束さんがやっつけちゃうぜ! 作:かきごおり
緊急会見の場所となったのはIS学園。今年度から正式に学園として運営、今後のISの未来の卵たちを創出する場所。
「えー、皆さん今日はお日柄もよく…ってそんなのいらない?だよね。どうも『天災』こと束さんだよ!」
壇上に白衣とシンボルマークとなった青いドレスを纏った篠ノ之束、登壇。きっちり15秒間ポーズを決めた後に手元の資料を読み出す。
「今回のIS学園の設立にあたってはいろんな方々のご支援をいただきました。感謝いたします」
束、深々と一礼。
「そこで開発者である、この篠ノ之束が感謝の意を示してプレゼントを用意させていただきました。はい、拍手ぅ」
会場内まばらな拍手。
束は気にせず資料を読み上げつつ、会場内に設置された赤い布に手をかけて取り去った。
「『私』が今回提供させていただくのはISコア500個と宇宙開発のために必要なIS用のマスドライバーを寄贈させていただきます。あっ!もちろんマスドライバーは実証実験済みだよ」
会見場内騒然。そしてIS学園の校舎の背後に突如出現した大規模ターミナルとマスドライバー出現に困惑する。
「『IS学園は世界情勢や民族など関係なく平等・公平であるべき』という理念に深く感銘を受けましたのでこれを寄贈させていただきました。まあ、要は国のしがらみとか面倒だからIS学園で訓練や研究用にたくさん持っておこうぜ!ってこと」
束、資料を破り、指を一本上げて空を指し示す。
「私が掲げるのは自由な宇宙開発!みんなも宇宙を目指そうぜ!IS学園は広くあなたを迎えます!」
「ISは今はまだ女性だけだけど、男性も必ず宇宙に連れていくよ!もちろんエンジニア部門や開発部門の学部もあるので一足早く目指したい人はこっちでもOK!」
ISをフル装備した織斑千冬の乱入。束は額に汗を浮かべながら早口で喋り出す。
「うわー、もう来たぁ。はい!名残惜しいですが今回はここまで。質問があったら動画サイトで配信しているのでコメントよろしくぅ!」
その後、束は逃走。花火や爆竹を盛大にばら撒きながら千冬と乱闘。15分やりあった後に領空外を抜けて忽然と姿を消した。関係各所はこの暴挙に対応を追われるが束本人は「必要なことだった」と後にコメントを残した。千冬は「あの時ちゃんと仕留めとけばよかった」との声明を発表。
なお、この日IS関連の企業の株価は軒並み鰻登りとなり『束旋風』を巻き起こした。
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第二の「ブリュンヒルデ」を決める「モンド・グロッソ」が開催されている。
レギュレーションで『私』の作ったISは
開発者なのになんか雑じゃない?とは思わなくもない。
まあ、現地にはいるのでくーちゃんにお土産を頼んで中継映像を見ることにする。本命は限定「ブリュンヒルデ」グッズだ。大会限定の2分の1織斑千冬フィギュア*2とかが狙い目。大会公式どうやってちーちゃんを口説き落としたんだろうね。
いやぁ、違うんだよ。自社製品って自分で融通効いちゃうから味気ないと思ったりするんだよ。こう見えても社長だし?意見通っちゃうんだよね。なんか最近変に熱い社員が増えてきたし。その熱量は一体どこから?
だから、公式が出すちーちゃんグッズって案外少なくて今回の複製サイン入りTシャツとか頼めば直筆のやつを渋々やってくれるとは思うけどさ。
ここ数日は適当な廃工場に潜伏しつつ観戦を開始。味気ないから「ゴーレム」も出して一緒に応援だ。完全に気分だけど。そうは言っても一人は嫌なんだよなー。くーちゃん、早く帰ってこないかなー。
「この場所ならバレないだろう。なんせ、地元でも知ってる奴なんて皆無な場所だ」
「ああ。これで天下の『ブリュンヒルデ』もいうことを聞かざるを得ないだろう」
「面白い話してるね『束さん』も混ぜてよ」
