言い訳にやめてたまるか!!

 

 ミサイルはとっくの昔に尽きていた。「赤陽」のブレードは二本ともへし折られて途中から近接格闘に切り替えざるを得なかったし、「青陰」も持たせていたライフルは一本がお釈迦でもう一本はエネルギー切れで投げ捨てた。今は予備の実弾マシンガンとシールドで応戦している。

 

 本体である「紫舞機」もフレームのあちこちが変形してるし一部は肉に突き刺さっているのか体が燃えるように痛む。右腕には感覚がなかった。どこかで骨が折れているのだろう。

 

 ちーちゃんも似たり寄ったりだ。スラスターの半分は削り取って片肺飛行になっているし、ブレードも予備すらないのか半分のところで寸断されたままだ。頭もどこからか出血しているのか拭う余裕もない。右目は開かない。左腕はだらりと下がっている。

 

 シールドエネルギーは残り僅かだ。ちーちゃんも似たり寄ったりだろう。

 

「次の一撃が…最後か」

「楽しかったけど…ね。まあ、なんにせよ」

 

「「ちーちゃん()に勝つ!!」

 

 「赤陽」と「青陰」はもう使えない。ほとんどスクラップ状態だ。

 なら、使えるところだけは再回収する。再度の合体。残ったのはブレード一本いや。

 

「いくぞ『零落白夜(れいらくびゃくや)』!!」

「ここで本邦初公開!『輪廻紫神(りんねしじん)』!」

 

 「単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)」ISと操縦者の練度が最大になった時に発現する、その機体だけに許された特殊能力。理論上は存在すると判断していた空論だ。それを今まさに発現させた。

 この局面で二人同時なのは偶然かそれとも運命なのか。

 

 ()()()()()はもうどうでも良いことで。

 

 「輪廻紫神」は近くにあったものを改造してその場で最適化する能力だ。

 このバラバラで制御すらおぼつかない「紫舞機」を出力を最適化し、ブレードも修復し、勝つための一手を用意する。あらゆる状況下に対応するための腕の能力。

 赤と青は混ざって紫になった。

 

 ちーちゃんのはブレードから閃光が噴き出している。あれはシールドエネルギーの塊だ。

 なるほど「暮桜」の剣とスラスター特化の仕様なら目指すべき姿はこうもなるか。ハイパーセンサーで観測不能なエネルギーは究極の一だ。

 白の光はどこまでいっても眩いままだ。

 

 万能の「紫舞機」に対する、一撃の「暮桜」。後はどちらの矛が優れているか。雌雄を決するのみだ。

 

「束ぇええええええ!!!」

「ちぃちゃああああ!!!」

 

 叫びなんてものは精神論に過ぎない。けど、叫ばずにいられなかった。お互いにボロボロで体力なんてものはとっくの昔に消し飛んでいたけど。

 それだけは譲れなかった。

 

 剣と剣は加速してゆく。

 ちーちゃんとの距離は近づいていく。

 刃と刃はぶつかり合って。

 

 そして。

*1
姉バカ

*2
姉バカ

*3
おまいう

*4
おまいう

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