「今日は何日か知ってるか?」
「11月23日ですが」
「何の日だかわかる?」
「マスターが私の足をなめて忠誠を誓う日でございますか?」
「違う。今日は勤労感謝の日だ」
「なんですかそれは」
「こっちの世界にはないのか。今日は俺達の元の世界の法律によれば、勤労をたつとび、生産を祝い、国民がたがいに感謝しあう日だ。つまり、この間東部連合のゲームで頑張った俺を盛大に祝う日だ」
「はぁ、まぁ文句はいったん置いておきましょう。それで、何がご所望で?」
「俺は今日一日グーたらして過ごす。文句を言うな」
「承知しました」
「おい、俺のベッドから出ろ。じゃないと寝れん」
「マスターの言によれば、この間東部連合とのゲームで頑張った私を祝う日でもあります」
「ほう、それで?」
「マスターに文句を言わず、マスターの傍にいる。これでどちらも互いに祝うことができてwin-winだとおもうのですがいかがでしょう?」
「俺の負けでいいから。文句言っていいから布団から出てくれる?」
「ご安心ください。迷惑をかけることなく、むしろ私が盛大にマスターを癒して差し上げます」
「もう余計なこと言うのやめよ」
「やっぱやばいと思うんだ俺。今回確実に負けると思う」
「どうしてそう思われるので?」
「お前この状況見て言ってる?」
周りを見渡せば、人、人、人。大勢の人が俺達を囲むようにして睨みつけてくる。
俺達は今、東部連合とのゲームを行うため、エルキア大使館へと向かおうとしているのだが、なんと空の奴、馬車で俺達五人を乗せて、暴動が起きている中、王城の真正面から正面突破しようとしていた。
「もうこれ正気じゃないよ。暴動起きてんのに、正門から堂々と正面突破する馬鹿がいるとは思わなかったよ。視線痛いし、暴言はすごいし、物まで投げつけられてんだけど。こうなるって予想くらいできただろ。見ろ。ステファニーを。可哀想に、ツッコむ暇もなく意識手放しちゃったよ」
周りの人間の熱にやられて、俺の隣に座っていたステファニーはあっという間に気絶し、俺にもたれかかってきた。
顔が青ざめているところを見ると、相当心に来たらしい。
「ですが、マスターの体に馴れ馴れしく体を預けるとは、いささか不敬でございますね。今すぐそこら辺に放り投げておきましょう」
「いいんじゃね?今回のゲーム、ステフは役に立たんし、放置でも」
「…特に、問題…発生、しない」
「もう嫌だ。みんな攻撃的。この世界嫌い」
小町。俺もうダメかもしれない。一回死んでこっちに来たなら、もう一回死ねば戻れるかな。
「ですが、これもマスターなら想像できたのでは?暴動が起きているとき、空様と白様が沈静なさらなかった時点で、これも布石ととらえるべきかと」
「そうだね。俺もそうかと思った。勝つためにあえてっていうのは、まぁよくあることだし」
でもな、と。
「じゃあなんで昨日風呂から上がったら誰もいなくなってたんだよ!!!」
親交を深めるために風呂に入りました。そうですか。じゃあ深めました。次は何しますか?作戦会議ですよね?
