「なぁ、俺がこの間つくった試作品のマッ缶知らない?」
「存じておりません」
「そうか。どこやっちまったかな」
「なぁ、俺が楽しみにとっておいた唐揚げ、知らないうちに消えてるんだけど」
「存じておりません」
「そうか。食ってからトイレ行ったっけか」
「なぁ、俺がお前に渡した小説どこにあるか知らない?もう一度読み返したくなってさ」
「存じておりません」
「いやお前それはなくしてるじゃん」
エルキア新国王となった者のスピーチを、俺とジブリールは魔法で見ていた。
「あー、ん、んんっ!」
男のほうが咳払いをして、何かしゃべり始めるようだ。
「ゴキゲンヨーウ!!!」
めっちゃ声裏返ってるやん。というか一発目がごきげんようって。人の前に立ってしゃべったことないのかよ。あんまり人のこと言えないけど。
その後、隣にいる女の子とちょっとした二言三言交わして、落ち着きを取り戻したようで。
「敬愛する国民、いや、
そんなの知るか。
「前国王が失敗したからか?我々が最下位の種族だからか?魔法を使えないからか?無力に滅ぶ運命にあるからか?否だ!」
男は強く演説を続ける。
「かつて
なぜなんだろう。ジブリールに大戦時のときの話を聞いてから、ずっと思ってた。なんで
「われらが暴力を得意とする種族だからか?
まぁ、そりゃそうでしょうね。
「我らが戦い、生き残ったのは、」
男は手を胸に当てて、はっきりと、堂々と、
「われらが弱者だったからだ」
弱者であることが誇りであるかのように、広場にいる国民に訴えかける。
「いつの時代、どこの世界でも、強者は牙を、弱者は知恵を磨く。われらがなぜ今追い詰められているか。それは『十の盟約』によって強者が牙をもがれ、知恵を磨くことを覚えたからに他ならない。われら弱者の専売特許であったはずの知略を、戦略を、生き残るための力を、強者が手にしたからだ!それがこの惨状だ!」
その声は、広場にいる者の多くに届いただろう。そして、考えさせられている。やはり、
広場にいる者の多くが、うつむき、嘆き、悲しんでいるのが、遠くからでも見て取れる。
「皆のものこたえよ。なぜに
そんな
「繰り返そう。なぜ
うつむいていた
「我々は弱者だ!今もなお、昔もそうだったように。そう、何も変わってなどいないではないか!」
その言葉とともに、場の雰囲気が、一気に明るく変わる。
「強者が弱者をまねてふるう
「三度繰り返す!われらは弱者だ!いつの世も強者であることに胡坐をかいた者共の、喉元を食いちぎってきた誇り高き弱者だ!」
男が左手を挙げて、宣誓する。
「我々はここに、二百五代エルキア国王」
同じく、女の子の方も右手を挙げて。
「女王として」
「「戴冠したことを宣言する」」
その宣言と同時、全権代理者に与えられる種の全てである、種の駒が現れる。
「われら二人は弱者として生き、弱者らしく戦い、そして弱者らしく強者を屠ることをここに宣言する!かつてそうだったように、これからもそうであるように!」
二人は手をつないで空に掲げる。
「認めよ!われら最弱の種族!何も持って生まれぬゆえに、何者にもなれる、最弱の種族であることを!」
広場から歓声と、雄たけびが上がる。それほどまでに、国王の言葉は心に響いたんだろう。
「さぁ、ゲームを始めよう。もう散々苦しんだろう?もう過剰に卑屈になったろう?待たせたな。
国王はニヤリと笑うと、
「宣戦布告する」
宣戦布告しちまいやがった。やめとけよおい。勝てねぇって。
「反撃ののろしを上げろ!われらの国境線、返してもらうぞ!」
うおおおおおおおお と、国民からやる気の声が上がる。だめだこりゃ。
確かに、新国王の演説は響いた。こっちの世界で生まれていない俺でも、少し感動した。
ただ、それだけじゃ勝てない。いくら負ける理由が分かっても、勝つための方法があっても、
宣戦布告ということは、こっちからゲームを挑むということ。『十の盟約』により、ゲーム内容は挑まれた側が決定権を有する。極端な話、いくら知恵を磨こうと、『腕相撲』とかなら関係ない。力が強いほうが勝つに決まってる。
下手に知恵比べして負ける可能性のあるゲームを、強者側が提案するはずもない。つまるところ、攻め込んで勝てるわけないのだ。