そうしてはいってきたのは黒いスーツを着た怪しい風貌の女性の二人組。ずた袋*3を2人がかりで抱えている。重そうだね。
中身は…まあ言わなくてもわかるよね。
「なぜここに!?」
「篠ノ之束だと!?」
「うん。そうだよー」
やっておしまい「ゴーレム」。なんか知らないけど、とりあえず気絶させておこう。こういう時に暴力は便利だなと思わざるを得ない。
ISを展開しそうにしてたけど、近所迷惑になるので没収させていただきました。これが噂の「
袋の中身は予想がつくけど、そろそろ決勝だ。先に連絡を入れといた方がいいだろう。
と思ったらかかってきた。宛先はもちろんちーちゃん。
「もしもし『俺』『俺』。あー、いっくんが行方不明?いっくんなら『私』の隣で寝てるよ!って冗談だってば、ちゃんと救出したとこ。いや、目の前に来たからつい反射で。これで万が一いい人だったら一緒に謝ってよ。多分その心配はないけどさ」
ちなみに決勝戦は速攻でちーちゃんがもぎ取って2連覇でしたとさ。心配事がないとこの程度です。
多分、次の「モンド・グロッソ」の項目にちーちゃん出禁が追加される日も近いな。
とりあえずお祝いの準備をしなきゃ。研究室で開発してた砂糖の原材料がだだ余ってるから50号くらいのホールケーキ*4にしようかな。
今から作るとして3時間もあればできるか。「紫舞機」と「ゴーレム」を並行利用すればいけるいける。味はウェブサイトで見た奴を利用して作ろう。味見はいっくんに任せよう。
伊達に『天災』とは呼ばれていないのだ。うわはは。
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「世界最強になる方法を知りたい?」
「そうだ。あなたはISの開発者だと聞いた。ならば、できるはずだ」
「えー、そうは言われてもなぁ」
ちーちゃんに似た少女が『私』の研究所の表層部分にいた。似ているけど体つきは幼いというかまんま中学生の頃のちーちゃんにそっくり。
くーちゃんが『俺』の目の前に割り込む。
「束様、明らかに外敵では?そもそもここの基地が露呈した可能性が高いかと」
「研究所はまあ移転するとしてさ、だったらわざわざ一人では来なくない?せっかくだから第一訪問者の話を聞いてみてもいいかなって」
「そうおっしゃられるのなら、私はここまでです」
「悪いね」
「
検証の最中、某国がこの研究をやっていたと発覚したんだけど、どうも『俺』のせいで頓挫したらしい。世界中を放浪していたときになんか潰してたみたい。才能が怖い。
くーちゃんやラウラちゃんと同じ理屈というか着想でいえば「織斑計画」の方がが先だ。人間の考えることは変わらないよねという。
ちーちゃんに聞いてみたけど、そんなに気にしてなさそうだったので『私』も気にしないことにした。そんな程度で親友が歪んだりするものじゃないし、友情が偽りだったわけじゃないしね!ナチュラルボーンファイターじゃないし、ちーちゃんも修練の積み重ねをしてきた。努力って大事だよ。
「マドカちゃんだっけ?最強になる方法は生憎ご存じないね。なにしろこの『天災』でも負けることはあるし」
「なんだと」
「たとえば、箒ちゃんとか怒ったちーちゃんとかちーちゃんとかちーちゃんとかね!」
「ほとんど、織斑千冬のことではないか」
「まあ、怒らせてるの『俺』からだし」
「それはどうなんだ」
最近はこれでも調子がいい方だ。連敗記録はストップしてなんとか巻き返ししつつあるし。料理対決は絶対勝てるのでそこで差を埋めている。
IS使えって?なんでも使って勝つというのも大事なんです!
「最強になる方法は思いつかないけど、『私』はとりあえず強くなる方法があるのは知ってるよ」
「…それはなんだ?」
「気の合う友達を作って切磋琢磨するってことさ」
今ならIS学園という場所もあるし。国籍なんてなくても大丈夫。この場所がわかるくらいには優秀なんだし。
そもそもISってのは平等だ。誰にでもチャンスは与えられるべきだ。君も宇宙を目指すんだよ!
