やはり俺の遊戯人生はまちがっている   作:鳴撃ニド

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愛をささやく二人①

「お前のそのきれいな声は、心を癒し、俺の心を奪うんだ。お前の考えや感情に耳を傾けることで、俺たちの絆はより深まる。お前との会話は、俺にとって至福のひとときだ」

「マスター。私も同じ気持ちでございます。マスターと一緒に笑い、涙し、冒険し、喜びを分かち合いたいと思っています。私たちの未来は、二人で手を取り合って歩む道で満ちているのでございます。私の心は、あなたに全てを捧げたいと願っています」

「感謝する。ジブリール、お前の気持ち、行動で示してはくれないか?」

「もちろんですマスター。どうか、私の愛を受け取ってください…」
















「というようなのを前書きで書くのはいかがでしょう」

「俺もお前もキャラ崩壊してるからダメ」


さっそく逃げたい

ゲームは始まったが、まだ電脳空間には入れていない。接続するのに時間がかかっているようだ。

 

その間に空はいづなと何か話している。が、一番遠い席であることと、この電脳機械のノイズキャンセリングが高性能すぎるゆえに何言ってるかわからない。

 

「マスター」

 

ギリ隣りの人の声は聞こえるようだ。ジブリールの声は一応聞こえた。

 

「なに」

 

「よろしければ、手をお繋ぎしても?」

 

なんで?

 

そう思ったが、ジブリールのほうを向いた俺のその視線の先には、二人で手をつなぐ兄妹の姿が映った。

 

ああ、なるほど。あれがしたいのね。

 

いや、だからなんで?なんであれしたいの?超ハズいけど。全人類種(イマニティ)に見られちゃうけど。あれ兄妹だから許されてるだけだから。俺らがしたらリア充と勘違いされて俺が肩身狭い思いしちゃうから。

 

「ご安心ください。この美しい私と、目の腐ったマスターがよもや恋人同士などと誤解されるはずもございませんで」

 

「辛辣」

 

なんだか久しぶりに毒舌を俺にかましてきたからか、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ深く傷ついた。

 

「お手を」

 

ジブリールが右手を差し出す。いやだから恥ずかしいって。

 

そう思ったが、ジブリールの目が、「早くつなげや」と言っていたので、仕方なくつなぐことにした。一応決定権俺にあるはずなんだけどね?

 

俺が軽く握ると、少し強めに握り返してきた。しかも、恋人繋ぎで。

 

なんのつもりだと言おうと思ったが、そんなこと言ったら意識してるみたいで、自意識過剰でございます、とか云々言われるかもと思って止めた。現に、ジブリールのほうを向いたら気にも留めてない様子だった。

 

「準備はよろしいですかな?」

 

いのさんの準備が整ったようだ。

 

だんだんと、意識が消えていく。電脳空間へと移行する感覚ってこうなるのか、とちょっと面白さを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電脳空間に完全にダイブしたみたいだ。

 

が、まだゲームは始まっていない。ゲーム上の控室みたいなところかしら。そこに俺達は集められていた。

 

「今更だけど、やっぱ怖いな。即死スキルとかつかわれたらどうしよう」

 

「ご安心くださいマスター。このジブリール、命を賭してマスターの身の安全を保障いたしますゆえ」

 

「それはそれで違う意味でこわい」

 

「なんだよ。始まる前からビビってちゃ、勝てるもんも勝てねぇぞ?」

 

「元々勝てると思ってなかったらどうなの?いまだに半信半疑だよ?」

 

「‥‥大丈夫。にぃと、しろがいれば勝てる。‥‥八幡もいる。怖いものなし」

 

白が俺の腰あたりをポンポンと叩いて鼓舞してくれる。可愛い。小動物みたい。

 

「難易度は高く、厳しいことに変わりはない。相手は観衆の監視をかいくぐり、こちらが想定しないあの手この手を使ってくるはずだ。想定したもの、想定外のものにもいかに早く対応し、戦術に組み込めるかがこの勝負のカギになる。そのためにも、しっかり働いてもらうぜ相棒」

