ヤクザの老人に言われるがままに、デンジは車に乗り込んだ。
人の気配が消えた真夜中の街並みを過ぎていく、建物の数もまばらになっていく景色をしり目に、デンジは思う。
夢くらい見させてくれよ
足の上で丸くなるポチタをやさしく抱き寄せる。
ポチタと幸せに暮らしたい、人間らしい普通の生活を送りたい、恋愛だってしてみたい。誰かに愛されたい。普通に生まれ育った人々の日常が、デンジにとっては想像もできない非日常であり、夢だった。
そんなデンジの思いも知らず、車は止まった。
「ついたぞ」
老人が車から降りながらそう言った。
連れてこられたのは、山奥の廃屋。倉庫とも工場ともつかない、人の手が離れて久しい廃墟だった。まるでB級映画のセットのようだ。もっとも、生まれてこの方、映画など見たこともないデンジは、生物的な恐怖にただおびえるだけだった。
「こんなとこに悪魔なんているんすか…?」
ふと疑問を口にする。悪魔は基本的に人間を食らう化け物、集落などに発生するならわかるが、このような人気のない場所に悪魔が出るのだろうか?言語化こそできないものの、デンジのデビルハンターとしての経験から違和感を感じとる。
「……」
老人は返事をよこさない。何かに誘われるように、突き動かされるようにふらふらと廃屋を進んでいくだけである。
「?」
尋常ならざる老人の様子に、何かがおかしいとデンジも気が付き始める。無意識にポチタを抱く手に力がこもる。指はすでにポチタのスターター兼しっぽに架かっている。
「デンジ、俺達ぁテメェに感謝してるんだぜ」
唐突に話し始めた老人に、デンジは身をすくめた。
「犬みてぇに憶病で、従順で、安い報酬でよく働く」
かすかな物音、そして心臓に冷たさが奔る。
「あ?」
「でも俺ぁ犬ぁ臭くて嫌ぇだ」
背中に何かがぶつかった。
後ろに誰かいる、いつか見たヤクザの下っ端だ。
手に何か持っている、ナイフ?いや牛刀だ。
刃先はどこだ、そういえば冷たく感じた心臓が熱い。
ポチタは?ポチタの胸からチェンソーではない何かが生えている。
「俺達ヤクザもよぉ、もっと強くなって稼ぎてぇからよぉ、テメェみてぇに悪魔と契約するコトにしたんだ…」
老人が何か言っている、何を言っているのかさっぱりわからない。
「俺たちが望むのは悪魔の力…
「僕が望むのはデビルハンターの…
死!!」
暗闇から顔を出す悪魔。そしていつの間にか周りを囲む青ざめたヤクザたち。胸像の首を落とし、胸から顔をはやしたような異形の存在。顔の(胸の)下から延びる管はいずれもヤクザたちとつながっているように見える。
操られている。背中からポチタごと貫かれるように刺され、死に体のデンジは冷や汗をかき、しりもちをつきながら後ずさる。
「デビルハンターく~ん、マジ!こいつらバカだよ!めっちゃバカ!
「悪魔の力あげるっつったらさぁ!自分たちから僕の奴隷になってやがんのな!
「その力でゾンビになっちゃうんだけどね!
「僕ゾンビの悪魔だから!」
ゾンビ、俗世と離れた生活をしていたデンジですら、その存在は知っている(いつかヤクザの下っ端が話していた)。死んでいるのに死んでいないだとか、墓から生き返ったとか。ゾンビにかまれた奴はゾンビになるとか。
「デビルハンターは僕ら悪魔殺すから嫌い!!
「だから殺しちゃうんだ!
「みんな!バラバラにしてゴミ箱に捨てちゃって!」
一斉に動き出すヤクザ、否、ゾンビたち。
死ぬ。そう警鐘を鳴らしたデンジの直感は、すでに死にかけているデンジの体を動かした。口の中は血であふれ、喉の奥からも熱いものがこみ上げてくる。走るだけで血が口から吹き出る。腕の中のポチタも徐々に熱が失われて行き、すでに目も開いていない。意識が遠のいていく。
普通の生活を夢見て、それだけで満足していた。ポチタとともにヤクザに飼われ、人並みとは程遠くても、どこか満たされていた。だが、そんな人並み以下すら、叶えることができない。そんな事実にデンジは、慟哭した。
体中に冷たさが奔る。
あとがき(言い訳)
少し長くなります、読まなくても問題ありません。
引っ越したりiPadが砕けたりいろいろあってかなり萎えていましたが、パソコンを新しく買ったので投稿しました。
一話に書きましたが私は三日坊主の化身なので更新されてもこのようなペースになります。それでも見てくれる奇特な方がいらっしゃれば幸いです。
文字数は少ないのは、キリがいいところで次に回したいのと、単純に文字数が多いと校閲に時間がかかったり原作チェックがめんどくさくなるからです。なので小説を一ページずつ読むくらいの感覚で各話をお読みください。
個人的に自分の妄想をこのような形で文章にしてお出しするのはかなり楽しいのですが、生来の面倒くさがりが投稿を遅らせています。もし楽しみにしてくださる方がいたなら本当に申し訳ないです。