「お前は本当に俺の言うこと聞かねぇな。何?俺の言葉聞こえてないの?」
「いえ?私はマスターの発言をすべて聞いております。ええ、それこそ、一言一句逃さずすべて記憶してございます」
「ほーう?だったらなんでいうこと聞かねぇんだよ?あれか?俺の伝え方が悪いってのか?」
「いえ全く。マスターの発言は一切間違ってございません。百人中百人がきちんとわかると答えるくらい文法も表現も正しいと判断してございます」
「じゃあなんでなんだよ!」
「マスターが私の言うことを聞いてくださらないからではございませんか!いつもいつも私の言うことをないがしろにしておいて自分の言い分だけは通そうなんて虫のいい話があるはずもございません!」
「そりゃ、お前の要求が「キスしてください」だの「一緒に寝ましょう」だの「役所に行って婚姻届けを出してきてください」だのできねぇ要求しかしねぇからだろうが!」
「なぜできないのですか!?マスターは私のことをそこまで思ってくださっていないということですか!?」
「馬鹿!そういうのは段階を踏んできちんとするもんだろうが!勢いでやっていいもんじゃねぇんだよ!」
「私がいいといっているんですからいいんです!なぜわかってくださらないのですか!?」
「こっちのセリフだ!」
「というのを前書きで書くのはいかがでしょう」
「結局いちゃついてるだけじゃん。というか、もうこれ以上前書き勝手に捏造するのやめてね」
「死にたい」
ジブリールにメロメロガンで撃たれ、正気に戻るまでにとんでもない行動と発言をしてしまった。
もう何度目だろう。なぜこんなに恥ずかしい思いをしなければならないのか。
しかも、これ全国民が見てるんでしょ?公開処刑じゃん。もう明日から街歩けないよ。いつも歩いてないけど。
それに、記憶が残っているのがたちが悪い。完全に夢の中として記憶も抹消しておいてくれれば、「いつの間にか白い目で見られてんなー。あ、いつもか」ってなるのに。
「も、申し訳ありましぇんマスター」
口元を手で隠しながら言葉面では謝罪をするジブリール。
うん。謝罪をしたいならまずはそのにやけ顔をやめようか。何が面白くてこんな罰ゲームしなきゃいけないのか。
「だが、まぁこれで情報は得られた。愛の奴隷状態じゃ、完全に機能が停止して自分をコントロールできなくなる」
メロメロガンを日の光に当てたりして、観察しながら空は言った。
空もどうやら復活したみたいだ。
空はいづなではなく、白に撃たれてああなったのか。納得。
「それと白。ゲームの中とはいえ、体力は現実とさほど変わらない。くれぐれも走るのは最底限にな」
「…うん。…任せて」
「よっし。それじゃ、そろそろ本番開始といきますか?八幡、よろしくな」
空から、合図を受けた。つまり、ここから俺は自分で考えて動かなければならない。面倒だ。
ちくしょう。まだ恥ずかしさが抜けきっていないというのに。
まぁこないだのにくらべたらまだまし…か?
「わかったよ。成果は期待するなよ」
「マスター。これから、どうなさるので?」
空と白の二人と別れて、俺はジブリールとともにNPCを倒しながら町を散策していた。
「どうもこうもない。俺達の仕事は時間稼ぎだ」
NPCを撃破。エイムもだんだん上がってきている。もし万が一ラブパワーが切れたらシャレにならんからな。NPCの一撃必殺は必須だ。
「時間稼ぎ、でございますか?」
「そうだ。もうこうなってしまった時点で、俺にできることはない。俺が何か役に立つことがあるとすれば、それはゲーム開始前の裏工作とか、そういうのだ。ゲームが始まったら最後、お荷物でしかない。現に、試合前に頼まれてたしな。情報が集まるまではいづなの相手は任せるって」
つまりは捨て駒。射撃性能もなく、機転が利くわけでもない。できるだけ長くいづなの情報を引き出すためのおとりだ。
「空様と白様が先に狙われるという可能性も捨てきれないのでは?そうなれば必敗でございますが」
「まぁなくはないけど、それは流石に悪手だろ。
「よくわかってんじゃねーか、です」
声がした方向を見ると、いづながメロメロガンを俺のほうに向けて真正面に立っていた。
つーかエンカウント早。もうちょいまって欲しかった。
「ジブリールとヒッキー、ここで先にぶっ倒してゲームを有利に進める、です」
バンバンバン、とメロメロガンを乱射するいづな。
俺はなんとか当たらないように逃げ回った。できればいづなと会話できる状態まで持っていきたいところ。会話出来たら時間稼ぎができる。
「いやいやいや無理無理無理」
弾丸のスピードはさほど速くない。ゲームとして、逃げる一手を使えなければならない都合上、ある程度の距離があれば、撃ったのを見てから動いてギリギリ躱せるくらいの弾速ではあるのだが。
いかんせん連射速度がけた違いに早い。よけた先にはもうすでに次の弾丸が迫ってきている。指の動きどうなってんの?