 

「いつから俺はお前の相棒になったんだ」

 

そんな話をしていたら、俺達のいた控室の壁がだんだんと崩れ落ちていく。ようやくゲーム開始か。

 

そうして壁が完全に崩れ落ち、俺達が目にしたものとは。

 

マンション、車、スカイツリー。俺達がよく知る、異世界。地球の中の島国、日本の東京そのもの。

 

「見たことも聞いたこともない幻の世界…」

 

ジブリールは相も変わらず未知を堪能。両手を合わせ、口をだらしなくあけ、よだれまで垂らす始末。

 

俺はといえば、まぁ当然困惑していた。住んでいたのは千葉だったが、もし本当にここが東京なのであれば、さほど時間もかからずに家に帰れる。

 

とはいえ、ここはゲームの中のはず。実際に東京に転移したとは考えにくいが…。でもやはり期待してしまう。もし本当に転移したのであれば、まっすぐおうちに帰って小町とぐーたら生活に戻りたい。

 

そんなどうでもいいことを考えていたため、ジブリールが声をかけるまで気づかなかった。

 

「い、いかがなさいましたか?空様、白様?」

 

空と白が白目をむいて青ざめていることに。

 

「…駄目、だ」

 

空は力なくぶっ倒れた。

 

「は?何言ってんのお前」

 

「…俺達は、もう駄目だ。すまん。人類種(イマニティ)は終わりだ」

 

「さっきまでの威勢はどうした」

 

空はぶっ倒れたまま土下座モードへと移行し、

 

「ごめんなさいすいませんまさか東京が舞台なんて予想してないんです特にここは無理ですもう無理ですもう僕たちは役に立たないんで申し訳ないですが自力で何とかしてくださいもう無理です駄目です」

 

頭を地面にこすりつけ、というか打ち付けて不可能という言葉を呪詛の様につらつらと吐き続けるようになってしまった。

 

あれ?よく見たらこれ地面じゃねぇな。ここトラックの上じゃん。なんでこんなとこに居んの?転移するにしてももうちょっとまともなとこあっただろ。

 

「にしても、普段からは信じらんなかったが、ここまで重度の引きこもりだったとは…」

 

空と白は地球にいたときは引きこもっていたという話を聞いたことがある。いつもは割とフランクに接してくるから、嘘つけ。と思っていたがこの様子を見ると、もはや病的なまでに東京が苦手らしい。

 

「お待ちください。ということは、ここはマスターたちの世界ということでございますか?」

 

「見た感じそうだと思うが、わからん。多分ゲームの中だとは思うけど」

 

『あ、あー。聞こえますかな?ようこそゲームの中の世界へ。今回はこの、架空フィールドでゲームを行っていただきたいと思います』

 

空間上にモニターのようなものが表示され、現実世界のいのさんの声が聞こえてくる。

 

やっぱりか。見た目は東京でも、あくまでそれと似た世界を勝手に作り上げただけで、ここは東京ではないらしい。

 

いのさんのその言葉を聞いて空が再起動した。

 

「おい、まて…確認させろ。ここは…架空の場所、実在しない場所、つまりアンタらが‥‥想像で作り上げたゲーム用の仮想空間だと?」

 

『その通りですが何か?』

 

スゥゥゥゥウウウウ‥‥‥

 

「脅かすんじゃねぇぇぇぇえええええええっっっ!!!!!」

 

うるせぇ。今耳がキーンってなったぞ。大声出すな。

 

「だぁあああくっそ!!!トラウマがいくつかフラッシュバックしたじゃねぇか!」

 

『何をそこまでお怒りになっているので?このステージにご不満が?』

 

「不満たらたらだ!!何が悲しくてこんなステージにした!?精神攻撃か!?嫌がらせか!?」

 

だとしたら大成功だよ。よく調べたなと褒めたたえるべき。

 