「じゃあ、ちょっと早い入学祝いにこの作るだけ作っておいて出しどころがなかったこの『黒騎士』をマドカちゃんにあげよう。いいでしょ?束謹製のISなんて滅多にないよ」
アニメオリジナルだったから参考資料用に作って放置してた幻の機体だ。
後はちびちび最新仕様にバージョンアップしていたから問題はないはず。それにちーちゃんと同じ遺伝子ならこのISも乗りこなせるはず。
「後は入学試験だけど、こう見えても『私』はISの権威だからね。なんとでもなるはずさ」
「おい、待て!私は了承したつもりはないぞ!」
「くーちゃん、IS学園のパンフレットは?」
「既にご用意しています」
さっすが、くーちゃん。気がきくね。
「おい!聞け!」
「制服の寸法も見ないとねー。教科書も一人分用意しないと」
「束様、『黒騎士』の連盟への申請手続きの方が先では?」
「なんなんだこいつらは!!」
後はIS学園に電話を入れてっと。最悪、爆発したくなけりゃこっちのいうことを聞けって脅そう。そのくらいは許されるはずだ。改築費用出したのほぼ『俺』だし。
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「おひさおひさ。この前の同窓会以来だね。2ヶ月ぶりくらい?ちょーっとお願いしたいことがあってさ」
「君んところで作った奴に『暮桜』ってあったじゃん。あれってすごいよねって『束さん』思ったんだよね」
「あれを参考に第3世代IS作って欲しいんだけど。えっ、無理?いやー、そんなことないよ。出来る出来る。断ったらちょっと嫌な気持ちになるだけで。どうしたの?ため息なんかついて。幸せが逃げるよ?」
「そうそう!ISの構築方法でちょっと面白い研究があってね。ついでに装甲に組み込んでほしいんだけど。自分でやれって?これから忙しくなるから無理だね」
「あー、ISコア?なら先に送っといたから。すぐに開発ができると思うよ。『白騎士』のコアだから大事にしてね」
色々怒鳴ってきたから切ってしまおう。
よし。あれでも真面目だし研究者だから餌には食いつくと思う。
おっと。そろそろ目が覚める頃合いかな。
「あのー、束さん。なんで俺、縛られているんですかね」
「おはよう、いっくん。卒業おめでとう!そして入学おめでとう!」
クラッカーを鳴らす。『俺』特性のスペシャルクラッカー*5だ。くーちゃんも花吹雪を散らして貰っている。
箒ちゃんに同じことをしたら普通に竹刀で斬りかかってくるとは思わなかった。*6結構力作なのに。
「あ…ありがとうございます*7」
「いやー、灯台下暗しって奴?ちーちゃんの弟だからなのか。元々適性があったのか。そこらへんもおいおい検証していくとして」
まさか、いっくんがISに乗れるとはね。偶々偶然ISの適性試験会場にあったものを起動させた。世界初の男性IS搭乗者だ。
今までは屈強な男ばかり目を向けていたけど、持つべきものは友だね。それも「ブリュンヒルデ」の!
「縛られている理由がまだなんですが。あと、すごい束さんテンション高いし」
「そりゃ世界初だよ?放っておいたらいっくんがモルモット*8になっちゃうから事前に確保しただけだけど」
いっくんが短く息を吐いた。半分は嘘で、そうなったら『天災』と『ブリュンヒルデ』が世界中のミサイルを切って回ることになるだろうけどね!それはそれで確保はさせてもらう。重要な実験た…いや、操縦者なんだし。
「実動データはIS学園に入学してもらっていくらでも取れるからいいとして、まずは座学だね。とりあえず一年分くらいは叩き込んでおかないと研究データがろくに取れやしないからね!2週間ぶっ続けだ!」
「それって俺、寝る暇ありますか!?」
いっくんの懸念は正しい。常人なら無理だろう。あと、物理的に不可能だろう。カリキュラム形成とか。
けど、開発者だからね。詰め込みかたってのも熟知している。2週間あれば時間の余裕ができるまである。箒ちゃんもそれで受かったんだし!*9
後、ちーちゃんの弟だ。なんとかなる。
「大丈夫!『束さん』がいるから!」
「根拠になってねぇ!!」
とりあえず身体能力測定と現在の学力を測ってしまおう。縛ってるうちに。
「一夏ァ!!」
「千冬姉ェ!!」
扉を切り飛ばしてちーちゃんが颯爽と登場した。
すごい感動の再会みたい。そしてすごい悪者みたいだ『私』。*10『俺』としても否定はできないけど!
「どうしてこの隠し研究所が分かったのかは一旦、置いておこう。けど、流石に初の男性搭乗者のいっくんは渡せないよ!」
「一夏は譲らん!この際だ。日頃の恨みも晴らさせてもらおう。最近、お前のせいで禁酒せざるを得ないんだ。*11ついでに束にも大人しくしてもらおう!*12」
「望むところだ!」
ちーちゃんがISを展開したので『俺』も負けじとISを展開する。
前回の反省点を活かした最新型だ。『私』が負けるはずがない!*13
「あの盛り上がっているところ悪いんだけど!ここ狭いし、まだ縛られているままなんだけど!?聞いてる、千冬姉ェ!?*14束さん!?*15」
「あきらめましょう。この二人が揃うということはそういうことです。強く生きましょう*16」
「そんなァ!?」
いろんなことがあったけど、宇宙はみんなで目指した方が面白い。
それ以外にもいろんなものはある。世界はまだ広い。そして宇宙もまた格別に広い。
そこに至るまでにはいろんな障害があるだろう。けど、『私』は諦めないし、『俺』は進み続けるだろう。この宇宙に広がる『無限の成層圏』を突き進むために!
ちーちゃんのISからブレードが展開される。噂の新型だろう。けど、こっちにも負けられない理由がある。
「束さんがやっつけちゃうぜ!」
ここまで読んでくださりありがとうございました
これにて「束さんはやっつけちゃうぜ!」完結とさせていただきます
この作品は単発予定だったのでここまで続くと思ってませんでした
また、機会があれば読んでいただけると幸いです
それでは