しかも撃った球が反射するため、空間の弾の把握が必要不可欠。
ラブパワー切れを狙うというのも戦略の一つだったが、NPCが意外にも多い。攻撃によって消滅したラブパワーを、いとも簡単に回復されてしまう。
「くっそ。このままやってもやられるだけだ。いったん引くぞジブリール!」
「承知しました」
あっさりと敗北を認め、俺はジブリールに撤退の指示を飛ばす。
ジブリールに抱きかかえられ、マンションを登る。なお、マンションの階段を、ではない。マンション一棟一棟をである。ただのジャンプでマンションをひとっとびできるのであるから、
「時間にしておよそ3分31秒。時間稼ぎにはならないくらいの力の差でございますが」
「まったくだ。ふざけてる。もうどうしようって感じ」
きっつーい。だけどやんなきゃだからなー。ほんと、社畜って感じがしてヤダ。
「とりあえず、今いづなが逃がしてくれたのは、俺らを油断させて、奇襲を仕掛けるためだ。さっきは俺達が道路しか移動してなかったから真正面から対決したが、次は狙撃なり罠なり仕掛けてくる。そんでもって、
「了解でございます」
「吐きそう」
「黙れ。俺だってお前に口説かれて胸糞悪い気分なんだよ」
あれから俺とジブリールは見事に時間を稼いだ。時間にして42分。まぁ頑張ったほうである。
そのあと、普通に俺は寝返って普通に空達を襲った。ちなみにその時の思考回路は、ジブリールに撃たれた時と近しいものを感じた。
まぁあっけなく空に撃たれて、正気には戻った。ただそのときに空を口説いたので、とてつもなく気分が悪い。
「そんで、何か勝ち筋は見えた?」
「まぁ、ぼちぼちってとこだな。正直、白次第だからなぁ」
白はぶつぶつと何かをつぶやいている。いつもの無口な白とのギャップも相まって、すごく頼りがいがあるように見える。
「それと、ほれ。東京と似てるこのステージならあるんじゃないかと思って探したら、案の定あったから、お前に一つやる」
俺はいづなから逃げている最中に入手した、トランシーバーを空に手渡す。
「さっすがー。こういうのは、ステフじゃできない役立ち方だからな~。感謝するぜ。あ、白から伝言だ。‥‥‥しろってさ」
「直接言ってくれればよくない?目の前にいるのに何で伝言?」
「白は今集中モードだからな。気をそらしたら不味い」
へー。そういうもんなのか。計算ミスとかするから邪魔すんなってことか?
ただまぁ、いづながそんなに長く俺達を放置してくれるとは思えない。攻めることができるうちに攻めるべきだ。
「次はお前らの番だ。勝ってこいとは言わんが、負けんなよ。復活させんの面倒だから」
「ああ。頭の中で並べ立てても、実際は違うってことはよくある。机上の空論ってならないように、ちゃんと実践は組まなきゃな?行くぞ白」
空は、まだ何か考え事をしている白を連れて、いづなとの戦闘に向かった。
「ジブリール。あいつについてけ。そんで指示を仰げ。俺と一緒にいるよりもそっちのほうがより戦略が広がる」
「しかし、万が一マスターが狙われたら…」
「大丈夫だって。息でもひそめてるよ。なんならひそめすぎて空気と化すまである」
それに、確認したいこともあるし。
「わかりました。では、行ってまいります」
「おう。頑張れ」
空に手渡したトランシーバーから連絡が来た。
さすがは世界最強のゲーマーというだけあって、いづなに負けることなく、正気のまま俺に連絡してきた。
しかも、連絡が入ったのは日が落ちてから。約7時間といったところか。いや、すごすぎない?俺たったの42分なんだが。そしてその半分以上はジブリールの功績なんだが。
集合がかかったのは公園の一角。遮蔽物が多く、陣取られた場合、敵は中まで侵入するには難易度が高く、味方なら入りやすい好敷地。
「お疲れさん」
俺は空に声を投げかけた。
「おう、やっと来たか。おせーよ」
「いづなにつかまらんようにここまで一人で来た功績をもっと讃えてほしいもんだな」
いやマジで。割と最短ルートできたが、途中何度かいづなの姿を目撃した。よく見つからんかったと思う。
「それで、成果は?」
「上々だな。なんなら、今やって見せるか?」
「いや、それは切り札だ。できるようになったんならいい。あんまり見せんな」
空が情報漏れを気にして、軽くつかわないように釘を刺してきた。わかってるよ。
「とはいえ、午前と違って今は防衛戦に回っちまった。攻めきれなかった以上、こっからはマジで一つのミスが命取りだ。お前も白の演算が終わるまで防衛にあたってくれ」
「はいはい」
俺は空の指示に従い、木に隠れながらあたりを警戒する。
いまのところ、いづなの気配は感じないが…。油断は禁物だな。
できるだけNPCも倒しておいて、ラブパワーも補充しておこう。
それから30分くらい経過しただろうか。
「白様、次の戦術を…」
「…ジブリール、うるさい…!!!」
白は相変わらず、ガリガリと、木の棒で地面に数式を書き続けている。
数学は得意じゃないし、何なら得意でも理解できるかは定かではないその文字の羅列を見て、俺は白の演算能力に軽く引いた。
「…マスター。やはり、無茶なのでは?白様に託すといっても…」
「信じろ。もとより不可能は承知の上で空と白に乗りかかったんだ。それに空と白ができるって言ったんだ。だったらそれまで待つしかないだろ」
俺も薄々無理なんじゃないか?とは感じている。しかし、白はまだ小学生。メンタルがきちんとはしていない。
ここで変に諦めた感じを出して、やる気をそぐのは良くない。できるといったなら、できることにかけるしかない。
「そうだ。八幡の言うとおりだ。ゲームで俺にできないことは白ができる。いつだってそうだったし、これからもそうだ」
「…にぃ」
白が地面に数式を書く手を止める。ようやく終わったか?