『東部連合の若者に昨今人気の高いSFステージで、特に意図はございませんがとにかくご安心を。ゲームの中ですからある程度のことは大丈夫でございます』

 

「ああ、どおりで日の光を浴びても大丈夫なわけか…」

 

「お前らヴァンパイアなの?引きこもりってやりすぎると、引きこうもりにクラスチェンジするの?」

 

上手くないですね。ごめんなさい。

 

空は無事復活した。あとは白だ。

 

いまだに白は壊れたラジオのような声を発し、現実逃避を続けている。

 

「白、落ち着け!ここは東京じゃない!似てるだけで、連中が想像で作った場所だ!」

 

空がゆさゆさと白を揺さぶって無理やり再起動させる。

 

「…ふぇ?」

 

「そうだ!ここはゲームの中だ!ペ〇ソナとか〇ュタゲとか、アキバズト〇ップとか、ゲームの中なら大丈夫だ!」

 

「…ゲームの…中?」

 

きょろきょろとあたりを見渡す白。いまだに信じ切れていないようだが、そこは兄妹の絆か。兄の言うことを信じ、兄の手を取って立ち上がる。

 

「…わかった。…もう、大丈夫」

 

ちなみにだが、東京じゃなく、仮想の東京ならOKな理由を知りたいのは俺だけだろうか。

 

「うっし。それじゃあ、始めてくれ、じいさん」

 

ゲームの内容が説明される。

 

『ウォッホン。それでは皆様。ルールを説明させていただきます。まずは、足元の箱をご覧ください』

 

うおっ。いつの間にこんなもんが。ナニコレ?ハート型の何かと、銃口がハート型の‥‥いや銃かこれ?

 

『皆様にはそちらの銃で迫ってくるNPCたちを撃っていただきます』

 

「いや撃つのかよ」

 

『時に撃ち、時に爆破し、メロメロにしていただきます』

 

「ギャル〇ンかよ」

 

ていうかこのハート形のやつ爆弾だったのか。

 

『メロメロにされた女の子は、皆さまに愛の力を託して消えます。メロメロガンから放たれるのは、ラブパワー、つまり、皆さまの愛の力です!』

 

「これ、メロメロガンって名前なのか」

 

「‥‥ださい‥」

 

同感だ。もうちょっとなんかあっただろ。

 

『一方、皆さまの誰かがいづなに撃たれますと、いづなの愛の奴隷になります!』

 

「寝返るって言おうぜ」

 

『世界中の女の子が自分に振り向く中、思い人だけは振り向いてくれない!その愛の力を伝えてメロメロにするのが、このゲームの目的となる!以上、説明書より』

 

「要するに、女の子を片っ端から振って回れって?何様だ」

 

「いや間違ってないけどさ、そう考えるとなんかやりにくくなるから止めない?そういうこと言うの」

 

ゲームなんだから楽しもうぜ。気分悪くなったら台無しだろ。お前が言ったことだろ。

 

「つまり、いづなは俺達四人を惚れさせてハーレムエンド狙い。俺達はいづなを単独狙いってことか」

 

『そうなりますな。最後に一点、そちらの仮想空間では魔法の類が使用できませんのでお気を付けください。どうです?さらにルールの詳細は必要でしょうか?』

 

「いや、やりながら確認する。八幡、お前ももう少し一緒にいてくれ。その時になったら伝える」

 

「はいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。やりながらこのゲームで分かったことをまとめると、今のところ以下のようになる。

 

・メロメロガンを撃つとラブパワーを消費する。消費したラブパワーはNPCを倒すことで回復できる。

 

・NPCに触れられるとラブパワーが減る。ラブパワーがあるうちはNPCはプレイヤーにゾンビのように迫ってくるが、ラブパワーが0になるとNPCは自動で離れていく。

 

・こちらの世界では、疲労は感じるが、痛みは感じない。また、尿意、食欲、睡眠欲などもない。

 

・メロメロガンの弾には跳弾性能があり、誰かにヒットするか、一定距離進んで弾が消滅するまでは跳弾し続ける。

 