「お前ら本当に勝つ気ある?あの後何にもなかったけど。俺には言えない秘密会議でもあんのかなとか、ちょっと配慮して小一時間どころか半日くらい待ったが、一向に話し合いの場が設けられなかったのは何故だ?勝つなら絶対に必要だろ作戦会議。というかそのために集まっただろ」
じゃなきゃなんであの時俺を図書館に返さなかったのかの説明がつかない。
「安心しろ。作戦会議は行っていないようで、すでにやってたから」
「は?」
「俺と白は以心伝心。協力者のクラミーも、俺の記憶を共有している。そしてお前には今回のゲームに参加してもらう旨を伝えてある。ほら。問題ないだろ」
言わんとしていることはなんとなくわかる。共有すべき最低限のことは共有しているから、作戦会議を行うメリットはあまりなく、信頼関係をとりあえず築けば、裏切りを防ぐことができる、と。
「ならなぜ俺達は風呂に入った?俺とお前の信頼関係なんて築く必要ないだろ」
そう、あの後、女性陣の風呂の後になぜか俺も風呂に入らされた。何の需要があるんだか意味が分からない。
「お前そんなに俺のこと信頼してたの引くわー」
「そういう意味じゃねぇ。とっとと理由を言え」
「お前の裸を見たかったらしい」
「は?お前が?」
「んなわけねぇだろジブリールだよ」
「えっ」
えっ。
‥‥‥。
えっ。
俺はジブリールのほうを向く。
「おい、聞こえてただろ。目を合わせろ」
「はて。何のことかさっぱりでございます」
「何をした?そして何を見た?」
「黙秘権を行使させていただきます」
「‥‥もうお嫁にいけないかも」
「ご安心ください。ちゃんと責任を取って、一生涯私がおはようからおやすみまで、ゆりかごから墓場までお世話することを誓いましょう」
ここに来る前まではこの言葉がどれほどうれしかっただろう。堂々と養います宣言をしてくれる女性がいることに、感謝の涙をこらえられないほどだと思う。
だが悲しいかな。もう目を伏せることしかできない。泣きたい気持ちでいっぱいだ。何されるか分かったもんじゃない。しかも、半分くらい本気だからやるせない。
「‥‥‥話を戻すけど、じゃあ、あの風呂は意味なかったってことね」
「まぁ、ジブリール以外からしたら無駄な時間だったな」
「…そうか」
大事なゲーム前日に、何やってんだか。意味のない事ばっかりしやがって。
やっぱり、今日のゲーム、ダメかもしれない。
「のこのこと出てきたぞ!!」
「このイかれたダメ国王!!」
「今からでもゲームを取りやめろ!!」
まわりから、とてつもないブーイングが起こる。空達はそれらを気にすることなく、エルキア大使館へと向かう。
しかしながら、やはりジブリールの存在が大きく、俺達に直接的な被害は少ない。こちらの世界では死の化身とも評価されている
「これ、負けたら死ぬな。こいつらに多分殺されるわ」
「間違いなくそうなるだろうな。もし俺らが負けたら、俺達は「十の盟約」の範囲外になるから、殺傷も略奪もオールオッケー。冗談抜きで確実に死ぬだろ。だから、何としてでも勝たないとな?八幡くん」
こんな時まで空はへらへら笑っている。俺もかなり肝が据わっているとは思うが、こいつほどではないなと自己評価を著しく下げた。
「後勘違いしないよう先に言っとくが、俺達は殺し合いに行くんじゃない。
「それ、言い方変えただけだから。やってること同じだから」
こちらの世界では、ゲーム、もしくは遊ぶと書いて、殺しあう、と読むのだ。いまさらだけど。
「でもやることは間違いなくゲームだ。だったら、
空の瞳の奥で揺らめく闘争心と高揚感が強く俺を突き刺した。
そして、妹の白もからも、顔は見えないが、気配というか、オーラからそれらを感じ取った。
こいつらは本気だ。本気で、楽しみにしているのだ。いづなと、国盗りゲームをすることを。
「さぁゆくぞ!!目指すは…いづなたん家だ!!」
「…おー…!!!」
さて、そんなこんなで再びやってきた、いづなたん家改め、東部連合エルキア大使館。
前回とは違い、かなりの数の
奥ではいのさんが準備して出迎えの姿勢を見せている。次席大使というだけあって、他の
「お待ちしておりました」
案内役はやはりいのさんらしい。まぁ知らないやつが出てきたらかなり気まずかったからよかったよかった。
俺達は前回通された会議室と同じ場所に連れてこられた。何?まだなんか話し合いしなきゃいけないの?
