束さんがやっつけちゃうぜ!   作:かきごおり

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それは騎士ではない


白の幻覚

 通常、ISのハイパーセンサーを持ってすれば銃弾を斬る事は特段難しくはない。強化された感覚によって擬似的に伸ばされた感覚時間。それを持ってすれば習熟された人間なら可能だと言える。

 

 しかし、それは銃を撃ってくるタイミングを()()に知っているという大前提が存在する。

 常にハイパーセンサーを最大出力で維持しておくだけでも人間の脳に負担が大きいとされているためだ。

 

 なので、実戦では斬ることよりも回避が優先される。タイミングを合わせて斬るそのものに大きな負担が生じる。

 

 あまりにも現実的ではない。それを当たり前に行える制御技術。

 

『VTシステム』ヴァルキリー・トレース・システム。

 後の時代にあまりに非人道的すぎるとして国際条約によって開発・研究・使用の全てが禁じられた劇物。

 「モンド・グロッソ」の優秀な成績を残した選手のデータを参考に作られたシステム。「ヴァルキリー」の動きを無理矢理再現させる、ISの闇の一つ。

 

 本来ならば、搭乗者の保護のために最大30秒という時間しか保たないというリミッターは何故か解除されている。

 

 銀髪の異なる目を持つ少女が駆けるISは依然動き続ける。そこに打破しなければならない標的がいると幻視しているかのように。

 

●●●

 

 あれはまさしく千冬様の動き。銃弾よりも尚も早い荷電粒子砲を切り伏せるのは大凡千冬様を置いて他に存在しないだろう絶技。

 

 それをラウラは再現している。しかし、相応のリスクがあるはず。『ブリュンヒルデ』の動きを模倣どころではなく、再現しているとなれば。

 

 ワイヤーブレードを片手にラウラは束様に迫ります。

 

 瞬時加速を用いて一瞬で迫ると、ワイヤーブレードを振るう。束様を狙った攻撃は「シールダー」が割り込んで防御。

 

「ぐぅうぁああ!!!」

 

 そこに蹴りを連打。無理矢理にカチ上げて「シールダー」の防御を抜ける。もう片手に持ったワイヤーブレードは「シールダー」では間に合わない!

 

 「ガンナー」の左腕を割り込ませて時間を作ってその隙に距離を取ります。

 至近距離でこちらも誘爆しかねない荷電粒子砲を持つ「ガンナー」で捨て身の防御。確かにこれなら防御は足りますが攻め手には欠いてしまう。ただでさえラウラは接近戦に興じているのだから。

 

 両断される左腕。それをラウラは意にも留めない。口からは血がこぼれているのに拭うことすらしない。

 

 ラウラのバイタルデータはどんどん悪化していきます。人体を無視した行動。『ブリュンヒルデ』の再現はこれほどまでに負荷が大きいというのでしょうか。私と同じ生まれでも『地上最強(ブリュンヒルデ)』は隔絶しているというのでしょう。

 

「隊長!」

 

 止めに入ったのはクラリッサ。だが、それを敵影と判断したラウラは二つのワイヤーブレードを持って迫りかかります。

 咄嗟に防御を取りますが装甲が斬り裂かれていくクラリッサのIS。そこに割り込んでいく「シールダー」。

 

「まずいですね。出力が模擬戦用を超過しています。人殺しをするつもりですか」

 

 無論ISには絶対防御というセーフティが備え付けられている。しかし「絶対」という名がついている防御機構でも何度も致命傷になる攻撃ならば決して貫通できないわけではない。

 

 私の護衛用として置かれた「ゴーレム」を出すべき?通常装備のこれは束様の模擬戦用に武装を減らした「ガンナー」と「シールダー」に比べて装備も充実している。

 

 けど、相手を無力化させるにはあまりにも強大。束様の連携は特に練習していませんでした。基本的に後方待機なのが仇となっている。

 

 歯痒い思いです。ですが、束様の表情は恐ろしいほど無表情です。あれは何を思考しているのか私にはとても判断できない。

 

 束様は蹴飛ばしてクラリッサを攻撃範囲から追い出しました。あくまで一人で叩くつもりなのでしょう。確かに今の私では足手まといです。迅速に「ゴーレム」で回収に入る。安全圏へと移動させていきます。

 

 なら、私のやるべきこととは。

 

「意識を失っている方々を救出しにいかなければ」

 

 しかし相手に攻撃されないように、束様の行動を邪魔しないように、私は行動を開始します。

 

「どうか、ご武運を」

 

 束様の付き合いは長くはありませんがとても濃い。

 少し不安がよぎりました。

 

 まるで束様が遠くに行ってしまわれるようで。

 

■■■

 

 ()()()()()()()が攻撃を仕掛けてくる。横の振り、右肩への刺突。回し蹴り。

 

 回避は間に合う。「ゴーレム」を操作させて攻撃を試みるが、思った段階で既に回避行動に取られている。さっきまでの戦闘データもサンプリングされていると見るべきか。

 

「うぁあああ!!!」

 

 攻撃は円形盾で凌ぐ。金属同士が擦れる音が木霊する。

 

 理性のない攻撃だ。それで再現しているつもりなのだろうか?