実際に戦争吹っ掛けるかどうかはさておき、そのことに気づかずノリで雄たけびを上げる個々の国民たちは、本当に弱者らしく知恵を磨いているのかと突っ込みたくなるレベルである。
「いかがだったでしょうか。新国王の演説は」
魔法の鏡?的なのを消滅させながら、ジブリールが俺に問いかける。
「ああ、カッコよかったと思うよ。なんで国王二人なんだろうとは思ったけど」
確か、『十の盟約』には全権代理者を立てろって書いてあったけど…
「全権代理者は別に一人である必要はないのでございます」
「そうなん?ていうかそれアリなの?それなら全員国王になれちゃうじゃん」
「確かに、理論上は可能でございます。しかし、そうするメリットはあまり存在しないかと。無能に国を任せるほど愚かなことはありませんで」
「ああ、まぁ、いわれてみればそうかも」
国民全員が全権代理者ということは、誰にゲームを吹っ掛けても
「しっかし、あの国王二人、やたらと勝つ気満々だったな。どうしたらあそこまで前向きになれるのか知りたいわ。負けたら終わりなのに」
「承知しました。すぐに調べてまいります」
「やめろ。独り言だから。人様に迷惑かかるかもしれない行動は慎んでちょうだい」
それから一週間後。俺とジブリールが昼飯を食っていた時、ジブリールが何かに反応する。
「マスター、来客でございます」
「いいや違うな。俺のじゃない。お前の来客だ。だからお前が対応してこい」
こっちの世界に俺のこと知ってるやつがいるものか。つまり、来客は全て
「わかりました。では、わたくしが対応してきます」
ジブリールが食堂から出ていく。俺はそのまま自分の分を食べ続けた。
おそい。割と30分くらいかかってるだろコレ。
まぁ、来客ならこれくらい普通とも思うが、ジブリールのことだから、「用が済んだらとっとと帰っていただきたいのですが」みたいなことを言って帰してしまいそうだもんだからなんとなく遅い気がしていた。
すると。
「はぁぁぁぁあああん♡♡♡」
という甘ったるいジブリールの声が。なんだ。何が起こった。今まで聞いたことねぇぞこんな声。
俺は急いで声のしたほうへ向かう。
「おい、なにがあっ」
食堂と図書館の間にある扉を開いて、その光景を見て絶句した。
そこには、こないだ見た国王の二人と、赤い髪の毛の女性、そしてジブリールがいた。
その国王のうち男のほうが、ジブリールの羽を触り、ジブリールが男の胸を触っている。一応、服は着ているけども。
カオスだ。
また、俺の登場により、全員の視線が俺に移って、俺の反応に注目していた。そのため、時間が止まったような空気になった。
俺はなんとかその空気から逃げようとして。
「えっと、ごゆっくり?」
といってそーっと扉を閉めようとする。
「まて!誰だか知らんが誤解を招いたままそのまま返して新国王が変態だといううわさを流されるわけにはいかなっておい!人の話を聞け!扉を閉めるな、い、いや閉めないでくださいお願いします!」
「大丈夫だ。安心しろ。お前ら二人は間違いなく変態だ。だから誤解などしていない。QED」
「それが誤解だっつってんだろぉぉぉおおお!!????」
「……にぃ、うるさい…そういう反応、するから…間違われ、る」
「なるほど、状況は分かった」
ジブリールと国王様がいろいろというもんだから、仕方なくそこにいた赤髪の女性に話を聞いて、やっと理解できた。
こいつらがやってきた目的は、図書館にある様々な種族の情報。そしてそれを所持しているジブリール君にゲームを申し込みに来たが、賭けるものの内容が、まさか俺と同じ異世界の書。というかタブレットか。そいつを賭けるというもんだから、こいつらも俺と同じく異世界人らしい。そして、俺と同じようにボディーチェックをされていたんだそう。
「わかってくれたか。ま、つーわけで、俺は変態じゃない」
「いいや、お前は変態だ。もっと言うと、お前らが変態だ。普通は性感帯を触らせろと言われて触らせないし、逆に性感帯を触らせる代わりにお前のを触らせろというのもありえん。何そこで知らん顔して本読んでんだよジブリール。お前のことだよ。そしてお前の客だろうが」
ジブリールは空に浮かんで今まさに次の本を読もうと本棚に手を伸ばしていた。というか、今の短い間でもう一冊読み終わったの?