「では、ゲーム開始時刻まで、この場でお待ちを」
「あ、はい」
ただの控室代わりだったらしい。
「観客もちゃあんと通しておいてくれよ」
空の、まぁ当たり前といえば当たり前の要求に、いのさんは言葉を発せず、ただうなずくことで了解の意を示した。
いのさんが準備に向かい、会議室改め控室には、俺とジブリール、空白の二人とステファニーのみとなった。
誰も聞いてないだろうという希望的観測から、俺は空に一応聞いておいた。
「暴動が起きてるのに、観客来ると思う?バックレられたりしない?」
「来るに決まってるだろ」
即答かよ。
「むしろ、今日この日のためにわざと暴動を起こさせたんだからな」
やはりこれも布石であったと、空は答える。
「どういうことですの?」
「俺らならきっと勝てるなんて甘えた信頼はいらねぇんだよ。俺らがこんな無理ゲー吹っ掛けて、八百長で負けないかどうか血眼になって観戦してくれる連中。それが結果的に、東部連合のあからさまなチート対策になる。疑惑の目以上に信頼できる監視はないだろ」
まぁそうかもだけどさ…そこまでやるか?普通に一定数いるだろそんくらいなら。
「ただの保険だ。本命はクラミーの方だから。カモフラージュにもなって、一石二鳥ってやつだな」
空はそう言い切ると、俺たち全員の前に立って、戦闘準備の確認を行った。っていっても、ただのやる気チェックみたいなもんだったが。
「よっし白。調子はどうだ?」
「…オール、グリーン…」
「ジブリールはどうだ?」
「凌雲の兵器
「結構。八幡、お前は?」
「安心しろ。どんなに嫌なイベントでも風邪だけはひかなかったから。もう俺以上の健康優良児はいないと自負するレベル」
「ジブリール。これからゲームの最終会議を行う。この場の音を
ここでやるなよ。昨日やってくれ。
あと、さっきのツッコみ待ちだったんだけど。スルーが一番きつい。
「はい。マスターたちを精霊で囲い、音漏れを遮断しましょう」
ヴィィィィンという奇妙な効果音とともに、俺達は光のベールに包まれる。
「さて、じゃあ、このゲームでお前たちにやってもらうことを伝える‥‥」
俺達の秘密会議が終わってから、数分がたったころ。いのさんから呼び出しを喰らった。ついに出番のようだ。
ステファニーはお留守番。観客と一緒になって相手のイカサマを必死で見破ろうとするモブAとなった。
ゲーム会場に着くと、そこには空の目論見通り、大勢の観客がいた。その全員が俺達を疑いのまなざしで見ている。超怖い。
電子ゲームを用いるだけあって、規模はかなり大きく、観客全員が見ることのできるよう、全方位にテレビ画面が置いてあった。ただその代償として、目がちかちかして非常に見苦しい。
奥にはすでにいのさんといづながスタンバっていた。
「皆さま。こちらにお座りくだされ」
いのさんがそう言って指し示した先には、フルダイブ型の、椅子の形をした電脳装置だった。
コナンの映画を見たことがある人には、ベイカーストリートのなんたらにでてくるコクーンと似たようなモノといったほうが伝わるかもしれない。伝わらないか。
いづなを含め、案内された通りに全員が配置につく。
「それでは、これより、盟約内容の確認をはじめます」
いのさんが、ゲームの開始前、最も大事な賭けの内容について確認をする。
「東部連合。ルーシア大陸に保有するすべてを。エルキア王国。種の駒。すなわち、
まぁ、知ってる内容だ。あくまでおさらいって感じ。
「本当によろしいですかな?」
「ああ、何も問題ない。ただし二つだけ明確にしておくぞ」
空は相手に刷り込むようにして、警戒するようにその言葉を発する。
「俺らが棄権しても、消えるのは今日のゲームの記憶のみだ。不可能ゲーふっかけて辞退させ、都合の悪い記憶だけ奪おうって期待は、今のうちに捨てとけ。そして二つ目だ。ゲーム中の不正発覚は敗北とみなす。「十の盟約」の大前提。そっちが忘れてさえいなけりゃ何も問題はない」
「‥‥では、同意したとみなし…」
「あ、ごめんいのさん。俺からもいいか」
話遮ってごめんね。でも、確認しときたいからさ。
「なんですかな?」
「仮に俺らが負けたとして…ジブリールってどうなんの?」
空と白は、
一応、最低限度の加護みたいなものはあるみたいだけれど、「十の盟約」の対象外な可能性が高いと踏んでいる。
だから、俺は負けても
そして、そんな俺に仕えるジブリールも同様に、
しかし、
だからゲーム前にちょっと吹っ掛けてみたのだが。
「‥‥その場合、彼女も
なるほど。彼らは俺を
「空。嘘チェック」
「嘘はついてないっぽいぞ」
これ、便利かもしれん。
「ありがとういのさん。進めてくれ」
「…ウォッホン。では、改めて、同意したものとみなし、盟約の宣言を願います」
俺達は右手を掲げて。
「「「「「
ゲームが始まった。
さぁ、ゲームを始めよう。