 あくまでもプログラミングされた動きということか。

 

 吐き気がする。

 

「ゴーレム」二機は既に虫の息だ。

 シールドエネルギーを一部カットして駆動に回さざるをえないから少なからず機体にダメージが入っている。

 

 くーちゃんにコントロールを預けている「ゴーレム」を奪い取ってもよかったが、救助に使っている以上期待できないと思考を切る。

 今、戻すとくーちゃんの自衛能力が大きく落ちてしまう。

 

 曲がりなりにもちーちゃん擬き。だが、再現しようとしていてもまるで程遠い。それを完膚なきまでに壊すべきだとも思ってもできない『俺』がもどかしい。

 

 ああ、腹が煮えくりかえる。アレは友を侮辱する存在だ。

 

 相手の表情を見るに決して領域ではない。仲間の女が止めに入ったのを見るに制御できていない技術だ。

 技術の検討はつく。「白騎士」に蓄積されたちーちゃんの動きを搭乗者の肉体面を度外視にして動かす。全くもってくだらない技術だと『俺』は思考する。

 

 「ゴーレム」を組みつかせてみるが効果は薄い。目の前の障害を打破しようとしている。

 

 猶予はあまり無いが、くーちゃんのISの反応的にあと何分かは凌ぐ必要がある。本気でやるにはここは狭すぎる。

 

 人命には変えられないか。仮にあのプログラムが動ける人間の完全排除だと仮定したら。

 最寄りの人里は数十キロは先、ISなら決して遠い距離ではない。そうなれば被害は甚大になる。

 

 ここで仕留める他ない。最悪のケースも考慮した上で。

 

 『俺』の頭は怒り狂っていたが、『私』の思考は至って冷静だ。それが容易く分かる。感情的になりつつも、合理的思考。

 これが『俺』の精神が混ざっているのか。それとも肉体が許容できてしまえるのか定かではない。

 

 『自分』の中の精神(こころ)がドロドロに混ざり合っていく音が幻聴(きこ)えた。それは絡みついて離れなそうにもない。

 

 その音はどこか懐かしくもあり。

 

■■■

 

 鬼気迫る斬り合い。無論、こちらは盾で向こうはワイヤーブレードという歪な斬り合いだ。

 

「ああぁああ!!」

 

 相手の声が響く。こちらの方が劣勢だというのに。相手の損傷は比べるまでもなく軽微だというのに。相手の優勢だというのに、喉を潰す勢いで彼女は悲鳴をあげる。盾が弾き飛ばされる。「ゴーレム」諸共だ。

 

 くーちゃんの避難は済んだか。けど、くーちゃんに付けた「ゴーレム」を引っ張るには時間が足りない。やや遠いか。

 

 血で霞む視界を『私』が拭う隙を見逃さずにワイヤーブレードの攻撃。盾の削りで多少は短くなったもののそれでも脅威は変わりなく。

 

 『私』の体はボロボロだ。流石にちーちゃんクラスの猛攻を碌に反撃をせずに返すには負担が大きい。血も流している。

 『俺』の思考は纏まらずに精細を欠いた「ゴーレム」はスラスターを砕かれて身動きが取れなくなった。武装はもう「ゴーレム」では使えそうにない。 

 

 残されたのは、腕を斬り飛ばされて半壊した一機だけ。これで凌ぐには操作の遅延が大きい。脳波で動かすにも飛ばす分の時間差が操作において致命的だった。

 怪我とは別の理由で鼻から鮮血が溢れる。口の中は鉄の味でいっぱいだ。

 

 けど、これでパターンは読み切った。後はこのちーちゃんに見せたことのない「奥の手」が通用するかどうか。

 

 相手のワイヤーブレードを掻い潜るために発射した荷電粒子砲に対しての返しはもう何度も見た斬り飛ばし。

 今までは盾役が健在だったから行動が複雑に分岐していた。行動不能で『俺』の手持ちは片腕の荷電粒子砲持ちだけ。

 

 となれば、やはり。

 

 最短距離、最速の瞬時加速において他ならない。『私』の息の根を止める為に一直線で迫り。

 

 ワイヤーブレードの一閃は突如出現した盾に食い止められる。

 

 「高速切替(ラピッド・スイッチ)」拡張領域から瞬間的に武装を切り替える高等技術。倒れている盾役の円形盾を遠隔で回収して矢継ぎ早に『私』の目の前に出力した。

 『俺』が今の今まで隠しておいたとっておきだ。弾くように攻撃を受け流す。加速を目一杯したせいで急制動はできまい。これでお前はガラ空きだ!