「そういわれましても、今回ばかりはマスターの管轄でございます」
「なんでだよ。図書館の本借りに来てんだからお前の管轄だろうが」
ジブリールは俺の命令に従わなきゃならんが、だからといってジブリールの全てのものが俺のものというわけではない。
図書館の本も、ジブリールが所有していて、あくまで借りてるだけ。
「しかしながら、私の全権利はマスターのもの。私が許可を出してもマスターがNoといえばできませんし、そのまた逆もしかりでございます。であれば、最初からマスターに話を通しておいたほうが賢明かと思われますが」
「その理屈が通るなら、議会制の法治国家は成り立たねぇだろ。最終的な決定権を上が持つとはいえ、仕事をしてんのは下の人間だ。基本上の立場はYESかNoをいうだけで、面倒ごとは下に任せっきりなんだよ」
「その言い方はどうなんですの…」
赤毛の少女が呆れて言う。なんだよ。大体そんなもんだろうが。
「な、なあ、ちょっと待ってくれ。今の会話聞いてて一つ気になったことがあるんだけど」
国王(男)が俺に話しかけてくる。
「なんだよ」
「なんでおたく、マスターって呼ばれてんの?」
「しるか。呼んでる本人に聞け」
「ジブリール、なんでこいつのことマスターって呼んでんの?」
「それはもちろん、マスターが私とのゲームで勝利し、私の全権利はマスターのものになったからでございます」
「へぇー。そういう趣味あったんだな」
「ねぇよ。別に俺のことマスターって呼べって命令したわけじゃねぇし」
「ちょ、ちょっっっっとまって欲しいんですの!いま、ジブリールに勝ったって言ったんですの!?
うるさっ。この子、情緒不安定なのかしら。でも、作品に一人は欲しいタイプ。ツッコみ役って重要だよね。
「ああ、そうらしいな」
「……そんな、に…騒ぐ、ことじゃ…ない」
「騒ぐことですわぁっ!?普通は
「でも、俺らだって
「それは、あなたたちが異世界人だから、私たちとは一線を画すと納得しただけですわ。さも当たり前のことみたいに言わないでほしいですの」
キャラ付けもばっちりだなこの子。主人公たちに振り回されるお嬢様キャラ。しかもちょっと頭がアレ。いい仕事してるな。神。
「ジブリール君。命令だ。お相手して差し上げなさい」
「よろしいのですか?」
「ああ、そして負けてあげなさい」
そう発言すると、空気がピリッとひりつく。
「なぁ、アンタ、いま、
「ああ」
「そりゃ、俺達が勝てっこねぇから、慈悲のつもりでか?」
「いや、別に。ただ早く帰ってほしいから」
本を読みたいなら勝手にすりゃいい。もともとここ図書館だし。
「マスター、何か勘違いされておられるようです」
長くなりそうなので分割させていただきました。
次回投稿をお待ちください。