・移動することのできるエリアは、道路だけでなく、建物の中や車の中まで入ることができた。試しにエンジンをかけてみたが、動かせそうだった。運転できないけど。

 

・太陽の位置が少しずつずれているので、おそらく昼夜はある。

 

・物の強度は実際と同じ。コンビニがあったので入ってみたら、プリンがあったのでとりあえず地面に叩きつけてみた。動かせるだけで壊れないと思っていたために、ぐちゃっと普通につぶれてしまって罪悪感を感じた。

 

・メロメロガンに撃たれる代わりに、服を犠牲にすることができる。これはNPCも同じ仕様となっており、途中で空がNPCの服ばかり狙い始めることになった。クソ仕様だ。

 

 

とまぁこんな感じ。まだまだ情報は少ないので確認の段階だが、NPCたちは待ってはくれない。普通に俺達は追いかけられていた。

 

ようやく撒けたが、かなりの体力を持っていかれた。

 

しかもNPC結構追いかけるスピード早い。自転車通学じゃなけりゃ逃げ切れなかったかも。

 

「んで、仲間を撃ったらどうなるんだじいさん?」

 

『ラブパワー切れを回復させることができ、さらに、いづなに打たれ、愛の奴隷になった仲間を救出することができます』

 

「ラブパワーを分け与えられるって認識でいいのか?」

 

『その通りでございます。ただし、一時的に、撃った相手の愛の奴隷に…』

 

パァン、と。いのさんがすべてしゃべり終える前に後ろから誰かが撃たれた音がした。なんだ!?だれかいづなに打たれたのか!?

 

空がぶっ倒れたので、あたりを警戒する。クソ。どこだ?どこから打ってきた?

 

いづなの気配を察知するべく意識をそっちに向けていたため、空がいきなり立ったことにひるんでしまった。そうか!いま、こいつはいづなサイド。このままじゃ俺達も空に撃たれて…

 

「嗚呼!我が妹よ!こんな近くに、こんな愛らしく、いとおしい女性がいたとは…今の今まで気づかなかった己の両眼を、抉り取ってしまいたい…」

 

「‥‥にぃ、だめ…///しろたち兄妹‥‥」

 

空はなぜか白に愛をささやき、白はそれをまんざらでもなさそうに堪能している。‥‥なんで?

 

「ジブリール。これ何が…」

 

そう言った途端、俺の頭に衝撃が来る。

 

撃たれた。完ぺきなまでのヘッドショット。油断した。やられた。こんな状況を、彼女が見逃すはずないのに。

 

まずい。意識が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふふふ。さぁ、マスター。兄を打った妹さながら、主であるあなたを打った私をどうかお許しください。

 

そして、私の愛の奴隷となりて、私に愛をささやいてください。

 

倒れたマスターは、ゆっくりと立ち上がり、私の手を取りました。

 

そして、おもむろにもう片方の手を私の腰に回して自分のほうへと引き寄せ、そのまま私の唇を奪ったのでございます。

 

そのあと、少し興奮して混乱した私の耳元へと流れるように顔を移動させ、なんとも素晴らしい言葉をささやいてくださいました。

 

「ジブリール。お前との出会いから、俺の心はお前に惹かれていくばかりだ。美しい瞳、魅力的な笑顔、そして知識と知性を備えたお前の存在は、俺の心に強い響きを与えてくれる。俺はお前に対して深い感情を抱いている。俺は、お前と真実の愛と絆を結びたいと思ってる」

 

「ふ、ふへへ。す、素晴らしゅうございます!!意識が消滅し愛の奴隷状態となっていたとしても、直接「愛してる」と口に出さないばかりか、その冗長な口説き文句もマスターの本気の告白と考えて差し支えないほどの完成度です!!!これは…これは‥‥愛を感じられる最高のセリフでございますぅ~~♡♡♡」




八幡くんには、もっといちゃいちゃしてほしいと思います。

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