 

 再びの高速切替で荷電粒子砲を『俺』に持たせる。臨界寸前にチャージしたおまけつき。『私』もただじゃすまないがこの距離の最大出力だ。流石に絶対防御まで行けば機能停止は免れない!

 

「ああぁ!!」

 

 相手もまだ手を隠していたというのか。右腕から放出したプラズマ手刀だ。今まで使ってこなかった新手。

 

 こっちが撃つよりも向こうが僅かに一手早いか。

 

 覚悟を決めろ。

 

 手刀が腹に突き刺さる。シールドエネルギーを容易く食い破る威力。

 

 視界が大きく歪む。体が燃えるように痛い。

 

「束様!!!」

 

 誰かの声が僅かに聞こえる。多分くーちゃんかな。それを見る余裕はもうないけど。

 

 けど、()()()()。サブプランのつもりだったけどこの距離なら使える。

 

 同時に『私』の意識が遠のいていくのが分かる。

 

 そういえばまとまって眠るなんて久しぶり。ちーちゃんとの模擬戦を思い出す。懐かしいや。

 

 なんてね。冗談を言えるくらいには余裕があ…

 

 『俺』の意識はぶっつりと途切れた。

 

●●●

 

「束様!!!」

 

 全速力で駆けつけた私の目の前にはラウラのプラズマ手刀が、束様の腹部を貫通している姿。血の気が一気に引いた。

 

 貫かれながらも束様の指先はラウラのIS「シュヴァルツェア・ヴォルケ」の胸、ISコアに触れている。

 

 そうして出現した四本の足を持った機械。それが装甲に突き刺さり電流を光を放ちます。

 

「まさか、あれは」

 

 『剥離剤(リムーバー)』束様が開発していた試作品。まだ、どこにも公表していないISを()()()()させる兵器。

 試作段階な上に至近距離ではないとまともに使えない。そう束様がおっしゃられていたはず。

 

 それが発動できる位置まで自らの体を囮に接近させた。

 

 ラウラは強制解除されて生身に戻る。ISのコアが転がりました。やはり、あの暴走と呼べるシステムはISと人間が揃わないとならない技術なようです。

 

「『ゴーレム』!ラウラを任せます。私が束様を」

 

 私は駆け寄ります。

 

 幸い、ラウラは極度の疲労状態で意識を失っていますが命に別状はないようです。私と同じデザインベイビーならば数時間もあれば復帰できる程度。

 

 問題は。

 

「出血が酷い。意識もない、心拍がどんどん下がっています」

 

 本来ならショックと失血で気絶していてもおかしくなかったはずの怪我、それも全力で戦闘状態が維持してという暴挙。本来なら病院で集中治療室に叩き込むレベルの大怪我。

 

 止血のために抑える手が震えます。完全無欠に思われた主人の状態は私を動揺させている。生暖かい血がまざまざと死を実感させるようで。

 

 目を開いても、その現状は変わりなく。

 

「死なせません。ここで助けなければ、なぜ生かしてもらったのか私の存在意義がないのですから」

 

 血が足りない。

 私と束様の血液型は違う。

 輸血できない。搬送は?この状態で?一刻の予断も許さない。とても動かせない。

 これではとても間に合わない。

 

 束様の胸元が光り輝く。中を確認するとISのコアが懐にありました。

 

「これは『白騎士』のコアですか。なぜ、束様が持って」

 

 目を疑う光景が広がる、私は慌てて「黒鍵」の自己診断機能を束様に使用します。束様の顔色が僅かに赤らむ。

 

「バイタルが正常値に向かっているこれは」

 

 「白騎士」のコアが微かに鳴動すると束様の肉体は徐々にですが再生していきます。

 

 それはまるで意志を持ち合わせているかのように。




原作とは違って万全のラウラですがVTシステムが未完成なのと千冬本人に師事をしてもらってないので出力的には原作よりかは落ちています
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