「‥‥しろ、を…信じる?」
「あん?兄ちゃんがお前を疑ったことあるか?」
白の問いかけに即答する空。やはりこいつらの絆はすげぇな。ちょっとうらやましく感じる。
「…じゃあ、にぃ…今度は…にぃのばん、ね」
どういうことだ?…ってそういうことか。なるほど?わからん。地面に書いてあること鵜呑みにしていいのかこれ?
っていうか、直接口頭で言えよ。
その瞬間、空の背後から銃声音がした。俺も空も、ジブリールも、虚を突かれて動けなかった。
ただ一人、白を除いては。
白は兄をかばうべくして、体当たりして空を弾道からそらした。しかしそんなことをすれば、代わりに白が撃たれるのは自明なわけで。
「白!!!」
白の体に着弾し、白が倒れてしまった。
クッソ不味い。この状況で白が寝返るのはまずい。戦力的にも、戦略的にも白がいないと勝ちはない。
しかし、上下左右、ありとあらゆる方向から飛んでくる銃弾を避けるのに精いっぱいで、白を助ける余裕はなかった。
「白‥‥!!!」
空の声で振り向くと、白はすでに戦闘準備を整えていた。
当然、敵として。俺達に銃口を向けていた。
この状態で空までやられるのは絶対に避けなきゃいけない。今、最も逃げ延びる可能性が一番高い方法…それは。
「ジブリール!!今すぐ空連れて逃げろ!!」
「マ、マスターはどうなさるので!?」
クッソ。躊躇しやがって。今は俺なんか気にする場合じゃない。
「こっちだ白!頭の良さより長生きできてるほうが偉いってことを教えてやる!」
俺は白を挑発し、自分のほうへ攻撃するように誘導する。
そのすきに、空とジブリールは逃げておいてほしいのだが。
そう願いつつジブリールのほうを見たら、悲しげな表情を少し浮かべた後、命令通り空を連れて逃げたようだった。
さて。ここで問題です。俺はどうやって逃げればよいでしょう?
正解は。
そんな方法ない。
「ヒッキー。観念してでてこいや、です。抵抗しなけりゃ悪いようにはしねー、です」
いづなと白の二人体制で、木の陰に隠れた俺を狙っている。何か特別なことをせずとも、普通に挟み撃ちを喰らって終わりな気がする。
ただ、気がかりなのが地面に書かれたあの俺に向けたメッセージ。
いづなに読まれるわけにはいかないから、日本語で書いてあったあの指示。
おそらくだが、白はこうなることを予想して、わざわざ地面に書いたんじゃないか?
そんで、もうその指示を実行する場面が、もう来てるってことなんじゃないか?
確証はない。だが、そうであればつじつまが合う。
「それは、お前らが勝った後、俺を好待遇で迎え入れるとかそういうことか?」
「そうしてほしーならそうしてやる、です。おめーの目腐ってるけど、悪いやつのにおいしねぇ、です。ここで降参するなら、いづなが口きいてやってもいい、です」
「はっ。そいつはありがたいこった。けど、俺はいづなが思ってるよりいい奴じゃない。だから止めとけ」
いや、何会話して時間稼いでんだよ俺。わかってるよ。やるよ。やるけど心の準備期間あんだよわかるだろ。
「んなことねーです。いづな、わかる、です。おめー今嘘ついてる、です。
‥‥調子狂うな。ただ俺は勇気を出すための時間稼ぎをしたかっただけなのに。
「…残念だがその推測は外れだ。なぜなら、俺はお前の勧告を無視して戦い続ける愚か者だからだ。俺を倒したきゃ力ずくで引きずり出すんだな」
「…わかんねー、です。なんで負けるのに抗いやがる、です」
「そりゃ、あいつらに賭けたからだ。ま、ギリは果たさないとなってことで」
じりじりと、いづなと白が近づいてくる音がする。ま、本当にこれで最後か。
やることやって、退散しますかね。
後は任せた。なんも役立ってない気するけど。